47話~良い、兄弟愛ですね~
ご覧いただき、ありがとうございます。
誤字脱字報告も、ありがとうございました。助かりました。
「投稿して直ぐに報告してくれたな。優秀な編集さんだ」
本当に、過去話も最新話も修正していただき、感謝しかありません。編集の方が出来たみたいで心強いですよ。
「…ちょっと待て。元々、編集兼監督として我が居るのを忘れていないか?」
(貴方は文句しか言わないでしょ…)
〈スクープ!期待の新人現る?~副会長が推す選手は、なんと男の子!?~〉
結局、若葉さんが作った壁新聞は、恋愛方面ではないタイトルに落ち着いた。記事内容も事実のみを記載しているし、蔵人の名前は伏せてくれていた。とても素晴らしく、有難い文章だと蔵人は胸を撫で下ろした。
何故、有難いのかと言うと、その記事のお陰で、少なくとも安綱ファンクラブらしき女子生徒からの視線が緩くなったからだ。この記事が出るまでは、本気で殺されるかもと思う程、殺気や視線を感じる時があった。勿論、本当の襲撃は無かったけど。
お陰で、蔵人はファランクス部の練習に精を出せている。
練習では、相変わらず筋力は育っていないので、筋トレの時間は随分と出遅れてしまう。だが、その他の時間は大分マシになった。基礎練の流れを把握した事と、慣れた事で、ダッシュ練で先輩方に着いていくことは出来る様になったからだ。
とは言え、それは周回遅れにされなくなったというだけで、順位で言うと、まだ後ろの方なのだけれど。
応用練習の方は、日々練習内容が変わるのでとても楽しい。盾役の練習だけでも、ステップを意識した練習、盾役を密集配備して盾を同時展開する練習、咄嗟に盾を出す練習、シールドバッシュの練習など、名前を上げるだけでも多種多様だった。これに、他の役と連携する練習もあったので、今日はどんな応用練習になるかと楽しみだ。
練習の最後にあるミニゲームだが、これはまだ参加させてもらえない。その間、蔵人はひたすら試合を見ながら、ルールブックや過去の試合記録を読み漁る。
ミニゲームも、ただ競うのでは無く、様々なシチュエーション、例えば、役の配置バランスが極端な状況だったり、一方の点数が大幅に少なかったり、ポジションチェンジを頻繁に行うなど、状況を変化させて試合を行っていた。
それらは、過去にあった試合を模倣する為に、わざと変えているのだと部長は教えてくれた。部長は、よく蔵人の隣でミニゲームの状況を解説してくれるのだ。例えば、この盾役ばかりを偏らせた戦法は、冨道学園が得意とする戦法で、ポジションチェンジを頻繁に行う戦法は、伊勢の岩戸中という所がよく使うのだとか。伊勢と言う事は、三重県か。
「こういう場合、どうしたら良いと思う?」
部長がフィールドを指さして、蔵人に聞いてくる。
部長は時折、こうして蔵人に問題を出してきて、蔵人の理解度を深めようとしてくれる。
今は前衛の一部が突破され、そこから相手の近距離役が2人、自軍内に侵入してきたところだった。近くにいる味方は盾役が2人と遠距離1人。前線から距離が出来てしまったので、前線からの援軍は望めない。
そうですねぇ…。
「盾役が接近戦で時間を稼ぎながら、残りの遠距離役と円柱役からも援軍を出すのが良いのかと。その間に、味方前線は敵前線を極力疲弊させ、十分有利となってから、数人を敵領域に発射し、タッチを狙う…というのはどうでしょう?」
蔵人の意見に、うんうんと頷いた後、部長は再度指を立てる。
「でも、盾役と遠距離だけじゃ、侵入してきた相手は倒せないかもしれないわよ?それに、もしも盾役の間を抜けられたら、下手するとファーストタッチを奪われるかもしれないわ」
部長が鋭く指摘してくる。だが、その声色に反して、彼女の表情は笑っている。これは、蔵人を試しているのだろう。
「侵入に対しては、あくまで時間稼ぎです。盾の横から遠距離攻撃をされたら、そうそう抜けないでしょう。抜けたところを狙い撃ちにされて、ベイルアウトは嫌だと思います。そうして、ある程度時間を稼がれたら、相手も引くかと。試合の序盤でイエローを貰ったら、その後の試合で動き辛くなるでしょうから」
蔵人が考えながら部長の問いに意見を返すと、彼女は満足そうに頷く。
「まぁ、及第点ね。後は、自分が思った通りの展開にならなかった時、そう、最悪のシナリオの時にどうするかも考えないといけないわよ。例えば、前線が不利になった時とか、更に侵入された時とかね。今のプレイヤーだけじゃなくて、控えの選手との交代も視野に入れないと、監督は出来ないわ」
この人、俺を監督にでもする気なのか?
蔵人は少し心配になり、同時に、今更な疑問が湧いてきた。
「そう言えば、監督…顧問の先生はどうしているのでしょう?」
練習も今日が4日目。流石に1度も顧問と会わないのはおかしかった。
顧問がいない部活など無い。部活の種類が多いので、部活を2つ以上兼任している先生もいるだろうが、ここはファランクス部。部活の花形である異能力部の一角だ。兼任でも、こうも顔を出さないのは何かある。
そう思って聞くと、答えは簡単だった。
「顧問の先生は身重でね。今でこそ学校には来ているけど、そろそろ産休って時期だから、とても部活まで顔を出せないの」
成程ね。
ちなみに、この学校の先生は9割が女性だ。男性もいるが、教師では無く保健医だ。おじいちゃん教師も1人いるが、クラスは受け持っていない。確か、茶道部だっけか。
「産休の間は、臨時で入る先生がそのまま顧問代理になるって話もあるんだけど、仮に来たとしても、監督が出来るかは期待しない方が良いわ」
だから部長は、蔵人にも監督が出来るくらいの能力を求めている訳か。選手だけでなくサポートの人間においても、十分に戦術を理解していなければ咄嗟に動けないだろうから。
「勿論、顧問代理となる先生が来てくれたのなら、私がみっちり教え込むけど」
そう言って笑う部長は、とてもこわ…頼もしかった。
「ねぇ、みんなはもう入る部活決めた?」
次の日の昼休み。
弁当を各々広げた所で、おもむろに西風さんが切り出した。
その話題に、一番に手をあげるのは、キラキラお目目は知的欲求の証。ジャーナリストの鏡こと若葉さんだ。
「はい!勿論決めたよ!私は」
「新聞部でしょ?クラス中どころか、下手したら学年中知ってるわ」
その若葉さんを問答無用で斬る、本田さん。
「くぅ〜…最後まで言わせてよ〜」
轟沈する若葉さん。
大丈夫だ。君の意思は俺が継ごう。
次は蔵人が手を上げる。
「俺はファ」
「ファランクス部でしょ?何処かの記者さんのお陰で、学年中どころか、下手したら学校中が知ってるわよ」
またもや速攻で迎撃した本田さん。
「恐ろしく速い突っ込みだ…」
蔵人も、机に突っ伏す。
済まねぇ、若葉さん。あんたの意思は継げなかったぜ…。
蔵人が目線を若葉さんに送ると、彼女はよくやったと言いたげに、親指を立てた。
蔵人も立てる。
「何やってるのよ、蔵人君まで」
本田さんが、呆れた様に首を振る。
休み時間の間、頻繁に雑談している内に班の中は随分とフランクに、フレンドリーになっていた。
「蔵人君達の事は良いよ。他の人は?本田さんはどうするの?」
蔵人と若葉さんが冗談をかまし合っているのを傍目に、西風さんは話を進める。
放置かよ。悲しいな。
「私は、テニス部かバレー部が良いかなって迷ってるところ。ボールの軌道だけなら、サイコキネシスで変えても良いルールだし」
本田さんがそう言って、悩ましそうに首を傾ける。
部活紹介の時にもチラッと聞いた話だが、この世界の球技は異能力を使っても良いルールとなっている。
ただし、使い方はかなり厳しい。例えば、サイコキネシスはボールの軌道だけで、相手の妨害や、ましてや相手を傷つける様な使い方はルール違反となる。他にも、ブーストはサッカーでは足にブースト禁止や、バレーは腕と手のひらにブースト禁止等と、異能力種事に細かく規定されている。種類豊富な異能力が上手く噛み合うように、球技もその他のスポーツも、ルールの改定を常に行っているのだった。
「そっかぁ〜球技も良いなぁ」
西風さんが羨ましそうに本田さんを見上げていると、今度は白井さんが手を上げる。
「スケート部、入る」
「おお、そんな部活もあるのか」
流石、ブルジョワ校。
蔵人が驚きを隠さずに表すと、白井さんは何故かドヤ顔で頷く。
「もう入れない。定員いっぱい」
「えっ、そんなに人気な部活なの!?」
更に蔵人が驚くと、若葉さんが補足を付け足してくれる。
「元々大きな部活じゃなかったんだけど、今年は巻島頼人君が入ったから、入部者が殺到したんだよ。定員決めてなかったから、先輩11人に対して、応募が400人を超えたんだよね」
よ、400って、新入生の数を超えている。明らかに先輩達も入部しようとしているじゃないか。
蔵人は閉口する。
若葉さんの話では、結局、先に入部を検討していた4人と、頼人を合わせた5人だけがスケート部に入部となったらしい。
ちなみに、白井さんはクリオキネシスで、入部出来た他の3人もアクアキネシスなのだとか。異能力種によって、どうしても得意なスポーツというのは出てくるみたいで、水泳やウィンタースポーツ等は、アクア系の異能力が有利に働きやすいのだそうだ。
「しかし、頼人の奴はそっちに行っちまったのか」
一緒に居た頃は、ずっと蔵人を追いかけていた頼人。だが、いつの間にやら異能力からも距離を置き出し、極力目立たないように動いている。それは、女子生徒から猛烈なアタックを掛けられるからなのだろう。普段の学校生活では、そんな様子は見られなかったが、こうして頼人が部活に入るだけで異常現象が起こるのだから、仕方がない。
蔵人がしみじみと言うと、心配そうに本田さんが声をかけてきた。
「やっぱり、寂しい?」
その優しい声に、蔵人は素直に頷く。
「そうだね。出来たらまた、兄弟で力を合わせて戦いたかった」
ファランクスは異能力戦で唯一、ランクの垣根を越えて共闘できる競技だ。またあの時の様に肩を並べて戦いたい。柏レアル大会の時とは違い、今はユニゾンもある。それが何処まで通用するか、一緒に登ってみたかった。
でも、
「でも、あいつはあいつで大変みたいだから、頼人が選んだ部活なら、俺は大賛成だよ」
蔵人が思う形は、頼人にとっては苦痛も伴うだろう。余計に有名になり、学校内だけでなく外からも注目されるかもしれない。引っ込み思案の彼に、そんな事を強いる訳には行かない。
「良い、兄弟愛ですね」
ボソリと呟いたのは、林さん。
おや。あの震えていた林さんが、初めて話しかけてくれたぞ!
「林さんは、兄妹はいるの?」
折角なので、もっと喋ってもらおうと、蔵人が林さんに水を向ける。
そうすると、林さんは少し慌てた風に目をぱちくりとさせる。
「えっ、あっ、い、今は、いません」
「えっ」
蔵人は、言葉が詰まった。
今は、いない。それって、
将来的にできるという事?それとも…、
もう、いないって、こと…。
「あ…えーっと」
蔵人は、なんと言ったらいいか、すぐに思い浮かばなかった。
将来できるの方なら、目出度い事だ。でも、その場合、結構年の離れた姉弟だ。可能性はあるが、それよりも、もういないっていう確率の方が高いのではないか?
これはやぶ蛇だ。踏み込むな。
そう思っていると、林さんは自分の言葉のおかしさに気付いた様で、両手をブンブン振って空気を入れ替えた。
「あ、ちが、そう言う意味じゃなくて。私、元々一人っ子だし、お母さん、妊娠してないので」
なんだ。どっちも違うのか。
蔵人は安堵して、汗をぬぐう。またもや地雷原の中に突っ込んだのかと思って、冷や汗をかいた。
だが、冷静に考えるとやはりおかしい。
蔵人がそう思った時、隣から声があがる。
「ええっと、じゃあ、今はいないってどういう意味かな?聞いても大丈夫な事?」
若葉さんが、無垢な瞳で彼女の内面を映し出そうとする。
さすがジャーナリスト志望。矛盾を見つけて、すぐに切り込む。
だが、蔵人はそれを阻む。
「言い間違えかな?林さん」
蔵人の言葉に、安堵する林さん。
「そう!言い間違え、言い間違えなの。ごめんなさい」
そう言って頭を下げる彼女に、蔵人は優しく声をかける。
「いやいや。俺こそいきなり話を振ってしまってごめんね?急な事だったから、慌てさせてしまったね」
蔵人の解釈に、若葉さんも「なんだぁ。言い間違えかぁ」とジャーナリストモードを解く。
「林さんは、もう部活決めたの?」
兄妹の話はまた後で聞くとして、蔵人は本来の話題に戻す。西風さんの話題を奪ってしまったから、その軌道修正という意味もあるし、折角林さんが話してくれたのに、変な切り方をしてしまうと、なかなか次に入って来にくくなるかなと思ったからだ。
蔵人の思惑通り、林さんは少し青かった顔に血の気が戻り、ぎこちなくも笑顔で答える。
「えっと、まだ、決めかねていて…吹奏楽部とか、手芸部とか見に行ったんだけど」
その林さんの発言に、本田さんが少しキツめの声を上げる。
「へぇ、意外。そういうのって、異能力が使えないから、男子部員が多いんだよね。まさかとは思うけど、男子狙いじゃないよね?」
男子狙い。男子が多い部活に入って、少しでも男子とお近付きになりたい腹積もりじゃないよね?という意味らしい。そういう人も少なくないらしく、あからさまに出会いを求める女子生徒は、そういう部活から出禁を食らうのだとか。本田さんは、そういう事もあるから、林さんを心配したようだった。
「ち、違うよ!むしろ、男子が多かったから、その、みんなにそう思われたらどうしようって、ずっと悩んでて」
心を見透かされて咄嗟に嘘をついた…という訳では無さそうだ。眉を下げて、視線を下げ気味に、どうしたらいいか途方に暮れた顔をしている。
林さんは本当にその部活に入りたいみたいだ。男子が居るから入るのではなく、寧ろ男子が居るから悩んでいる。それは、彼女が男子を苦手にしているのもあるだろうが、周りから男子狙いだろうと思われるのが嫌だという思いも強いみたいだ。
そんな林さんに、答えを出したのは若葉さんだった。
「別に、いいんじゃないかな?」
軽い調子の声は、簡単な問題を解くかの様に、軽やかにみんなの耳に入る。
「自分がやりたい方に行くのに、男子がいるいないは関係ないと思うよ。私だって、新聞部は男子も多いけど、そんな風に悩まないし、むしろ凄い異能力を持っている人ばかりで、頼り甲斐があるとも思うし、負けられないとも思ってる」
力強い若葉さんの言葉に、俯き気味だった林さんが顔を上げる。
「そう、かな?私が吹奏楽部に入っても、変じゃ、ないかな?」
「うん。変じゃない。なんの楽器をするつもりなの?」
「えっと、トランペットが良いなって。…前に、吹いていた事があったから」
「良いね。合唱コンクールに出るなら教えてよ。取材するから!」
そう言って、若葉さんは笑い、林さんも少し笑顔になる。
蔵人も、便乗して頷く。
「是非、ファランクス部の試合でも演奏して貰いたいよ。俺、演奏付きで応援なんてされた事ないから」
白虎会の応援?あれはノーカウントだ。彼らも和太鼓で応援してくれていたけれど、そういう事じゃない。
「う〜…まだ入ってないのに、話だけがどんどん先を行く〜」
林さんが頭を抑えるが、声は楽しそうだ。
そんな林さんを見ていた西風さんが、唸る。
「くぅ〜。また1人決まってしまったぁ〜。っていうか、部活決まってないの僕だけじゃん!どうしよ〜。どうしよぉお…」
そんな彼女の様子に、蔵人が首を傾げる。
「まだ、そんな慌てる時間ではないんじゃない?部活見学は来週まであるし、GW明けまでに決めれば良いんでしょ?」
蔵人の疑問に、西風さんはとんでもないと手を振る。
「大概の部活はそれでも良いけど、僕は異能力部に入りたいと思ってるんだ。それで昨日チーム部行ったけど、もういっぱいだって見学もさせて貰えなかったもん」
それは気の毒に。
蔵人は、蔵人自身も門前払いをくらった経験から、やはり異能力部は敷居が高いなと、改めて思った。
ファランクス部を除いて。
「じゃあ、ファランクス部は?見学だけでも来たら?」
ファランクス部はまだまだ枠が空いている。いや、余っている。未だに蔵人以外に入部希望を出してくる新人がいないのだ。見学者はそれなりに来てはいるのだが、この時期にしては珍しいと、部長も難しい顔をしていた。
なので、西風さんには是非とも見学に来てもらい、そのままなし崩し的に入部まで誘い込みたいと思っていた。
しかし、蔵人がそう言うと、西風さんはキリッとした顔で蔵人を見た。
「行ったよ、ファランクス部。でも蔵人君いなかったじゃん。僕、見学席を端から端まで探したんだよ!」
西風さんは、キリッとしたんじゃなくて、怒っていたらしい。一生懸命可愛い顔を険しくしていたけど、覇気が全くないから分からなかった。でも、そんな事言ったら余計にへそを曲げてしまうから、蔵人は素直に謝罪する。
「そいつは済まない。言ってなかったが、俺は既に入部していて、練習にも参加させて貰っているから、見学席にはいないんだよ」
そう言うと、ガバッと起き上がる西風さん。
「ええっ!もう練習してるの!?もしかして、あの地獄ダッシュもしてたの!?」
地獄ダッシュ?どれの事だ?
シャトルラン、ステップ走、インターバル走、階段ダッシュ等、基礎練だけでも走る系の練習が多いので、蔵人にはどの事を言っているか判断出来なかった。
「まぁ、一通りの練習は参加させて貰えてるよ。最後のミニゲームだけは、まだ出させて貰えていないけど」
「ううぅ…僕も、やっぱファランクス部に。でも、あのダッシュはなぁ。僕、着いて行けなさそう…」
尚も悩み続ける西風さん。
ダッシュなんて、殆どの部活でやる事だろうに、なんでそんなに悩むのか。
蔵人がそう疑問を投げかけると、やはり若葉さんが解説してくれた。
「走る練習の量は、部活によっても大きく変わるよ。ファランクス部はトップクラス。バスケ部よりも多いって新聞部の極秘データにあったよ。ちなみに、体育系部活で1番少ないのは卓球部。でも、反復横跳びは1番多いよ」
「新聞部って、何でも知っているのね…」
本田さんが、少し引き気味で呟く。
それを、嬉しそうに受け取る若葉さん。
「優秀な異能力の先輩が多いからね。透視、遠視、超聴覚に透明化。どんな情報もキャッチするよ!」
「それって、かなりアウトなんじゃない!?」
本田さんが叫ぶ。
それに、若葉さんが膨れっ面で反論する。
「失敬な。ちゃんと学校に許可を取ってるし、報道ルールに則って異能力も使っているから、犯罪じゃないよ」
報道ルールね。少なくとも、なんで美原先輩との試合写真を撮れたのか、少し分かってしまった蔵人だった。
そんな中、西風さんの力強い声が上がる。
「うん。決めた」
見ると、さっきまで悩んでいたのが嘘のように、晴れ晴れとした顔の西風さん。
「悩みは、解決した様だね」
蔵人の問に、西風さんは少し凛々しく笑った。
「僕、もう1回ファランクス部に行くよ!」
ファランクスは格闘技というよりも、サッカーやラグビーの様なゲーム性の高い競技なのですね。
その戦場の状況を把握しないで突っ込むと、痛い目を見そうです。
そして、異常現象を引き起こしてしまう程の影響力を持つ頼人君。動き辛そうですね。
可哀そうに…。