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女尊男卑 ~女性ばかりが強いこの世界で、持たざる男が天を穿つ~  作者: イノセス
第14章~夢幻篇~

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371話(1/2)~俺達に道を作ってくれ!~

「みんな!準備は良い?」

「「「おおぉお!!」」」


クリスタルエッグカップ、最終日。

午前8時30分。

ホテルのエントランスに集まった我々は、昨晩爆上がりしたテンションをそのままに、今日を迎える事が出来た。

気合十分。やる気マシマシ。あまりに気合いが入っているからか、昨晩はサーミン先輩ですら素直に就寝したらしい。ビッグゲーム最終日にも遊んでいた彼とは思えない珍事だ。

メタモルフォーゼで偽者にすり替わってたりしないよな?


【皆様。是非、優勝を目指して頑張って下さいませ】


ホテルの入口が開き、そこからゾロゾロと従業員達が出てきた。ざっと20人。ロビーに居た従業員の殆どが出て来ているのではないだろうか。

彼女達の先頭に立つ妙齢の女性がそう言って、恭しく頭を下げた。

それを受けて、後ろの従業員達も一斉に頭を下げる。


【【【お帰りをお待ちしております】】】


手厚いお見送りだ。別に、今日でチェックアウトって訳ではないのに。

到着初日から高待遇で接してくれている彼女達だが、勝利を重ねる毎に待遇を良くしてくれていた。

カーディナルシープを倒した日の夜は、高級エステサロンを無料で振る舞ってくれたし、クリムゾンラビッツを倒した昨晩の夕食には、ロブスターとステーキが追加でテーブルに並んだ。

とてもサービスとは思えない内容だけに、手を付けていいのかと不安になった蔵人達だが、ホテル側からは是非にと言われた。

恐らく、CECの勝利チームがホテルに泊まっているだけで、ホテルのイメージアップになるのだろう。ビッグゲームで止まったホテルでも、トーナメントを勝ち進む度に待遇が良くなったから。


「みんな、あんがとー!今晩もステーキでよろしくー!」


慶太が無邪気に手を振ると、殆どの従業員が黄色い声を上げて飛び跳ねた。

たった3日で、すっかりホテルの人気者になったな、慶太。

その慶太を見て、手をワキワキさせていた彼女達だが、先頭の女性がひと睨み効かせるだけで、一気にシュンとなった。

もしかしてこの人、このホテルのオーナーさんとかだったりするのかな?


手厚いサービスを受けて、意気揚々とバスに乗り込んだ桜城ファランクス部一同。アメリカに到着してからは、変な男に絡まれたり、排他主義の団体に笑われたりと散々であったが、ここまで来て追い風となってきた。このまま、フィールドまで一直線で行きたいものだ。

そう思っていた一行だったのだが、現実はそう上手くいかなかった。会場に着いた途端、問題が発生した。

バスの駐車スペースが、なくなっていたのだ。


【【【わぁあああああ!!】】】

【ご覧下さい。今、桜城の選手団を乗せたバスが、会場に到着した模様です。中にはきっと、ブラックナイト選手を始め、レオン選手やクマ選手、スズカ選手が乗っていると思われます!】


バスが駐車場に入った瞬間に、駐車場を埋め尽くさんばかりの群衆に取り囲まれてしまった。

フーリガンでは無い。彼女達が纏う服は白一色。中には、Tシャツや己の頬に96という数字をペイントしている猛者まで居た。

彼女達は明らかに、桜城のサポーターであった。


「うわ…なんか、空港の時みたいになってるよ!」

「空港の時と違うのは、集まっている人達がみんなアメリカ人ってことね」

「ほぉ、漸くアメリカさんも、うちらの凄さに気付けたようやな」

「得意げに言ってる場合かよ、早紀。こんなんじゃ、バスから降りることも出来やしねぇぞ。どうすんだよ?」


鈴華の言う通りだ。このままだと、スタジアムに入ることすらできない。決勝戦は12時からだから、時間的余裕は十分にある。でも、このまま降りられないで立ち往生していたら、時間なんてすぐに来てしまう。

どうする?シールドファランクスでも展開して、無理やり降りるか?

いや、それで何があるか分からない。本当に全員がサポーターとも限らないから、我々に危害を加えようと待ち構えている人が居る恐れだってある。LA特区とはいえ、ここは日本ほど治安がいい場所ではない。無策に飛び込むのは危険だ。

どうするべきかと、窓の外を見ながら蔵人は考えていた。

そんな時、


「おーい!美しいお姉さま達!悪いけど、俺達に道を作ってくれ!」


サーミン先輩が、カーテンと窓を全開にして、そこから体を乗り出して叫び始めた。

ばかばかばか!

蔵人は急いで彼の首根っこを引っ掴み、車内へと引き戻した。

途端、先ほどまでサーミン先輩の顔があった辺りに、無数の手が伸びてきた。

ゾンビ映画か?


「何すんだよ、蔵人」

「何するじゃないわよ!神谷!」


椅子にひっくり返ったサーミン先輩が非難がましい声をこちらに向けると、それを打ち消すように部長が怒りの声を上げた。


「あんた、この状況分かってないの!?この人達は桜城を、特に男子選手を求めてここにいるのよ?あんたがやった事は、火に油を注ぐ様なものなの!」

「いや、でも、普通はこう言えば、優しいお姉さま方が俺を気遣って道を開け…」

「ここはアメリカでしょ?!日本と違うのよ!ほら、見てみなさい!」


部長がビシッと指さす先には、更に圧密された群衆の姿があった。

それを見て、流石のサーミン先輩も顔を青くする。

先輩。日本みたいに、災害時に列を守って待ってくれる国民は珍しいんですよ?


「雪音。案外、悪い手ではないかもしれないわよ?」


腕を組んでムスッとする部長の肩に、西園寺先輩がそっと手を置く。


「神谷を窓の外に放り出せば、少しの間だけ時間が稼げるわ」

「ちょっと、ちょっと、夕子姫!そいつはちょっとばかしブラックジョークが過ぎるんじゃないか?なぁ?」


サーミン先輩が無理やり笑おうとしたが、西園寺先輩は彼を冷たい目で見下ろした。

サーミン先輩がブルリと震える。


「蔵人」


そして、西園寺先輩はその極寒の目をこちらへと向けてきた。

蔵人は敬礼する。


「はっ!了解です!」

「了解すんじゃねぇ!」


必死なサーミン先輩の姿に、圧倒されていたバスの中で小さな笑い声が生まれた。

そんな中、車外でも動きがあった。


ピィイイ!ピッピッ!


「皆様!道をお開け下さい!お開け下さい!」

「(高音)道を空けろぉ!桜城選手様のお通りだ!」

「ちょっと、押さないで!痛いじゃない!」

「良い度胸だぜ!てめぇら全員、俺が相手になってやらぁ!」


護衛の大野さん達が、交通整理を始めてくれた。

…約1名、護衛とはかけ離れたことをしでかそうとしているけど。

ただ、彼らだけでは人数が足りず、辛うじてバスの周囲に空間が開いた程度しか押し返すことが出来なかった。未だ、スタジアムまでの道は固く閉ざされている。

異能力をフルで使えればすぐ済むかもしれないが、押し寄せているのは桜城のファン達。あまり手荒なことはしたくない。

これはいよいよ、シールド・ファランクスが必要かな?


試合前に異能力を使わないといけないのかと、あきらめモードで蔵人は肩と魔力を回し始める。すると、スタジアムの方から誰かが駆け寄ってくるのが見えた。

助っ人の警備員かと思ったのだが…どうも着ている物が違った。

あの白い甲冑は…。


【皆さん!道をお開け下さい!】

【彼らはこれから、決勝戦に挑むのです!ここで手を煩わせてしまう事を、貴女達は望むのですか?】

【彼らの勝利を願うのならば、謙虚な心で一歩退き、私達と共に勝利を祈るのです!】


白銀の鎧を纏った聖騎士達が、その手に持ったタワーシールドで興奮した観客達を押し留めてくれた。

カーディナル・シープ。1回戦で敵対した彼女達が、我々の為にとスタジアムまでの道を作ってくれていた。


なんて熱い展開だろうか。当初はいがみ合っていたライバル達が今、こうして手を差し伸べてくれるなんて。

必死にサポーター達を説得するカーディナルシープの背中に蔵人が感動していると、バスの扉が開いて、そこから小さな影が飛び出してきた。


「はーい!みなさーん!今のうちに、ピュピュンと会場入りしちゃいましょー!」


美来ちゃんだ。バスガイドさんよろしく、小さな旗を振って桜城の選手達を誘導していた。

その可愛らしい姿に、心配顔だった部員達もホッコリ笑顔になる。


「前から思うとったけど、ホンマかわええ子やな。何年生なんやろか?」

「伏見さん。あの人は一個上。俺達の先輩だぞ?」

「嘘やろ!?」


目をひん剥いて驚く伏見さん。

まぁやっぱり、聞いてないと驚くだろうな。

自分も聞いたときは驚いたなと、蔵人は大きく相槌を打つ。

そんな、どう見ても先輩には見えない美来ちゃんの背中について行って、桜城選手団はバスを降りる。


【おおっ!ブラックナイトだ!】

【オージョーですわ!】


降りた瞬間に、感極まったファン達が歓声を上げながら近づいてくる。あまりに興奮しているのか、シープ選手が構えるタワーシールドに突っ込んで来ようとする人もいた。

だが、流石は防御主体のカーディナルシープ。大人の女性が何人押し寄せようとも、一切バランスを崩すことなく堂々と立ち塞がる。彼女達の後ろでは、バフ役の2人がせわしなく動き回っており、彼女達の体には絶えず薄いバフとヒールの光りが灯り続けた。


凄い。ゾンビアタック戦法を使って、完ぺきな防御態勢を構築している。彼女達が守るこの領域は、まさに聖域と言って過言ではない。


【さぁ、早く行ってください!】


蔵人が彼女達の背中を見ていると、こちらに顔だけ向けたテレサ選手が、焦った様子でそう叫んだ。

しまった。ついつい見入ってしまっていた。バフが掛かっているとはいえ、彼女達も余裕な訳ではない。


【すみません!ありがとうございます、テレサさん!】


お礼も早々に、蔵人は手早くその場を去ろうとした。その背中に【天のご加護を】という声が降りかかる。

振り返ると、もう彼女はこちらを見ていなかった。ただ我々に、悠然と構える大きな背中を見せるだけだった。

蔵人はもう一度、感謝の念を込めて頭を下げ、彼女達が作ってくれた道を急いだ。



会場に入ると、周囲からの圧が幾分か弱くなった。

ここに居る人は、試合を見に来た人が大半だから、外に居た人程の野次馬根性は無いのだろう。

それでも、何かあっては大変と、蔵人は周囲を警戒する。すると、少なくない数の観客が、ゼブラ柄のTシャツやマスコットを持っているのに気が付いた。

それを見て、自分の腕を見る蔵人。

…まさかな。


「黒騎士ちゃん。あれじゃないかしら?」


蔵人の様子に気が付いた鶴海さんが、通路の一角を指し示す。

そこには、


【さぁ、さぁ!残りも少なくなってきたよ!早いもん勝ち、早いもん勝ち!泣いても笑ってもこれが最後だよ!】

【ちょっと、押さないでよ!私がここで並んでいるんだから!】

【ああ、私の番まで残っているかしら?心配だわ!】

【見えないよ、ママ!】

【こっちおいで。肩車してあげるから】


スタジアムの大型ショップの台に乗り、マグロの競りかと思ってしまう程の威勢が言い声が響いており、その恰幅の良い女性の足元に群がるように、大勢の観客が詰めかけていた。


ここは以前、各チームのイメージグッズが売られていたショップだ。ウサギの帽子や、ハチミツクマ兄貴のリュックなんかを売っていたと思ったけど、今店頭に並んでいる商品にそれらの品は無い。あるのは、青と白のイーグルスグッズの数々と、白を基調としたカーディナルシープのグッズの2種類だけが売り出されていた。

他の商品も取り揃えていたのかもしれないけれど、店の中には〈SOLD OUT(売り切れ)〉の看板が幾つも並んでいる。まだ試合まで2時間近くもあるというのに、大盛況だ。


蔵人がショップの競りを俯瞰していると、店の中で店員が空の段ボールを持ち上げる。


【オージョーTシャツ全種売り切れです!】

【イーグルスとブラックナイト人形も売り切れです!】

【カメレオン人形とミニゴーレムも在庫1箱しかないぞ!】

【買った!その1箱両方とも買った!】

【転売禁止だよ!1人1体まで。良い大人が恥ずかしくないのかい!?】


…うん。分かってる。白を基調としていても、決勝戦に出ないカーディナルシープのグッズな訳はないよな。

蔵人は現実を受け止めて、改めて周囲を見渡す。

みんなが持っていたアイテムは、このショップが元凶だったらしい。初めてこのフィールドで戦ってから、まだ2日しか経っていない。それなのに、もう人形やTシャツが商品化されているなんて…。

アメリカの商業魂は凄まじいな。


一気に高まった桜城の人気を前に、蔵人達は嬉しさ反面、驚き半面で群衆を見詰めていた。

そんな時、近くで甲高い鳴き声が上がる。


【うわぁああ!シマシマナイト買えなかったぁ!あぁああん!】


幼稚園生くらいの小さな女の子が、ショップに群がる群衆の前で大泣きしていた。どうも、出遅れて目当ての人形が買えなかったと残念がっているみたいだ。

ショップの人がチラチラ見ているけど…だめだぞ?もし人形の在庫があったとしても、ここで特別扱いしたら、この子の為にならないぞ?

蔵人はそう危惧していたのだが、ショップの店員さんは後ろの方でゴソゴソ何かを探し始めてしまった。

う~ん、こうなったら…。


【おーい!そこのお嬢ちゃん!】


我慢できず、蔵人は幼女に向けて声を掛けた。

すると、幼女は泣き止んでこちらを見た。

途端に、ぐしゃぐしゃだった泣き顔が、ぱぁっと笑顔になる。


【あっ!シマシマナイトだ!】


やっぱり、シマシマナイトって俺の事か。

幼女の歓喜に、蔵人は笑顔を張り付けて大きく手を振る。


【決勝戦、応援よろしくね!】

【うん!がんばれ!シマシマナイト!】

【ありがとう!】


機嫌が治って良かった。

親子で手を振り返す姿に安心していると、周囲の人も便乗して手を振ってきた。


【なんて優しいんだ!ブラックナイト!】

【男の子とは思えない!】

【まるでヒーローね!】

【いいや、違う!ヒーローそのものだよ、ブラックナイトは!】

【見て!レオン君とクマちゃんも手を振ってくれてるわ!】

【日本の男の子は、なんて素敵なの!】

【私、日本に移住するわ!】


おおっと、ヤバいな。我々のせいで、日本の男子におかしなイメージが出来上がろうとしているぞ。高慢な奴は少ないが、直ぐに逃げちゃう野良猫系男子ばかりだからね?

蔵人達は急いで、選手専用通路へと向かう。


【【ブラックナイッ!ブラックナイッ!】】

【【オージョー!オージョー!】】


その背中を押すように、後ろから数多の歓声が上がり続けた。

長くなってしまったので、明日に分割です。


「開会式とは比べ物にならない人気だな」


カーディナルシープの皆さんが居なかったら、大変でしたね。

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― 新着の感想 ―
ひつじさんもフェイスターン(善玉転向)してくれたし、甲冑剥奪マッチについてはうやむやにしておこうw ミニゴーレムは等身大で造形できるから商品としてよい感じwクマがゴーレムに151種類くらい個性を持た…
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