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62話~降ろさないでぇえ!~

ご覧いただき、ありがとうございます。


※現在、文章の改行中です。もしも見辛い等ありましたら、感想にてご意見いただきたく思います。

宜しくお願い致します。

ミナト君達との邂逅から、暫く経つ。

現在の深度は45階層。時刻は16時に迫ろうとしている。

昨日と比べると、攻略速度は大きく落ちている。

それは、蔵人が変異種を探しながら航行しているのもあるが、偶にピンチなチームの助っ人をしている事が一番の原因だろう。

とは言え、RTAは全然狙っていないので、人から感謝される現状に満足している。

そんな、ちょっと訓練からズレ始めた蔵人であったが、彼が次に出会ったのは奇妙な集団であった。


色とりどりの髪色をした女性プレイヤーが3人。年の差はあれど、この世界においてはそれ程珍しいパーティーではない。

では、何が奇妙かというと、彼女達はしきりに周囲をキョロキョロと見まわしながら歩き、時折、奇妙な言葉を周囲に投げかけているのであった。

その言葉とは、


「おーい!あほー!何処行ったぁ!」


であった。

どうも、アホな方をお探しのご様子。

これは珍妙。

好奇心から、蔵人はその集団に近づく。


「(高音)すみません。誰かお探しですか?」


蔵人が地上に降りながら声を掛けると、3人の女性は少し驚いた顔で蔵人を見上げた。

1人は小学生くらいの背丈。薄い髪色は白井さんを思わせる。

クリオキネシスかな?

残りの2人は高校生か大学生くらいのお歳だ。濃い鶯色の髪をした女性と、暗いブラウンの髪を長く伸ばした猫背の女性。

その猫背の女性は、蔵人を見た瞬間に小学生の背中に隠れた。

いや、普通逆でしょ?

蔵人が呆れていると、鶯色の髪をした女性が訳を話してくれた。


「実は、私の妹が途中でハグれてしまって、探していたんです」


彼女曰く、この階層で宝箱を探している時に、妹さんが突然「珍しい蝶が飛んでる!」と訳の分からない事を口走って、唐突に走り出してしまったらしい。

ハグれてから、まだそんなに時間は経っていないそうなので、近くにいるはずなのだが、探しても探しても見つからないのだとか。

これは、空が飛べる俺の出番では?

蔵人は自分を指さす。


「(高音)分かりました。私も一緒に探させて下さい」

「え、良いんですか?タイムアタックは?」


うっ。

どうやら、彼女達も蔵人の存在を知っている模様。

蔵人は勢いよく首を振る。


「(高音)元々、狙ってやっていた訳では無いので、一向に構いませんよ」


蔵人がそういうと、鶯髪の女性は曇った表情を幾分明るくさせた。


「本当に助かります。私は桜、北岡桜と言います。こっちは秋穂、その子が雪花です」


ダークブラウンのお姉さんが秋穂さんで、小学生の子が雪花ちゃんと。うん?〈せっか〉ちゃんって、何処かで聞いた名前だ。何処だったか?


「それで、探して貰いたいのは、雪花の姉で、これくらいの身長で、髪は茜色のツインテールで」

これくらい、と、桜さんは自分の目線より少し低い所で手を横にする。大体160cmくらいか。

「中学1年生で、名前は祭月と言います」


さつきって…。


「(高音)あいつかぁ…」

「知ってるの!?」


蔵人が、つい口から漏らした言葉に、雪花ちゃんが反応する。

知ってるよ。同じ学校で、同じファランクス部だよ。

なんて言えない。


「(高音)ええ、ちょっとだけ。インパクトある娘だから、1度会うだけでも覚えられるわ」


1度どころか、何度も会っているけどね。身バレするから、そんな事言える訳がない。

蔵人の言葉に、雪花ちゃんは頭を抱える。


「あいつめ。こんな有名人にまで悪名を知られているとは。桜姉さん、秋姉さん、見つけたら今度こそとっちめてやりましょう!」


雪花ちゃんの過激な発言に、姉2人は苦笑いを浮かべる。




蔵人は早速、空からの探索を始めたが、5分もしないうちにホシを発見した。

草むらに這いつくばって、お尻をフリフリしている祭月さんだ。獲物を狙うチーターみたいな格好だな。

それをスカートでやるなよ。

蔵人は高度を落としながら、ため息も一つ落とす。


「(高音)何しているの?」

「どわぁあ!?」


蔵人が空から問いかけると、ビックリ仰天で飛び上がる祭月さん。その拍子に、草むらから飛び立つ蝶が1匹。


「ああっ!どうしてくれる!逃げちゃったじゃないか!新種だったのに。世界的な大発見だったのに。祭月教授の爆誕だったのにぃ!」

「(高音)…どう見てもクロアゲハ蝶だったけど?」


しかもホログラムだ。本物じゃない。

ダンジョンには、雰囲気を醸し出すために虫や鳥のホログラムが流れている。虫の鳴き声や、鳥の囀りも聴こえるのは、全部演出である。それが異能力によるものなのか、はたまた科学の力なのかは分からない。


「なんだと!?そんなハズは…」


蔵人に指摘され、飛んでいく蝶を四つん這いの状態で睨む祭月さん。


「(高音)とにかく、貴女のお姉様と妹さんが貴女を探していたわよ。血眼でね」


蔵人がそう言うと、空を睨んでいた祭月さんは顔を歪ませて、突然立ち上がる。


「不味い、逃げなきゃ」

「(高音)待ちなさい」


いきなりお姉さん達とは反対方向に駆け出したので、蔵人は彼女の両脇を抱えて捕まえ、そのまま空に連行した。


「は、離せ!」

「(高音)いいえ。離しません」


離せば、再度逃亡を計るのは火を見るより明らかだ。

雪花ちゃんがアホ呼ばわりする理由が、嫌でも分かってしまう。

蔵人はそのまま空を飛び、3人のいる場所まで祭月さんを運んだ。

3人は、出会った場からそれ程離れていない所を探していたので、直ぐに見つけられた。

蔵人は、彼女達に声を掛けながら高度を下げていく。


「(高音)見つけたわよ!ついでに連れてきたわ」

「くそっ!離せ!離s…離すな!降ろさないでぇえ!」


さっきまで離せと藻掻いていたのに、今度は離すなと、蔵人の腕に縋り付く祭月さん。

蔵人は問答無用で、3人の真ん中に彼女を降ろす。

蔵人と祭月さんのやり取りを、3人は呆気に取られて見ていたが、祭月さんが地面に不時着すると、ずいずいっと彼女ににじり寄る。


「祭月。貴女って子はまたぁ…」

「祭月ちゃん。心配したよ〜」

「今日こそお前をとっちめてやるからな!」

「ひぃい!助けて!」


祭月さんが蔵人に助けを求めようと手を伸ばしてくるので、蔵人は飛んで、遠くへ逃げる。

後は家族水入らずで、どうぞ。




それから程なくして、蔵人は帰還することにした。

時刻は17時を示そうとしている。今から帰れば、夕食には十分に間に合う。

テレポートする前に、蔵人はリュックから帽子と上着を取り出す。

龍鱗化して外へ出たら、昨日の二の舞だ。かといって男の姿はもっと不味い。なので、これを着て、服の下で胸部装甲を膨らませれば、一般の女性として誤魔化せるだろう。

準備万端でテレポートをする。


洞窟の前には人集りが出来ていたが、蔵人をチラリと見ただけで、素通りさせてくれる。

良かった。もしも龍鱗で現れていたら、問答無用で(はりつけ)にされていただろう。

蔵人は人の隙間を縫って抜け出し、受付の前に立つ。

受付で退出の手続きをして、腕時計を返す。すると、受付の画面が慌ただしく光る。


『新着メッセージです。ご覧になられますか?』


嫌な予感がするのだが、無視することも出来ない。

ここで知り合った誰かが、急用を知らせてくれたのかもしれないから。

そう思って開いたメールに、蔵人は心底後悔した。


『恵比寿 様。この度、ダンジョンダイバーズにおける貴殿のご活躍を拝見させていただき、是非とも弊社設立のプロ異能力チーム、イーグルワンが開催する記念式典にお招きしたく…(略)…日本新聞』

『…(略)是非とも異能力陸上競技連盟の選考会にエントリーしていただきたく、つきましては夏に開催する強化合宿へのご案内を…(略)…日本異能力陸上競技連盟』

『弊社は現在、最新鋭の飛行型異能力装備を開発中であり、そのテストパイロットを広く募っている状況でございます。この度、恵比寿様のご活躍を拝見致しまして、是非とも一度お話を…(略)…河崎重工業』


他にも、鳳凰ビールや大山製薬等の大手企業。各方面の異能力スポーツチーム。何故か化粧品メーカーや愛堂グループ等のアイドル事務所までオファーを掛けてきている。

これが、音張さんが言っていたオファーの話か。しかし、彼女の言い方だと、そうそう来るものでもない風に言っていたが、何故なのだろうか?

そう思って、ランキングが発表されるモニターを遠目で見た蔵人だったが…。


〈RTA40階層地点(U15)〉

1位 恵比寿 18時間55分35秒 NR

2位 妖狐  51時間08分11秒

3位 風早  55時間47分24秒


無事、40階層のRTAも蔵人が一番上に乗っていた。しかも、タイムの横にはNRの文字も見える。

NR。つまりはニューレコード。記録を更新したのだ。

恐らく、こいつが原因だ。

ランキングの記録は1か月間保持され、過ぎれば消去されてしまう。

だが、最高記録だけはずっと残り続けるらしい。その記録が打ち破られるまでは、ずっと。

つまりは…今まで誰も、40階層を20時間以内で攻略できなかったのだ。

それは、蔵人がCランクであることと、盾で空が飛べることが幸い…いや、災いしたから成し得たのだ。

どうであれ、この記録は当分消されない。こいつが残り続ける限り、龍鱗の噂は絶えないだろう。

ある意味デジタルタトゥーだ。情報社会の闇よ。

蔵人は、受付のマイページを閉じて、目も閉じる。


「さらばWTCよ。また逢う日まで」


目を開けた蔵人は静かに、明日からの訓練内容変更を心に決めたのだった。




家に着くと、玄関で柳さんが出迎えてくれた。


「おかえりなさいませ、蔵人様」

「ただいま、戻りました」


疲れた顔の蔵人が部屋に行こうとすると、柳さんが呼び止める。


「蔵人様。蔵人様にお電話が来ておりましたよ」

「あら?私に?」

「えっ…?」


咄嗟に振り返った蔵人は、つい龍鱗時の口癖で答えてしまい、柳さんを硬直させてしまう。

しまった。

蔵人は咳をひとつして、言い直す。


「俺に電話ですか?誰から?」

「え、あ〜、ご学友の望月さんとおっしゃる女性の方からでしたが、お知り合いですか?」


フリーズした柳さんが戻ってきた。蔵人の口調には、特に突っ込まないようだ。

しかし、若葉さんか。何かあったのだろうか。



蔵人は部屋に戻り、早速、柳さんが控えてくれていた電話番号に連絡する。

蔵人の携帯電話からだ。

若葉さんなら、携帯の番号を教えても大丈夫だろう。

数回のコール後、掛かった。


『…もしもし』


凄く硬い声だ。珍しい。

知らない電話番号から掛かって来ているからね。蔵人だったら出ないかもしれない。

例えば、こんな迷惑電話が掛かってきたりするから。


「もしもし。望月さんのお電話でしょうか?実は今回、新宿駅前に新しいマンションが出来まして、是非とも若葉さんにオーナー」

『あ、そういうの結構ですので、失礼します』

「あ、ごめん!うそうそ!切らないで!」


ちょっとふざけたら、取り付く島もなく切られそうになった。

すると、向こう側からクスクスと笑い声が響く。


『分かってるよ。蔵人君でしょ?』

「すみません。正解です」


どうも、声質で分かったらしい。

イタズラは、するものではないな。


『これ、蔵人君の携帯?』

「うん、そうだよ。普段は家に掛ける時にしか使ってなかったけど、友達間でも使おうかと思ってね」


ちなみに、若葉さんも携帯の番号だった。だから、多分彼女の個人携帯だと思う。


『…番号登録しても良い?』

「ああ、もちろん。俺もさせてもらいたい。それで?何かあったの?」

『あ、そうだった。5月6日なんだけど、西風さんの家で宿題を終わらせようって話になったんだ。良かったら蔵人君もって思って声掛けたんだけど、蔵人君は宿題終わった?』

「うん。終わってはいるけれど、誰が来るの?」


折角お誘いだからね。顔ぶれによってはお邪魔させてもらいたい。


『私と西風さん、あと白井さんの3人』

「分かった。それなら参加させて貰おうかな?」


その3人なら何ら問題なし。しかし、折角なら本田さんや林さんも誘えば、いつもの6人になるのだが、集まらなかったのかな?

蔵人が少し疑問に思っていると、それは若葉さんが答えてくれた。


『良かった〜。宿題終わっている人がいると、凄く心強いよ〜』


うん。つまりこの3人は、宿題が終わっていないチームらしい。

蔵人は、西風さんの住所と集合時間を聞いて、若葉さんとの通話を切る。

これでGW最終日の予定は埋まった。それまでは、自主練としよう。

コンコンっ。


「蔵人様。夕ご飯のお時間です」


ベストタイミングで声を掛けてきた柳さん。

恐らく、気を使って待っていてくれたのだろうな。


「はい。今行きます」


蔵人は柳さんの後ろを着いてリビングまで降りる。

そう言えば、さっきの誤解を解かなければ。

蔵人は、今日まであった事も踏まえて、何故おネエ口調だったのかを、柳さんへ必死に弁明するのだった。

折角の訓練場でしたのに。主人公は惜しい事をしましたね。


「気にせず使用すれば良かろう?」


どうなのでしょうね。身バレを恐れたのか。企業へ返信しないことが後ろめたいのか…。


「面倒な奴だ」

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