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376話(1/2)〜何故、お前がそれを持っている…〜

オリアナ選手が立ち上がり、再びタコの触手がうねうねと動き出す。

それに、蔵人は対巨星盾を回す。

蔵人を守るように立ちはだかっていた海麗先輩が横へ飛び退り、目の前がクリアになる。

グレイト2並みに大きな装備に身を包んだオリアナ選手が、腕を地面につけて体を浮かせようとしていた。

そんな彼女に、蔵人は高速回転する盾を真っ直ぐに向ける。

走り出す。

盾の推進力も併せて、真っすぐに突っ込む。


「ミラァ!ブレイクゥウ!」

『出たぁあ!ブラックナイトの必殺技が、ここに来て炸裂!オリアナ選手を貫かんと、轟音と共に飛び上がる!それを、オリアナ選手の腕が押さえたぁ!6本の腕が、必死にドリルを押さえ込もうとしているぞ!』


巨大ドリルとサイコキネシスの腕がぶつかり合う。高速回転するダイヤモンドの刃に、Sランク相当の腕が抗う。

だが次第に、1本目のサイコキネシス腕に小さなヒビが生まれた。それはすぐに大きなヒビとなり、やがて砕けて大穴を空けた。

貫かれた腕は色を失い、薄くなって空気に溶けていった。

蔵人は前を向く。そこにはあと、5本の腕が迫ってきている。


【何をしているの、オリアナ!相手はたかがCランクよ!耐えなさい。抑え込みなさい!ねじ伏せて叩き潰しなさい!】


下で、カトリーナが必死に叫んでいるが、オリアナ選手は耐えるので精いっぱいだ。

この5本の腕で支えているから何とかなっているのに、カトリーナはそんなことも分からずに、こちらをひねりつぶせと金切声を上げる。

こちらが男子だから、女性でAランクのオリアナ選手がただ抗うだけなのを許せないのだ。女性優位を疑わない彼女であれば、そうやって睨んで来てくれると思っていた。

そうやって、全神経を集中してくれるとね。


蔵人は、少し浮いたオリアナ選手の足元を見る。

そこには、彼女を目掛けて走り込む、海麗先輩の姿があった。

社長さん。こちらを注視するあまり、先輩が見えてなかったんじゃないか?


「せいっ!」


海麗先輩は飛び上がり、オリアナ選手に向けて拳を振り上げた。


「チェストォオ!」

【オリアナ!】


先輩の黒い拳がオリアナ選手へと向かう。

それが着弾する前に、オリアナ選手の腕が拳を受け止めた。こちらに来ていた内の2本使って、何とか威力を押さえたのだった。

だが、海麗先輩の拳を正面から喰らったサイコキネシスの腕は、その一発で吹き飛んでしまった。


残る腕は、あと5本。

その5本が、蔵人と海麗先輩を押さえようと迫ってくる。ドリルに2本。海麗先輩に3本。

オリアナ選手の足が、完全に地面の上へ着いた。全力をもって、我々を抑え込もうとしている。

そんな彼女の体に、サイコキネシスの腕が絡みついた。

彼女の腕じゃない。薄い、Cランクの腕だった。


「せやから、うちも()るって言うとるやろ!」


オリアナ選手の頭上で待っていた伏見さんが、急速に腕を縮めて彼女へと迫る。

巨大なパワードスーツに向けて、魔銀に固めた拳を叩き込む。

衝撃!

オリアナ選手の体が、パワードスーツごと大きくのけ反った。


「ジャイアント、キリングっちゅう奴やで!」


飛び去る伏見さんの後ろで、パワードスーツが地面に倒れる。倒れた衝撃で、破壊されたパーツがそこら中に散乱した。

歓声が、爆発する。


【【【うぉおおおおお!!】】】


『やった!やりやがったぞ、フッシミー!Sランクの腕を振り回すタコヴィランを、Bランクの拳でフィールドに沈めちまった!アメイジング!マーベラス!まさにマーベラスなスパイダーウーマンだぜ!』

【やった!まさにスパイダー!】

【ヒーローだ!】

【【スパイダー!スパイダー!】】


「せやから、兵長や言うとるやろが!」


嬉しそうにツッコミを入れる伏見さんは、普段よりも少し高い空を飛び回る。

高揚しているのは良いけれど、高度制限を超えないでくれよ?


蔵人は、テレポートしてきた女性スタッフを見て、ほっと一息付く。

勝てたこともそうだが、これでようやくオリアナ選手を解放出来た。戦っている最中、ずっと苦しそうに呻いていたからね。でも、今は静かになっている。

後は、残った選手を解放するだけだ。


そう思って、足を出した瞬間。

テレポーターの女性が、こちらへと後ろ向きで飛び込んで来た。

なにっ!?


蔵人は驚きながらも、彼女を支える。


【どうしました!?】

【あっ、ごめんなさい!ブラックナイト選手。彼女がまだ、動きましたので…】


なに?

蔵人が視線を戻すと、そこには黒い腕が蠢くオリアナ選手の姿があった。

まだ、トドメをさせていなかったのか。

蔵人はテレポーターを逃がし、螺旋盾を用意する。

その間にも、オリアナ選手はゆらりと立ち上がり、その拍子に割れた装備の破片が地面へと落ちた。


「随分としぶとい」


だが、もうまともに戦えないだろう。出ている腕はBランクの物にまで落ちているし、装備がボロボロだ。これなら、軽く突くだけでベイルアウトになる。

そう思って、蔵人は無回転の螺旋盾を構える。

そして、

拳を構えたまま、動きを止めた。


彼女の半壊したパワードスーツ。その内側にあった紋章が目に入り、思考が吹っ飛んでしまったからだ。

二重になっていた装甲の内側の部分、そこにあったのは、青い鷲の頭が書かれた紋章。

港を襲ったナイト級アームドが持っていた盾と、同じ紋様だった。

蔵人は、ゆっくりと首を振る。


「馬鹿な…。何故、お前がそれを持っている…?」


アグレスなのか?この子が?

いや、彼女からモヤは出ていない。嫌な感じもしない。だが、そこにある紋様は間違いなく、あの盾と同じ紋様。と言う事は、あのアームドが持っていた盾はDP社が作り出した製品だったということか?

アグレスとDP社の間に、何か関係があるのか?


頭の中で、様々な想定が入り乱れる。

その間にも、オリアナ選手は動き出す。ぐったりと垂れた首と四肢とは裏腹に、サイコキネシスの腕が元気よく伸びて、自軍領へと戻ろうとする。

させるか。


「全て吐いて貰うぞ!」


逃げる彼女に容赦なく、蔵人は無数のシールドカッターを放つ。だがオリアナ選手は、いや、彼女のパワードスーツが全て避けてしまい、彼女はフィールドから離脱してしまった。

自主退場。交代扱いになってしまった。


しかも、退場したのは彼女だけではない。円柱に退避していたイーグルス選手も続々とフィールドの外へと退避し始めた。その代わりに、2人の選手がフィールドへと入って来た。

彼女達の背番号は、1と2番。


『なんと!イーグルスは大胆な作戦に出たぞ!13名全ての選手を引っ込めて、Aランクを2名投入してきた!』

【【えぇええ!?】】

【そんなの有りかよ!?】

【レギュレーション違反じゃないの!?】


驚く観客席と桜城の選手。それに、実況が『いいえ!』と強く返した。


『これは、レギュレーション違反ではありません!Bランク3名と、Cランク9名を引き換えにした場合だけ、Aランクは2名まで編成出来ると、ファランクス公式ルールにも載っています!ただ、あまりに奇抜な編成であり、殆どの場合でゲームが成り立たないから、今まで誰も使いませんでしたが…』


それを、イーグルスは投入してきたと。

目の前の2名だったら、13人に勝てる言うことだろうか?

どれだけ強いAランクでも、ファランクスは陣取り合戦。打ち倒さなくとも円柱にタッチしたら勝てる競技だ。

今は特に、得点差も大きくこちらが有利。あと1回でもタッチを成功させたら、コールドになる点数差。もしくは、我々が桜城円柱で待機してしまえば、ものの数分で勝負が決まる。

そんなの分かっているだろうに、それでもAランク2人であれば勝てると踏んでいるのだろうか?


蔵人は、奇抜過ぎる作戦を敢行したイーグルスに警戒を強める。

まさか、2つの複合異能力を使いだしたりしないよな?


【あーはっはっは!】


2人の装備から白いモヤが出てないかと蔵人が目を細めていると、向こう側からカトリーナの高笑いが聞こえてきた。

なんだよ?次は、何をしでかそうとしているんだ?


【見せてやりなさい!我らDP社の最新技術を!】


カトリーナの指示が飛ぶと、1番と2番が手を繋いだ。

繋いだというより、磁力か何かで手が引っ付いた様に見えた。

そして、繋がった2人が急に前かがみになる。繋いでいない方の手を頭にやり、痛がる素振りを見せる。

またオーバーバフで何かしようとして…いや、この2人で手を繋ぐシチュエーションは、コンビネーションカップの時に散々見た場面だ。

こいつら、もしかして…。


蔵人が気付いた時には、それはもう始まっていた。

手を繋いだ2人の魔力が行き会い、合わさりあい、溶けあう。

彼女達の魔力が、ユニゾンした。


【【あぁあああ!!】】


2人の鋭い叫び声がすると同時、魔力が膨れ上がる。

膨大な魔力が彼女達のパワードスーツから吹き出し、それらが水と土に変換されて混ざり合う。泥水となった異能力が、悲鳴を上げる2人を呑み込み、渦となってイーグルス円柱も巻き込みながら大きく肥大化していく。

やがて、その泥水は黒く濁り、真っ黒いスライムの様な物を作り出した。

その黒いスライムから、呻き声が轟く。


【【あぁあああ…うぅうう…】】


その声は、スライムの中に取り込まれた2人の物に聞こえる。低く変容し、生気のない恐ろしい声なのだが、何故かそう思えてしまう。

2人が助けを求めている様にしか、蔵人には聞こえなかった。


『これは…』

【なんだ…これ…】

【分からないわ…】


その怨嗟の声を聴き、異様な化け物の姿を見た観客達は、言葉を失った。

先ほどまで大興奮だった会場の熱が、一気に失われてしまった。

ただ1人、フィールドの端でクルクル回るカトリーナを除いて。


【ご覧ください!皆さん!これこそが、DP社の総力を持って開発している最新機器。いえ、今までのパワードスーツとは全く異なる新たな兵器!その名も、オール・ユニゾンです!

兄弟姉妹、近しい血縁関係でなくてもユニゾンが出来る夢のような道具です!この装置を使用すれば、ただ手を繋ぐだけで膨大な魔力を手に入れる事が出来るのです!これさえあれば、もう魔力量で悩むことも有りません!明日から貴女も上流階級の仲間入りです!】

『おおっ!これはまた、凄い商品を開発したもんだな、DP社!誰でもユニゾンが可能と言っているが、確かに今、目の前で合体している2人は全くの他人同士。それが、Sランクもビックリな巨大スライムを作り出している!…けれど、何か呻いている様にも聞こえるぞ?』


実況が不安視するのと同時に、観客席からも疑問の声が幾つも漏れ聞こえてきた。


【ユニゾンって、そんな簡単に出来るものなの?】

【何か苦しんでいるようにも見えたけど…副作用か?】


そんな不安視する声を、カトリーナは笑い飛ばした。


【それはそうですよ!何の苦労もなく、強大な力を手に入れるなんて出来る筈もありません!詳しくは言えませんが、多少体に負荷は掛かります。でもそれだけで、この膨大な力を手に入れられるのです!貴女達は成りたくないのですか?世界の頂点である、Sランクに!】

【いや、それは…まぁ】

【でも、どうなんだろう?】

【負荷がどれくらいかに寄るんじゃない?】


怖がっているが、少し興味を持つような声も漏れ聞こえる。

悪い流れだ。こんなの、どう考えても良くならない未来しか待っていないというのに。

アメリカの世論が何処か、おかしな方向へと迷い込もうとしているのを感じる。


だから、直ぐにでもこの黒スライムを壊す必要がある。

蔵人は決意し、口の周りに盾を集めた。

丁度、その時、


『こんなの間違ってるよ!』


そんな声が、スタジアムに響いた。

長くなりましたので、分割します。

※設定ミスで2話連投にしてしまいました…。


何故、アームドが持っていた盾と同じ印が?


「謎が謎のままに逃げ去ってしまったな」


これは、後でとっちめないとですね。

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― 新着の感想 ―
悪い流れだ。こんなの、どう考えても良くならない美来しか待っていないというのに。 未来の打ち間違えだと思われます。
オール・ユニゾンは大山社長が入手した時に真価を発揮?明日の見えない底辺苦役から募れば、全能感と共に 嬉々として一度限りの肉弾特攻に身を投じるEランクには事欠かなそう。低コスト量産出来るかは知らんけど …
広範囲の相手を倒せる能力がありそうですが、観客も巻き込みそう。 選手の状態的に制御できるか怪しいですし、機械制御はフレンドリーファイアの実績持ち。 もし巨大スライムが潰れたらパーフェクトゲーム? やら…
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