345話~アームド出現!~
暖かな小春の海岸沿いで、蔵人は全身に水晶盾の鱗を纏い、全速力で砂浜を駆け抜けていた。
こちらへと腕を突き出す、白いモヤの集団に向かって。
「「「アアァアアアァア…」」」
「はいっ!お次の団体様ご案内!」
蔵人が突っ込むと、アグレスは次々と跳ね飛ばされ、地面に激突すると同時に消えてしまう。
そんな事を、もう何度繰り返した事か。
お陰で、纏った龍鱗は3回も総入れ替えを行っており、今付けている物も歪みが出始めている。
それなのに、海から上がってくるアグレスの勢いは衰えない。次々と海面から姿を表し、上陸を目指して海中を歩行していた。
蔵人は最初、シールドカッターで対応していたが、あまりに数が多くてやめた。遠距離攻撃をしていると、自身を守る為に盾を使うから、カッターでは魔力効率が悪かった。
それよりも、こうして龍鱗を纏う方がコスパは良い。アグレスからの遠距離攻撃は避けて、上陸した団体さんを轢き殺すことだけに魔力を使っているから。
それでも、偶に砂浜を超えた上陸を許してしまう。と言うのも、中にはテレポート能力を有している個体もおり、そういう奴は水中から一気に陸上へと移動してくるからだ。
なので、一定数のシールドカッターとホーネットは上空で待機状態だ。
それが、余計に魔力消費を加速させていた。
今の魔力残量はおよそ半分程。
開始から10分しか経過していない事を考えると、消耗スピードは早い。しかも、大技を繰り出していない状態でこれだ。
もしも今、沖縄に居たジェネラル級が出てきたらかなり苦しい状況だ。重奏ランパートやミラブレイクは、消費魔力が桁違いだから。
頼むから、ジェネラル級は来てくれるなよ。
いや、寧ろ早く来いよ、軍隊の奴ら。
蔵人は、上陸したアグレス5体を天へと召しながら、内心で愚痴を吐く。
ギャル風のお姉さんが電話で通報してから、もう10分は経っている。だと言うのに、今だに軍隊が現れる予兆もない。
何か、おかしくないか?
まさか、イタズラ電話だと思われていないだろうな?
そんな不安を抱きながら、蔵人は次の団体さんへと突っ込む。
すると、1体のアグレスに突進を受け止められてしまった。
蔵人の両肩に手を置いて、砂浜を掻いて踏ん張るアグレス。背丈が蔵人よりも頭1つ高い。ソルジャー級より一回り大きくて、ジェネラル級より随分と小柄。
「ナイト級か」
「キ…キ…」
まるで応答するかのように、ナイト級は単音を発する。加えて、蔵人の肩を掴んでいる手に力を込め始めた。
ミシッ、ミシッっと、龍鱗から嫌な音が響く。
これは、ブーストの異能力か。
「欲しいか?くれてやる!」
蔵人は、今にも握りつぶされそうだった龍鱗の肩部分を勢い良くパージする。その勢いのまま、ナイト級へと飛ばして、攻撃に転用しようとした。
だが、ナイト級は龍鱗がパージされる前に一歩退き、全ての盾を拳で弾いた。
超至近距離でのランダム攻撃を弾く?これは、2つ目の異能力が未来視か超視覚なのかも。
こいつは厄介だ。
蔵人は後退する。
すると、それを好機と捉えたのか、ナイト級が追撃してきた。
よし。良いぞ。
蔵人はナイト級が踏み込んだ瞬間、奴の足元に設置したアクリル板を引き抜いた。
秘技、祭月返し!
足元を掬われたナイト級は、しかし、軽くステップを踏むことで、何事も無かったかの様に突っ込んで来た。
ぐっ。これは、プリポートの方か。
顔を顰める蔵人。だが、動きは止めない。
ナイト級の周囲に、小さな水晶盾を幾つも生成する。そして、そいつらを回転させる。
「さて、何処まで避けられる?」
ナイト級の四方八方から、シールドカッターを急襲させる。見えているだけでは、到底避けられはしないだろう。
だが、ナイト級はその尋常ではない身体能力で、全てのカッターを避けて見せた。
「よく避けた」
アクロバットをかまして盾を避けたナイト級に、蔵人は賛辞の声をかける。
それと同時に、奴の懐に侵入した。
「だが、隙だらけだ」
態勢を大きく崩したナイト級は、近付いた蔵人に手を出せる状況ではなかった。数秒先の未来が分かっても、対処出来なければ意味がない。
蔵人は、無表情なモヤの怪物に向かって螺旋盾をぶち込む。その拳が奴の胴体を貫くと、ナイト級は霧となって消滅した。
厄介な異能力の組み合わせだったが、思った通りに戦術がハマり、無傷で格上を倒せた。
だが、その代償は決して小さくない。
「う〜ん…」
蔵人は目の前の状況を見て、小さく唸る。
そこには、既に砂浜へ上陸してしまった多数のアグレスが見えた。その中には、今倒したナイト級の姿もちらほら見受けられる。
こいつはかなり不味い状況だ。全力を出せば、まだまだ対処することは出来るだろう。だが、目の前のこいつらで終わりとは思えない。もしもこの後ジェネラル級が出てきたりしたら、魔力が枯渇してしまう。
かと言って、ちまちま狩ることも出来ない。アグレスの中には、こちらを無視して街を目指そうとする個体も居る。ここでアグレスを打ち漏らしでもしようものなら、奴らは特区へと侵入し、大災害を引き起こすだろう。
最初にアグレスを見る人々はきっと、ランナーさんやあの親子みたいな反応をするだろうから。
どうする?賭けるか?これ以上の難敵は出て来ないと考えて、全力で相手するか。
それとも、打ち漏らしは仕方なしと割り切るか?逃げた人達が、街の人達に危急を知らせていると信じて。
迷う蔵人。
そこに、
ババババババッ
空気を叩き付ける音が聞こえた。
上空。
そちらを見ると、2台のヘリコプターが見えた。
一般的な物よりも太く長く、迷彩色の大型輸送ヘリだ。
「漸くか!」
安堵した蔵人は、つい、非難めいた声を上げていた。
通報から15分。スクランブル発進にしては遅いけど、警察を経由した通報だからこんな物なのか?
蔵人は考えながら、アグレス共から大きく距離を取る。同時に、周囲をクアンタムシールドで覆う。
ここで軍隊に見つかると厄介だからね。遠くで見物させてもらうよ。
蔵人が離れても、アグレス共は追って来なかった。
全員が猛スピードで近付いてくるヘリに夢中で、蔵人の事なんて忘れたかの様に上空を見上げている。
そんな人気者のヘリは、もう風がこちらまで来る程に近付いて、上空でホバリングした。
「「「アアアァアアア」」」
アグレス共が一斉に呻き出し、ヘリに向かって両手を上げる。
あら?これ不味いんじゃない?
蔵人がそう思うより早く、アグレスの手から一斉に、魔力弾が放たれた。
その弾丸は、容赦なくヘリへと襲いかかる。ヘリは、逃げる間もなく爆発に飲まれていった。
ウッソだろお前!?出オチかよ!
蔵人は目を見張る。
だが、黒煙が晴れると、そこにはバリアが張られたヘリの姿があった。
ふぅ。流石は軍隊のヘリ。ちゃんと防御策も用意しているのか。CAPC〇M製でなくて助かった。
無事だったヘリが、反撃に出る。
お尻の部分が大きく開いて、そこから何かが飛び出す。
人型の、何か。
100m以上もある高所から、パラシュートも付けずに降下したそいつは、自身の足や胴体から風を吹き出して、綺麗に着地した。
そいつは、人間だった。
亜麻色の長い髪を後ろで1つに結んだ女性が、全身を迷彩色の金属プロテクターで覆っていた。
露出度は増えて、色彩も異なるが、その尖ったフォルムは正しくグレイト11。つくば中の開発した、グレイトシリーズの最新機種だった。
砂浜の上に凛と立つ彼女の姿は、嘗て対峙したあの試合を思い起こさせる。あの日顔面に突き刺さった鉄拳の味も、一緒に。
「行くぞ!」
彼女はそう言うと、手に持った刀を高く構える。そして、目にも止まらぬ速さで、アグレス共へと切り込んだ。
「はぁあっ!」
超高速で振るわれる刀で、兵士級アグレスが次々と討ち取られていく。
彼女の後ろから襲いかかろうとした個体も、彼女の背から放たれた雷撃によって、全身を貫かれていた。
スパーク。
後方にも撃てる様になったのか、この人。
蔵人は驚きと感心を持って、彼女の戦いぶりに心を踊らせる。
奮闘する彼女の足元に、いくつもの影が落ちる。そして、彼女の背後に同じような装備を着た隊員が次々と着地した。
ざっと15人程度。まだヘリから降りている人もいるから、全員で20人程度の戦力か。
彼女達は直ぐに陣形を組んで、襲ってくるアグレスに攻撃を開始する。
複数の異能力を持つアグレスだが、2人1組で動く隊員達に隙はなく、近付いた途端に返り討ちにされていた。
「12時の方向、アームド出現!」
軍人達の戦いぶりを鑑賞していると、そんな声が響いた。
指示された方向に視線を送ると、全身にプロテクターを着込み、手には細めの剣を持ったアグレスが上陸するところが見えた。
大きさからして、ナイト級。武装個体を〈アームド〉と呼称するようにしたらしい。
そのアームドアグレスだが、特別に呼称されるだけはあった。
砂浜で構えた隊員達から魔力弾を放たれても、全て回避するか叩き切ってしまった。
そして、近くにいた隊員に向かって、鋭い一刀を放った。
「がぁっ!」
「吉田!」
斬り飛ばされた隊員。それを見て、別の隊員がアームドの前に立ち塞がる。
最初に降下した、エレキネシスの女性だ。
「下がれ吉田!こいつの相手は私に任せろ!」
「白羽隊長!」
吉田隊員は切り裂かれた胸を抑えながらも、自分を庇う白羽隊長を心配する声を上げた。
だが、直ぐに吉田さんの姿は消えた。どうやら、テレポートされたみたいだ。
「さぁ、来い!ナイト級アームド!お前の相手は、この私だ!」
「kill…kill…kill…」
鋭く刀を構える白羽隊長に向かって、アームドも剣を上段に構える。
だが、その構え方は何処か歪だ。
…いや、違うな。歪なのではなく、異質なのだ。
蔵人からしたら、良く見た構え方。
異世界で良く見た、西洋の構え方だった。
「やぁあああ!」
「kill…kill…!」
白羽隊長とアームドが斬り結ぶ。交差する互いの武器から火花が散り、両者は弾かれるように一歩引き、再び武器を交えた。
白羽隊長の刀には、青白く見える程の雷撃が纏われている。嘗て、龍鱗をも弾き返したその一刀は、しかし、アームドが振るう剣には通用しなかった。それは、アームドの剣にも魔力が纏われていて、赤い炎が揺らめいているからだ。
奴の異能力には、パイロキネシスも含まれていた。
それに加えて、アームドの周りに小さなつむじ風が生成される。
4大元素の異能力を2つも持つアグレス。こいつは厄介だ。
「そんな物!」
白羽隊長のスパークが、アームドのつむじ風を破壊する。透明な風の刃は、電流に撫でられるだけで簡単に消え去った。
だが、それは風の刃だけの話。
アームドの剣に纏われた炎がつむじ風によって燃え盛り、白羽隊長の刀を弾き飛ばしてしまった。
「くぅっ!」
白羽隊長は歯噛みする。だが、他の隊員がそれに気付く様子はない。隊員達もまた、他のナイト級に苦戦していた。戦闘開始時は20人いた隊員が、アグレスとの戦闘で負傷し、今は半分まで数を減らしていたのだった。
う〜む。これは旗色が悪い。
想定していたよりも苦戦する軍隊の姿に、蔵人は頭を搔く。そして、その手を前に出して、小さなアクリル板を幾つも生成した。
危険だが、少し助太刀しよう。
そう考えて、アクリル板をアームドへと飛ばした。
「ぐっ!」
その間にも、アームドは白羽隊長に向けて剣を振るう。その斬撃はかろうじて躱している彼女だったが、剣に付随する炎に舐められて顔を顰める。
蓄積したダメージに、ジワリ、ジワリと後退していた。
嬉々として攻め立てるアームド。そいつの鎧に、蔵人のアクリル板がびっしりと張り付く。透明な龍鱗とも見えるそれは、役割としては真逆。風早先輩にしたのと同じように、蔵人はアクリル板でアームドの動きを留めようとした。
その途端、
パリッ、ピシッ。
氷が剥離する様な小さな音を立てて、アクリル板が砕ける。透明性を確保する為にと薄く作ったのが原因だ。アクリル板は、アームドの動きをホンの少ししか止めることが出来なかった。
でも、それで十分だった。
その僅かな隙を、白羽隊長は見逃さなかった。
「そこっ!」
彼女の腕から眩い光が放たれて、アームドの胸部に着弾した。
白羽選手の主砲、レールガンだ。龍鱗すら一瞬で溶解させたその一撃は、アームドの鎧も胴体も貫通し、後方にいたアグレスを巻き込んで空へと消えていく。
レールガンに貫かれたアグレス共は皆、空気に溶けて消えていった。
「よしっ!次!」
アームドの相手から解放された白羽隊長は、次々とアグレスを斬り飛ばしていく。
そうして、ものの数分でアグレスの襲撃を防ぎ切ったのだった。
〈◆〉
「白羽隊長!全ての敵反応消失を確認しましたっ!海中にも、残存魔力反応ありません!」
アグレスと交戦を開始してから、約10分。警戒態勢を継続していた私に向かって、部下がそう報告して来た。
私はそれに頷き、他の隊員に向かって声を上げる。
「総員!警戒態勢解除!これより帰投する!」
「「「了解っ!」」」
キビキビとした返答を返す隊員達。だが、何処かホッとした色も見える。
私も自然と心の緊張が解れて、柄を握る手から力を抜き、報告に来た隊員に向き直る。
「民間人への被害と負傷兵の状況はどうだ?」
「はっ。民間人においては1人が重傷、4人が軽傷を負いましたが、既に完治しております。負傷兵においても、テレポート先での治療を終えています」
「そうか。情報統制部隊の方はどうなっている?」
「はっ。アグレスを目撃した民間人に対しては、全員に処置が完了したと報告がありました」
「了解した」
そう言って頷いた私だったが、内心では首をかしげていた。
今回は、随分と多くの民間人にアグレスを見られてしまった。我々の到着も遅れてしまったから、記憶を戻すだけでは完全に情報をシャットアウトできるとは思えない。少なくとも、今回の様に後手に回ってばかりでは、いずれアグレスの侵攻が知れ渡るのも時間の問題だろう。
どうにかせねばならないが、北海道に多くの人員を取られている今は、残存部隊で守り切るしかない。せめて、大規模テレポート部隊だけでも戻してくれたら、出動時間が大幅に短縮出来るのだが…。
私が悩んでいると、目の前の隊員も難しそうな顔をしている事に気付いた。
うん?何か心配事か?
「あっ、済みません。今回は随分と被害が少なかったと思いまして。通報から到着まで15分も掛かってしまいましたので、既に街中にもアグレスが侵入している物と想定していました。ですが、見た限りではアグレスが浜辺から出た様子はなく…」
まぁ、普通はそう考えるだろうな。
私は彼女の言葉を聞いて、つい、笑い出しそうになってしまった。
それを、彼女は不思議そうに見上げて来た。
「どうかしましたか?隊長。もしかして、何か知っているんですか?」
「うん?いいや。大したことではない。ただな…」
私は後ろを振り返る。
よく整備された公園には人っ子一人おらず、何処か物悲しい雰囲気を漂わせていた。
「ただ、私達には付いていたんだ。心強い志士が」
「しし…ですか?」
首を傾げる隊員に、私はまた笑いそうになってしまい、急いで顔を背けるのだった。
〈◆〉
「なんか、随分と難しそうな顔をしているね?」
蔵人が1人悩んでいると、いきなり目の前に小悪魔ちゃんの顔がドアップで迫ってきた。
レインボー公園での防衛戦の翌日。蔵人は教室で考え込んでいた。
昨日のことを。
そして、これからの事を。
林さんのゲーム知識は驚く程正確であり、今後もゲームと同じ展開となる可能性は高い。なので、彼女の情報を上手く使えば、原作よりも大幅に被害を縮小させる事が出来る。
その上手く使うという所が、ネックなのだ。
今回の様に、蔵人が現地に赴く方法は最善策とは言えない。ジェネラル級等が出てきてしまったら抑えられないかもしれないし、こんな事をやっていればいずれバレる。バレたら蔵人だけでなく、林さんにも大変な目に遭わせてしまう。
だが、無視する訳には行かない。原作では、多くの人が犠牲になり、この平和な日常が壊されてしまうのだから。
では、どうするべきかと悩んでいたところ、若葉さんに察知されたのだった。
「ああ…まぁ、少し考え事をしていてね」
やけに察しがいいな?と蔵人が目を丸くしていると、彼女は胸ポケットから1枚の写真を取り出してきた。
それを見て、全てに納得がいった。
その写真には、満面の笑みを浮かべる女の子が写っていた。そして、その女の子の後ろには、大量のアグレスが迫る瞬間が写っていた。
写真を持つ小悪魔ちゃんが、ニシシと笑う。
「その考え事って、これの事かな?」
「…良く、入手出来たな」
「私は譲って貰っただけだよ」
蔵人は、その写真をマジマジと見詰める。
これは間違いなく、あの親子が撮った写真だ。確か軍人達は、被災した全ての人から記憶を消去したと言っていたが、カメラの情報は残っていたのか?
いいや、残す筈はない。持ち物検査くらいはするだろうし、記録媒体なら没収されてもおかしくない。だからこの写真は、軍人にデータを消される前に、望月の縁者が親子に接触した証拠だ。軍の到着が遅れた分、その時間も出来てしまったみたいだ。
そこを逃さないとは、流石は望月家。現代に生きる忍者の末裔だ。
蔵人は、ふぅとため息を吐きながら、彼女に問う。
「君は、何処まで把握してる?」
「これの事?えっとね。ここで"楽しい"ゲリライベントがあった事と、この子が見えない君に夢中だったって事くらいかな?」
全部じゃねぇか!
意味深に語る若葉さんに、蔵人は苦笑いを浮かべるしかできなかった。
そんな蔵人に、若葉さんは写真の中のアグレス共を指さす。
「君が考えていたのは、これの情報をどう扱うかって事かな?」
「おいおい。何故分かる?もしかしてお前さん…エスパーか?」
「エスパーだよ。サイコキネシスだけどね」
蔵人が大袈裟に両手を上げると、若葉さんもそれに合わせてニヤリと笑う。
そして、また真面目な顔に戻った。
「君がどうやって情報を得て、私達よりも先回り出来たのかは企業秘密って事にしておくよ」
「そいつは助かる」
まぁ、若葉さんの事だ。大方予想は着いているだろう。でも、ここは目を瞑ってくれると暗示しているのだろう。
彼女の事だから、この情報の価値と、その提供者のリスクは直ぐに把握出来ているだろうから。
それでも、こうして話題に上げてくると言うことは…。
「それでさ。扱いきれない情報なら、私達に預けない?」
「ふむ。餅は餅屋って事か」
「そうそう」
蔵人は考える。これは、有りなんじゃないかと。
彼女達は様々なメディアと繋がっている。その彼女達にゲームの情報を渡せば、発信源を特定されずに世間へ警告する事が出来る。
例えば、どこそこでテロ事件が起きるというタレコミがあった!という情報を流すだけで、その周辺地域の人達は警戒してくれる。
勿論、最初はデマだと笑う人が大半であろう。だが、その情報が何度も当たれば、人々は信じるしかなくなる。この情報が真実であると。
アグレスを相手に、先手が打てる。
「若葉さん。そんな事は可能なのかい?望月家にも、大きなリスクが伴うぞ?」
「ふっふっふ。私の親戚は、そりゃ色んな所に就職しているからね。相手が誰であろうと、尻尾は掴ませないよ」
頼もしい限りだ。
きっと、情報を扱う事に関して、望月家の右に出る者はいないだろう。それが仮令、国や軍であったとしても。
「助かるよ、若葉さん。君の力を、是非とも貸してもらいたい」
「勿論だよ」
蔵人は、若葉さんと固い握手を交わす。
少しずつ、良い未来へ進んでいる気がした。
なるほど。望月家というフィルターを通して情報発信をするのですね?
「複数のメディアを通せば、発信源も把握し辛いということだな」
さてはて。上手くいくのでしょうか?