表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/482

44話~怖くないか?~

ご覧いただき、ありがとうございます。

誤字脱字報告にも感謝を。大変助かりました。

「これだけしっかりとチェックしてもらえるなら、いつもお前がしている最終チェックは要らないのではないか?」

いやいや、ダメですよ!私もしっかりとチェックしないと、皆様に頼り切りになってはいけません!

「そんなものか。難儀なものだな…」

体操服に着替えた蔵人は、早速ファランクス部の基礎練習に加わる。

加われたのは良かったのだが、その練習というやつは、蔵人にとってかなりキツイものだった。


まず始めの基礎練は、走る事から始まる。

軽いジョギングと準備運動の後に、コートの端から端を往復するシャトルラン。これを何本も繰り返す。コートがサッカーコート並に広いので、50名近くが横一列で並んで走っても、ぶつかることは無い。


「巻島君!遅れてるよ!無理だったら休んでね!」


監督役の先輩から、指摘されてしまった。

休んでね!と心配されているが、それだけ先輩達に後れを取っているという事だろう。


しかし、蔵人は必死に前の先輩の背中を追いかけているので、返事なんて出来ない。代わりに、少し速度を上げて、先輩に追いつく。


今までずっと、体力の向上だけは続けていたので、この練習にも何とか着いて行けている。

行けているが、他の先輩を見ると、まだ余裕そうな人がいっぱいいる。蔵人は何とか、最下位にならない様にするのが精一杯だった。


シャトルランの後は、コートの中でステップの練習。足をクロスさせたり、ジグザグに走ったりと、緩急つけてコート内を縦横無尽に走る。

これは、流石に皆で一斉には出来ないので、3つの組に分かれて、監督の合図で一斉に走り出し、笛の合図で走り方を変えていた。蔵人も、隣の先輩を真似て走ったが、シャトルランよりも太ももを酷使していた。


一通り走り、小休止を取った後は筋トレ地獄が始まる。

腕立て伏せや腹筋、背筋、スクワット、2人1組で腕車(1人がもう1人の両足を持ち、腕だけで進む筋トレ)やレッグトス(1人が仰向けで両足を上げ、もう1人がその足を左右に振る腹筋群の筋トレ)、1人が上に乗った状態の腕立て伏せ等を行う。


蔵人は途中までは着いて行けていたが、2人1組になってからは大きく遅れてしまった。まだまだ筋力が足らないな。一緒に組んでくれた男の先輩にも申し訳ない。


「おいおい。あんま無理すんなよ。辛かったら休んでいいんだからな」


蔵人の世話を焼くことで、自分の筋トレが十分に出来ていないというのに、その男の先輩は蔵人を心配してくれる。


「ありがとうございます。でも、もう少しだけ頑張らせて頂きますので」


ここで諦めたら、いつまで経っても筋力が増えない。蔵人は何とか食らい付く。


筋トレの後は、またダッシュだった。4階建ての訓練棟を階段ダッシュ。1列で順に走り、監督がゴールと言うまでひたすら走り続ける。速い選手は、遅い選手の右から追い抜いていく。


蔵人は、最初は目の前の先輩を追いかけていたが、段々と太ももの筋力が無くなり、徐々に抜かされ始めていた。

既にほとんどの先輩に追い抜かされた蔵人は、今や列の最後尾。それでも負けじと足を動かすのだが、とうとう周回遅れにされ始めた。


そんな時、ようやく監督役の先輩が、ラスト1周を宣言。蔵人は最後の力を振り絞って、何とかゴールした。

ちなみに、ここまでは完全に筋力のみで、異能力は一切使っていない。

己の基礎体力を向上させる。それが、基礎練の目的らしい。

素晴らしいことだ。


「基礎練終了!小休止の後、各異能力タイプに別れて応用練に入るよ!」

「「「はいっ!」」」


部長の号令に、先輩達が声を合わせて返答する。

異能力を使うのは、ここからだ。

蔵人が汗を拭いていると、筋トレで一緒に組んだ男の先輩が近づいてくる。


「おい、新入生、これ飲んどけよ」


そう言って、投げて寄こして来たのは、水の入ったペットボトル。ラベルとかが無いし、冷えていないので、空のペットボトルに水道水を入れた物なのだろう。


「ありがとうございます!」


蔵人は頭を下げてから、水を口にする。

そんな蔵人を見て、先輩が軽い口調で聞いてくる。


「なぁ、お前、何かやってたのか?」

「えっ?何か、ですか?」

「そうそう。なんか、スポーツとかさ。いや、俺らの練習に最初っから着いて来てんじゃん。フツーへたばってんぜ。新入生なんてのはさ」


そうなのか。一緒に走っていた先輩達は、ほぼ全員余裕でこなしていたから、それが普通で、自分は遅れていると焦ってしまっていた。だが、どうやらそうでもないらしい。


「特にスポーツをしていた訳ではありませんが、自主練はほぼ毎日欠かさずやっています。筋トレ以外は、なんですれど…」


蔵人が少し歯切れ悪くそう言うと、先輩は蔵人を指さして笑った。


「それな。走るのに比べたら、筋トレはヘロヘロだから、マジでウケたわ。俺たちの練習について来るんなら、これくらいは鍛えんとダメよ」


そう言って、先輩が少し細めの腕を上げて、力こぶを見せる。中学生らしく、細い腕にはちょこんとコブが出来ている。

細マッチョ…よりも細いな。ちゃんとタンパク質を摂らないと。


蔵人が自分を差し置いてそんな事を考えていると、いつの間にか少し険しい顔になった先輩が、蔵人を見ていた。


「…どうかされましたか?先輩」


まさか、考えを読まれたのか?

蔵人が心配して聞くと、


「うん?ああ…」


先輩は視線を反らして考える素振りを見せてから、再び蔵人を見た。


「新入生。お前、部員のみんなを見て、どう思う?怖くないか?」


先ほどまでの軽い口調でない、真面目な問いかけ。

この先輩にとって大事な質問なのだろう。


「怖い…ですか?皆さん優しいですけれど…?」


練習はキツめだが、別にイジメられている訳では無いし、寧ろ気遣って声かけをしてくれる優しい先輩ばかりだ。怖くはない。

蔵人は今日一日の先輩達の対応を思い出しながら、そう答えた。


「そうか」


蔵人の返答に、先輩は凄く嬉しそうな顔をする。

どうやら、彼好みの回答だったようだと、蔵人は胸をなでおろす。


そんな事をしていると、鋭い笛の合図と共に、監督役の生徒から集合の号令がかかる。


「ピィイイ!遠距離攻撃はここ。それ以外は三階に移動!」


それ以外と言うのは、近距離攻撃とサポートの事だ。蔵人はサポートなので、同じサポートらしい男子先輩の背中に着いていく。あ、名前を聞かないと。


神谷勇(かみや いさみ)。皆からはサーミンって呼ばれてるから、そこんとこヨロ〜」

「巻島蔵人です。皆からは…蔵人が多いですね。兄が同学年にいますので」

「あいよ。蔵人ね。よろよろ」


サーミン先輩は、先程の真面目な顔はどこに行ったと思うくらい、随分とノリが軽い…親しみを込めた態度に戻った。髪を染めたりはしていないが、軽くワックスをかけて髪を遊ばせたり、動くたびに香水らしき香りも漂わせているので、かなりの遊びに…陽キャに見える。


とは言え、このノリでこちらも返すのは、今は危険。こういう人に限って、上下関係に厳しかったりするから、慣れるまでは丁寧に対応しよう。


3階では、近距離攻撃と前衛型サポート、後衛型サポートに別れて練習をするらしい。

蔵人は前衛型サポート、いわゆる防御チームに入れられた。

防御チームは、蔵人を除いて6人の先輩が配属されていた。3年生が4人。2年生が2人。勿論、全員女子生徒だ。


後で詳しく聞いたが、この6人の内、蔵人の様に生粋の防御型は3年生の先輩に1人だけで、後の5人は攻撃も防御も出来る万能型との事。蔵人も、シールドカッターやドリルを使えば攻撃出来るのだが、それはややこしくなるのでお口にチャックである。


ちなみに、ファランクス部は現在、3年生が23人、2年生が22人。その内、遠距離攻撃24人、近距離攻撃11人、付与(バフ)1人、特殊型3人、そして、防御型6人となっている。やっぱり遠距離攻撃型って多いんだなと改めて認識する。


さて、防御チームの練習だが、始めに異能力の発現と消滅を繰り返す。早く出せるようにする訓練らしい。

先輩達はやけに丁寧に、ゆっくりと盾を作り上げているが、それでは相手に急襲された時に間に合わないのではないだろうか?言わないけど。


その後は、異能力の同時発動訓練を行った。なるべく大きく、多くの盾を展開する練習を繰り返し行う。


「はい、やめ。次行くよ」


ここまではウォーミングアップらしい。それでも、かなりの時間をかけて行っている。既に時刻は18時を大きく回っていた。

蔵人は、ここまでの応用練習にはついて行くことが出来た。と言うよりも、今日の練習の中では1番順調に付いていけている。かなり余裕もあるし、なんだったら、基礎練で消費した体力と筋力が、随分と回復した気がする。


「じゃあ、シールド展開して」


防御チームの先輩が合図をすると、いつの間にか準備していた遠距離攻撃型の先輩方が、こちらに向かって異能力を放ってくる。次は、耐久力の訓練との事。こうして、遠距離攻撃を限界まで受け続ける。


「あ、ギブ!」


隣の先輩が、短い悲鳴を挙げる。盾が解けそうという合図らしい。これを言えば、一旦攻撃を止めてくれると聞いていた。のだが、


「佐藤!まだ行けるよ!後10秒!」


攻撃が止む気配はない。スパルタである。


「いや、無理ムリむり!もう無理!」

「無駄口叩くな!あと15秒!」


増えてしまった。

無駄口叩いたから、ペナルティという事だろうな。


蔵人は、泣きそうな隣の先輩を見て、心の中でお祈りした。

ちなみに、今蔵人には攻撃が来ていない。遠距離攻撃の先輩達は、定期的に攻撃する人を切り替えているのだが、未だ蔵人には1発も攻撃が来ていない。

多分、まだ入ったばかりだから、相当手加減してくれているのだろう。

正直つまらん。


「ほら、新人君。よそ見はダメだよ」


遠距離攻撃の先輩が、そう言いながら蔵人の方を見る。

お、このフリはっ!

漸く俺の番が来た!と構える蔵人だったが、待てど暮らせど攻撃は来ない。

見ると、先輩は何かを思案する顔でこちらを見ていた。


…何を考えているんだい?早く攻撃してきてくれ。


「えっと、新人君。今から火炎弾を打つけど、いいかな?」


どうも、蔵人が準備できているか心配で撃てなかったらしい。

ちょっと、過保護が過ぎてるな。甘すぎて歯がくっ付いてしまうぞ。


「大丈夫です!いつでも来てください!」


蔵人がハキハキと答えると、躊躇していた先輩も意を決したのか、手のひらサイズの小さな火球を放り投げて来た。

いやいや、これ、Dランクの攻撃じゃないですか!

先輩の攻撃を難なく受ける蔵人。

そりゃ、こんな低威力で低速度の攻撃なら、防御出来て当然である。

そう思っていると、先輩は攻撃する構えを解こうとしていた。


ちょっと待った!


「まだまだぁ!」


バッチ来い!と、腰を落として構える。

そうすると、先輩は少しムッと顔を強張らせ、掌に大きな火炎弾を(こしら)える。

Cランクの火炎弾だ。


だが、柏レアルの白羽選手や、川崎フロストのスターライトの攻撃を見て来た蔵人の前では、DもCもあまり変わらない。

火炎弾を簡単に防ぎきり、尚も腰を落とし、先輩に視線を送る蔵人。


「…よーし。そっちがその気なら!」


先輩も、漸く本腰を入れる気になったようだ。

隣の先輩にやっていたような、激しい攻撃が始まった。

次々に放たれる火炎弾。熱風が体を包むが、盾を流線形にしているので、殆ど受け流している。これなら、鉄盾でも受けられる。

でも、先輩も甘くない。蔵人が楽をしているのを見て、声を張り上げる。


「新人君!それじゃあ仲間を守れないよ!ちゃんと盾で受け止めてぇ!」


確かに。これじゃ後ろに仲間がいたら丸焦げだ。


「すみません!」


蔵人は鉄盾を合成し、今度は水晶盾で炎を受け止める。完全に受け止めるのでは無く、上に逃がすようにする。これなら、後ろも守れるし、盾の消耗もそれ程加速しない。


「おお、男子でも結構やるじゃん」

「やっぱり、生粋の防御型は違うね。まだまだ余裕そう」

「秋山!新人君が遊んじゃってるよ!」


横で見ている防御チームの先輩達が、面白そうに声を上げる。


「ええっ!?じゃあ、本気で行くよ?」


秋山先輩はそう言うと、先程よりも大きめの火炎弾で攻撃してきた。

Cランク上位の魔力かな?うん。手が押されて、水晶盾が端から融解し始めている。

蔵人は、水晶盾が融解した箇所に、新たな水晶盾を出して、それを補修、補強する。すると、融解していた部分が復活し、融解するスピードも遅くなっていた。


「はい。あと10秒!」


秋山先輩が宣言し、また少し火力が上がる。ギリギリBに届くレベルか?

蔵人は念の為、あと2枚の水晶盾を追加合成したが、過剰防衛だった。盾はしっかりと残ったまま、先輩の火炎弾攻撃は途切れる。


「はい、終了!」

「すげぇ…。受けきっちゃったよ」

「あの子の盾見た?受けながら継ぎ足ししてたよ?」

「盾の生成速すぎない?無属性だからなのかな?」


防御チームの先輩達の、蔵人を見る目が少し変わった気がする。

でも、その評議会は直ぐに閉幕となる。


「はいはい!喋ってないで、次はそっち行くよ」


そう言うが早いか、秋山先輩は蔵人を傍観していた先輩方に、次々と火炎弾を投げ込みだす。


「うわっ!ちょっと待って!まだ準備が…」


先輩達が慌てて盾を展開するのを、蔵人は羨ましそうな目で見ていた。

蒼凍さん(流子さんのお子さん)にも言われていましたが、主人公の盾生成速度は速いみたいですね。

神谷先輩は、特区の男性にしては少し毛色が違いそう?


イノセスメモ:

・ファランクス部の基礎練に、主人公は付いていくのがやっと←筋肉量が足りない。

・ファランクス部の応用練は、主人公にとって余裕←特区でも異能力の技術レベルは低い?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
そういえば生物的に男子の方が筋肉付きやすいと思うけど先輩男性部員を見るに素の身体能力で比べても女子と互角ぐらいに収まってしまうのか?それは百年前の干渉で男女の身体能力の差が消えたのか、それとも魔力自体…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ