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360話(2/2)~なんか喋ってみてくれ~

※臨時投稿です。昨日も投稿していますので、ご注意ください。

「全く、私がちょっと目を離した隙に、みんな急に居なくなるんだから。困ったよ」


カーディナルシープと別れてすぐ、祭月さんがやれやれと首を振った。

それに、鈴華がキレる。


「てめぇが悪いんだろ!」

「さっちゃん。今回ばかりは、ごめんなさいが必要だよ?」


祭月さんの開き直りに、ファランクス部の良心である桃花さんまでも厳しい視線を向けている。

それを見て、流石の祭月さんも「ご、ごめん。悪かったよぉ…」と急にしおらしくなった。

でも、見せかけかもしれないから注意だ。この娘は姉妹から怒られ慣れているから、そういう部分はお手の物。

それだけ、ご姉妹が起こる理由も良く分かる。本当に、何をしでかすか分からない娘だ。ちょっと目を離した瞬間に、とんでもないトラブルに巻き込まれているからな。

手のかかる幼児か、貴様。


「祭月さん。君は隊列の真ん中で、俺の背に付いて来なさい。鈴華、桃花さん。後ろから彼女を監視してくれ。もしも隊列から外れる様な素振りがあれば、その時は…容赦はするなよ?」

「分かったよ!蔵人君」

「ちぃーとやり過ぎちまうかも知れねぇけど、別に構わねぇよな?」


鈴華が拳を摩ると、祭月さんが顔を強ばらせる。


「うぉい!蔵人!いくら何でも、これはやり過ぎだろう!私は囚人じゃないんだぞ!?オシッコ行きたくなったらどうするんだ!?」

「因果応報だぞ?トラブルメーカーよ」


と言うことで、蔵人は祭月さんを背に回し、厳重な護送体勢でみんなの待つ駐車場へと向かった。

これだけやっても、この娘の場合は安全では無い。予想の斜め上を行ってくれるからな。

蔵人は最新の注意をもって、前方を見ながら後ろの護送者にも気を配る。

そうして、一同は慎重に通路を進んでいた。


のだが、

十字の通路を歩いていると、誰かの足音が聞こえた。

何処から?後ろか?

蔵人は立ち止まり、後ろを振り返った。

丁度、その時、


「ぎゃっ!」


横から現れた何かと祭月さんがぶつかり、彼女はカエルが潰れた様な声を出して吹っ飛んで行った。

その何かとは、


【いったぁ…】


人だ。

祭月さんとぶつかったのは、十字路の向こうから現れたパーカー姿の小柄な人間。

声からして、少女の様だ。

祭月さんと衝突し、祭月さんとは反対側に飛ばされた少女は、パーカーのフードを目深に被り、顔ははっきりとは見えない。でも、そのフードから少しだけ零れた赤メッシュ混じりの金髪が、蛍光灯の光を受けてキラリと輝く。

う~ん…嫌な予感がする。


【(高音)大丈夫ですか?】


そう思いながらも、蔵人は少女に駆け寄って、手を差し出す。

すると少女は、一瞬硬直して、その手をじっと見た。

取るかどうか迷っている様子。

でも直ぐに、手を取って立ち上がる。


【あ、ありがとう】


そう言いながらも、彼女はもう片方の手でフードの裾を押さえて、顔を隠す様にしていた。

正体がバレたくないって?こいつは早速、トラブルメーカーの呪いが発動しているぞ。

深入りは厳禁だ。

そう、蔵人は笑顔の裏で心に誓う。


【(高温)申し訳ありません。お怪我はありませんか?】

【ううん。こっちこそ、ごめんね。急いでて…そっちの子は大丈夫?】

【(高音)ああ、気にしないで。普段の行いが悪いから、天罰が下っただけですよ】


隊列のど真ん中に設置しても、トラブルを引き起こすとは…。

蔵人は、向こう側でひっくり返ったカエルを見下ろす。すると、カエルが息を吹き返して飛び上がった。


「おいっ!なんで私は助けない!私は被害者だぞっ!」

「何言ってんだ。そんだけ元気なら大丈夫だろ」

「さっちゃん。ちゃんと謝らないと」

「うぇええ!?今回は私、悪くないだろ?」


まぁ確かにそうなんだが、何故か悪いのはこちらだと思えてしまう。

日頃の行いか。


【大丈夫なら良かったよ。じゃあ、私はもう行くか、痛っ!】


少女が去ろうと足を踏み出した途端、(うずくま)ってしまった。

どうやら、足首を怪我したらしい。ぶ厚い靴下の上からでは分からないから、骨折とかだったら大変だ。

蔵人は少女の前に座り込み、背中を見せた。


【(高音)よろしければ、医務室までお送りします。どうぞ、私の背中に乗って下さい】

【いや、大丈、ぶっ…】


無理して立ち上がろうとして、また顔を顰める少女。


【(高音)痛いんでしょ?無理して悪化したら大変よ。すぐそこだから】

【う、うん。ありがと…】


少女が蔵人の肩に掴まる。すると、その少女の手を鈴華が掴んだ。


「背負うなら、女のあたしがやるよ」

「(高音)鈴華…助かる」


同性同士の方が確かに良いだろう。

蔵人は横にズレて鈴華に場所を開け、少女に鈴華が背負うからと伝える。すると、少し驚いた顔を蔵人に向けた。

…その目。さっきのハチミツクマさん達と同じ色だな。こんな事でもバレてしまうのか。

アメリカでフルフェイスは珍しいのか?イーグルスもやっていたと思うけど…。


悩む蔵人の前で、少女が鈴華に負ぶさる。

そんな少女の元に、祭月さんが近寄った。


「なぁ、お前のその声、なんかセレナに似てるんだよなぁ。なぁ、なんか喋ってみてくれ」


おーい。絡むな。真実を知ろうとするな。

頼むから、これ以上厄介事を増やさんでくれ。


早く、医務室を探さないと。

そう思って地図を探していると、通路の向こう側で何かが動いた気がした。そちらに視線を向けると、黒色のスーツにサングラスを装着した人達が2人、こちらへと走ってきているのが目に入った。

少女の護衛か。

これは、彼女を医務室に連れていく必要はないな。


「鈴華。どうやら彼女のお迎えが…」


迎えが来たから、護衛達に少女を渡そう。

そう言おうと鈴華に振り返ろうとした蔵人の背に、強烈な殺気が突き刺さった。

慌てて視線を戻すと、そこには全力疾走でこちらへと迫る黒服達の姿が。

2人の構えから、完全に一戦を交える覚悟が見える。

おいおい。こいつはっ!


【誤解だ!我々は日本の選手で…】


蔵人が弁明するより先に、先頭を走っていた黒服が先に到着した。

間合いに入ると同時、こちらへと拳を振り上げた。

早い。それに、ただのパンチでは無い。魔力を纏った、ブーストされた拳。

こちらの命なんて考え無しの、容赦のない拳だ。

言葉だけで止める事は…出来はしない。


「ランパート!」


蔵人は瞬時に1枚の簡易ランパートを生成し、迫り来る拳に構えた。

簡易ではあるが、黒服の拳を受けた部分は少しだけしか沈まず、殆ど無傷で拳を受け止めることが出来た。

Cランク…いや、Bランク程度か?


相手の魔力量を見積もる蔵人。

その前で、拳を止められた黒服は、瞬時に拳を引く。そして、ランパートでガードされている部分を避ける様に、角度を付けて回し蹴りを放ってきた。


そうだろうな。これだけ殺気を放っている以上、拳を止められたとしても目的自体を諦めたりはしないだろう。

彼女の思考を読んでいた蔵人は、その時には既に、右腕をアームド・ブブへと作り変えていた。

その肥大化した右拳で、迫り来る回し蹴りを殴り付ける。


【ぐっ!】


極大の拳に殴られた回し蹴りは、いとも簡単に跳ね飛ばされ、黒服はバランスを崩しながら後退した。

だが、まだ黒服の殺気は消えない。吹き飛ばされても直ぐに態勢を整えて、こちらとの距離を詰め直そうと前かがみになった。

そんな彼女の前に、蔵人は右拳を真っ直ぐに構えた。


「ショットガン・ブラスト」


右拳の先端が弾け、あと数歩近づいたら間合いに入るところだった黒服に、その全弾が着弾した。


【ぐぁっ!】


咄嗟に腕を顔の前に出してガードした黒服だったが、それだけでショットガンの威力が殺せることはなく、苦しそうな嗚咽を吐き出しながら吹っ飛んで行った。

その勢いのままに、床を転がる黒服。その上を、もう1人の黒服が飛び越えて、こちらへと迫って来た。そいつの手には、何やら懐中電灯の様な物が握られている。


なんだ?銃か?それとも爆弾?

蔵人は警戒し、構えを深くする。

と、思っていたら、その懐中電灯から光の刃が伸びて、それを大きく振り上げてきた。

なんとっ。ライトセ…ビームソードだと!?


驚きながらも、蔵人はその一刀に右腕を突き出す。ただ受けるだけだと溶断されそうなので、腕の周りに小さな盾を付けて、高速回転させる。


「ドラグ・シェル」


回転する高速刃が、ビームソードとぶつかる。


バチッ、バチッ!


ぶつかると、電気が弾ける音がして、ビームソードを受け止めることが出来た。

こいつ、エレキネシスか。電気を剣の周りに纏わせて、攻撃力を上げているんだな。

これが、アメリカの兵器ってことか。


蔵人は腕を払い、ビームソードを弾く。

だが、直ぐに相手も態勢を立て直し、再びビームソードを突き出してきた。

蔵人はその攻撃に、チェーンソーで対抗する。

突きを受け流し、上段からの振り下ろしを弾き、薙ぎ払いを受け止める。


バチバチバチッ!


盾の回転刃と競り合う電気が、凶悪な音を飛び散らせる。


【剣を収めろ!俺達は大会の選手だ!お前達のフォースは、男を斬る為にあるのか!?】

【男…だと…】


押し込まれるビームソードの圧が、強くなった気がする。

普通、逆じゃないのか?

そう思いながらも、蔵人は冷静に対処する。力が入った一撃を軽く受け流して、相手のバランスを崩す。

そこに、龍鱗で覆われた足を思いっきり振り上げる。

狙いは、奴の手元。

ビームソードを作り出している懐中電灯の底を蹴り上げて、黒服の手からビームソードの柄を蹴り飛ばした。

柄は、コロンコロンと転がり、床に倒れ伏しているブースト黒服の所で止まった。


【くそっ!男の分際でっ!】


取りに行けない所まで転がってしまった柄を見て、黒服は鼻に皺を寄せて吐き捨てる。

だが、彼女が振り向いて構えた時には、蔵人は既に、自身の間合いまで距離を詰め寄っていた。

黒服の腹部に、龍鱗の蹴りをねじ込む。


【がぁっ!】


声と唾を吐き出しながら、エレキネシスの黒服も吹っ飛んで行き、ブーストの黒服が倒れる近くで止まった。

そのまま、動かなくなった2人。

他に、襲ってくる者はいない。襲撃は終わったか。

蔵人は構えを解いて、転がる2人を見下ろす。

それにしてもこいつら、先ほどの言動と行動からすると、もしかして…?


「蔵人君!大丈夫!?」


蔵人が黒服達の行動に目を細めていると、桃花さんが慌てて駆け寄ってきた。

それに、蔵人は手をヒラヒラさせる。


「ああ、大丈夫、大丈夫。いきなりの事で驚きはしたけど、いい準備運動になったよ」

「ごめんね。僕もびっくりして、何も出来なかったよ」

「あたしもだ。ボス達の動きが速すぎて、目で追うのがやっとだったぜ」


鈴華も難しい顔をしながら、こちらへと近付いて来た。彼女の背中には、目を大きくする少女がいた。


【すっご。Bランクの護衛2人を瞬殺って、君めちゃくちゃ強いんだね。もしかして、ライオンズのチームメンバーだったりする?NFL1位の】

【いえ。我々は桜城ファランクス部。日本から来た一般の中学生です】

【…えっ?日本?オージー?中学生?】


少女の目が点になっている。思考回路がショート寸前なのだろう。

しかし、NFL1位もライオンなのか。日本でも獅子王が王者だし、名前に獅子を付けると箔が付くのか?


そんなしょうもない事を考えていると、また足音が聞こえてきた。

今度のは、かなり多い。


【貴女達!何をしているの!?】


非難がましい声の元には、多くの黒服と、ワイルドイーグルスの選手らしき人達を連れた金髪の美女の姿があった。かなり若そうな見た目だが、クリーム色のスーツを着こなすその姿は、出来る外交官といった出で立ち。

そんな彼女は、鋭い視線を蔵人達に浴びせた後、床に倒れ伏せる黒服と背負われた少女を見て、更に視線を厳しくする。


【貴女達、その子をどうするつもり?】

【(高音)怪我をしているので、医務室に連れていくつもりでした。彼女とお知り合いでしたら、引き継ぎさせて頂きます】

【…本当に?では、そこの護衛はどうしたんです?】


疑わしいと聞こえる目で、こちらをねめつける女性。

それに、蔵人は困った風に小さく首を振る。


【(高音)彼女を背負っているところを見て、突然襲ってきました。ですので、我々も抵抗した次第です】

【そう…だったの。それは、災難だったわね。彼女達は任務に忠実だったの。許してあげてちょうだい】


金髪女性は理解してくれたのか、鋭かった視線が緩み、小さな笑みも見せた。

少々上から目線であり、謝りもしないで許せと命令をしてくる。それは、彼女の性格が高慢なのかも知れないが、もしかしたら謝る事の出来ない立場なのかもしれない。

そう、例えば、一条様や九条様のような雲の上の人だったり。


蔵人は、ただ黙って彼女の後ろで控えているイーグルスの面々を見て、嫌な予感を感じた。

そして、その予感が命じるままに、この場を早く撤収する事にした。


【(高音)承知いたしました。では、我々はこれで】


そのまま去ろうとした。

だが、蔵人がお辞儀して背中を見せようとした瞬間、倒れていたエレキネシスの黒服が頭を上げた。


【カトリーナ、様。こいつ…男です】


その言葉を聞いた途端、金髪女性…カトリーナさんの目に怒りの炎が灯った。


やりやがったな、銀河の騎士。こうなると分かってたから、声色を変えたのに。

蔵人は歯噛みして、カトリーナさんの右胸を見る。

そこには、銀色に輝く百合のブローチが付けられていた。

やっぱそうだよなぁ。あんたら、白百合だよねぇ…。


【今すぐこいつらを捕らえなさい!セレナを誘拐しようとた犯罪者よ!】


カトリーナさんが叫び、蔵人を真っ直ぐに指さす。

やはりこうなるか。そして、やっぱりこの少女はセレナなんだよなぁ。

こいつは、トラブルメーカーを超えて疫病神になったんじゃないか?祭月さんよ。


【違うよ!カトリーナさん!彼らは本当にただ】

【言い訳は後で聞くわ。お転婆歌姫】


セレナさんが弁明しようとしたが、一方的に止められてしまい、ジワリジワリと黒服達がこちらに近寄って来る。

厄介事がてんこ盛りで、蔵人は泣きそうになりながらみんなの前に立って盾を構えた。

と、その時、

静かな声が通路に響いた。


【私の言葉は、今すぐ聞いて頂きますよ。DP社の若き社長さん】


その声は、後ろから。

振り返ると、琥珀色の目を鋭く尖らせた、暴力的なボディを揺らす女性が1人。

彼女を見上げて、カトリーナさんが言葉を吐き出す。


【アマンダ・ベイカー…】


我々を招待した張本人が、そこに立っていた。

歌姫、DP社社長、そしてアメリカ特使…

一気に大物が勢揃いですね。


「カオスだな」

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