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349話~君達桜城も参加してみないか?~

いきなり迫って来て【筋肉の師匠!】とか言い出したマーゴットさん。流石の蔵人も、これには些か引いてしまった。

特に彼女、クールビューティ系だと思っていたので、筋肉の話題で目を輝かせた事に驚いてしまった。

人は見かけに寄らない…いや、見かけ通りなのか。


マーゴットさんの変化はプラス?な方向なのでまだ良い。問題は、他のアメリカ選手達だ。


【ヤバっ。オージョーが来るよ】

【あんた達、散々バカにしてたらから、きっとジョーズに食われるよ】

【あんただって一緒に笑ってたでしょ!】


試合が終わり、両校の健闘を称えて握手しましょうという段階で、アメリカ側から怯えた視線が幾つも飛んできた。

試合開始前は、随分とイキリ散らかしていた彼女達だったが、今は見る影もない。頼みの綱であるプロ3人が討ち取られたのもあるが、自軍領でボコボコにされたのが一番の原因であった。

その中心人物の2人に、アメリカ勢の怯えた視線が特に集まっていた。彼女達から、泣きそうな声が漏れ聞こえてくる。


【ちょっと、誰か桃花(11番)との握手代わってよ。私、エアロで吹き飛ばされて脱臼してたのよ?】

【それならまだマシよ。私なんて、クリスタルに足ぶつけて骨折したんだから】

【じゃあ、あたし代わろうか?その代わりに伏見(9番)と握手してくれるならね】

【…そっちの方が嫌よ…】


桃花さんと伏見さんは大人気だ。マーゴットさんと一騎打ちをしている時に、向こうでも随分と暴れていたらしい。

伏見さんは、空中からの急襲で5人をベイルアウトさせ、アメリカ前線を崩壊させた。

桃花さんは、崩壊した前線から敵陣に乗り込み、円柱までの道にいた人を全て吹き飛ばして、セカンドタッチを決めていた。

慶太のゴーレムで混乱していた所にそれを仕掛けられたので、やられたアメリカ勢からしたら溜まらない。圧倒的な力を見せた2人に、恐怖心を抱くのは自然なことだった。


やかましかった彼女達が、大人しくなってくれたのは嬉しい。でも、あまり怖がられ過ぎるのも問題だ。折角の交流の場なのだから。


【いやぁ〜、笑っちゃうくらいやられたねぇ〜】


恐怖でブルブル震えるアメリカ勢の中から、そんな明るい声が聞こえてきた。

エメリーさんだ。彼女の後ろにはマーゴットさんも居た。


【序盤はいい感じに攻められたと思ったんだけど、まさかあんな距離までゴーレムを操れる選手がいるなんて思わなかったよ。ねぇ?マーゴット】

【はい。我々は油断していました。ベイカー氏から忠告を受けていましたが、彼女の意図を十分に理解出来ずにこの失態…いえ、理解出来ていたとしても、師匠には勝てませんでした】

【(高音)あの、マーゴットさん。本当に、その呼び方を貫くの?】


しれっと師匠(マスター)呼びを続けるマーゴットさん。蔵人が呆れながら確認すると、彼女は【当然です】と笑顔で頷く。

意思が強い…。


【君達レベルだったらきっと、アメリカのBCリーグでも通用すると思うんだよね】

【(高音)BCリーグ…ですか?それは…?】

【師匠。BCリーグとはですね】


蔵人が聞き返すと、マーゴットさんが息を弾ませて説明を始めた。


ファランクスには主に、2つのルールがある。18歳までが適用されるベーシックルールと、それ以上のアドバンスルールだ。

ベーシックルールは、我々が今までやってきたファランクスの事であり、アドバンスルールはより激しいルールに変わっているのだとか。

キルした選手のランクが高ければ、それだけ高得点を貰えたり。試合時間が長かったり。装備の規制が大幅に緩和されていたり。


このように、AD(アドバンス)BC(ベーシック)をより激しくした内容であり、アメリカではそれぞれのルールでプロリーグが設けられている。

12〜18歳のBCリーグと、19歳以上のADリーグ。特にADリーグで活躍することが、アメリカファランクス選手の憧れなのだとか。


【最終的な目標で言うと、ADリーグに所属して、オリンピックで世界一を目指すっていうのが一般的かな?】

【(高音)オリンピックですか…】


何でも、オリンピックの競技種目でも、ファランクスはBCとADの2つに分けられているらしい。元々はファランクスという大きな項目1つで纏められていたのだが、若い選手が出場しにくいという事で2つに別れたのだとか。

それ故に、アメリカのファランクス選手達は先ず、BCリーグチームへの入団を目指す。そこで活躍してADリーグにスカウト。ADリーグでも活躍し、何れはオリンピック選手に選ばれることを夢見ている。


【だから、BCリーグに所属するチームはみんな強豪揃いなんだけど、君達ならその中でも通用すると思うんだ】

【師匠達なら、BCリーグ1位も夢ではありません】

【(高音)買いかぶり過ぎですよ】


BCリーグとか、オリンピックとか。何とも話が飛躍し過ぎだ。

蔵人は、肩を(すく)めて首を振った。

だが、


【今の話、私も同感だ】


そんな声が、割り込んで来た。

ベイカーさんだ。

彼女の後ろには、通訳のソニアさんの姿も。


【素晴らしい試合だった、桜城の諸君。まさか、アメリカの精鋭でも勝てないなんて、夢にも思わなかった。エメリーが言った通り、君達には大きな可能性がある。どうだろうか?一度、君達の実力を試しに、アメリカに来てはみないか?】


両手を広げて誘ってくるベイカーさん。

彼女の前に、蔵人は進み出て立ち塞がる。

笑顔の彼女だが、その腹の内は分からないからね。


「(高音)ベイカーさん、それは以前お断りした筈です。私達は祖国を捨てるつもりはありません。魅力的なご提案とは思いますが…」

【ああ、安心してくれ。そのつもりはもう無いんだ、33番君】


うん?どういう事だろうか?

蔵人が聞く姿勢になると、ベイカーさんは小さくため息を吐いてから話し始めた。


【確かに、私はこの試合が始まるまで、君達をアメリカの選手に仕立て上げるつもりだった。それは、君達は希少な原石で、我が国であれば必ず相応しい宝石へと昇華させてやれると思ったからだ。だが、この試合を見て、それは違うと理解した。君達は既に、研磨されている。この日本という国で、我が国にはない特異な光を手に入れようとしている。私などが手を出さなくても、君達は光り輝く宝石となりつつあるのだ】

「(高音)ベイカーさん」


かなり過大な評価をされてしまったが、異能力先進国でなくとも才能は伸ばせると分かってくれたのはうれしい。


【だから私は、君達がより輝ける手助けをしたいと思った。より強い刺激を受ければ、君達の輝きはより強く、そして多彩に輝くだろう。どうだろうか?来月に開かれるクリスタルエッグに、君達桜城も参加してみないか?】

「(高音)クリスタルエッグ…」

【ああ】


クリスタルエッグカップ。4月20日のイースター復活祭に合わせて開かれる、BCリーグ大会の一つ。

本来なら、アメリカのBCリーグに登録されているチームしか参加することの出来ない大会なのだが、今回は特別枠を設けるとベイカーさんが断言する。


海外での試合とは、とても美味しい話だ。相手は異能力先進国のアメリカ。メアリーさんやマーゴットさんのような強敵と戦えば、ファランクス部にとっても自分にとっても大きな糧になるだろう。

更に、アグレスの事を考えても大きな利点だ。

大国で技巧主要論を広めることが出来れば、魔力量を追い求める風潮を抑制出来るかもしれない。日本でもゲームのシナリオが開始された今、魔力絶対主義が蔓延る他国では、更に大きな侵攻が予測される。それを止められるのは大きいし、大国アメリカが変われば他国も追従するだろう。そうなれば、世界が変わる。

ゲームのシナリオを、回避できる。


「(高音)是非…」


ベイカーさんの話を、2つ返事で受けようと思った蔵人。

でもそれは、背中をトントンと叩かれて止められた。

後ろを見ると、鶴海さんがこちらを見上げていて、チラリと視線を流した。彼女の視線の先には、鹿島部長の姿が。


ああ、しまった。自分の思いだけで突っ走ろうとしていた。

蔵人は反省する。そして、部長に頭を下げて一歩引いた。

ささ、前をどうぞ、部長。


「えっと、2つほど聞きたいのですが、良いですか?」

【ああ。私が答えられる範囲であればだが】

「では先ず、費用についてなんですけど…」


部長がおずおずと問いかけると、ベイカーさんは少し大げさに両手を上げて、笑みを浮かべる。


【勿論、こちらが全て負担しよう。桜城の選手とサポーター皆さんの渡航費、宿泊費、大会の参加費、現地で掛かった医療費、その他ファランクスの試合で必要となる諸経費全てを。必要とあれば、皆さんの親御さんの渡航費、宿泊費も推進委員会が持とう】


それは凄いな。選手とサポーターだけでも30人は下らない。その大人数が行動するとなると、うん千万という莫大な費用が掛かる筈だ。それをポンと出してしまう程に、桜城の価値を見出していると言う事だろうか?それとも、改心したと言うのは建前で、未だにアメリカ色に染めようとしているのか…。

どちらにせよ、出発前に大野さん達と相談しておいた方が良さそうだ。


「ありがとうございます、ベイカーさん。それで、もう1つなんですけど。BCリーグと言う事は、相手は18歳の選手もいると言う事ですよね?でしたら、我々も18歳までならば選手として出場しても良いという事でしょうか?」

【ああ、それは問題ない。18歳までであれば、誰をチームに入れても構わないよ】


おや?これってもしかして…。

蔵人が部長の方を見ると、彼女は薄っすらと笑みを浮かべていた。

やはりそうか。これは、熱い共闘になりそうだ。


「みんな、私はこの話を受けようと思うけど、良いかな?」

「「はい!」」

「良いぜ!次の相手はアメリカのプロか」

「やったろうやないか」


「朽木先生もよろしいですしょうか?」

「良いですよ~。部活での遠征ってことなので、皆さん休学届けだけは提出してくださいね?」


と言う事で、次の桜城ファランクス部は海外進出をすることとなった。

相手は大国アメリカの、それも18歳までのプロ。この前まで大学生に勝てるのかと心配していた部員達の表情は、それでも明るかった。

大学生、それにアメリカU15に勝ったことで、自信が付いたのだろう。


【ちょっと、貴女】


蔵人達が次の戦いに闘志を燃やしていると、可愛らしくも鋭い声がベイカーさんの後ろから飛んできた。次いで、白い影が彼女の後ろから姿を現す。

アイリーンさんだ。生きてたか。

彼女はムスッとした顔でこちらへと歩いて来て、鈴華の前で仁王立ちとなる。そして、鈴華に向けてビシッと指を突き出した。


【良いこと?こんな試合で、日本がアメリカに勝ったなんて思わないでよ。こんな急ごしらえのチームじゃ、私の実力が十分に発揮出来なかったんだから。私達のチームだったら、こんなチームなんて一瞬で医務室行きよ】

「何だよ、負け惜しみか?そう言うのは勝ってから言えって」

【何ですって!?】


鈴華が面倒くさそうに返すと、アイリーンさんは顔を赤らめて食らい付く。だが、直ぐにため息を吐いて元の表情に戻った。


【良いわ。クリスタルエッグで、アメリカの恐ろしさを思い知らせてあげる。私達のチーム、クリムゾンラビッツが、貴方達オージョーを必ず叩きのめすから、覚悟しなさいよ!】


アイリーンさんは一方的に息巻くと、ツンと上を向いて何処かへ行ってしまった。

あれだけ鈴華にやられたというのに、しぶといと言うか、タフな子だ。何処か、風早先輩を思い起こさせる。


【それじゃ、またクリスタルエッグで会おうね!】

「(高音)ええ。また」


エメリーさんが手を出してきて、試合の終わりとお別れの挨拶をする。

おっと、そう言えば、


「(高音)エメリーさん達が所属しているチームは、何処なんですか?」

【私達はガゼルホーンズに所属しているよ。テキサス州のチームなんだ】

【素早さと高い攻撃力を兼ね備えたチームです。NFL16位と、それなりの実績と実力があります】


マーゴットさんが静かに言い切る。余程自身があるのだろう。

彼女とも握手をする。


【師匠。次に会うまでに鍛え直してきます】


…硬く握られた手を放し、今度こそお別れをする。

彼女達と会うのは、4月の中旬。

それまでに、アグレスの方を何とかしないと…。


〈◆〉


桜城とアメリカとの試合は、儂の常識を根底から覆す戦いであった。

各役割はこうあるべき、このくらいの仕事が出来て当たり前。そんな狭い私見が瓦解するほどに、目の前の試合は次元違いのものであった。


アメリカの選手は、やはりレベルが高い。繰り出された異能力はどれも中学生の基準を遥かに超えるものばかりで、ランクが1つズレているのではと思ってしまった。

それを可能にしているのが、彼女達の着ている装備。アメリカ軍が持つ技術を取り入れた装備は、彼女達の潜在能力を極限まで引き出した。

勿論、素の技能も高いのだろうが、日本との大きな差はそこにある。


そのアメリカチームの中でも、特に目を引いたのは3人の選手。

アイリーン・バートン。

マーゴット・ネルソン。

エメリー・キャンベル。

彼女達の力は、装備だけの力ではない。彼女達が持つその才能が装備の性能と合わさって、学生とは一線を画す力量を見せつけた。


だが、彼女達すらも桜城は凌駕した。

重力を軽々と跳ね返した銀髪の8番。遠くまで土人形を操ったフルフェイスの90番。ベイルアウトを量産した金髪の9番。単独でタッチまでの道をこじ開けた栗毛の11番。

そして、アメリカの攻撃を1人で防ぎ切り、大鬼をねじ伏せた紫眼の黒騎士。


一騎当千の選手がこれだけ集まれば、学生異能力業界は暫くの間、桜城1強の時代となるだろう。

彼らの実力は最早、学生レベルでは無い。

そう思っているのは、儂だけでは無いようだ。


「どないしたんです?監督」


伏せていた顔を上げると、目を瞬かせる北小路の横顔が視界に入った。

周囲には既に、観客の姿は殆ど残っていなかった。試合が終わり、アメリカも桜城も帰路に着いた今、観客達は彼女達を見送くる為にと校門前に詰めかけていた。

ここに残っているのは、儂の様に視察に来ていた他校の人間と、


「見事ですね、黒騎士選手。やはり、レベルが違う。男の子とはいえ、是非とも推したい選手です」


内輪でコソコソと話し合う、中年の女性達だ。


「8番と9番も良かった。特に8番なんかは十分に通用すると、私は思うんだけど…」

「90番はどうです?あの子の妨害は、今の日本選手にはない強みになると…」


彼女達の服装は一般人のそれだが、その鋭い目付きは間違いなく目利きのスカウトマン。今は新年度が始まる前で、高校や大学のスカウトとは考え辛い。なので、あるとすればプロの方のスカウトだが…。

彼女達の必死さは、かなり近くの大会を見据えたもの。例えば、ビッグゲームとほぼ同時期に行われる大会、東京オリンピックとか…。


「あの人達が、どないしよったんです?」

「いや。何でもない。行くぞ」


儂は立ち上がり、北小路を連れて帰路に着いた。

途中で、桜城を見送る生徒の集団に追い付いてしまい、足踏みをする。観衆の合間から、桜城の白銀鎧がチラリと見えた。


「北小路。お前にもし、オリンピックの話が来たらどうする?」


その鎧を見て、儂はふっと思い、そんな質問を投げかけていた。


「オリンピック?選手の話やったです?」

「そうだ。もしもファランクスベーシック大会の選考会に呼ばれたら、お前なら行くか?」


突拍子もない質問に、北小路は呆けた表情を浮かべる。

だが、すぐに、


「そんな敷居の高いとこ、股が裂けても入れんですわ」


乾いた笑みを浮かべた。


〈◆〉


「しっかし、アメリカで試合かぁ」


大学から何とか脱出した蔵人達は、そのままバスに揺られて駅まで向かっていた。

魔力が回復するまでは乗せてもらおうかと考えていたら、鈴華が感慨深くそう呟いたのだった。

それに、桃花さんがうんうんと頷く。


「なんか、凄い話になってきたよね。今年こそビッグゲームで優勝しようって、ちょっと前まで言ってたのにさ」

「せやな。ファランクスの本番アメリカで、しかもプロ相手にするんやろ?ビッグゲームより何倍も難しい事なんとちゃうん?」


伏見さんが、少し不安そうに話を振ってくる。

それを鶴海さんが受け止めた。


「確かに、アメリカは異能力先進国で、ファランクスはメジャーなスポーツ。私達が出る事になったクリスタルエッグも、毎年多くの家族連れが見に来るくらい広い世代に愛されている大会って聞いてる。だから、ファランクスの競技人口は日本の比じゃないし、それだけ強い選手もいっぱい居ると思うわ」

「じゃあ、オイラ達じゃ負けちゃうって事?」


慶太が心配そうに眉を寄せ、それが桃花さんにも伝播(でんぱ)する。

不安そうにする3人。それに、鶴海さんは首を振った。


「そうとも限らないわ。だって、相手はプロとは言っても私達と同じ中高生だもの。それに、チームによっても強さは違うから、全く勝ち目がない訳じゃないと思うわ」

「それにね。私が持ってる情報では、クリスタルエッグはそこまで大きな大会じゃないみたいだよ」


若葉さんが、追加の情報を開示する。

BCリーグでは毎年、幾つも大会が開催されている。ローズクリスタルとか、シュガーゲームとか。

それらの大会で良い成績を残すと、リーグの成績が上がっていき、リーグ成績上位のチームだけがアメリカ最強チームを決める大会、スーパーゲームに参加できるようになる。

このスーパーゲームに参加する為に各チームは頑張っているのだが、クリスタルエッグはこの選考には入らないらしい。勿論、賞金も出るし名前も売れるが、スーパーゲームに繋がらない大会なので、トップ層のチームは参加しない傾向にあるそうだ。


「そうなんだ。良かったぁ」


桃花さんが安心して、くたぁっと背もたれに倒れ込む。その様子に「でも」と鶴海さんが付け足した。


「今の私達のまま挑戦しても、良い結果は残せない。だから、私達自身のレベルアップと、参加者の補強が必要になってくる」

「それが、部長の言った年齢制限ですね?」


蔵人の問いに、鶴海さんが頷く。

18歳までなら、中等部を卒業された海麗先輩も出場出来る。彼女がいれば、アメリカのプロとも渡り合えるだろう。

久しぶりの彼女との共闘。考えるだけでワクワクする。


「よく分からんけど、私達はアメリカに勝った。だから、次も勝つ!これでいいんじゃないか?」


祭月さんが、偉くシンプルに纏めてくれた。

それに、みんなも同意する。


「そうね。少なくとも、エメリー選手やアイリーン選手には勝てた。これは大きいわ」

「鈴ちゃんなんて、アイリーンさんを吹っ飛ばしたもんね」

「うん?ああ、そうだったな」


桃花さんが話を振ると、鈴華は何かを思い出した様に呟き、こちらへと体を寄せた。

そして、


「ありがとな、ボス。あの時、あたしを庇ってくれて」

「うん?何の話だ?」


蔵人が眉を寄せると、鈴華は目を細めてはにかみ、顔を近付けた。


「あたし程の美人を知らない…だったか?」

「…」


どうやら、あの時の買い言葉を翻訳したらしい。

これは、鶴海さんか?それとも若葉さんか?

蔵人が両者に視線を送っていると、鈴華が肩に手を乗せてきた。そして、


「あたしも、ボス以上に良い男を知らないぜ」


そう言って、魅惑的な笑みを浮かべた。

なるほど。確かに卑怯なセリフだ。

蔵人は、少しだけ反省した。

西風さんではありませんが、思っていない方向に話が進みだしましたね。

アメリカの大会。そして、何かを品定めするスカウトマン達…。


「オリンピックか」


…まだ、そうとは決まっていませんよ?

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― 新着の感想 ―
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