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49話~すみません先輩保健室に行ってきます!!~

ご覧いただき、ありがとうございます。

評価、ブクマ、良いね、感想を頂いた皆様にも、重ねての御礼申し上げます。

「総合評価とやらが2000を超えたそうだな」

はい。皆様のお陰です。

新入生がファランクス部へ入った次の日。

本日は土曜日である。


この世界では、既に半ドン…土曜日に半日だけ授業をするという風習がなくなっており、完全週休二日制を中学校にも導入していた。


だが、桜城にはそれも、あまり意味が無い制度となっている。何故なら、殆どの部活は土曜日にも練習があり、帰宅部が許されていない桜城学園生達は、殆どが登校するからだ。


蔵人も、何時もより少し遅い朝を迎えながら、しっかりと朝食を取っていた。ちなみに、朝ごはんは豆腐の味噌汁とご飯、鮭の塩焼き、野菜炒めだ。野菜炒めには、蔵人の要望でブロッコリーと鶏胸肉が入っている。

タンパク質だ。タンパク質を大量に摂取して、早く筋肉を付けねば、また力で女の子相手に負けしてしまう。

蔵人は、九条様に力負けしたことをかなり重く受け止めていた。


蔵人が食後に牛乳を煽ると、お腹がギュルルと泣く。いきなり食生活を変えて、胃腸が大量のタンパク質を分解するのに手間取っているのだ。こうなると、オナラが出やすくなるのだが、仕方がない。体が、今の食生活に慣れるのを待つしかなかった。

悪戦苦闘する蔵人の耳元に、テレビの声が届く。


『次のニュースです。ロシアで起きた同時多発テロを受けて、各国からの支援の声が上がり、日本でも、陸軍PS部隊の派遣が検討されています。未だ声明は出されていませんが、国際テロ組織アグリアが関わっているものとみられ、国連の調査チームも現地入りする見込みです』


また、暗いニュースである。

以前柳さんから聞いた通り、この世界では強大なテロ組織が蔓延っており、世界各国でテロが繰り返し行われているらしい。日本に他国の情報が流れるのは珍しい事だが、恐らく、日本の陸軍も支援に動き出したために、こうしてニュースにまでなっているのだと思う。


史実のロシアであったら、他国の軍が国境を渡る事を絶対に許しはしない。それだけ、この世界では国同士の仲が悪くないともいえるし、それだけアグリアに手を焼かされているとも考えられる。

また、日本に軍隊が存在するのも大きな違い。第二次世界大戦の敗戦国条約がないから、日本もドイツも軍を持っても国連常任理事国から攻撃されない。まぁ、当たり前か。常任理事国とかいう狂った制度、そんな枠組みがこの世界にはないのだから。


『次のニュースです。中国の(ワン)国家主席とアメリカのカニンガム大統領の首脳会談で、今年度の国家軍事予算の内、大規模ファランクス部隊の占める割合を大幅に増額する方針を明らかにしました。これを受け、各国でも軍事予算の見直しが始まり、一条内閣でも、大規模異能力戦隊における軍事予算の増額審議が近々見込まれます。記者団に対し、一条幸恵首相は…』


予算の見直しか。

蔵人は制服のシワをチェックしながら、テレビに目線を向ける。

少し若い女性が、カメラのフラッシュの中で、熱弁を奮っていた。このお姉…おばさん?が、今の日本の首相なのだろう。まだ40代前半くらいに見えるが、国会議員としても若いのに、首相か。次に出てきた防衛相の幕僚長もかなり若い。30代半ばくらいの、燃えるような赤い髪をしたお姉さんだ。


しかし、大規模ファランクス部隊の軍備増強か。

蔵人は、今から向かう部活と同じ名前の部隊に国が注目するのに、少し期待した。

これで、もう少し部員が増えないかな、と。



土曜日の練習も、何時もと変わらないメニューだった。だが、割合で言うと、基礎練が少なめで、応用練習が多かった。それも、役割の中だけで行うパート練習だけでなく、役割の垣根を超えた応用練習も行われた。例えば、近距離攻撃役と盾役の模擬戦だ。


「そぉおりゃぁああ!!」


勢いのある掛け声と共に、蔵人の盾にメタリックな拳が襲いかかる。

鈴華の拳だ。

彼女のマグネキネシスは磁場を操る異能力で、近くの金属を集め、それを拳や足に纏わして戦うのを基本戦略にしている。らしい。

今、蔵人と鈴華は一対一で対峙している。


模擬戦と称されているが、実際は近距離攻撃役の訓練であり、盾を相手した際の立ち回りを学ぶというもの。

その為、蔵人達の周りには、訓練を見守る監督役の先輩に加えて、いざという時に蔵人を助ける盾役の先輩が待機しており、心配そうな顔でこちらを見ていた。


「久我!攻撃が単調だよ!相手の盾を見て、防がれていない箇所を探すんだよ!」


監督役の先輩から、指示が飛ぶ。

だが、なかなか攻撃が通らない。金属の拳の重さに、体が付いてきていない。その為、蔵人の盾は易々と、その金属パンチを受け止めてしまう。

次第に鈴華は、繰り出す拳のリズムも遅くなり、やがて止まってしまった。

肩で息をして、蔵人の水晶盾に寄りかかる鈴華。体力も付けないと、前線でこの姿を晒したら、一瞬でベイルアウトされてしまうだろう。


「くっそ。硬ぇよ、この盾」


鈴華が恨めしげに、盾の向こうから蔵人を睨む。

そんな彼女の様子に、蔵人は少し笑いかける。


「その盾が、本番では君を守るんだぞ?」

「今だけは、柔らかく、しろよ」


そんな無茶な。

息も絶え絶えにそう言って、蔵人の盾に体を預け続ける鈴華。

訓練というのを忘れてないかい?


「久我!あんまり蔵人君にくっ付くな!限界なら早く退いて!次、伏見行くよ!」


鈴華とグダグダ話してたら、先輩が目を怖くして指摘してきた。

次に相手するのは伏見さんらしい。金髪を跳ねさせながら、先輩の横でスパーリングをしているのが目に入る。


「リーダーぁあ、疲れたから、この前のすい〜って動く盾、出してくんない?」


先輩に指摘されたのに、まだ盾にへばりつく鈴華が、蔵人に要求してきた。

すい〜って、あの担架代わりの盾ね。


「練習終わったらね。さぁ、先輩に怒られる前に行きなさいな」


まだ練習中なんだから、遊んでいると確実に先輩の雷が落ちる。

蔵人の忠告に、一瞬ブスっとした表情をした鈴華だったが、確かにそうかと思い直したのか、体を起こして盾を人差し指で突く。


「絶対だぞ」


ようやく、鈴華は盾から離れて行った。

早く退かせる為に、変な約束をしてしまったが。


代わりに、蔵人の目の前に進み出たのは伏見さんだ。彼女の周りには、何か半透明の腕のようなものが見える気がする。これがサイコキネシスか?今までもサイコキネシスの異能力者は見てきたが、ここまで力を具現化している子はいなかった。それは、彼女が特別なのか。それとも、Bランク故の事象なのか。


伏見さんは蔵人の前まで来ると、目をすぼめてこちらを見る。


「先輩は自分と組め言うとるから、仕方なしにやったるけど。本当に大丈夫なんか?ウチはBランクで、自分Cやろ?別の先輩に代わってもろた方がええんやないの?」


どうやら、蔵人の身を心配してくれているみたいだ。

確かに、ランクが1つ違うと魔力は10倍以上違うと言われている。熟練度が同レベルなら、勝負どころか練習にもならないだろう。この娘が心配するのも当然と言える。

蔵人は、伏見さんの忠告に礼を言う。


「ありがとうございます、伏見さん。出来るだけやらせて貰いますので、ダメだったら、先輩と交代しますね」


蔵人がそう言うと、少し考える素振りを見せる伏見さん。そして、後ろを振り返り、監督役の先輩が急かす仕草をするのを見て、蔵人に向き直って肩を落とす。


「しゃーないなぁ。先輩見とるし、やるっきゃなさそうや。まっ、徐々にギア上げたるから、無理そうなら早めに言うてな」


ぐるぐると肩を回し、それに連動するように半透明の腕も回しながら、伏見さんが言う。

蔵人が「了解しました」と頷くと、伏見さんの口が少し曲がる。


すると、すぐに攻撃が始まった。

伏見さんが拳を短く振る。とても蔵人の盾には当たらない拳だが、それに連動した半透明の腕が、盾に突撃する。


ゴンッ!


衝撃。

水晶盾が軽く震える。

盾には傷1つ付いていないので、かなり魔力を抑えた一撃だったらしい。

そんな攻撃が何発も着弾し、徐々に威力もスピードも上がって行く。

そんな伏見さんを見てか、監督役の先輩が声を上げる。


「伏見!遊んでんじゃないよ!貴女Bランクでしょ!Cランクの盾も破れないでどうするの!」


その言葉に、


「あぁ!?」


伏見さんのドスの効いた声が、蔵人にだけ届く。

そして、一気にギアを上げる伏見さん。

蔵人の水晶盾が、一撃でひん曲がり、2発目で粉々に砕け散る。

彼女の半透明だった腕は、今や白く濁った色にまでその存在を顕わにしている。

まるで、蔵人の魔銀盾の様だ。Bランク相当の攻撃力になっているのだろう。

彼女は、その腕を出したまま、蔵人に向けて突進してくる。


完全にキレてますわ、この娘。

蔵人が傷つかない様にしていた配慮が、一気に取っ払われた。

蔵人は拳が迫ってくる中、素早く魔銀盾を生成し、それを受け止める。

今度は、一撃ではビクともしない白銀の盾。


「くっ、のやろうぉ!」


歯を食いしばり、高速で白銀の腕を打ち出す伏見さん。

段々と、魔銀盾が軋みだし、変形していく。

そして、とうとうひしゃげて、消滅する。


「うっし!」


勝利のガッツポーズを見せる伏見さん。

だが、悪いね。

蔵人が軽く手を掲げると、彼女の前に全く同じ白銀の盾が現れる。


「はぁあ!?えっ、あっ、ほんだらぁああ」


また始まる、盾への連続攻撃。

ああ、これ、完全に今日の練習の趣旨を違えてしまっているよ。別に、盾を壊して突破する必要ないのに。

蔵人は少し迷ったが、伏見さんに小声でアドバイスする事にした。


「伏見さん、ステップ、ステップして。盾を回避して横から攻撃して」


蔵人のアドバイスは、しかし、


「ぐぁああああ!!」


熱くなり過ぎた伏見さんの耳には入らなかった。

相手がCランクということもあり、負けられない、負けるはずないと焦ってしまっているのだろう。後ろの先輩達からの忠告も、耳に入っていない様子だった。


「伏見!聞きなさい!…もうっ。全く、熱くなっちゃって」


監督役の先輩が呆れた様にそう呟くと、今度は蔵人の方を見た。


「蔵人君!殴られてばかりでいいの?バッシュで応戦して!」


ああ、伏見さんの制御を諦めて、蔵人の訓練に移行されてしまった。

蔵人は、仕方なくその方針に乗ることにする。

余っている魔力で、数枚の水晶盾を生成。その内の1枚を、伏見さんの真横からぶち当てる。


「ぐぁ」


短い悲鳴と共に、伏見さんが数歩よろめく。

何が起きたか分からないといった様子で周りを見て、水晶盾に目線が行くと、そいつに向かって拳を振り上げた。


「おのれかぁあ!」


ああ、ダメだ。全然正気に戻ってない。

蔵人は、水晶盾に殴りかかる伏見さんに、待機させていた別の水晶盾を動かし、別方向からのバッシュを決める。

また吹き飛ばされ、吹き飛ばさながら、当たってきた盾を掴む伏見さん。


「にゃろう!ちょこまかと、鬱陶しい奴や!」


そう言って、迫ってきていた水晶盾をワンパンする伏見さん。

ほぉ。やられた。なら、これならどうだ?

蔵人は次々と待機させていた水晶盾を伏見さんに飛ばし、バッシュをかましていく。

最初こそ、飛来する盾を迎撃していた伏見さんだったが、次第に被弾するようになる。

最後は、サイコキネシスの腕を体中に巻き付けて、ガードして耐え忍ぶだけになってしまった。


うん。やり過ぎた。

蔵人は、彼女に向かわせていた盾を引かせる。

すると、


「もろたで!!」


伏見さんが、蔵人目掛けて飛び込んできた。

咄嗟の出来事。

目の前には、サイコキネシスの腕を振り上げる伏見さん。彼女のその目には、勝利を目前にした輝きと、やっと蔵人を打ち取れる喜びの色が現れている。

その色はまるで、殺気にも似た色。


あっ、ヤバっ。

蔵人は、意識の奥でそう思った。

僅かな殺気でも、それを受けた蔵人の体は、既に動き出してしまっていた。

龍鱗を纏った腕。それが、気付けば最小の動きで振り上げられており、伏見さんが突き進む射線上。そこに、素早く的確に、蔵人の剛腕が振り抜かれていく。

次の瞬間。


肉の感触が、嫌というほど蔵人の腕から脳に伝わる。

ぐしゃりと、嫌な感覚。

彼女の整っていた顔が、顎下から上に跳ね上げられる。

カウンターパンチ。顎への一閃。

ほんの数瞬、宙を舞う彼女。そして、


ドタンッ!と、仰向けになって倒れる伏見さん。


「ああっ!ごめんっ!伏見さん!」


蔵人が慌てて伏見さんを覗き込むも、彼女の目は白目で、口からはヨダレと血を吹いていた。完全に伸びてしまった。

蔵人は顔を上げて、こっちを見ていた先輩達を一瞥する。

先輩達は、体を硬直させて、ジッとこちらを見ているだけだった。

事態に追いついていないな。


「すみません先輩保健室に行ってきます!!」


蔵人は、一息に叫ぶと同時、伏見さんを担架盾に乗せ、先輩の返答が帰ってきていないのに訓練棟を飛び出すのだった。

蔵人の背に、監督役の先輩は戸惑いながら返事をする。


「えっ?あ、うん。ってか、えっと、なんで盾役が勝つの?ってか、シールドバッシュってあんなのだっけ?それに、伏見が乗ってたのって、何?」


そんな先輩の横を、鈴華が慌てた様に走り過ぎる。


「あーっ!ずりぃ!早紀(さき)だけ先にすい〜って奴に乗りやがって!あたしも乗せろぉ!」


勝手に練習を抜けて行く部員に対して、しかし、先輩達は何も言えなかった。


「えっ?ちょっと、何が起きたの?」


混乱する先輩の言葉には、誰も答えてくれなかった。



土曜日の練習は、スタートが午前中からだったから、日が傾く頃には終わっていた。

今は練習後の清掃も終わり、先輩達も全員帰っていた。訓練棟に残っているのは、蔵人と、蔵人の担架盾目当てで残っていた鈴華。それと、鈴華が盾サーフィンしているのを蔵人と一緒に見ている西風さんの3人だ。


「ひゃっほー!最高だぜぇ!」


フィールドを縦横無尽に滑る鈴華は、心底楽しそうに盾を乗りこなす。

乗りこなすと言ったが、実際は、蔵人が操作しているだけである。なのだが、彼女の様子は、まるで自分がアクロバットを決めているかのように錯覚させる。

まぁ、楽しんでくれているなら、どちらでも良いか。


「あっ、蔵人君」


蔵人が鈴華を暖かい目で見守っていると、一緒に並んで座っていた西風さんが、蔵人の袖をツンツンと引っ張り、向こうの方を指さした。

その先にいたのは、伏見さんだ。


彼女は、保健室に連れて行った後、すぐに保健医さんに完治してもらった。だが、意識はすぐに戻らなかったので、そのまま保健室のベットに寝かせ、蔵人は練習に戻った。結局、練習終わりまで帰って来なかったので、今日は帰宅したものと思っていたが、そうではなかったらしい。


伏見さんはトボトボと、蔵人の方まで歩いて来ていたので、蔵人は彼女に駆け寄る。


「伏見さん!さっきはごめん!もう歩いて大丈夫なの?」

「あ、ああ。もう大丈夫や」


そう言うと、彼女は顎を摩る。

蔵人に思いっきり殴られた箇所だ。

あの時は青く変形していたが、今はその名残は全くない。でも、何かしらのダメージ残るかもと心配していたから、彼女の無事な姿をこうしてみることが出来て、蔵人はようやく胸をなでおろすのであった。脳に後遺症など残ったら、どのように償えばいいかと気が気ではなかったから。

そんな風に安堵した矢先。


伏見さんが、倒れた。


ふぁっ!


「ふ、ふしみ」

「御見それしやした!」


声のした方を見下ろすと、蔵人の足元で小さく折りたたまれた、伏見さんの体が見えた。

倒れたのではない。彼女は、土下座していたのだった。


いや、なんで?


「ウチは分かったんですわ!ウチの猛攻をいとも簡単に受けきり、あまつさえ、ウチの絶好の一撃を返り討ちにするその手腕!間違いあらへん。あんさんはウチより強い。圧倒的に!」

「いや、まぁ、たまたま腕が当たっただけだよ。盾が攻撃を受けるのは当たり前のことだし」


蔵人は動揺が隠しきれず、説得力のない弁解を展開する。

だが、伏見さんはガバッと顔を上げて、首を振る。


「そんなんやあらへん!ウチは見たんや!あんさんの洗練された動き。あれは一朝一夕で出来るもんちゃいます!幾重にも訓練を重ねに重ねて勝ち取るもんですわ!まさに努力の結晶。あんさんを最初、Cランクや男やと侮っとったウチが恥ずかしい。今からでも過去に戻って、殴りに行きたいくらいですわ!」


伏見さんがこちらを見る目は、先ほどの殺気が入り混じった視線よりも、強く、そして危険だった。

あっ、これはアカン奴や。

蔵人は苦笑いを浮かべる。


「あ、ありがとう、伏見さん。努力が評価されるのは嬉しいよ。ちょっと…いや、かなり過分な評価を受けているのは恐ろしい所だけど、そんな風に土下座までしなくても、俺は怒っていないから。だから、立ち上がってくれないかな?」

「せやけど、ウチは、ウチはあんさんを舐めてかかってしもうた。昨日も、男がリーダー張るんはおかしい言うてたし…」


なかなか立ち上がろうとしない伏見さん。

蔵人はそんな彼女に、微笑みかける。


「伏見さんは悪くないですよ。相手がCランク男子なら、誰だって実践的な異能力でないと思うのが当然です。それに、伏見さんは舐めてたというより、僕を傷付けない様に配慮してくれていたんですよね?」


今日のスパーリングでも、最初は蔵人を気遣ってくれていたのは良く分かった。先輩に注意されて、頭に血が上ってからは制御出来なかった様だけど。

蔵人の問いかけに、伏見さんは若干顔を赤らめて頷く。


「そりゃ、当たり前の事ですわ。女が男を気にする言うか、守るんは、女の役目やさかい。ウチも、当然のことを…」


女が男を守るのが当然、か。

蔵人は、この世界の常識が相変わらずなことに安心感すら覚え、肩の力を抜く。

そして、彼女の前に手を出す。


「それでも、その思いは君の優しさだ。ありがとう、伏見さん。さぁ、これで仲直りだ」


伏見さんは、差し出された蔵人の手をじっと見て、蔵人の顔を見て、また蔵人の手を見る。

なかなか乗ってこない伏見さんに、蔵人は手をクイクイっと動かして、彼女の反応を急かす。

そうして、漸く蔵人の手を取る伏見さん。蔵人はそのまま、彼女を引っ張って立たせる。


「伏見さん。改めてよろしくね」

「…うっす」


迷いながらも、しっかりと頷いてくれた伏見さん。

蔵人を見上げた彼女の顔は、自然と微笑んでいて、そして、


「よろしゅうお願いします、カシラ!」


……かしら?

それは………なにかしら?

蔵人は、言い知れない恐怖を感じるのだった。

はい!え~…

主人公に、舎弟が出来ました(困惑)


イノセスメモ:

・伏見早紀…Bランクのサイコキネシス。透明な腕のような魔力で相手を殴り、攻撃する。腕は3mまで伸ばすことができ、縮めれば高威力の一撃を放てる。今のところは。

・大規模ファランクス部隊…競技の名前と部隊名が同一←異能力が軍事力に直結するからか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] さすがですね、蔵人氏。瞬時に竜鱗の展開、続けざまの打撃、しかも的確な急所への一撃。この分だと全身展開も以前より遙かに早くスムーズに動かせるようになってるかもしれませんね。 [一言] 誠に残…
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