375話(1/2)〜バカか!?攻撃をやめろ!〜
砂塵漂うフィールドで、桜城の選手達は互いに連携を取ってイーグルス選手達を追い詰めていた。
その作戦を動かしているのは、我らが軍師の鶴海さん。そして、彼女のサポートをしているのが、慶太と鈴華の2名であった。
「どうかしら?クマちゃん。イーグルスの動きに変化はあった?」
「んっとね。鳥さん達、みんな向こうの方に戻っちゃったよ。なんか、綺麗なお姉さんがエッグの方で叫んでて、その人の近くに集まっているみたい」
「ありがとう、クマちゃん。鈴ちゃんも、もう磁場を弱めて貰って大丈夫よ」
「かぁー!やっとかよ。広く遠くに魔力広げんのって、めっちゃ疲れるわ!こんなのよく平気な顔でやってんなクマ公、おい」
「オイラは楽勝!」
「くーっ、ホントに楽勝っぽくて腹立つわ!」
慶太達は今、周囲に魔力を展開して電波障害を引き起こしていた。慶太の砂塵で視界を奪い、鈴華の磁力によって電場を遮断している。2人の異能力を合わせることで、強力なジャミングドームを作り出していた。
その効果で、相手選手は通信をやられて本部と連絡が取れなくなり、鶴海さんの鶴翼の陣に大ハマりしていた。
効果抜群の磁力砂塵だが、こちらにも同じジャミングが掛かっている。電子機器は使っていないものの、こちらの視界も10m程度しか利かなくない。
そこで活躍しているのが、これまた慶太の異能力だ。彼の異能力は、目視出来なくても砂が付着した者の位置を把握できるので、イーグルスだけでなく桜城選手の位置も全て理解していた。そんな慶太から情報を受け取った鶴海さんが、蔵人に向けて指示を出す。
「黒騎士ちゃん。陣形を単横陣に戻すわ。中立地帯の中央まで前線を上げて、両翼を下げてちょうだい」
「了解」
彼女から指示を受け、蔵人は口の周りに小さな盾を集める。
『全体停止!両翼は、盾に合わせて後退!中央は前進!盾に合わせて行動せよ!』
「「はいっ!」」
「了解だよ!」「うっす!」
砂塵の向こう側から、みんなの返答が帰ってくる。
慶太が言うには、ちゃんと全員が盾に着いてきてるらしい。
順調だ。
そう思っていた所に、慶太の不思議そうな声が聞こえた。
「あれ?鳥さん達がオイラ達の方に向って来ているよ。なんか、動きがバラバラじゃ無くなってる?」
おや。もう立て直したのか?随分と早いな。
「分かったって。今、磁力強めたからよ」
鈴華が面倒くさそうに片手を突き出す。磁場が弱まったから、相手の通信が生き返ったと考えたのだろう。
でも、慶太の首は真っ直ぐにならない。傾いたままだ。
次第に、砂塵の中からイーグルスの影が浮かび上がる。
「おっ、見えたぞ!」
盾の間から顔を突き出していた祭月さんが、嬉しそうな声を上げる。
次いで、両手を前に出して小さく笑う。
「そろそろキル数を稼がないとな。私の力を、ハリウッドにアピール出来ないだろ!」
地雷を埋めて、近付く相手を一網打尽にするつもりらしい。視界最悪なこの状況で、そいつはかなり意地悪な攻撃手段だ。
「こんにちは!ハリウッド!」
ズッバァアン!!
中規模な爆発が、突っ込んで来た相手の進行にドンピシャで当たる。
だが、ベイルアウトの知らせがない。
何故かと黒煙の中を見ていると、そこからイーグルス選手達が飛び出して来た。彼女達の体には小さな属性シールドが展開されており、誰1人ダメージを負っている様子が無かった。視界最悪の状況でも、爆発に合わせて瞬時にガードを展開したらしい。
なんて反射神経だ。人間業とは思えない。
「蔵人!手伝ってくれ!」
「了解!」
祭月さんの合図に、蔵人は小さな鉄盾を量産。そこに、祭月さんの爆弾を搭載する。
「さぁ、行くんだ!蔵人!」
「爆撃機発進」
迫り来るイーグルスに向けて、特別製の爆撃機を多方面から向かわせる。
砂塵の中で、この小さな機体を探し出すのはただでさえ困難。加えて、この数の攻撃だ。目で追えたとしても被弾する。
そう思って発射した攻撃は、次々と避けられてしまった。
イーグルスの上空で爆発して、鉄粉の雨を降らせても、彼女達はその攻撃を予測していたかのように盾を上空に構えて避け切ってしまう。
その盾を迂回して突っ込ませた機体も、近づく前に迎撃されてしまった。
それどころか、上空から急襲させようとしていた機体にまで、魔力弾での迎撃で撃ち落とされてしまった。
彼女達の様子は、まるで全てを見通しているかの様だった。
ジャミングドームが克服されている?
「蔵人ちゃん!上よ!」
鶴海さんの切羽詰まった叫び声。
見ると、シールドファランクスを飛び越えたイーグルス選手が、こちらへと迫ってきていた。
背番号は9番。Bランクの数字だ。
飛びかかりながら拳を繰り出してきた9番を、蔵人はランパートで受け止める。拳を盾で受け止めると、そこから小さなスパークが漏れた。
エレキネシスか。
拳を受けた盾は、表面を黒く焦がすだけで、大きなダメージは受けなかった。
だが、それを見ても相手は驚かない。再び拳を繰り出して、何度も盾を叩き始めた。
なかなかに良いパンチだが、蔵人のランパートは微動だにしない。内部のクッションが全ての衝撃を吸収していた。
それでも攻撃を続ける9番に、蔵人は眉を上げる。
無駄だとは思わないのか?このままでは敵に囲まれて、ベイルアウトになるぞ?
そう思いながらも、蔵人はランパートを一旦引いて、その後で思い切り前に突き出した。
盾の基本技、シールドバッシュ。
緩急つけた突然の技に、相手はランパートを殴り損ねてバランスを崩し、そのまま後ろへと倒れる。
と思いきや、背中からエアーを吹き出して転倒を回避し、すぐに立ち上がった。
【ぐっ…】
立ち上がりはしたが、右手を押さえている。
どうも、さっきのバッシュで右手首を痛めたみたいだ。これは、直ぐに逃げ帰って交代しようとするだろう。
そうはさせない。
蔵人は、9番との距離を詰めようと走り出す。
でもその途端、相手がこちらへと駆け寄ってきた。
なっ!
「くっ」
予測とは真逆の動きを見せた相手に、驚きで一瞬出遅れてしまった蔵人。何とか急停止して、相手の左拳をランパートで受け止めた。
なかなかやる。が、負傷したままで何処まで抗えるかな?
蔵人は反撃をしようと、盾から顔を出した。だが、その時には既に相手は次の攻撃モーションに入っていた。
負傷している筈の右拳を、思いっきり引き絞っていた。
何をするつもりだっ!?
驚く蔵人の盾に向かって、その拳が振り下ろされる。
右拳に纏われていた雷撃がバチリッと火花を散らせ、そして、
【ぎゃっ!】
短い悲鳴が上がる。
9番の物だ。
そりゃ、捻挫でもした手首で殴ればそうなるだろう。
そんな馬鹿でも分かる事を、9番は躊躇なく行い、そして続ける。左右の拳で、盾を殴り続けた。
【痛いっ!痛いっ!】
「バカか!?攻撃をやめろ!とっとと逃げ帰って治療してもらえ!」
殴る度に泣き叫ぶ相手に、蔵人は堪らず叫んでいた。逃亡を阻止しようとしていた相手に対し、こちらからその道を提示していた。
それだけ、異常な状況。
それでも、9番は退かない。右拳を酷使し続けていた。
その強情な攻撃とは裏腹に、9番は弱弱しく首を振った。
【ダメだっ!出来ない!止まらない!スーツが勝手に動くんだ!】
「ばっ!」
バカな。勝手に動くパワードスーツだと?それって…。
自立制御。
人間の意志とは関係なく、操作者や機械自体のプログラムで動く制御。
そんな、非人道的なモードが搭載されているのか?このスーツには。
「済まんが、少々荒くなるぞ?」
蔵人は前線に並べた盾を幾つか消して、それを相手の体にくっ付ける。盾を操作して、9番の動きを封じた。同時に、自身の右手に螺旋盾を生成し、それを回転させる。
体を固定された9番は、首だけを動かしてそれを見下ろす。
そして、小さな笑い声を上げた。
【ははっ、ごめんね。敵なのに、ありがとう…】
「敵ではない。同じファランクスの選手だ」
蔵人は拳を放つ。9番の顔へと真っすぐに。
その拳が到達する直前に、9番の姿は消えた。
『ベイルアウト!イーグルス9番!』
【【わぁあああ!!】】
【すげぇ。息をする様にジャイアントキリングしてるよ】
【ブラックナイト様からしたら、1ランク上の相手を倒すなんて何でもない事なのね!】
盛り上がる会場。
それとは裏腹に、蔵人は俯いて己の拳を見下ろす。そして、今もなお桜城前線へと迫るイーグルスの選手達へと視線を向ける。
こうしてみれば、彼女達の動きが一定の行動パターンで動いているのが見て取れる。9番だけじゃなく、彼女達全員に自立制御が働いているのがここからでも。
9番の悲鳴が、耳の奥で響いた気がして、蔵人は鶴海さんの元へと急ぐ。
そして、
「鶴海さん。作戦の変更をお願いします。一刻も早く、この試合を終わらせたい」
「分かっているわ、黒騎士ちゃん」
鶴海さんも悲しそうな顔をしていた。
彼女の視線の先には、白銀鎧に返り血を浴びた海麗先輩の姿が。
彼女の方でも、かなり非道なやり取りがあったみたいだ。
「血の通わない殺戮兵器が相手なら、幾らでも手立てがあるわ」
鶴海さんは瞳の輝きを鋭くし、イーグルス選手を、その先のイーグルスベンチを見詰める。
そして、桜城選手達へと陣形変更の指示を言い渡す。横一列であった単横陣を二列に分けて、円柱から鹿島部長を呼び出した。
そうして出来た陣形は、
「これは…懐かしい陣形ですね」
「知恵を借りるわ。伊勢岩戸中の皆さんから」
流れるプールの様に、前列と後列を一方向に回し、チェーンソーの刃の様に相手を削る変則陣形。
嘗て、蔵人の左腕を切り落とした時に使われた脅威の陣形…車掛の陣であった。
「全員、時計回りに移動開始!」
『総員!時計回り!端の人は前列に、前列の人は後列に移動!回転刃でイーグルス選手達を解放せよ!』
「「おおぉ!!」」
蔵人達は水晶盾と共にゆっくりと歩き出す。目の前にイーグルス選手が来たら、それに全力で対処。後列に回ったら、部長のハーモニクスでバフを掛けてもらい、鶴海さんのアクアベールで防御力をかさ増しする。
そして、再び前列に出て戦闘を行う。
戦闘に特化した制御になっているのか、イーグルス選手の動きは機敏で鋭く、視界が悪い状況でも統一された動きを見せる。
シールドファランクスが無くなった桜城前線に、嬉々として襲いかかった。
だが、
「チェストォ!」
「マグナバレット!」
「食らえ!芸術的爆発!」
「兵長バリの乱れ切りや!」
「えぇええい!」
「お、俺!?俺は…ねこだまし!」
「ホーネット!」
襲うつもりの相手がコロコロと切り替わり、その度に多種多彩な攻撃を繰り出してくる物だから、イーグルスのパワードスーツは攻めることが出来ずに中途半端な防御を展開するしかなかった。
どんなプログラムが入っているかは分からないが、こんな複雑な状況は想定されていないみたいで、処理が追い付いていない様子だった。
次第に、動きが大幅に鈍り始めるイーグルス選手団。膨大な情報量に処理落ちし、ただ突っ立って居るだけの的に成り下がってしまった。
そんな物、バフの掛かった桜城選手の敵では無い。
海麗先輩の拳に砕かれ、祭月さんの爆発で吹き飛ばされ、サーミン先輩で肩透かしを喰らい、蔵人のドリルで貫かれていった。
『ベイルアウト!イーグルス10番、18番…19番と30番もやられた!ハリケーンに吹き飛ばされる屋根みたいに、端から次々吹っ飛ばされているぞ!
そして、ガラガラになったイーグルス領域目掛けて、桜城の11番、ピーチちゃんが走り込む!独走だ!イーグルス選手、誰も追おうとしていない!強烈な暴風を前に、ただただ突っ立っているだけだぁ!』
【何やってんだ!イーグルス!】
【さっきから動きがおかしいぞ!】
【まるで出来損ないのロボットじゃないか!】
【良いぞ!ピーチちゃん!】
【頑張って!もう少しよ!】
『観客席からの黄色い声援に背中を押され、桜城11番のモモカ選手が、今…タッチ成功!見事にタッチ成功!セカンドタッチも決めてくれたぞ、ピーチ選手!』
【【うぉおおお!!】】
【【ピーチ!ピーチ!】】
濃い砂塵の向こう側で、桃花さんを称賛する声だけが響く。
それに、新たな歓声が加わる。
『おおっとぉ!桃花選手の後ろから、もう一体のホワイトナイトが現れた!そして、サードタッチ成功!いつの間にか忍び寄っていた27番!桜城27番レオン選手が、カメレオンの様に姿を消しての追加得点を決めたぁ!』
【【きゃぁあああ!!】】
【レオンくーん!】
【かっこいいぃい!】
【こっち向いてぇ!】
イーグルス前線の隙を見て、エッグへと突っ込んだ2人が、観客席に向かって手を振りながら凱旋する。
これで、桜城の領域は63%まで回復した(400+200+400×2=14%+49%=63%)
試合時間は、現在後半戦3分が過ぎた所。何時でもコールドを狙える状況になりつつあった。
【さぁ、行け!行きなさい!】
蔵人達が次のタッチへ動き出そうとしていると、イーグルスベンチから金切り声が聞こえてきた。
何の騒ぎだ?
蔵人が声の方へと視線を向けると、濃厚な砂塵の向こう側で、大きな影が揺らめいた。
長くなりましたので、明日へ分割致します。
「オートプログラムとは、このことだったのだな」
自動運転って、怖いですね。
「それを、お前が言うのは感慨深い」