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女尊男卑 ~女性ばかりが強いこの世界で、持たざる男が天を穿つ~  作者: イノセス
16章~天上篇~

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419話~何を世迷言を~

ちょっと長いですけれど、切れませんでした。

セルフで区切ってお読みいただければ幸いです。

「お疲れ様!みんな。とっても、良い動きだったわよ」


ハーフタイム。

蔵人達がベンチへと帰ると、監督役としてベンチ入りしていた畑山コーチが入り口で待ち構え、開口一番にそう言って拍手を送ってくれた。

少し大袈裟のようにも見えるが、彼女の気持ちも良く分かる。試合が始まるまで、ここまで上手く作戦がハマるなんて誰も予想していなかったから。

結果的に、日本は追加で9%の領域を獲得し、59対41と大きなリードを得ることが出来た。コールド目標の75%には程遠いけど、これは我々からしたら大きなアドバンテージ。逆に、相手からしたら大きなプレッシャーとなる。フランスは後半戦、大きなハンデを負った状態でスタートとなった。

いや、彼女達は最初から、大きなプレッシャーを背負って試合に臨んでいた。何故なら…。


「うん?」

「どうしたの?黒騎士ちゃん」


蔵人が後ろを振り向くと、鶴海さんが不思議そうに聞いてきた。

なので、蔵人は反対側のベンチを指さした。


「フランス陣営から、何か怒鳴り合う声が聞こえた気がしまして」

「怒鳴り声?」

「ええ」


怒鳴り声というか、言い争う声と言うべきか。

大声が美しくないと考えるフランス人にしては珍しいなと、蔵人は気になった。それだけ、向こう陣営が荒れている証拠だろうと思って。


〈◆〉


【貴女達。よくそんな堂々とベンチへ帰って来られたわね?中国人でもないアジアンに、これだけやられて…。その原因を、ちゃんと理解して前半を終えたんでしょうね?】


私達がベンチに戻ると、チーフコーチが目をギラつかせながらそう聞いてきた。組んだ腕は固く締め付けられ、そこから飛び出る人差し指は、苛立たし気に彼女の腕を叩いている。

自分の作戦がアジアンに破られて、気分が最悪ってこと?でもね、それは私達も一緒よ!

私はキッと、コーチを睨み上げる。


【理由?そんなの決まっているわ。作戦が最悪だからよ】


私の答えに、チームメイト達はどよめきながらも、直ぐに同意の意志を示してくれた。

それを見て、コーチは遊んでいた指をきゅっと握り、顔を赤らめる。


【作戦が最悪?あはっ!面白いジョークね、フランセット。私の指示を無視して、指示していない選手まで日本陣地に侵入したのは貴女達なのよ?なのにそれを、私のせいにするなんて…】

【それこそ、コーチの指示が原因じゃないの。貴女が飛び込めなんて言うから、マリアンヌとアリソンは犠牲になったのよ。それをカバーしようとして、私達は敵の隙をついて侵入した】

【それで?辺境のアジアン相手に、3つも追加でベイルアウトをプレゼントしたって言うの?いつからそんな、慈悲の心を持つようになったの?フランセット】


コーチは気持ち悪い猫なで声を出して、口だけ笑みを作って睨んでくる。


【貴女達が押されている原因はそれよ。何時までも小さなプライドを誇示しちゃって、相手を見ようともしない。いいこと?相手はアジアンで、しかもDランクや男を入れている様なチームよ?そんなチームに、私達フランスが負け越すはずがないの。

ちょっと強いシールダーが前に出てきただけで、アジアンの力を過小評価していた貴女達は焦ってしまい、いつもの実力を出せていなかったのよ。だから、相手の事をしっかりと見て、ランキング12位のスイスくらいの実力があると思いなさい。そう想定して、私の指示通りに砲撃の波状攻撃を繰り返せば、いずれは相手を…】

【その作戦で前半戦、こんなにやられたんじゃない!】


私はつい、声を荒げていた。

顔から火が出る程恥ずかしかったけど、でも、言わなければと思った。だって、この人の古い考え方のせいで、私達は今、日本なんていう弱小チームに押されているのだから。

私はビシッと、コーチに指を突き付ける。


【貴女、それでもコーチなの?精神論ばかり説くのなら、牧師様をお呼びした方がマシよ。貴女は画期的な作戦を立案する為に、ここに座っているんじゃないの?】

【フランセット…あんたって子は…】


コーチは口をパクパク動かして何か言っているけど、それだけだ。まともに言い返せずに、ただ目を泳がせている。

そうしている内にも、ハーフタイムが終わってしまった。

私はコーチから視線を切って、彼女に背を向ける。


【もういい。私達でやる。私達で考えて、日本を下し、フランスの誇りを全世界に見せつけるわ】

【ま、待ちなさ…】


コーチが何か言おうとしていたけれど、聞いていられない。もう、フィールドに出る様に指示も出された。

私がベンチを飛び出すと、みんなもそれに付き従ってくれる。

古い考えに囚われたコーチなんて、みんなも見限っていたみたい。私の背中にぴったりとくっ付いて来て、【どうしましょう?】って問い掛けてくる。

だから、私は思っていたことをみんなに提案する。


【日本は典型的な防御タイプのチームよ。そんな相手と正面からぶつかっても、ただ無駄に消費するだけだわ。そんなみっともない戦いは、私達じゃない。だから私達は、その上を行く。相手のシールドを無視して、とにかくタッチだけを狙いに行くのよ】


どんな手を使っているのか分からないけど、日本のシールドは驚くほど硬い。でも、飛び越えることは容易だ。ソイルキネシスのアースウォールとかだったら難しかったが、日本のそれは2mにも満たないタワーシールド。隙間もあるから、侵入する手段は幾らでもある。

前半はコーチの言う事を聞いて、2人しか侵入させなかった。それが間違いだ。相手は主力を円柱に置いているのだから、こちらも主力を送り出さないといけない。


【何が、相手を見ていない、よ。古臭い戦術に囚われちゃって、相手を見てなかったのはコーチの方じゃない】


だから、私は正しい。間違っていたコーチの作戦に乗っていたから、私達は苦境に立たされているんだ。日本なんていう弱小国家のイエローモンキーに、高貴な私達が苦戦するなんてあり得ないんだ。


【皆さん。先ずはファーストタッチ。そして、後半戦5分のコールドを狙いますわよ!】

【【oui(うぃ)!】


私達は配置に着く。前半戦と同じく円柱役を2名だけ残して、残りは全員攻撃に集中させる。装備は既に、フルプレートからハーフプレートに着替えている。


『さぁ!選手達がフィールドに並びます。日本チームは前半戦同様に、黒騎士選手を筆頭にした防衛線を張る構えか。対するフランスは、前衛中衛で分かれていた隊列を大きく変えて、全員を前衛に回した形です。そして、装備も随分と軽量化しています。戦術を大きく変えてくるのか?期待と興奮が入り混じった後半戦が、いよいよ始まろうとしています!』

「「「お~~!に~~ぽん!に~ぽん!に~ぽん!に~~ぽ~ん!ハイ!ハイ!ハイハイハイハイ!」」」

【【【がんばれ(Allez)フランス代表(les bleus)! 】】


日本の応援団はいい気なもので、変な歌まで歌っている。

対するフランスの応援団は、必死に声を張り上げていた。

フランス人なのに、そんなに髪を乱して叫ぶ姿に、私は見ているのも恥ずかしくなって前を向く。こんなことをさせている憎い敵に、照準を合わせる。

そして、


ファァアアン!

後半戦開始の合図。

それとほぼ同時に、私は右手を前に突き出す。


【構え!撃て!】


私の号令を受けて、みんなが一切に異能力を発動する。

それに、日本はシールドを一列に並べる。雨あられと降り注ぐ弾丸を、全て防いでしまった。

でも、こうなるのは分かりきったこと。前半戦では少し動揺してしまったが、分かっていればなんてことはない。私はすぐに新たな指示を出す。


【砲撃止め!総員、突撃準備!】


異能力を放出していた手を降ろし、専用の短い棒を取り出す。そこに異能力を流すと、瞬く間に異能力で作られたロングランスが生成される。

それを、乱立するシールドへと向ける。


【総員、突撃!】

【【おぉおお!!】】


横一列に並んだまま、私達は一斉に突撃する。

砲弾よりも更に強化されたランスは、少し硬い程度のクリスタルシールドなんて簡単に粉砕してしまうだろう。もしも、私の予想よりもシールドが硬く貫けなくとも、突き刺さったランスを足場にしてシールドを越えるのだ。

これであれば、突撃した全員で日本領域に乗り込むことが出来る。そうなれば、足の速い選手を2人しかいない日本は私達を捉えることが出来ず、多くのタッチを許すことになる。

ファーストを奪えばすぐに逆転できるし、フォースまで取れば私達のコールド勝利も見えてくる。


簡単だ。

私達が日本に勝つなんて、造作もない事なんだ。

だって、私達は異能力先進国のフランスなのだから、辺境のイエローモンキーに負けるはずがない。


私はいよいよ近づいてきたシールドを見て、ランスの握り手を強く持つ。

と、その時、シールドの隙間から何かが這い出て来た。

人形…いや、ソイルキネシスで出来たゴーレム。30cmにも満たない小さなゴーレムが、小さな両手を上げてこちらへと駆け寄って来た。

数だけは多いけれど…なんて未熟な異能力。こんなの、小学生でももっとマシなゴーレムを作るわよ。

やっぱり、日本の異能力は弱小。


『おおっと!ここで登場したのはミニゴーレム!クマ選手の得意技だ!』

「「きゃぁあああ!」」

「クマちゃん可愛い!」

「男の子なのに、大したものよ!」


ふんっ。

男子選手の異能力だから、こんなにも未熟なのね。


【フランセットさん。どうします?】

【構わないわ。異能力戦に男を出す方が悪いんだから。構わず、全部踏み潰してしまいなさい!】

【【oui(ウィ)!】


イエロー相手に接待プレイなんて必要ない。男だろうと容赦せず、全員まとめて蹂躙してあげる。

私達はゴーレムを無視して、走る速度を上げる。案の定、ゴーレムは何もすることが出来ず、尽く私達のランスに貫かれるか、踏み潰されて崩れていった。


残念だったわね。時間稼ぎにもならなくて。

私は内心でほくそ笑みながら、シールドに向かって駆け抜ける。


だが、急に前へ進めなくなった。足が地面に縫い付けられたように重くなり、一歩進むだけで凄く大変になってしまったのだった。

何が?

そう思って足元を見ると、両足に大量の泥が付着しているのが見えた。その足を地面に降ろすと、泥が勝手に地面とくっ付こうとしていた。それで、足が上げ辛くなっていたみたいだ。


【なによ…これ。まさか、さっきのゴーレムが?】


いいえ、あり得ないわ。

イエローの、それも男が作った異能力が、こんなこと出来るなんて…。


【フランセットさん!足が!】

【動けません!ど、どうしましょう!?】


見ると、みんなも私と同じように足止めを食っていた。

こんな広範囲に影響を及ぼす異能力が、日本の、それも男子選手によるものだと言うの?

いいえ。絶対に違うわ。

これは絶対に、別の者が施している異能力。例えば…そう、Sランクのグラビキネシスとか、そういうのが日本チームに居て、そいつが、さも男子の手柄になるように演出しているのよ。


思えばこいつら、みんな中国人みたいな顔をしている。もしかして、中国が日本に協力しているんじゃないの?強力な異能力者を貸し出して、私達みたいな優勝候補を序盤で消そうとしているんじゃ…。

そんなの…、


【そんなの卑怯よ!日本。中国のSランクの力を借りて、私達を倒そうとしているんでしょ!?ねぇ、そうなんでしょ!?】

「中国?Sランク?」


私の叫びに答えたのは、1人の騎士だった。

中央の大きなシールドが上へと持ち上げられ、その空いたスペースに現れた、傷だらけの敗残兵が前に出た。


「何を世迷言を。諸君らの足に付くそれは、Cランクである俺の戦友の物だぞ?」

【貴方…さっきの男?】


敗残兵の声は、明らかに整列の時にいた男の物だった。

優秀なベルティーユに向かって生意気な口をきいていた男が、まさか私達を苦しめていた敵前線に居たなんて…。

いや、


【騙されないわよ!同じ男だからって持ち上げようとしても、私には分かるわ!これは強力なグラビキネシス。このシールドの裏にいるんでしょ?他国から招いた、強力な助っ人が】

「そんな者は居ない。と、幾ら言葉で語ったところで、頭の固い貴女方ではご理解いただけないのでしょうな」


敗残兵はそう言うと、右腕を高く上げる。

途端、一列に並んでいたシールドが全て浮き上がり、敗残兵の元へと集まっていった。

うそっ!?あのシールドは全て、この男子が作り上げていたと言うの!?彼はもしや、Aランク?

いえ、グラビキネシスのSランクがいるなら、Aランクは編成出来ない。

Bランク?でも、クリスタルシールドしか出さないところを見ると、まさかCランク?

前半戦、私達はCランクの、それも男のシールダーに苦戦していたとでも言うの?


【あり得ない。そんな事、低ランクの、男なんかに…】


とても信じられず、私は小さく首を振る。

すると、更に信じられないことが起きる。

敗残兵の頭上に集まっていたシールドが分解され、彼に降り注いだ。そして、彼の両腕が見る見る太く、大きくなっていった。


「言葉で理解できないのでしたら、お見せしましょう。異能力と言う物が、異能力種や魔力ランクで決められるべき物でないという事を。最低位種(ゴミ)と呼ばれた異能力であっても、鍛え方次第で幾らでも化ける事を。今、貴女達の目の前で」


巨大な石柱に似た両腕を持ち上げて、敗残兵はゆっくりと近付いて来る。その醜く太った拳を振り上げて、一番近くに居た選手に殴りかかった。

たったそれだけで、殴られそうになった選手は一瞬にして消えてしまった。


『ベイルアウト!フランス18番!』

【うそっ…こんなこと…】


Cランクのシールダーがキルを取るなんて、聞いたこともない。そもそも、こいつが作り出したこの腕はシールドなの?なんでシールドで、精鋭のフランス選手をベイルアウト出来るのよ!


『続いてベイルアウト!フランス22番!黒騎士選手の連続キルだぁ!』

「「「わぁあああああ!!」」」

「「「くっろきし!くっろきし!」」」


私達が混乱している間にも、敗残兵は次々とフランス選手に襲い掛かり、フィールドから消し去ってしまった。

加えて、


「アニキ!頼みます!」

「おうよ。ようやっと、ワシの出番かぁ!」


また1人、男のシールダーが飛び出してきた。

彼は、アイアンシールドとかいうみすぼらしいシールドを前に構えて、フランスの左翼に突撃する。


バカな男だ。私達は足止めこそ喰らってしまったが、攻撃は出来る。

案の定、無防備に近づいたシールダーは、フランスの集中砲火を食らう。

でも、その集中砲火は彼を焼かなかった。そのアイアンシールドの表面を滑るように、弾丸がそれてしまった。


【なっ!?】


驚く私の目の前で、アイアンシールドが更に形を変える。ハリネズミの背のように、幾本もの鋭利な棘が突き出した。

そのまま、フランス選手へと突っ込む男。


【来るな!このサルゥ!】


その一番前で地面にひれ伏すベルティーユが、必死になって火炎弾を撃ちまくる。

でも、男はその攻撃を素早いステップで避けてしまった。

そして、


「わしゃ、ゴリラ派じゃオラァア!」

『ベイルアウト!フランス10番!ベルティーユ選手』


ベルティーユの残像を串刺しにして、高々と叫んだ。


「「「わぁああああ!」」」

「最高よ、ハマーさまぁ!」

【DランクがCランクを倒したわ!】

【しかも、男の子よ!】

【Cランクだけじゃなく、日本はDランクシールダーも強いのか!】


盛り上がる会場とは反対に、地面に縫い付けられる私は寒気に襲われる。


【フランセット!】

【このままじゃ、不味いよ!何とかしないと!】

【ベルティーユさんまで…こんな…】


みんなの間にも、動揺が広がる。

もう誰も、目の前を走っているのが低ランクシールダーだなんて思っていなくて、どうにかしてよと私に懇願して来る。

みんながみんな、必死の形相。

日本を相手に、全く余裕がなくなっていた。


私も、分かってる。

巨大な拳を振り上げるこいつを倒さないと、私達が負けることを。このシールダーを倒さなければ、私達に勝機がない事を。

Cランクで、男で、無属性のシールダーだけど、間違いなくこいつが日本の心臓。大量のシールドを展開するだけじゃなく、ベイルアウトを幾つも重ねる攻撃力も持っている。

日本のエース。

こいつさえ倒せば、日本に勝てる。


【あの巨腕(きょわん)に集中砲火よ!それ以外の事は後回しで良いわ!】

【【oui(ウィ)!】】


みんなは直ぐに反応し、フィールドの中央で巨腕に向けて異能力を放った。

確かに攻撃力は大したものだけど、素早さはそれ程ない巨腕の敗残兵は、簡単に捉えることが出来た。

でも、


「甘いっ!」


その巨腕を振り回すだけで、私達の集中砲火を弾き飛ばしてしまった。


【なっ!?そんな、あり得ない!】


原理は分からないけど、あの巨腕はCランクの異能力で出来ている。だというのに、私のAランクまで弾き飛ばすなんて出来る筈がない!

そうだ、何かカラクリがあるんだ。その秘密を、暴いてやる!


私は再び、Aランクの魔力弾を作り上げる。先ほどよりも更に密度を濃く、そして鋭利に尖らせた三又のそれを、巨腕に向って投げ出した。


【ポッセ・トライデント!】


高速で飛ぶ私の槍に、巨腕が振るわれる。巨大な拳と神のトライデントがぶつかり、眩い魔力スパークが起きる。

そして、


「そらよぉ!」


その巨腕がトライデントの側面を殴りつけると、トライデントは粉々に粉砕されてしまった。


【きゃっ!】【うわっ!】【だっ!】


その破片が無数の弾丸となって、私達に降り注いだ。


『ベイルアウト!フランス6番、11番、13番!フランセット選手の弾丸を利用した、3連続キル攻撃です!Aランクの攻撃を弾き飛ばすなんて、流石は黒騎士選手!Aランク戦チャンピオンは伊達じゃない!』

「「「くっろきし!くっろきし!」」」


【うそ、でしょ?私の、Aランクの…全力だったのに…】


Aランク同士の攻撃でだって相殺させるのがやっとの攻撃を、まさか弾き返すなんて…。

私の攻撃が外れた訳じゃない。よく見ると、敗残兵の巨腕に長い割れ目が出来ている。トライデントで削った跡だ。

だというのに、あの巨腕は壊れなかった。私のトライデントが先に、形を保てなくなった。


弾かれると言う事は、同じベクトル同士で威力を相殺したのではないと言う事。ベクトルを変えさせられて、進む方向を変えたのだ。

そんなことが出来るのは、トライデントと同レベルのシールドだけ。

つまりこの敗残兵は、トライデントを壊す程の攻撃力と、トライデントを弾き飛ばすだけの防御力を合わせ持っていると言う事だ。


そんな事、あり得ない。高い攻撃力と防御力を併せ持つ異能力なんて、聞いたことがない。

それこそ、Sランクでもないと…。


「ショットガン・ブラスト!」


私が意気消沈している間にも、敗残兵はチームメイト達に襲い掛かり、消していく。


『でたぁ!黒騎士選手の得意技!腕の小盾を弾き飛ばし、ショットガンのように相手を貫きます。フランスの9番と16番が堪らずベイルアウト!

その向こう側では、ハマー選手の突撃が冴えわたる!入って来たばかりのフランス32番が、早速ベイルアウトだぁ!』


あり得ない。

こんなの、あり得ない。

きっとこれは、私が見せる悪夢…。


いつの間にか、私は地面に座り込んでいた。

私だけじゃない。フィールドに残ったチームメイト達はみんな、足を取られたままの状態で固まっていた。もう誰も、そこから這い出そうとしていなかった。

そして、


パンッ、パンッ。

乾いた音が、空気を震わせた。


『ここで、フランスベンチから空砲が鳴った!フランスチーム棄権!試合終了!勝ったのは、日本。日本チームの勝利です!』

「「「【【わぁあああああああ!!】】」」」


試合、終了。

その言葉を聞いて、私は何処か安心してしまった。

やっとこの悪夢が終わったと、そう思ってしまった。


違う。

何を言っているの?

負けたのよ?私達。五大列強でもない、アジアの小国に。


【待ちなさい!】


私は、何処かに行こうとする96番を呼び止める。

いつの間にか、足に纏わりついていた土も無くなっており、私は慌てて立ち上がった。


【何をしたのよ、貴方。あの腕はなんなの?あのゴーレムは?あの棘の男は?貴方の攻撃力は?貴方は、ただのシールダーでしょ?!一体、貴方達は何をしたの!】


足が震えそうになり、私は96番を睨みつけて気持ちを保つ。

でも、96番の目は涼しいままだ。そのまま、ただ一言を放つ。


「努力。我々がしたのは、ただそれだけです」


そう言って、彼は再び歩き出した。

私の口からは、また【待ちなさい】と言葉が飛び出した。

幸いにも、それに96番は止まらない。こちらを振り返らず、歩き続ける。

ただ、言葉を残す。


「異能力に限界はありません。努力をした分だけ、前に行ける。もしもそれを嘘だと思うのなら、見ていてください、我々の進む先を。我々の進む姿を」


彼はそのまま、日本チームのベンチへと戻って行った。


分からなかった。

彼のいう言葉の意味が、分からなかった。

でも、


【言われなくても、見ててやるわよ】


いつの間にか、足の震えは止まっていた。

代わりに、私の心が震えていた。

フランスのベンチは、戦意喪失した選手を見て棄権したみたいです。


「戦維喪失か」


ダメダメ。

危ないからやめて。


「まだリーグ戦は続くからな。心に傷を作りたくなかったのだろう」


充分に、分からされていると思います。

一部の方を除いて。


イノセスメモ:

オリンピック予選、Fブロック。

日本VSフランス。

日本領域:69%、フランス領域:31%。

試合時間14分17秒。フランス側が棄権の意思を示したため、日本の勝利。

日本Fリーグ戦績:1勝0敗。

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またぞろ懐かしいネタを…このレポートの主人公はドリルを使う作品に影響を受けていますが、ハサミを武器にした作品にはノータッチでしょうに…まぁ、それは置いといて。素晴らしい戦い、とまではいかずとも、これか…
オリンピックの舞台でパーフェクト決められるよりは棄権のほうが……って感じかなあ やっぱ嘗めてくれてると楽やねー 初見殺しゴーレムは相変わらず驚異的な戦果だわ 初見じゃなくても盾にひっついてくるから避…
フランス「帝国」であればインドシナやアルジェリア等、植民地大領の有力選手も代表に加えた国際色豊かな 編成となり差別意識も直接的な物からやや婉曲にマイルド?化してたのかも知れませんが、大日本帝国()VS…
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