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365話(2/2)~開園ですわ~

※臨時投稿です。昨日も投稿していますので、ご注意ください。

装備の差なんて、異能力技術をもって埋めてみせましょう。

そう豪語してラビッツの面々と対峙した桜城ファランクス部は、ベンチへと戻って最後のミーティングを行い、鶴海さんの作戦について確認を行った。


「序盤は先ず、耐え忍ぶ戦いをしましょう。上位チームは選手層も厚いですから、相手の戦力を見極めるのが必要です」


鶴海さんが方針を打ち出すと、みんなは静かに頷いた。

部長も、前線の指揮を鶴海さんに委ねると言い、ベンチはフィールドのサポートに徹することを確認し合った。

船頭多くして船山に上る。部長と鶴海さん、どちらの指揮権を上にするかを事前に決めておくのは大切なことだ。


それが終わると、ベンチの前で円陣を組んで、みんなの士気を上げる。

周囲からは前時代的だという声も聞こえるが、これも大切なこと。ファランクスはチーム戦なのだから、こうして仲間がいると言う事を物理的に再認識することは、試合中の精神状況にも影響してくる。


「おうじょー!ファイッ!」

「「「おぉおおお!!」」」


櫻井部長の頃から続けている声出しを行い、蔵人達は再びフィールドへと舞い戻る。桜城の初期位置は、左翼を少し厚めに置いた以外は通常の配置となっている。


同じように、相手は1回戦の時に見た配置から、少し変えてきた。後衛の位置にローズマリー選手を置いて、少し守りを厚くした形だ。

変わっているのが相手のAランクという事もあり、何か嫌な予感がする。少なくとも、1回戦と同じようには行かないかもしれない。


挿絵(By みてみん)


中央に審判がテレポートし、手を高く挙げた。


【これよりっ!クリスタルエッグカップ2回戦、第1試合を始めるっ!両チーム正々堂々と試合に望むことっ!】


ハキハキと喋る小柄な審判。腕を下ろし、蔵人の視線の先に赤と黄色のフラッグを突き出した。

そして、その旗を勢いよく振り上げる。


【レディィイイイイッ!……ファイッ!!】

ファァアアアン!!


審判の姿は掛け声と共にテレポートで消えて、フィールドに試合の合図が響く。

その途端、ラビッツが動き出した。


『さぁ、始まったぞ!CEC2回戦!っと、開始早々にラビッツの前衛が前に出る!試合開始からの速攻!タッチを狙いに行ったぁ!流石はNFL最多のタッチ数を荒稼ぎするウサギちゃん達だぜ!』

【【【ラビッツ!ラビッツ!】】】

【強豪アラバマの力を見せてやれ!】

【映画と同じように無双しちゃって!】


大歓声を背中に受けて、赤い姫騎士達が素早く迫ってくる。

その動きは、確かに脅威。

でも、動き自体は昨晩見た1回戦と全く同じもの。だから、どう動くかもシミュレーション済みだ。

蔵人は準備していた魔力を具現化し、水晶盾を作り出す。

それを、フィールドの真ん中に一文字で並べ立てる。


「シールド・ファランクス」


『出たぁあ!ブラックナイトの真骨頂!騒然と立ち並ぶシールドの分離壁だ!』

【【【おぉお!!】】】

【早い!】

【デカい!】

【それに精巧だ…】


『これだけのシールドを瞬時に作り出すシールダーは、アメリカ国内でも見たことがないぞ!これを、弱冠13歳の男の子がやっちまうんだから、世界は広いって思い知らされるぜ!』

【マジで13歳なのか?誤情報じゃないの?】

【男の子でこの異能力…是非とも我が家に欲しい…】


フィールドを横に分かつ防壁を見て、観客席から無数の視線を感じる。殆どは驚きに目を丸くする人達の物だが、中には値踏みする様な鋭い物も混じる。

そして、驚いたのは観客だけではなかった。


【きゃっ!なんですの?!これ】

【シールドですわ!無属性の】

【止まってください!皆さん!】


一気に駆け抜けようと迫ってきていたラビッツの面々が急停止し、盾を見上げて顔を強張らせる。

中には、盾が幻想とでも疑っているのか、表面を撫でて確かめる娘もいた。


【これって、アイリーンさんが仰っていた例のアレでしょうか?】

【日本でお会いしたと言っていた、サーカス集団の?】

【うそ…なんで、33番の姿はないのに…】


アイリーンさんも、驚きを隠せないでいた。水晶盾の向こう側で、訳が分からないと視線を彷徨わせる。

そして、こちらを見る。桜城前衛に唯一立ち塞がる蔵人を見て、ハッとした顔になった。


【まさか、貴方があの時の…33番?】

「(高音)あら、バレちゃったかしら?」


肩を(すく)めてそう言うと、アイリーンさん頬に朱色が差す。

騙されていた事に気付いたみたいだ。


蔵人のシールドファランクスを前に、完全に停止したラビッツの前衛達。身の丈を軽く超えるタワーシールドを前にして、どうするべきかと攻めあぐねている様子だった。

そんな彼女達に、黒い影が落ちる。


「ほな、兎狩りの時間やで!」


盾の後ろから飛び出した伏見さんが空を舞い、ラビッツの前衛達に目掛けてサイコキネシスの腕を伸ばす。

彼女が狙ったのは、右翼で孤立していた1匹のウサギ。出鼻を挫かれたウサギ達は、空から急襲してくる伏見さんを迎撃する余裕はなかった。

誰にも邪魔されずに、ウサギのドレスに手をかける伏見さん。

だが、


【遅いですわ!】


あと少しでグルグル巻きにされるという時に、狙われたラビッツ選手は素早く後ろへ下がって、その寸前で回避して見せた。

何という軽やかなステップだろうか。完全に捉えたと思われた伏見さんの攻撃を、焦った様子もなく軽く避けてしまった。

その姿はまるで、強い風に舞う花びらのよう。

余りに見事な身のこなしに、蔵人はこれがその選手の異能力なのではと考えた。

でも、それが勘違いだとすぐに思い知らされた。


「援護するよ、祭月ちゃん!」

「よっしゃぁあ!喰らえ、これが私の爆発だ!」


ラビッツの頭上を飛ぶ伏見さんが狙われないようにと、秋山先輩達が援護射撃を繰り出した。

しかし、狙われたラビッツの前衛は全員、軽いステップでその弾丸を避けてしまった。獲物に当たらなかった秋山先輩達の攻撃は、虚しく地面を叩くばかりであった。

加えて、祭月さんの爆風に煽られていると言うのに、ダメージを負った風には全く見えない。

これは…。


「彼女達の装備が、爆破の衝撃を吸収してしまっているんだと思うわ」

「やはり、そう言うことですか」


鶴海さんの言葉に、蔵人は頷く。

ただヒラヒラしているだけの姫騎士装備に見えていたが、耐久性が驚くほど高い様だ。少しファイアランスが掠った程度では焦げも綻びもしないし、着ている彼女達が火傷を負っているようにも見えない。

加えて、見た目通りに軽い素材で出来ているようで、軽やかなステップを刻む彼女達の動きに合わせて、ドレスも軽やかに舞い踊る。

もしかしたら、ダブルワンシリーズの様なサポート機能が付いているかもしれない。あのフリルで隠しているだけで、何処かに風などを放出するための噴出口があるのかも。


「装備が凄くても、あたしらならどうとでもならぁ!行くぞっ、モモ!」

「おっけー!鈴ちゃん!」


今度は桜城の左翼から、鈴華と桃花さんが飛び出した。

鈴華の周囲には小さな鉄球が幾つも浮かんでおり、ラビッツの前衛に近づいた途端、一斉に放たれた。


「喰らえ、マグナ・バレット!」

【避けて!】


鈴華の鉄球攻撃に、アイリーンさんの鋭い悲鳴が重なる。

その声に反応するように、ラビッツの前衛はサッと後退し、鈴華の鉄球を全て避け切ってしまった。

アイリーンさんが、鈴華を睨みつける。


【まだ原理はよく分かってないけど、あんたのそれに当たったらダメってのは経験済みよ!】

「そうかよ。そりゃ、好都合だぜ!」


攻撃を避けられてしまった鈴華は、しかし、口を歪めてニヤリと笑った。

そして、目の前を指さす。

そこには、大きな空間が広がっていた。鉄球攻撃を避けるがあまり、ラビッツ前衛が開けた大穴だ。


「行けぇ!モモぉ!」

「行くよぉ!」


その大穴に、風を纏った桃花さんが突っ込んだ。

どれほど回避性能が高くとも、ファランクスは点取ゲーム。侵入する相手を抑えられなければ意味がない。


【迎撃!】

「捕まらないよ!」


慌てて対応しようとするラビッツの前衛部隊だが、桃花さんのスピードには到底追いつけず、一瞬でラビッツ前線を突破された。

攻撃側に戦力を集中していたラビッツは、誰も桃花さんを止めることが出来ず、瞬く間にフィールドの中央まで独走を許していた。

今、桃花さんの目の前には誰もいない。あるのはただ、太陽光で輝くクリスタルエッグのみ。


『なんて事だ!先にチャンスを掴んだのは、まさかのオージョー!これは予想外!』

【【わぁあああ!!】】

【良いぞ!11番!】

【速っ!めっちゃ速っ!】

【エアロか。にしても速いな】

【風で押してるんじゃなくて、吸い込まれているみたいに見えるわ】


うん?そういうことなのか?

観客席からの声で、蔵人は目を細める。普通のエアロキネシスよりも高い性能を見せる桃花さんの秘密が、何か分かるかもしれないと思ったから。


でも、それは叶わなかった。

絶好調だった桃花さんの快走が、急に止まったからだ。

足でもつったのか、右足を押さえて必死な形相になっている。

…いや違う。彼女の右足首に、何かが絡まっているのだ。

芝生?

違う。緑の蔓だ。植物の蔓が、桃花さんの右足をぐるぐる巻きにして地面に縫い付けていた。


【ローズウィップ】


ローズマリー選手が、右手をしなやかに伸ばす。すると、桃花さんを捕らえる蔓がみるみる大きくなっていく。

地面から持ち上がり、大人程の大きさになり、やがて大木と見間違うほどに大きく成長した。木のように太い蔓の表皮には鋭利な棘が幾つも見え、ハートの形をした葉っぱがそれを隠すように生い茂る。

そして、その大木の様な蔓の先端には、右足を捕らえられたままの桃花さんが宙吊り状態で藻掻いていた。


突然フィールドに現れた、超巨大植物。だが、その1本で終わりではなかった。

ラビッツ領域の中央で、幾つも、幾本も、同じような巨大な植物達が芽を出し、太陽へとその体を伸ばしていく。

そうして、伸びきった彼女達の頭には、真っ赤な花が咲いた。

見事に咲き誇るその花弁は、巨大な薔薇だった。


【ローズガーデン、開園ですわ】


蔵人のシールドファランクスを遥かに超える巨大な薔薇園が、蔵人達の目の前に立ち塞がった。

挿絵(By みてみん)

ちょっと短いですが、続きは明日。


「植物を操る能力…いや、成長させる能力か?」


それとも、作り出す能力?

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