346話~やっほー!みんな~
若葉さんが提案してくれたお陰で、林さんのゲーム知識をどう生かすかが決まった蔵人は、かなり心が軽くなった。自分と林さんの安全を取るか、世界の平和を取るか。そんなセカイ系問題が一発で解決しそうである。
とは言え、これが上手く機能するかは未知数。何度かは現場に足を運び、被害が出ないように初期対応しなければ。
まぁ、次の襲撃は4月に入ってからみたいなので、暫くは部活に専念出来る。なにせ、もうすぐ交流試合が行われるのだから。
「ほんま、楽しみやな。アメリカさんとの試合」
「この私の爆撃で、全員吹っ飛ばしてやるぞ!」
「そんなに簡単な相手じゃないわよ?」
春休み中の訓練棟。
練習後の清掃で残った1年生達の中で、伏見さん達のやる気に満ちた声が弾み、前のめりな彼女達を、鶴海さんが優しく引き留める。
「アメリカはファランクスが盛んで、とても大きい大会が幾つもあるわ。休日は、贔屓にしているファランクスチームの応援に行くのが定番だし、シーズン中はシングルよりも人気が出る異能力戦なの。だから、それだけ選手層も厚いし、技術や装備も日本よりも高水準なのよ」
「ええ〜。なんか僕、怖くなってきたよぉ…」
桃花さんが眉を下げて縮こまった。
まぁ、その気持ちは分かる。相手はタダでさえ格上の大国アメリカ。その上、向こうはファランクスの本番となれば、試合が成り立たないかもと不安にもなろう。
「大丈夫だ、モモ。こっちにはボスが居る。勿論、あたしもな」
「鈴ちゃん…。そ、そうだよね?」
勇ましく笑う鈴華に、桃花さんも少し元気が戻った様子。
「ああ、そうだ。あたしとボスが組めば、どんな相手だって楽勝だ!」
「ちょっと待ちぃや!カシラと組んで強いんわ、ウチの方やで!」
おっと。鈴華に伏見さんが食い付いたぞ?
それに、鈴華は胸を張って首を振る。
「いいや、あたしだね。ボスの魔力があれば、あたしもボスの技が使えるんだ」
「そんなんせんでも、ウチはこの前の試合、5人もベイルアウトさせたったで」
「私もだ!沖縄で大人を何人もベイルアウトさせたぞ!蔵人の盾を爆発してな!」
祭月さんまで入ってきて、マウント合戦がカオスになってきてしまった。これは、止めた方がいいかな?
蔵人が迷っていると、3人の間に鶴海さんが入った。
「アメリカチームは一筋縄では行かないわ。磁力に爆発に急襲。私達が持つ全ての力を駆使して、大国の壁を崩すべきよ」
「おおっ!そうだな!私の爆発を見せつけてやるぞ!」
「大国がなんぼのもんや!」
「あたしらを舐めた事、後悔させてやるぜ!」
うん。流石は鶴海さん。みんなの心に灯った炎を、上手く燃焼させた。
そう、蔵人が安心していると、
鶴海さんは、その炎を煽る。
「だからみんな、安心して前に出てちょうだい。私と蔵人ちゃんが”力を合わせて”貴女達をサポートするわ」
「うん?それは、どういう意味だ?」
意味深な部分を強調する鶴海さんに、鈴華が眉を寄せる。
それに、鶴海さんは優しく微笑み返す。
「特に、深い意味は無いわ」
「いや、ぜってぇ何かあるだろ!」
鶴海さん。やっぱり貴女、ティアマトの記憶が…?
詰め寄る鈴華に涼しい顔を浮かべる鶴見さんを見て、蔵人はコメカミを押さえた。
熱く燃え上がる桜城ファランクス部。その炎は交流試合当日になっても、メラメラと燃えていた。
名古屋特区、豊田国際大学。
その第3フィールドでは今、各校の選手達が準備運動を行っていた。
時刻は午前10時前。
前回同様、今回も蔵人達は蒼龍で一足早く到着しており、観客席で他の桜城選手達を待ちながら、大学生の練習風景を眺めていた。
「豊国!声出して!」
「一年、集合!駆け足!」
「岡崎も負けてらんないよ!しっかり動いて!」
準備運動だというのに、既に競り合いが始まっている。特に、ホスト校である豊国と、そのライバルである岡崎産業大学の2校がバチバチしていた。互いに互いの力を見せつける様に、大きな声でキビキビと動いていた。
だが、この大声は決して、両校がライバルというだけではないだろう。
蔵人は、他の学校に視線を向ける。そこには、レベルの違う練習を繰り返す選手達の姿があった。
その選手団の一つは、イギリスの北アイルランド特区から来たベルファスト大学。
豊国とは姉妹校の関係で、共同研究や交換留学なども盛んであり、こうして各スポーツの親善試合なども定期的に開いているのだとか。
ファランクスで言うと、イギリスも日本と一緒で、それ程盛んではないと聞く。だが、複雑な連係プレーを難なくこなしている選手達の姿を見ると、彼女達の技術力が高いと分かる。
今回の交流戦の為に、選りすぐりの選手を用意したみたいだ。
イギリスを本気にさせているのは、もう一つの選手団の存在がある。
【なんかさー。レベル低くない?】
【分かるぅー。小学生の運動会かな?って思っちゃう】
【これで大学生って、日本もイギリスも、所詮はちっぽけな島国だね】
【言えてるぅ~】
【【アハハハッ!】】
早口な英語で囀る金髪の集団は、言わずと知れたアメリカ勢。ベイカーさんが連れて来た、もう1つの海外出場チームだ。
U15と言うから、どんな人達が来るのかと思っていたが、予想以上に向こうはデカイ。殆どの選手が、日本の大学生とあまり変わらない体格をしている。中には、米田さん並の巨体を揺らす選手もいた。
確かに彼女達を見ていると、日本人の年齢を外見だけで判断するのは難しい。U15と聞かされていなければ、アメリカ勢を大学生と勘違いしただろう。
そして、彼女達もそれなりの実力者だと分かる。他者に難癖を付けながらも、練習はしっかり行っている。大学生達が汗水たらして走っているのに、アメリカの選手達は走る合間に笑い声を上げていた。
基礎体力が違うのか。はたまた、装備の違いか。
どちらにしても、手強い相手になるだろう。
「失礼する」
蔵人が、フィールドで笑い声を上げるアメリカ勢に鋭い視線を向けていると、渋い声が後ろから聞こえた。
見ると、初老の女性と高校生くらいの少女が立っていた。女性が誰だか分からないが、少女の方は見たことがある。ビッグゲームの表彰台。そこで、大会運営から差し出されたMVP賞を突き返した選手。
獅子王の北小路選手だ。
蔵人は急いで立ち上がり、彼女達と対峙する。
「(高音)私達に何か御用でしょうか?」
周囲の観客席は、空席が目立っている。そうであるのに、こちらまで来たということは、何かあるのだろう。
そう判断したが、どうやら正しかったようだ。
女性が、大きく頷いた。
「ああ。君達が桜城の選手と見てな。挨拶に出向いたのだ」
女性はそう言うと、手をすっと前に差し出してきた。
「私は進藤。大阪の獅子吼天王寺で、ファランクス部の監督をしている者だ」
「(高音)巻島と申します。桜城ファランクス部の副部長を仰せつかっております」
蔵人は女性と握手を交わす。すると、進藤監督は鋭かった目を更に細めた。
「…この感覚は、変身か?まさか、君が…」
目を大きく見開く女性。
ああ、こりゃバレたな。
まさか握手しただけで見抜かれるとは思っていなかった蔵人は、半分諦めながら握手した手を離す。
だが、進藤監督はそれ以上言及せず、彼女の横に立つ北小路選手の肩に手を乗せた。
「こっちは北小路。獅子王の元キャプテンで、今日は桜城とアメリカの試合を見学しに来た」
「北小路です。よろしゅうお頼みします」
なんと、天下の獅子王が、態々名古屋まで偵察に来るのか。
北小路選手とも握手を交わしながら、蔵人は驚きに目を瞬かせる。
そう言えば、前回ベイカーさんが帰国した時、約束をドタキャンされたのは天王寺大学だった。そこから、進藤監督に情報が流れたのかも。
「(高音)ビッグゲーム1位の方々にご覧いただくなんて、恐縮です。恥ずかしくない試合にしたいと思います」
「そう謙遜する必要はない。昨年のビッグゲームは、我々のくじ運が良かっただけだ。是非、君達の戦いを学ばせてもらいたいと思っている」
ぐっ…。この人、隙がない。アメリカ勢の傲慢さを、少しは見習って欲しい。
蔵人が笑顔の裏で悔しがっていると、進藤監督は周囲を見回した後、難しい顔を向けて来た。
「その…あまり詳しくは言えんが、君達に注目しているのは我々だけではない。であるから…今日は是非、君達の全力を見せつけて欲しい」
「(高音)…それは、つまり…」
他校も見に来ている?いや、それなら、手の内を全て見せろと迫っている事になる。この謙虚な監督が、それはおかしい。
ならば、見に来たと言うのは、何かのスカウトや選考者か。シングルの招待枠みたいな物が、ビッグゲームでもあるのか?そうであれば、”見せつけろ”の発言も納得出来る。
「では、失礼する」
「頑張ったってな」
蔵人が進藤監督の真意を見出そうとしていると、2人は観客席の最前列へと降りていった。
なんだか、思ったよりも大事なイベントになりそうだ。
それから程なくして、交流試合が始まった。
各校が総当りのリーグ戦だが、桜城と豊国の試合は省かれる。先月やったばかりだし、大敗するのが目に見えているから、やりたくないのだろう。
という事で、蔵人達の出番はまだ先。桜城の本隊も到着していないので、蔵人達は変わらず、観客席で観戦を続けた。
目の前では、豊国とアメリカの試合が繰り広げられている。
アメリカ側の装備は厳しく、つくば中のグレイトシリーズを彷彿とさせる。アメリカは兵器開発が盛んと聞いていたが、つくばの最新技術が、向こうでは標準レベルの様だ。
確かに彼女達の装備を見ていると、日本のプロテクターは玩具の様に見えてしまう。
試合は現在、前半戦5分が経過したところ。状況は、アメリカ領域が55%で、円柱役を多く投入しているアメリカ側がリードしていた。
とは言え、両校の前線は拮抗しており、いい勝負の様に見える。あれだけ失笑していたアメリカ勢だが、そこまで実力は無いのか…。
蔵人は、小さく息を吐く。
そんな時、
【あっ、やっぱりそうだ!】
後ろで、声が弾けた。
英語だ。
振り返ると、赤いショートヘアを揺らした女の子が、こちらを指さして興奮している。その女の子の後ろには、長身の女性が聳え立っていた。
この大柄な人は見覚えがある。アメリカ勢の1人だ。
【ねぇねぇ、君達!先週、沖縄に居なかった?坂を駆け上るお祭りに参加してたでしょ?】
「わわっ!なに!?急にどうしたの?このお姉さん」
蔵人達の席に突撃してきた赤髪の女の子に、桃花さんが驚いて転げそうになる。それを、隣席の若葉さんが支えていた。
【エメリー。いきなり何をしているんですか。お相手が驚いていますよ】
大柄な女性が赤髪のエメリーさんに追いつき、彼女の両脇を抱えて持ち上げた。
その仕草や落ち着いた喋り方は、まるでお父さんみたいだ。
そのお父さんに、エメリーさんが不貞腐れた顔を向ける。
【堅物マーゴットめ。興味がある事はどんどん突き進めって、アマンダさんも言ってたじゃん】
【限度があります。日本人は特に臆病な国民性なのですから、適度に距離を保たねばなりません】
【私にとっては、これが適度な距離なんだよぉ。近づかないと、お話も出来ないじゃん】
エメリーさんはひょいっと身体を拗らせて、マーゴットさんの手から逃れる。そして、こちらに向かって手を振った。
【やっほー!みんな。私はエメリー。エメリー・キャンベル。ノースカロライナ出身で、今はヒューストン中学に通ってるよ。っで、こっちはチームメイトのマーゴット!ほら、マーゴット】
【マーゴット・ネルソンです。よろしくお願いします】
マーゴットさんが深々と頭を下げるので、蔵人も立ち上がり、頭を下げる。
【(高音)初めまして、エメリーさん。マーゴットさん。巻島です。立ち話は疲れますので、座りませんか?】
そう言って、蔵人は隣の席を進める。
試合も始まり、観客も増えているからね。特にマーゴットさんは体が大きいから、後ろの人達が迷惑そうな顔をしている。
【わーい!ありがと、マッキー】
蔵人が進めるやいなや、エメリーさんは風の如く蔵人の横に座り、こちらを興味深げに見詰めてきた。
随分と、パーソナルスペースが狭い娘だな。もう、あだ名まで付けるし。だが、あまりくっ付かないでくれよ?過剰な接触をすれば、前に座る橙子さんから魔力弾が飛んでくるぞ?
【ねぇねぇ、それでさ。君達は沖縄に居たよね?5年振りに凄いことしたって、みんなでお祝いしてたよね?】
【(高音)デージエイサーの事ですね?はい。確かに参加していました。でも、それを見たという事は、貴女方も沖縄に?】
【Yes!なかなか日本なんか来ないからさ、交流試合を理由に、かなり早めに来日して観光地巡りしてたんだ】
まぁ、確かに。アメリカと日本はかなり離れている。史実では同盟国だから来日客も多いけど、この世界ではただ極東の島国。来日する機会は少ないかも。
でも、やはり彼女達は交流試合に招かれているみたいだ。目の前で同じチームメイトが戦っているのに、こんな場所に居ていいのだろうか?
そう蔵人が疑問を投げると、エメリーさんは【違う、違う】と手を振った。
【彼女達はアシュビル中学校のファランクス部。私達とは違うチームだよ】
うん?どういうことだ?
訳が分からず眉を顰める蔵人。それに、マーゴットさんが説明してくれた。
曰く、アメリカのプロとして活躍している選手は、エメリーさん達3人だけであり、今目の前で戦っているアシュビル中学選手達は一般の選手らしい。
勿論、彼女達も州大会で優勝するくらいの実力だが、その実力で買われたと言うよりは、アマンダさんの出身校という面が強いらしい。
【ですので、彼女達は臨時で組んだチームメイトなのです。ベイカー氏から命令が下されない限り、我々が参戦することはありません】
【私らはリーサルウェポンって事。なんでも、オージョーって強いチームと戦うために呼ばれたんだって】
つまり、彼女達がベイカーさんの刺客という事。
蔵人が漸く納得出来た時、目の前ではハーフタイムに入るところだった。
そして、
【エメリー!マーゴット!】
フィールドで、大きな胸を暴れさせて手招きしているのは、件のベイカーさん。
呼ばれた2人は、残念そうに観客席を立つ。
【じゃあね、みんな。今度はフィールドで会おう】
そう言って笑うエミリーさんの目には、僅かながら闘志の炎がチラついていた。
…初めから、こちらを敵と知って接触してきたな、こりゃ。
そう思ったのは蔵人だけではなかった。
フィールドに降りる2人の背を見ながら、若葉さんがふぅと息を漏らす。
「なんか、凄い人に目を付けられちゃったね」
「(高音)ええ。アメリカのプロって事は、相当な実力者よね?」
「マーゴットさんは分からないけど、エメリーさんは世界ランカーだよ。最新情報は手元に無いけど、年末のランキングでは確か、70番台だった筈」
と言う事は、あのオリビア・ヘルナンデスよりも強いと言うこと。
これは、楽しくなりそうだ。
そう思った蔵人の予想は、いい意味で裏切られた。
豊国、VS、アメリカの後半戦5分。領域差はアメリカが62%と、リードを広げていた。
そこに。
【はいはーい。私達の登場だよ〜】
【よろしく】
エメリーさん達が投入された。
彼女達が着ているのは、グレイト11よりも更に厳しい金属防具。加えて、エメリーさんが手に持つのは、オリビアさんが持っていたのと似ている重機関銃。
そんな重装備を引っ提げて来た彼女達の配置は、マーゴットさんが最前線のど真ん中。そして、エメリーさんは彼女の真後ろに位置した。
盾役と近距離役だろうか?
【やった!とうとう世界ランカーとの共闘だ!】
【うわっ、マーゴットさんの背中大きい…】
【エメリーさんもオーラが凄い。近くに居るだけで火傷しちゃうわ!】
アメリカ陣営が一気に色めき立ち、同時に気力が漲った。勝ちが確定したとでも言うように、小躍りし始めた。
それを見て、豊国側も警戒する。
「2枚看板が出てきたわ!Aランクじゃないからって、油断するんじゃないわよ!」
「誰もしてないって、お嬢」
「お嬢は桜城に負けてから、Cランクの盾役にビビり過ぎだよ」
どうも、豊国側も相手の力量が分かっているらしい。盾役を5枚並べて、防御に徹する様だ。
桜城に負けた事で、低ランク相手でも気を抜かなくなったらしい。
だが、そんな重厚な防御陣に、アメリカのプロが牙を剥く。
【それじゃ、マーゴット。いっくよ〜】
【準備は出来ています】
マーゴットさんが深く構えると、彼女の周りに土が集まる。彼女の大きな身体を覆い尽くして、大きな土の台座が出来上がる。
その彼女の上に、黒い筒が乗た。
エメリーさんが持っていた、重機関銃だ。
【さぁ!それじゃあゲームの時間だよ!先ずは第一投、行ってみよう!】
銃身がクルクルと回り出すと同時、その先端から火が噴出した。
【集中砲火!】
無数の火炎弾が飛び出し、左端で構えていた盾役の土盾に殺到する。
弾はCランクの威力なのだろう。盾に当たった瞬間に、弾かれて消えてしまう。
だが、その暴力的な弾数の前では、屈強な盾も悲鳴を上げた。
時間にして、3秒。
その間に盾は蜂の巣となり、後ろにいた盾役諸共、消し飛ばしてしまった。
なんてDPS(1秒間に敵に与えるダメージ量)の高さだ。
蔵人は瞠目した。
その目の前で、重機関銃の向きが変わる。
【どんどんいっくよー!総取り!】
重機関銃が横へと薙ぎ払われて、その射線上に居る全ての者に弾丸の雨を叩き付ける。
「がっ!なんて、火力して…」
「くそっ!こんなのAランク並…」
「Bランクの盾でも削れるだと?!お嬢!早く前線を下げ…」
次々と、断末魔を残して消え去る盾役達。
たった10数秒で、豊国の最前線が消し飛んでしまった。
それを見て、しかし、お嬢は挫けない。
「くっ!まだよ!盾役が復帰するまで、前線を持ち堪えさせなさい!全員、敵前線に砲撃開始!」
豊国側から、無数の反撃が撃ち出される。盾役がいない以上、弾幕で相手を足止めするつもりだ。
だが、その弾幕の中を進む猛者が居た。
マーゴットさんだ。
【おぉおおお!!】
雄叫びを上げながら、その巨体で突っ込んでいく。彼女の纏う鎧には輝く黄土色の土が付いており、それが彼女の体を守っていた。
あれは、圧縮したソイルキネシス。南部選手がやっていた高等技術だ。
頑強な守りに身を包んだマーゴットさんは、豊国の弾丸を尽く弾き、とうとう敵陣のど真ん中に乗り込んでしまった。
そして、圧縮した土を棍棒に変えて、近くにいた豊国の選手を殴り飛ばした。
【はぁっ!】
近づく相手を持ち上げ、殴り飛ばし、敵陣で無双を繰り返す。
その姿は、まるで鬼。
軽々と大学生を吹き飛ばす彼女の姿は、フィジカルブーストかと思ってしまう程。
凄い筋力。もしくは、あの装備の力か。
「そこまでよ!般若!」
陣内で暴れるマーゴットさんの前に、お嬢が飛び出す。両手を構えて、火炎放射を撃つ為に魔力を込める。
Aランクの超火力を前に、しかし、マーゴットさんは突撃した。
「なっ!」
死地に飛び込む、蛮勇の選択。
Aランクを相手に、何を馬鹿なことをと、冷静な者ならそう思う。
だが、お嬢は動きを一瞬止めた。
躊躇する様子が無く、ノータイムで迫るマーゴットさんに圧倒されていた。
迫りくる大鬼に、恐怖を抱いてしまっていた。
「くっ!このっ!」
お嬢の手から、漸く火炎の渦が放たれる。目の前まで迫った鬼を、焼き焦がす。
だが、
【ぐぉおお!!】
鬼が叫ぶ。
地獄の業火を泳ぎ、熱さに声を上げながらも、その棍棒を思いきり振りかぶった。
剛腕が、お嬢に迫る。
「うそっ、またCラン」
お嬢の引きつった声が、途中で消えた。
ベイルアウトだ。
【おおおおおぉおお!!】
纏っていた土が溶け落ちながらも、マーゴットさんは雄たけびを上げる。
その声に合わせたように、試合終了の合図も鳴る。
試合の結果は、アメリカ領域が65%。
それなりの接戦。だが、フィールドに立っているのは、アメリカの選手ばかり。
【ナイスファイト。マーゴット】
【エメリー。早く帰投しよう。戦場は嫌いだ】
それを成した2人は、なんでもない様にフィールドを後にした。
なんて強さだ、アメリカのプロ。
彼女達の背中を見て、蔵人は自然と笑みを浮かべていた。
つ、次の相手は、鬼ですか…。
「流石はアメリカ。規格外だな」
超火力、鬼。3人目は、一体どんな化け物なんでしょう?