67話~まさか、そっちなのか?~
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蔵人達が朝練を始めてから暫く経ったある日の事。
放課後の練習の為に、教室棟の1階を急ぎ進む蔵人であったが、掲示板コーナーで見たことのある顔の子が、張り出された新聞を読んでいるのを見つけて、足を止めた。
「………」
真剣に、穴が空くかのように見つめる彼の先には、GWが明けた時に若葉さんが貼り出した一枚の記事が、我が物顔で幅を利かせていた。
内容は、GW中のWTCについて。
もっと詳細に言うと、龍鱗についての記事だった。
〈GWに現れた謎の戦士。その実力は?〉
デカデカと見出しが飛び出して、その下に事のあらましと、龍鱗が載ったランキングと共に並べられている。
その横にはコラムまで設けられており、どんな風に戦ったのか。異能力は何なのか等を考察している。
GWが明けたばかりの頃には既に貼り出されていたこの号外は、瞬く間に生徒の間で話題となり、昼休みや放課後は人集りまで出来ていたから驚きだ。
だが、流石に1ヶ月以上経つ今では、彼の様に立ち止まる人は少なかった。
それでも、彼はじっとそこから動かず、唯一掲載されている1枚の写真、カメラに向かって手を振る(本当はお礼を言っているプレイヤーに、もういいからと手で制する)龍鱗の姿を見つめていた。
「どうしたの?何か、面白い記事でもあったかな?」
蔵人はなるべく、優しく高めの声で話しかける。
本当は、見て見ぬふりをして通り過ぎようと思っていたが、何か嫌な予感がしたので”危険”を承知で話しかけてしまった。
声を掛けられた少年は、ビックリして飛び上がってしまったが、話しかけた相手が男子と分かり、安心したようにホッと息を吐いた。
少し声を高くし過ぎたかな?盾は使っていないが、女子生徒と勘違いさせてしまった様だ。
「おっと、驚かせてごめんね。ええっと…」
確か、ミナト君と呼ばれていた少年だ。WTCのダンジョンに潜っていた少年。
まさか、桜城の生徒だったとは。世界は意外と、狭いのものである。
あの時は、龍鱗の姿で会っているので、蔵人とは初対面と思っている筈。
よって、下手に名前呼びはせずに言葉を濁し、名前を聞き出そうとする蔵人。
「か、鹿島湊音です。えっと、1年生、です」
オドオドしながらも、蔵人に軽く頭を下げる湊音少年。
蔵人は手を振って、お辞儀は要らないとジェスチャーしながら、自身も自己紹介する。
「そんなに畏まらなくていいよ。僕も1年だし。巻島蔵人だよ。よろしくね」
いつもと同じように喋ると、龍鱗とバレる恐れがある。なので、佐藤君を真似て喋っているのだが、知っている人には見られたくない状況だ。
蔵人が自己紹介すると、湊音君は頭を上げる。幾分か表情が柔らかくなっている。
「ところで、随分とその記事を見ていたね」
「あ、えっと…その…」
湊音君は、ポツポツと龍鱗との出会いを話してくれた。ダンジョンで窮地であった所を颯爽と駆けつけ、変異種から彼らを救い出すまでを。
その話は、蔵人側から見たよりも幾分か、いや、かなりの割合で脚色されており、まるで龍鱗をヒーローの様に語る湊音君。
「僕が何にも出来ない時に、颯爽と現れて、僕が助けてって言ったら、あっという間に全部倒しちゃったんだ。同じ男の人なのに、凄い堂々としてて、女の人よりも強くて」
彼の語り口が、徐々に熱を帯びて、最後は力説と言える位に白熱していた。
「僕も何かこう、頑張らなきゃって、思って。あの人に叱られて、分かったんだ。今まであんな風に怒ってくれる人もいなかったから、僕は凄く嬉しかったんだ。こんな僕に怒ってくれるって!」
な、なんだろうな。褒められているのに、何か危険な香りがする。叱られたことに奮起しているのは良いのだが、それ以上の何かを、感じる気がする。
湊音君の力説に、眉をひそめる蔵人。
それを見て、慌てて口を噤むぐ湊音君。
「あ、ご、ごめん。僕ばっかり、その、熱くなっちゃって」
「いや、良いよ。君がこの龍鱗さん、を慕っているていうのは…」
蔵人は途中で言葉を切った。そんな蔵人を見て、湊音君はどうしたのかと不思議そうな顔をした。
でも、蔵人は別の事に気が行ってしまっていた。
彼らが立っている所より少し行った廊下の曲がり角。そこに潜む者達の声が、蔵人のパラボラ耳に集約されていた。
「やっぱり湊音君、あの龍鱗とか言う女を好きになっちゃったんじゃない?」
「えっ!?うそ!だってただ写真見てるだけじゃん」
「あの顔見なよ。あたし達と話す時、あんな笑顔見た事ないよ」
「だから言いましたのに!あの女性を湊音君に近づけてはいけませんと!」
「美和。そんな事言ったって、あの時は仕方なかったじゃない。彼女が助けてくれなかったら、湊音君に大怪我させちゃったかもしれないんだよ」
漏れ聞こえる会話の内容から、あそこに潜んでいるのは、あの時の湊音君のチームメイトかと思われる。
彼女達は、龍鱗が女性だと思い込んでいるから、そういう風に勘違いしてしまっている様だ。
だが、安心してくれ。湊音君はちゃんと、龍鱗が男だと分かっているから。
「どうか、したの?」
「あ、ああ、いやぁ」
湊音君が心配してくれたが、蔵人は言葉を濁した。そして、直球で聞くことにした。
「ええっと、鹿島君は、この龍鱗さんを慕っているんだよね?こんな大人の男になりたいって思っているだけだよね?」
蔵人の問いに、湊音君は顔を伏せる。
「どうなんだろう。僕は、本当に龍鱗さんみたいになれると思っているのかな?僕があんな風に堂々と出来るところなんて、想像できない。けど、彼にもう一度会えるなら、僕は…」
そう言って顔を上げた彼の頬は、かなり赤みがさしていた。
…あれだよな。語るに興奮してしまっただけだよな?
「だ、大丈夫?顔が、赤いよ?」
「えっ!?うそっ。ぼ、僕、何考えて…」
おい。ナニ考えてんだてめぇ。
「ご、ごめん、僕、なんか、今変で…」
そう言いながら、1歩、また1歩と後ろへ下がる湊音君。そして、
「………!」
真っ赤になりながら、廊下を走り出した。
そっちの方向は、美和さん達が潜んでいる方向だったのだが、彼女達に気付くことも無く、走り去っていく湊音少年。
随分と混乱していた様だが、蔵人はその事に対して全く悪いとは思っていなかった。
と言うより、そこまで気が回らなかった。
蔵人の心中に渦巻く疑念はただ1つ。
「お前、まさか、そっちなのか?」
自然と、お尻に手を回す蔵人だった。
物凄い爆弾を抱えてしまった気がする蔵人。
彼の心は、この世界に来て一番の底辺をさ迷う程落ち込んでいた。
そんな蔵人の内情は、部活に出たら幾分か持ち直すことが出来た。
その日の部活終わりに、櫻井部長が部員を集めて発表した、福音のお陰で。
「上級生は知っていると思うけど、来月末から地区大会が始まります」
地区大会。それは夏の全国大会であるビッグゲームの初戦だ。ここから県大会、関東大会、全国大会へと駒を進めて行く。と、右隣に座る鶴海さんに聞いた。
おっと。ここは東京都だから、県大会じゃなくて都大会か。
「3年生は中等部最後の大会ではあるけど、出場する選手は練習の様子や試合での動き等で選んでいきます。その結果次第では、3年生であってもレギュラー落ちするし、1年生でもメンバーに入れます。選手の選定は、各大会の前に都度行うから、今回選ばれなくても不貞腐れないように。じゃあ、先ずは地区大会のスタメンから発表します」
そう言って、部長は近距離攻撃役のポジションから順に、部員の名前を呼んでいく。
呼ばれた先輩は、小さくガッツポーズを取ったり、音を鳴らさない様に拍手するフリをしていた。
そして、終わって見ると、大半は3年生がスタメンとなっており、2年生は2人だけ選ばれていた。勿論、1年生は誰も呼ばれていない。
当たり前か。
「次に補欠を発表します。あ、補欠と言っても、メンバー登録されているから、試合の何処かで出る可能性は十分にあります。気を抜かない様に」
そう言って、今度は2年生も多く呼ばれ始めた。3年生の時よりも、喜びが大きい先輩が多いな。呼ばれるか分からなかったからだろう。
「前衛右翼は島田、北川、伏見」
「「えっ?」」
蔵人と、蔵人の左隣りにいた伏見さんが小さく声を漏らした。
今、伏見さんの名前呼ばれたよな?
「前衛中央は木元、近藤、久我」
「おっ!」
今度は蔵人の前に座っていた鈴華が顔を上げる。
さっきまでつまらなそうに地面と睨めっこしてた奴が、ウキウキ仕出したのが後ろからでも分かる。
こうして、2人は1年生にしてメンバーに選ばれた。元々Bランクは多くないから、そういう意味でも重要な人員なのかもしれない。
また、早めに実践を積むと言う意味も含まれているのだろう。彼女達が3年生になったら、かなりの確率で中心メンバーとなる筈だから。
「以上27名をフィールドプレイヤーとして登録します」
結果、スタメンは3年生9名、2年生2名。補欠は3年生7名、2年生7名、1年生2人が選ばれた。
補欠の方が多いのは、大会の規約上の都合で、登録人数がそう決まっているからだ。
何故そのようなルールになっているのかは、それだけファランクス…いや、異能力戦は激戦であり、気絶や負傷で交代が高い確率で起きるからだ。
幾ら回復の異能力が存在するこの世界でも、怪我が治った様に見えるからと言って、直ぐに復帰することは出来ない。ちゃんと精密検査を受けて、医師が許可を与えてからの復帰となる。
そうなると、その試合で大怪我をした場合は、高確率で次の試合からの復帰となる。その為、多くの補欠が必要らしい。
これも、後で鶴海さんから教えてもらった。
今回呼ばれなかった残りの部員は、応援や準備、撮影等のサポーターとして、選手達を支える。
俺も、マネージャーとして出来る事をやろう。
そう思って立ち上がった蔵人だったが、まだみんな座ったままだ。
あれ?メンバー発表終わったから、練習再開じゃないの?
蔵人はそう思い、一緒に立ち上がった伏見さんと鈴華を見る。
すると、足元から鶴海さんが小声で蔵人を呼ぶ。
「蔵人ちゃん。まだよ。まだ座ってないと」
「あ、そうなんです?」
蔵人が素直に鶴海さんに従って座ると、部長が言葉を続けた。
「最後に神谷、西園寺、鹿島、巻島の4人は円柱役で登録します」
えっ。
蔵人は部長に「どういうこと!?」という目線を送ったが、部長は受け取ってくれなかった。
「この円柱役のスタメンは決めません。4人の内2人を状況によって入れ替えて行きます。以上で今年のビッグゲーム地区大会のメンバー選出は終わりにします。選ばれた選出は勿論、選ばれなかった人もしっかり練習をして下さい。もう一度言うけど、地区大会は確実にこのメンバーで行きますが、都大会以降は再度評価をして、大きく入れ替える場合も有り得ます。選ばれた、選ばれなかったと言って練習をサボったら、容赦なく切ると思って下さい」
「「「はい!」」」
先輩達が返事を返すと、今度こそ部長の話が終わった様で、みんなが立ち上がり始める。
蔵人も立ち上がるが、まさか選手として選ばれると思っていなかったので、少しの間立ち尽くしてしまった。
そんな蔵人に、鶴海さんが話しかけてくれる。
「凄いじゃない、蔵人ちゃん。1年生で試合に出られるなんて大抜擢よ!」
やはり、1年生が出るのは凄い事らしい。
しかもCランクでとは、なかなか聞かないとか。
「そうなんですね。ありがとうございます、鶴海さん。ですが円柱役とは何をするものなのでしょうか?」
蔵人がお礼を言いつつ、首を傾げる。
別に、円柱役の役割を改めて聞いている訳では無い。
円柱役は、基本その場でじっと円柱にタッチしてポイントを稼ぐ事が仕事だ。
だが、今回の人選はそれだけではない筈。何と言っても、あの練習試合で大活躍したサーミン先輩がいるのだ。ただ座っていろという役ではないだろう。
そう蔵人が話すと、鶴海さんも一緒に考えてくれた。
「そうね。確かに尖った人選よね。雪音先輩…あ、鹿島先輩の事ね。雪音先輩は音を使って味方のバフや敵へのデバフを得意とするハーモニクスだし、西園寺夕子先輩は相手を魅了するドミネーター。そして神谷先輩は透明になるリフレクター。4人の異能力はバラバラだから、局面に応じて必要な選手を入れ替える戦法だと思うのだけれど」
どんな戦法が取れるかまでは分からない、と鶴海さん。
これだけ富んだ異能力を集めたのだから、それは仕方ない。
幾らでも応用が効くだろうからね。
蔵人は少し、ワクワクしていた。
円柱役としての練習は、一体どんなものになるのだろうと。
しかし、蔵人の期待とは違い、練習内容は大きくは変更されなかった。
基礎練習に応用練習。いつもの練習と何ら変わり映えはしない。
選手になったからか、防御の組織練習にも混ぜて貰える様になったが、肝心の円柱役での練習は全く無かった。
もっと特別な練習、他の選手達が行っている様な、突出した練習があるのかと思っていたが、それも無し。
それどころか、サーミン先輩以外の先輩とはまともな接点も設けられずに、地区大会が刻一刻と迫ってきていた。
そして、地区大会前日。
この日は、軽いアップと明日の大会に向けたミーティングを行っただけで、早々に帰宅となった。
疲れを翌日に残さない為なのだろうが、少し時間が勿体ない気がする。
蔵人は、家に帰ってからどんな自主練をしようかと構想を練りながら、明日の諸注意を聞いていた。
そして、いざ帰ろうとした時に、声をかけられた。
サーミン先輩だった。
「よぉ、蔵人。お前、今からヒマか?ヒマだよな?」
いきなり人の予定を聞いてきて、勝手に断定してくる先輩に、蔵人は苦笑いで答える。
「はい。今日は帰るだけです」
そう言うと、サーミン先輩は嬉しそうに指を鳴らす。
「よーし。そう来なくっちゃな。今から駅前でカラオケするんだ。ほら、円柱役の2人とはまだあんまり話した事ないだろ?顔見せも兼ねてさ、行こうぜ」
カラオケか。
蔵人は考えた。
顔見せと言うのは体のいい誘い文句で、遊びたいだけなのが彼の本心だろう。
本音を言うなら、家で訓練をしたいところではあるが、ここは先輩のお誘いだ。断る事は出来ないな。
蔵人は考えをまとめて、頷いた。
「お誘いありがとうございます。参加させて…」
「何言ってんのよ、神谷。カラオケなんて行くわけないじゃない」
蔵人の返答は、途中でぶった切られた。
サーミン先輩のお誘いをぶった切った、その声の方向には2人の女子生徒がいた。
明るい茶髪を肩まで伸ばした可愛らしい女子生徒と、綺麗な黒髪を背中まで伸ばした古風な美少女だ。
今話したのは、髪色が明るい方の先輩。
サーミン先輩が振り返り、両手を上げた。
「Why?どうしてさ、ユキちゃん。カラオケ嫌いだった?だったらワクドナルドにしようぜ。今週からチキン月見が復活してるんだってよ」
「あんたと一緒に行くのが嫌なのよ!」
ユキちゃんと呼ばれた鹿島先輩が、サーミン先輩を指刺して憤慨する。
しかし、指さされて嫌いと言われたサーミン先輩は、涼しい顔で肩を窄める。
「またまた、照れちゃって。でも今回は蔵人とユキちゃん達との交流も兼ねてるんだぜ?明日から同じ職場で働く仲間なんだから、少しはお互いを知ってた方が良いだろ?」
「とか言って、ただ遊びたいだけじゃない。交流ならこの場と、後は本番で十分よ。どうせ地区大会じゃ私達の出番は無いだろうから、時間なら十分あるでしょ」
鹿島先輩にそう言われて、流石のサーミン先輩も言葉に詰まる。
やっぱり遊びたい方がメインだった様だ。
「で、でもよ…あ、蔵人が行きたいって言っているんだぜ!そうだよな!?」
そして、蔵人の肩をホールドしてくるサーミン先輩。
これは、どっちの味方をするべきだ?
蔵人の目がサーミン先輩と鹿島先輩の間を往復していると、もう1人の女子生徒がため息をついた。
「愚かね。後輩を出汁に使おうとするなんて。そう言うところが、雪音の癇に障るのよ」
「ゆ、夕子様、相変わらず、斬れ味の良いお言葉で…」
ため息をついた西園寺先輩の言葉に、たじろぐサーミン先輩。
更に、西園寺先輩が続ける。
「そもそも、貴方は聞いていなかったのかしら。部長は明日の試合の為に皆を早く帰すのよ。明日に疲れを残さないように。それなのに、遅くまで遊んでみなさい。貴方、メンバーから落とされるわよ」
「ぐっ…う…」
サーミン先輩が撃沈した。
蔵人も、帰ったら色々と訓練しようと思っていたので、幾分か心が痛い。訓練内容は変更して、瞑想だけにしようと思い直す蔵人。
大破したサーミン先輩を素通りして、鹿島先輩が蔵人の前まで来る。
「巻島蔵人君よね。私は鹿島雪音。このおバカな先輩が迷惑かけたみたいでごめんね」
雪音先輩が蔵人に謝りながら、手で謝罪の意図を伝えて来たので、蔵人は首を振る。
「とんでもありません。ありがとうございました、鹿島先輩。巻島蔵人です。若輩者ですが、明日からよろしくお願い致します」
蔵人の言葉に、雪音先輩は笑顔で答える。
さっきまで不機嫌な顔しか見ていなかったから、なかなかの破壊力だ。
そんな2人に近づく西園寺先輩。
「西園寺夕子よ。本番では、私の指示を守りなさい」
西園寺先輩は、腕を胸の前で組んだまま、冷めた目で蔵人を見る。
鹿島先輩はフレンドリーに対応してくれるが、西園寺先輩はかなりクールだ。
蔵人は西園寺先輩に向き直り、頭を下げる。
「ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い致します」
そう蔵人が言うと、横の鹿島先輩が声を上げる。
「ちょっと、夕子。後輩に、それも男の子にその言い方は無いでしょ!」
「最初が肝心よ。男だからって甘やかしていると、去年みたいになるわよ?何処かの自信家さんが目立ちたいからって、勝手に敵前線に突っ込んで行ったでしょ?」
そう言うと、沈んでいたサーミン先輩がピクッと動いた。
話題の自信家さんかな?
「それは、そうだけど…」
鹿島先輩は、そう口にするが、目はまだ鋭いままだ。
このまま喧嘩した状態は不味いな。
蔵人は再度、西園寺先輩に頭を下げた。
「ご指摘、ありがとうございます。明日からの大会、肝に銘じて出させて頂きます」
そう言うと、西園寺先輩が蔵人の方を向いた。
「いい心がけね。しっかりやりなさい」
「はい!」
蔵人の返事に満足したのか、悠然と立ち去る西園寺先輩。
ちょっとプライドが高そうな先輩だが、言っている事は的を射ているし、今のところ冷静。指揮官としては頼りになりそうだ。
そんな西園寺先輩を見て、「もうっ」と不満を漏らす鹿島先輩。
「ごめんね、蔵人君。あんまり気にしないでね。彼女、誰に対してもああだから」
「お気遣いありがとうございます。今の御言葉で、心が随分と軽くなりました」
そう言うと、鹿島先輩は嬉しそうに微笑む。
「そんな硬くならなくて良いよ。明日からよろしくね」
そう言って、鹿島先輩も去っていった。
同じ鹿島の苗字だけど、彼とは何か関わり合いがあるのか?
先ほど掲示板の前であった彼の事を思い出し、悪寒が走る蔵人。
いかん、いかん。風邪などひいたら、えらい事だ。
蔵人は考えるのを止め、未だに地面でピクついているサーミン先輩を通り越して、足早に帰路へと着くのだった。
ある意味、不穏な回でしたね…。
「特区の男は、女嫌いが多いからな。そっちに走るのかもしれん」
まだ湊音君がそうと決まったわけではありませんよ?
イノセスメモ:
鹿島雪音…Cランク、ハーモニクス。歌による仲間のバフ(強化)や騒音による相手への妨害を行う。真面目な性格で、蔵人に対してはかなり優しい反面、神谷先輩には手厳しい←Cランクの女子なのに、何故?あの子のお姉さんだからか?
西園寺夕子…Cランク、ドミネーター。魅了と言うが、何処まで可能なのか?西園寺家の人間であり、性格は傲慢。先輩達からも「夕子姫」と呼ばれている。神谷先輩に甘くないのも、超お嬢様である故か。