422話(2/2)~何が…起きたんだ?~
臨時投稿です。
昨日も投稿していますので、読み飛ばしにご注意ください。
『さぁ!各選手が続々とフィールドへ出て来て、後半戦がいよいよ始まろうとしております!このままニュージーランドが攻め切るのか、はたまた、日本が奇跡を見せてくれるのか!?』
『楽しみですね』
【思ったよりもタフだね、日本選手】
フィールドに出てきた日本選手を見て、チームメイトのモアナが【ふふふっ】と笑った。
彼女に言われて前を見ると、確かに日本チームはまだ元気であった。気合を入れ直して、やってやろうと息巻いている。何か作戦でも思いついたのだろうか?
私が首を傾げていると、他のチームメイト達も日本を見て小さく首を振る。
【やっぱファーストタッチしか取れなかったのが痛いよね。セカンドも取れてたら、もう勝てないって諦めてただろうに】
【防御力だけはあったからね、日本。他のアジアンとは一味も二味も違うよ】
【マーゴット選手が言ってた黒武者だっけ?男がそんな事出来るとは思えないけど、チームとしてはそれなりに強かった】
【あと77番ね。コラちゃんを投げ飛ばすなんて、良い体してるよ。彼女がマオリじゃない事だけが惜しいね】
みんなはもう、勝った気でいる。前半の日本選手を評価して、よくやったと太鼓判を押していた。
そこに、キャプテンがだみ声を響かせる。
【気合を入れろ!ブラックス。アタイらはマオリの誇りを背負ってんだ。情けない試合をしたら、祖国に帰れないと思いな!】
【【はいっ!ハウラキキャプテン!】】
キャプテンが気合を入れ直すと、みんなの表情が変わる。試合前と同じ、戦士の顔だ。
キャプテンはそのまま、私の方へと歩いてくる。
【ゾーイ。良いかい?】
【…なんでしょう。ハウラキキャプテン】
【監督が言っていた様に、またあんたを中心に攻め込む。前半戦みたいに、もう一本タッチを決めて試合を終わらせな】
【了解…しました】
私も気持ちを新たにし、日本チームを睨みつける。相手は円柱役を1人増やし、前衛も人を増やしていた。
きっと、待機点数で巻き返すつもりなのだろう。だが、1人円柱を増やしたところで意味が無い。試合時間は10分で600秒。こちらの円柱役は2人居るから、1秒間に得られる待機点数は1点だ。600秒フルで座っても、1500点差ある現状を覆すことは出来ない。
まぁ、実際のところ、1人割くので限界になってしまっただけだとは思うけど。
ファァアアアン!
『試合開始だぁ!』
【踏みつぶしな!】
【【っしゃぁーっ!!】】
キャプテンの合図と同時に、私達はスクラムを組んで日本領域へと突っ込む。すると、すぐさま相手前線に半透明のシールドが立ち並んだ。
驚くほど早いシールドの生成。この防御性能だけは、アメリカにも、中国にも勝る部分。
でも、
【アタイらには関係ない!全部押しのけちまいな!】
【【うらぁああ!!】】
私達の突破力を持ってすれば、日本の防衛力も形無しだ。私達は勢いよく、クリスタルシールドに突進を試みる。
でも、その直前、シールドの形状が変化した。
つるつるで掴みにくい表面から、何本も、何本もの鋭利なランスが飛び出してきた。
これはっ!
『シールド・ファランクスが変化した!まるで剣山の様に無数の棘が生え揃え、突撃したニュージーランド選手達を串刺しにしたぞ!』
『ハマー選手だ!彼の得意技、ヘッジホッグがさく裂したんだ!』
『これは強烈!これは痛烈!ニュージーランド選手達の強力なタックルが、そのまま自分達を苦しめてしまった!』
確かに、これは私達の突進力を逆手に取った良い手だ。ラグビー選手の私達では、耐えられない戦法。
でも、
『おおっと!それでも、ニュージーランド側からは誰も、誰一人としてベイルアウトしていない!』
『彼女達のガードが間に合ったんだ。ヘッジホッグが無効化されているぞ!』
そう。私達はファランクス選手。ラグビー選手の時と違い、異能力が私達を守っている。
その程度のランスで、私達の防御は貫けない。
私達は、オーバーブラックスなのだから。
【押せぇ!押し込むんだよ!】
【【うらぁああ!!】】
「押し返せ!撃ち返せ!」
「ふんっがぁあああ!」
「おんどりゃぁああ!」
「撃て撃て!撃ちまくるよ!」
『中央での押し合いが始まった!両者一歩も退かず、盾を挟んでの正面からの押し合いだ!』
『これはニュージーランドが有利です。日本には黒騎士や米田、ハマー選手などの力自慢がいますが、オーバーブラックスは体格で恵まれるマオリ族の末裔達。骨格からして日本人よりもパワーが出ます』
『日本側も盾の上から猛攻を加えますが、ニュージーランドはビクともしない!着実に、一歩、また一歩と日本を押し込んでいる!』
日本は良くやっていると思う。トゲトゲ作戦が失敗し、後は押し負けるだけだというのに、もう5分近く私達と押し合いをしている。少しずつ押し負けているとはいえ、まだ前線が瓦解しないだけ他のチームよりも厄介。
日本は十分に強い。でも、相手が悪かった。1回戦の相手が私達でなければ、2回戦までは進めただろうに。
【行くよブラックス!一気に押し込みなっ!】
【【うらぁああ!】】
私達は一斉に、中央の盾を押しまくる。
クリスタルシールドは悲鳴を上げ、シールドを支えていた日本選手達も悲鳴を上げて倒れ込む。
私は一瞬、地面に倒れる96番に目が奪われる。この場で倒してしまえば、もう二度とシールドの城塞が作り出されることはない。次に攻め込むときに、私達が圧倒的有利になる。
でも、やめた。私の頭上には、8体の水龍が迫っていた。スクラムを組んでいる時は一切出て来てなかった水龍だ。日本チームの切り札である可能性が高い。
だから、私達は地面に倒れる日本選手達を無視した。どちらにせよ、今回のランが決まれば私達の勝ちだ。急襲に、2度目は要らない。
【ドラゴンはアタイが相手する!お前ら前に進め!】
【【キア・オラァ!!】】
キャプテンが残り、膨大なソイルキネシスで迫り来る水龍を防いだ。
私達はその間に、日本領域を駆け抜ける。前線と円柱に人を割き過ぎた日本領域は、たった2人の選手しか残っていなかった。
39番と90番。どちらも小柄な選手だ。
私達の強力なスクラムの前では、なんら障害になる選手ではない。
私達の、勝ちだ。
【さぁ…行こうか、日本のえんちゅ…】
私がみんなを扇動しようとした。
でも、その前に、世界が回転した。
さっきまで見えていた青空が足元に来て、地面が目の前に迫った。
そして、衝撃。
ベチャァ…。
冷たい感覚。
【な、なに…何が…起きたんだ?】
【ペッペッ!何だこれ?泥だらけじゃねえか】
私の隣で唾を吐き出すモアナは、泥だらけでまるでゴーレムみたいになっていた。
モアナだけじゃない。私と一緒に駆け出していたみんなが、ひっくり返って泥だらけになっていた。
みんな、転んだんだ。地面が日本領域だけドロドロになってて、知らずにその上を走ろうとしたから、私達みんなですっ転んだんだ。
でもなんで、ここだけ地面がぬかるんでいるのだ?
「みんな!今よ!」
私達が悪戦苦闘していると、それを見て39番が大きな声を上げる。
彼女が上げる手の先には、大きな水球が揺蕩っていた。
まさか、彼女のアクアキネシスで地面を濡らして、ここを泥の沼にしたの?そう言えば、隣に立つ90番は前半戦で、土のゴーレムを使っていた。まさか2人の合わせ技で、私達を嵌めたというの?
【…不味い、不味いぞみんな!一旦撤退だ!この泥地から抜け出すんだ!】
【お、おお…】
私の号令に、みんなはゆっくりと立ち上がる。
知らずに突っ込んだから転んだけど、足元が悪いと分かっていればなんてことは無い。大雨の日の練習だってこなしているんだ。慣れてしまえば、軽く走ることも出来る。
そう思っていた私達に、誰かが猛スピードで近づいてきた。
「いっくよー!」
エアロの力で飛ぶように近づいてくるのは、日本の11番。タッチダウンの時にも邪魔をしに来た選手だが…今は何もできないコリスちゃんだ。だって、この泥は日本チームにも影響を及ぼすのだから。ただ速いだけの彼女では、私達以上に大惨事となるだろう。
そう思っていた11番は、全然スピードを緩める様子を見せない。それどころか、私達に近づくにつれて速度を上げ、とうとう泥地帯に入り込んだ。
そして、
駆け抜けた。
【なっ!?】
なぜ、泥の上を走れるのだ!?
【ゾーイ!不味いぞ!相手がせまぐはぁっ!?】
危機を叫んでいたモアナが、一瞬にして吹き飛ばされた。
11番のエアロが、モアナの胴体に打ち込まれたのだった。
『ベイルアウト!ニュージーランド7番!Bランクを倒したのは日本の11番!西風桃花選手だぁ!』
「「「わぁあああああ!!」」」
「「ももかー!」」
【【ピーチちゃああん!】】
これは、不味い。
このままじゃ、みんな11番に吹き飛ばされてしまう。
【逃げろ!みんな!バラバラに逃げるんだ!】
私達は泥の中を這いずり回って逃げまどう。でもその間に、追加で2人が11番の犠牲になってしまった。
泥で重い体を引きずりながら、私達は中立地帯の手前まで逃げ帰ることが出来た。
しかし、
「ここから先は、通さないよぉ!」
「喰らえ!ワシのヘッジホッグ!」
今度は、日本の前線から選手達が駆け寄って来ていた。
77番の巨神と、80番のトゲトゲシールダーだ。
これは、迎え撃つしかない。
私達は逃げ惑うのをやめて、構える。
私の前に、力自慢のワヒネがどっしりと構えた。
【よっしゃぁ!来いやぁあ!!】
「ふんっ、がぁああ!!」
77番とワヒネが激突する。
体格差では少しだけ77番の方が高いけれど、ワヒネの方が横幅は広く、そして誰よりもタックルが強い。私が束になって掛かっても、吹き飛ばされてしまうだけの超絶パワーを持っている。
持っている、はず、なのに、
【ぐぅうう!なんて、力だ、このおんなぁ…】
ワヒネが押されていた。
ズリズリズリと、踏ん張る彼女の足が泥に埋まって、見る見る後ろへと押し出されてしまっていた。
反対に、77番の足は泥を踏みつける。とてもしっかりと地面を蹴り上げて、まるで泥なんて関係ないかのように大地を押しこくる。
77番に踏まれた地面は、小さな穴が規則正しく開いていた。
うん?待ってよ。
【穴…スパイク!?】
そう、スパイクだ。地面に空いた小さな穴は、スパイクの跡だった。
そして、そのスパイクは77番の足裏で輝いていた。
半透明のスパイク。これは…一体なんなのだ?
「おらぁ!ヘッジホッグ!」
【ぐぁあ!】
『ベイルアウト!ニュージーランド21番!倒したのはなんと、日本の80番!特区の外から来た男の子、ハマー選手がここでも輝く!』
また1人、仲間がやられた。
それを行ったのは、何とDランクの男性。しかも、そいつが持っているトゲトゲシールドが、正に77番の足に履かれているのと全く同じものだった。
【シールドを履く?まさか、そんなことが…】
「出来ますよ。それが、アニキの異能力ですからね」
私の疑問に答えたのは、96番だった。
彼の足にも、77番と同じスパイクが履かれていた。
【シールドを靴にする?彼はシールダーではなく、オールクリエイトだったということか?】
「いいえ。ただのクリエイトシールドですよ。彼も、そして俺もね」
96番の拳が回転する。さっきまでシールドしか扱っていなかった彼の手は、今や巨大なドリルに化けていた。
これが…シールダーだというのか?
「ただ、異能力の使い方は工夫しています。自分の異能力の特性を理解し、その技能を伸ばす訓練を積み重ねてきました。貴女達が走り込んで来たのと、同じ様にね」
【異能力が、努力で進化するだと?】
「試してみますか?」
96番が近づいて来る。
私はつい、彼の横をすり抜けようと意識が先走る。
でも、彼の足にもスパイクが付いているのを思い出し、体を押し出す為に作り出していた風を96番に向ける。
風の刃。
【ストームカッター!】
Bランクの刃が幾つも宙を舞い、96番へと殺到する。
それに、96番はドリルを構えるだけだ。そのドリルに吸い寄せられるようにして、飛ばした風の刃は全てすり潰されてしまった。
見せかけだけじゃなかったのか。
これが、
【これが、本当の努力、なのか…】
「ええそうです。これが、異能力の可能性」
ドリルを構えたまま、96番が私の前に立つ。
「これが俺の、日本の技術力です」
出ましたね、慶太君のマップ兵器。
「イーグルス戦では砂塵だったが、今回は泥か」
ラビッツ戦でも、泥を跳ねさせて攻撃してましたけど、純粋に泥で足を滑らせる戦法でしたか。
「藤波嬢の八岐大蛇も、一役買っていそうだな」