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1話〜私の天使ちゃん〜

黒戸が怨嗟の産声をしこたま上げてから、早くも半年が経とうとしていた。

現在、黒戸は赤ん坊の体で、テレビの前に座り込んで腕組みをしていた。

その顔は、赤ん坊のものだとしたら、大層機嫌が悪いと思われただろう。

眉間にシワを寄せて、何かを我慢しているかのような表情。


だが実際は、ただここまでの経緯を思い返していただけだった。

早速、この半年で得た情報の整理を始めていく。


天界からの依頼で異世界転生を施された黒戸、もとい、巻島 蔵人(まきしま くらと)は、元気な二卵性双生児の男の子としてこの世に生まれ落ちた。

母は巻島 真紀子(まきこ)。なんか偉い研究者?みたいで、家も二階建ての一軒家。それも少し大きいし、家政婦さんみたいな方々を雇っている。

父親の影は見ない。出張・単身赴任中にしては、話題にも出ないので、何かきな臭いと蔵人は訝しんでいる。


大天使様が言われていた通り、この世界は超能力のような力、異能力が使える現代世界であった。

強弱はあるが誰しも何かしらの異能力…例えば何もないところから火を吹いたり、触れていない物を動かしたり…そんな超能力とか魔法とか呼ばれる、ファンタジーな世界で目にしてきた現象が、車やパソコン等が一般家庭にも普及している中で共存する、ちょっと変わった世界のようだった。

大天使様が言われていた通り、西暦2000年頃の様子。


天界からの依頼は、神様が突如導入した、この異能力の余波である”バグ”。世界の在り方を脅かすこのバグの消滅だ。

この世界には、異能力という歪な異物を埋め込んでしまった為、それの余波として本来では有り得ない事象が起きているとの事。

天界でも、何が起きているかまでは分かっていないらしいのだが、今までの黒戸の経験から推測すれば、超常現象か異世界から紛れ込んだ怪物でも暴れる可能性があるのだろう。もしかしたら、既にその兆候が表れているかもしれない。


蔵人の役割は、そのバグの正体解明と初期対応だ。可能なら、消し去りたいけど、1人じゃ無理な可能性もある。”仲間”が来てくれていたら良いのだが…。


「蔵人坊っちゃま、あまりテレビを近くで見てはいけませんよ」


初老の男性が、エプロンを着けたまま蔵人を抱き上げる。

まだまだ働き盛りの男性が、何故、平日の真昼間から平気な顔でエプロンを装着しているかは、後程整理するとして、思考を蔵人の家族に戻す。


この巻島家というのは、かなり裕福な家であり、強力な異能力を有する人間を幾人も輩出してきた。蔵人の家族は、その分家の分家ながら、母はBランクの魔力を持っており、本家でも無視できない地位にあるようだ。それが本当の理由かは疑わしいが、お陰で、今俺を抱える田上お爺さんの様な使用人も幾人か雇っている。


いきなりランクの話が出たが、この異能力の評価は魔力量、つまりどれだけ出力できるかと、その異能力の種類、どれだけ有能な能力かで大まかに決められる。

魔力量の評価はEからSの6段階。EからCは人口が多いので-(マイナス)、なし、+(プラス)の3段階に分けられる。つまり、E-とかC+とかが存在する。特にこの魔力量は大事で、多ければ多い程、世間の評価が上がる。BランクやAランクならお貴族様の様な特権階級扱いになるし、逆にEランクは貧相な人生を送る。それだけ、この世界では異能力を大事にしている。


また、ここが他の世界とは大きく異なる事なのだが、男女でこの異能力の差が生まれている。

女性は、男性よりも魔力量が多くなりやすいのだ。それも、圧倒的に。

具体的に言うと、男性の場合。


Eランク…75%。

Dランク…20%。

Cランク…5%弱。

Bランク…1%弱。

Aランク…0.1%弱。つまりは1000人に1人もいない超希少な存在。


逆に女性は、


Eランク…ほぼ0%。

Dランク…60%。

Cランク…35%。

Bランク…4%弱。

Aランク…1%弱。


このように、女性の方が圧倒的に魔力量が多く、その分強い。

例えばEランクの男性とDランクの女性なら、余程身体性能に差がない限り、Dランク女性が勝つ。Cランクの女性ならEランク男性が束になっても勝てない。というより、確実に男性側が命を落とす。


その影響か、この世界では女性中心の世界となっており、男性の就職はバイト等を除くと、工場等での下働きが殆どで、才能とコネがあれば使用人等の家を守る仕事に着け、特殊な異能力があれば医療関係の裏方として働く事が出来るらしい。

田上お爺さんが、エプロンを着ていても当然な顔をしているのはこの為。


今でこそ、男女平等を女性側が謳い出し、サービス業等にも男性が進出しているが、異能力ランクの低いEランクの男性は、パートや日雇いの様な底辺の仕事に就くのが殆ど。多少ランクが高いDランク男性でも、D・Cランク女性との結婚が殆どで、結婚すれば家に入るのが当たり前となっている。田上のお爺さんも、自分の家の子育てが終わったから、この家政婦業を任されているのであった。


逆に、高い異能力を持ったCランク以上の男性は、女性と肩を並べて働いていると聞いた。だがそういう男性は、優秀な遺伝子を持つとされて特別な地域で守られているらしい。


ちなみに、Sランクだけで見ると、この国には男性は5人、女性は4人いるらしい。

このランクだけは男性の方が多い傾向にある。それ故か、完全な女尊男卑とまではいかず、有能な男性は有能な女性以上に持て囃されている。

男性の立場は能力により二極化していると言っていい。

Eランクの男性は虐げられ、Cランク以上の男性はチヤホヤされる。何とも歪な世界だ。


正し、Sランクの人間については殆ど情報が無い。人数の話以外は、既に他界している方や、極一部の人物の名前位は本に載っている程度で、他のSランクは異能力は勿論、名前すら載っていなかった。人数だって、噂話程度だ。


蔵人が考え込んでいる間に、田上の爺さんが動きを止める。

今、蔵人の目の前には大きなベッドが待ち構えていた。


「さぁ、ベッドに着きましたよ。頼人(らいと)様と仲良くして下さいね」


ベッドには、一人の幼子が寝ていた。

彼の名前は巻島頼人。蔵人の双子の兄で、未来有望な我が家の星である。

何故、星なのか。それは、彼の魔力量がAランクであるからだ。0.1%の超レアの男の子である。


巻島家の中でもAランクは本家に2人しかおらず、どちらも女性との話だ。Aランクの男子なぞ、一族の歴史を紐解いても出たためしがないらしい。

だから、母はとても喜び、事ある事に頼人を甘やかしている。ある意味依存しているとも言えよう。

まぁ、今は赤子なので、溺愛されるのも仕方ないだろうが、普段の様子を見る限り、あれは成人しても依存されそうで怖い。

蔵人は頼人の寝顔を見て、再び眉を寄せる。


その点、蔵人は安心であった。母は必要以上に接しず、むしろ世話は使用人に任せている面が多い。

例えば、音楽を聞いたり、外出する時は何時も頼人を抱いていて、蔵人は使用人の誰かが乳母車で運んでいる。英才教育という事で、頼人のみ何処かに連行されていき、異能力の練習をしていると使用人達が話しているのを聞いたことがある。


つまり、蔵人は放置されていた。別に食事を与えられていない等のネグレクトではない。ただ単に愛情を注いでいないだけであった。

それは、通常の赤子ならゆゆしき事態で、将来必ず悪影響が出てしまう惨事だろう。だが、蔵人はこの状況を喜んでいた。それは、誰に気兼ねなく自主トレが出来るからであった。


ただ、満足しているというのは、家での境遇だけであり、この体については別であった。

蔵人が産まれた当初、ベッドの上で叫んでいたのもこれが原因。なにせ、蔵人のランクは…。


E-(マイナス)


魔力数値で言うと、最低の魔力量。

この世界での、最弱の体とされるランク。


確かに、規格外の体は止めてくださいと願い出はしたが、まさか最弱の身体にされるとは思わなかった蔵人は、一瞬大天使様を恨んだ。

だが、直ぐに眉間のシワを解き、ため息一つで気持ちを切り替えた。


恨んでも、仕方がない。

運命を呪った所で、天界が答えてくれるのは極々稀だ。そんな事に時間を費やすくらいなら、少しでも良くなる方向に努力するべきだ。カードが配られた後は、そのカードをどう使うかを考えねばなるまい。


そう思って蔵人は、早速訓練に入った。

この半年は、首も座らずなかなか動けなかったが、今は寝返りも打てるし、足腰はフラフラするが掴まり立ちも出来るようになった。

寝ている間も、自身の魔力を感じる様に務めたので、何となく異能力を発動出来るくらいまで成長していた。


様々な世界を旅した黒戸は、魔力がある世界にも幾度か立ち寄り、そこで修行を付けて貰う機会もあったのだ。

なので、魔力が全く無い状態から魔力を引き出すのも、今回が初めてではなかった。

その為、今回も自分の中に何かある事は、寝返りも打てない暇な時間を使って発見することが出来た。


これが魔力だろうな。

手に集まる暖かい物を感じた時、蔵人はそう思った。そして、その温かい物が体中を巡っているのを感じ、更に手に集中させてやると、手のひらから膜のような物が生まれた。

異能力を行使できるようになったのだ。


それが出来るようになったのが、生まれてから4か月が過ぎた辺り。

ここ最近では、その膜を何重にも重ねて、足場に出来る透明な板にすることも出来るようにもなっていた。

そして今日は、この板を階段状に並べて、その上を登ってベッドから脱出することに成功したのだった。

だが、ものの数分で、テレビの前を通過した田上の爺さんに発見されてしまい、こうして捕まってしまったと言うのが経緯。

とても残念ではあるが、実に有意義な経験をさせて貰った。

次は頑張るぞと、蔵人が鼻息を荒くしていると、


「あ〜、あ〜」


頼人が起きた。

しきりに蔵人へ手を伸ばして、お帰りと言っている様だ。

目は潤んでおり、赤くなっている。蔵人がいない事で、かなり泣き腫らしたらしい。母か蔵人が近くにいないと、頼人は制御不能となってしまうのだ。


「ごめんね〜。しゃみちかっちゃね〜」


蔵人は、たどたどしく頼人に話しかける。

言葉の練習をしているが、まだまともに喋れなかった。特に『さ行』と『た行』が難しい。口が意識に追いついて来ないので、どうしても発音がおかしくなるのだ。

もう少ししたら、ゆっくりでもしっかりと喋れそうなのだが…。


そんな風に頼人と戯れていると、急に玄関の方が騒がしくなる。

どうも、母親が帰宅したらしい。

蔵人が呆れ顔になっていると、直ぐにドタドタッという足音が聞こえて、子供部屋の扉が勢いよくご開帳した。


「ただいま!私の天使ちゃん!」


今日は随分とテンションが高い。いい事でもあったのだろうか。

蔵人が呆れ顔で母親を見上げると、彼女のこちらを見降ろした。

満面の笑み。次いで、少し薬品臭い手を伸ばし、頼人の脇にやんわりと手を差し込む。


「頼人ぉ〜ただいまぁ〜。元気にしてまちたかぁ」


母は頼人を抱き抱えて、その場をぐるぐる回る。

大丈夫か?と蔵人は心配したが、頼人も嬉しそうに笑っているので、蔵人も腰を落ち着かせる。


母親が、巻島家で一定の地位を確保できている理由を、蔵人は頼人のお陰だと推測していた。Aランクの男子を産んだ。それは、魔力量を何よりも重んじるこの世界では絶大な効力を持っているだろうと推測でき、彼女にそれだけ価値があると判断されたのではと考えた。それ故に、2人も使用人を与えられのだろうと。


流石に、この2階建ての家に3人の使用人は過剰だからね。元々いらっしゃった女性の執事さんだけで十分だったのじゃないかと思う。


「奥様。今日は蔵人坊ちゃんがベッドから出てしまって…」


その女性の執事さんが、蔵人を心配そうに見ながら言った。

ヤバい!告げ口されるとは思ってもみなかったぞ。

蔵人は慌ててベッドに伏せ、その場をやり過ごそうと身と心を固めた。

だが、


「あら。そうなの?頼人はどうだったの?」


蔵人のことには一切言及せず、逆に頼人について質問をして来た母親。

それに、執事さんは戸惑いながらも返答する。


「ら、頼人様は、大人しく寝ていらっしゃいました」

「あら、頼人。いい子にしていたんでちゅね!偉い偉い~からの高い高いぃ〜」


母は頼人を持ち上げて機嫌よく回る、回る。頼人もかなり上機嫌だ。

良かった。母が自分への関心が薄いお陰で、お咎めなしで行けそうだ。

蔵人が顔を上げてほっと息を付く横で、執事さんは哀れみの目で蔵人をそっと見るのだった。

ちょっと説明が多いですね…。あと2話くらいは動きが少ないです…。


イノセスメモ:

・主人公の産まれた家はそれなりに裕福

・母親はいるが父親がいない?←疑念

・主人公のランクはE-(最低)、兄はAランク

・主人公の能力は盾…盾?板?←優劣は不明

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白くなりそうな気配を、ひしひしと感じています。願わくば、蔵人氏が他人を見捨てぬ素晴らしいヒーローであらんことを。
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