388話(2/2)~気を付けてね~
臨時投稿です。昨日も投稿していますので、読み飛ばしにご注意ください。
アマンダさんと話し込んでいると、いつの間にかバスは空港へと到着していた。
見送り客は凄い事になっているが、しっかりとヒーローと軍人さん達が抑えてくれているので、バスを降りる分には問題なしだ。
ただし、
【【おぉおおおお!!】】
左右から響く歓声が、鼓膜が破れるんじゃないかって程だけど。
【フッシミー選手だ!】
【レオン君も居るわ!】
【クマちゃーん!こっちにも手を振ってぇ!】
【巨人狩りのウララも出て来たよ!】
【【来たぁあ!シルバーナイトのスズカだぁ!】】
【シマシマナイトだ!】
【【【ブラックナイッ!ブラックナイッ!】】】
軍人達がガードする向こう側で、観衆が興奮気味に声を上げ手を振る。
その中を、足早に通り過ぎる蔵人達。
【おぉ!キーボードのサツキだ!】
【サツキ!貴女の音楽センス、最高にクールだったわ!】
【ぜひ今度は、ピアニストとして来てくれ!】
祭月さんも大人気だ。主に、セレナライブの方で人気みたいだが。
「うぉおお!見るんだ、早紀!鈴華!私の偉大さが、漸くアメリカ人にも伝わったぞ!」
祭月さんが感動で泣いている。
どんな理由であれ、声援を送られる様になって嬉しいみたいだ。
「これで私も、ハリウッドスターの仲間入りかぁ…」
いや、どちらかと言うと音楽方面みたいだぞ?ハリウッドじゃなくて、ニューヨークのカーネギーホールか?
まぁ、彼女が幸せそうだから、それで十分か。
蔵人達は、何時までも群衆を感慨深く見渡す祭月さんを引っ張って、空港の中へと入っていく。
すると、空港内もかなりの人でごった返していた。
流石に、外の群衆みたいに無秩序ではなかったが、観光客やビジネスウーマンが興味深げにこちらに視線を寄越し、徐々に集まって来ていた。
【道を開けなさい!事によっては実力行使しますよ!】
それを、アマンダさん率いるシークレットサービスが先陣を切って道を作り出し、大野さん達に守られた蔵人達がそこに続いた。
緊張した面持ちのアマンダさんに対し、空港の利用客は気にした素振りもなくこちらに手を振る。
アメリカの人達は、こういう荒事に慣れているみたいだ。
蔵人が利用客に向けてお辞儀していると、向こう側から同じように黒服の集団が現れて、こちらに近付いてきた。
それを見て、蔵人は嫌な予感がした。
開会式の後、セレナさんを取り返しに来たカトリーナ社長達を思い出した。
のだが、
【おーい!桜城のみんな!】
聞こえて来たのは、セレナさんの声だった。
途端に、周囲の利用客がそちらに注目し、歓声が上がる。
「おぉ!セレナだぁ!」
また突っ込むなよ?祭月さん。
蔵人が祭月さんの両肩を押さえている間にも、セレナさん御一行はこちらに合流し、セレナさんは鈴華と両手を取り合った。
【お見送りに来たよ、鈴華】
「おう!じゃあな、セレナ」
【軽っ!?ちょっと軽すぎじゃない?今生の別れかも知れないのに】
「ニッシッシ。冗談だよそれに今生の別れって事もねぇんじゃねえか?日本でお前のライブを開くって言ったろ?」
楽しげに会話する2人。
そんな彼女達を見守っていると、誰かが近付いてくる気配がした。
【やっほー!ブラックナイト君】
そう言って手を振って来たのは、プラチナブロンドをボブカットにした女の子。
何処かで見た覚えが…あれかな?イギリスで戦った子…だったかな?
蔵人が必死で思い出そうとすると、その白金美人さんの後ろから、黒髪ロングの女の子が出て来た。
あっ、この人は。
「千鶴さん。どうしてここに?」
「私の事は覚えていたみたいね。こっちはクロエよ」
あっ。そうそう。クロエさんだ。
「それで、私達が何でここに居るかって質問だけど、私達が歌姫の護衛に選ばれたからよ」
なんでも、イギリスのベアリング銀行が正式に、セレナさんのスポンサーになったらしい。最初はCECだけの契約だったらしいけど、暴動の時の様子を見て、今後とも是非に、となったらしい。
護衛の件も、大会運営に任せた途端に拉致られたから、再びイギリス側も護衛を付けることになったらしい。
アメリカの歌姫にイギリスの護衛が付くなんて、良く許したなぁと思ったけど、もしかしてイギリスに出資させる為なのかもしれない。
アメリカは何処までも、ビジネスライクの国だからね。
「因みに、貴方の護衛にも、我が国が一枚噛んでいるのよ?」
「…マジですか」
蔵人が暗い顔をすると、千鶴さんは嬉しそうに頷く。
「だって貴方、暴動騒ぎにジャバウォックを出していたでしょ?あれはイギリス発祥のキャラクターだから、本国ではアメリカ以上に盛り上がっているわ。黒騎士がイギリスのドラゴンにユニゾンして活躍したって、貴方のフィーバーが再燃しているんだから」
「おうふ」
ジャバウォックか。ジャバウォックがイギリスの興味を引いてしまったのか。
蔵人が顔を顰めていると、クロエさんが耳打ちして来た。
【気を付けてね。イギリス王室も何か、動いているみたいだから】
【王室…ですか?】
それって、ディ様の事…じゃないよね?
どう言う事だろうと2人を見返したが、2人はセレナさん護衛の任務に戻ってしまった。
すんごい不安なんだけど?
【師匠!】
蔵人が2人に「戻って説明してくれ!」と視線を投げかけていると、そんな声が聞こえた。
その声だけで、誰だかが分かってしまう。
蔵人はマスクを外し、帽子を少しだけ上げてそちらを見る。
マーゴットさんとエミリーさん。それに、CECに参加していた選手達が見送りに来てくれていた。
【マーゴットさん。皆さん。態々、我々の見送りに?】
【弟子として当然のことです、師匠】
いや、弟子取ってないから。
「なんや自分。カシラの弟子言うことは、ウチの妹分っちゅう事やで?」
そう絡まないでよ、伏見さん。
【マーゴットのお姉さんかぁ。身長的に、君の方が妹って感じがするけどねぇ】
「身長の事は言うなや!」
伏見さんが慌てている。身長にコンプレックスでもあるんだろうか?
【師匠。自分とエミリーは、U18の強化選手に選ばれました。ですので、頑張れば東京オリンピックの選手に成れそうです】
【おお!それは、おめでとうございます】
蔵人の賛辞に、マーゴットさんは首を振る。
【自分なんてまだまだです。それでも選ばれたのですから、きっと師匠も選ばれると思います。だって、師匠は凄いですから。
ですので、また8月にお会いしましょう。今度は、世界の頂点を決めるフィールドで】
どうだろうね?そんな話は一切出ていないから、期待薄だとは思うけどね。
そうは思いながらも、差し出されたマーゴットさんの手を反射で取ってしまう蔵人。
その握手に、別方向からも手が差し出されて、そっと上に乗った。
【わたくしも選ばれましたわ、ブラックナイトさん】
「ろ、ローズマリーさん」
妖艶な笑を浮かべるローズマリーさんに、蔵人は1歩退きそうになるのを何とか堪える。
そんな失礼な態度を取ってしまったのに、ローズマリーさんは【ふふっ】と笑うだけで許してくれた。
【今回の事で、我々は多くを学びました。人の力とは、絆とは、大いなる可能性を秘めていると。CECでは惨敗しましたが、次には必ず、わたくし達グレイトアメリカが勝ちますわ】
「ローズマリーさん…!」
蔵人はマーゴットさんとの握手を解いて、ローズマリーさんの白い手をしっかりと握る。
「貴女達との再戦を、心よりお待ちしております。そして、次も我々が勝ちます」
【素晴らしいですわ。それでこそ、ブラックナイトさんです】
ローズマリーさんは視線を外し、横を見る。鈴華達と談笑するセレナさんを見て、声のトーンを落とした。
【これはあくまで噂なのですが、今回の暴動において、セレナさんはまた大きく注目を集めることとなりました。世界で愛される歌姫から、世界を救う平和の歌姫だと言う声も上がっており。中には、ノーベル平和賞を彼女にと言う声もあるくらいです】
ほうほう。それは…有り得る話だな。大統領も絶賛していたし。
【それに伴い、あの暴動を止めた他の功労者にも、その話があって然るべきだと言う声も、多数寄せられているとか】
他の功労者。
それって…。
蔵人は後ろに控えていた柳さんと顔を見合わせたあと、ローズマリーさんの視線を追って、セレナさんの方を見た。
彼女は絶賛、鈴華と祭月さん、ハニーベアーズの皆さんと一緒になって、日本でのライブをどんな風に開くかで議論していた。
…クマ兄貴達も日本に来るつもりなのか?
「さぁ、みんな!そろそろ荷物検査の時間よ!お土産を買う時間も無くなっちゃうから、急いでちょうだい!」
立ち止まっていた我々に、部長が急ぐように手招きする。
蔵人はもう一度振り返り、集まった人達に手を挙げた。
【皆さん!お見送り頂き、ありがとうございました!】
【師匠!お気を付けて!】
【また夏に会おうね!】
【スズカ!】【サツキー!】
みんなが手を振り返す中、蔵人達はゲートへと向かおうとする。
だが、その寸前、誰かが駆け込んでくるのが見えた。長い金髪を振り乱しながら、頬を薄ら赤くして必死に走っている。
それは、
【待って!ブラックナイト君!話をさせて!貴方と合体したいの!】
薄紫色のスーツを着た、カトリーナ社長だった。
よくもまぁ顔を出せたなぁと呆れる反面、社を建て直すのに時間が無い中でも、こうして直接会いに来た根性には感心した。
なので、彼女に対しても手を振っておく。
【大変お世話になりました、カトリーナ社長!またどこかで!】
そうならない事を祈りながら、蔵人は再び皆さんに背を向け、帰国の途に就く。
【待って!ブラック…】
【来てくれてありがとう!黒騎士君!桜城のみんな!】
【【ありがとう!!ブラックナイト!】】
必死に叫ぶカトリーナ社長の声は、直ぐに集まった人達の歓声でかき消された。
〈◆〉
某所。
蔵人達がアメリカを離れてから、数日後。
『日本に到着したブラックナイトは、多くの取材陣に取り囲まれ、今回の功績についてインタビューを受けております。私達も後日、メールにて質問をさせていただいたところ、今回のLA暴動でジャバウォックのユニゾンを使った事に対し、「夢を歌うセレナの歌にマッチしていると思ったから」と回答を頂きました。このことから、ブラックナイトはイギリスの文化にも興味を持たれており、我が国としても…』
「夢、ねぇ」
【はい?何か言われましたか?】
俺が零した言葉を、耳ざとく秘書が拾う。
それを、俺は手を振って払う。
【何でもねぇ。それより、さっきの報告は事実か?ロシアの動きが怪しいってのは】
【はい。日本行きのチケットを買い求めるロシア人観光客の数が、先月の3倍近いとか。オリンピックの影響で他国も軒並み上がってはいますが、ロシアはその比ではありません】
【特に、黒騎士の報道後が顕著…と】
【仰る通りです】
なるほどねぇ。
俺は組んでいた足を解き、徐に立ち上がる。そして、掛けていた赤いコートを手に取って、羽織りながら出口へと向かう。
【少し出る】
【えっ!?あっ、お待ちください!貴方の行動は制限されています。無暗に出歩くと】
【お前の言うそれは、公的な活動に限ってのことだろ?】
俺はそう言って、満面の笑みを秘書に向ける。
【こいつは私用だ。公人として出歩く訳じゃねぇ】
【それなら…分かりました。行ってらっしゃいませ、ギデオン議員】
【ああ】
俺は、外へと出る。
さて、先ずはきな臭いロシアについての、情報収集と行きますかねぇ。
アメリカだけでなく、イギリスも注目していると。
「元から、向こうの王子は気に掛けていたがな」
そして、厄介な男が動き出しました…。