391話〜選考基準についてだが〜
「おぉー。大阪城がめっちゃ大きく見えるなぁ」
車を降りた鈴華が、眩しそうに手を目の上に翳しながら、その大きな城を仰ぎ見る。
大阪城の麓、大阪城公園に蔵人達は来ていた。史実よりも遥かに大きく、また多種多彩な設備が備わっているこの運動公園で、全国から選りすぐったU18ファランクス選手の強化合宿が開催されるのだ。
期間は今日から5日間。近くのホテルを貸し切っての4泊5日と、GWの半分以上をこの合宿に費やす予定となっている。
「鈴華お嬢様。私はこれで」
「ええ。送って頂きありがとうございました、鴨川さん」
ここまでの長距離を運転してくれた執事さんに、お嬢様モードの鈴華が労いの言葉を掛ける。
それを受け取り、彼女は一礼して去っていく。
その彼女と入れ違う様に、変装した大野さん達がこちらへと近付き、蔵人達の周りをグルリと固める。彼らの装いは一般人のそれで、大野さん達以外にも知らない顔の護衛が何人も配置に着いていた。
恐く、この前のロシア人を連行した人達と同じ部署の隊の人達だろう。あの時の様なことがないようにと、警備も増員しているみたいだ。
彼女達に守られながら歩いていくと、目の前に人集りが見えてきた。彼女達はきっと、メディア関係者だ。何せ、大きなテレビカメラや証明らしき物を沢山抱えているから。
報道陣が詰めかけているのは、5階建ての大きな建物の入口付近。きっとこの建物が、選手達の集合場所なのだろう。一部のメディアだけが取材を許可されていると聞いているが、その彼女達も四六時中で許可が降りている訳ではない。なので、今の彼女達は許可が降りておらず、こうして選手達を外で出待ちをしているのだと思う。
「あっ!黒騎士選手!」
「おおっ!」「ようやっと来よったか!」「シャッターチャンスやで!」
そんな彼女達は、こちらを見た途端に目の色を変えて、一斉に駆け寄ってきた。
彼女達の動きに、近くにいた大野さんがいち早く反応し、蔵人の前に立ちはだかりながら帽子を被せてきた。
「黒騎士選手!毎朝新聞の者です!是非、今回の合宿についての意気込みを伺いたく!」
「大阪月月新聞です!先日のアメリカ遠征について、一言お願いします!」
「鈴華選手!黒騎士選手とお付き合いされているとの噂は本当ですか!?」
「目線だけでもこっちに下さーい!あっ、クマ選手ありがとうございます!桃花選手もありがとうございます!」
大混雑だ。一瞬にして、目の前が人で埋め尽くされてしまった。
記者達はまるで、スーパーの特売に群がる主婦さながらの突進力。さしずめ我々は、目玉商品といったところ。
そんな彼女達の間に、周囲を固めていた護衛達が割り込んで道を作ってくれた。軽々とやってのける彼女達だが、重そうな放送機器を抱えた成人女性を退かすのは、かなりの重労働な筈。
相当鍛えているのが、そこから分かる。
カメラのフラッシュを両側から受けながら、蔵人達は施設の中へと入っていく。大野さん達は入口付近で待つと言って、橙子さんとレオさんだけが着いてきた。
大野さんが入って来られないのは分かるが、逆に橙子さん達が入れるのに驚いた。ここから先は、選手とスタッフしか入れないと聞いていたから。
数人であれば、護衛でも入れるのだろうか?でも他に護衛の姿もないから…基準が分からんなぁ。
「どうしたの?黒騎士君。早く手続きした方が良いよ?」
若葉さんはそう促しながら、我々の写真を撮って行く。
同じメディア関係者である彼女だが、運営から特別許可をもらっているので、我々に同行出来るし、写真は撮り放題だ。外部への掲示は許可が居るみたいだが、それでも独占取材が出来るのは嬉しみたい。普段以上にパシャパシャ撮りまくっている。
蔵人達が受付で手続きを終えると、スタッフさんがステーションから出てきて、案内を買って出てくれた。彼女の案内で、蔵人達は1階の一室へと入る。
大きな扉を潜り抜けると、そこは体育館の様な大きなホールとなっており、100を優に超える椅子と長机が並べられていた。そして、正面奥は1段高いステージとなっており、奥の壁際に白く大きなスクリーンが垂れ下がっていた。
「こちらです」
スタッフさんは蔵人達を連れて、前へと進む。
席は指定席になっているみたいだ。学校ごとに固まって座っている他選手のカラフルな頭が見える。蔵人達は長机の間を通り抜けて行く。
途端に、幾つもの視線が刺さる。
「何処の高校?」
「見ない制服やな」
「護衛連れとるで?あの2人、男子選手やないか?」
先に席へ着いていた選手の何人かが、不思議そうに蔵人達を見詰めている。
彼女達の多くは高校生だから、高校の大会では見慣れない桜城の制服に戸惑っているみたいだ。
…中等部も、去年久しぶりにビッグゲームに出たレベルだからね。高校レベルとなると桜城を直接見たことない人ばかりだ。
ただ、
「いや、あれが桜城や。あの黒騎士君の学校やで」
「「ええっ!」」「ホンマか!?」「黒騎士君!?」
やはり、知っている人は知っている。特に、つい先日にアメリカ遠征があったから、桜城の名前はかなり売れているみたいだった。
1人が桜城の名前を出した途端、会場が一気にうるさくなる。
顔を伏せて寝ていた娘まで目を皿のように開いて、こちらに強い視線を送ってくる。流石に、こちらへ近付いて来ようとする娘はいないが、みんながみんな、獲物を捕らえようとする猛禽類のようなギラついた視線を飛ばしてきていた。
「どの子が黒騎士君?」
「帽子被ってる子でしょ?」
「2人居るよ?」
「片方はクマ選手やな。ほれ、ゴーレム使いの」
「あのエグいゴーレム使いが男の子なの!?」
ガヤガヤ、わやわやと盛り上がる会場を横目に、蔵人達は最前列のど真ん中に通される。
うーん。VIP席だなぁ。椅子もかなり高級な物を使っていて、背もたれもかなりの角度まで倒れる仕様だ。これでは、背もたれに背を預けると壇上の人と目線がかち合いそうだぞ?
これは居眠りが出来ないなぁ…と考えていると、隣の席に座った桃花さんが、肩をツンツンと突いてきた。
はいはい。なんでしょう?
「蔵人君、お客さんだよ。なんか、冨道の人みたい」
ほうほう。冨道の選手も呼ばれているのか。
そう思って桃花さんの前に立った人を見上げると、袴姿の女性が目に入った。長い髪の毛先に白いメッシュが入った彼女は、
「剣聖選手?あれ?貴女も、呼ばれて?」
「ふむ。久しいの、黒騎士殿」
全日本Cランク1位の、柳生真緒選手だった。
何故、彼女がこんな所に?まさか、彼女もU18の候補生なのか?
訳が分からなくて、ただ棒立ちとなってしまった蔵人に対し、真緒さんは口元を隠して笑う。
「ふふっ。そう警戒せんでも、儂はこの度の選考に含まれん。今回はただ、この2人の付き添いじゃ」
そう言って振り返った彼女の背中から、2人の人物が現れる。
1人は真緒さんの妹さんで、剣帝の二つ名を持つ柳生理緒さん。
そして、もう1人は、
「よぉ、くら…黒騎士。久しぶりじゃの」
良く日に焼けた笑顔を浮かべる、西濱のアニキだった。
「アニキ!?どうしてここに?」
「希望を出したら呼んで貰えたんじゃ。元々は、Dランクのシングル戦で招待するつもりじゃったみたいやけど、運営の理事長さんにお願いしたら何とか通してもらっての」
出場種目を切り替えたって事か?そんな事が出来るのか?アニキがそれだけ有望株だってことだろうな、きっと。
もしくは、理事長の計らいか。
全日本で、相当悔いた様子だったからね、川村理事長。どこかで俺とアニキの接点を把握して、配慮してくれたって可能性もあり得る。
どちらにせよ、嬉しいサプライズだ。
蔵人は手を前に出し、アニキと握手する。
「アニキが居てくれるなら100人力だ。共に選考会を乗り切りましょう」
「おおっ!やっとお前らと一緒に戦えるのぉ」
アニキは慶太の方も見て、嬉しそうに頷く。
いつか約束した、3人で戦おうという約束を覚えてくれていたみたいだ。
「よぉ、ハマー。お前も出るんだって?」
蔵人達が話し込んでいると、鈴華達も集まってきた。
「んお?お前さんは、あれじゃろ?つくば大会におった別嬪さんじゃろ?」
「よせよ、別嬪なんて。あたしは鈴華だ」
「おお、そうか。鈴華か。よろしくな」
「僕は西風桃花だよ。えっと、黒騎士君のお兄さん?」
桃花さんは初対面だから、勘違いさせてしまったみたいだ。
それに、アニキは笑いながら手を振る。
「ちゃうちゃう。こいつが言っとるだけじゃ。ワシの方が色々と教わっとるから、ワシが黒騎士の弟子みたいなもんよ」
「桃花さん。彼とは義兄弟みたいなものと思って欲しい」
蔵人がそう説明すると、桃花さんの隣で鶴海さんが目をパチクリさせて「三国志かしら?」と呟いた。
桃園で酒は飲み交わしていませんけど…まぁ、似たようなものです。
「剣帝選手もお久しぶりです」
「お久しぶりです、黒騎士選手。つくば大会以来でしょうか?」
アニキの後ろで佇んでいた理緒さんに挨拶を送ると、彼女は薄い笑みを浮かべてお辞儀する。
うん?砦中の文化祭でも会った気が…ああ。あの時は俺が変装していたっけ。
「剣帝選手もファランクスを?てっきり、シングル戦に出るものかと思っていましたが…?」
「ええ、はい。それについては、かなり迷いました。今までやった事の無い競技に挑戦して、皆さんにご迷惑を掛けないかと。Dランクの私達が、高ランクの皆さんに着いていけるのかと…」
胸の前で両手を握り、不安そうに言葉を吐く理緒さん。
特区の外では敵無しの彼女だが、ここでは彼女よりも魔力量が多い人ばかりだ。不安に思うのも仕方がない。
なので、蔵人は「大丈夫ですよ」と言葉を掛ける。
「ファランクスは連携も大事ですが、ミクロな部分は個人技に頼る部分が多いです。それに、貴女の様な速攻型が生きる戦術も沢山あります。紫電選手がまさにそれですね。魔力量に関しても、貴女なら問題なく覆せると思います。Aランクがどうのとか、Bランクだから何とか言っていますけど、卓越した技術はその差も埋めてくれますから」
「黒騎士選手が言われると、言葉の重さが違いますね」
そう言って、理緒さんは小さく笑った。少し気持ちが楽になったみたいだ。
その彼女のお姉さんは、彼女の横でニマニマ笑っている。
うん?なんでしょう?
「良いのぉ。儂もファランクスに出たくなったぞ」
真緒さんがそんなことを言うもんだから、周囲からは「えっ!?」とか「剣聖様まで!?」と驚きの声で満たされてしまった。
いやいや。冗談ですよね?口元が笑いを堪えていますよ?
蔵人が彼女を見ていると、鶴海さんが隣に並んだ。
「剣聖選手はシングル戦の世界ランカーですから、既に大会運営からシングル戦で出てもらうようにお願いされているのではないですか?その場合、他の競技に移るのは難しいと思いますけど?」
「おや?そうなんですか?鶴海さん」
「ええ。ランキングに載っている様な人達の多くは、随分と前にオリンピックへの推薦状が来ている筈なの。シングル戦に限らず、他の競技もね。今回みたいな選考会が開かれる方が珍しいと思うわ」
うむ。そうなのか。
確かに、オリンピックは実績を積んだ者だけが出られると聞いていた。その為に、選手達は世界中を飛び回ってランキングを上げているんだし。
ともすると、この選考会の意味はランキング外にいる選手を発掘する為の物と言う事だろうか。
例えば、我々の様な学生をピックアップする為の。
「かっかっか!其の方の言う通りじゃ!」
真緒さんが高らかに笑う。
「儂がシングル戦に出場するのは、去年の内から決まっておったことじゃ。故に、今更儂の意志だけではファランクスには出られん。残念な事にな」
異能力の競技は、掛け持ちで出場することも出来ないらしい。魔力量も有限だから、他の陸上競技の様にはいかないとのこと。
世界選手の中には掛け持ちをする人も居るらしいが、そう言うのは本物の化け物だそうだ。
「ほんに残念じゃ。可愛い妹とその彼氏と共に戦える機会なぞ、そうそうないことじゃからな。それに」
本当に残念そうな顔をする真緒さん。
そんな彼女はフラりと前に出て、蔵人の頬に手を添えた。
「お主とも、肩を並べて戦ってみたかったの」
「ははっ」
またまた、ご冗談を。
この人はどこか、若葉さんに似ているな。周囲を手玉に取る小悪魔的な所業とか、特に。
含み笑いをする真緒さんに、蔵人は乾いた笑いを返す。
すると、銀色の髪が視界に入り、左腕が柔らかい物に包まれた。
「おい。軽々しくボスに触れるんじゃねぇ」
鈴華だ。彼女が左腕に抱きついて、剣聖選手を牽制している。
それを見て、真緒さんは益々笑みを広げる。面白い者が釣れたとでも思っているのだろうか?
そんな笑顔だった彼女は急に、その笑みを鋭くさせる。
同時に、腰に帯刀していた刀を抜いて、上段に構えた。
途端に、その刀に別の刀がぶつかった。
刀同士が、斬り結ぶ。
「鈴華の言う通り、黒騎士様に手出しをする者は全て、この刃が裁きます」
ドスの効いた声が、真緒さんの後ろから響く。
そこには、黒過ぎる黒髪の合間から鋭い視線を向ける女性剣士が、真緒さんへと刀を突き出していた。
九州の彩雲中、島津円さんだ。
「かっかっか。随分と慕われておるのぉ、黒騎士選手」
円さんの鋭い一刀を、しかし、真緒さんは軽く弾いてみせて、流れる動作で納刀した。
目にもとまらぬ見事な剣術に、流石の円さんも分が悪いと思ったのか、刀を構えるだけで追撃はしなかった。
蔵人は、そんな2人の間に割り込む。円さんに向けて、小さく頭を下げる。
「お久しぶりです、円さん。貴女も、合宿に呼ばれていたんですね?」
「はいっ。黒騎士様にお会いする為に、呼ばれてすぐに馳せ参じましたっ」
円さんは刀を消し去り、同時に鋭かった目もキラキラと光らせてこちらを見る。
凄い切り替えの早さだ。同一人物と思えないレベルである。
彼女の変貌に驚いていると、蔵人の左腕から熱が離れる。
「よぉ、円。久しぶりだな。お前も居るんじゃ、近距離型の選考会はかなり厳しくなるな」
「それはどうでしょうか?私や貴女が居るのなら、別に遠距離役を採用する必要もないと思います」
ほうほう。つまり、それだけの実力を円さんは持っており、鈴華にもそれだけの実力を見込んでいると。
それを聞いて、鈴華も嬉しそうだ。円さんと肩を組んで「おっ、それもそうだな!」とご満悦だ。
「あたしらでボスを支えて、世界一目指そうぜ!」
「気が早いですよ、鈴華。慢心は足元を掬います。気持ちを入れ直して、先ずは選考会を生き残る事を目指しなさい」
「硬ぇこと言うなよ。ほら、再会を祝して写真撮ろうぜ。ピスピス!」
「ピ、ピスピス?ちょっと、若葉まで便乗しないで!」
カメラを向ける若葉さんに、円さんは慌てて手を振る。さっきまでの殺気満載な彼女は吹き飛んでしまった。
なんだか周辺が騒がしくなってきたなぁと思っていると、壇上に人影が現れる。
スーツを着た数人の女性と、練習着姿の若いスタッフさんがゾロゾロと入ってきた。
これは、開会式か何かが始まる予感。
そう思った蔵人は、みんなを解散させて席に着く。
丁度その時、壇上に上がった1人がマイクを持って、手元の紙に視線を落とした。
『選手の皆様。本日は遠路はるばるお集まり下さり、誠にありがとうございます。これより、日本ファランクス選手強化合宿の概要と諸注意を含めた説明会を開始致します。先ず初めに、日本ファランクス協会名誉総裁、春子様よりお言葉を頂戴致します』
司会進行役らしき女性に促され、数人のお偉いさんが壇上で挨拶をする。
要約すると『皆さん、日本の為に頑張って』と言う意味なのだが、とにかく長ったらしい。あと、何故かこちらを向いて喋る方が多いこと、多いこと。
1番前だから仕方が無いのかも知れないけれど、最初に登壇された春子様?なんて、ずっとこちらを向かれて喋っていたから、気が気ではなかった。彼女の胸元で光っていたバッチは雪の形のお印だったから、雲の上の存在である事は間違いない。
なんでこんな所にご出席されるの?と思いながらも、蔵人は背中を垂直にして聞いていた。
それが解除出来たのは、見知った顔が壇上に上がってからだ。
『大阪獅子天王寺の監督、進藤だ。今回は諸君らのヘッドコーチとしてこの場に呼ばれている。よろしく』
そうか。進藤監督が総監督なのか。
蔵人は肩から力を抜き、背中を背もたれに預ける。
『諸君らに先ず言いたい事は、これはただオリンピックに出場する選手を選ぶ為の物では無いという事だ。君らの実力を見るのと同時に、その力を引き伸ばす事が私の使命であると認識している。つまり、日本ファランクス界隈を盛り上げる為に、儂はここに立っているのだ。
たった数日しかない強化合宿ではあるが、諸君らが一皮も二皮も向ける様に指導していくことを、ここに約束しよう』
おお。力強い宣言だ。これは訓練を受けるだけでも楽しみになる。
リラックスして聞く蔵人だったが、周囲の人間は逆だった。特に、桜城以外の選手達からは、妙な緊張感が伝わってくる。
進藤監督が鬼軍曹と呼ばれる所以だろうか?
『それともう1つ。選考基準についてだが、従来とは大きく異なる事を事前に教えておく』
「ええっ」「なにっ?」「どう、言うこと…?」
進藤監督の爆弾発言に、周囲から驚きの声が多数上がる。
それを、進藤監督は厳しい視線で受け止めてから、ゆっくりと口を開いた。
『従来の選考基準では、予めランクの枠が決められていた。Aランクは何人、Cランクはこの人数とな。だが、今回はそれを撤廃する。Aランクと言えど容赦なく落とすし、Cランクでもエースに据える事がある』
Cランクエースの部分で、あからさまにこちらを向くのをやめてもらって良いです?
『諸君らに求める物はただ一つ!実力だ。相手を倒す力、味方を守る力。そして、得点に繋がる力。これらを持つ者を率先して選考していく。
いくら魔力量が多くとも、仮令最上位種であろうとも、この選考会では一切が無意味だ!諸君らは、同じスタートラインに立たされていると思って欲しい。ただ己が実力を発揮する事だけを考え、全力で挑む。それが、ここで生き残るたった1つの術だと理解するように』
凄い事を言い出すな。これでは、反発があって然るべきだろう。
そう思って、蔵人は監督の演説を聞いていた。
だが、周囲からは動揺した様子を感じない。寧ろ、安堵のため息が聞こえるくらいだった。
うん。どうしたんだ?
そう思っている間にも、進藤監督は降壇し、続いて上がった女性が諸注意を伝えて、オリエンテーションは終了した。
「はぁああ…終わったぁ」
「いや、今から始まりだから」
途端に、周囲から緊張が解けた声が聞こえ出す。
「ヤバくない?鬼軍曹の発言」
「うんうん。一皮も二皮も剥くつもりらしいし」
「あたしら骨になっちゃうんじゃない?」
「獅子王の友達いるけど、マジで地獄らしいよ。吐いても走らせられるんだってさ」
「マジでヤバくないない?!」
周囲からは、練習が厳しくなりそうな事への不安は聞こえたが、選考基準についての愚痴は一切聞こえない。
どう言う事だろうか?
蔵人は首を傾げた。
選考会に、続々と知人が集まっていますね。
西濱君まで。
「だが、選考基準は厳しいようだぞ?」
技術重視ですか。
大人達の思考が、見える様です。




