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394話(2/2)~ほぉ。君があの~

※臨時投稿です。本日は前に1話投稿していますので、読み飛ばしにご注意ください。

「うちが行ったるわ!」


崩しにくい海麗先輩達のチームにしり込みしていると、蔵人の後ろから難波選手が飛び出した。そして、黒拳を振るう海麗先輩を目掛けて走り込んでいた。

フィジカルブーストで加速しているみたいだが、あれでは精々Cランク程度。

このままでは、むざむざ医務室送りになってしまう。


「弾幕を!」


蔵人が叫ぶとほぼ同時に、後ろに控えていた遠距離役の2人が、アクアキネシスとパイロキネシスの弾丸を放つ。だが、その両者の弾丸が向かう先は、難波選手の元であった。

コントロールミス?このままでは、フレンドリーファイアになってしまう。


蔵人は水晶盾を出して、2人の弾幕を弾き飛ばそうとした。だがその前に、両者の弾丸は難波選手のすぐ上でぶつかり合って、白い蒸気となって彼女の姿を消した。

おお、なるほど。

蔵人は感心した。

遠距離役の2人は、ジャージの種類も違うので別の学校同士だろう。それだというのに、互いの異能力を把握して、即興で最適のアシスト技を作り出した。

これも、また一つの技術力だ。


「やっば!」


蔵人が感心していると、5重奏盾の向こう側で海麗先輩の短い悲鳴が聞こえた。次いで、こちらへと押し寄せていた圧が急に引いていくのを感じた。

海麗先輩が、盾から離れたのだ。

盾の向こう側を覗き見ると、彼女はこちらに背を向けており、円柱へと走り込んでいる難波選手を視線で捉えていた。

そして、駆け出す。

物凄い勢いで、相手円柱へと走り寄る難波選手を追いかけ始めた。


難波選手は、煙幕の中で海麗先輩を交わして、相手円柱に狙いを絞っていたみたいだ。

下手に海麗先輩を倒そうとせずに、円柱を狙う。そこは、進藤監督の教えがしっかりと実行できている。

だが、そのブリッツが成功するかは別の話。同じフィジカルブーストでも、難波選手と海麗先輩では出力が違い過ぎる。

煙幕で稼いだ2人の距離が、見る見るうちに縮まってきている。このままでは、フィールドの半分を超えた辺りで海麗先輩に捕まってしまうだろう。

そうなればもう、難波選手に勝ち目は無い。


「後ろだ!来ているぞ!」


蔵人も、海麗先輩を追いかけながら声を張り上げる。

その声に、難波選手はチラリとこちらを見たが、逃走する足は止める様子が見えない。彼女の後ろからは、海麗先輩と言う脅威が来ているというのに、円柱までの最短ルートを全力で駆け続けている。

普通なら、タッチを諦めて逃走するか、ジグザグのルートで相手をかく乱しようとするだろう。だが、難波選手はどちらもしない。彼女の視線は、相手円柱しか見ていなかった。

その彼女の背中に、海麗先輩が追いつく。難波選手に向かって、黒い拳を振り上げた。


やられる。

蔵人が顔を顰めた時、難波選手が動いた。今まさに攻撃を繰り出そうとしている海麗先輩に向かって、思いっきり突っ込んだ。


「ばっ」


バカなっ。

そう叫ぼうとした時には、既に難波選手は海麗先輩に飛び込んでおり、振り上げられた黒い拳に吹っ飛ばされていた。難波選手の体は、弾丸のように弾き飛ばされ、その勢いのままに相手円柱へと突っ込んだ。

そして、


「ファーストタッチ!赤軍、難波選手!」


審判役のサポーターから、宣言が下る。

難波選手は、海麗先輩の拳を喰らっていながらも、ベイルアウトせずに円柱へタッチしたのだった。

…タッチしたというか、円柱に背中を強打していた。

円柱からズリズリとずり落ちていく難波選手を見て、蔵人は「痛そうだ」と顔を顰める。


だが、痛そうだで終わるのが凄い。海麗先輩の攻撃をまともに食らえば、体が千切れ飛んでもおかしくないのだから。

恐らく、海麗先輩の拳が振り下ろされる直前に突撃したことで、威力が落ちている状態の拳で殴られたから死なずに済んだのだろう。Cランクのフィジカルブーストでも、タイミングさえ見極めればベイルアウトせずに一撃を耐えることは出来るみたいだ。


それでも、軽症で済むとは思えない。


「難波さん!」


蔵人は、難波選手の元に駆け寄る。彼女は、円柱の元でぐったり倒れていた。

でも、直ぐに首だけを持ち上げ、血の気が引いた顔で引きつった笑みを作った。


「ぐっう…見たか?やっ…たで」


そう言う彼女だったが、腕を持ち上げようとした途端にうめき声を上げた。

そりゃそうだ。両腕が変な方向に曲がっているもの。

直ぐにテレポーターが彼女の横に現れて、彼女は医療チームの元へと送られていった。彼女が寝ていた場所には、血塗られた芝生が力なく項垂れていた。


何故、あんな大怪我を負ってまでファーストタッチを決めたのか。

それは、功績を遺す為。自分の有用性と根性を示して、オリンピック選手に選ばれたいからだ。彼女達にとって、この合宿はそれだけの意味がある。

人生を、命を懸けてでも掴みたいチャンスだからか。


「黒騎士様?どうしましたか?」


蔵人が固まっていると、心配した橙子さんが近づいてきた。

それに、蔵人はもう一度芝生を見下ろしてから、彼女に視線で訴えかけた。


「僕は大丈夫です。ただ、彼女達の技術力と熱意に心を打たれていただけですから」

「黒騎士様…」


一瞬で表情を硬くする橙子さん。そして、徐にこう言った。


「黒騎士様は、きっと疲労が溜まっているのです。自分は、医務室に行くことを進言いたします」

「医務室…ですか?別に何も、治す所は無いと思いますけど…?」

「いえ。疲労が溜まり、脳の働きが正常でない状況ですと、ネガティブな思考に陥りやすくなると聞いたことがあります。黒騎士様は、現在とてもネガティブな考えに陥っており、早急に医務室で疲労を取るべきだと、自分は具申するものでありますっ」


はっは~ん。これは、俺を医務室に向かわせるようにと上から指示が出ていたな。

蔵人は、あまりにスラスラと言葉を重ねた橙子さんを見て、彼女の背後をなんとなく察する。

大野さんなのか、それともディ大佐か。どちらにしても、彼女に何かを託したのは明白。だから、今日の橙子さんはずっと表情が硬かったのか。俺を医務室に向かわせると言うトンデモ任務を抱えてしまったが故に。

そう察した蔵人は、軽く頷く。


「分かりました。では、進藤監督に許可を得てから、医務室に向かわせて頂きます」

「ご安心ください。監督からは既に、許可を頂いている状況であります」


手が早いことで。そんなに、医務室に向かわせたい何かがあるのだろうか?

何となく、大事になりつつある予感を感じ、蔵人は心が痛くなる。昨日の発言が、多くの人を巻き込んでしまっていそうだ。

早いところ、医務室に行った方が良いみたいだ。


「ありがとうございます。では、医務室に…医務室って、何処にあるんでしたっけ?」


医務室の場所だけは、監督も教えてくれなかったんだよなぁ。

蔵人が聞くと、橙子さんは「公園のパンフレットを取ってきますっ」と言って踵を返そうとした。でも、彼女が走り出す前に、別の声がそれを止めた。


「それなら、私が案内するよぉ」


声の方を向くと、見上げるように大きな人が目の前に立ちはだかった。

元如月中の米田選手だ。

昨日アニキに医務室をお勧めしたのも彼女だったから、彼女に頼むのが確実か。


「僕は有難いですけれど、米田さんは練習を抜けて大丈夫ですか?」

「うん。私も肩が外れちゃったから、治してもらおうと思って。彼らのヒールなら、変な癖が付かないように治してくれるからさ」


何でもないように言っているけど、それはベイルアウト案件じゃないのか?

痛々しい彼女の様子に蔵人が顔を顰めていると、米田さんはズンズンと歩き出してしまう。背丈が2m近くある彼女だから、歩幅も大きい。

蔵人は慌てて彼女について行く。


「医務室はシップ臭くて、注射器とかもいっぱい置いてあってかなり怖いんだ。でも、医療チームの人達は良い人ばかりだよ。男の人が多いけど、私を見てもそんなに怖がらなかったし」


道中、米田さんがニコニコ顔で話しかけて来る。

相変わらず、大型犬の様に愛くるしい人だ。そんな性格だから、音張さんや日向さんみたいなツンツンキャラが跋扈(ばっこ)する如月でもやっていけたのだろう。寧ろ、彼女が潤滑油になっていたのかもしれない。


「確か米田さんは、高ランクのヒーラーやクロノキネシスも居るって言われていましたよね?」

「うん。そうだよ。私の大怪我も一瞬で治してくれたし、頭が痛かったのも治してくれちゃったんだ」


大怪我を一瞬で?それに、頭痛を治す?

一体、どれだけ凄いヒーラーが居るんだと蔵人が眉を上げていると、米田さんが急停止する。

そして、


「ここ、ここ。ここが医務室だよ」


〈第二会議室〉と書かれた部屋の前で止まり、扉を開いて中に入った。

蔵人も中に入ると、白い部屋にベッドが幾つも並んでいる空間が現れた。彼女が言っていた様に、薬品の匂いが充満しており、空のベッドの周りを忙しそうに歩く白衣姿の男性達が目に入った。

その内の一人が、こちらを見て目を細めた。


「なんだね?また君か。今度はどんな大怪我をした?腕でも飛んだか?うん?」

「先生!肩が外れちゃって…」


先生と呼ばれたその大柄な男性は、「やれやれ」とため息を吐きながらこちらに歩いて来る。そして、

パンッ!と手を一つ叩いた。


「うぉ!もう治ってる!やっぱ凄いよ先生!」


先生が軽く手を叩いた途端、米田さんが興奮気味に歓声を上げて、外れていた右肩をブンブンと回した。

あっぶね。いま、彼女の拳が頬を掠めて行ったぞ?


「おい、やめたまえ。ここは病室だぞ?大声も禁止だ」

「あっ!ごめんなさい、先生…」


しょんぼりする米田さんに、先生は「いいから、怪我が治ったなら早く出て行きなさい」と手を払う動作をする。

そして、


「おや。君の図体で見えなかったが、後ろにまだ別の患者が隠れていたか」


蔵人を見つけて、少し不機嫌そうな表情で近寄って来た。

冷めた視線を送って来る先生。でも、蔵人の背番号を見た瞬間に「うん?」と、目を光らせた。


「ほぉ。君があの、あいつの言っていた黒騎士って子供か」


あいつって誰?と蔵人が聞き返す前に、先生は「こっちに来たまえ」と蔵人を中へと促した。

蔵人は一瞬、隣の米田さんを仰ぎ見たが、彼女は「行ってきなよ」と手を前に出して、蔵人を促す。

それに甘えて、蔵人は1人、先行する先生の後姿について行った。


「実はね、君が来たら通すようにと言われていたんだ」


先生は、背中越しにこちらへと話しかけて来た。

「言われた」と言っていることから、この人もディさんの命令を受けているみたいだ。

まさか、さっき言われていた”あいつ”もディさんだったりしませんよね?そうすると、貴方もディさんと同格って事になりますけど?


「着いたぞ。この中だ」


蔵人が冷や汗をかいていると、先生は会議室の奥にあったドアの前で立ち止まる。

そして、その中へズンズンと入っていく。


「田中助士。例の彼を連れて来たぞ」


先生はそう言って、蔵人の背を押して前に出させる。同時に、彼の視線の先に居た男性がこちらを振り返った。

白衣を着た彼は、しかし、まだ顔には幼さが残っており、実習生としてもまだ幼い男子だった。

丁度、我々と同い年くらい…?


「よぉ、く…ろ騎士。久しぶり」


久しぶり。

そう言って手を上げる彼の顔は、何処かで見た覚えのあるイケメン顔。

いや、まてよ。医療関係で、同い年で、こんな感じのイケメンは…。


「もしかして…亮介なのか?」


幼稚園時代。頼人と慶太と共に訓練した親友、里見亮介っぽい男の子が、そこに立っていた。

里見君…軍隊に入っていたのでしょうか?看護学校かと思っていましたが。


「何か事情があるのだろう」


親御さんの?でも、確か父親が名医で、お母さんも市役所職員ですよね?

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― 新着の感想 ―
あのまま訓練続けてたら覚醒してるだろうから、どこ行っててもほぼ強制でスカウトされてるんじゃないかなあ 軍は単独でレベル高い医療能力集めないとやってられんだろうし
難波「パンチングマシーンごっこしようぜ!あたし(殴られ用)パンチングボール役な!グギャアァァ!…」 蔵人「無茶しやがって… 次のパンチングボールを探してる黒金剛拳に見つかる前に医務室にエスケープだ」 …
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