347話~邪魔~
圧倒的な実力差を見せつけたアメリカ勢。その立役者は、ベイカーさんが連れてきたプロ選手の2人、エメリーさんとマーゴットさん。
彼女達の無双っぷりを写真に収めた若葉さんが、到着した桜城の面々に語り聞かせていた。
「ってな感じで、豊国を相手にアメリカ側が圧勝。あと1分も試合が続いていたらパーフェクトだったよ」
「本当かよ?それ」
鈴華は眉を寄せて若葉さんを見上げた後、向こうの方で行われている試合に視線を向けた。そこでは、早くもアメリカとイギリスの試合が行われていた。
状況は、少しだけアメリカがリードしているが、本当に僅かだ。フィールドで言えば、寧ろイギリスが押し込んでいた。
勿論、エメリーさん達は居ない。だから余計に、鈴華は信じられないでいた。
そんな鈴華の前で、部長が肩を竦める。
「手の内を見せたくないんでしょ?仕方ないわ」
なるべく切り札は温存し、来たる決戦に備える。故に、3人目も姿を現していないのだろうと部長は推測していた。
「だから、こちらもスタメンを変えるわ。鈴華、早紀、それに祭月はアメリカ戦まで控えに回って」
「なんだとっ!」
憤慨する祭月さん。
だが、部長の考えは最もだった。
今回の練習試合はリーグ戦。4校だけだが、5試合もしなければならず、自然と試合の間隔が短くなる。そうなると、Bランクは魔力回復の時間が間に合わなくなる。
それ故に、主力であるBランクは控えにして、アメリカ戦に備えるのだ。
「それに巻ちゃんも、一部の技を使用禁止にさせて」
具体的には、シールドカッターやホーネット等の飛び道具と、ミラブレイク等の必殺技を禁止された。
基本的には、ガードに集中して欲しいとの事。
これは、手の内を見せないと言う意味もあるが、どちらかと言うと他の選手を教育したいからだろう。
折角の交流戦。ただ勝利するよりも大事な事がある。
【おぉおおお!】
蔵人達のミーティング中に、マーゴットさんの雄叫びが割り込んでくる。
見ると、イギリス前線を蹴散らす彼女の姿があった。
エメリーさんの姿はない。プロは全員、最後まで温存するのかと思っていたが、彼女だけ投入したみたいだ。
エメリーさんはBランクで、マーゴットさんはCランクだからかな?
瞬く間に、前線を押し上げるマーゴットさん。アメリカ側の勢いも復活している。
勇敢な戦士が1人居るだけで、戦場は大きく動くものだ。
「なんや、あれ」
「すげぇデカイのが、次々と人間を弾き飛ばしてるぞ」
あれには鈴華達も驚きを隠せない。先輩達も「流石はアメリカ」とか「都大会の時の蔵人君みたい」と漏らしている。
う〜ん。傍から見ていると、俺もあんな感じなのか…。
心の中で、気を付けようと思う蔵人だった。
それから直ぐに、桜城の試合となった。
相手は豊国のライバル校、岡崎産業。ライバルだけあって、豊国と似たような戦力であった。
だが、こちらも飛車角落ちの状態。前回の戦い方は出来ないので、試合は拮抗していた。
開戦早々、相手からの遠距離攻撃が激しくシールドを叩く。こちらも従来の桜城スタイルで戦っているので、両軍が激しい撃ち合いとなっているのだ。
絶え間なく続く岡崎の攻撃に、シールドの損耗が激しい。ランパートを使いたい所だが、手の内をなるべく見せたくないから我慢だ。
何せ、この試合はアメリカも見ているから。
そのアメリカだが、こいつらもなかなかに厄介だった。
【死ぬほどつまんないんですけど、この試合】
【だよねー。レベル低すぎ。さっきから撃ち合いしかしてないもん】
【やっぱ弱小国だよね〜。見る価値ないし、ちょっと遊びに行こうよ】
【ダメだよ。このオージョーの試合は見なさいって、ベイカーさんが言ってたじゃん】
【うわっ。これがオージョーなの?こんな雑魚と戦う為に、あたしら呼ばれたの?マジで勘弁して欲しいんだけど】
【あれじゃない?日本人に、アメリカの偉大さを見せつける為じゃない?今年のオリンピックに向けてさ】
【ああ、そういう事ね。じゃあ、早いとこ潰して観光しようよ】
観客席で、好き勝手に囀るアメリカの小鳥達。気にしたら負けだと分かっていても、どうしても集中力を削がれてしまう。
それが余計に、魔力の損耗を早くしている気がする。
これを、鈴華達が聞いていない事だけが救いだ。
「巻ちゃん、大丈夫?」
蔵人が眉を寄せていると、鶴海さんが心配して声を掛けてくれた。
目だけしか出ていない兜なのに、彼女は直ぐに察してくれる。それに、蔵人は少しだけ精神が回復した気がする。
「(高音)ええ、ちょっとキツいわね。前半戦は大丈夫だけど、このまま後半戦も同じ調子だと、魔力が持たないわ」
「なら、オイラが手伝うよ!」
蔵人背中を、慶太の手が支えた。途端に、彼の魔力が流れ込んできた。
これなら、1時間は耐えられるだろう。
だが…。
「(高音)ありがたいけど。シンクロをアメリカに見せてしまうのは、ちょっと不味いのよ」
盾にソイルキネシスの特性が現れだしているのを見て、蔵人は大きく首を振った。
こんなのをベイカーさんに見せたら、今度こそ強制的にアメリカへ連れて帰ろうとするかもしれない。かの国が何処まで技術を発展させているか分からないが、魔力絶対主義が未だに蔓延していると聞いているから、シンクロ魔法の技術は遅れていると思う。
アメリカの異能力を向上させる特使としては、是が非でも得たい情報だろう。
蔵人が首を振るのを見て、慶太が首を45°曲げる。
「でも、そしたらどうするの?くーちゃん、魔力無くなっちゃうよ?」
「そうね。だったら、全面に出している盾を、一部開けて配置しましょう?相手の攻撃を受け流して、盾の延命を図るのよ」
そう提案してくれた鶴海さんは、早速部隊を再配置し、一部の盾を消しても問題無いように采配してくれた。
加えて、
「クマちゃんも、シンクロはダメだけど、盾の表面を土で覆ってちょうだい。消耗がかなり軽減されると思うから」
「了解クマー!」
慶太の土が盾に付与されると、土が衝撃を吸収してくれて、盾の損耗が驚くほど軽減された。
これなら、終盤まで戦えるぞ。
蔵人が安堵すると、後ろで鶴海さんが声を張り上げる。
「みんな!巻ちゃんが相手の弾幕に苦しんでいるわ!彼女を守る為にも、全力で攻撃して!」
「マジで!?巻ちゃんを助けないと!」
「みんな、死ぬ気でやるよ!」
「「「おおっ!!」」」
先輩達にも火が付き、桜城側の弾幕が濃くなる。
「うわっ!桜城の攻撃が激しくなった!」
「防御しっかり!」
その分、岡崎側の攻撃が大幅に減った。
先輩達の攻撃に、岡崎は防御を固めるしかなかった。
そこを、先輩達は見逃さない。
「側面に周り込め!」
「左翼の敵が崩れそうだよ!」
「よしっ!確実にベイルアウト取るぞ!」
「「おおっ!」」
先輩達が積極的に攻め立て、相手前線を大きく後退させる。
鈴華達が居ないからどうなるかと思った試合だったが、従来の桜城ファランクス部らしさが出始めた。
麗子部長がやって来た事が、しっかりと息づいていた。
それからも、試合は桜城優勢で進んだ。
後半戦では、サーミン先輩のステルスタッチも決まり、試合結果は桜城領域71%の大勝であった。
桃花さんのブリッツや、慶太のゴーレムアタックも使わずに、純粋に先輩達の力で勝ち取った勝利だった。
ただ、岡崎で全力を使い過ぎてしまったからか、イギリスのベルファストとの試合は苦しい試合展開となった。
遠距離役の先輩達が魔力切れとなり、戦線が一部崩壊。そのから侵入されてファーストタッチを決めれてしまった。
こちらも、サーミン先輩のステルスタッチを決めたのだが、ファーストとセカンドの点数差を最後まで詰め切る事が出来ず、ベルファスト53%の桜城47%で敗北となってしまった。
「くそっ!俺がもう1発、タッチに成功してたら…」
「無理だよレオン君。相手はかなり警戒してたからさ」
「私達がもっと、前に出なくちゃいけなかったんだよ」
試合が終わったフィールドで、先輩達が反省会を開いていた。
悔しそうだが、それ程悪い試合ではなかった。相手のレベルも高かったし、中学生に負けるかと言う気迫も凄かった。それに、真っ向から挑んだ先輩達は立派である。
だが、蔵人は褒めたりしない。彼らは今も、成長しているから。悔しさがバネになって、確実に、次のステージへと押し上げてくれる。その段階にいる。
鹿島部長の思案が、ドンピシャでハマっていた。
蔵人は嬉しくて、彼らをそっと見守っていた。
そんな時、
【ねぇ。傷の舐め合いは他所でやってくれない?見ていて気分が悪いわ】
頭上から、そんな声が降ってきた。
見上げると、長い銀髪をフワフワと漂わせた少女が、空中を浮かんでいた。
リビテーションか?
そう当たりを付けていると、その少女は地面に降りて、先輩達を冷たい目で見た。
【イギリスを相手に、随分とボロボロね。そんな実力で私達と試合しようとするなんて、貴女達マゾヒストなの?】
おいおい。観客席で野次を飛ばすだけに飽き足らず、場外乱闘までしようってか?
蔵人は慌てて先輩達の前に立ち、銀髪少女と対峙する。
【…何かしら?フルフェイスなんて被っちゃって、有名人のつもり?それとも、その被り物に私のサインをして欲しいの?それなら、してあげる。こんな辺境の地にまで私の名が広まっているなんて、嬉しいもの】
少女はそう言うと、ポシェットからペンを取り出してクルッと回した。
言動から、彼女が3人目のプロ選手の様だ。生憎と、名前までは知らないけど。
蔵人は小さく頭を下げる。
【(高音)すみません。お名前は知りませんが、貴女達と戦える事を楽しみにしています。是非、全力で戦って頂きたいです】
そう言ったのだが、少女は蔵人の言葉を聞いていなかったのか、下げたヘルメットにキュッキュとペンを走らせる。
うん。きっとサインしてくれているのだ。これ、学校の備品なんだけどね。
ため息を吐きたい所をグッと堪え、蔵人は頭を上げる。すると、誰かの足音が近づいて来た。
「何やってんだ!てめぇ!」
銀髪を振り回しながら駆け寄って来たのは、鈴華だった。
そのまま少女に突っ込みそうな勢いだったので、蔵人はその前に立ち、彼女を受け止めた。
「おい、ボス!大丈夫か!?なんか変な事されてたろ?」
「(高音)大丈夫よ。彼女が勘違いして、サインを書いただけだから」
「サインだと!?」
鈴華が蔵人の頭を鷲掴み、その場所を見る。
そして、それを書いた少女を睨みつける。
「おいてめぇ!ボスに何してんだよ。ボスはあたしんだぞ!」
「(高音)鈴華。私はプリンじゃないわ。名前を書いたからって、その人の所有物になる訳じゃないから」
全く、勢いに任せて何を言っているんだか。
蔵人は呆れながらも、少し嬉しくも思った。
だが、その背中に戸惑う少女の声が掛かる
【何なの?貴女。いきなり怒鳴り込んできて】
蔵人が振り向くと、そこには冷たい目の少女が、鈴華を非難がましく見上げていた。
【日本は治安だけは良いって聞いていたのに、こんな野蛮人もいるなんて。やっぱり、異能力発展途上国なのね。ご飯も塩辛いし、街並みも古臭いし。ホント、なんでこんな国に来ちゃったのかしら…】
「何言ってるか分かんねぇけど、喧嘩売ってんのは分かるぜ」
待て待て。拳を摩るな!
蔵人は再び鈴華を背中で押さえながら、少女に向き合う。
【(高音)彼女は私を心配しただけです。悪気はありません。驚かせてしまってすみません】
【良いわ、許してあげる。こんな醜い猿に何を言われても、高貴な私は何とも思わないわ】
ふむ。醜い猿ねぇ。
蔵人は兜の中で頬を吊り上げる。
【(高音)あら?アメリカ人って、随分と特異な美的センスをお持ちですね】
【…何が言いたいの?フルフェイス】
【(高音)ここにいる鈴華程の美女を、私は知りません。だから私は、貴女が鈴華を罵倒出来る事がとても不思議です】
【なんですって!貴女、この私よりも、その猿の方が美人だって言いたいワケ!?】
少女は顔を赤くし、小さな鼻を膨らませる。
だが、少しずつ呼吸を整えて、再び冷徹な目でこちらを射抜いた。
【良いわ、貴女達に教えて上げる。私の強さを。この私を侮辱した事を、後悔させてあげる!】
そう言い放つと、彼女はふわりと浮き上がり、そのまま飛んで行ってしまった。
何処となく、風早先輩に似ている気がするぞ?
「なぁ、ボス」
蔵人が飛び去った少女を目で追っていると、鈴華が抱きついて聞いてきた。
「今、あいつと何を話していたんだ?」
「(高音)うん?えっとね。色々あって、本気で勝負しましょうって事になったわ」
「その色々の部分に、何があったんだよ?」
「(高音)…一言では、難しいわ」
「ふーん」
鈴華は蔵人から離れて、肩を回す。
「とにかく、次はアメリカ戦だな!ボスを穢したアイツらを、ボコボコにしてやるぜ!」
穢されてないぞ?アルコールで拭けば落ちるからな。
それから程なくして、蔵人達はアメリカ勢と対峙していた。
相手はスタメンにエメリーさん達を入れ込んできた。先程の少女も、盾役の後ろでスタンバイしている。
後から若葉さんに聞いたが、彼女も世界ランカーらしい。
Bランク世界ランキング45位。アイリーン・バートン。エメリーさん達とは別のチームに所属しているが、立派なプロらしい。
ちょっとプライドが高かったのも、プロで世界ランカーだったからなのかも。
同じ状況のエメリーさんがフレンドリーだから、人間性もあるとは思うが。
性格は残念なアイリーンさんだが、実力は確からしい。
彼女を見たアメリカのチームメイト達は、より一層湧きたっている。
【エメリーさん達だけじゃなくて、アイリーンさんともご一緒出来るなんて、めっちゃ付いてる!】
【相手が雑魚だから、一瞬で終わっちゃうのが悲しいよね】
【あはは。仕方ないよ。この3人とのドリームチームを前に、勝てるチームなんてアメリカでもなかなか無いよ】
【きっとヘイジョーは、開始1分で消し飛ぶんじゃない?】
【違う違う、サリー。ヘイジョーじゃなくて、オージョー】
【あっ、そっか】
【あと、1分じゃなくて10秒ね】
【間違いないね!】
【【あははは!】】
相変わらず、尊大な態度だ。
でも、それだけ実力がある証拠。
少なくとも、こちらに向けてどっしり構えるマーゴットさんと、その後ろで手を振っているエメリーさんの2人は侮れない。
蔵人も構えると、目の前に豊国の監督さんが現れる。
彼女が、今試合の審判だ。
「これより!東京特区桜坂聖城学園と、アメリカU15特別編成チームとの試合を執り行います!」
簡単な説明をした後、審判はフラッグを下げる。
そして、一気に振り上げた。
「試合、開始!」
「(高音)シールド・ファランクス!」
その合図と同時に、蔵人はシールドを生成。自軍の前に並び立てる。
普段と違い、7枚だけの生成だが、その分1枚1枚をランパート仕立てにしている。
【うわっ!もうシールド展開してるよ!】
【早すぎでしょ!?試合開始前から準備してたんじゃないの?反則よ!】
【まぁ、それくらいいいんじゃない?どうせすぐ、エメリーさんに壊されるんだし】
非難と嘲笑を向けてくるアメリカの一般選手達。
だが、蔵人はそれを無視して構える。彼女達が言った様に、エメリーさんがこちらを狙っているから。
【行くよ、沖縄の英雄。私の射撃、しっかり受け取ってね!】
マーゴットさんの頭上に乗せた重機関銃が、こちらを向く。
うむ。狙いは術者か。
ならば、
【グルーピング!】
「(高音)二重奏!」
狙われた場所だけ、ランパートを追設する。そこに、無数の火炎弾が襲来した。
その威力に盾が押され、こちらへと倒れかかる。まるで強風の中で傘を構えているみたいだ。盾の損耗はそれ程だが、気を抜くと盾がひっくり返りそうだ。
蔵人は、盾に意識を集中して立て直す。
それを見て、またアメリカ勢が騒ぐ。
【えっ?なんか、エメリーさんの攻撃が防がれてる?】
【Aランクのシールダー?でも、出てるのはクリスタルシールドだよね?】
【どうなってるの?イリュージョン?】
驚きで動きを止める一般選手達。だが、プロはそんな甘くなかった。
【これこれ!面白くなって来たよ!じゃあ、こいつも耐えて見せてよ!超集中砲火!】
エメリーさんの弾幕が、盾の中央に集まり出した。すると、ランパートですら削れ始めた。
ただ強力な弾幕を張るだけでなく、寸分違わぬ精密射撃まで繰り出せるなんて。
流石はプロ。ならば…。
蔵人も集中する。盾を部分合成し、攻撃を受けている箇所に魔力を集中する。すると、周囲のランパートは鈍色になり、集中攻撃を受ける中央は白銀色に輝いた。
盾の損耗が、止まった。
【うっそ!エメリーさんのブルズアイが止められた?!】
【ヤバッ!】
【ほら、私達も加勢するよ!みんな、構えて!】
【喰らえ、アジア人ども!】
漸く、一般選手達からも砲撃が始まる。だが、彼女達からのは普通の弾幕なので、ランパートの表面を焦がす程度。
【硬っ!なに、この盾!?】
【Bランクの攻撃にビクともしないよ。どうなってるの?】
【凄いシールダーが居るとか、ベイカーさん言ってたけど、これの事だったの?】
焦る一般選手。この程度の実力なら、彼女達は無視して良い。彼女に、集中するんだ。
蔵人はエメリーさんの動きに注視する。狙いを変えてきても対応できるようにと。
だが、そんな時、
「ほな、そろそろ行ってき…あん?なんや、こっちに来よるで?」
伏見さんの声で見上げてみると、少し小柄な重装アーマーが中立地帯を横切っていた。手には細身のレイピア、頭部装甲の襟足からは銀髪が見えている。
アイリーンさんだ。
彼女は滑る様に桜城の前線に近付き、ランパートの前に立った。そのまま、手を前に突き出すと、彼女の目の前に設したランパートが数cm浮き上がった。
ふむ。リビテーションで浮かせて、盾を取り払おうとしているのか。
そう判断した蔵人は、浮いた盾を操作して、再び地面に押し込む。
Aランクの河崎選手であれば投げ飛ばされたかもしれないが、Bランクの彼女では持ち上げるのも一苦労の様子。
だと、思ったが。
【邪魔】
その一言と共に、アイリーンさんはランパートを蹴り飛ばした。
しっかりと地面に押し付けたランパートだったが、こちらへ勢いよく吹っ飛んできた。
なにっ!
蔵人は驚きながらも、腕をクロスさせて盾を受け止める。
そこに、ランパートが激突。衝撃で後ろへと吹っ飛ばされた。
二転三転、視界が激しく切り替わる。そして、漸く止まった時、そこにアイリーンさんの姿はなかった。
何処に行った?
蔵人が周囲を見回すと、彼女の姿は桜城領域の深部にあった。
もう、円柱まで10mを切る距離。
なんて速さだ。エアロ系並みに素早いぞ。
「迎撃を!」
「私が行く!」
鶴海さんの指示に、西園寺先輩が円柱から手を離して前に出る。そして、迫るアイリーンさんの前で目を光らせた。
「この目を見なさ」
【うるさい】
その一言で、西園寺先輩は沈んだ。土下座でもするように、地面に這いつくばった。
プライドの高い先輩は、立ち上がろうと腕を突っ伏す。だが、腕が振るえるだけで立ち上がれない。
そんな彼女の横を、アイリーンさんが滑るように通り過ぎていく。
そして、
【はい。先ずは1回目】
『ファーストタッチ!アメリカU15!1番、アイリーン選手!』
アイリーンさんの手が、赤い円柱に触れた。
コールがフィールドを駆け抜け、観客席から黄色い声援が彼女に降りかかる。
それを、アイリーンさんは気に留める事もなく、空高く浮き上がって自軍領へと戻る。
彼女の姿は、まるで月面を空中散歩しているみたいだった。
地球の重力に囚われない動き。
グラビキネシス。
話だけは耳にした最上位種が、蔵人達の頭上を通過していった。
3人目はグラビキネシス。最上位種の異能力者ですか。
「重力を操るキャラは、強いイメージがあるな」
地球上の誰もが影響される力ですからね。それに囚われないだけでも、大きなアドバンテージです。
現に、ファーストタッチを取られてしまいましたし…。
「どうなるかだな」