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女尊男卑 ~女性ばかりが強いこの世界で、持たざる男が天を穿つ~  作者: イノセス
16章~天上篇~

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440話(2/2)~斜線陣か。考えたな~

※臨時投稿です。昨日も投稿していますので、読み飛ばしにご注意ください。

ロシアベンチの監督席。

そこで私は、オルロフ監督の勇ましい指揮をすぐ近くで聞いていた。


【ペラゲーヤを下げなさい。カチェリーナ、次は貴女の番ですよ。日本を一歩も前に進ませないつもりで攻撃するのです。後のことは考えず、ただ全力を出し尽くしなさい】

【はい、監督】


監督の指揮の元、ロシア選手達は着実に日本を追い込み、黒騎士の盾を削っていた。得点差は全く動かないが、日本は着実に体力と魔力を消費している。

こちらも高ランク選手を消費しているが、そこは全く問題ない。こちらにはまだ、Sランク選手が2人も控えているのだから。Aランク選手を幾ら失おうと、ロシアチームは揺るがない。

こちらの防御も問題ない。日本選手は防御と近距離役の攻撃力は高いものの、遠距離部隊の選手層がとても薄い。だから、我が社の魔力変換システムを使いさえすれば、Cランクだけでも十分に対応出来ていた。安全を見てBランクも防御に回していたけれど、この分だったら攻撃に回してもいいのではないだろうか。今のところ魔力も持ちそうだし、後半戦で総入れ替えを行えば万全だろう。

万全の布陣。

さぁ、日本はどう出るのかしら?


そうやって高みの見物をしていると、日本側に動きがあった。


『ここで日本チーム、円柱役の2人を前線に移動させました。それに伴い、前線の配置も変える模様です』

『左翼に戦力を集中していますね。黒騎士選手を筆頭に、米田選手、クマ選手が前衛に並んで盾を強化します。その後ろに、藤波選手ら高ランク選手が続きます』


挿絵(By みてみん)


歪な形になった日本の前線。左翼ばかりに戦力を集中するから、中央と右翼がペラペラだ。盾役の選手が数名しか残っていない。

何をする気なの?

私が眉を顰めている前で、黒騎士のシールドがロシア前線に向けて前進し始めた。


撃ち合いでは勝てないからって、無理やり接近戦に持ち込もうってこと?甘いわね、日本。

私が呆れて首を振っていると、突然、日本左翼から男性の大声が響いた。

黒騎士だ。


『誇り高き日本の戦士達よ!強豪ロシアに打ち勝つため、今こそ我らの力を示す時だ!』

「「おぉおお!!」」

『進め!我らの栄光を阻む敵を、1人残らず蹂躙せよぉ!』

「「「おぉおおお!!」」」


美しく勇ましいその声に押される様に、横1列で耐えていた相手のシールドが、一斉に浮き上がった。

放送席が湧く。


『日本の前線が、一斉にラインを上げてきた!これは、盾による突撃です!』

『黒騎士選手が得意とする戦術ですね。去年のビッグゲーム、彩雲中学との3位決定戦を思い起こさせます』

『ですが、そうはさせじと、ロシア前線から激しい迎撃が繰り出されます!人員を割いた左翼は前進を続けますが、中央と右翼が置いていかれているぞ?これは不味い!』


挿絵(By みてみん)


歪になりつつあった前線が、はっきりと目で見て分かるほどの歪み方をし始めた。一列に整然と並んでいた黒騎士のシールドラインが、今では見る影もない程に崩れていた。

こんな歪な前線であれば、直ぐにでも監督から突撃の命令が出るだろう。ロシアの突撃力を侮っていると、一気に勝負を付けられてしまうわよ?

そう思ってオルロフ監督を見上げると、彼女は目を尖らせて怖い笑みを浮かべた。


【斜線陣か。考えたな】

【えっ?斜線陣…ですか?】


それって…なんなの?

私の疑問に答えたのは、日本の放送席だった。


『いえ、これは斜線陣ですよ。古代ギリシャで使われたファランクス陣形を、更に改良した陣形。言わば、ファランクスを破壊するための陣形です』


そんな陣形があるのかと、私は拳を握りしめた。またしても、日本が我が社の装備を上回ろうとしていると思って。

でも、オルロフ監督は動じない。私の隣で、ビシッと手を振り上げた。


【カチェリーナ!Bランクを連れて右翼へ移動!敵の左翼を黙らせろ!】

【【了解(プリニャート)】】


ロシア選手達はパワードスーツの推進力も使って素早く移動し、日本の左翼が迫る右翼へと到着した。

その間にも、日本の左翼が着実に前進し、ロシアの右翼に肉薄していた。

だが、日本が進めたのはそこまでだった。到着したロシアの主力が砲撃を開始すると、人数に物を言わせて進んでいた日本左翼の歩みが遅くなり、やがて停止した。


挿絵(By みてみん)


『遠距離での激しい撃ち合いから、近距離での殴り合いに移行しました!しかし、依然としてロシア有利か!』

『斜線陣に対して、直ぐに対応されてしまいましたね。これは予想外。ロシアのオルロフ監督、日本の鶴海選手に負けない策士です』


遠距離でも近距離でも関係ない。ロシア選手達が付けている装備は、DP社の作ったパワードスーツと同等品だ。だから、彼女達はすぐさま移動できたし、距離に左右されない攻撃を繰り出すことも可能であった。

我が社の科学力とロシアの高ランクが手を組めば、今度こそ黒騎士に勝てる。


私が期待の目を向ける左サイドでは、日本側から必死な声がひっきりなしに聞こえてきた。


『怯むな!進め!進み続けろ!勝利は目前だ!』

「「おっ、おお…!」」

「殴れ殴れ!」

「休むなや!ここが正念場やで!」

「ほいほーい!」


声を荒らげ、なりふり構わず攻撃する様は、まさに瀕死の猛獣。この機会を逃せば終わると、死に物狂いでロシア前線に噛み付いていた。

でも、


【全力を出せ!お前たちの全魔力でもって、この突撃を止めるのだ!】

【【了解!!】】


強豪ロシアは屈しない。惜しげも無く魔力を放出し、相手前線に叩きつけた。

オルロフ監督の冷静な判断と、選手達の豊富な魔力。そして我社の技術が、黒騎士達の突撃を見事に受け止めていた。それどころか、次第に日本前線を押し返し始めていた。


【今だ!突撃しろ!】

【【了解!!】】


『まだだぁ!まだ諦めるな!押し返せ!』

「おぉおお!!」

「ぐぅっ…!」

「くそぉ!反撃が、痛すぎるぜ!」


黒騎士は尚も鼓舞するが、それに着いてくる声も徐々に減り、日本の士気が下がっているのが明確に現れていた。

それと同じ様に、押し出していた左翼が見る見る押し返され、とうとう取り残されていた中央と右翼前線と繋がってしまった。

黒騎士達の作戦が失敗に終わり、振り出しに戻ったのだ。


いや。


【押せ!そのまま円柱まで叩き付けろ!】

【【ウラァアアア!!】】


『ロシアの反撃が止まりません!後退した日本左翼に圧力をかけて、日本領域の奥深くまでくい込んだ!』

『日本の斜線陣に合わせて、ロシアも主力を投入しましたからね。勢い付いたロシア右翼は止まりませんよ。下手すると、このままタッチを許してしまう可能性もありますよ』

『これは厳しい!立て直せるのか、日本チーム!黒騎士選手!』


挿絵(By みてみん)


よし。良いわ。良いわよ!

このまま日本左翼を轢き殺して、一気に勝負を決めちゃいましょう。

試合時間は…あと1分。

これで、前半戦コールドだ。


【一気に決めろ!祖国の力を見せるのだ!!】

【【【おぉおおおお!!】】】


ロシア選手達の勢いが爆発し、日本を大きく後退させる。

あまりの劣勢に、日本を応援していた観客席からは幾つも悲鳴が上がり、私の頭上からは大きな歓声が響いた。

私達の勝利を期待する、仲間の声だ。

私達の勝利を望む、大歓声。

とうとう、やっと…。


私も思わず叫びたくなった、

そんな時、


「今よ!」


そんな声が、私の耳に割って入った。

その声がしたのは、日本の中央前線。

取り残された前線で、誰かが水球を上げて号令を送っていた。

それは、39番。

ニュージーランドを、インドを、

そしてイーグルスを罠に嵌めた、日本の軍師だった。


「行っくよー!」

「行きます!」

「来て早々の初仕事やで!」


その軍師の号令に、彼女達の背後から現れたのは、3人の日本選手。

左翼の一部を支えていた彼女達が中央へと周り込み、そして中央と左翼の空いていた隙間から入り込んだのだった。


挿絵(By みてみん)


なっ!


『なんと!空いた前線の隙間から、桃花選手達が入り込んだ!』

【なんだと!?】


オルロフ監督の悲鳴。

彼女は大きく手を振って、日本の領域深くに攻め込んでいた右翼に指示を飛ばす。


【下がれ!右翼!カチェリーナ下がれ!侵入した敵兵を討ち取るのだ!】

『させるか!』


オルロフ監督の指示に反応したのは、黒騎士だった。

後ろへ後ろへと逃げていた日本の左翼が急に止まり、再び反撃に転じたのだった。


『押し込め!敵を振り向かせるな!』

「「「おぉおおおお!!」」」

「奇襲成功だ!もう遠慮なくやっちまうぜ!」

「本気出したるさかいな!」

「行きなさい!ヤマタノオロチ!」


敗走寸前だった日本左翼が、まるで嘘のように前線を押し返し始めた。

いや、本当に嘘だったんだ。

相手は最初から、左翼を下げる為に演技をしていた。

左翼と中央の隙間を作り、その隙間から騎兵を放り込む為にロシア前線を引き付けたんだ。


【下がれ!カチェリーナ!ゾーヤ!マトローナ!】


必死に選手達を呼び戻そうとするオルロフ監督。

でも、誰も反応しない。息を吹き返した日本前線を止めるだけで、彼女達は精一杯なのだ。

誰も、ロシア領域を独走する騎兵を見ることすら出来なかった。

それを見越してか、独走する騎兵の背中を、黒騎士の声が押す。


『進め!至高なる我らの(ヘタイロイ)騎兵達よ!』

「「おぉおお!」」


『ロシア領域に入り込んだ3人、止まりません!凄い速さで駆け抜けていく!』

『ロシアの円柱役が出てきましたが…桃花選手が吹き飛ばしてしまいましたね』

『ロシア前線は日本前線にかかりっきりだ!誰も動けない!』

『寧ろ、崩壊しかかっています。後退して、何とか全滅を避けている状況です』


『そのまま…今、桃花選手がファーストタァアアアッチ!!』

「「【【わぁああああああ!!】】」」

「【ピーチちゃぁあん!】」


『続いて剣帝選手、そして難波選手が揃ってセカンドとサードを奪取!これで日本領域は71%と、15分コールドの基準である70%を超えました!』

「凄いわ!剣帝様!」

「ようやったぞ!難波!」

「大阪の誇りや!」


ロシア円柱にタッチした3人が、凱旋するようにゆっくりとロシア領域内を走り、観客席に手を振る。

そして、


ファァアアン!

『前半戦終了!』


無慈悲な放送が響き渡り、観客席からは日本を祝福する大きな声援が響き渡った。

それを受けて、タッチを奪った3人は空に大きくガッツポーズを掲げながら凱旋する。

それを見ていると、私の胃に鉛のような物が流れ込んできた気がした。

全員を囮にするって、こういう事だったんですね。


「斜線陣自体が囮であったのか」


流石は、天才軍師の鶴海さん。


「まぁ、真の天才は故人だがな」

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― 新着の感想 ―
実戦なら抑えの兵を残し、孤立した日本右翼を包囲殲滅・返す刀で左翼の日本主力も人数差で潰し実質勝利 的な選択もあった?けど、大会一目立つ男子選手が左翼に&円柱ガラ空きなら優勝への主力突撃一択ですね ①…
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