68話~巻島は何番が良い?~
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地区大会当日。
1日目。
蔵人達、桜城ファランクス部の面々は、桜城学園からマイクロバス3台に揺られて、近くの総合体育館に来ていた。
地区大会は、この場所で行われる。
参加校は8校。この中から上位2校だけが都大会へ出場出来る。
会場に着くと、駐車場には既に多くの車やバスが並んでおり、ファランクスの試合会場となる野外コートには、色とりどりのユニフォームに身を包んだ選手の集団がいた。
桜城はかなり遅く着いた様で、他の学校は既にフィールドに入って練習を行っていたり、その周辺で準備運動を行うか、集まってのミーティングを行っていた。
それでも、部長や先輩方は涼しい顔で会場入りをする。
そんな姿を、他校の選手達が遠目で盗み見ていた。
蔵人のパラボラ耳に、話し声が集約される。
「見て見て。桜城が来たよ」
「流石、関東大会常連校ね。堂々としているわ」
「もう、私達とはオーラが違うよね。あれとはまともにやり合いたくないわ」
「あの背番号01番の人、美原選手でしょ?白銀の鎧に赤ラインが映えててカッコイイわぁ〜」
「02番は、確か部長の櫻井選手だよね!?後でサイン貰えないかなぁ」
羨望と畏怖の声が殆どで、倒してやるという意気込み所か、妬みの声すら聞かない。
それ程、桜城と他校の実力差は大きく開いているという事か。
そんな声の中で、ひと際高く、黄色い声まで聞こえてしまう。
「ねぇ!男の子がいるよ!」
「知ってる。神谷くんでしょ?親衛隊の防御力が高すぎるから、近づく事すら出来ないよ」
「違うわ!もう1人いるのよ!」
「えっ?あ、ほんとだ。ユニフォーム着てるから選手だよね?1年生かな?」
「ちょっとアタックしてみようよ!」
何か、とても不穏な会話をしている人達が居る。
しまったな。バスを降りる前に、借りているフルフェイスの兜を被ってしまえばよかった。
何でもかんでもサーミン先輩を真似てはいけなかったな…。
蔵人は、隣で四方八方に手を振っている同性の先輩を傍目に、ため息を吐いてから、腰を落とす。
さぁ、何処からでもかかってきなさい。
そう構えた蔵人だったが、
「無理無理!桜城の中に突っ込むとか、あんた骨すら残らないよ」
「えぇ〜…」
会話は無難な方向に流れてくれた。
一先ずは安心して、蔵人は先輩達とフィールドに入り、メンバー登録されていない部員は応援席に移動した。
そして、選手宣誓や全体集会等を経て、早速試合開始となったのだが、
『ブー!!コールドゲーム!桜坂聖城学園の勝利です!』
圧倒的であった。我が桜城は。
美原先輩を控えに置き、Aランク抜きで戦った初戦だったが、試合開始直後から押しまくりで、開始5分で相手の前線が崩壊。そこから桜城の選手団が相手領域へなだれ込み、円柱を奪取。10分経過と同時に領土の3/4以上を取得していたので、コールドゲームとなった。
ちなみに、コールドゲームとは、ある時間内に領域を一定数獲得していると強制的に試合を打ち切り、領域を多く獲得した方を勝利とするルールである。
ファランクスの場合、10分経過(前半終了)時点で領域の75%(7500点)獲得しているか、15分経過時点で領域の70%を獲得していた場合に発生する。
力量差が大きい学校同士だと、半分の時間で勝負が決してしまうのである。
桜城の選手達が悠然と帰ってくると、部長が声を上げる。
「出場選手は外周走ってクールダウン!1、2年は選手の柔軟をサポート!キビキビやる!」
「「「はい!」」」
部長の一声で、締まる空気。
選手も部員も、テキパキと次の試合に向けて準備をする。
なにせ、今日と明日の2日間で全校と当たるリーグ戦なのだ。次の試合までに1時間もない。
1つの試合が最大20分で、フィールドが2つ。かなりタイトな試合スケジュールとなっており、試合後の整理体操の時間が大事となっている。
そうして、慌ただしいながらも、桜城は順当に勝ち進んで行く。
生憎、初日での蔵人の出番は無く、桜城ベンチを温めながらフィールドプレイヤーに声援を送るだけのお仕事となってしまった。
そして、2日目。
この日、蔵人はスタメンで出場させてもらった。
もう1人の円柱役は西園寺先輩。黒髪ロングの和風美人さんである。
試合開始直前、蔵人は西園寺先輩に頭を下げる。
「よろしくお願い致します」
「ええ」
西園寺先輩はその一言で、円柱にもたれかかってフィールドを眺めていた。
蔵人も、円柱に手を置いてフィールドを見る。
目の前には幅20m、奥行100mの芝生に、赤と青のライトで色分けがされている。
こちらは赤軍領域だ。領域の真ん中くらいに2人の先輩が立っており、敵がもしも前線を突破した時の備えをしている。
その遥か先には、赤軍領域の端に4人の遠距離型の先輩が並び、中央の中立地帯には5人の近距離型の先輩達が相手と対峙している。
桜城の先輩達が統一された白銀の鎧姿なのに対して、相手の装備はかなりバラツキがある。
青色のヘルメットだけは統一されているが、胴体は剣道の胴だったり、アメフトのショルダーパットらしき物を着けている人もいる。
持っている物も、竹刀だったりボクシングのグローブだったりと、十人十色だ。
恐らく、装備を揃える程の余裕がなかったのだろう。専用装備というのは、物凄くお金がかかる。
桜城の白銀鎧は、全て部費から出しているのだが、もしも予算が削られたりしたら、相手の様になるのだろうか。
『ファァン!試合開始です』
甲高いサイレンが鳴り、本日1回戦が始まった。
出番はあるかな?と思って前線に視線を送るが、期待薄だ。
桜城側が優勢であるのが、後ろからでも何となく分かる。
『中衛!弾幕を張りなさい!』
メガホンで拡張された部長の声が、こちらまで聞こえてくる。
同時に、相手前線に無数の礫が飛来し、相手選手の装備や武器が宙を舞う。
有り合わせの装備では、やはり異能力には耐えられないみたいだ。
因みに、武器の持ち込みはある程度自由である。
勿論、刀は刃を潰した状態であるのが前提で、異能力に関係ない重火器等は禁止となっている。
異能力の戦いなので、異能力で攻防を行うのが大前提であり、そもそもの話、異能力を使った方が強い。
現に、桜城の先輩方は誰一人として武器を持っていない。
異能力発動の邪魔になると、先輩方は言われていた。
全員の選手に共通している事は、背番号が付いている事。この背番号で誰が何処にいるかよく見れば分かる。
01番は美原先輩で、02番は櫻井部長。03番~10番はBランクの先輩で、11〜99番はCランクの選手だ。
この番号のルールはどの学校も凡そ一緒らしく、AランクとBランクは番号がある程度固定されている。
だから、番号が若い選手が迫って来たら警戒する必要がある。01番とかだったら確実にAランクだし、10番辺りまではBランクの可能性がある。
初見の学校でも、これである程度見分けが出来るらしい。
昨日、サーミン先輩と鹿島先輩に教えて貰った。
ちなみに、蔵人の背番号は33番だ。
これは…端的に言うとお古だ。部室にあった予備を使わせてもらっている。
蔵人達の鎧は、現在発注中らしい。オーダーメイドで作っているらしく、作成にはそれなりに時間が掛かるのだとか。
先日の選手選抜の際に、部長からサイズを聞かれて、その日に発注してくれたのだ。
なので、都大会までには完成するから、それまではこのお古で慣れるようにと仰せつかっている。
お古と言っても、手入れが行き届いていて申し分ない。ピカピカに磨かれた表面も洗剤の匂いがする裏面も、まるで新品の様な仕上がりだ。
蔵人は空いている右手を握りしめ、鎧の感覚を再度頭に叩き込む。
試合は桜城側が常に押せ押せの状況ではあるが、コールドゲームには程遠い。
現在試合開始から7分経過。支配率は桜城が61%と中央のモニターに表示されている。今までの試合なら、既に70%を超えている時間だ。
今までずっとコールドゲームだったから、少し意外に思って首を伸ばす蔵人だったが、その様子を見た西園寺先輩が教えてくれた。
「相手は駒川中。去年は都大会でも3回戦まで勝ち進んで、今年も今のところ負けなし。気を抜いていると喰われるわよ」
西園寺先輩の気だるげな言葉に、蔵人は気を引き締めた。
知らない内に、この地区大会を舐めていた。桜城が強者だと、錯覚していたな。
そう思っているのは、蔵人だけでは無かった様だ。
試合開始8分が過ぎ、ハーフタイムまで残り2分を切ったという頃。
相手前線が一瞬後退して、先輩達が息を着いた直後、桜城側の一瞬の気の緩みを狙って逆襲してきた。
後退していた相手の一部が突然、一斉に転進し、突進してきたのだ。
盾役と近距離役のスイッチをしている最中であった前線の左翼が、敵の侵入を許してしまった。
「「カバー!」」
桜城前衛から声が飛ぶが、中間にいたはずの中衛の先輩達2人は、かなり前線寄りに、しかも右翼側に固まっていた。故に、反応が遅れた。
桜城前線を突破した相手は、2人。
『佐々木!秋山!』
部長の叫びが、ベンチから飛ぶ。
中衛の先輩達が遠距離攻撃で相手を止めようとして、全力の弾幕を張る。
距離はあったが、流石は花形の遠距離役。侵入した2人目を捉え、見事にベイルアウトさせた。
いや、違うな。相手はワザと攻撃に当たりに行った。先頭を走るもう1人を逃がすため。
その証拠に、攻撃が当たらなかった相手選手は、攻撃された仲間を振り返る事無く、スピードを上げる。
佐々木先輩の岩石弾も、相手選手の直ぐ後ろで消えてしまう。
射程から出てしまったのだ。
相手選手は止まらない。そのまま円柱を目指し、蔵人達に猛然と突っ込んできた。
まるでタッチダウンを狙うアメフト選手の様な鬼気迫る姿に、蔵人は立ち上がり、じっと相手の動向を見据える。
「巻島」
蔵人の後ろから、冷めた美しい声。
西園寺先輩だ。
「分かっているわね?」
主語の無い、端的な会話。
それでも、蔵人には伝わった。
試合前に、西園寺先輩から言い渡されたミッションは、しっかりと頭の中に叩き込んである。
蔵人は前を向き直りながら、頷く。
「仰せの通りに」
相手が迫ってくる。他の相手選手とは違い、統一された装備を着ている。
正規のファランクス部員か。
桜城の円柱まで、あと15m、12m。
速い。桜城の鎧よりは軽そうな装備だが、異能力無しでこの速度は出ないだろう。フィジカルブーストか?
蔵人は円柱から手を放し、円柱から3mくらいの所で深く構える。
10m、7m、相手が雄叫びを上げながら突っ込んでくる。
「おおぉぉお!!」
5m、4m、ここで、蔵人は2歩下がる。
蔵人がいた場所に、相手が踏み込んでくる。
その直前。
蔵人は、結晶盾を相手の目の前に、瞬時に展開する。
「おぉおお、ゴッ!ぶっ!」
相手は避ける事も出来ず、盾にぶち当たる。
後ろへ一歩、二歩、顔を押さえながらたたらを踏む。
蔵人はすかさず、上がった相手の頭、ヘルメット下の防具が薄い顎の部分を狙って、盾で覆った拳を振り抜き、アッパーを叩き込む。
怯んで無防備だった相手の体が浮き、ヘルメットは衝撃で吹っ飛んで行った。
幾らフィジカルブーストでも、脳震盪は起きるみたいだ。虚ろな目をした少女が、膝を着いて蔵人の足元で目を泳がせていた。
よし。
蔵人は思った。
これなら、第一のミッションクリアだ。
次のミッション。
蔵人は、相手を見下ろして、言った。
「こっちを見ろ」
相手の目を見て、言った。
「こっちを、見ろ!」
2回目でやっと、蔵人の顔辺りに視線を上げる少女。
蔵人はその様子に満足して、直ぐに横へとズレた。
そうすると、相手の目線の先には、西園寺先輩がいた。
先輩は微笑み、言う。
「この目を見なさい」
相手は、虚ろな目で先輩の顔辺りを見たかと思うと、急にシャキッと立ち上がった。
アッパーからの衝撃に立ち直った訳ではない。
多分、先輩の異能力が決まったのだ。
西園寺先輩の異能力は魅了。自身の半径3m以内に入った者の意識を混濁させたり、目線が直接合った者の意識を操る事が出来る異能力。
蔵人に課されていたミッションは、相手の足止めであり、可能なら西園寺先輩の目を見るように仕向ける事だった。
西園寺先輩が、指揮者の様に腕を振るう。
「お行きなさい」
そう言うと、相手はクルリと振り返り、前線に向かって走り出した。
「おぉおおお!」
そして、そのまま雄叫びを上げて前線に突っ込み、仲間であるはずの駒川選手を次々となぎ倒していく。
ちなみに、魅了はどんなに上手くいっても1分間しか効かないらしい。
今回も、魅了された選手は、相手の前衛選手を2人なぎ倒し、3人目と取っ組みあっている内に魅了が解けたのか、急に力が抜けて、仲間に拘束されて交代させられていた。
だが、それで十分だった。
混乱した駒川前線の穴から、桜城側が一気に突破し、中衛を倒しながら相手の円柱にファーストとセカンドタッチを決めて、自軍領域を75%以上にしてしまう。
その直後に、前半戦終了を知らせる鐘の音が響く。それは即ち、試合開始から10分が経過したという事。
駒川中と桜城の試合は、接戦の末、桜城側のコールドゲームで終わった。
その後の試合は、特に危なげなことも無く、無事に全てコールドゲームで終わり、桜城は地区大会を堂々の1位で通過した。
2位は駒川中だ。桜城以外には負けなかった様だ。
これで桜城は、都大会へと駒を進めることが出来た。
その都大会は夏休みに入って直ぐの週末、7月21日、22日。ここより少し離れたWTCで開催されるらしい。
とりあえず、無事に都大会出場という事で、桜城部員達はみんな喜んでいる。
特にテンションが高いのは、サーミン先輩だ。
「よっしゃ!お祝いしようぜ。帰ったら地区大会優勝祝賀会で駅前カラオケだ!」
大会前にカラオケが出来なかった事もあってか、今回はやけに気合いが入っている。
だが、それに声を上げた人がいた。
部長だ。
「ダメに決まっているでしょ」
「ぶ、部長?」
あまりにキッパリ断るので、動揺するサーミン先輩。
「お祝い?何を言ってるの。格下相手に出し抜かれて、危うくファーストタッチを決められそうになっておいて、何を祝えるの!」
部長の痛烈な言葉に、でもぉ…と弱弱しく呟く3年の先輩方。
「結局、どうにかなったし」
「そうそう。寧ろ、カウンター決めてコールドにしてたし」
「あ、そうか。結局全試合コールド勝ちじゃん!」
先輩達がワイワイとはしゃぎ出した所で、部長の鋭い視線が皆を刺さす。
「あのピンチをどうにかしたのは、後輩のお陰じゃない!」
部長の剣幕に、今度は誰も反論しなかった。
そんな彼女達の様子に、部長はヤレヤレと首を振る。
「帰ったら、今回の駒川戦の録画を見直すわよ」
「「「はい…」」」
カラオケの件を切りだせる勇者は、もういなかった。
そして、無事に桜城へ辿り着いて、早速、視聴覚室で録画した試合映像を見る面々。
みんなで画面と睨み合いっこをしながら、改善点を上げていく。
初めは、勝ったのに詰まらないと言う雰囲気も流れていたが、駒川選手が前線を抜ける所の場面まで来ると、議論が白熱し始めた。
自分達のミスを目の当たりにして、危機感が芽生えた様だった。
「あ、ここ、盾役とのスイッチが上手くいってない」
「ここの前線、中央に寄ってる」
「左翼の弾幕無くなってる。右翼の相手に引っ張られちゃったんだ…」
「だから練習の時にも言ったじゃん。左翼弾幕薄いって」
「相手の前線が退いたら、みんな足止まってる」
「あ、ここのスイッチのとこで仕掛けたんだ!相手よく見てる」
「ってか、私達が不味くない?全然集中出来て無かったじゃん」
「相手が退いたからって、油断したなぁ…」
「あ〜…これはやらかしたなぁ」
「うわ。中央の前衛もよそ見してる」
「みんなでやらかしてたぁあ」
反省会は、原因を見つけて、どう対処するかを議論していき、有意義な物になった。
結局、今回の教訓は、格下とか格上とかで気持ちを上下させずに、試合の20分は全力で集中する事で一致した。
勿論、個々人の課題はそれぞれが持ち帰り、消化することとなる。
そんな反省会が終わると、今度は楽し気な声も湧いてくる。
「ここの夕子姫の魅了ヤバすぎ」
「相手完全にコントロールされてるのヤバ」
「姫は敵に回したくないわー」
前線を突破された後の映像が流れると、相手前線を瓦解させた西園寺先輩の活躍を見て、3年の先輩方が湧いていた。
「ってか、そもそも、相手止めた蔵人君がヤバい」
そして、蔵人についても言及されてしまう。
「相手は…Cランクか。でも、これ3年だよね」
「背番号12番ってことは、Cランクでも主力だよ。装備もしっかりしてるし」
「しかもフィジカルブースト。映像見る限り、全力で来てるし」
「それを無傷で倒すって凄すぎ」
「ってか、これ殴ってるの?あんまりにも速すぎて、あたし見えないんだけど?」
「そもそも、盾の展開が早ぎる。まるで瞬間移動で出してるみたいじゃん。これ初見で突破するの無理だわ」
「この鉄壁防御の後ろで魅了してくるとか、1人じゃ絶対勝てないよ」
「確かに。姫と巻島君が組んだら敵なしだね。ほんとに敵じゃなくてよかったぁ〜」
先輩達がこちらを向いて視線を送ってくる。
だが、いつもの好色な視線じゃない。仲間に対する視線と言うべきか、嫌らしくない好意的な視線だ。
少しは、蔵人を男としてではなく、選手として見てくれたのだろうか。
この後、部長からも「よくあそこで耐えてくれたわ」とお褒めのお言葉を貰い、西園寺先輩からも「お前は私の言葉を守った。忠実に。ただ、それだけの事よ」とお褒め?頂いた。
反省会後、先輩達は早めに帰宅したが、蔵人達1年生は部長に呼ばれた。
いや、呼ばれたのは蔵人、鈴華、伏見さんの3人だけだ。
つまりは試合に出る3人だな。鎧の事だろうか?
そう思って部長の元にはせ参じた蔵人だったが、予想的中であった。
「お待たせ。貴女達のユニフォームが完成したそうよ。後はそれぞれにネームを入れるのと、背番号を入れるだけ。そこで、貴女達の希望があればなるべく通してあげるわ。既に使われている番号や、無茶な数字じゃなければね」
「んじゃあ、あたし1ば」
「却下」
手を上げて希望を上げた鈴華が、速攻で撃ち落とされた。
部長、目が怖いです。本気で睨んでいるでしょ?彼氏の番号だからって。
「8番以降にしてくれる?それより若いのは先輩が使っちゃってるから」
「んだよ。だったら何番でもいいよ、あたしは」
投げやりな鈴華に、部長が長く深いため息を吐く。
やはり部長職というのは、大変だなぁ。
そんな風に部長を見ていたら、睨まれてしまった。
…いや、俺のせいじゃないよ?鈴華の教育係じゃないからね?
「ウチも、別に何番でもええです。これと言って希望とかないですし」
「そう、じゃあ、久我が8番で伏見が9番ね。巻島は何番が良い?」
鈴華達は直ぐに決まってしまったので、もうお鉢がこちらに来た。
さて、何番にしようか…。
決まっている。
「部長。2桁まででしたら、よろしかったですよね?」
「そうよ、2桁。あ、でも28番以降にしてくれる?それまでは今使っているから」
「分かりました。では」
蔵人は期待を込めた目で、部長を真っ直ぐに見る。
「96番で、お願いします」
いよいよ、夏のファランクス大会が始まりましたね。
落ち気味だなんだと言われていましたが、流石は名門校。圧倒的でした。
「まぁ、地区大会だからな。次の都大会はこうは行かんだろ?」
そうですね。都大会には他の名門校達も出てきます。
どうなるのでしょうか。
「楽しみだな」
とは言え、次回は日常回なんですけどね。
「おい!」