373話〜今、私が行くぞ!〜
開幕、他者視点です。
私が舞台の上に上がった途端に、観客席から多くの声援が舞い込んで、背中を押し上げる。私の名前を絶えず叫び続け、期待と興奮が入り混じった視線をこちらに向けて来る。
目の前では、楽器の最終チェックをするプロの演奏者達の姿があった。
彼女達は逆に、誰も私を見ようとはせず、調律に勤しむばかりだった。
半年前まで一緒に演奏していたメンバーなら、本番のこの時でももっと笑いあって、冗談を飛ばしあっていたと思う。
でも、この人達にそれを求めるのは酷だ。彼女達はみんな、今日の為に集められた臨時のメンバー。DP社お抱えのバンドマン達だ。彼女達にとってこの舞台はビジネスであり、私は観客を集める招き猫。
目を伏せていると、誰かが駆け寄って来た。
【セレナさーん!これ、本番用のマイクです。何かあったら予備も用意してますんで、直ぐに言ってください!】
進行役のスタッフさんだ。私に向かって、真っ直ぐにマイクを渡してくる。
私は一瞬迷ったけど、それを受け取った。
【聞いているとは思いますけど、スタートは〈愛が地球を救う〉ですんで、最初から飛ばしちゃって下さい!】
グッと親指を上げて楽しそうに笑うスタッフに、私は何も返せなかった。
彼女とは違い、私は迷っていたから。
本当に、そんな曲で良いのかって。
別に、歌が悪いとは思ってない。カトリーナさんが私の為に用意してくれた有名作曲家の曲だし、オリコンチャートの上位にもくい込んだ事のある名曲。歌えばきっと、みんなが拍手喝采で私を迎えてくれるだろう。セレナ・シンガーとして、賞賛してくれる未来が見える。
でも…。
「やったぜ!」
私が迷っていると、そんな元気な声が聞こえて来た。
私は、手元のマイクに落としていた視線を声の方へと上げる。
そこには、仲間達と楽しそうに語り合う鈴華の姿があった。
『やりたい様にやれば良いんじゃねぇか?』
彼女を見ていたら、そんな言葉が頭の中で響いた。あの日、私が廊下を彷徨っていた時に掛けてくれた、彼女の言葉。
私の中でずっと、燻っていた言葉だ。
やりたい様にやる。歌いたい様に歌う。そんな難しい事を、簡単に言ってのけた鈴華にずっと不満が募っていた。世界の歌姫と呼ばれる私の苦労も知らずに、人気が陰る恐怖を知らない貴女に何が分かるのかと、ずっと思っていた。
この試合を、見るまでは。
でも、今は違う。
イーグルスとの前半戦。彼女は凄く楽しそうに戦っていた。
圧倒的に不利な立場に立たされていて、今にも負けそうになっているというのに、彼女の戦い方はとても自由で、空を羽ばたく鳥の様に変幻自在な動きをしていた。
そして、相手のAランクを倒してしまった。Bランクで、下位種の異能力しか持てなかった彼女が、全てを上回る相手選手に勝ってしまった。
私では到底できない難しい事を、平気でやってのけてしてしまった。
鈴華の姿を見て、余計に私の心は揺らいでいる。
彼女の姿は、半年前までの私に似ていると思ったから。
カトリーナさんの会社と契約を結ぶ前の私と、重なって見えた。
私は、Aランクのパイロキネシスとして産まれた。魔力量的にも、そして、異能力種的にも恵まれた私に、両親は当然の様にスポーツや異能力選手を進めてきた。この才能で成功しやすい道を、両親は進めてくれたんだ。
でもそれを蹴って、私は音楽の道を行った。私の行きたい道は、そっちだったから。
そんな私に、両親は、教師は、世間の誰一人として良い顔をしなかった。
無茶だ、勿体ない。
何度その言葉を聞いた事か。
その度に、私は歌を歌った。これが私のやりたい事だって、空に向かって叫んでいた。
それが、何時しか世界に届いたんだ。ハーモニクスやパーフェクトピッチしか生き残れない音楽業界の中で、私は羽ばたくことが出来たんだ。
〜♪〜♪〜♪
私の後ろで、ミュージックがスタートした。完璧な旋律。完璧なリズム。プロ達が奏でる最高の音楽。
でも、私の心は動かない。
これは、私の歌じゃないから。
〈あの人が好きだ。私の恋心がトキメクわ〉
そんな言葉を吐く為に、私はここに立っているんじゃない。私の心は、この歌の中には欠けらも無い。
これは、私の想いじゃないんだ。
私が顔を上げると、心配そうな顔がいっぱい私を見下ろしていた。
歌ってくれって、必死になって叫んでくれる人もいる。
私を待ってくれている人が、こんなにもいるんだ。
そう思うと、力が湧いてくる。怖がっていた心よりも、歌いたいって気持ちが強くなった。
私は、マイクを持ち上げた。
『私が貴女をプロデュースしてあげるわ。そうしたら、きっと返り咲く事が出来るから』
頭の片隅で、あの時の声が聞こえた。
私を心配する言葉。
私を縛り付けていた言葉。
ありがとう、カトリーナさん。でもやっぱり、私は私が思う様に歌いたい。私の思いをみんなに届けたいって願いは、無視できない。
『このままだと貴女、地に落ちるわよ?』
そうかもしれない。でも、このままだと私は、私が嫌いになっちゃう。
私は私を、歌を、好きなままでいたんだ。
だから私は、もう一度空を飛んでみるよ。
【さぁ、夢描こう♪
あなたの夢を♪
大丈夫よ、きっと叶うから♪】
しっとりとしたバックミュージックとは対照的な、ロックで挑戦的な歌詞を口ずさむ。
その途端に、後ろの音楽が止んだ。
チラリと後ろを見ると、困惑した顔の奏者達が目に入る。中には、睨みつけてくる人もいた。
分かってるよ。私が今歌っているストロンガーは、カトリーナさんから禁止されている歌。契約違反の歌だ。
だから、カトリーナさんに雇われている彼女達は怒った顔をするんだよね?自分達まで彼女の怒りを買ってしまうと思ったから。
【想い願えば、空だって飛べる♪
飛び立とうよ、あなたの空を♪】
そう分かっていても、私は歌を止めない。
そんな私を見て、奏者達は顔を見合わせて、楽器を床に置く。そして、そのまま舞台から降壇して行った。
誰も居なくなった舞台で、私は立ち続ける。音楽が無くなった空間で、私の声だけが空気を振るわせる。
それでも、私は歌うのを止めない。
これが、私のやりたかった事だから。
観客席のみんなは、凄く不安そうな顔をしている。
何が起きているのか分からないって顔に書いてある。
ガヤガヤと、響めく声が会場の空気に満ちていく。
ダメなのかな?やっぱりみんな、昔の曲はお腹いっぱいって事なの?
暗い気持ちが、ジワジワと私を焦がす。
でも、下は向かない。
もう、戻らない。さっきまでの私には、もう戻らないって決めたんだから。
私はセレナ・シンガー。
世界の歌姫である前に、無謀なの挑戦者だった人間。
これが私の歌なんだ。
【せれなぁあ!】
私の声に、小さな声が追いかけて来た。
子供だ。小さな女の子が、私に手を振ってくれている。
【【【セレナァ!!】】】
【そうだよ!これが聞きたかったんだ!】
【待ってたぜ、この曲を!アンタの歌を!】
【最高に上がる、最強の曲だわ!】
その女の子の声に続いて、観客席のみんなが明るい声で後押ししてくれた。拍手が、手拍子が、私を支えてくれる。
私が選んだこの道が、正解だって言ってくれている気がした。
みんなの声が、私を奮い立たせる。
私の心が、軽やかに跳ねる。
私は、声高らかに歌い続ける。
【みんなが笑う?無駄な事をしてるって?
異能力がなけりゃ、ただの空回りだってさ♪
そんな言葉は、空は届かないよ♪
あなたも一緒に飛びたいなら、夢広げておいで♪】
【【【さぁ、夢描こう♪自由な夢を♪】】】
観客のみんなも、私のアカペラに合わせて歌ってくれる。
その声が力になって、私は本当に空を飛んでいる気分になる。
久しぶりに、歌を聞く人達の顔を見られた気がする。
みんなの笑顔って、こんなにも輝いていたんだね。
音楽も消され、照明も落とされた寂しいステージでも、私は眩しいくらいに照らされている気分だった。
でも、そこまでだ。私の我儘を、何時までも許す人達じゃない。
ほら、もう私を取り押さえに、警備員達が駆け寄ってきた。厳つい体で、華奢な私を捕まえるだけで何人もの人影が駆け寄ってくる。重々しい足音を響かせながら。
ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャンって。
あれ?待って。この足音って…。
「セレナぁああ!」
駆け寄って来る先頭の人が、叫んだ。
「待ってろよ!今、私が行くぞ!」
叫んだその少女は警備員の服装ではなく、白銀のハーフアーマーを着ていた。
ブラウンの髪に赤メッシュが入ったお下げの彼女は、この前廊下でぶつかっちゃったあの子だった。
彼女の後ろからは、銀髪をなびかせて走る鈴華と、フルアーマーの桜城選手が1人続いている。
【【【わぁああああああ!!!】】】
それを見て、観客席は大盛り上がりだ。中には、ブラックナイトと連呼する人や、私と彼の共演を予期する声も上がっていた。
彼女達はきっと、これも演出だと思っているみたいだった。何処か安心した顔が、私達に拍手を送っていた。
白銀騎士達はステージの近くまで来ると、クリスタルシールドの上に乗ってステージの上に降り立った。
そして、先頭の子が私の元に来て、グッと両手を掴んできた。
「セレナっ!私は嬉しいぞ!漸く、漸く気付いてくれたんだな!私は…私はずっとお前が気付いてくれるのを…ずっと…」
突然ボロボロ泣き出した彼女に、私はどうして良いか分からずにいた。
そこに、鈴華が近付いてくる。
「ほら祭月。とっとと持ち場に着けよ。客が待ってるぞ」
鈴華に背中を突かれた先頭の子…祭月さんが、不満そうな顔をしながらキーボードの前に立つ。
それを見た後に、鈴華が私に向かってニヒルに笑いかけてきた。
「なんか面白そうな事してるからよ、あたしらも混ぜて貰うぜ、セレナ」
【協力してくれるって事だよね?でもごめん、鈴華。楽器は電源が落ちてるから、使えるのは無くて…】
「んなもん、ボスが何とかしてくれるって」
そう言って、鈴華は横を向く。
その視線を追うと、舞台袖でスタッフに詰め寄る96番君の後ろ姿が見えた。
彼はすぐにこちらを振り返り、ヘルメットを外した顔でニカッと笑い、親指を突き立てて見せた。
…うん。鈴華が選ぶだけはあるよ。こりゃ、カトリーナさんの側近が相手でもイチコロだ。
「おっ。もう電気も復旧したな。流石はボスだぜ」
「おーい!蔵人!お前もこっち来い!私達2人じゃ足りないんだ!」
キーボードの鍵盤を撫でる祭月ちゃんが、96番君…蔵人君を手招きする。
…普通に本名呼んじゃってる気がするんだけど、大丈夫なのかな?
心配になった私の前で、蔵人君が顔の前で手を振る。
「悪いが、俺は演奏NGだ。センスが無い」
「馬鹿を言え!セレナのストロンガー聞いてなかったのか?センスなんて物は思いでねじ伏せるんだよ!」
いや。そう言う想いで歌ってはいないんだけど?
私が困っていると、ヘルメットを被り直した蔵人君が舞台に戻って来た。
「餅は餅屋だ、祭月さん。俺より適した人達がいる」
蔵人君はそう言うと、観客席の方を向いた。彼の口元には、半透明な盾が集まっている。
そして、
『ハニーベアーズの皆さん!助けて下さい!我々と一緒に、セッションをお願いします!』
黄色い集団が集まる観客席の方に、マイクで拡張したみたいに大きな声を放った。
1回戦のカーディナルシープ戦で見せた技だ。
その声に反応する様に、黄色い集団からトランペットの甲高い音とドラムの低い音が空を駆け抜ける。
それを受けて、祭月ちゃんのキーボードと、鈴華のギターが声を上げる。
さぁ、やろうぜと嘶いた。
私は頷く。
新たなバンドメンバーに向けて。
私を待つ、観客席のみんなに向かって。
『さぁ、飛び立つよ!』
【【【おぉおおおおお!!!】】】
そして、私達の曲が始まるのだった。
〈◆〉
【これは…どういうつもり?】
私は、下界の様子に眉を顰める。
契約で禁止した歌を歌い始めたセレナの元に、次々と白銀騎士が集まってきて、ステージを再構築してしまった。
観客席からも、彼らに与する者が続出している。一般の観客だけでなく、選手や大会スタッフまでもが彼らに協力し始めている。
大会スポンサーである、私の許可も得ずに。
【今すぐ中止させなさい。セレナにも、契約違反でスポンサー解除を突き付けなさい】
【契約については勧告を致しましたが、彼女のマネージャーがそれでも止めに入りませんでしたので、契約解除に動いている所です】
【そう。それで良いわ。それじゃ、大会スタッフ達の方はどうなの?】
【そちらは…】
秘書が押し黙った。
私はフィールドから視線を切り、彼女の顔を覗き込む。すると、漸く口を開けるジェーン。
【大会運営は…動きません。この事態を静観するつもりの様です】
【何ですって!?】
私は、つい声を荒らげてしまった。
でも、長年秘書の任を全うするジェーンは落ち着いた様子で首を振った。
【既に、運営委員会会長が許可を出している様です】
【有り得ないわ。最大出資社は我々なのだから、その指示に従うのが当然でしょう?それを、なぜ…】
【社長、大統領から何らかの指示があった様です】
大統領?なんで、こんな大会にそんな大物が…?
私は首を傾げる。すると、頭の中にあの女の笑顔が浮かんでくる。
【アマンダ・ベイカー…】
またアイツだ。あいつが、大統領に何か吹き込んだに違いない。
異能力推進委員は政府からは独立した組織で、特別な権限を与えられている。たかがエージェントの1人である奴でも、顔の広い奴らなら大統領とも軍の高官とでも会話することが出来る。
アマンダの奴が大統領に何か吹き込んで、この大会にちょっかいを出しているとしか考えられない。
それが私の思った通りであれ、思い違いであれ、大統領の力が働いている以上、力づくでステージを潰すことは出来ない。仮令、デュポン家の力を使ったとしても。
『君は持ってる、素晴らしいチカラを♪
異能力より大切な、夢の鍵をね♪
今は小さくて、歪でも大丈夫♪
いつか飛べる日が来るからさ♪
いざ行かん、大空へ♪』
下界のでは、セレナ・シンガーが良い気になって歌を振りまいている。
異能力なんか関係ないと。夢は必ず叶うと。何とも低脳な人間達に受けそうな、無責任な歌だ。
自分がたまたま成功しただけで、偉そうに講釈をたれるラッキーガール。
そんな彼女と、私だって関わり合いたくはなかった。
でも、無視出来ないのだ。この歌に感化される男共が居るから。自分達に価値があるなんて勘違いするゴミ共が出てくるかもしれないから。
だから、セレナを私の監視下に置いた。それでも、彼女は歌った。特区を脅かす男共に向けて。我々の生活を脅かすのも構わずに、好き勝手歌っている。
【ジェーン。ヘルメットを用意しなさい】
【ヘルッ…お嬢様、どちらに行かれるおつもりですか?】
【決まっています。イーグルスのベンチです】
そのセレナに組した、桜城の騎士達も同罪だ。我々の生活を脅かす外敵。
外敵は、完膚なきまでにすり潰さねばならない。
【後半戦の指揮は私が執ります。大国アメリカとの格差を、劣等種共に思い知らせてやるのです!】
世界の裏切り者共を断罪する為に、私は立ち上がった。
〈◆〉
「随分と楽しそうだったわね?」
桜城ベンチに戻ってくると、部長が青筋を立てて仁王立ちになっていた。
作戦立案で頭が沸騰しそうだった首脳陣からしたら、遊んでいる様にも見えたのかもしれない。
だが違う。これは必要な事だった。
蔵人は、部長の剣幕に萎縮する2人を追い越して、彼女と対峙する。
「はい。最高に楽しめました。貴女達はどうでしたか?楽しめませんでしたか?考え込んでもダメな時は、1度そこから離れる方がいい時もあります」
「下山で迷ったら、元の道に戻るっちゅう奴やったですか?」
伏見さんは良い事を言う。
蔵人が大きく頷くと、彼女は嬉しそうに頬を釣り上げる。
「うちらも楽しめましたわ。なぁ、みんな」
「すっごくワクワクしたよ」
「オイラも!」
「俺も行きたかったけどよ、三点倒立するのにヘルメットが邪魔だったからさ」
いや、バンドに三点倒立は合いませんよ?突っ立ってた俺が言うのもあれですけど。
みんなが楽しそうに笑い合う中で、鶴海さんも薄く笑みを浮かべていた。
「ありがとう、黒騎士ちゃん。お陰で、ちょっとだけ周りが見える様になったわ」
「鶴海さん。何か策は浮かびましたか?」
蔵人の質問に、鶴海さんは悲しそうに首を振った。
そんな顔をしないで欲しい。
蔵人はみんなに向き直る。
「セレナさんの歌を聞いて、俺は異能力がもっと自由だって思った。もっと気軽に考えていいんじゃないかってさ」
「そいつは良いな、ボス。自由とか気軽って言葉は、あたしが好きな言葉だ」
鈴華が良い援護射撃をしてくれたので、彼女の方へと手を伸ばす。
「そうだ、鈴華。それで良い。それが良いんだと思う。好きを形にする、好きな戦い方をしてみるのが良いんじゃないかと俺は思う。勝ちたいが先行しては、凝り固まった従来案しか出てこない。楽しいは大事な原動力だ」
「待って、副部長。時間が無い時にそれじゃ…」
部長が心配な顔で止めようとするが、蔵人はそれに首を振る。
これだけ真面目に考えて出てこないのなら、こうやって気軽に考えた方が良い段階になっている。雑談ベースで皆の意見を出して貰って、ヒントを得ていくのだ。
「さぁ、怖くは無い。後半戦も楽しんで戦うんだ。その為に、みんなのアイディアを聞かせてくれ。イーグルスを相手に、どんな事をしてみたい?」
「やっぱうちは、あいつら捕まえたいですわ」
「僕も。先ずはファーストタッチ決めて、点数差を埋めたいな」
「ホイ!ホイ!オイラいい事思いついた!」
慶太がぴょんぴょんしてアピールしてくる。
毎回思うが、よくその重装甲で跳べるな、お前さん。
「うん、良いぞ戦友。聞かせてくれ、お前さんが思い描く最高の舞台を」
「あのね~。オイラのゴーレムじゃ届かないから、またさっちゃんに爆発して貰って、相手にくっ付ける作戦が良いなって思いました!」
慶太がビシッと手を上げる姿に、蔵人はゆっくりと頷く。
なるほど。クリムゾンラビッツでやった作戦だな?
過去の作戦を試してみるのは大事だ。だけど…当たるかね?俺のシールド・カッターでも捉えきれない相手だぞ?
蔵人は不安に思いながら、積極的な意見をくれた戦友を褒めようとした。
でも、その言葉は口から出る前にかき消された。
我らが軍師殿によって。
「あーーーっ!!そっそれよぉお!」
「ど、どうしました?鶴海さん。どれを言われているんです?」
蔵人の問い掛けに、しかし、鶴海さんは答えない。
その綺麗な紺色の髪をクシャクシャにして、顔を俯かせる。
「私は馬鹿だわ。こんな簡単な事にも気付かないなんて。いえ、違うわね。考え過ぎて見落としていたわ。発想が凝り固まっていた。蔵人ちゃんの言う通りね。セレナさんの歌に感謝だわ」
「み、ミドリンが暴走状態に入ってる」
なんだい?桃花さん。その暴走状態って?
凄く聞きたい蔵人だったが、先に鶴海さんが顔を上げたので口を閉じる。
目に力が戻った鶴海さんに、桜城のみんなが注目する。
「鶴海さん。思い付いたのですね?この状況を打開する次なる一手が」
「ええ。時間が無いから、陣形だけ伝えるわ。この石兵八陣作戦を」
ほうほう。そいつは面白そうだ。
蔵人も彼女と同じ様に、目を輝かせた。
セレナさんの歌で、鶴海さんの思考がクリアになったみたいですね。
「慶太の自由な発案が、難解なパズルを解くピースとなったようだ」
果たして、鶴海さんが思い描いた作戦は、どんな夢になるのでしょう?