416話~3階に行こう!~
選手村へ入村した初日。蔵人達は施設内の探索に繰り出していた。
どんな施設が建てられているのか。また、どんな海外選手が来日しているのかを調査するためだ。これから1か月近くを過ごす村だから、状況把握しておいて損はない。
ただ、トラブルになっては大変なので、大人のスタッフにも数名着いてきて貰っている。彼女達の中にはテレパシストもいるので、言語の壁はクリア済みと思っていい。
準備万端でホテルから出て街道を歩いていると、そこはビル街であった。
日本選手が過ごすタワーホテルと同じような建物がずらりと立ち並び、その建物達の正面玄関には、それぞれ大きな国旗がはためいている。
この赤や黄色が鮮やかな国旗は、どこの国の物だろうか?
「しっかし、こんな所にホテル街なんかあったか?」
鈴華が上を見上げ、夏の日差しを眩しそうに手で遮りながら疑問を口にする。
それを、我らが新聞記者が答える。
「先月完成したみたいだよ。オリンピックの為にって、3ヶ月掛けて作ったんだって」
「3ヶ月かぁ。えらく掛かったんだなぁ」
いやいや。これだけの建造物群を建てるのに、たった3ヶ月って早すぎるぞ?
2人の会話に、蔵人は驚きで目を見張る。
流石は異能力世界。史実でこれだけの建造物を建てるとなったら、きっと2年は必要だろう。それをたった3か月とは…。
【おーい!ブラックナイトォー!】
蔵人達がビル群に圧倒されていると、何処かから声を掛けられた。
何処だろうと周囲に目を配ると、向こうのホテル前で手を振る2人組が見えた。短い銀髪と長めの銀髪を輝かせた2人組だ。
あれは…イギリスのコンビネーションカップで戦った、チームエーデルワイスのエレノアさんとベティさんだ。2人の後ろでは、赤字に白十字の国旗がはためいている。
この国旗は分かるぞ。スイスの国旗だ。
【なんだよ、なんだよ。やっぱお前らもオリンピックに出場するのか?もしかして、チーム戦かセクション戦で出るなんて言い出すんじゃないだろうな?】
【私達は、セクション戦に出る予定なんです】
ベティさんが探るように見てきて、後から追いついたエレノアさんが補足してくれる。
どうも、我々が敵になるのでは?と勘ぐっているみたいだ。
蔵人は鈴華達の前に出て、オーバーリアクション気味に首を振った。
「ご安心を。僕達が出るのはファランクスだけですよ。それ以外の競技に出場するつもりはありません」
【ファランクス?それにしちゃ、人数が足りない気がするけど?】
ちょっと緊張が解かれたベティさんは、蔵人の後ろを見て不思議そうにそう言った。そして、慶太の姿を見て【うっ…】と嫌そうな顔をした。
土ダルマにされた事を、まだ気にしているのだろうか?
「これで全員ではありませんから。ここにいるメンバーは、僕と同じ学校の学友だけなんです」
厳密に言うと、海麗先輩だけは高等部だから、学友と言ってしまうのはちょっと違うのだがね。
【ええっ!?同じ学校?ブラックナイトの学校って、異能力専門学校なのか?】
目を真ん丸にして驚くベティさん。
専門学校って、我々はまだ中学生だぞ?
目を白黒させるベティさんに、蔵人は桜城が普通の私立学校だと伝える。すると、今度は黙って首を振るだけになってしまったベティさん。
そんな彼女を見て、エレノアさんが困った笑みを浮かべる。
【私も驚いているわ。オリンピックに出るような人達は普通、専門の機関か有名なコーチの元に付く事が多いの。だから、一般の学校から大勢の選手を送り出すなんて、今まで聞いたことがなかったわ】
そういえば、アメリカでエメリーさんも似たような事を言われていた。
他国のファランクス選手は通常、専用のリーグに入ってからオリンピックにスカウトされると。
日本は異能力後進国であるが故に、そう言うルートが確立しておらず、こうして学校単位での出場となるのだろう。
蔵人がそう説明すると、ベティさんは再び【いやいや】と首を振った。
【それにしても多いよ。だってファランクスって13人の競技だろ?君達だけでその半分以上を賄っているじゃないか】
【セクションなら、補欠も入れてフルメンバーね】
【チームなら2チームも出来ちゃうよ】
ああ、分かった、分かった。こちらの認識が異常なのは分かりましたから。
確かに、桜城選手は異常に多い。獅子王だって選ばれた選手は3人。他の学校なら1人か2人だ。それは、海外からしても特異に見えるらしい。
【まぁ、でも、それくらいじゃないと僕たちも困るよ。僕らエーデルワイスを倒した君達が、オリンピック選手に選ばれなかったりしてたら、スイスファランクスチームに笑われちゃう】
【みんなに散々言っちゃったものね。日本にはブラックナイトって凄い選手が居るから、当たったら気を付け…】
【ああ!エレノア!それ以上は言わないで!】
ベティさんが慌てて、エレノアさんの口を塞ごうとしている。
仲が良いのは良い事だが、2人のそれはちょっと近過ぎる気もする。
まぁ、人それぞれだけど。
【じゃあな!桜城!時間があったら応援に行ってやるよ。あっ、でも、スイスチームと当たるときは応援出来ないけどな!】
【すみません。失礼します】
ワチャワチャしながらも、ベティさん達は去っていく。
スイスのファランクスチームもかなり強いと鶴海さんから聞いたことがあるけれど、50近くの国が参加するファランクス大会において、果たして当たるのだろうか?
エレノアさん達と別れた蔵人達は、選手村の中心部にまで足を伸ばす。そこには、大型ショッピングモールと巨大運動施設が併設されていた。
さしずめここは、村の商業区らしい。
「どーする?なんか買ってくか?」
「買うって言ってもさぁ…朝食も夕食も、ホテルで用意してくれるみたいだし…」
「必要な日用品も殆ど持ってきとるしなぁ。なんも要らんのとちゃう?」
桃花さんも伏見さんも、鈴華の質問に首を振る。
鈴華はそれを受けて「んじゃ、こっち行こうぜ」と運動施設の方へと足を向ける。
〈トレーニングセンター〉と、入り口に大きく書かれている。
その看板の下、施設の入口辺りを塞ぐように、団体さんがたむろっていた。昭和のヤンキーみたいな事をしている彼女達の服装は、真っ赤なジャージの胸に黄色い星マークがキラリと光っていた。
うわっ…この人達は…。
【うん?なんだお前ら?練習しに来たのか?】
その内の1人が蔵人達に気付いて、おもむろに立ち上がる。すると、他の人達も立ち上がって通せんぼし始めた。
【ここは今、あたいらが使ってるから他所に行きなよ】
【今って言うか、オリンピック中はずっと私らの領域だからさ、練習したけりゃ外のWTCを使うんだな】
一方的にまくし立てて、あっち行けと手でジェスチャーする赤ジャージ集団。
その様子からは、こちらを馬鹿にしている風でもなく、さも当然のような態度であった。
これが、異能力界1位の傲慢さか。
肩を怒らせ始めた鈴華を押さえ、蔵人は心の中でため息を吐きながら前に出る。
「それはおかしいですね。この設備は予約制らしいですけど、1国が使える時間は制限されている筈です。それに、施設内には大小様々な部屋が沢山用意されていると聞きましたが?」
仮令100人の選手団を引き連れて来たとしても、1国だけで埋められる程小さな設備ではない。ましてや、目の前にいるのは精々10人。中部屋1つで十分な人数だ。
蔵人が疑問を投げかけると、赤ジャージ達は顔を見合わせ、肩を竦めた。
【日本人っぽいよ】
【マジか、めんどくせぇ。日本人はルールに厳しいからな。言い合うだけ損だぞ】
【韓国チームだったらなぁ、おちょくって泣かせてやったのに】
どうやら、向こうもルール違反を認識しているらしい。それでも平然としていられるその神経は、見上げたものである。
蔵人が呆れていると【ってかこの子、男の子じゃね?】と物騒な声が上がる。
【マジだ。こいつ、男だぞ!】
【日本って男子選手も居るんだねぇ】
【お前ら知らないの?日本には黒騎士って男の選手が居るんだよ。劉の双子が言ってただろ?】
わらわらと中国選手達が集まってきてしまい、それに合わせる様に鈴華達が蔵人の前に立ちはだかる。
おい!慶太。お前が前に出ちゃいかんだろ!
「なんだよ、お前ら。黒騎士に興味があるのか?」
「あったとしても、自分らみたいな横暴な奴に会ってくれるとは思えへんけどな」
鈴華達が勝ち誇った様に笑う。
それに、中国選手達も【ふんっ!】と鼻で笑って張り合う。
【別に、どうでもいいさ。劉の姉を倒したならまだしも、あのちびっ子どもを倒した程度じゃ意味がない】
【そもそも、本当に男かも怪しい所だよ】
【男の選手って、みんな顔を隠してもいいんだろ?うちらの国でも、偽物が大量に湧いているからな】
【ちょっと声が低いだけで、すぐ男だって言い張るもんね。うちの一番上の姉ちゃん、それで嘘がバレて袋叩きにされてたよ】
【あれは、ユン姉さんが悪いよ】
なるほど。中国では偽物の男性が横行しているらしい。日本でも、ネットで男性のふりをするネナベが流行っていて、バレたら炎上なんて話も聞いたことがある。きっと、中国はそれ以上なのだろう。
しかし、これは困ったことになった。中国チームは退く気がないみたいだし、鈴華達も対抗心を燃やしている。
別に、トレーニングセンターに用事がある訳でもないし、ここは強制的に引き剥がすか。
蔵人が盾を出そうとした時、膨大な熱量を感じた。同時に、鳥肌が立つほどの痺れを感じる。
【なぁーにしてんのぉ?君達さぁ】
その魔力の元凶が、トレーニングセンターの入口から出て来て、我々に冷めた目を向けてきた。
燃えるように真っ赤な頭髪を肩まで伸ばした少女が、片手を振りながら薄ら笑いを浮かべている。
その少女に、中国人選手達は一斉に頭を下げた。
【お疲れ様です!王さん!こいつらが中に入れろって煩くて…】
【ふぅーん。おっ、男もいるじゃん】
詰まらなさそうにこちらを見ていた赤髪の少女が、こちらを見て少しだけ目を開く。
【君達の魔力ランクは幾つかな?B?それともAだったりする?】
「どちらもCランクですよ。王さん」
蔵人が返答すると、途端に少女の目が元に戻り、【あっそ】と気の抜けた声と共に視線が外れた。
そして、少女はゆっくりと歩き出して、蔵人達の横をすり抜けて行った。
それを見て、他の中国人選手達が慌てる。
【お、王さん!?あの、どちらに?】
【飽きたから帰る】
【えっ?でも、まだ入ったばかりじゃ…】
【はぁ?】
少女が振り向き、中国人選手達を睨む。
その途端、彼女の周囲が歪んだように見えた。
陽炎だ。彼女の熱量で、周囲の空気が揺らめいていた。
【何?何か言った?お前】
【な、何も、言ってません…】
消え入りそうな声で答えた中国選手。それを受け取ると、少女の陽炎は収まり、彼女は無言で歩き出した。
そんな彼女を、中国人選手達は慌てて追いかける。
彼女達の背中は、直ぐに見えなくなった。
後に残ったのは、彼女達が残したゴミと、ひん曲がった看板とベンチだった。
おいおい。器物損害で訴えられるレベルだぞ?流石に、お漏らしはしていないみたいだけど…。
「…なんか、すげぇ奴らだったな。まるで台風だ」
「それもスーパーセルやな。これは通報案件やろ」
「劉姉妹も凄かったけど、彼女達はもっと凄かったね。特に、あの真っ赤な女の子」
そうだな。あの王とかって呼ばれていた娘は凄まじかった。
あの感覚は、恐らくSランク。陽炎を発生させていたのを見るに、異能力種はパイロキネシスかデトキネシスだと思われる。
そんな選手まで揃えているなんて、流石は世界一位の国力を持つ大国。
…立つ鳥跡を濁しまくっているのは、世界一位としてどうかと思うがな。
「くーちゃん!」
蔵人達が眉間に皺を寄せていると、慶太が慌てた様子で何かを見せつけて来た。
なんだ?そのゴミは?
「これ、中国のお菓子だよ!オイラ食べた事ない!」
うん。お前さんは、どんなことがあっても平常運転だな。
彼のお陰で、蔵人達は少しだけ癒された。
中国選手達が退いたが、すっかり運動施設を探索する気力が失せてしまった蔵人達は、別の場所の探索を行うことにした。
次に行くのは、トレーニングセンター横の商業施設。
「うわぁ!凄い!広いねぇ!」
「おいしそうな匂いがする!」
店内に入ると、桃花さんと慶太が同時に感想を述べる。2人が言うように、大型ショッピングモールも顔負けの広さであり、同時に色々なお店から美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。
「なんや、これだけ広いんに、客の姿が殆どないなぁ」
「選手村の中ですもの。関係者しか入れないから、必然的に人口密度が下がるのよ」
鶴海さんの言う通りだ。ここに来るまでも、道はスカスカだったからね。
加えて、まだ全ての国が揃った訳じゃないだろうから、今は余計にスカスカに見える。
今がチャンス…とも言えるか。
「おっ!なんか珍しいもん売ってるぞ」
「なになに?鈴ちゃん。どれどれ?」
鈴華が飛び出すと、桃花さんがそれに続く。
彼女達が突撃したのは、コンビニみたいな小さな店舗。そこの商品棚から小さな紙パックを掴む。
何だろうか?飲み物?
「そこらじゃ売ってない限定品だぞ。桃の味がめっちゃ濃いんだ。ほら桃、お前も買っとけよ」
「どろり濃縮?う~ん。なんか、名前が美味しそうじゃないんだけど」
そうだな。あと、あまり商品名を言わないでくれ。訴えられそうだ。
そんな珍しい物も売っているモールだが、みんなは眺めるだけである。
「みんなは何も買わねぇのか?」
濃縮ジュースを飲みながら、鈴華はみんなを振り返る。
それに、伏見さんが首を振る。
「そう言われても、ホンマに欲しいもんなんてないんや」
「折角ここまで来たんだし、他の場所も見て行かない?」
海麗先輩の提案に、みんなは乗る事にした。
1階は鈴華が突撃したコンビニ以外、食料品やファッションのお店が入っており、2階が雑貨や家具。3階が飲食店やゲームセンターがあり、屋上階には映画館やカラオケ店なども入っているそうだ。
「3階に行こう!」
慶太が真っ先に手を挙げる。
それを、伏見さんが訝しそうな目で見る。
「何する気や?くま吉」
「食べ物屋さん巡りしよう!オイラ、お腹減ってきた」
「自分は何時も、腹ぺこやないか!」
うんうん。その通りだ。
蔵人も大きく頷く。
今は夕方になりつつある。ここで食い倒れてしまっては、ホテルの夕飯が入らなくなってしまう。それは失礼というもの。
「じゃあ、ちょっとだけ。1口だけ」
だが、今日の慶太は粘る。そんなにお腹が減ったのか、彼の薄目が開かれて、キラキラした目で見つめ返されてしまった。
…ちょっとだけだぞ?
という事で、蔵人達は3階に移動した。
すると、そこは別世界であった。
「わぁ。ここも凄いね」
「世界中のお店が集まっているわね」
鶴海さんの言う通り、世界各国のお店が並んでいた。
和洋折衷は勿論、インド調理もあるしネパール料理もある。ボルシチという事は、あそこはロシア料理専門店か。
様々なジャンルのお店が立ち並び、これは来て良かったと、親友に感謝する蔵人。
と、その時。
「お客様!お待ち下さい!お客様!」
何処からか、呼び止める声が聞こえた。
ロマノフ家みたいに、また厄介な外国人が言い寄ってきたか?と、蔵人は身構えたのだが、どうやら我々に対する声掛けではなかった。
蔵人達がさっき通りかかったお店から、店員が慌てて飛び出してきた。その女性店員は、向こうを歩く外国人の集団に向けて必死に手を振っていた。
なんだ?食い逃げか?
「お客様!まだコースは始まったばかりですのに、もうお帰りになるなんて…一体、どうされたんです!?」
ああ、違った。お残しは許しまへんで!パターンだった。
訳が分からないと訴えかける店員さんに、外国人集団は立ち止まって振り返る。彼女達の表情は、侮蔑と若干の怒りが浮かんでいた。
【どうもこうも無いわ。このお店の料理は、私達が食するに値しないものよ】
【なんなの?あのみすぼらしい料理は。あんなもの、フレンチとは呼べないわ】
ああ、なるほど。料理の出来が悪くて、食べずに帰ろうとしているみたいだ。
何となく、彼女達の発音は本場のフランス語っぽく聞こえる。日本のフレンチ紛いの料理に憤慨しているみたいだ。向こうの人は、食事に対する情熱とプライドが高いからね。真似するだけではダメだったみたい。
だが、東京特区の中で、しかも選手村のシェフの質がそんなに低いだろうか?
蔵人が疑問に思っていると、店員も憤ったように首を乱雑に振る。
「みすぼらしいって、貴女達一口も食べていらっしゃらないのに、何が分かるというのです!?シェフだって、本場フランスで15年も修行を積んだ人に来てもらって…」
【でも、アジア人でしょ?】
店員の言葉を、金髪の女性がピシャリと止める。
【食べなくても分かるわよ。アジア人に作られた料理が、私達の繊細な舌に合うはずありませんもの】
…おや?
【猿真似は所詮、猿真似ってこと。どんなに外側を似せても、伝統あるフレンチの味を貴方達アジア人が作れるようにはなりませんわ】
【それに、お店の雰囲気もなっていませんでしたし。店内の装飾品は安っぽいですし、他の客の服装もジーパンにTシャツって…見ていて呆れてしまいましたわ】
そう言う彼女達も、運動着で来ているんだけどな。
これはあれだ、人種差別って奴だ。イギリスやアメリカでもあったけど、彼女達のそれはより表面的な物。
【はぁ、やはり期待外れな国でしたわね、日本って】
【元々、期待なんてしていませんでしたわ】
【ホテルに帰って、本国から連れて来たシェフに何か作らせましょう】
【もう、ここには二度と来ませんわ】
そう言って店を去る彼女達の表情には、既に怒りの色は無くなっている。その代わりに浮かんでいたのは、勝ち誇った様な笑みであった。
日本人をあざけわらって満足したのかな?随分と良い趣味をされている。
「なんだぁ?あいつら。好き放題言いやがって」
「待て待て」
鈴華が肩を怒らせて、帰って行く彼女達を追いかけようとした。
それを、蔵人は間一髪で止める。
「なんだよ、ボス。あいつらの肩を持つのか?」
鈴華は鋭い視線をこちらにぶつけてくる。
今、俺が持っているのは、お前さんの肩だけどな。
「怒っても無駄だ、鈴華。あの人達は最初から、この店をいびる為に来ていたんだろう。君が何を言おうと、日本人と言うだけで蔑んでくるだろうさ」
「だからって、あのまま野放しにしておくのかよ?」
鈴華は息巻くが、正しい事がそのまままかり通るとは限らないのがこの世界の理不尽な所だ。その理不尽さを、一々正していてもキリがない。正そうとしても、本当に正しい方向に曲がってくれない事の方が多いし。
「だから、我々に害が出ない内は、好きにさせておく方が吉なんだ」
「んじゃあ、害が出たらどうすんだ?翠とか、桃とかによぉ」
「うん。そうだな、その時は…」
蔵人は去って行く金髪集団の背中を見て、小さく笑う。
「曲がってもらうしかないな。強制的に」
結局は力。
腕力、財力、権力。それらを持つ強者が正義となる。
「あの人達と直接戦えるかは分からんが、見せつけてやれば良かろう。オリンピックで、我々の強さをな」
「おう、いいねぇボス。やっぱあんたは、そうでなくちゃな」
鈴華も機嫌を直して、肩を回す。早く戦いたいと、全身で表現している。
蔵人も同じ思いだった。今週末の開会式。そして、予選リーグの抽選会が待ち遠しく思えた。
各国が集まりだして、ギスギスし始めましたね。
「中国は厄介だな。選手にSランクがいるのか」
シングル戦の選手?それともファランクスにも関わってくる?
まだ分かりませんが、流石は世界一位の国ですね。




