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48話~あたしが決めた~

ご覧いただき、ありがとうございます。

お陰様で、ブックマーク500件、ポイント1700を超えることが出来ました。

ひとえに、皆様のご寵愛とご助力あっての事です。本当に、ありがとうございます。

いいね、感想も頂き、筆者も心躍る思いでございます。

「感想も、なかなか面白かったの。くはは」

だから、笑うのは失礼ですって!

西風さんが、決意を新たにした日の放課後。

ファランクス部には入部希望者が新たに4名、名乗りを上げていた。勿論、その内の1人は西風さんだ。


「西風桃花(ももか)です。えっと、エアロキネシスで、遠距離攻撃が得意です。走るのは、ちょっと苦手、です」


そうか、西風さんって桃花って言うんだ。

蔵人は、かなり親密になったと思っていた友達に、まだまだ知らない一面がある事に少し反省した。


もう少し、友達の事にも関心を持たないとな。

若葉さんを少しだけ…ほんの少しだけ見習おうと思った蔵人。

そんな蔵人の横で、新入部員達を見ていたサーミン先輩が、小声で蔵人を茶化す。


「やったな、蔵人。可愛い子ばっかりじゃん。これでようやっと、お前もハーレムが作れるぞ」


その暴言に、蔵人は頷く。


「ええ。これでようやく、先輩方に雑用をさせなくて済みそうです」


蔵人がそう言うと、サーミン先輩は、「真面目か!」と、蔵人を小突いてくる。

だがすぐに、真面目な顔に戻る。


「しっかし、今年は新入部員の入りが悪いな。何時もなら、とっくに定員になっている時期なのに、まだ5人かよ」


どうも、今年は1年生の新入部員がなかなか来ないらしい。そもそも、部活見学自体が少ないのだとか。

何時もは、見学の初日は見学席が半分は埋まるのだとか。そう言われて思い返してみれば、蔵人が初日に見学で来た時は、数人くらいしか来ていなかった。


これは偶然ではないだろう。何か原因があるはずだ。明日、若葉さんに聞けば分かるだろうか?

蔵人が思案する中、西風さんが新入生の列に戻り、隣の子が一歩前に出て、口を開く。


「鶴海翠です。アクアキネシスのCランクです」


そこには若葉さんの防波堤こと、鶴海さんがいた。


「水を細かく操作することには自信がありますが、戦闘ではあまりお役に立てません。可能であれば、作戦の立案や監督業務にも携わっていきたいと考えています」


彼女は元々、ファランクス部に入部するつもりだったそうだ。小学生の時に経験があり、大人数での集団戦に魅了されたのだとか。

鶴海さんの発言に、部長は目を輝かせる。


「良いわね。経験者は大歓迎よ。貴女が望むなら、監督役の訓練は私が見てあげる。でも、先ずは選手としての見方も大事だから、フィールドに立たされると思って頂戴」

「はい。分かりました」


そう言って鶴海さんが退くと、次は金髪をポニーテールにした、ちょっと目がキツめの女の子が前に出た。


伏見早紀(ふしみさき)言います。よろしゅうお願いします」


うん?イントネーションが大阪弁っぽいな?


「Bランクのサイコキネシスですが、あんま遠くには攻撃できません。近距離攻撃役でお願いします」


異能力種は無属性なのに金髪ということは、染めているみたいだ。この学校、髪染め大丈夫なのか?

そう思ったのは、どうやら蔵人だけであった。

部長は、鶴海さんの時と同じ熱量で歓迎の言葉を述べる。


「高ランクで入ってくれるのも助かるわ。後々は主戦力として頑張ってもらいたいから、しっかり練習に付いてきてね」

「うっす!お願いします!」


気合の入れ方が若干ヤンキーっぽいが、悪い子ではなさそうだ。

そして、伏見さんと入れ替わりで現れたその娘は、この中で一番目立っていた。

何故って?それは彼女が、


「うわぁ。あの娘、すっごい美人」

「髪きれぇ~…。外人さんかしら?」

「本当に1年生?スタイル良すぎない?」


彼女の外見が、並外れた美人さんだからだ。

鼻筋がスっと通っており、目は二重でキリリと切れている。そして、流れるような美しく長い銀髪が…。


あれ?この下りは何処かでやった気がするぞ?


「あたしの名前は久我鈴華(こがすずか)。Bランクのマグネキネシスだ。ふぁらんくってのは良く知らないんだけど、他の部活よりは面白そうだから、入ることにした。みんなよろしく!」


こがすずか。こが…コウガ…あっ(察し)

蔵人は独り頷く。


その横で、部長が若干顔を硬くして、腕組みをする。


「そう。Bランクね。期待しているわ。期待しているけど、言葉遣いは気にしてね?先輩には先輩への配慮。いい?」

「はーい」


本当に分かっているのか?と疑ってしまう返事である。

部長も顔を歪ませている。

大変ですね、部長。

だが、部長は直ぐに目線を上げて、切り替えるかのように手を叩いて全員の注目を集める。


「自己紹介は以上にして、今日もアップから練習を始めます。基礎練は全員合同。異能力無しでダッシュから入ります。新入部員は…巻島、行ける?」


部長が蔵人に目を留め、聞いてくる。

行ける?と疑問形で聞いているが、多分、新入生の面倒を見てくれるわよね?という念押しだ。


「はい。頑張ります」


蔵人が頷くと、少し満足そうに頷く部長。


「じゃあ、1年は巻島をリーダーに基礎練に付いてきて。奇数だから、筋トレの時だけはいつも通りに神谷と組んで。それ以外の練習は1年の中でやりくりして。巻島、最初だから他の子をよく見てあげてね」


なんと、蔵人をリーダーに指名し、部長は2、3年生の指導に行ってしまった。

蔵人の背に、複数の視線が刺さる。今日入りたての新入部員達だ。中には、かなり好戦的な物も含まれている。


「リーダーって、男じゃんかよ。お前、サポーターだろ?マネージャー志望じゃないのかよ」


ほら、早速ケチを付ける子が出てきた。

しかも、そいつはコウガである。

随分と目つきが威圧的だ。

お前、俺の事忘れているな?

相変わらず、蔵人よりも少し背の高いコウガ…久我さんを見上げて、蔵人は苦笑いを堪える。


「マネージャー志望ではありませんよ。部員として練習への参加も、部長をはじめとした先輩方に承認いただいています」

「あぁん?でもよ、男じゃまともな異能力使えねえだろ?あたしらのリーダーがそれじゃ、おかしくね?」


久我さんがずいッと体を近づけてくる。

やはり、タッパがあると言うのは、迫力があるものだ。

そんな風に考えていた蔵人の前に、小さな影が割り込む。

西風さんだ。


「ちょっと!男子だからって何だって言うのさ。僕らよりも早く入っているんだから、リーダーになるのは当然でしょ?」


必死に擁護してくれているよ、この娘。

蔵人は内心、ほっこりしていた。

しかし、そこにまた、別の娘が割り込んできた。


「そないな事言うたかって、天下の桜城異能力部で、男が頭を張ること事態がおかしいやろ。ウチは、ウチより劣った奴の指示を受ける気はサラサラないで」


相変わらずの大阪弁っぽい口調で、伏見さんが蔵人を見上げてねめ付ける。

よく見ると、彼女の髪の毛の生え際は黒っぽくなっている。地毛はやはり黒なのだろう。だが、彼女の異能力を知らなければ、勝手にゴルドキネシスやエレキネシスと勘違いしそうだ。髪を染める。それは一種の戦略なのかもしれない。


蔵人が、思考をあらぬ方向に彷徨わせている間に、威圧的な2人と西風さんが睨み合いを始めてしまった。

イカンな。流石に、これは止めないと。

蔵人は、西風さんの前に体を滑り込ませる。


「ちょっとお待ちを。部長はあのように言われていましたが、リーダーと言うのは、何も貴女達が考えているような者ではありません」

「ああん?じゃあ、何だって言うのさ」


久我さんが、蔵人に圧をかけてくる。

相変わらず、口が悪いなお前さん。

笑いを堪えるのに必死な蔵人。


「私は、数日間練習に加わっているので、少しばかり練習の流れを把握しています。ですので、皆さんにこれから行う練習を細かく説明する為のリーダーです。まぁ、言わば案内役ですね。皆さんが練習に慣れたら、伏見さんが言われていた通り、実力でちゃんとしたリーダーを決めるのではと、私は思いますよ」


そう言うと、2人からの圧が弱くなる。


「なんだよ、そういう事か。それじゃリーダーじゃないじゃん」

「せやな。それなら分かったわ。しっかりうちらを案内せいよ、兄ちゃん」


そう言って、離れて行く2人。

蔵人は後ろを向いて、庇ってくれた西風さんを労う。


「ありがとう、西風さん」

「良いよ、あれくらい。でも良いの?言われっぱなしで」

「良いよ。別に大した事じゃない」


男が頭を張るのはおかしい。それは、この世界の常識なのだろう。大事な役割や仕事というのは、高ランクや優秀な異能力種の者に与えられ、Eランクの男性は単純労働が関の山だ。男の権利が弱い世界だから、平気でジェンダーな問題が飛び交い、それをおかしいと思わない。

高度経済成長期の日本の、真逆な事が起きているだけだ。


「こんな些細な問題は、時間が解決してくれるさ」


いつの世も、そうであるように。




アップが終わると、すぐにダッシュ練習となる。

今日も先ずはシャトルラン。蔵人は最近、先輩達に付いて行くのも苦にならなくなってきた。相変わらず、順位は真ん中より下の方だが、周回遅れにもならなくなり、随分と付いて行けていた。


のはずだったが、今日は蔵人も随分と遅れていた。その原因が、後ろの2人。


「ぜぇえ…はぁ…ぜぇ…はぁ」

「ひゅ、はぁ、ひゅえ、ふぁ…」


久我さんと伏見さんが、今にも死にそうな顔で、でも、目だけは蔵人を睨みつけて、フラフラ走って付いてくる。

部長から1年生の面倒を見るように言い付けられているので、蔵人は2人を置いて行く訳に行かなかった。

お陰で、既に先輩達からは何ピリオドも周回遅れにされていた。


ちなみに、西風さんと鶴海さんの2人は、既にフィールドの端でお休みしている。西風さんが目を回し、鶴海さんも辛そうな顔をしていたので、水を飲んだら復帰してくれと言ったのだが、これは無理そうだ。今でも、座っているのがやっとという様子なのだから。


むしろ、まだ諦めない後ろの2人を褒めるべきだろう。べきだと思うが、そんな事はしない。男がどうの言ってた2人だから、その男から褒められるなど、絶対に喜びはしないだろうから。


「あと2〜3分で終わりだと思いますので、最後まで頑張って下さい!」


2人に振り向いて、希望を持たせる蔵人。すると、2人の顔に少しだけ活が戻る。

終わりが見えた事で、足も少し前に出るようになった。

いいぞ。もう少しだ。


「ピィイイ!終了!」


福音が鳴る。

それと同時に、そのまま前のめりで倒れる2人。見ると、随分と顔色が悪い。飲み会で飲まされ過ぎた新入社員の様に真っ青だ。

哀れな新人の末路は、おおよそ決まっている。それは…。

うむ。このままは不味いな。


「気持ち悪いですか?」


蔵人の問に、久我さんが涙目で頷く。

蔵人は、フローリングの床にぶちまけるのは不味いと、すぐに盾を出して2人をその上に乗せる。

まるで担架だ。

2人を乗せたまま、廊下に出てトイレへ急ぐ。だが、途中でえづき出した伏見さんを見て、その手前の手洗い場に2人を降ろす。


トイレには間に合わなかったが、これは及第点だろう。

蔵人が内心ホッとしながら、2人の背中を摩っていると、2年生の先輩達が近づいて来た。


「あ〜…慣れるまではそうなるよね〜」

「懐かしいわ。私達もヤバかったよねぇ」

「そうそう。必ず通る道だから、あんまり気にしちゃダメよ〜」


2人を心配して来てくれた様だった。


「あ、でも、巻島君は、最初っから私達に付いて来てたし、粗相もしてないよね」

「そうそう。男の子なのに、凄いよね」

「最近は、私が追いつけなくなっちゃったもんね」


そう言いながら、先輩達が蔵人の手とか、肩とかに手を置いてくる。

そうか。初めから付いて行けるのは、やっぱり凄いことなのか。

蔵人は、幼い頃からやっていた自主練が、ちゃんと生きていたんだなと、少し嬉しくなった。

だが、先輩方。今の話は少し盛りましたね?まだまだ自分は、貴方達の背中を追っている段階ですよ?


「さ、巻島君。練習始まるから行くよ」


先輩が蔵人の手を引くが、まだ回復してない2人を見て、蔵人は躊躇(ためら)う。すると、先輩が大丈夫だと手を振る。


「これくらい、1人でも大丈夫だよ。経験者は語るってね」

「そうそう。むしろ、男の子に介抱されている方が、惨めな気持ちになるから」


そうなのか。まぁ、2人とも今はスッキリしたみたいだし、時期に回復してくれるか。


「それに、巻島君もちゃんと練習しないと、私達に追い越されちゃうよ」


そう言いながら、蔵人を少し強引に練習場まで連れて行く先輩達。

そんなに3人で羽交い締めにしなくても、俺は逃げませんよ?

腕や背中に巻き付く先輩達に、蔵人は無言の弁解を訴えかける。



蔵人達が練習に戻ると、フィールド端には、部長が腕を組んで待っていた。

部長が、キッと彼女達を睨みつけると、腕などに絡みついていた先輩達が、音もなく去って行っていく。


「巻島。貴方、少しは気を付けた方が良いわよ」


部長が、幾分優しくなった目で蔵人を見る。

ああ、そうか。先輩達は、純粋に俺達を心配して来ただけじゃないのか。

蔵人が苦笑いで頷くと、部長はため息を着いた。


「それに、あんまり1年に構いすぎなくていいわ。貴方の練習にならないから、少しは放置しなさい」


どうやら、先輩達に蔵人を呼びに行かせたのは部長らしい。

蔵人が十分に力を発揮出来ていなかったのが、傍目でも分かるほど、2人に注力し過ぎた様だ。


「すみません!了解しました」


蔵人は頭を下げて、練習に戻る。


それからは、1年生に対して過度に接する事無く練習を進めていく。最初にやり方だけ説明して、実際にやるところを見せたら、後は先輩達に付いていく蔵人。

久我さんも伏見さんも、先ほどみたいに無理をすることなく、途中から参加し直したり、また離脱したりを繰り返しながら、無事に基礎練は終わった。


応用練習の際には、1年生はみんなバラバラとなった。西風さんは遠距離、久我さんと伏見さんは近距離なので、それぞれ階が分かれた。鶴海さんも遠距離なのだが、部長と一緒に行動しているみたいだ。

ということで、蔵人はいつも通り、いつもの盾のメンバーで練習を重ねる。少しづつではあるが、蔵人への攻撃の頻度も上がっており、練習の負荷を増やしてくれている。

良いですよ。もっと負荷をかけてくれて、良いんですよ?


練習最後のミニゲームでは、1年生はみんな仲良くフィールド端で見学会だ。久我さんも伏見さんも、西風さんもルールを知らなかったので、蔵人と鶴海さんで解説役を仰せつかった。とは言っても、蔵人はルールブックを片手になのだが。


「それでも凄いわよ、蔵人ちゃん」


鶴海さんが褒めてくれる。

おおよそではあるが、複雑なルールが多いファランクスをよく理解しているわねと、彼女は大きなお目目を見開いていた。


「ファランクスは色んな競技の要素が入り乱れているから、とても複雑なのよ。イメージとしては、ラグビーに異能力戦を加えて、更に陣取りゲームの要素を入れ込んだ感じかしら?各陣地内で出来ることや、それぞれの役割なんかも多種多彩で、大まかにでも把握できるのは凄い事よ」


元々大きな目を、更にぱちくりとして、鶴海さんが感心してくれた。

蔵人は、何時も持ち歩いているルールブックを示して、首を振る。


「部長が貸してくれたルールブックに、色々と書き込みをしてくれていたからですよ。新品の本や、ただゲームを見てただけでは絶対覚えられなかったでしょう」

「それがあったとしても、貴方がしっかりと勉強したからよ。若ちゃんが言っていた通り、頭のいい子なのね」


そう言って、微笑んでくれるのだが、蔵人はそれに苦笑いを返す。


「えっと、若葉さんが言っていたというのは、どのように?」


彼女の事だ、ろくなことを吹き込んでいないだろう。


「そうね。蔵人ちゃんはあの筆記試験を受けて、見事に合格したと言っていたわ。あの算数の難問も簡単に解いて、きっと入試は1位通過だったろうって」


聞いてよかった。後半盛りまくりじゃねえか。

蔵人は必死に誤解を解こうとして、それを鶴海さんは温かい目で見ていた。

きっと、若葉さんが話を盛っているのは分かっていたんだろうな。



練習が終わると、先輩達は帰って行ったが、蔵人は4人を集めて掃除の説明をする。さっき蔵人に声をかけてくれた先輩達も残ってくれたので、全員で8人。普段は4人程で掃除当番を回しているので、少しは早く終わるかもと思っていた。

だが、人に教えながらだと、やっぱり勝手が違う。それに、みんなあまり掃除が得意でないのか、モップの使い方から教えなければならない娘もいた。蔵人と先輩3人、鶴海さんの5人で、他の3人を指導しながら何とか掃除を終えると、時刻は21時に迫ろうとしていた。掃除だけで1時間近くかかってしまった。先が思いやられる。


蔵人が急いで帰ろうとしていると、校門の手前で後ろから呼び止められた。

振り返ると、久我さんが腕組みをしてこちらを睨んでいた。


「どうかした?コウ…久我さん」


コウガと口を滑らせそうになり、慌てて言い直す蔵人。

そんな蔵人に、「うん?」と首を斜めにする久我さん。

そして、


「あっ」


と、気付いたご様子。


「おま、雪合戦の時の奴か!あたしの弾を散々避けまくりやがった」


うん。やはりあれはコウガだったか。人違いなのかもと思い始めていたから、良かった。

蔵人はニヤリと笑う。


「それが雪合戦だ。そっちだって、随分と俺を追い回してくれたじゃないか」


蔵人がそう言うと、目を輝かせる久我さん。

そうすると、あの時のコウガそのものになるな。

だが、直ぐにその顔は萎れて、暗い顔に戻る。


「気付いてたんなら、早く言ってくれよ。そしたら、あたしだってあんな事言わなかったのにさ」


あんな事、とは、蔵人に対して、男がどうのと言った事だろう。

蔵人は首を振る。


「それは済まない。だが、正直なことを言ってくれて、俺は助かったよ。腹の中にずっと埋もれさせたままじゃ、気持ち悪いだろ?お互いにさ」

「それは、そうだけどよ…」


目線を下げ、少し小さくなる久我さん。

だが、直ぐに視線を上げて、蔵人を真っ直ぐに捉えた後、


「今日は悪かった」


そう言って、頭のてっぺんを見せてくる。


「男がどうのとか、リーダーがどうのとか言ったけど、あたしが間違ってたよ。あんたは確かに、あたしらのリーダーだ」


そう言って顔を上げた彼女の頬は、若干赤みが差していた。

多分、普段言いなれない言葉を放ってしまい、戸惑っているのだろうな。

自分の非を認めること自体、とても勇気のいる行為だ。それを頑張って口にしてくれたのだ。

蔵人は大きく頷く。


「ありがとう、久我さん。そう言ってもらえて嬉しいよ。これからはチームメイトになるんだし、言いたい事、おかしいと思ったことは遠慮なく言い合おう」


共に強くなろうと、蔵人は頷く。

すると、久我さんが少し難しそうな顔をする。


「その、こがさんってのはやめようぜ?あたしの事は鈴華って呼んでくれ」

「ああ、そうかい?じゃあ、鈴華、さん、で」

「さんも要らねえよ。鈴華でいい。チームメイトなんだろ?」


うーん…確かに、そうだな。

蔵人は渋々納得し、頷く。


「分かったよ、鈴華。じゃあ、俺も蔵人で良いよ。同学年に兄がいるから、その方が有難い」


そう言うと、鈴華はフンッと鼻で笑った。

なんで?


「いいや。あんたはリーダーだ!」


自信満々に言い放つ鈴華に、蔵人は手を振り首を振る。


「いやいや。リーダーは一時的な役職だから、みんなが練習に慣れたら代わるか廃れると思うよ?」

「それでも、あんたがリーダーだ。あたしが決めた」


決めたって、相変わらず唯我独尊と言うか、マイペースと言うか、独特な娘だな。


「じゃあな、リーダー。明日こそはあんたに追いついて見せるぜ」


そう一方的に挨拶して、鈴華は走って行ってしまった。

うん。これぞコウガ。会った時と変わらないな。

蔵人は、何処か嬉しい気持ちを抱きながら、その気持ちのままにスケボースタイルで帰路へと漕ぎ出した。

※本書の中で発言される方言は、尽くエセです。ご不快に思われる方、申し訳ございません。


「仕方がなかろう。報告書は全て、標準語で書かれておるのだ」


…言い訳になりますが、方言の方は筆者が想像で書かせて頂いております。

重ねて、お詫び申し上げます。


イノセスメモ:

久我鈴華…Bランク、マグネキネシス。金属(磁性体)を体に引き付け、離す能力。効果範囲は5m。磁力は5t。フランクな喋り方をしているが、以前会った時は確かお嬢様だった気がするのだが…?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 男が頭を貼るのはおかしい。それは、この世界の常識なのだろう。大事な役割や仕事というのは、高ランクや優秀な異能力種の者に与えられ、Eランクの男性は単純労働が関の山だ。男の権利が弱い世界だ…
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