376話(2/2)~す、鈴華?~
※臨時投稿です。前話も投稿していますので、読み飛ばしにご注意ください。
※ミスで2話連投にしてしまいました…
慶太達のジャミングドームが解除され、陽光が差し込み青々とした人工芝が煌めくフィールド。
その美しい光景を踏みにじるように、歪で真っ黒いスライムがドロリと広がり、異様な光景に観客席でも不安そうな顔が互いを見合わせる。
そんな彼女達の中から、悲しみに満ちた声が放送席から響いた。
『間違ってる。こんなの間違ってるよ!』
「セレナ…」
その声に、鈴華が呟き、放送席を見上げる。
蔵人もそちらを見ると、放送席の中でマイクを片手に持ったセレナさんが、黒スライムを指さして声を上げていた。
『みんなには聞こえないの?この声が、苦しそうな2人の悲鳴が。私には聞こえる。私には見えるよ、無理にユニゾンした2人の姿が。こんな醜い姿に、みんなは成りたいって思えるの?』
【お黙り!貴女の様な世間知らずの子供に、何が分かると言うの?生きると言うのは戦争よ!生き残るための道具を、兵器を、我々は作り出しているの!インドや中国にSランクの数で負ける私達が、世界最強であるためには必要な物なの!
そう、全ては、この偉大なる・アメリカの為なのよ!】
完全に自分の世界で酔い続けるカトリーナ。
それに、セレナさんは顔を伏せて首を振る。あまりに違い過ぎる思想に悲しみを抑える。
そして、前を向いて、訴えかける。
『そんなの間違ってる!間違ってますよ、カトリーナさん!なんでこんな、人を苦しめるようなことをするんですか…。グレートアメリカって、人を苦しめてまで目指すことなんですか…?』
訴えかけながら、大粒の涙を流すセレナさん。
そんな彼女を、カトリーナはあざ笑う。
【貴女は、本当に分かっていないのね。この世界は弱肉強食。強い者が正義であり、強い国が世界に君臨する。全てにおいて秀でているアメリカが、我が社の技術が、世界最強であることを示すべきなのよ!】
狂ったように笑うカトリーナが、こちらへと手を伸ばす。
真っすぐに、その指が付き付けられる。
【証明しなさい、我らの力を!グレート・アメリカの尊厳を!】
【【あぁああああぁああ…】】
カトリーナに促されるように、黒いスライムが肥大化を続ける。その体から伸びる小さな腕が、こちらへと伸ばされ始める。
その姿は、まるで悪魔。
全てを喰らう、暴食の如く歪な姿だった。
このままでは、得点数を稼ぐ前にフィールドが全てスライムに覆われてしまう。そうなれば、誰も抗うことは出来なくなる。
「蔵人君!」
海麗先輩が、青い顔に瞳を輝かせて近付いてきた。
覚悟を決めた目だった。
「私が道を切り開く。だから君は、もう一度あのドリルで彼女達が居る辺りを…」
「ありがとうございます、海麗先輩。でも、あの娘達への対処は、同じユニゾンでなければ意味がない」
技術力。そして、絆の力。その全てにおいて、DP社の上をいかねばならない。
歪なユニゾンなどではなく、正しい道で進むべきだと示さねばならない。
こんな悪夢を、二度と繰り返さないように、徹底的に。今ここで。
だから、
「行くぞ!戦友!」
蔵人は手を後ろに出して、慶太を呼びつける。
彼とのユニゾンで地面の中から急襲し、ドリルで一気にコアを貫く。
「おうっ!」
そうして握られた手は温かく、目の前には天川の様に煌めく銀髪が揺れた。
うん?
「す、鈴華?」
手を握り返してきたのは、いつの間にか上げってきていた鈴華だった。
あれ?慶太は?
「んだよ、ボス。戦友って、誰を呼んだつもりだったんだ?」
「いや、ユニゾンしようと思ったから、慶太を…」
「あん?」
「いえ。鈴華さんをお呼びしました」
「そうだろ、そうだろ。ニシシ」
イタズラ成功みたいに笑う君は素敵だけど…大丈夫だよな?今からユニゾンして、あれを倒すんだぞ?
「鈴華。歪だが、相手は間違いなくSランク以上の力を持ったユニゾンだ。俺達もそれ相応の力で対処する必要がある。DP社の英知の結晶に、俺達は努力の結晶で挑まねばならない。高速回転する俺の力に、ついて来られるか?」
「当たり前だ、ボス。その為にあたしは、これまでずっと訓練してきたんだからよ」
そう言って笑う彼女の微笑みには、自身と優しさが滲み出ていた。
ずっと。それは、去年の文化祭からだ。彼女はあの時からずっと、努力し続けた。
桜城ランキングで1位になっても。周囲からもてはやされても、ずっと。
全ては、この瞬間の為に。
蔵人はそれを見て、安心した。
彼女に向けて、魔力を差し出す。
「君が思う通りに思い描くんだ。君が思う、最強の姿を」
「最強の龍って事だな?なら、アイツしかいねえだろ」
だろ?と言われても、彼女の思い描く龍が見えたりはしない。
でも、明確に形を思い描けるのならば、それはとても素晴らしい事だ。
蔵人は、彼女に引っ張られるままに、彼女の思い描く最強を創生する。鈴華の魔力と混じり合った鱗を敷き詰めて、細部のあやふやな部分は経験則から蔵人が補修する。
やがて2人の魔力は、白銀の鱗を纏う巨龍の姿を形作った。
観客席から再び、膨大な熱量が生み出される。
【【【うわぁああああ!!】】】
『なんと、なんとなんとなんと!桜城側もユニゾンをやってのけた!それも、自然のユニゾンだぁ!!ブラックナイトと、スズカ選手のユニゾンが、美しい銀龍を創り出したぞぉ!!』
【なんて美しいの!】
【これが、ナチュラルユニゾン…】
【全然違うわ…あの黒スライムと…】
【ブラックナイト様が、また新たな女とユニゾンしていらっしゃるわ!!】
大歓声。
消えかかっていた声が、再び盛り上がりをみせる。
熱い息吹を感じる。
そんな温かいぬくもりの中、ただ1つの悪意を感じた。
溢れ出る憎悪が、我々の足元から。
〈◆〉
【何が、ナチュラルユニゾンよ。ただBランクの盾を張り付けただけの弱小ユニゾンじゃない】
何をするかと思えば、ただユニゾンの真似事。たかがCBランクが魔力を合わせた所で、Aランクにも満たない出来損ないを作り上げただけ。
【良いこと?我々のユニゾンは、Aランク2人分が合わさったSランクのユニゾン!貴女達Bランクに毛が生えた程度のトカゲに、負ける筈が無いのよ!】
形だけを整えても、中身がなければただのハリボテだ。そんなもので、DP社の技術と張り合えると思われることが腹立たしい。
私は、その怒りのままに、黒スライムに向かって叫ぶ。
【先ずは、あのトカゲを攻撃しなさい!】
私の指示を受けた黒スライムが、泥水の腕を銀龍の方へと向ける。その腕から、何発も魔力を発射した。
黒い、泥水の弾丸。
銀龍はそれを、両翼で体を包み込む様にして防御した。
弾丸は勢い良く両翼に当たり、外した弾丸は観客席へと飛んでいく。その一撃は重く、観客席に張られたAランクバリアの1枚目を粉々に粉砕。2枚目も破壊し、3枚目で漸く止まった。
泥水とは言え、間違いなくSランクの威力を内包する強力な弾丸だった。
そんな強力な魔力弾を至近距離で浴びた銀龍の翼は、泥水で徐々に黒く変色していく。
だが、ひとたび両翼を広げてしまうと、その黒い泥は跳ね飛ばされ、銀色の鱗で太陽光を反射して輝かせて見せた。
太陽色に輝くその両翼に、ダメージは見られない。
【なっ!何故、無傷なの!?Sランクの攻撃が、直撃しているのに!】
思わず、私は叫んでしまった。
イリュージョン?いや、銀龍の後ろを、弾丸が貫通した形跡はない。
確実に銀龍はそこに存在し、魔力弾はその両翼に当たっていた。
では、何故?
私の疑念に、銀龍は口を開ける。
白銀の刃の間から、少女の様な高い声が響く。
『あたしの翼は頑強なんだよ』
【頑丈?有り得ないわ…BランクとCランクで、Sランクを防ぐなんてことは出来ない!】
どんなに頑丈な作りだったとしても、ランクの壁を超えることは出来ない。それがこの世界の摂理であり、異能力の真理だ。
だから、何かトリックがあるに決まっている。
後ろの奴らから、何か援護を受けている?バフか何か掛けてもらっているのか?
だったら、桜城の全てを吞み込んでしまえばいいだけの事。
【膨大な魔力の水に飲み込まれてしまいなさい!】
私は黒スライムに、奴の翼を捕まえる様に命令を飛ばす。するとすぐに、黒スライムの表皮から無数の手が伸びた。
奴を取り込もうと伸びる怪しい手を、銀龍は両翼を薙いで振り払う。頑丈な翼はそれだけで、鋭利な刃となって泥水の腕を切り落とした。
【そんな、有り得ない…】
何故、Sランクの腕を切り落とせる?そんな特別な力が、あの銀龍にはあるというの?
私は知らず、【有り得ない】を何度も零していた。
私が指示を出さないから、黒スライムも止まってしまった。もしかしたら、崩壊しかかっているのかも知れない。波長を合わせる為に流していた脳への電流を、もっと強めた方が良いかも。
私は、機器を操作しようとした。
その時、銀龍が動き出した。
『寄越しな』
銀龍は黒スライムに体当たりをかました。半液体のスライムだから、衝撃は全て吸収して、ついでに銀龍も吸収しようと黒い泥を纏わり付かせる。
だが銀龍は、離れようとしなかった。より体を密着させ、自慢の両翼もスライムの体に漬け込む。
『あんたの魔力、あたしに全部寄越しなよ』
やがて、銀龍の体全てが、黒スライムに取り込まれた。
その滑稽な姿を見て、安心感が胸の奥から湧いた。
笑いが、込み上げてくる。
【あ、はっ。はっはは!何よ?結局負けてるじゃない!やっぱり強い物には勝てない。それがこの世界の真理!最後に笑うのは、強者だけなのよ!】
『(低音)然り』
スライムの中から、私を肯定する声が響く。
腹の底が震える様な、男性の声だ。
そして、次の瞬間に、
スライムの体が、弾けた。
銀龍を取り込んでいた部分が宙に舞い、奴の周りに浮遊した。
その黒い雨粒の中で、銀龍の体が輝く
『(低音)真の強者のみが、最後に笑う。しかして、真の強者とは武力のみで測れぬものよ』
【な、何が…何故…どうやって…】
どうして、スライムが弾けたの?
なんで、銀龍は抜け出せたの?
どうやって、スライムの体を浮かせているの?
分からない。何もわからない。分からない過ぎて、怖い。
【貴女は一体…何なのよ…?】
私の問いかけに、銀龍がこちらを向く。
白銀の口が大きく開き、その中の鋭利な刃がこちらを向く。
声が、響く。
『(低音)我は王龍。天を、地を。この世の全てを焦がるる者』
銀龍はそう言って、両翼を広げた。
その銀色の鱗が太陽を反射して、眩い金色に輝く。
巨大な黄金龍が、そこに居た。
『(低音)剛翼龍・ファフニール!!』
強欲なファフニール。
「確かにアレは強欲だ」
磁力で龍?と思っていましたが、引き付ける=強欲と捉えるとは。