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42話~君は強い子だね~

ご覧いただき、ありがとうございます。

ブックマーク、いいね、評価して下さっている皆様に感謝を。


感謝申し上げているところ恐縮ですが…

※グロ注意です(汗)

異能力シングル、チーム、セクション部全てに門前払い?を喰らった蔵人。

そんな彼が次に訪れたのは、13対13の大規模異能力戦を行うファランクス部である。


部活紹介で一番最初に登場した部活だ。異能力部で唯一部活紹介で立派なパフォーマンスを行っており、それだけ部員の数も揃っていない可能性がある。

実際、この部活は出場選手枠が他の異能力部活よりも多く、選手に成れるチャンスがその分多い。他の異能力部に比べ、人気と実績は落ち気味という話も聞くから、猶更に競争率は下がるかも知れない。


ファランクス部の建屋も、他の異能力部と同等レベルの大きな総合体育館のような建物であった。


意を決し、蔵人がその中に足を踏み入れると、専用の訓練棟内は外からの見た目通りに広く、備え付けられた設備も相変わらず豪華だ。

実績が他の異能力部に劣ると聞いていたが、そのことで設備の質が落ちる訳ではないのがこの桜坂学園。流石はお金持ちの園。


訓練棟の中では、既に大勢の生徒が練習に打ち込んでいるようで、全員でシャトルランのようなことをしている。

蔵人は、そんな選手達に厳しい視線を送っている、フィールドの端に立つ女子生徒に声を掛ける。すると、


「選手として入部したい?」


練習を監督していた女子生徒が蔵人を振り返り、監督役を別の女子生徒に任せて、蔵人の方に体を向けてくれた。

艶やかな黒髪をウェーブさせた、少し大人っぽい女性だ。

何処か不機嫌そうな彼女の表情に、蔵人は顔を硬くして頷く。


「出来ればですが、練習に参加出来るだけでも有難いです」


男子で、Cランクで、更にまともな実績もない現状では、入部すら怪しいのがこの桜城であると言うことが、前の3部活で痛い程分かった。

なので、せめて練習だけでも参加出来れば、異能力の向上に励むとができる。そう思い直し、蔵人はトーンを落として交渉に入った。

彼女の視線が、鋭くなる。


「本気で言ってるの?」

「偽り無い、私の本心です」


蔵人は、その厳しい視線を真っ直ぐに受け止める。

すると、彼女はその視線を瞼の裏に隠し、口をへの字にした。


「なるほどね。気持ちは分かったわ。でも、う〜ん...そうね。練習に参加させてあげたいのも山々なんだけど、ねぇ...」


女子生徒は凄く難しそうな顔で悩む。

何だろうな。また男という所で引っかかっているのか?でも、今練習している風景をみていると、男子生徒が一人だけ混じっている。マネージャーとしてではない。女子部員と肩を並べて、必死になって走っている。見るからにマネージャーではなく、部員っぽい。


「何か、問題がありますでしょうか?」


その風景を横目で見て、もしかしたらという希望を胸に、蔵人は女子生徒の顔に視線を戻す。


「そうね。問題、と言うか」


彼女が言いにくそうに語ってくれたのは、この部活の問題点。

それは、選手層の薄さ。A、Bの高ランクが少なく、Aランクは他の部活との掛け持ちで1人いるだけとなっている。そして、Bランクも6人だけ。目の前の先輩と、今コーチしている女子生徒5人。他の部員は、Cランクの女子が30人程しかいないらしい。


そもそも、この大規模異能力戦であるファランクスのルールは特殊で、選手を倒すことを第一目的としていない。

背後のオブジェを仲間全員で相手チームから守り、相手のオブジェをタッチして得点を競い合う競技である。相手オブジェにより多くのタッチをして、自分のオブジェへのタッチを妨害し、いかに相手よりも得点を得るかが、この競技の基本である。


そして、この部活で行っている13対13のファランクスは、大会に各校1チームまで参加することが出来、13人の内訳は、Aランクが1人、Bランクが3人まで参加可能となっている。

ランクの垣根を超えて、競技に参加することが可能なのだ。その分、高ランクが少ないと不利という事になる。


そんな中、貴重なBランクである先輩方が監督をしてしまっているので、余計に高ランクを入れた練習が出来にくくなっているらしい。

選手層が薄い事での弊害という奴か。


「つまり、貴方にはマネージャーもやって欲しいのよ」


マネージャーの仕事と練習。その両方を行ってくれるのなら、入部を考えるとの事だった。


「分かりました」


蔵人は、すぐさま了承した。

異能力の練習が出来るのと、大人数の集団戦が出来るのはとても魅力的であった。

入試試験での安綱先輩とのタッグ。あれはとても有意義で、独りでは得られない経験値と着眼点を得られた。やはり自分のシールドは、サポートを行いながらの戦闘が本来の戦闘スタイルなのかもと、蔵人は考えていた。


「そう。分かったわ。ちょっと考えさせて」


幾分表情が和らいだ女子生徒が、練習風景に目を落としながらそう言った。

ここで正式に入部させるかどうかの判断を下す訳ではないようだ。先輩は「多分大丈夫だとは思うけど…」と言われていたが、他の部員、特に掛け持ちで入ってくれているAランクの先輩に聞いてみる必要があるらしい。


本来、1学年のCランクは18人までしか募集しておらず、その内の一枠を、実績の無い、男子である蔵人に与えるかの決断は、独りでは決められない大事な案件だからだ。


「よろしくお願いします」


既に体を半分練習風景に戻した女子生徒に対して、蔵人は深くお辞儀をしてから部を後にした。




蔵人は、次の部活へと足を向けていた。

もしかしたら、ファランクス部も蹴られるかもしれないから、その時に路頭に困らない様、格闘技系の部活を見に来たのだ。


柔道部、合気道部、フェンシング部、ボクシング部、剣道部...剣道はパスだ。「お前は剣の神から見放されている」と、かつての師匠達から匙を投げられている。

そういう意味ではフェンシングもアウト。自分の剣が、自分の腹に刺さりかねない。刃物は、包丁とナイフくらいしか扱えないのである。


幾つかの体育系部活を見まわったが、特段入りたい部活は無かった。強いて言うなら、体操部は体づくりに良いのではと思った。九条様との押し合いで勝てなかった事から、そろそろ筋トレを本格始動させようと考えていた蔵人。


「「おおぉお!」」


そんな時、どこかの部室から零れた歓声に、意識が持っていかれる。

どこの部活か。蔵人は声を頼りに探し歩き、直ぐに辿り着く。


空手部だった。

運動部の部室棟端にあったので、視界から外れていた。


〈新入部員募集〉と書かれたポスターが貼ってある引き戸を引いて室内に入ると、フローリングにパズルピースの様なクッション材が敷き詰められた大部屋が現れる。そこに部屋を取り囲む様に部員が座っており、部屋の真ん中には女子生徒が2人、対峙していた。

いや、片方の女子生徒は悠然と構えているが、もう片方は床に膝を着き、苦しそうに肩で息をしていた。


「流石、美原さんね」

「部長が瞬殺って、全国レベルってやっぱり世界が違うわ」


座っている部員が、ヒソヒソと話している会話が聞こえる。

その会話を集めてみると、今立っている人は美原海麗(みはら うらら)さんで、昨年の中学空手選手権の全国大会優勝者であるらしい。

更に、彼女自身がAランクの身体強化(ブースト)異能力者であると。空手部は兼部していて、本当はシングル部の部員である。校内ランキングも5位らしいので、制服なら赤地に白のリボンとのこと。彼女の様な人を、通称でホワイトナイトと呼ぶらしい。


少し日に焼けた肌と跳ねるポニーテールが、彼女の溌溂としたイメージを作り出す。そのイメージ通りの白い歯を覗かせ、輝くような笑顔で周囲を見回す。


「次は誰?君?」


まるで獲物を探すかのように、目を光らせて次の相手を求める彼女。

このように、たまに顔を出して空手部員に稽古を付けてくれるのだとか。気が引き締まるのは良いんだけど、強すぎて、ねぇ…。とのため息交じりの声が聞こえる。

気付くと、部員の皆さんは下を向いて、美原先輩に選ばれない様にしている。


美原先輩が、少し残念そうな顔でみんなを見て、

蔵人と、目が合った。


蔵人は入口付近で突っ立っていたので、美原先輩を正面から捉えてしまった。


「お、新入生?入部希望?」


美原先輩が、弾ける笑顔で聞いてくる。


「部活見学で来ました」


蔵人が返すと、そうかそうかと言いながら、蔵人を優しく手招く美原先輩。

余りに自然体で近づき、蔵人の手を引っ張っていくので、蔵人もついそれに従ってしまう。


「空手は?やった事ある?」

「...かじった程度には」


蔵人は、一瞬返答に困った。

蔵人としては、空手経験は無かった。だが黒戸としてなら、今までの異世界放浪記で大変お世話になった拳法の一つである。

豪快なオーガや、見た目が子供の吸血鬼から教わり、魔物や悪魔との戦闘でも使わせてもらった。剣が使えない黒戸であるから、徒手の中でも攻撃特化の空手には大変助けられた。


なので、とてもではないが、素人ですと虚言を吐くことは出来なかった。

蔵人がフィールド入りをすると、周りの声が色めいた。


「わぁあ。男子が来てくれた」

「ヤバっ、私、今汗臭いよ」

「あー、男子来てくれるって分かってたら、こんな下着付けて来なかったのに」

「ねぇ、入ってくれるかな?」

「マネージャー?部員?」

「あたしの背中を押してくれるなら、どっちでも良いっ!」

「ああ、準備運動が楽しみ〜」


好反応を通り越してお盛んになってきてしまった。

本当にこの部活、ファランクスがダメだったら入るのか?ちょっと考えさせてもらおう…。


そんな事を考えていると、蔵人を真ん中まで連れてきた美原先輩が蔵人と対面になる。

ここは先ほど、先輩達が対峙していた位置。フィールドのど真ん中に立たされていた。


「良いね。じゃあ、構えて」

「…はい」


蔵人は腰を低くして、構える。

美原先輩の笑顔が引っ込み、少し冷たい微笑みに変わる。


「へぇ」


冷たくなった表情に、少し赤みが刺す。


「打ってきなよ」


美原先輩が、深く構えながら蔵人を誘う。

かなり防御に寄った構え方だ。見覚えのない構え方で、何処となく揺蕩(たゆた)う波を連想させる。ゆらゆらと儚く、それでいて、隙がない。

こいつは、強いな。


蔵人は意を決し、ひとつ、頷く。

それと同時に、右足をすり足で前に。態勢が前に向き、そのままの勢いを利用して、左拳を突き出し、相手の腹部辺りを急襲する。

正拳突き。


真っすぐに伸びる一発の拳。だが、美原先輩は体を半身にして、蔵人の拳に軽く手を添えるだけで、その一撃を軽く払いのけられてしまった。

軽い動作、流れる動作。

やはり強者。


それでも、蔵人は動じない。今の一撃は牽制の為の一手なので、力を入れていない。

逆に、美原先輩は払った事で僅かな隙を生む。その針の孔の様な隙に、蔵人は蹴りをねじ込む。

すかさず、美原先輩が蔵人の蹴りを受け流す。と、彼女はそのままの姿勢で、中段の回し蹴りを繰り出してくる。


蔵人はそれを、防がない。

それどころか、前に出ながら、彼女の蹴りを腹で受ける。

重い衝撃が腹部を襲う。だが、動きを阻害される程の一撃ではない。相手の懐に入りながら受けたので、威力が少し減っていた。


蔵人は最小限の動きで、美原先輩の胸部に…胸部は装甲がぶ厚すぎるので、鳩尾に右の拳を振り下ろす。

超至近距離での一撃。それは、避けることも、防ぐ事も出来ない。


確実に、入った。

そう思った直後。

激痛。

右拳から。


蔵人が急いで拳を引くと、美原先輩の腹を殴った拳が、真っ赤になって潰れていた。

咄嗟に、後ずさる蔵人。

人間の腹とは思えない硬さ。まるで、金属板でも叩いたかのような衝撃。

蔵人が美原先輩を見ると、彼女は少し悲しそうな顔でこちらに頭を下げた。


「ごめん。咄嗟にブーストしちゃった…」


やはり、異能力か。

蔵人は合点がいって、気持ちが幾分か楽になった。

周囲から小さな悲鳴が上がる。


「ブーストって、ええっ!」

「美原先輩が、異能力を使うなんて...」

「格闘男子…良い…」

「分かる。強い男の子って、なんか良いよね」

「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!」


ガヤガヤと、煩くなる周りの部員達。

だが、蔵人には関係ない。

相手が異能力を使うなら、次は、俺も。

蔵人が、まさに盾を使おうとした矢先。


美原先輩が構えを解いて、両手を振って蔵人を制止させる。


「ダメダメ、お終い!もう終わり!早く手、見せて」


美原先輩は有無を言わさず、蔵人に近づき右手を取る。

血がどくっどくっと流れ、真っ赤な手の甲には白い物も見えていた。

開放骨折か。いたたっ。


「ああ〜、やっちゃった。君!早く保健医連れて来て!いや、電話して来てもらって!」


美原先輩がテキパキと部員に指示を飛ばして、蔵人に向き直る。


「ごめんね。とりあえず、腕を挙げて座って。すぐ先生来て治して貰うから。ホントごめんね。痛いよね」


蔵人は言われた通りに座った後、ゆっくり首を振る。


「これくらい大丈夫ですよ。あまり気にしないで下さい」


実際、出血はそれほどでもない。止血しなくても死にはしないだろう。手の感覚も勿論あるし、切断する必要も無いと思う。

ただ、ちょっと痛いのと、段々と気持ち悪さが際立ってきたくらいだ。


そうしていると、直ぐに白衣の男性が来て、蔵人の拳を再生させた。ズタズタだった皮膚がくっ付き、見えていた骨が筋肉の繊維に包まれていく。

まるでビデオの逆再生を見ている気分だった。これが治癒の異能力か。特区の外で見たことはあるが、これ程早く治ってはいなかった。恐らく、この保健医が高ランクなのだろう。


処置が終わると、真っ赤な拳を動かしても、全く痛みはなくなっていた。気持ち悪さはまだ残っているけど、これは出血によるものだろう。仕方ない。



その後は、気分の回復も兼ねて、空手部の練習風景を見学させて貰った。

他の体育系部活と同様に、女子部員が殆どを占めていたが、活気は凄く、蔵人が気圧されそうになる声量とキレだった。

新入部員が嬉しいのか、皆さんチラチラこちらを盗み見して来たりはしたが。


体を鍛え、技を磨くには、やはりこの空手部は都合良さそうである。

明日、ファランクス部にお祈りされたら、ここに入るのも選択の1つ。ただし、先輩方のこの視線だけは、どうにか躱さないとイケナイが…。



見学時間が終わり、蔵人が帰る為に席を立つと、美原先輩がわざわざ見送りに来てくれた。練習中も、蔵人に話しかけたりと、何かと気を使ってくれていた。


「もう帰るの?今日はごめんね。1人で帰れそう?」

「ええ、大丈夫です。このとおり、完全に治っていますので。あまり気に病まないで下さい」


そう言って蔵人が右拳を目の高さに上げると、美原先輩は少し驚いた顔をして、表情を崩す。


「君は強い子だね。また来てくれるかな?って、正式な部員じゃない私が言うのもなんなんだけど」


美原先輩のお誘いに、


「第1希望の部活があるので、先ずはそこの結果が出ないことには、何とも言えません」


蔵人は正直に答える。

蔵人は、美原先輩達に見送られながら、空手部を後にした。

ファランクス部の感触は、可能性がありそうですね。

空手部も実りがありそうですけれど、異能力の訓練にはなるのでしょうか?


イノセスメモ:

・開放骨折…骨折した骨が皮膚を突き破ってしまう重度の骨折。主に強い力で固い物を殴り過ぎた時などに起きる。ブーストとは、筋力の増強だけでなく、皮膚の硬化も出来るのか?

・????…ファランクス部部長。Bランクのリビテーション(浮遊)異能力者。他の女子選手とは違い、何故か主人公に色目を使わないが…?

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