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73話~食事の時間だ、プロミネンス・ナーガ!~

ご覧いただき、ありがとうございます。

ご感想もありがとうございます。

心温まるお言葉がいっぱいで、筆者の心も満タンです。

誤字脱字報告もありがとうございます。

漢字、難しいですね。教えて頂かなかったら分かりませんでした。

「行くぞ!Aランク!」


そう言って駆け出した蔵人に、相手は一瞬驚いた風に目を開き、半歩後ろに下がろうとした。


だが、幾ら5人を強制退場させたとて、相手はCランクで、男である。

それを思い出したのか、直ぐに下げた足を戻し、構える足立のエース。


「ふんっ!いいさ。望み通り、燃やし尽くしてやるよ!」


エースが再び動き出す。

血走る目が、蔵人を射殺さんと襲いかかっている。


「それ、それぇ!」


楽し気な声を上げながら、エースが両腕を振り下ろすと、両手に持つ長い炎がヘビのように蛇行して、近づこうとする蔵人に襲い掛かる。


まるで大蛇の様に太く長いその炎のヘビは、水晶盾で防ごうとしても、盾が一瞬で蒸発した。

やはり、この炎はBランク級以上の威力がある。水晶盾では一時しのぎにもならんか。


蔵人は、一瞬魔銀盾で防ごうかと思ったが、目の前に迫る炎に、こりゃ間に合わないなっと直感で感じ、体に付けた盾でサポートしながら、体を横にスライドさせて避けた。


炎が体のすぐ近くを駆け抜けると、痛みすら覚える熱量が蔵人を襲う。

直ぐに駆け抜ける痛みだったが、当たれば仮令防げても、皮膚がやけ焦げるのが想像に難しくない。


避けるにしても、距離は十分にとる。蔵人は相手の背後に回り込みながら、頭に刻む。


「どうした!逃げてばかりで、さっきと変わってないぞ!」


蔵人を挑発する声が、相手エースの口から放たれる。


だが、焦りはしない。

先ほどまでの逃げの一手とは違い、今の蔵人は、しっかりと相手を見ている。

相手の動きを。相手の呼吸を。

相手の、隙を。


相手はAランクである。内包魔力量、魔力放出量が圧倒的なのは周知の事実。

では、自分が相手に勝る部分は何か。


恐らく、それは速度だ。

蔵人の動きに、相手の攻撃は追いついてこない。視線ですら、偶に外れる時がある。

蓄積しつつある相手の情報。それに加えて、相手の隙が最大となるところを狙う。


蔵人はエースの攻撃を避けながら、その死角に入り込む。

エースの背後。

そこでは、炎の攻撃が一旦止む。

見えない相手には、攻撃を繰り出せないようだ。


蔵人はそこで、一気に相手へ近づく。

至近距離。

そこで、拳を握り、腰を引く。


このまま眠れ。


蔵人の水晶盾に包まれた拳が、Aランクの背中に迫る。

だが、


「…!っつ!」


蔵人は、殴りかかった拳を、直ぐに引っ込めた。

相手の炎が、ガードするように阻んだからだ。


炎に触れる前に戻した拳だったが、真っ先に熱さを、そして次第に痛みを感じた。

目端で捉えると、手に纏わせていた水晶盾は全て溶け落ち、白銀の手甲から黒い煙が薄らと立ち上っている。

手の痛み具合から、皮膚の表面は火傷したかもしれない。


蔵人は、一旦数歩分の距離をとる。

本来は、中距離型の相手に間合いを取るのは悪手だが、こうも熱をばらまかれたのでは、先に蔵人が焼かれてしまう。


相手の能力の限界を見極めるのが先決だ。


相手は確かに、蔵人の速さに着いてきていなかった。

なのに、攻撃は防御された?

蔵人の動きから、後ろから攻撃されるのを察したか?もしくは、自動防御?

後者だとしたら、戦術は大きく減らされる。


唯一勝っていた速さというアドバンテージが通用しないのなら、攪乱して出来た隙に攻撃をねじ込むという作戦が瓦解する。

確かめないと。


蔵人は自身の周囲に小さな鉄盾を生成する。

1枚が手のひら程度のサイズ。それを100枚程。

その鉄盾を、相手の周囲に飛ばし、360°全方向から一気に、

急襲させる。


鋼鉄牢獄(アイアンメイデン)!」


降り注ぐ鋼鉄の弾丸に、相手はどこを見ればいいか迷うかの如く、せわしなく顔を動かす。


「くっ、こんなもん!」


そうして、炎の壁を生成しようとするも、炎が彼女の体を覆うよりも前に、鉄盾の方が先に着弾する。


そう思っていた。

だが、


ジュッ。


そんな小さな音を残し、炎の壁をすり抜けたはずの鉄盾達は、一瞬にして消えてしまった。

Aランクが引きつった笑みを浮かべる。


「は、ははっ。こんな弱い攻撃、数を揃えたところで無駄だよ!」


彼女はそう言って、炎の壁から鞭を生成し、蔵人を攻撃してくる。

だが、その鞭は蔵人に当たらない。

既に、蔵人にとって、彼女の攻撃は考えながらでも避けられるようになっていた。

少なくとも、鞭攻撃は、ではあるが。


蔵人は炎の鞭を躱しながら、先ほどの攻撃と彼女の言動から得た情報を整理する。


なるほど、彼女の周囲には何か防御陣があると。そして、それはDランクでは通過できないのか。

であるならば、


蔵人は相手と距離を取った後、再度小さな盾を複数生成する。

今度は鉄盾ではない。水晶盾90枚に、魔銀盾9枚。

そして、1cm四方の金剛盾も1枚だけ生成する。

相手の死角を探り、謎の防御陣の強度も確かめる。


アイアンメイデン(行け)!」


蔵人の盾が再度、相手を包み込まんと急襲する。

Aランクも、苦い顔をして手を振りかざす。


「また同じ攻撃かよ!そう何度も喰らうわけ…」


今度はほぼ全身を覆う程の炎の壁を準備できた彼女。だが、やはり背中側だけは若干の隙間を残していた。

そこに、3種類の盾が入り込む。

金剛盾…通過。

魔銀盾…通過。

水晶盾…通過したが、変形した。


なるほど、Cランクでは溶けてしまう程の防御性能を持っているらしい。

折角通過した盾だ。そのまま相手の背中を強打してもらおう。


そう思って操作した盾だったが、先に相手が動いた。


「あっぶな!」


そう叫びながら、Aランクは炎の壁から飛び出してきた。

危ない。そう叫んだのは、恐らく盾の攻撃を察知しての事。

後方からの攻撃を察知したタイミングは、丁度、謎の防御陣を通過した時だ。


つまり、謎の防御陣は、感知機能まで付けているという事か。


蔵人は、飛び出してきたAランクを見る。彼女の周囲を、謎の防御の正体を見極めようとする。

目を凝らすと、彼女の周囲が揺らいでいるのが分かる。


熱の揺らぎ。二条様と同じような揺らぎ。

陽炎。


そうか、熱感知か。

蔵人は漸く、相手の手の内を見ることが出来た。


だが、代償も大きい。

相手に、態勢を整えるだけの時間を与えてしまった。

転がった際に着いた土を、Aランクがはたき落とす。


「久しぶりだよ。低ランク相手に、僕の手が汚れるなんてさ」


相手の魔力が膨れ上がる。

炎が、人間大程の大きな炎の塊が、幾つも幾つも彼女の周りに灯る。


「男だからって、ちょっと優しくし過ぎたね。これで終わらせるよ」


その炎の塊が集まり、連なっていく。

そうして、一本の大きな鞭…いや、炎の鱗を身に巻いた、大きな大蛇となってこちらに牙を見せる。


これがAランクの攻撃。

先ほどまでの鞭は、精々Bランク程度の攻撃だったのか。


「食事の時間だ、プロミネンス・ナーガ!」


相手エースの掛け声。

それと同時に、炎の大蛇も動き出す。


素早い動きで芝生を舐め、蔵人に牙を見せつけてくる。

その大蛇の、攻撃。

蔵人を丸呑みにせんと、大口を開けながら飛び込んできた。


蔵人は間一髪で避けるも、横を通過するだけで物凄い熱量を感じ、肌がヒリ付いた。


蔵人が地面に手を着き、体を上げると、通過したヘビの尻尾が上がり、そこに新たな顔が出来て、こちらを睨む。

そうか、別に本物のヘビじゃないから、頭とか尻尾とか、そう言う概念は無いのか。


頭の片隅でそんなことを考えながら、蔵人は盾を総動員してヘビの攻撃を避ける。

避けるだけで精いっぱい。いや、避けても熱でダメージを負っている。


蔵人は、鎧に付けていた水晶盾が溶解するのを見て、後ろに下がる。


この大蛇、どう攻略するか。

スピードはほぼ互角。威力は相手が圧倒的。

そもそも、こいつはタダの炎だ。狙うべきは術者の方。


だが、このヘビを搔い潜って術者に攻撃するのは難しい。

時間を掛ければ、相手の動きも把握できようが、今は時間がない。


蔵人は、ちらりと電光掲示板を見る。

試合時間は13分を過ぎている。残り2分もしたら、蔵人はレッドカードだ。


蔵人のその行動は、一瞬の隙を生んでしまった。

そこに、大蛇が突っ込んでくる。


しまった!


蔵人は、後方に跳ぶ。

盾を総動員して、ただ後方に、推進力を全振りして、全力で逃げる。

だがそれでも、炎の咢はグングンと近づいて来る。


魔銀盾。いや、多分防げない。

金剛盾?面積が小さ過ぎて防ぎきれない。


呑み込まれる。

焼死の2文字が、頭を過ぎる。

ここまで、なのか…?


蔵人が盾だけでなく、腕もクロスさせて、炎の牙を少しでもガードしようとした時、

急に、炎が止まった。


いや、ゆっくり近づいているが、先程までの比じゃない。

まるで、今走って来ているAランクと同じくらいの速さ。


そうか。

蔵人は気付く。


相手の射程距離から出たのか。

射程範囲内なら高速に動かせる炎も、範囲外だと異能力者が動かない限り攻撃出来ない。

もしそうなら、射程距離は凡そ…8mといった所か。


安全を取って10m。

そこから再度、更に多くの盾で攻撃すればいい。

蔵人の射程は20m。

上手く相手の隙を突けば、大きなダメージを与えることが出来るし、相手の防御が間に合ったとしても、そうなれば大蛇が引っ込む。

もしも後者を取られたとしても、それであれば、ここでドリルをゆっくり生成して、一点突破で勝利できる。


行ける!

蔵人はそう判断し、盾を生み出そうと素早く手を上げた。


が、すぐに手を下ろした。

蔵人の目端に映るのは、Aランクのヘビと、その後方のAランク。そして、その彼女の後ろに…。


作戦変更。

蔵人は、急に後退をやめ、転進、攻勢に出た。


「うおぉおお!!」


蔵人の咆哮。

急な転進に、相手エースの足が一瞬止まる。


だが、すぐに両腕を振るい、高速の炎の大蛇を蔵人にけしかける。


それでも、蔵人は構わず突き進む。

勝ち誇った笑みを浮かべる、相手顔が見える。


「そのまま、逃げていれば良かったのにさ!」


両腕を、指揮者の様に振り上げ、蔵人を迎える。

その笑みに、蔵人も笑い返す。


「貴女も。ここがシングル戦だったら勝っていたでしょうに」


蔵人の言葉に、相手は一瞬顔をしかめ、直ぐに目を見開き、振り返ろうとする。

だが、相手が振り返る前に、


「ストーンバレット!」

「ウォーターカッター!」


先輩達の声と攻撃が、相手エースを襲った。


いつの間にか、先輩達が蔵人の援軍に来てくれていた。

蔵人は、この奇襲がバレない様に、あえて無謀な突撃を、咆哮付きで行った。


だが、先輩達の攻撃は、相手の傍に戻った炎のヘビが喰らい尽くす。

先輩達はCランクだ。炎に当たった瞬間に蒸発する水と土。


それでも、相手の大蛇が引っ込み、相手の意識が一瞬でも蔵人から離れた。

蔵人には、それで十分だった。


蔵人は、全ての盾を総動員させて、全力で、前へ、前へ飛ぶ。

10m近くあった彼女との距離は、瞬く間に、無くなる。


彼女が振り返った時。

既に、蔵人は彼女の目の前。

攻撃モーションに入っていた。


蔵人が、笑う。


「もらった」


彼女の顔面に向かって、振り下ろされる白銀の拳。

蔵人の目が、紫色に鈍く光る。


だが、彼女もAランク。炎を瞬時に動かし、目の前に歪ながらも炎の塊を発生させた。

歪。でも、Aランク。

蔵人の攻撃を防ぐのには、十分だ。


蔵人は、嗤う。


やはり、と。

これでこそ、Aランク。相手校の、エース。

"想定通り"の動きだと。


蔵人は、体を覆う盾を急速に動かし、強制的に体をスライド。

体に掛かるGに歯を食いしばりながら、移動する。


炎を避け、移動した先は相手エースの真横。

咄嗟の事で、彼女は、目だけしか動かせなかった。

彼女の目に、蔵人の鋭い眼光が映り込む。


「こっちをな」


蔵人の拳。

魔銀盾を小さく、龍の鱗の様に張り巡らされた拳が、相手の防御陣を食い破り、薄い防具しか付けていない腹に、突き立てられる。


グシャリ。

薄い金属と肉を潰す感覚が、右手から脳に伝わる。


「…ぐぅっ!」


そんな嗚咽を残し、相手エースは数mの距離を、芝生を転がりながら、吹っ飛ぶ。


そして、止まる。

地面に横たわる相手エース。


感触では、確かな手応えを感じたが、どうだったか。まだ戦えるのか。

蔵人は構えながら、拳を更に硬く握る。


戦えるのだとしたら、不味い。

蔵人の退場まで、あと1分も無いから。


そんな風に考えたのが悪かったのだろう。

相手は、相手校のエースは、殴られたわき腹を抑えながら、その目から涙を流しながらも、ゆっくりと、立ち上がった。


立ち上がってしまった。


「ぼ、ぼぐばぁ…」


彼女の口からは、唾液と共に、濁った声が吐き出される。


「ぼぐはぁ、ごのがっごうの、エーズでぇ、柱でぇ」


上を向いて、叫ぶ。


「巨星だぁああ!」


そう叫びながら、彼女の周りには淡い炎が灯りだす。

その輝きは、確かに、一等星のような輝きであるように、蔵人は感じた。

13人の輝かしい原石達の中で、ひと際輝く一番星。


それが、彼女達Aランク。

その輝きが、他の選手達を導く。

だから、負けてはならない。

倒れてはならない。

そんな覚悟を持っていたから、彼女は立ち上がれた。

瀕死の状況でも、立ち上がるその高貴な意思に、


蔵人は構えを解き、小さく頭を下げた。

「Aランクとは、ただ魔力が多いだけの者ではないのだな」


そうですね。それなりの自負と、責任を負っているのでしょう。


「それが過剰となれば、化け物が生まれるぞ」


バケモノ、ですか…。

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― 新着の感想 ―
>「巨星だぁああ!」  いいねぇ、”Aランク”という才能と努力に裏打ちされたプライドというのは。  自分が”最前線でチームを引っ張る”という気迫に満ちている。  ただ、その能力と責任感が強い所為で”…
[良い点] 私やっぱりこのAランクの子の姿勢がすごい好きだ 名前が無いのが残念
[良い点] 強いやつがそれに相応しい矜持を持ってるのはよき。
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