377話(2/2)~…排除しなさい~
※臨時投稿です。昨日も投稿していますので、読み飛ばしにご注意ください。
『みんなー!盛り上がってるー?』
【【【わぁあああ!!】】】
【【上がってるー!!】】
決勝戦が終わってすぐに、閉会式が始まった。
開会式と同様に、8つのチームが揃い踏みでフィールドに並び、開会式と同じ様に大きなステージに向って正対していた。
日本であれば先ず初めに、大会の偉い人達からの挨拶から始まるのが記念式典のイメージであるが、アメリカのスタートは歌から始まった。
その歌い手は勿論、世界の歌姫、セレナ・シンガーであった。
『今日はイースター復活祭の当日!頂点を目指して戦った8つのチームみんなに向けて、楽しくド派手に歌っちゃうから!みんな付いて来てね!』
【【【いぇええええい!!】】】
【良いぞ!セレナ!】
【付いてく、付いてく!】
【やっぱ、このノリだよな!懐かしいぜ!】
ホップステップジャンプと、ステージの上で飛び跳ねるセレナさん。
まるで背中に羽が生えているかのように自由な彼女のスタイルに、観客席からは【懐かしい】という声が多くを占めている。
これが、本来の彼女だったのだろう。自由になった彼女は、そのまま空を飛んで行ってしまいそうな程に軽やかだ。
セレナさんはそのまま、華やかに飾られた舞台の上で歌を歌いだした。ハーフタイムショーの時とは違い、彼女の後ろにはバックミュージックを奏でるバンドメンバーが居た。
途中で投げ出したりは勿論せず、彼女の楽し気な歌い方に合わせてパフォーマンスまで見せてくれている。メンバーの中には男性の姿もあるので、デュポン家に雇われた人ではないのは確かだ。
『新世界は、すぐ近くさ♪
僕らのチカラで、トビラ開けば、世界は変わる♪
限りない可能性をもっと、感じてよホラ♪
夢を見ようよ♪新しい世界に、手を伸ばしてよ♪』
【【【わぁあああ!!】】】
【セレナー!!】
【やっぱこれだよ!ニューワールド!】
【ずっと聴きたかったわ!貴女の曲を!】
【これこそセレナだ!】
スポットライトを浴びるセレナさんに、観客達は胸の内の興奮をそのままにぶつける。まるで復帰コンサートかと思う程に、彼女を待っていたと叫ぶ声が至る所で聞こえてきた。
「それだぁ!セレナ!私はそれを待っていたんだぁ!」
ここにも1人、熱狂的なファンが大声と一緒に唾を飛ばしまくっている。
君の熱意は十分に分かったから、舞台に突撃しようとしないでくれ。もう、ステージ乱入は許しちゃくれないぞ?
『みんなー!ありがとー!』
歌い終わったセレナさんが、みんなに向かって大きく手を振る。
その姿に、表情に、以前までの憂いた様子は一切なくなっている。彼女の足かせは完全に立ち消えたと思って良いだろう。彼女の両手は自由に羽ばたき、新たな門出を喜んでいる様子だった。
DP社との契約は、ハーフタイムショーの舞台で解除されるだろうと予測していた若葉さんだったが、どうやらそれは当たっている様だった。
でも、ただ解除されただけなら、このように大会のステージで歌える筈がない。と言う事は、また新たなスポンサーと契約出来たとみて良いだろう。セレナさん程の逸材であれば、それも納得出来ると言うもの。
…風の噂だが、我々にも何処かから話が来ているらしく、ローズ先生が神妙な面持ちで学校に電話していたらしい。若葉さんの予測では、アメリカの大手企業からのスポンサー契約か、軍からのスカウトではないかと言っていたが…。
取り敢えず、アマンダさんに連絡はしておいたから、大事にはならないと願いたい。
セレナさんが舞台から降壇し、大会運営委員長からの挨拶が終わると、そのまま表彰式へと移った。
3位から1位までのチーム代表が一気に舞台の上へと呼ばれる。
同率3位のクリムゾンラビッツとガゼルホーン。
2位のワイルドイーグルス。
そして、1位の桜城が呼ばれると、ひと際大きな歓声が上がる。
蔵人と部長、そして鈴華が登壇し、並び立つ他のチームの真ん中へと入っていく。
…本当は、海麗先輩が出るべきでは?とも議論したのだが、先輩が鈴華を強く推したので、この3人が表彰台に上がることになった。
その鈴華は、舞台の端の方でこちらに拍手を送っていたセレナさんを呼びつけて、何か楽しそうに話し込んでいる。
…仲が良いのは良い事だが、鈴華よ。相手はお前さんより年上で、有名人だからな?だから、そんな風に肩を組むのはどうかと思うぞ?
【師匠!おめでとうございます!】
蔵人が不安からソワソワしていると、大きな影が近づいてきた。
マーゴットさんだ。大型犬の様に目をキラキラさせて、小さく手を叩いて祝福してくれている。彼女の後ろには、猫の様に目を細めたエミリーさんも付いて来ていた。
【いやぁ、君たちならやれるんじゃないかって言ったけどさ、まさかイーグルスまで倒すとは思わなかったよ。しかも、あんな切り札を隠し持っていたなんて】
「いえ、まぁ、隠していた訳ではないのですが…」
あんな、とは、十中八九ファフニールの事を指しているのだろう。
鈴華がしっかりと訓練をしていたから成功したものの、土壇場であれ程のユニゾンを出せた事に蔵人もびっくりしていた。
でも、そんなことをここで言うのは不味いだろう。自慢していると取られるかもしれないし。
蔵人がどう言うべきか迷っていると、マーゴットさんがエミリーさんの手を握る。
【師匠に一歩でも近づけるよう、自分もエミリーとのユニゾンを挑戦する所存です!】
意気込むマーゴットさんに、エミリーさんは首をブンブン振って抗議する。
【いやいや、無理だって!私ら、ランクも血液型も全部違うじゃん!】
【それは師匠達も同じ条件ですよ?エミリー。セレナ嬢も歌っていたではありませんか。夢を描こう、きっと叶うからと】
【ストロンガーの事を言っているのかい?そりゃぁ、いい歌だと思うけどさ。ちょっと君は、純粋過ぎるんじゃないかな?】
純粋なことは良い事だ。どんな世界でもね。
そうして雑談に花を咲かせていると、表彰式が始まった。
先ず初めにガゼルホーンが前に呼ばれ、銅色のメダルを授与される。他の2チームも同じように授与され、我々も金色のメダルと小さなトロフィーを部長が受け取る。
そして何故か、蔵人にはマイクを渡されてしまった。
…なんで俺なんだ?こういうのは、部長の役目じゃないんですかね?
あっ、トロフィーを持ってるから無理?鈴華は…ああ、うん。分かったって。
蔵人は大人しく、マイクを持ち上げる。
観客席を見上げて、手を振り上げた。
『皆さん!たくさんの応援を、ありがとうございました!』
【【【わぁああああ!!!!】】】
〈◆〉
『ブラックナイト選手!君の強さを教えてくれないか!?』
『強さ、ですか。皆さんの応援や仲間達との絆が私を強くしました…と言う強さを聞きたい訳じゃなさそうですね。でしたら、私が示せるのは一つ、異能力を使う技術力、応用力です!』
フィールドのど真ん中に設けられたステージで、日本の少年が気持ちよさそうに大衆を仰ぎ見ながら手を振る。
そして、嘘八百を並べていた。
異能力の使い方次第で、幾らでも強く成れると。どんな異能力種でも、ランクでも、可能性は広がっていると。
夢を捨てずに、貫いてくれと大見得を切っていた。
『地上に天井は無い!もしも阻む壁があるのなら、己の魂を突き立てて欲しい!きっとその壁の向こうには、果てしない可能性が広がっているのだから!』
【【【わぁあああああああああ!!!】】】
【【ブラックナイッ!ブラックナイッ!】】
観衆に持て囃されるその姿は、セレナのそれと重なって見える。
彼もまた、我々を陥れる為の間者。アメリカの敵だった。
【ジェーン。これ以上、テロリストを助長するような発言を許す訳にはいきません。即刻、表彰式の終了を伝えなさい】
【既に申し入れしておりますが…】
ジェーンは目を伏せながら、小さく首を振る。
私はそれに、目を細める。
【拒否していると?我々と事を構えようとは、良い度胸ですね。ジェーン。それは委員長ですか?それとも、他の出資者が?】
【渋っているのは委員長ですが、彼女の意志だけで我が社と対峙するとは思えません。ハーフタイムショーを妨害してきたアメリカ政府の関係者か、もしくはイギリスの関与も考えられます】
【イギリス?】
予想外の黒幕に、私は眉を顰める。
それに、ジェーンは力強く頷く。
【はい。現在セレナを護衛している者達の中に、イギリスの諜報機関に属する者が居ると情報が上がっております】
【…そう】
まさかのイギリス。あの三枚舌のペテン師どもが、裏で動いていたか。
【それと、社長…】
【何ですか?】
恐る恐る聞く秘書に、私は優しく問い掛けるように心掛けた。
それなのに、彼女は余計に顔を強張らせ、生唾を呑んだ。
なに?私の顔が、そんなに恐ろしいの?
【言いなさい、ジェーン】
【…はい。先ほど、NICHIC社から連絡があり、来期に納入予定であった最新パワードスーツの数を、大幅に縮小させたいと】
【何ですって!?】
私の声に、秘書は小さく飛び上がる。
そして、更に付け加えた。
【加えて、来年度以降における異能力スーツの提携契約についても見直しをすると…。これは、Neo BalanceやTHE SOUTH FACEも同様の内容を伝えてきており…】
そんな…なんで…なんで、こんな負け一つで、示し合わせたように大口案件が次々と揺らぐの?天下のDP社の信用が、そんな簡単に揺らぐとはとても思えない。
【【【ブラックナイト!ブラックナイト!ブラックナイト!】】】
揺らぐ私の足元で、庶民達のお気楽な声が響く。
その中心にいる少年も、調子に乗って右手を空へと突き出していた。
こんな馬鹿な奴らに、歴史あるDP社の信頼を揺らされている?
違う…。
【イギリスが、アメリカを乗っ取ろうとしているのね】
そう言う事だ。偉大なるアメリカの力を削ぐために、国内の兵器メーカーをピンポイントで攻撃しているんだ。それに加えて、セレナやブラックナイトに反魔力主義の姿勢を取らせて、特区外のギャング達により過激な抗争を起こさせようとしている。そうして、混乱したアメリカを牛耳ろうとしているのだ。
イギリス…いや、こうなってくると、イギリスだけじゃない。ロシアやドイツも噛んでいるだろう。下手をすると、中国も一枚噛んでいるかも。だから、その隣国である日本が利用されているんじゃないかしら。
偉大なるアメリカの威信が揺らいでいる。これは、何とかしないと。
【ジェーン。あのブラックナイトと接触出来ない?】
一番手っ取り早いのが、影響力の強い人間を支配する事。セレナでやっていた時みたいに、あのブラックナイトを中継して、我々の思想を庶民共に叩きつけるのだ。うまく行けば、ブラックナイトに製品を着させて、イメージアップを図れるかも知れない。
男を使うのは癪だが、今はそんなことを言っている状況ではない。一刻も早くこの状況を打開せねば、DP社の信頼が揺らいでしまう。
彼を使うしかない!
そう思って顔を上げると、秘書の固い表情が目に入った。
【黒騎士の周辺はガードが固すぎます。日本の特殊部隊、イギリスの諜報機関。そして、我が国のエージェントの姿も目撃されています。未確認の情報ですが、イギリス王室も彼に目を掛けているとか】
【ぐっ…そんな…】
なんてガードの硬さ。もしかして、彼は日本の王子なのか?日本にはテンノウという長い歴史を持つ王がいると聞く。彼がその末裔だったりするの?
何とか出来ないかと私が悩んでいると、ジェーンが急に厳しい顔になり、耳に手を当てて顔を背けた。
そして、
【…排除しなさい】
目を吊り上げてそう言った。
【どうかしたの?】
【いえ。男が1人、社長に面会を求めておりまして…ああ、黒騎士ではございません。なんでも、賭けに負けたから弁償しろ…などと意味の分からないことを喚いている様子らしく】
【はぁ…】
下らない。一瞬でも、向こうから飛び込んで来てくれたのかと期待してしまった。
やはり、男とは無能で無謀な生き物。女に成りきれなかった劣等種だ。
そんなもの、早く追い払って…。
【…いえ。ジェーン。その人を通してちょうだい】
【すぐに…えっ?通す?喚く男を、ここに…で、ございますか?】
【ええ。丁重にお通ししてちょうだい】
私が笑顔を向けると、ジェーンは青い顔になって私に頷き返す。
私が何をしようとしているか、なんとなく察したみたいだ。
流石は、長年私の秘書をしているだけはあるわね。
ジェーンが無線で許可を出すと、ガードマンに連れられた男が1人、私の前に現れた。
私はそいつに、張り付けた大きな笑みを向けた。
【ようこそいらっしゃいました。さぁ、お掛けになって。ごゆっくり、お話をお伺い致しますわ】
久我さんとセレナさんは仲良しになったみたいですね。
「あ奴とマーゴット嬢もな」
そんな中、また社長さんが拗らせていますね?
さて、何をする気なのか…。