378話〜退きなさい、黒騎士〜
「いやぁ〜、終わったなぁ」
選手控え室に戻ってきて1番に、鈴華が伸びをしながら嬉しそうにそう言った。
それに、桃花さんも続く。
「なんか、あっという間だったね。この前、LA空港に降り立ったばかりって気がするのに」
「3日間の大会だから、ビッグゲームに比べると短く感じるわね」
「せやけど、ビッグゲームの時よりしんどく感じるわ」
伏見さんの言う通りだな。日数的に言えば短いけど、内容はかなり濃かったと思う。
特に、ワイルドイーグルスを相手にするのは疲れた。最新鋭のパワードスーツと言うだけも厄介だったのに、自動制御や強制強化、更には強制ユニゾンまで持ち出して来たからね。
そう言う意味では、イーグルスではなくDP社が厄介だったと言えるだろう。人を装備の一部として扱うカトリーナ社長が、厄介極まりない障壁だった。
若葉さんの話では、彼女はまだ二十歳になったばかりと聞く。
そんな、我々と大差ない歳であの染まりっぷりでは、将来のDP社に不安しかない。フィールドを去る彼女の様子も、かなり苛立った様子であったし。
どんなに言葉を交わしても、彼女の様なタイプはこちらの言葉を受け入れたりはしないだろう。逆恨みされる前に、とっとと日本に帰りたいものだ。
蔵人が帰る算段を立てていると、控室の高級ソファーにドカッと座ったサーミン先輩が、みんなを見回しながら声を上げる。
「しっかしさぁ。これで俺達が日本に帰ったりしたら、凄い騒ぎになりそうだよな。アメリカのプロチームをごぼう抜きして、優勝しちまったんだからさ。もしかして俺達、一躍有名人になっちまったりするんじゃないか?」
「おぉお!有名人!」
楽しみで仕方がないとサーミン先輩が語気を強めると、祭月さんが期待で飛び跳ねた。
純粋な彼女の様子に、サーミン先輩は「うんうん」と頷く。
「アメリカのプロを相手に全試合完勝したんだからな。そりゃ、向こうは今頃お祭り騒ぎだろ。日本がアメリカに勝つなんて、今まで無かっただろうからさ」
「ファランクスって意味では初ですけど…シングルなら意外と実例があります」
自信満々に言うサーミン先輩に、鶴海さんがおずおずと訂正を入れる。
彼女曰く、過去にはアメリカを打ち負かしたシングルの選手もいたそうだ。それは、オリンピック等の公式戦だったり、非公認の交流試合だったり。
「つい最近で言うと、Cランクの世界ランキング戦で、剣聖選手が56位のアメリカ選手を倒しています」
「うぉ!出た、剣聖」
最近という事は、U18での試合でという事か。
今年も順調に順位を上げているんだな、真緒さん。
「それに、去年にあった大会でも、ランキング96位のアメリカ選手を倒しています。蔵人ちゃんが」
「お前もかよ!」
サーミン先輩が肩を叩くので、蔵人はよろけながらも頷く。
練馬コブシ大会の事だね?確かに、あの時は96位のオリビア・ヘルナンデス選手を倒した。あれも、日本が大国アメリカに土を付けた試合と言えなくもない。
かなり小さな大会だったけど。
「他に有名所で言うと、Bランク高校チャンプの蘇芳選手や、紫電選手も公式戦でアメリカ選手を倒していた筈です。かなり昔の事ですけれど、雷門大将様も確か…」
「ああ、そいつは知ってるぜ。軍の記念行事で開いた親善試合だろ?男だからって舐め腐ってたアメリカのSランクを、一撃で黒焦げにしちまった逸話は語り草だぜ。あれで世界からも認められるようになったんだ、あの人は」
流石は雷門様だな。Sランク同士の戦いで勝つなんて、やはり3度もアグレス侵攻を防いだ人は違う。
蔵人は感心し、ふと首を捻る。
鶴海さんが言っていた蘇芳選手って、何処かで聞いた名前だなっと。
そんな事でお喋りをしながら、蔵人達は時間を潰していた。
と言うのも、蔵人達は大会の後夜祭に招かれていたのだ。大会の偉い人やVIP達の他に、入賞したチームメンバーも何人か呼ばれている。その中で、桜城は控えも含めた全選手が招かれていた。
優勝したからね。それだけ枠を割いても惜しくないと思われたのだろう。
なので、呼ばれるまでは控え室で待機していたのだった。
現在は16時。あと1時間もしたら呼ばれるだろう。それまで、優勝の余韻をチームメイト達と分かち合うのもいい物だ。
「見て見て、くーちゃん。舌が真っ青。んべー」
「慶太おま、何を食ったんだ?」
得意げに舌を出す慶太に驚いて聞くと、彼は後ろを指さした。
「机の上に、お菓子いっぱい置いてあるんだ」
本当だ。アメリカのお菓子が山の様に置いてあって…その内の大半が開けられているぞ?
うん?慶太よ。お前さん随分と口の周りが汚いな。えぇ?
「オイラ、お腹減った!」
どうやら、暴食したらしい。
「豪華なディナー前だぞ?ご馳走が入らなくなったらどうするよ」
「甘いのは別腹!」
待て待て。今誇らし気に叩いたお腹、ちょっと出てきてないか?うん?
蔵人は気になり、慶太のお腹を摩った。
そんな事をしていると、
コンッ、コンッ。
ドアがノックされた。
呼ばれるにしては、ちょっと早すぎない?
そう思ったが、ドアから覗いた顔を見て納得した。
【やっほー。ちょっと遊びに来た…】
金髪に赤メッシュの髪がふわりと揺れて、セレナさんが遠慮がちにドアの隙間から顔を出した。
その途端、
「うぉおお!!セレナぁあ!!」
祭月さんが猛スピードで駆け出した。
なので、蔵人は急いでシールドを展開し、彼女を取り押さえる。
世界の歌姫を襲ったら、幾ら優勝者でもお縄にされるぞ?
「離すんだ蔵人!何故止める!?」
「何故、止められないと思うのか。君の思考回路が不思議でならんよ、俺は」
もう返す気力も無くなった蔵人は、藻掻く祭月さんを拘束したままで放置して、目をパチクリしているセレナさんに頭を下げる。
「済みません。うちの若いのが、ご迷惑おかけしてしまい」
【えっ?あ、ううん。気にしないで。こういうのには慣れてるからさ】
慣れてるって…それもどうかとは思うが、彼女程の人気者なら、ファンの突撃くらい日常茶飯事なのだろう。
同士よ。
【それよりさ。良いのかな?私に君の素顔を見せちゃってるけど】
「ええ、構いませんよ。貴女は、我々と共に決勝戦を戦った仲間ですから。仲間との間に、壁を隔てる必要は無いでしょう」
セレナさんが勇気を持って歌ってくれなければ、我々は行き詰まっていたと思う。セレナさんの歌声で、我々の思考はクリアになったし、彼女が声を上げなければ、カトリーナの蛮行が大衆に受け入れられていたかもしれない。
我々がフィールドで戦っている時、確かに彼女も戦ってくれていた。我々の背中を、声で押してくれていたのだ。
そういう意味で言ったのだが、セレナさんはこめかみを押さえて小さくため息を吐いてしまった。
おや?何かご不満でも?
【イケメン過ぎるよ、蔵人くん。顔だけじゃなくて、心までもさ。そりゃ、鈴華が惚れる訳だよ】
何がイケメンだ。そう言うのは、プレストみたいな人達に向けるべき言葉なんだ。
心がイケメンは…素直に嬉しいけど。
「おっ!なんだよセレナ。ボスに惚れちまったか?」
蔵人が肩を竦めていると、鈴華が嬉しそうに声を上げる。そのまま、またもや肩を組みだした。
「お前なら良いぜ。日本に来てくれるなら、歓迎するぞ」
【えっ?うーん…どうしようかな?】
「いや、そんな事で世界の歌姫が悩んじゃイカンだろ!」
蔵人が慌てて突っ込むと、セレナさんはお腹を抱えて笑った。
【うそうそ。冗談だよ】
冗談…なら良いんだが…。
随分と明るくなったセレナさんの様子に、蔵人は疑念を抱く。
DP社との縁が切れたから、元に戻った…って事だよな?
「そう言えば、セレナさん。もう新しいスポンサーが付いたんですね?」
【うん。決勝戦が終わった後に呼ばれてね。ベアリングの会社だったかな?】
ふむ。また随分とコアな業界が飛びついたものだ。音楽業界と何か関わりがあるのか?ベアリング。
…まさか、銀行の方じゃないよな?あっちはイギリスの大財閥だし…。
「流石は世界の歌姫だな。あたしンちが出るまでもなかったか」
【出してくれても構わないよ?そしたら私も、日本でライブが開けるし】
「おっ、そいつは良いな!帰ったら早速、父様に聞いてみるぜ」
凄いなお貴族様。井戸端会議レベルで、歌姫のスポンサー枠を買取予約してしまった。
異次元のワールドビジネスを目の当たりにして、蔵人の喉から乾いた笑いが出た。
コンッ、コンッ。
セレナさんも交えて雑談していると、再びドアがノックされた。
今度こそスタッフさんか?と思って、兜を被り直してドアを開けてみると、開いた途端に目の前が赤く染まった。
えっ?
驚いた蔵人は1歩下がる。すると、目前に迫っていたそれが、大輪の薔薇の花束だと分かった。
それと同時に、それを持って微笑む女性の姿も見えた。
【ごきげんよう、ブラックナイトさん。決勝戦でのご活躍を拝見し、是非ともお祝いをと思いまして、貴方に相応しい花束をお持ちしましたわ】
そこに居たのは、クリムゾンラビッツのキャプテン、ローズマリーさんであった。
「ローズマリーさん。態々、我々の為にですか?」
NFLの大御所とも呼べるラビッツのキャプテンが、桜城の為に楽屋挨拶してくれるなんて…。
昨日の試合前では到底考えられない状況に、花束を受け取った蔵人は分かりきった質問を投げかけてしまった。
だが、ローズマリーさんはそれに、ゆっくりと首を横に振った。
【この花達は、貴方の為に育てたものですの。ブラックナイトさん。貴方の雄大で美麗なシールド捌きに向けた、わたくしの気持ちと思って頂けたら嬉しいですわ】
優雅に微笑みながら、上品に振る舞う彼女の様子は、手に持つ花束に負けないくらいの魅力がある筈だった。
でも、何故だろうな。包装されて見えない部分と同じように、彼女の笑顔の裏には危険な棘が隠されている様に感じる。
素直に受け取ったら最後、甘美な花の密に溺れてしまいそうな、そんな危機感を。
現に、手前に置いてあったメッセージカードには、何やら数字の羅列が記載されているぞ。3-3-4、ローズマリー…これって、もしかしなくてもローズマリーさんの電話番号?
「おいっ!お前!」
蔵人と同じように、鈴華も危機感を感じたらしい。
彼女は切羽詰まった声を上げて、蔵人の肩を掴んでローズマリーさんから引き剥がした。
「なに、ボスに色目使ってんだ!」
「昨日までうちらの事を馬鹿にしとったんに、今更なんなんや?自分」
鈴華と伏見さんが蔵人の前に出て、ローズマリーさんを威嚇する。
それに、ローズマリーさんは口元を隠して小さく笑った。
【昨日は昨日。今日は今日。人は常に成長し、新たな花を咲かせるものですよ。咲くに連れて色を変える、ランタナの花の様に】
それって、考え方を変えて、異能力の技術にも目を向けてくれたって事ですよね?それは嬉しい事ですけど、なんでずっとこっちを見ているんですかね?その瞳の奥の怪しい光が、ちょっと…いえ、かなり怖いんですけど?
蔵人はゆっくりと後退りする。
すると、右腕を誰かに掴まれた。
久遠さんだ。
「大丈夫やで、黒騎士くん。あんさんはウチが守ったるさかいな」
守ってくれる。
そうは言う久遠先輩だが、がっちり腕を絡ませてきた彼女の笑顔も、一筋縄では行かない奴である。その反対側では、河崎先輩が無言の圧力を掛けてきているし。
なんでこう、戦う度に厄介な女性ばかりが言い寄ってくるのだろうか?
蔵人は天井を見上げ、己の女性運を恨む。
「おいっ!女狐!どさくさに紛れて何やってんだ!」
「河崎さんも。蔵人くんの腕を離してくれないかな?」
それを見かねて、鈴華と海麗先輩が助けに来てくれた。
有難いのだが、鈴華がこちらに来たせいで、ローズマリーさんが部屋に入ってきた。
「なんで入って来んねん!」
【おかしな事を仰います。わたくしも同じ会に出席するのですから、皆様と共に行動するのは合理的ではございません事?】
「自分のとこで参加せい!」
「わぁあ…。なんか、控え室がすんごい事になってきたよ〜…」
カオスルームと化した現状に、常識人の桃花さんが目を回す。
その横では、こちらを睨む祭月さんの姿が…。
「おい、蔵人。いつまで私を拘束しておくつもりだ?」
悪い。完全に忘れてたわ。だってこの数分間、決勝戦に負けないぐらいに濃厚だったんだ。
蔵人が祭月さんの拘束を解いて、またセレナさんに突っ込もうとした彼女を再び拘束していると、三度目のドアノックが響いた。
もうこれ以上の来客は勘弁してとドアへ注目すると、そこから顔を出したのは大会スタッフだった。
【みなさーん!ご移動をお願いしまーす!】
助かったぁ。
心底疲れた蔵人は、スタッフさんに導かれるより早く通路へと出た。
そこには、数人のスタッフさんが待ち構えており、会場までの道を指し示していた。
【は~い。止まんないでぇ~。あっちだよ~】
驚いた事に、男性の姿もある。
きっと、テレポーターだろう。試合中、何度か彼らの黄色いゼッケンがフィールドを横切ったから。
スタッフさんに導かれて、蔵人達は幾つかにバラけて移動する。
選手だけでも30名居るからね。纏まって歩いたりしたら、幾ら広い通路でも塞いでしまう。
蔵人も、男子選手達と一緒に固まって移動する。
「夕飯はなんだろうね?オイラお腹減っちゃった」
「なぁ、黒騎士。バラの姉ちゃん凄い良いスタイルしてるな。え?海麗先輩といい、なんでお前にとこばっかそう言う人が集まんだよ、ホント」
サーミン先輩は相変わらずだな。
こうして男子だけで固まれば、流石のローズマリーさんも突っ込んで来ない。うまい具合に、久遠先輩と河崎先輩との三つ巴の戦いを後ろの方で繰り広げていた。
その後ろでは、鈴華とセレナさんが楽しそうにお喋りをしていた。
「マジかよ。お前、ディナーショーまですんのか」
【大丈夫だって。ちゃんと、落ち着いた曲も用意しているから】
「いや、そう言う問題じゃなくてよ。それじゃ飯食えねえじゃん。折角のご馳走だろ?あたしが皿持って行ってやろうか?」
【食べながら歌うの?かなり斬新だね】
「おっ、それも面白そうだな。いっちょやってみっか」
【本当に?じゃあ鈴華もベースやってさ、食べさせ合いしながらやってみようよ】
「どうやってベースやりながら皿持つんだよ!」
楽しそうだ。まるで、10年来の大親友である。
蔵人は顔だけ振り返り、笑い合う2人を見守る。
最初に見かけた時は苦しそうだったセレナさんだったが、今は心から笑える様になっていた。
彼女もまた、己の殻を破る事が出来たみたいだ。
約束通り、桜城がイーグルスに勝ったから。それも確かにあるだろう。でも1番は、ああやって笑い合える友を得ることが出来たからだと思う。苦しい現状を理解して、その上で尻を叩いてくれる戦友を得たことが大きいのではと。
鈴華は、俺が道を作ったと言った。だから、彼女は前に進むことが出来たと。
でもそれを言うなら、セレナさんの道を作ったのは鈴華だ。道を作る方法を理解した彼女が、迷っていたセレナさんを導いた。
そうやって、人は道を作っていく。先人達が築いた道を通り、その背中を見て、新たな道を切り開いていく。
技術が、教えが、息づいて行くのを感じる。
蔵人は、笑い合う2人を見ていて安心した。
天井にドリルを突き立てようとしているのが、己だけではないのだと分かって。
そう思っていると、談笑している2人に女性スタッフが近付いて来た。
彼女は、セレナさんにペットボトルを渡して、そのままセレナさんに耳打ちをする。
数秒の後、セレナさんはスタッフに向けて頷く。
そして、消えた。
セレナさんとスタッフさん、そして何故か近くに居た鈴華の姿も一緒に消えてしまった。
テレポート。
内緒話をした後に消えたので、これはもしかして…。
本当に鈴華も、ディナーショーに組み込まれてしまったのか?
仲良くなり過ぎるのも大変だなと、蔵人は心の中で鈴華を労った。
呑気にも、そんな風に考えていた。
でも、
【離せ!】
突然、後ろで怒鳴り声が響いた。
男性の声。
蔵人は声を聞いただけで嫌な予感がした。アメリカの男性は、一癖も二癖もあるから。
覚悟して振り返ると。
鶴海さんが、男性スタッフをアクアキネシスで拘束していた。
ふぁっ!?
「つ、鶴海さん!?なに、を…?」
何をしているんだと、問い詰めそうになった蔵人。
でもその時、脳裏にはある光景が蘇った。
イギリスのコンビネーションカップ。その表彰式でギデオンと戦った後、奴の変装にいち早く気付いて行動してくれた彼女の姿を。
【ちょっと、貴女!何を馬鹿な事をしているの!?】
他のスタッフ達が騒ぎ出し、鶴海さんに駆け寄ろうとする。
でも、蔵人は彼女達を止めて、鶴海さんに向き直る。
「鶴海さん。そいつが何かしたんですね?」
蔵人はそう言いながら魔銀盾を生成し、男の周囲を囲む。ついでに、鶴海さんと男の間にも設置し、彼女が攻撃されない様にした。
すると、苦しそうだった鶴海さんの表情が少しだけ和らいだ。
「蔵人ちゃん。この人ドミネーターよ!テレポーターを操っていたわ!」
テレポーターを操る。
それを聞いて、蔵人は桜城高等部の文化祭を思い出した。穂波さんに操られた男性テレポーターが、無意識で自分を罠に嵌めた事を。
あれと同じことが、今度は鈴華とセレナさんに起きた。
「貴様!鈴華達を何処へ送った!」
蔵人は目を釣り上げて、拘束されていたドミネーター男の胸ぐらを掴む。
だが、男は目を合わせようとせず【知らない!言いがかりだ!】と喚き散らした。
痛い目を見ないと分からないのか?
蔵人が空いた方の手を拳に変えていると、
「退きなさい、黒騎士」
西園寺先輩が、冷たい目で命令してきた。
この目は、ドミネーションの目。
蔵人が急いで道を開けると、先輩は男に近付いて、キスでもするんじゃないかと言う程近くで顔を覗き込んだ。
そして、
「白状なさい」
超至近距離で、ドミネーションを発動した。それに、男はポツリ、ポツリと言葉を漏らす。
【だから、俺は何も知らな…無実…ただ…言われた、だけ…】
「言いなさい。何を言われたの?」
同じドミネーション同士だから耐性があるのか、なかなか口を割ろうとしない男。
だが先輩は諦めず、男とオデコをくっ付けて、更に強力なドミネーションを掛ける。
すると、
【…特区、外、歌姫、飛ばす…ブラックナ、仲間、一緒に……違う。俺は、無実だ。雇われた、だけで…】
先輩のドミネーションが打ち勝ち、ポロポロと単語を零した男。
その単語だけで十分だ。
それだけで、最悪のシナリオが見えてきてしまった。
楽しいエピローグが始まり…。
と、思っていたら。
「まぁ、前回の最後を見れば、このまま終わりとは思っておらんかった」
借金男がドミネーター?
「恐らく違うだろう。面識がある筈のあ奴らが反応していないからな。別人か、メタモルフォーゼされているか」
どちらにせよ、不味い状況です…。