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女尊男卑 ~女性ばかりが強いこの世界で、持たざる男が天を穿つ~  作者: イノセス
第14章~夢幻篇~

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350話〜蔵人、お兄様…〜

学園へと続く道の両端で、幾つもの鮮やかな花を咲かせる桜を見上げて、私は一歩一歩と通学路を踏みしめる。その度に、3年間をこの道で通学するのだという喜びが、胸の中で熱を帯びる。

つい、目元まで熱くなりそうになって、私は桜を見上げたまま登校する。


長かった。ここまで来るのは、本当に長く辛い道のりだった。何度も挫けそうになったし、何度も受験先を変えようと思った。でも、曲げなかった。私はこの学園に入る事だけを夢見て、めげずにまっすぐ勉強し続けた。

そして、受かった。この純白の学園に。

桜坂聖城学園。その中等部に、北岡雪花は受かったんだ。


私が視線を下げると、そこには白亜の門が聳え立ち、その先に城の様な建物が整然と立ち並んでいた。

その荘厳な風格を目の当たりにして、目元から一滴の涙が零れ落ちてしまった。

しまった。

私は急いでハンカチでふき取り、周りを見回す。

幸い、時間も早いからか、周囲に生徒の姿はなかった。


それでも私は恥ずかしくなったので、正門で受付を終えると、足早に桜城校内へと進んだ。

別に、恥ずかしいことなんてない。あれだけ激しい受験を勝ち抜いたのだから、少し気持ちが溢れるくらい許してもらえる。例年なら面接だけで受かるのに、今年はかなり厳しい試験が待っていたのだから、きっと私以外の人も感極まる人が居る筈だ。


そう思って、正門を振り返ろうとしたら…。

あれ?正門がない。それどころか、周囲に見覚えが全くない。

足早に進み過ぎた私は、いつの間にか校内の奥まった所まで来てしまっていた。


ど、どどどど、どうしよう!周りに誰も居ないし、下手に動くと余計に迷ってしまうかも。でも、このままじゃ入学式に遅れるかもしれない。折角受かったのに、初日から遅刻なんて最悪だ。先生に怒られちゃうし、もしも退学とかになったりしたら…。


悪い方向にばかり、思考が傾いていく。

いつの間にか、私は座り込んで地面を見詰める。ぽたぽたと、白亜の石畳に涙が落ちた。

そんな私の背中に、


「おや?どうかされましたか?」


声が掛かる。

私は、慌てて顔を上げた。

弱気になっていたのを見られて恥ずかしかった…訳じゃない。その声が女性にしては低すぎたから、驚いたのだ。

だから私は、涙が頬を伝うままに、その人を見上げてしまった。

見上げて後悔した。だって、その人は、


「蔵人、お兄様…」

「おぉ、君は、祭月さんの妹さんで…雪花ちゃんじゃないか。どうしたの?誰かにイジメられた?白百合のアクセサリーを付けた人だったかな?」

「いえ、あの、道に迷っただけで…」


言葉にしてみて、恥ずかしく思った。だって、それだけで泣いてしまったのだから。まるで幼稚園生みたいだ。女なのに情けない。

でも、お兄様はそんな素振りも見せないで、私を立たせて涙を拭いてくれて、「それは仕方ない」と慰めてくれた。


「この学校は物凄く広いからね。俺も、未だに迷う事があるよ」


そう言って私をフォローしてくれるお兄様は、以前お会いした時と変わらない笑顔を向けてくれる。

本当に、今まであったどんな男性よりも優しくて、神様や天使様みたいに見える。


「それで?行き先は教室棟かな?」

「は、はい!その、1年2組って聞いているんですけど…」

「2組か、なら東側の昇降口の方が近いな」


そう言いながら、お兄様は先導してくれる。

自然な動きで、ついついエスコートされてしまっているけど、男性にこんな事してもらえるなんて滅多にない事だ。まるで、私が貴族様にでもなって、男性の使用人に給仕されている気分。

そんな妄想が頭を過ぎり、私は慌てて首を振る。


「しかし。雪花ちゃんは凄いね。よく今年の桜城に受かったよ」


道すがら、お兄様が私を褒めてくれた。それが嬉しすぎで、感極まった私は「は、はい…」なんて情けない受け答えしか出来なかった。

でも、仕方がないじゃない。私の努力をしっかりと理解してくれて、しかも、それがこんな素敵な男性に言われたんだから。

そんな言い訳が胸の中をグルグルと回るばかりで、口は全然回らない。

折角お兄様が一緒に歩いて下さっているのに、気の利いた話題一つ提供できないなんて…。


「さて、ここが2組だ。また何かあったら相談してね。俺はこの下の階の2年3組に居るから」


私がドギマギしている内に、目的地に着いてしまっていた。


「あ、ありがとうございました!」


せめて、お礼だけはと思い、私は思いっきり頭を下げた。すると、お兄様は手を挙げて去っていく。

呆れられてしまっただろうか。まともな会話が全く出来ず、お礼も噛んでしまった。


「ダメだ。悪く考えるな」


初日からお兄様に会えた。それに、遅刻もしなかった。

これからだ。

私は気合いを入れ直し、クラスの扉を潜る。



それから数日。私は中等部の生活に少しずつ慣れていった。

クラスは総勢35名。女子が28名で男子が7名だ。初等部の時は女子が25名で男子が2名だったから、男子の割合が急上昇した。この割合は、他の9クラスも一緒みたいだ。


桜城は元々、男子生徒の割合が高い。でも、今年は異常であった。その理由と言うのが、


「あぁ…早く部活見学に行って、黒騎士様のお姿を拝見したいわ」

「ファランクス部に入れなくても、せめて見るだけはしたいよね」


クラス中で話題に上がる、黒騎士とか言う人物が関係しているらしい。

勿論、私も黒騎士の名前は聞いた事がある。男子で全日本を優勝したと噂される選手の2つ名だ。


確かに、私も凄いとは思う。みんながメロメロになるだけの肩書きというのも理解は出来る。

だけど、私は好きじゃない。だって、そいつのせいで、私の受験は大変だったのだから。

本来の桜城なら、Bランクである私は面接と簡単な試験をこなせば受かる筈だった。でも、今年は受験生の数が急増した為に、Bランクにも本格的な試験が課されてしまった。その難易度は、天隆の過去問を思い出す程のものだった。


この原因が、黒騎士の存在だった。

彼が大会で目立ったから、みんなが彼とお近づきになりたいと桜城に殺到し、試験の難易度を跳ね上げたんだ。

許すまじ黒騎士。

彼に悪気がなくても、貴重なAランク男子だったとしても、私は彼に怒り心頭だった。


いいや。きっと悪い奴に決まっている。だって、恵まれた男子の異能力者だ。そう言う奴はみんな、高圧的でワガママな奴だって決まっている。

実際、黒騎士の悪い噂を耳にした事もある。高圧的だとか、クラスや部活を牛耳っているだとか…。

そういう男共は、少しでもお兄様の優しさを見習って欲しいものだ。


「ねぇ、雪花ちゃん」


私が心の中で憤慨していると、前の席の子が振り返った。


「どうした?内山さん」


彼女は内山さん。入学初日で仲良くなったクラスメイトだ。家にリボンを忘れたとかで、私の予備を貸した事で仲良くなったんだ。

リボンなしで何故、違和感を感じずに登校したのかは甚だ疑問だが。


「雪花ちゃんはさ。今日からの部活見学で、何処に行くか決めてる?」

「いや。一通り見て回ろうとは思っているけど」

「だったら!私と一緒に回ろうよ!」

「まぁ、それは別に良いけど。何処に行く気なんだ?」


私が少し不安を抱きながら聞くと、内山さんは屈託ない笑顔を浮かべる。


「そりゃ勿論、ファランクス部だよ!」



という事で、放課後。

私は内山さんに引きづられる形で、ファランクス部が活動している訓練棟へと向かった。

今年の部活紹介で、ファランクス部は部長が挨拶しただけで終わってしまったので、どんな部活なのか一切分からない。流石は黒騎士が所属している部活だ。お高く止まっている。

まぁ、他の異能力部なんて、壇上にすら上がらなかったんだけど。


そんな不親切なファランクス部だったが、訓練棟の前は凄い人集(ひとだか)りだった。

目の前には色とりどりの頭が小さく揺れ、その先の重厚な扉を一心に見詰めている。

まだ訓練棟の扉が開かれていないみたいで、みんなは待ちぼうけを食らっているみたいだ。それなのに、誰も帰ろうとしていない。

これが、黒騎士効果か。


「ちょっと上、通したってな!1年生!」


私が目の前の人達に呆れていると、そんな声が上空を過ぎた。

見ると、金髪を靡かせた女子生徒が空を飛んでいて、そのまま扉の前に着地した。


「伏見選手だっ」

「かっこいい!」


扉を開ける彼女の背中を見て、群衆から幾つも声が上がる。

飛行系異能力者?分からないけど、凄い人もいるんだ、ファランクス部って。

私は、少し期待して訓練棟の中に入る。


玄関には、ビッグゲーム3位の賞状や楯、写真等が飾ってあり、みんなは足を止めて見入っている。

実績は…あまりないみたいだ。去年の事ばかりを主張する空間。これは、選手層が薄いのかも。


私まで、足を止めてしまっていた。そこに、後ろから声がかかる。


「おっ!誰かと思ったら、雪花じゃないか!」


その声を聞いた瞬間、私は眉間を押さえた。

この学校で、1番出会いたくない人物に遭遇してしまったから。


「なんだ、なんだ?学校だけじゃなくて、部活まで私の後を追ってきたのか?可愛いところがあるじゃないか、妹よ!」

「誰がそんな事をするか!アホ姉!」


思わず振り返ると、そこにはムカつく笑顔を浮かべる祭月(ねぇ)の姿があった。

そうだった。黒騎士がどうのとか以前に、こいつが居るからファランクス部には来たくなかった。だって、絶対にこう反応するのは分かっていたから。

アホ面を晒す実妹に、一発氷塊でもぶつけてやりたい衝動に駆られる私。だが、姉の後ろに誰かが立ったので、ワキワキしていた手を慌てて後ろに回す。


「おっ、なんだ?祭月ちゃんの妹?」


その人物は、男子だった。黒髪にワックスを付けて遊ばせ、ネックレスや指輪をしているチャラい男。

…男子だけど、好きになれないタイプの人かも。


「そうだっ!私の可愛い妹だぞ!」

「おぅ!確かに可愛いね。なぁ、妹ちゃん。お名前はなんて言うのかな?」


一瞬、教えていいものかと躊躇してしまったが、先輩の、しかも男子の質問を無視する事なんて出来ず、私は小さな声で「雪花です」と答えた。

すると、男子は嬉しそうに笑みを零した。


「う〜ん。やっぱり名前も可愛いね、雪花ちゃん。君のその白くて美しい肌にピッタリの名前だ。君みたいな可愛い後輩が出来て、俺は幸せ者だよ。今日はしっかり俺の活躍を目に焼き付けてくれ。そして、このファランクス部に入ってくれると嬉しいな」


歯が浮くような事を言うチャラ男先輩。男子に可愛いなんて言われたのは初めてだが、何故か嬉しさよりも胡散臭さを感じる。

しかも、活躍って事は、この人も選手なのだろうか?マネージャーで活躍って言わないだろうし。


「みんなも、俺の勇姿をしかと見てくれ!そして、後日開かれる入部試験を受けて、俺達と一緒にビッグゲームを目指そうぜ!」


チャラ男先輩が自信満々でそう言うと、1年生達は黄色い声を上げて答えた。

それに満足したのか、チャラ男先輩は訓練棟の奥へと入っていく。姉も「姉妹での共闘、楽しみだな!」とか言いながら、彼について行った。


台風みたいな奴らだったな。

私は疲れてため息を吐いたが、隣では感嘆の吐息が吐かれた。


「かっこいい先輩だったね、雪花ちゃん。まるで白馬の王子様だよ。あの方が黒騎士様なのかな?」

「…きっと、そうだろ」


自信家で、女性の扱いに長けていたから、間違いなく黒騎士はあの先輩だ。だって、強い男性の中には、女性を侍らせて楽しむ人もいると聞いた事があるから。

黒騎士は、そっちタイプの英雄みたいだ。


「1年生!こっちや!はよ()い」


伏見先輩が手招きしている。

私達は急いで彼女の元に駆け寄り、先輩に連れられて2階席へと向かう。

プラスチック製の椅子がズラリと並んだそこからは、訓練棟1階が見渡せる様になっていた。


「ほら、そないなとこで固まっとれへんで、もっと前に来たらええで」


最後列の背もたれを掴んでいた私に、先輩は最前列を勧めてくれた。

口調が大阪弁で、少し怖い人かもと思っていたけど、色々と気を使ってくれる優しい人だ。この人目当てに入部したくなる。


私は、アホ姉と伏見先輩を天秤にかける。あの姉と一緒というのは、些か不安と不満が残るが、家と同じ状況と考えると、天秤は伏見先輩側に傾く。

ああ、でも、黒騎士先輩がいるんだった。

そう思うと、やっぱり天秤は元に戻った。


1階を見下ろしていると、すぐに練習が開始された。始めは、準備運動や軽く走るだけの練習だったが、周りの子は凄い興奮していた。


「見て、あそこにいるの、久我様よ」

「凄いお綺麗な方ね。久我と言うことは、あの久我家の?」

「大貴族のお嬢様も練習に参加されるんだ…」


みんなの目は、1人の選手に釘付けだ。

長い銀髪を靡かせる、とても美しい人。まるでフィクションの中から出てきたお姫様…と言うより女神様だ。私達とはあまりにかけ離れた美貌とプロポーションは、嫉妬心すら湧いて来ない。


みんな、久我先輩に魅入っていた。だから、その人が入って来たことに気付いたのは、内山さんが奇声を上げてからだった。


「うぇっ!?い、一条様!?」


彼女の声に連れられて、私は視線をフィールドから横へとズラす。すると、そこには1人の少年と、彼を取り巻く2人の少女が目に入った。少年は黒髪だが、両側の子は燃えるような赤と、日本人離れした金髪だ。

間違いなくAランク。護衛にそんな逸材を採用している時点で、この少年が只者でないと誰でも分かる。


実際、クラスでも話題になっていた。1組に、一条家の人間が入学されていると。しかもそれが男子で、なかなかのイケメンだと。

そんな方が、何故こんな所にいらっしゃるのだろう?一条様程の方なら、部活も免除されるだろうし、入ったとしてもシングル部のマネージャーとかの筈。

この2階席に居ると言うことは、選手として入部するってことだと思うのだが…?


私が驚いている間に、一条様は最前列の更に前へ出て来て、フィールドを見渡した。

そこに、護衛の片方が土で豪華な椅子を作ったが、一条様は「背もたれを無くせ。後ろの者が見えなくなる」と小声で指示されていた。


…後ろの人を配慮するなんて。男の子なのに、凄い良く出来た人だ。やっぱり、一流貴族は違うのかも。


一条様ショックで、みんなの目が彼に向いている内に、フィールドでは準備運動が終わって次の練習に切り替わっていた。

次は、ミニゲームをするみたいだ。

…姉から聞かされていた話では、地獄のダッシュだった筈だが…きっと、見学者用のメニューだと思う。見学は、あと30分くらいしか出来ないから。


そのミニゲームは、全然ミニではなかった。

激しい魔力弾の応酬に、シングルに負けない近接戦が繰り広げられる。

その中央に居たのが、


「左翼!少し引いて。早紀ちゃん、今よ!」


翠お姉様だった。

お姉さまもファランクス部員だったことの喜びと、その素晴らしい指揮に、私はすっかり魅了されてしまった。

いや、私だけじゃない。観客席全体から、熱い感情が漏れ出ていた。


伏見先輩が空中戦を披露して、久我先輩の活躍が選手を何人も浮かせる。

その2人だけでなく、小さな栗毛の先輩は素早い動きでタッチを決めていたし、フルフェイスの先輩は小さなゴーレムで相手前線を土ダルマにしていた。

その先輩が、空に大きく拳を突き出す。


兵長(へいちょー)!終わったよー!」


えぇっ!?男の先輩!?黒騎士先輩以外にも、男子の選手が居るの!?

驚きで、私は声が出なかった。逆に、周りは黄色い声援を男子選手に送る。すると、彼は嬉しそうに手を振り返していた。


…なんだろう。さっきのチャラ男先輩と同じくらい女性に手馴れている風なのに、全然嫌な感じがしない。寧ろ、癒されると言うか、甘やかしたくなる衝動に駆られる。先輩の筈だけど…。


「ねぇ、見て。雪花ちゃん。また男性が入って来たよ」


内山さんに肩を揺すられて、私は入口の方を見る。すると、そこには大量の荷物を持ったお兄様がいらっしゃった。

お兄様は荷物を両手に持ち、更に幾つものダンボールを浮かせてフィールドの端を走る。


そうだった。翠お姉様がいらっしゃるのだから、お兄様もいらっしゃるのは当たり前。

私の中で、天秤が大きく傾いた瞬間だった。

これはもう、入部しなければならない。どんな手段を使ってでも。


「凄いね。荷物をあんなに持ってるのに、軽々と走れるなんてさ。リビテーションなのかな?」

「お兄様は天使だ。きっと、背中に翼が生えていらっしゃるんだろう」

「えっ?何それ?雪花ちゃん、あの人と知り合いなの?」


内山さんが驚いているので、私はお兄様の素晴らしいところを少しだけ教えてやった。

嫌な顔1つせず、ああしてマネージャー業務を1人でこなしている時点で、並の男子ではないと分かるだろう。お兄様は働き者で、凄く頭も良くて、そしてとても優しいんだ。

何処かのキザで自信家な有名人とは、比べ物にならない。

私からしたら、お兄様こそがみんなの注目を集めて、持て(はや)されるべきお人なんだ。黒騎士とかじゃなくて、お兄様が日本一なんだ。


「蔵人お兄様は最高なんだ。内山さんも、ファランクス部に入ればきっと分かるぞ」

「えっとぉ…雪花ちゃんがあの人を凄く尊敬しているってのは、痛いほど分かったよ」

「うむ。お兄様と、翠お姉様。そして桜姉様が、私の尊敬する偉人トップスリーだ」


私が力説すると、内山さんは少し体を引いた。そして、フィールドを指さす。


「その偉人お兄さんだけど、ミニゲームに参加するみたいだよ?」

「なんだって!?」


慌てて下を見ると、お兄様がフィールドの中央に立たれている。しかも、ゴーレムに襲われて圧倒的不利となったチームの前線にいた。

なんでそんな所に!?


「お兄様!そんな所、危ないですよ!」


私は、いつの間にか叫んでしまっていた。最前列の手すりを掴み、お兄様に向かって。

でもお兄様はこちらに顔だけ向けて、朗らかに手を振るだけ。

なんて凛々しい…じゃなくて、誰か止めろよコノヤロー!


「お前、名前は?」


憤る私に、横から声がかかった。

感情のままにそちらをキッと睨み付けてしまったが、相手が一条様だと分かって、私の心は萎えた。


「あっ、えっと、雪花です…」

「そうか。俺は一条透矢だ」


睨みつけてしまったのに、一条様は顔色1つ変えずに、淡々と自己紹介して下さった。

加えて、


「雪花。安心しろ。あいつはこんな事位で、怪我の1つも負うことはない」


ちょっと高圧的だけど、私を慰めてくれた。

何故だろう。この空間に居る男子は全員、レベルが高過ぎる。みんな女子に優しくて、紳士的。あのチャラ男先輩だって、他の男性と比べたら何万倍もマシ。ファランクス部に入る男子には、何か基準が設けられているのか?って思ってしまうくらい。


そして、一条様が言われた通り、大丈夫であった。

お兄様が両手を突き出すと、半透明なシールドがいっぱい立ち並ぶ。


「えっ?」


私は、驚きで口が閉まらなくなった。

だって、シールドの生成があまりに早かったから。普通は魔力をこねくり回して、形を作って、やっと1枚作る筈なのに。


驚きで固まる私。その目の前では、更に驚きの光景が広がる。

撃ち出される魔力弾を尽く防ぎ、飛んできた伏見先輩を盾で迎撃する。迫るミニゴーレム軍団を回転する盾で切り飛ばし、鈍色の小さな盾がフィールドを舞い上がる。

その鈍色の吹雪が、一人の選手に集まった。

久我先輩だ。


「行くぜ!ボス!」

「手加減出来ないぞ!鈴華!」

「上等!」


そして、中央で始まる一騎打ち。

何人もの選手をベイルアウトさせた久我先輩を、お兄様は銀色の盾を回転させて打ち返している。

その試合のレベルは格別で、まるでオリンピックのシングル戦を見ている気分だ。


「言っただろ?大丈夫だと」


目を見開くだけになった私に、一条様が話しかける。それに私は「はひ…」と情けない声で返事してしまった。

驚き過ぎて、声が出なくなっていた。

そんな私に、一条様はトドメを刺す。


「これが黒騎士。巻島蔵人の力だ」


黒騎士。お兄様が、あの黒騎士。お兄様は既に、日本一だった…?

あまりに感情が高ぶって、そこからはあまり覚えていない。

ただ、倒れそうになった私を、一条様が抱き抱えてくれた様な気がするけど…ただの夢だよね?

別れがあれば出会いもある。

新たな年度となり、桜城もにぎやかになりました。


「雪花嬢は、姉とはまた別の意味でにぎやかにしてくれそうだな」

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― 新着の感想 ―
雪花さん、黒騎士のファンクラブに入りそうな予感がしかしないのですが…… 個人的には本田さんみたいに蔵人を神格化(?)せずに仲良くしてほしいです(もうしかけてるような気もしますが) それはそうとやはり…
雪花ちゃんが単身心細い状態で登校しているという事は、桜城を受験すると言っていた仲良しの子達は 突発的な超・難関校化に見舞われ受験戦争で散っていった(生きてる)のだろうか ;; プレシャス至宝チケット…
第三者視点で見るとなかなか蔵人視点よりかっこよく移る…… 精進精進、そして強敵と殴り合いじゃー!って感じだけど、盾をズラーッと並べたりするのかっこよすぎる
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