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女尊男卑 ~女性ばかりが強いこの世界で、持たざる男が天を穿つ~  作者: イノセス
16章~天上篇~

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444話〜デカ過ぎんだろ…〜

いつもご愛読下さり、誠にありがとうございます。

残す所、あと6話となります。

「感慨深いな」

ですので、今日から日曜日まで、毎日投稿とさせていただきます。

「駆け抜けよ、イノセス」

了解です!

笑顔で手を取ってくれた千代子ちゃんだったが、急に頭を抱えて苦しみだした。

それと同時に、彼女の背後で歌声が響く。

湊音君だ。

その歌詞は、ミニゲームでも流れた歌だった。

心を揺らし、暗い感情を引き起こす禁忌の歌声。


それに、鈴華が反応する。


「それを、歌うんじゃねぇって、言っただろ!」


鈴華は磁力でガントレットを飛ばし、それで湊音君の胸ぐらを掴み上げた。

しかし、湊音君は歌をやめない。だらりと首を項垂れながら、歌だけはしっかりと歌っていた。

こいつは、LA暴動の時と同じ状況。

まさか…。


蔵人が湊音君の後ろを覗き見ると、彼に向って異能力を発動しているロシア選手が2人、そこにいた。

あいつらが、ヒュプノスとドミネーションで湊音君を操っているのか。


「LAの暴動を見て、変な知恵を付けたか?随分と勉強熱心な奴らだなっ!」


悪知恵ばかり働かせやがって!と、湊音君を操る奴らに向けて、蔵人はシールドカッターを放つ。

だがその攻撃は、ロシア選手に到達する前に、アイスニードルによって全て弾かれてしまった。千代子ちゃんの攻撃だ。彼女は頭を抱えながら、フラリと立ち上がっていた。

彼女の瞳が、赤く怪しい光を携えている。それが、我々を射貫く。


「許さ、ナイ。私、ノ、大切…奪う。許さナ、い」

「千代子ちゃん、そいつらは…うぉっ!あっぶねぇ」


話しかけただけで、氷柱の剛速球が飛んできた。

これは、完全に理性を失っている。何とかして、湊音君の歌を止めないといけない。


「黒騎士君!」


蔵人が悩んでいると、後ろから声を掛けられる。

桃花さんだ。


「僕が行くよ!」

「そっ…いや、頼んだ!」


否定しそうになったが、それしかない。

仲間達の力を借りて、この場を打破するしかないんだ。


「俺が千代子ちゃんを止める。みんなは、湊音君(フルフェイス)を操るあのロシア兵達を倒してくれ!」

「任せろ!ボス!」

「私もやるよ!」


鈴華や海麗先輩も加わって、蔵人達は扇状に散会して走り出す。

先頭を走る蔵人は、桃花さんに気を取られそうになっていた千代子ちゃんに殴りかかった。


「こっちだ!」


体に貼り付けた盾をフル稼働して、超高速の突きと蹴りを放つ。

体がミシリッと悲鳴を上げる程の速度で放った一撃だったのだが、千代子ちゃんは瞬時に作り出した氷の刀で、易々とそれを受け止めてしまった。

次いで、刀を振り払って、蔵人を吹き飛ばす。先ほどまで切れ味だけ凄まじかった剣技に、パワーも上乗せされていた。

湊音君のバフで、筋力も上乗せされていると言う事か。


「黒騎士く、うわわっ!」


蔵人が離れたことで、千代子ちゃんの矛先が桃花さんに向く。あとちょっとでロシア選手達の元へ到着しそうだった彼女の前に、氷の壁が出来てしまった。

アイスウォール。

頼人の出す奴よりも、何倍も大きく分厚い。

そんな技能を持っている…いや、これはDP社のスーツによるものか。


「桃ちゃん、退いて!」


氷の壁に阻まれた桃花さんの元へ、海麗先輩が急行する。

そして、


「チェストォオオ!」


その分厚い壁に向って、黒光りする黒拳を突き立てた。

インドのSランク、ラニ様の防御壁すら砕いた彼女の拳は、しかし、氷壁の表層に薄いヒビを入れるところで止まってしまった。


何て硬さだ。これもDP社の…いや、違うな。千代子ちゃんはクリオキネシスであるのと同時に、Sランクのアクセラレータだ。氷はゆっくりと凍らせることで、構成する結晶が大きくなり、結晶同士の結びつきが強くなる。加えて、魔力で出した氷は加えた魔力分強固になる。

そうやって丁寧に作り上げるには、膨大な時間が必要となるが、千代子ちゃんはそれを、アクセラレーションですっ飛ばしているのだ。だから、クイン・ランパートすら粉砕する強固な氷を作り出せる。

2つの異能力を持つ、アグレスだからできる芸当。


「いてて…」


拳を摩る海麗先輩。そこに、千代子ちゃんが襲いかかる。

氷の刀が海麗先輩に振り下ろされ、先輩はそれを拳で受け止めた。


「ぐっ!」

「先輩!」


蔵人は駆け出しながら、拳に盾を集める。

タイプ・Ⅲ、アームドブブ。それを、更に変形させる。


「ドラグ•シェル!」


ギィィイイインッ!!


盾のチェーンソーで切りつけると、千代子ちゃんはもう片方の手にも刀を出現させて、それで受け止めた。

拳にかかる圧が薄くなり、海麗先輩が動き出す。


「よそ見はダメだよ!」


刀を受けていない方の拳で刀身を殴りつける彼女。

超パワーのその一撃に、千代子ちゃんのちょっとバフがかかっただけの握力はすぐに負け、氷の刀は飛んで行ってしまった。

無防備になった千代子ちゃん。そこに、海麗先輩の攻撃が迫る。


「貰った!」


拳を構え、物凄い速さで打ち込む。

スパンッ!!

あまりの速さに、空気が割れる。

だが、その一撃が着弾する直前、千代子ちゃんはアクセラレーションで超加速をして、回避してしまった。


数歩離れた所まで逃げた彼女は、瞬時にアイスピラーを生成していた。

させるかよ。

蔵人は腕で超回転するチェーンソーの歯を切って、鞭の様にする。それを、千代子ちゃんに向けてしならせた。


(いぶ)り狂え!ヴォーパル!」


アイスピラーを放つ事に集中していた千代子ちゃんは、蔵人のヴォーパルシールドによってぐるぐる巻きにされた。

そして、


「我が(かいな)に来たれ!白髪(はくしゃ)女子(おなご)よ!」


思いっきり引っ張られて、宙を舞った。

超高速で動ける彼女も、足が地に着かなければただのクリオキネシスだ。

蔵人はヴォーパル以外の盾を分解し、再度自身に貼り付けた。

タイプ・Ⅰ、龍鱗。


「行くぞ!」


空中に投げ出された彼女に、蔵人は飛び上がり、無防備な体の下から蹴りを放つ。

その一撃は、千代子ちゃんが作り出した氷のシールドに阻まれるも、落下しつつあった彼女の体は、再び空へと舞い上がった。

そのまま、蔵人は高速で飛び上がり、千代子ちゃんを蹴り上げ続けた。


「すげぇぞ、ボス!まるでサッカーじゃねぇか!」


鈴華よ。そう言われると、なんか虐めているみたいじゃないか。

だが、ハメ技である事は否定できない。このまま空中戦法を使い、千代子ちゃんを動けなくするんだ。


「今だ!みんな。今の内に、湊音君(フルフェイス)に掛かってる洗脳を解くんだ!」

「分かったよ!」

「任せて!」

「あたしはサッカーやるぜ!そいつボールな!」


鈴華は磁力で飛び上がり、千代子ちゃんを蹴り上げた。

上手いもんだな…じゃなくて、これは遊びじゃないんだぞ?


「よっしゃ!このまま場外にシュートしてやるよ!」


うん?

あっ、確かに。倒せなくても、場外ホームランにしてしまえば勝てるのか。千代子ちゃんさえ倒せば、ロシアに勝ち目は無くなる。


「良い手だ、鈴華!彼女を吹き飛ばすぞ!」

「そう来なくっちゃな、ボス!あたしのスーパーシュート、見せてやるぜ!」


鈴華は構え、落ちてくる千代子ちゃんに狙いを定める。

そして、最大の力で飛び上がった。


「くらいな。あたしの新技!」


グルグルと空中で体を回転させながら、鈴華は遠心力を得ていく。蹴りの威力を上げていく。

それに、千代子ちゃんは体を丸めた。丸めて、全身を氷で覆って、防御の構えを見せた。

それを見て、鈴華は笑った。


「へんっ!本当にボールみてぇじゃねぇか。じゃあ、遠慮なくやっちゃうぜ!マグネティック•トルネード!」


鈴華の右足が、氷のボールにヒットした。

だが、氷は動かない。

極限まで押し固められた氷は、鈴華の一撃をものともしなかった。

蹴り上げられなかった氷の塊は、地面へと落下した。


「うわっ!」


シュート技が不発で終わった鈴華が、地面に不時着する。「くっそー」と悔しがっているから、怪我はしていないみたいだ。

だが、安堵していられない。地面に埋まった氷の塊が、動き出したのだ。

全身が氷に纏われた千代子ちゃんは、氷の龍鱗にように見えた。


まさか、俺の真似を?

そう思ったのも、一瞬だった。

立ち上がった彼女の体は、見る見る内に大きくなっていき、見上げるのも辛く感じる程の、氷の巨人になった。


「おいおい、デカ過ぎんだろ…」


鈴華の言う通りだ。余程、蹴鞠にされたのが嫌だったらしい。

確かにこれなら、もうハメ技も、場外ホームランも通用しない。

加えて、


「マグナ・バレット!」


鈴華の放つ技も、全く効いていなかった。

バレットが当たった事も、それにより魔力の一部を操られている事も、千代子ちゃんは気付いている様子はなかった。

余りにも硬く、そして重くなった彼女だから、我々の攻撃など蚊程も感じていなかったのだった。


『ミナト…』


氷像の中から、千代子ちゃんの声が反響する。それと同時に、氷像が動き出した。

その巨体からは考えられない程早く、氷像はロシア選手と交戦する海麗先輩達へと突っ込んでいった。


「危ない!」


蔵人が叫ぶとほぼ同時に、氷像が轟音と共にダイブした。

巻き起こる土ぼこり。その中から、小さな影が飛び出した。

桃花さんを抱えた、海麗先輩だ。


「ひやぁ〜。危なかったぁ」

「ありがとうございます。美原先輩」


間一髪、氷像のタックルから逃れたみたいだ。

良かった。

しかし、それが出来たのは、海麗先輩の脚力があったからだ。

他の者達は、氷像のスピードについていけなかった。


『ベイルアウト!ロシア11番!12番!グレーソル選手の巻き添えを食って、一気に2人がベイルアウトしてしまった!残り時間3分を、たった7人で戦わなければならなくなりました!』

『ですが、ロシアにはグレーソル選手がいます。彼女がいる限り、日本の勝利はありません』


その千代子ちゃん入りの氷像だが、彼女の手には湊音君の姿があった。彼を取り戻す為に、仲間を巻き添えに大ダイブを敢行したらしい。

そして、意識を手放してグッタリしている彼を、その氷像の中へと取り込んでしまった。


操っていたロシア選手も倒れたので、湊音君の歌も止んでいた。それに、湊音君を取り戻せたから、千代子ちゃんも正気に戻ってくれるかな?と、淡い期待を抱いた蔵人。

でも、


『守ル、ミナト。倒す、敵』


どうも、正気には戻っていない様だった。


『アグレス、倒す。みんな、潰ス』


正気どころか、アグレス特有の幻覚まで見えているみたいだった。

アグレスの本能のような物が、歌のせいで呼び起こされたのか?頼むから、このままアグレス化が進行して、カイザー級になんてならないでくれよ。


「ドラゴン・テール!」


蔵人は氷像に飛びかかりながら、右足に生成したチェーンソーで斬りかかる。

氷像の胸部、千代子ちゃんと湊音君が囚われている部分に斬り込もうとしたが、氷像は素早く右腕でガードした。

固く締まった氷像の腕に、ドラゴン•テールは表面を滑るばかりだった。

流石は超加速で作り出したの氷。カキ氷すら作れない頑丈さだ。

ならば、


「タイプ・Ⅳ」


蔵人はロゴに変身し、氷像を睨み上げる。

ロゴですら見上げなければならない巨体。ざっと4、5mはあるだろう。


「(低音)マグナム!」


極太の拳をドリルに変えて、蔵人は氷像の右腕に攻撃を仕掛ける。

相変わらずドリルの刃は通らず、表面を軽く削るばかりであった。だが、その巨体を抑え込めはしていた。

このまま、最後まで付き合って貰うぞ。

そう、思っていたが、


「(低音)ぐっ…」


ロゴの腕が、凍り始めた。

そう言えば、頼人の氷獄世界に入った時も、足の表面が凍りついてしまった。

このままでは、俺まで取り込まれてしまう。


「(低音)ショットガン・ランパート!」


凍り始めた右腕を弾に変え、全弾発射する蔵人。

その弾は氷像の右腕に阻まれるも、凍り始めていた表皮も全て吹き飛ばしたので、何とか抜け出す事に成功した。

しかし、これではマトモに攻撃が出来んぞ。


「とりゃぁあ!」


この氷像をどう攻略したものかと蔵人が考えていると、足元で海麗先輩が駆け抜けるのが見えた。

彼女は右拳を構え、氷像に突っ込む。

不味いぞ。


『(低音)止めろ!勇者!凍りつくぞ!』

「チェストォオ!」


間に合わなかった。

海麗先輩の拳は、氷像が出した氷の壁を殴りつけ、彼女の黒拳を包んでしまった。


「うわっ!取れなくなっちゃった!冷たっ!」


こいつはヤバい!海麗先輩が取り込まれてしまう。

蔵人は慌てて彼女の元に向かおうとしたが、動けない海麗先輩を氷像が狙っているのが目に入った。

させるか。


『(低音)マグナム!』


腕が凍ることを覚悟して、蔵人は氷像を止める。

案の定、すぐにドリルが凍り始めたが、一旦ドリルを消して、反対側の拳を振り上げた。

凍ても、ドリルを作り替えてまた攻撃したら何とかなる。絶対に、こいつを自由にさせてはいけないのだ。


「先輩!」

「鈴華ちゃん!」


既に肘まで凍っていた海麗先輩の元に、鈴華が駆け寄った。

鈴華は、凍りつつある海麗先輩の腕に己の手を置いて、集中し始めた。

すると、氷結が止まり、徐々に溶け始めた。

鈴華が、千代子ちゃんの魔力を取り込んだみたいだ。


「ありがとう!鈴華ちゃん。相変わらず、凄い異能力だね」

「凄くねえよ、先輩。アイツの魔力がデカ過ぎて、全然敵わねぇんだからさ」


鈴華も、氷像を倒そうと頑張ってくれているみたいだ。

彼女だけじゃない。桃花さんもロシア領域に侵入しようと、何度もアタックを試みている。だけど、その為には氷像の近くを通らねばならず、氷像は近づく相手全員を攻撃していた。桃花さんは、氷像のアイスニードルを避けるだけで精一杯だった。


やはり、ここは俺が何とかせねば。


『(低音)ショットガン・ランパート!』


凍りついた拳をパージするついでに、盾の弾丸で氷像を攻撃する蔵人。

だが、一向にダメージは通らない。そもそも、氷像の胴体に攻撃が届かないのだ。

巨体の割に動きが早いので、全部右腕にはたき落とされてしまっていた。何とかして、胸部に攻撃を当てなければ。

…そうだ。


『(低音)マグナム!』


蔵人は右拳を放つ。すると、氷像は右腕で受け止める。

蔵人は拳を引かず、そのまま押し付けた。

拳は徐々に凍りつき、肘の辺りまで氷が侵食してくる。

その時、蔵人は右腕を大きく持ち上げた。すると、凍って同化した氷像の右腕も持ち上がった。


『(低音)マグナム!』


今度は左拳での一撃。それを、氷像は左手で受け止める。

再び同化した左腕も持ち上げて、蔵人はバンザイのポーズを取る。

それに合わせ、氷像も両腕を上げる。

目の高さに、氷像の胸部が来た。

今だ。


『(低音)マグナム・トライデント!』


ロゴの頭をドリルに変えて、蔵人は思いっきりヘディングをかました。


ギィィイイイイインッ!


甲高い音を立てて、ドリルが氷像の表面を削る。

両腕よりは防御力が薄いのか、少しずつ削れていく氷像の胸部。

本当に少しずつで、とても効率的ではないように見える。

だが、それをやられている千代子ちゃんからしたら脅威みたいだ。氷像の中で、顔を歪めている。心臓部に刃を突き立てられているからか、見た目以上に恐怖心を駆られるみたいだ。

良いぞ。このまま。


そう思っていると、ドリルの掘削音が鈍くなる。

先端が凍りつき、刃が通らなくなってしまったのだ。

蔵人は急いでドリルを捨て、新しいドリルを作り出す。


作り出そうとした。

でも、出来たのは大きな鉄盾のドリルだった。

水晶盾すら出せない程、蔵人の魔力は枯渇していたのだった。


『(低音)ぐぅっ…』


魔力枯渇を認識すると同時に、酷い頭痛が襲ってくる。変身を解いて、(うずくま)りたい衝動に駆られる。


『(低音)ぅうう!おらぁあ!』


だが、そうはしない。

頭痛を振り払うように、蔵人は頭を振り上げ、鉄ドリルでの頭突きを敢行した。

その途端、鉄ドリルは砕け散った。

Sランクの氷を相手にするには、強度が足りな過ぎた。

頭を無くしたロゴは、そこを起点に崩壊していく。凍りついていた両腕が、足が消失し、体だけになったロゴが落ちていく。

その最中、氷像の右腕が動く。落ちるロゴの体を強打した。


「ぐっ!」


物凄い衝撃が、ロゴの脂肪越しでも伝わって来て、体中で嫌な音が響いた。そのまま、蔵人は弾き飛ばされ、鞠のように地面を跳ねる。

その最中にも、ロゴの体が消えて、蔵人は脂肪の塊から投げ出された。何度も、何度も芝生を転がる感覚を感じながら、蔵人は疲労と痛みに必死で耐えた。

そして、止まった。

目の前には、踏み潰された茶色の芝生が見える。


「黒騎士様!」

「くーちゃん!」

「カシラ!」


円柱に居るはずの、みんなの声が聞こえる。

では、ここは日本の円柱か?俺は、そこまで吹っ飛ばされたのか?


立たねば。

そう思って、体を少し動かす。それだけで、全身を突き刺すような痛みが襲い、熱い物が腹から込み上げてきた。


「ぐぼっ!」


血だ。骨折でもして肺に穴が開いたのか、かなりの量を吐血してしまった。

血を見た瞬間、最後に残していた力も消え失せて、再び地面に顔が埋まった。


「蔵人!おいっ!しっかりせい!」


アニキの声が聞こえるが、体が言う事を効かない。

体が、重い。

疲労と、甚大なダメージと、サポートしていた盾が消えたからだ。

もう、1枚のアクリル板も出せない。

ああ、ダメだ。目の前が暗くなっていく。


あの時みたいに。

あの、晴明戦の再来。

俺は、俺達は、負けるのか?

また、この場所で。

この世界の頂点の、その目の前で?


だれ、か…。


伸ばした手は、しかし、空を切った。

蔵人は、意識を手放した。

魔力の…枯渇…。


「この世界では、どのような強者でも逃れられぬ壁である」


体はボロボロ。魔力は尽き…これは本当に、晴明戦と同じ状況じゃないですか。


「…明日から、エピローグか?」


イノセスメモ:

日本 VS ロシア。

日本領域:48%、ロシア領域52%。

試合時間18分02秒。日本の黒騎士、魔力欠乏症と重傷により戦闘不能。


オリンピック成績。

優勝:ロシア

準優勝:日本

3位:アメリカ


THE END

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― 新着の感想 ―
…最終回まで、残り六話、ってことですか…?あぁぁあぁ…私の人生の糧がぁ…まぁ、最終話をちゃんと読めるのは、読者冥利につきますが…きちぃ…
どうなってしまうのか さすがにここからひっくり返すのは厳しく見える 理論上十分に蔵人と魔力操作の訓練した人同士だとシンクロ可能なはずだからそこに勝機があるかもしれない?
アグレスを使役、或いは薬理学及び生理学によって生み出した、異能力を増強or増設した人造進化人類的な? 手段を選ばず力を求める行いを是とする時代の到来を阻めるか。この戦いの帰趨は人類の先行きをも左右する…
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