70話~赤点を…無くして~
昼食の報告会が終わり、蔵人達は午後の戦場に戻る。
4限目の理科。そして、蔵人の宿敵、5限目の社会だ。
だが、その2教科は、前の3教科に比べるとかなり優しかった。問題の質も、量も優しめ。
寧ろ、前の3教科が鬼であったと言えよう。
クラスのみんなも蔵人と同じ思いの様で、テストの合間や終わりには安堵の声が漏れ聞こえてきた。
特に、社会科が終わった瞬間は、ここがお嬢様学校である事を忘れる位に、みんなはしゃいでいた。
何時もはお淑やかな本田さんも、その1人だ。
「終わったー!夏休みだぁ!」
「なつやすみー!」
本田さんの歓喜に、白井さんが便乗する。
「いやいや。夏休みまで、あと1週間あるよ?」
若葉さんのツッコミに、しかし、他の人達も同じ気持ちなのか、歓喜の声は留まらない。
相変わらず、本田さんはテンションが壊れた状態でみんなに話題をばら撒く。
「林さんは、夏休み何処か行く予定あるの?」
「私、ですか?私は、その、吹奏楽部があるので」
「それはそれとして、他には?海とか、海外とか行かないの?」
「ええっと、それは、巻島君達次第と言いますか…」
「えっ!どういう事!?」
本田さんが、鬼の形相で蔵人を振り返る。
いや、知らんよ。知らん知らん!
そんな、不倫現場を抑えた奥様の様な形相でこっち見んといて!
蔵人は必死に首を振って、手も振る。
そうすると、林さんが慌てて弁解する。
「あ、違うの!吹奏楽部は、夏休みはファランクス部の応援演奏に行くから、それで、巻島君達が勝ち進めば、例えば全国に進んだりしたら、それで夏休みは全部で、その、ごめんなさい」
「ううん。良いよ。私こそ早とちりしてごめんね?」
林さんが頭を下げるのを、天使の笑顔に戻った本田さんが、頭を上げさせようとしていた。
「ええっと、じゃあ、桃ちゃんと蔵人は、ファランクス部だから一緒かな?」
本田さんの問いに、蔵人と西風さんが同時に頷く。
「そうだよ。僕は選手じゃないけど、全力でみんなをサポートするよ!」
「俺達は全国まで行くからね。夏休みは無いものと覚悟している」
蔵人の答えに、本田さんは渋めの顔で頷く。
「そっかぁ。大変だね。若ちゃんはどうするの?」
「勿論取材だよ!全国まで付いていくよ!」
若葉さんが何処からかカメラを取り出して、構えてくる。
うん?全国まで?
「もしかして、俺達の取材?」
「勿論!今1番の撮れ高だからね!地区大会の記事も、早速上げてるよ!」
流石だな。もうそんな所まで手を回しているのか。
そもそも、地区大会の時に見かけた覚えが無いのだが?
若葉さんに疑問の目を送ると、とてもいい笑顔でサムズアップされた。
「ちゃんと蔵人君のアッパーも撮って、載せているよ!」
「肖像権はどこ行った!?」
蔵人の叫びが、クラスに木霊した。
その日の放課後に確認しに行くと、確かに大きな記事でファランクス部のことが書かれていた。
蔵人達の活躍のことも事細かに書かれており、件の写真も、小さく背中側からの写真だったが、しっかり顎を打ち抜いた瞬間を収めていた。
フルフェイスの後姿なので、蔵人の顔は絶対に分からない。だが、デカデカと存在感を表す背番号33番は写っていたので、暫くの間、学校中で33って誰なのかと、推理合戦が勃発したらしい。
そんなこんなをしている内に、第1学期の終業式まで3日となった今日。ついに、テストが帰ってきた。いや、返ってきた。
蔵人のテスト結果は、以下の通りだ。
数学:100点
国語:89点
英語:97点
理科:94点
社会:92点
総合:472点/500点
まずまずの結果…ではないだろうか?
少なくとも、赤点は無さそうだ。
「ぎぃやぁあ!」
成績表一覧の紙を開いていた蔵人の耳元で、叫び声がした。
驚いて振り返ると、西風さんが蔵人を怯えた目で見上げていた。
「ど、どうしたの!?桃ちゃん?」
「蔵人君がどうしたのさ?」
本田さんと若葉さんが、西風さんに駆け寄る。
すると、西風さんが震えた指で蔵人を指さす。
「よ、よんひゃ、なな、じゅう…」
これは、人の結果を勝手に見たな。
蔵人は左耳を抑えながら、右手を出した。
「西風さんはどうだったの?見せてみ?」
「えぇ…そんな点数を見た後だと、絶対笑われるよぉ」
「でも、俺のを見ただろ?」
「違うよ!見ようとした訳じゃなくて、蔵人君はどうだったって聞こうとしたら、見えちゃったと言うか」
ふむ。ならば仕方がない。
蔵人は右手を引っ込めた。
こちらの管理不行き届きだ。大事なものなら、それ相応に対応しなければ。
まぁ。今回は見られても別にいい物だけど。
「僕のは、これだよ」
そう言いながら、西風さんは成績表を蔵人に差し出す。
見せてくれるんかい。
良い子だ。
「絶対、笑わないでよ!」
「ああ、勿論」
蔵人はそう言って、目線を落とすと…。
数学:62点
国語:48点
英語:73点
理科:82点
社会:85点
総合:350点/500点
蔵人はそれを見て、西風に向けて微笑んだ。
「あ、やっぱり笑った!」
西風さんが不貞腐れるので、蔵人は急いで否定する。
「違うよ。これなら、赤点はまず無いでしょ?」
「う、うん。まぁ、平均的?に取れたからね」
「これで一緒に全国まで行ける。よく頑張ったね」
「う、うん」
そういうと、西風さんは俯きながらも笑ている。なんとか、機嫌を治してくれたようだ。
そんな2人を差し置いて、若葉さんと本田さんは唸っていた。
「472って、これかなり上位だよね」
「平均点数をめっちゃ上げてそう。若ちゃんはどれくらい?」
「私はこれ、本田さんは?410?かなり高いね」
「若ちゃんだって、数学凄くない?80点超えてるじゃん」
「いやいや、これの前では霞んで見えるよ」
そう言って、彼女がヒラヒラさせているのは、蔵人の成績表。
「おい」
蔵人は腕を組んで2人を見ると、2人は苦笑いをして、蔵人に自分達の成績表を差し出した。
結局、班内全員で見せ合いっことなったが、みんな大体350~400点の間だった。
林さんだけは448点で、周りより頭1つ抜き出ていた。やはり数学の問題時の発言は、自信の現れだったのか。
そして、赤点になりそうな娘はいないようだが、さてどうだろうか…。
その日の昼休み。全クラスの結果と赤点の候補者リストが1学年の広間に張り出された。
生徒達がその表の前に群がり、代わり番子に見ている。
蔵人達も昼休みが始まったと同時に見に行った。
そこには、それぞれの科目の上位30人と、総合50位までが張り出されており、端の方に赤点とその該当者名簿が置かれていた。
蔵人の結果は、
数学:1位タイ
国語:8位
英語:11位
理科:15位
社会:ランキング外
総合順位:13位
以上、総合13位であった。
まだ12人も上にいる。
何度も学生を繰り返している黒戸をも抜いたこの12名は、本物の実力者か。
蔵人が感慨にふけっていると、隣の若葉さんが嬉しそうに話しかけてくる。
「やったね!蔵人君。13位だって。凄いね」
「凄いよ。だってDランクが10人いるから、特待生抜いたら実質3位だよ?」
本田さんがそう言うので、改めて順位表を見上げてみる。
「うわぁ〜ホントだ。10番以上はDランクばっかり」
西風さんが苦い顔をしてため息を吐く。
確かに、ランキングの上位10人は全員Dランクで埋まっていた。
流石は倍率50倍を制して入ってきた子供達だ。しかも、蔵人の様に実地試験のバフがある訳でもなく、だ。
蔵人はランキング表を見上げながら、Dランクの子達を称える。
「その中でも、蔵人君は数学と国語は彼らに勝ってる。やっぱ凄いね!」
若葉さんが、蔵人をさらに持ち上げるので、蔵人は少し恥ずかしくなって、お礼を言う。
「ありがとう。みんなのお陰だよ」
過去問を見せてくれたり、一緒に勉強をしたり。
みんなと言ったが、主に若葉さんのお陰だ。
蔵人は若葉さんに視線を送る。すると、若葉さんも察してか、少し悪い顔で笑った。
そして、赤点が張り出されている方の集団では、数人が頭を抱えている姿が見えた。
一体何点なのか、蔵人も見に行こうとすると、
目の前に、燃え尽きた白い塊が落ちていた。
いや違う。人だ。人が真っ白に燃え尽きていた。
蔵人がその、あしたのボクサーを見て固まっていると、西風さんが覗き込んできた。
「どうしたの?蔵と…って、祭月ちゃん!どうしたの!?」
ボクサーは祭月さんだった。
西風さんは倒れている祭月さんに近づき、肩を揺する。すると、
「ヤバい…桜ねぇに、殺される…」
かすれた声で呟く彼女。
まぁ、この位置からして、赤点を確認したら自分がそれに該当したのだろう。
蔵人も座って、祭月さんを覗き込む。
「…幾つ、赤点を取ったんだい?」
蔵人の問いに、祭月さんはヨロヨロと腕を上げて、手のひらをこちらに見せる。
え、待って。
まさか…。
「…5個」
「全部じゃねぇか!」
言ってから、蔵人はハッとなり、口を紡ぐ。
だが遅い。祭月さんは燃え尽きた木々が倒れる様に、その場に突っ伏した。
タダでさえ弱っている人に、追い打ちをかけてしまった。
蔵人は苦い顔をして、彼女の肩に手を置く。
「済まない。心無い言葉を吐いてしまった。何か償いをさせて欲しい」
「…赤点を…無くして…」
それは無理。
蔵人は、ゆっくりと首を振った。
ちなみに、赤点は
数学:35点
国語:27点
英語:40点
理科:36点
社会:41点
であった。
やはり国語は、時間配分が難しくて平均点数も低かった。
それでも、若葉さんは98点を叩き出しており、更に英語も94点とかなりの高得点だった。
そんな彼女だが、国語の学年順位は2位であった。
彼女の上を行っていたのは、我がクラスのDランク、吉留君だ。
「どめさんすげぇな!学年1位じゃん!」
「500点満点って、何か勉強のコツとかあるの?」
蔵人の目の前では、鈴木君と佐藤君が吉留君を囲んで賑わっている。
普段目立たない様にしている吉留君は、急に注目を浴びる事に、焦りと喜びから顔が少し火照っていた。
「いやぁ。僕は勉強くらいしか出来ないから。ひたすら復習したくらいだよ」
「カッコイイなぁ。勉強しか出来ない、僕も言ってみたいよ。ねぇ、今度のテストの時、一緒に勉強しようよ」
「お、それいいな。俺も勉強教えて欲しいんよ」
佐藤君の提案に乗っかる鈴木君。
「そうだね。次の期末テストはみんなで勉強しようか」
吉留君も、乗り気の様だった。
周りの女子も、チラチラと3人の様子を伺っているから、参加したいのかな?
なんにせよ、吉留君の地位が少しでも向上するのはいい事だ。
Dランクだからといって、同じクラスメイトを蔑ろにするのは、おかしいからね。
そうして、蔵人のクラスが少しだけ良い雰囲気になったのとは反対に、こちらは険悪なムードだった。
「なんですって!?赤点を取った!?」
ここはファランクス部の訓練棟。
そして、響いた悲鳴は部長の物。
部長が鋭い目で貫いているのは、3人の生徒。
被告の1人が、ワックスで遊んでいる髪を掻きながら答弁する。
「いや、結構惜しかったんすよ、部長。それに今回は問題が難し」
「黙りなさい!神谷!あんたまた、テスト勉強期間中に遊んでいたわね?渋谷の繁華街であんたの目撃情報が上がっているわよ!」
「げぇっ…」
またもや轟沈する、サーミン先輩。
部長は他の2人を睨みつける。
無言の圧力に、2人とも頭を下げる。
「す、すいませんした!」
「ごめん…なさい…」
綺麗に直角90°のお辞儀をする伏見さんと、猫背を更に曲げたくらいの鈴華。
後で聞いた話、2人とも赤点は1教科だけらしい。
いや、だけと言うと語弊がある。赤点は取らないのがマスト。
どうも祭月さんの件があるから、マシに思えてしまう。
その祭月さんは、元々選手じゃないからか、雷は落ちていない。
それも、今は、と限定されるだろうが。
そんなことを考えていると、蔵人は視線を感じた。
見ると、部長がこちらを睨んでいた。
うん?なぜ俺を?
「まさか、貴方まで赤点取って無いでしょうね?」
「えっ?はい。取ってませんよ」
「本当に?」
何故問い詰められる?
蔵人は少し考え、考え付く。
蔵人が、推薦組だからだ。
男子のCランク以上と女子のBランク以上は、学力で入っていない者ばかりだ。だから、こうして赤点を取るのは彼ら彼女らが殆ど。現に、今矢面に立たされているのはそういう人達だ。
だから、蔵人も懸念されている。
推薦”だけ”で入ってきた人達と同じと思われて。
「部長!それは言い掛かりです!」
声を上げてくれたのは、やはり今回も西風さんだった。
憤然とした態度で、蔵人の横に立つ。
「蔵人君は赤点どころか、472点も取ってます!」
いやいや。バラすなバラすな。
点数をバラさないでくれ。
「西風さん、ありがとう。もういい…」
蔵人は、西風さんの肩に手を置いて、ストップをかけようとする。
「472…え〜っと、それなら、赤点は無い、のよね?」
「当たり前です!学年で13位ですよ?」
部長の問いに、ドヤ顔で返す西風さん。
西風さんや、なんで君が得意げなんだい?
「なんで貴女が威張るのよ」
部長のツッコミに、蔵人は大きく頷いた。
そうしていると、周りから熱い視線を感じる。
見ると、先輩達から、キラキラした目を向けられていた。
「蔵人君って頭良いんだ」
「50番以内なんて、私、取れたことないよ」
「私、今度勉強見てもらおうかな…」
コソコソと、そんな会話が飛び交う。
勉強を見てもらうって、今言われた方、3年生ですよね?
「そう、なかなかやるわね」
蔵人が周りに気を配っていると、部長が笑って、
「じゃあ、この子達の勉強見てくれるかしら?」
鈴華達を指し示しながら、そんなことを、命令…提案してくるのだった。
部長の命令。それは、3日後の終業式後に設けられている、追試の対策だった。
この追試は、平均点以上を取れば、夏休みの補習を免除してもらえると言う最後のチャンスだ。
蔵人は、部長からの命令と言うこともあったが、純粋に仲間が大会に出られないのは嫌だったので、2つ返事で受けた。
ちなみに、勉強を見るのは鈴華と伏見さん、それと祭月さんだ。祭月さんは部長の命に入っていないが、先程の罪滅ぼしだ。
サーミン先輩は対象外だ。何せ、学年が違う。
蔵人は、サーミン先輩が蔵人達と一緒に勉強しようとしていた時の様子を思い出していた。
『よぉ!蔵人。宜しくな。先ずは親睦を兼ねてワックで決起会を』
『あんたはこっち!』
『げぇっ、部長!い、嫌だァ!またあの参考書地獄は嫌だァああ!!』
部長達に首根っこ引っ張られて行く様は、少し可哀想にも見えた。
だが、勉強会が始まって、サーミン先輩までこっちに居なくて良かったと思った。
何せ、教える事が多い。
先ず、伏見さんは数学が18点と、かなり苦手の様だった。
他のテストも平均点以下が多く、勉強自体が得意ではなかった。
「す、すんません、カシラ」
「いや、良いさ。1つづつ解いていこう」
そして、もう1人の鈴華は、国語が0点だった。
「作者の考えを述べよって、無茶言うなよ!あたしはサイコメトラーじゃないんだよ!」
「いや、そういう意味じゃなくてだな…」
彼女は、先ず国語の意味から解説しなければならない。
だが、鈴華は国語以外の教科は中々だった。
特に数学は、
「鈴華ちゃん、数学は良いのに、こういうのは苦手みたいね」
「おう!数学は得意だぜ」
鶴海さんの問いに、鈴華は自慢げに胸を張る。
まぁ、今回は自慢も出来る。なんたって数学は100点。他の教科も80点を超えている。本当に、国語だけ出来ないのだった。
そして、祭月さんはというと…。
「……うん。まぁ、行ける所までやろう」
「……そうね。頑張りましょう」
蔵人は、鶴海さんと顔を合わせて、厳しい顔で頷き合う。
そんな2人の様子が不安だったようで、祭月さんが声を上げる。
「ちょ、なんか2人とも諦めてないか!?」
「そんなことは…う〜ん」
「が、頑張れば、何とかなる、と思うわ」
「目を逸らすなぁ!」
祭月さんは、正直全ての追試をクリアするのは出来ないと思う。
余りにも、その、伸び代が大きすぎる。今回は時間制限もあるし、余計に厳しい。
ちなみに、この会話からもお察しの通り、講師は蔵人と鶴海さんだ。鶴海さんもかなり頭が良く、学年順位30番内に入っている。
正直、助かる。1人では今頃破綻していただろうから。
「では早速、始めようか」
「うっす。お願いします!」
蔵人はテストの問題用紙を広げて、伏見さんと向き合う。
その横では、鈴華と鶴海さんが対面で国語の問題用紙を広げていた。
今、蔵人達は図書館棟の上階にある、学習室に来ていた。幾つもの小部屋に学習机が設置されている、勉強の為だけの一室だ。
放課後と言うこともあり、何人か利用している人がいるが、基本的に今は部活の時間なので、人は少ない。
恐らく、蔵人達と似たような境遇の人達が詰めているのだろう。追試を受かる為に、部活を免除になった人達が。
「先ずはここの問題。どう解くか分かる?」
「…全然、ですわ」
「うん。じゃあ教科書を見よう。ここに似たような例題がある。この場合はこうなってるね」
「あー…なんや授業でやっとった気ぃしますわ…」
「そうだろう?で、ここをこうすると…」
「ああ、そないな事で解けるんですね」
「そう。じゃあ、今度はテスト問題に戻ろう。ここはどうする?教科書の例題を見ながらで良いよ」
「…こう、やろか?」
「お、出来た。やるね」
「!っす!」
伏見さんは、なんだかんだ言って飲み込みが早かった。
これは僥倖。
安心する蔵人の横で、爆弾娘が目を輝かせる。
「凄い!なんかマジックみたいだ!」
同じ数学のページを開いている祭月さんは、その発言が全てを物語っていた。
……。
蔵人は、先ず伏見さんを中心に理解を促し、祭月さんは行けそうな問題だけ懇切丁寧に教えこんでいった。
そんな3日間の努力もあってか。
「カシラ!やったっすよ!カシラ!」
終業式後の部活中に、飛び込んできた伏見さんは、テストがどうだったと聞かなくても分かる程の喜びようだった。
ちなみに、鈴華も何とか合格点を取れた様だった。
「凄いですね、鶴海さん。あの状態の鈴華を引き上げるなんて」
「う〜ん。凄くは無いわよ。だって、漢字と文法を覚えさせて、長文以外で取れるようにしただけなのよ」
結局、作者の意図を汲み取ると言う問題文が気に入らなかった鈴華に、苦肉の策を講じた鶴海さんだった。
それでも、合格は合格だ。
次の中間テストで、同じような状況になりそうではあるが。
「ど、どどどど、どうしよう!」
浮かれて入ってきた伏見さんと鈴華とは打って変わって、顔面蒼白で入ってきたのは祭月さんだ。
「英語と理科と社会が不合格だったんだが!?」
寧ろ、数国が受かっているのが凄い。
鈴華と伏見さんの横で勉強しているだけで何とかなったのなら、前もって勉強しておけば、次回は何とかなるかもしれない。
蔵人はそう思いながら、祭月さんにエールを送る。
「頑張ってくれ。俺達も、君が来るまで頑張るから」
「嫌だぁ!桜ねぇにお小遣い減らされるぅう!」
ああ、そういうこと?
てっきり部活が出来ないことを悔やんでいるかと思っていた蔵人は、頭を抱える彼女を置いて、静かに練習に戻る。
訓練棟の外では、気の早いセミが鳴きだしている。
本格的な夏が、すぐそこまで来ていた。
これにて、第3章は終了となります。
「章の最終話としては、盛り上がりに欠けるな」
どちらかというと、4章への橋渡しの様な話でしたね。
「そうだな。熱い夏の始まりが感じられたな」
熱い4章は、すぐそこです。