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41話~絶対に逃がさないわ~

ご覧いただき、ありがとうございます。

かなり多くの方にご覧いただけている現状、有難いと同時に少々緊張しております。

そんな中…今回は文量多めです(8000字越え)

すみません(小声)

部活紹介が終わり、教室に戻ってきた蔵人達を待っていたのは、とても長い沈黙であった。


「「「「.....................」」」」


クラスの全員が、何も書かれていない大学黒板と睨めっこをしている。

その様子を見渡した先生が、黒板の前に立ちながらため息を着くと、教卓に体を預けた。


「貴女達、もっと積極性を持ちなさい。このままではいつまで経っても決まりませんよ?」


先生が呆れた様な、困った様な、どこか焦った様にも聞こえる声をみんなに振りまく。

今、何をしているかって?委員会の役員決めをしているのだ。

学級委員、保健委員、図書委員、放送委員、購買委員、体育祭委員、文化祭委員等々があり、それぞれの委員は各クラスから2人選抜されて、他のクラスの委員と共に活動する。

例えば、図書委員だったら図書”館”の貸し出し管理を任されたり、体育祭委員だったら体育祭の企画、運営に携わることが出来る。


その中でも、先ず始めに決めるべき委員はこれ、学級委員長。

バンッ!と勢いよく先生が切り出したこの花形委員だが、いきなり壁にぶち当たることになる。

誰も、手を上げないのだ。

そりゃそうだ。まだ1年生で、右も左も分からずに、責任だけが大きい委員長などやりたくは無いだろう。蔵人だって、時間を取られそうだな~と思っているくらいだ。


「困ったわね。矢代さん、湯島さんはどう?」


このクラスのリーダー的存在である、Bランクの2人に的を絞った先生だったが、2人とも顔を見合わせてしまった。

そんな2人を見て、先生も眉を更に寄せて更に困った顔をする。彼女は、何かいい手は無いかとクラス全員の顔を見回して、


「う〜ん…じゃあ、副委員長を決めましょう!副委員長は男子から出て下さい」


佐藤君辺りを見た先生が、閃いた!と言わんばかりにそう言うと、クラス中がどよめく。

男子が副委員長なら...と言う声が、各所で聞こえてくる。

そんな中、


「先生、何言ってるんだろうね?」


そんな声が、後ろから聞こえた。

蔵人は驚いた。なにせ、いつも優しい西風さんの声が、まるで先生を非難している様に聞こえたから。


蔵人が首をグイッと振り向かせると、蔵人の動きに驚いた西風さんの顔が見えた。

おっと。


「驚かせてごめん、西風さん。ただ、今の発言の意味を聞きたくてね」

「今の?」


西風さんがポカンとしているので、蔵人が説明する。

すると、


「えっ?だって、男の子に委員を任すなんて、可哀そうだよ」


西風さんが言うには、男子は学校に来ているだけでも十分に凄いらしい。女子生徒に囲まれながらも学園生活を送るというだけで、相当な負担を強いられていると。

他校、いや、この桜城でも、それが嫌で不登校になったり、保健室や部室で大半の学園生活を過ごす子も珍しくないのだとか。


「だから、それに加えて仕事を増やすなんて無茶だし、やるなんて言う子はいないと思うよ」


西風さんの意見。個人の意見。だがそれは、どうやら間違っていない様だった。

彼女の少し後ろに座る鈴木君の顔が、蔵人の目に入った。


彼は青い顔で俯いており、机の上で握られた拳は小さく震えている。

佐藤君も同じような顔だ。今にも泣きそうな顔で、小さく何かを呟いている。

窓際に位置する渡辺君は、空を見上げている。いい笑顔だ。昇天しそう。


西風さんが言う通り、彼らは本気で委員をやりたくないみたいだ。それだけ、この学園生活に余裕がなく、女子に囲まれた生活に嫌気が指しているのだろう。

思い返せば、佐藤君達は今日も女子達からの挨拶に縮こまり、昼食や移動教室では男子同士でくっ付きながらお互いの身を守り合っていた。渡辺君なんて、教室に入って来た時から気配を消して、女子達から完全フェードアウトを決め込んでいた。


彼らは、蔵人や慶太の様に、女子生徒達と馴染むことがあまり出来ていないように見えた。

まぁ、慶太の場合は、馴染んだと言うか、取り込まれたと言う方が正しいか。

だが、それで本当にいいのか?嫌だ嫌だと逃げ惑うだけでは、何も掴めないぞ?


蔵人は前を向き、手を上げる。

彼らに少しでも解決策を示さねば。こうして男子自ら行動し、俯いてばかりではダメだと気付いて貰わなければ。


「えっと、巻島君?副委員長やってくれるの?」

「何なら、委員長でも良いですよ」


こうなりゃやけだ。副委員も委員長も一緒。どうせ皆やりたがらないなら、俺が委員長になってバシバシ他の役職決めてやる。そして、早く部活を見に行こう。

蔵人の意志は固く、伸ばした手は真っすぐだった。

先生が飛び上がる。


「まさか、本当に男子が委員になってくれるなんて!先生感激です!皆さん、巻島君が副委員長をやってくれますよ!拍手!」


おい、止めろ!こんなことで拍手するんじゃない!ここは小学校か!?


蔵人は悶絶するが、拍手はなかなか鳴りやまない。

たかが委員の立候補だけで、これ程恥ずかしい思いをするとは思わなかった。


「はい、じゃあ次は学級委員長ですが、やりたい人はいますか?」


しかも、蔵人の委員長案は却下されている。

これじゃまた、沈黙の教室じゃないか。まだまだ部活見に行けないぞ。

蔵人が机に突っ伏して落ち込んでいると、先生が唸った。


「え〜...委員長は結構面倒な役ですよ?絶対にやり遂げる意志のある人だけ挙手してください」


何を言っているんだ?それじゃあ余計に誰もなりたがらないぞ?

そう思って、蔵人が顔を上げると。


多くの女子生徒が手を挙げていた。

クラスの半数くらいか?って、佐藤君も挙げてるじゃないか。おお、良かった。元気になったみたいで。


「ええっと、じゃあ、委員長は矢代さん。お願いします」

「「「ええぇ〜〜!!」」」


先生が独断で委員長を選抜すると、女子生徒達からブーイングの嵐が巻き起こる。

だが、先生は取り合わず、矢代さんと蔵人を前に呼んで、その後の司会進行を任せる。


早速、保健委員、図書委員、美化委員、放送委員を決める。それぞれ、やってもいいと言う娘がいたので、すんなりと決まった。放送委員は、言わずもがな、若葉さんが放送の「ほ」の字で飛びついた。それを見た蔵人は、声を殺して笑うのに必死だった。


次に決める役員は、体育祭実行委員。体育祭は毎年10月に行われる。小学校で言う所の運動会だ。全校生徒を幾つかのチームに分けて様々な競技を行い、チーム事に得点を積み重ねていく。最終的に得点が高いチームが優勝。賞品は、何だったかな?小学校の時は、地元商店街の割引券だったけど、流石にこのお嬢様校ではグレードアップしていそうだ。


「では、体育祭実行委員は...」


矢代さんが言い終わる前に、皆が挙手し始めた。

とても人気らしい。面倒さは学級委員と変わらないのに、何故だ?

最終的に、合計8人が立候補した。


「さて、どうやって2人に絞るか。投票?それともジャンケンか?どう思う?巻島君」


矢代さんが聞いてくるので、蔵人は少し考えてから発言する。


「投票は、まだ全員が互いの事をよく知らないので、オススメ出来ません。そうなるとジャンケン等ですが、その前に聞きたい事が」

「うん。聞きたいこと?」


矢代さんの疑問に、頷く蔵人。


「皆さんは何故、この委員はやる気があるのでしょうか?」


体育祭実行委員もかなり面倒な仕事だ。チーム分けを決めたり、種目を決めたり、ルールを決めたり、点数を決めたり。その他にも、怪我の配慮や保護者の対応や防犯対策まで関わってくる。仕事量で言えば他の委員の比では無い。濃密さで言えば、学級委員長の比でもない。それなのに、どうして。

その疑問に、矢代さんはなんでもないという風に答えてくれた。


「体育祭実行委員長が、安綱先輩なんだ」


どういう事?

蔵人が詳しく聞くと、安綱先輩と一緒に仕事がしたくて、手を上げたのではないかという事。安綱先輩は、女子生徒の間でとても人気があるのだとか。


でも、そんな動機で立候補しても、長くは続かない可能性がある。

蔵人は、手を挙げてくれた人に、もう一度体育祭実行委員の大変さを伝えて、本当に出来るのかを問う。すると、8人だった挙手が、3人まで減った。委員は2人なので、後はジャンケンでいいだろう。


「ジャンケン…ポンっ!」


殺気すら感じられる、恐ろしい圧のジャンケン大会が急遽執り行われ、見事勝利した2人が諸手を上げて喜んでいる。

何はともあれ、これで体育祭委員は決まった。次は文化祭実行委員だ。これが最後の委員決めなのだが、

打って変わって、誰も手を挙げない。


「これは、何故でしょう?」


蔵人の問に、やはり直ぐに答えてくれる矢代委員長。


「元々文化祭はあまり人気がない。異能力を使う機会も少ないし、喫茶店で料理とか、裁縫してコスプレとか、男子が好きな事だし」

「そんな...」


蔵人は驚いた。

男子と女子の趣味嗜好が真逆な事もそうだが、文化祭自体に人気が無いなんて。

文化祭は学生の特権であり、青春のアルバムを作る上で必ず映える1ページだ。普段の学び舎で、各々が趣向を凝らしたもてなしの企画を披露する。喫茶店、お化け屋敷、展覧会、ゲーム屋、バンドや合唱、劇等、考えるだけでワクワクするような企画を、このクラスの仲間達と作り上げる。

その中心人物が文化祭実行委員だ。みんなを導き、1つの物事を達成させる。

そりゃ、大変な事もあるだろう。だが、その達成感は人一倍だ。体育祭実行委員は委員全員で体育祭を企画していくが、文化祭実行委員は委員とクラスだけで1つの企画を動かす事が出来る。


「クラスをまとめるのは俺達も手伝う。どうだろう?やりたい人という人はいないかな?」


蔵人の熱弁が終わるか終わらないかの瀬戸際で、手が勢いよく上がる。


「私、やってみたい!」

「うちも!」


廊下側の女子2人が、手を挙げてくれた。

蔵人は嬉しかった。やってもいい、じゃなくて、やってみたいと言ってくれた事に。

これで無事に、学級委員の初仕事が終わった。


「ありがとう、巻島君。助かったよ」


席に戻る時に、矢代さんが小声でそう言ってきた。凛々しい美少女といった彼女が、小さく微笑む姿は、華やかでいながら年相応に見えた。



各委員が決まれば、直ぐに帰りのホームルームとなり、これが終わって漸く放課後だ。今日の放課後から、部活見学が始まる。

部活見学期間である4月中旬までなら、好きな部活に何度でも見学することが出来る。

所詮は見学なので、見学スペースから部活をしている先輩達の姿を見るだけだが、部活の雰囲気や、練習の合間で顧問や部員に質問をしていいそうだ。

気になる疑問を事前に解消して、4月下旬の体験入部期間で部活の空気を感じ、ゴールデンウイーク明けからは正式入部となる。

それまでに入る部活を最低一つは決めなければならない。


ちなみに、体験入部となると部活の練習に参加出来る様になるが、期間が短く、参加出来るとしても1つか2つが限界。部活を選ぶと言うより、本格入部前の準備と言えそうだ。なので、この見学の間に入る部活を絞る必要がある。

これ全部、オリエンテーションの説明時に聞いた事である。


蔵人が席を立ち、班のみんなに挨拶しようと振り返ると、既に若葉さんの席だけがもぬけの殻であった。


「は、早い...」

「若ちゃんは多分、新聞部に行ったんだよ」


蔵人が呆然としていると、西風さんが呆れた声で笑う。

なるほど、だから昨日も颯爽といなくなったのか。

いやいや。他人事ではないぞ。俺も行かなければ!

蔵人は期待を胸に、教室を飛び出した。



飛び出した、までは良かったのだが…。

結果は、散々な物だった。


「えっ?部員として入りたい?マネージャー希望じゃなくて?」

「はい。練習に参加できる部員として、可能であれば選手候補として部活に入りたいと考えています」

「それ、冗談よね?男子がシングルの選手なんて、聞いたこともないんだけど…」


半笑いで、蔵人に同意を誘う女子生徒。

彼女のその顔に、蔵人はただ真剣な顔を返すだけ。すると、彼女もそれが冗談ではないと分かったのか、首を振って感情を離散させようとする。


「あのね、悪いけどうちは強豪校だから、異能力推薦でもない人を入れる事なんて滅多にないの。そもそも、男の子を選手で入れるなんて、聞いたことないわ」


いざ行かん!と勇んで踏み出した異能力シングル部の部室棟玄関で、壁際にいた女子生徒に話を聞いたら、そう言われた。

とは言え、この娘が意地悪をしている訳でもなさそうだ。


今まで見て来たどの教室よりも豪勢で、整った訓練設備が整っている専用訓練棟。そこで異能力を派手にぶつけ合っているのは、全員が女子。男子の姿は全くな...あっ、端に何名かいるな。タオルやらボトルケースを漁っている様子から、彼らがマネージャーなのか。


蔵人が話しかけた女子生徒は、練習が忙しい中でも蔵人の質問に答えてくれた。

Aランク選手の高崎さんという方だ。3年生で、今年はレギュラーを狙っているらしい。


高崎さん曰く、先ずマネージャーとして入ったら、雑用しか行わせて貰えない。

掃除や飲み物の準備、タイムや魔力計測、試合の録画や動画の分析、他校のスパイ...とにかく訓練なんて受けられない。

仮に、もしも選手に選ばれた部員との異能力戦で勝ったとしても、入れ替わりで選手登録されるなんてことは無いとのこと。マネージャーとして入ったのなら、3年間必ずマネージャー業務のみを受け持つ。


「そもそも、貴方はシールドでしょ?シングル戦でどうやって勝つっていうのよ。男子なのにやる気があるのは凄く良いことだけど、ちゃんとビジョンを持って頂戴」

「は、はい...」


シールドは攻撃が出来ない。そんな固定観念がベットリ付いてしまっているこの世界では、今この場でそれを拭い去るのは不可能だろう。

方法は幾らでもあるが、どれも時間が掛かってしまう。

女子生徒はちょっと悲しそうな顔になって、蔵人に軽く頭を下げる。


「期待に添えなくてごめんね。マネージャーとしてだったら大歓迎よ。Aランク()と面と向かって話し合える度胸もあるし、異能力に前向きな子なんてそうそう居ないからね。親に言われて渋々入っているアイツら全員と交換してでも、貴方が欲しいくらいよ。でも、選手になるのを諦められないんでしょ?」

「折角のお誘いですが、申し訳ありません」


蔵人が深く頭を下げると、彼女は「良いのよ」と手を振って、それを制す。


「そうね。シングル部では無理でも、チームやセクションだったら、男子とはいえシールドなんだから、需要があるかも知れないわよ?大人数の方が色んな種類の選手を求めているし、シングル部(ここ)ほど入部条件が厳しい訳じゃないから、ワンチャンあるかも。行ってみたら?隣の棟だから」

「ありがとうございます!」


救済措置まで示してくれるなんて、なんて良い先輩だろうか。

蔵人はビシッと礼をして、早速、隣の棟に向かった。




だが、何処も似たような物だった。


「部員として入部したい?男子で、Cランクで、シールダーで?」

「…可能であれば、なのですが…」


明らかに不満そうな顔をした女子生徒を前にして、蔵人は慎重に答えた。

選手云々の話は、とてもではないが出来そうにない。

そう思ったのに、女子生徒は若干顔を赤らめて口を尖らす。


「もう!何それ!?新しい遊びなの?!男子達の間で流行ってる遊びなの?!私達に無理難題を押し付けて、どういう反応をするか楽しんでいる奴でしょ?これ!」


ヒステリック気味に言い放つ、彼女。

そんな悪質な遊びが流行っているのか?

蔵人は、桜城上級生の質を疑う。

そうしていると、向こうの方でこちらを伺っている選手達の会話が聞こえてくる。


「部員として入りたいって、本気?」

「冗談に決まっているでしょ?度胸試しでもさせられているんじゃないの?」

「もしそうでしたら、度胸は十分ですわね。部長相手にひるんでいる様子もありませんし」

「だからって、男子を入れるなんて出来ないよ」

「そうそう、チーム部はいつも定員いっぱいになるんだからな。男子なんて入れたら、入れなかった子が可哀そうだ」

「それもあるけど、男子が部員に居たら、きっと他校から笑われるよ。ほら、天隆とか、冨道とか、晴明とか」

「冨道辺りは笑うよりも怒りそうだよね。神聖な異能力戦の地に男子が入ったら汚れる!とかなんとか」

「本当に、頭の固い方々ですわ…」


なるほど、男子が入るとそういうデメリットもあるのか。

感覚としては、昭和までの日本のあべこべバージョンだな。女子が触れると汚れるとか、縁起が悪いと言って、勝負事や特定の場所に近寄らせなかったあの時代。この世界では、その逆が起きているのかもしれない。


そんな風に、蔵人が聞き耳を立てていると、目の前の娘…部長さんがいつの間にか青くなった顔を蔵人に向けていた。


「ご、ごめんなさい。わたし、感情的になっちゃって…。この前、クラスの男の子に酷い事言われて、それで…」


彼女も何かあったみたいだ。それならば仕方がない。


「いえ、こちらも急な申し出をしてしまい、申し訳ありませんでした」


蔵人が真摯な態度で謝ると、部長さんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔でこちらを見返して、呟く。


「えっ…男子が、謝った…」


失礼な。

俺を犬とでも思っていたのかな?

蔵人が少し戸惑っていると、部長さんが蔵人の肩を掴んできた。


「ね、ねぇ君。マネージャーやらない?毎日来なくてもいいから、雑用もしなくていいからさ。偶に来て、みんなに「頑張れ!」って応援してくれるだけでも良いから、ウチのマネージャーにならない?」


なんだそれ?そんなのがマネージャーか?

蔵人はシングル部で言われたマネージャーの仕事と、あまりに乖離したチーム部のマネージャー待遇に困惑する。

すると、部長は更に顔を青くして飛び退いた。


「ご、ごめんなさい!わ、私、男の子の肩に、手を、手が、触れちゃった…」


触れたと言いますか、ガッツリ掴んでいましたけれどね。

しかし、蔵人はそんな事言わない。相手が顔面蒼白でブルブル震えてしまっているから。

あれか?男性恐怖症なのに、無理してしまったのか?特区は男性恐怖症の娘が多いのか?


「大丈夫ですか?先輩。あまりご無理はされない方がよろしいかと。私はもう帰りますので、少し休まれてください」


彼女が男性恐怖症なら、無理して付き合わせてしまったことになる。彼女の為を思うなら、この場を直ぐに立ち去り、彼女の負担を減らすのが礼儀だ。


そう思って蔵人が踵を返すと、背後から、再び蔵人の肩に鷲の爪が食い込む。

振り向くと、部長だ。部長が青かった顔を赤らめて、蔵人の肩を鷲掴みしていた。


「に、逃がさないわ。こんな最優良物件、絶対に逃がさないわ。是非チーム部のマネージャーに…いえ、私個人のマネージャーにして、あんなことやこんなこと…」


いつの間に、自身が最優良物件に格上げされたのかは分からないが、兎に角、彼女が男性恐怖症ではなかったことと、何故か発情していることは分かる。


なので、蔵人は彼女から逃れる算段を立て始めた。

先ず、肩のシールドをパージして、その後全身の盾を総動員して全力ダッシュだ。

そう思っていると、部長の周りに女子達が駆け寄り、彼女の四肢をがっちりと羽交い締めにした。


「何を言っているのよ、部長!」

「そうですわ!恥を知りなさい!」


良かった。冷静な娘達が対処してくれたお陰で、事なきを得そうだ。

蔵人が安堵していると、


「部長だけのマネージャーなんて、絶対にさせない!」


うん?


「そうだ!この子はあたし専用のマネにするからな!」

「何を言われていますの!このような従順な男の子は、高貴な私にこそふさわしいのです!我が家で筆頭執事見習いとして育てますわ!」

「みんな欲張りすぎ!チーム部のみんなで共有するのが一番だよ!代わり番子に愛でようよ!」


全然よくなかった。

何なんだこの部活は!


見ると、こちらを見ている女子生徒は殆ど、猛禽類のような目でこちらを見ていた。

まただ。また特区特有の不思議現象だ。

訳が分からない蔵人だったが、ただ一つ分かるのは、これが異常事態であり、生命の危険すらあるという事。


であるならば、


「マネージャーは辞退いたします。では、失礼!」


戦略的撤退あるのみ!

蔵人は当初の計画通り、全速力でその場を離脱した。




次に訪れたセクション部でも、似たような対応を繰り返される。

選手としての入部はお話にならず、なのに、マネージャーとしてなら今からでもと引き込まれそうになり、蔵人は足早に来た道を戻る。


少し離れた訓練棟を振り返りながら、蔵人は空を見上げて「ふぅ」と一息着く。

現実は厳しい。部活紹介の時に、人気の部活は足切りがあると堂々と言っていただけの事はある。

異能力部は何処も人気の部活だ。それに加えて、桜城はそれらの部活に力も予算もつぎ込んでおり、実績もある。

そうなると、入部希望者は確保できるどころか、ふるい落とさねばならない。戦いに向いていないはずの男子を、性別や異能力種だけで門前払いするのも納得が出来る。


…異常な程のマネージャー勧誘は、未だに納得できていないが…。


だが、諦めてはならない。

蔵人は前を向き、再び足を進めるのであった。

男というだけで、異能力部は門前払いみたいですね。

ちやほやされる一方、戦力としては全く見られていないのが、特区の男性事情のようです。


イノセスメモ:

・特区の男子達は甘やかされている?

・主人公は副学級委員長となる。

・異能力シングル、チーム、セクションは門前払い。

・東京の3大学園は、桜城、天隆、冨道←晴明という名も挙がったが?

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― 新着の感想 ―
あぁそういえば男女比率って1:8だっけ、そう思えば特区外で働く男は大した職につけない(例えば汚い仕事は男)って言ってたけどこの比率なら花形として色々職ありそうやな、寧ろ女性の方がそういう仕事してる人が…
[一言] いいですね…楽しい。 現象としてはサッカーや野球…いや柔道部とかに可愛い女の子が選手になりたい!って言ってきたけど、うち強豪だしちょっと…という反応してたらとても優しくて、 ぜひマネージャ…
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