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女尊男卑 ~女性ばかりが強いこの世界で、持たざる男が天を穿つ~  作者: イノセス
第13章~渇望篇~

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339話〜後方からも魔力反応!〜

蔵人達は首里城内部に侵入した。

もしも敵がいたらと構えたのだが、目の前には真っ赤に塗られた建物が見えるだけで、周囲に人の影はない。

流石は鶴海さんのレーダーだが、どうして敵本陣に敵がいないのだろうか?

蔵人が訝しんで周囲を見回していると、隊長さんが説明してくれた。


「ここは正規ルートとは真逆やから、警備が薄いんさ」


挿絵(By みてみん)


何でも、本来なら〈白銀門〉という所から入って、正殿を抜けるのが正規のルートらしく、ここはその裏手に位置するらしい。それ故に、警備も手薄になっているそうだ。

鶴海さんはそれも見越して、ここを掘らせたのか。


「でも、あまり余裕はないみたいよ。土壁の上からも、向こうの建物からも、強い魔力の波動を感じるわ」


鶴海さんが北西を向いて警告する。

土壁を貫いて来たから、それなりに大きな音を出してしまった。もたもたしていると、城内の警備兵が集まって来るだろう。

それに、開けた大穴の向こうでは、伏見さん達が追撃部隊を足止めしてくれている。追いつかれる前に進まなければ。


「こっちよー。テダ様は、正殿前の御庭に(まつ)られてるさー」


その御庭に至るには、正殿を正面から突っ切るか、南殿(なんでん)番所(ばんどころ)を通る必要があるらしい。それ以外の門や番所は、このお祭りの間だけ閉鎖されているとか。

流石は地元民。とても詳しい。きっと、この日の為にシミュレーションしていたのだろう。


蔵人達は隊長さんの後に続き、南殿番所までの道をひた走る。

左手にある大きな門は〈奉神門〉と言うらしい。真っ赤に塗られたその表面には、強力なバリアが張られており、ちょっとやそっとの攻撃では傷つかない様になっていた。

城内でドンパチするからね。イベントで火事にでもなったら目も当てられない。


「来たわ!」


足早に南殿へと進軍していると、鶴海さんが唐突に叫ぶ。

彼女は建物の屋根を見上げ、真っすぐに指を指す。


「奉神門の上。誰か駆け寄ってくる。Bランクが1人!」


その人物の姿が見える訳ではないのに、鶴海さんの指は確実に、その相手の位置を示し続ける。

蔵人はその指に合わせて、水晶盾を上へと構えた。

すると、そこに、


ガシャン!


誰かが乗った。

見上げると、水晶盾越しに鈍色に光る刃を向けてくる、30歳くらいのお姉さんがいた。刃だけでなく、体も金属の鎧を纏っている。

彼女は水晶盾が貫けないと分かると、盾を蹴りつけて宙を舞い、地面へと着地する。

金属鎧で良く飛べるなと思ったが、どうやら異能力で出した鎧みたいだ。

ゴルドキネシスか。


綺麗な着地を見せた女性。だが、直ぐに態勢が崩れて、地面に這いつくばった。


「飛んで火に入るカモネギだぜ!」


鈴華だ。

彼女が、お姉さんのゴルドキネシスを磁化していた。

確かに、鈴華にとってゴルドキネシスは鴨だ。でも、色々とことわざが混ざっているぞ?


「また来たわ。今度は外壁から…2人!」


鶴海さんのレーダーが、再び反応する。

彼女の指先を追うと、土壁から飛び降りようとしている2人組が見えた。


「ナイスだ!翠!」


そう笑いながら、鈴華は地面に降り立った2人組に向けて構える。そして、


「マグナバレット!」


そう言って、磁化したお姉さんを襲撃者へ放つ鈴華。

勢いよく発射されたお姉さんが、立ち上がったばかりの2人組と激突した。

ほぼ不意打ちで襲われた2人は、3人仲良く伸びてしまった。


「凄いね!鈴ちゃん!」


キラキラした顔を鈴華に向ける桃花さん。それに、鈴華は片手をひらひら顔の前で振り、その手で鶴海さんの肩を掴む。


「あたしじゃねぇよ。全部、翠のお陰だ。アクアレーダーまじ最強だな!」

「凄いよ、ミドリン!まるで壁の向こうが見えてるみたい!」


桃花さんは飛び跳ねて、鶴海さんに向けて喜びを表す。

それを受けた当人は、恥ずかしそうに顔を伏せた。


「2人とも大袈裟よ。ただ相手の位置が分かるだけですもの。鈴ちゃんの方が凄いわ」

「謙遜すんなって。異能力は威力だけが大事じゃねぇんだからよ」


鈴華の言う通りだな。こうして見通しの悪い場所では、相手の位置が分かると言うのは大きなアドバンテージとなる。加えて、敵の魔力量まで分かるとなれば、不意打ちをくらう危険性がぐっと減る。


「(高音)鶴海さん、周囲に敵の反応は?」

「この門の向こう側に、強い反応が4つ。動く気配がないから、待ち構えているんだと思うわ。他の反応は…幾つかあるけど、強くはないわ」


ならば、そこが最終決戦の地なのだろう。テダ様もそこに祀られている可能性が高い。

蔵人達は隊長さんに連れられて、先を急いだ。


南殿までの道中で、何度か襲撃や待ち伏せに会う。だが、鶴海さんのレーダーによって暴かれていたそれは、簡単に蹴散らすことが出来た。

相手もBCランクばかりだったので、鈴華や桃花さんの前には為す術もなくベイルアウトしていく。

敵本陣のど真ん中なのに、随分と余裕だ。若葉さんなんて、カメラ撮影を始めてしまう程である。


だが、その余裕が続いたのは、南殿を通り抜けるまで。南殿の真っ赤な扉を開けて見えたのは、大きく開けた広場。その広場の真ん中には、こちらに構える4人の男女。民族衣装に身を包み、煌びやかな装飾品で着飾っている。そして、その彼女らの後ろには、真っ赤な主柱がそびえ立ち、その上に黄金の像が乗っている。

あの金ピカが、テダ様の像らしい。


「「「おぉお…」」」


広場の中央に視線を奪われていた蔵人達に、周囲から小さな響めきが押し寄せる。そちらを見ると、広場を囲う様に柵がされており、その柵の向こう側には、大勢の観光客がこちらに好奇の目を向けていた。


「来た!来たよとうとう、ここまで!」

「6人も生き残ってるなんて、これはもしかしたら、もしかしたらが起きるかもよ!」

「やしが、殆ど見たことない子達やさ。内地の子がや?」

「おばあ。先頭に立っとるんは、那覇尚高校の比嘉ちゃんやさ!」


観光客の中には地元の方々もいらっしゃるみたいで、隊長さんに「頑張れよ(ちばりよ)ー!」と声を掛ける人もいた。

歓声やカメラのフラッシュが降りしきる中、蔵人達は広場の中央へと歩みを進める。

鶴海さんのレーダーには、目の前の4人以外に敵意を向けてくる人はいないとの事。

つまり、この4人を倒せば我々の勝利だ。


だが、その4人が問題らしい。

こちらへとズンズン進んで来る若いお姉さんを見て、隊長さんの足がピタリと止まった。


舞那(まな)(ねー)やし。Aランクのフィジカルブーストで、5年前にタッチを成功した強者(チューバ)さ…」


隊長さんの解説が聞こえたのか、舞那さんは仁王立ちになって立ちはだかり、ニヤリと笑う。


「よぉ、(なぎさ)。まさかCランクのおまえ(やー)がここまで来るなんて思わなかったさー」

「私の力やないよー。みんながとても(しに)強かったからさー」

「内地の子達やね。中学生って聞いとるやが、ここまで来れるんやったら、本気で相手しようね!」


そう言うと、舞那さんが突っ込んで来た。たった一歩踏み込んだだけで、5m以上あったこちらとの距離を、一瞬で詰めてしまった。

目の前に迫った舞那さんが、拳を振り上げる。隊長さんを真っ直ぐに見て、ニヤリと笑った。


不味い。

そう感じ取ると同時、蔵人は隊長さんの前に滑り込み、用意していたランパートを構えた。

そのランパートに、舞那さんの拳が突き刺さる。

衝撃。

体が浮き上がりそうになり、盾の中央が大きく凹む。だが、貫通されることなく拳を押し留めた。

それを見て、舞那さんの目が大きく見開かれる。


「うぇっ!?」


驚きで動きを止める舞那さん。

そんな彼女の脇腹に、鈴華のパチンコ玉が急襲する。

その攻撃自体には全く動じなかった舞那さんだが、自身の体が急に重くなったことに、再び驚きの表情を浮かべた。


「ぐっ!な、なに?」


膝に手を着き、苦しそうに顔を上げる舞那さん。

流石はAランクのブースト。今までの相手みたいに、地面に這いつくばることは無かった。

だが、それで十分。動きを大きく制限された舞那さんに、桃花さんが走り寄る。

そして、


「えぇえいっ!」


圧縮された風の弾丸を、舞那さんに押し当てる。

舞那さんは空高く吹き飛ばされ、赤い屋根の方へと落ちて行く。その途中で、ふと消えた。

ベイルアウト。


「「「うぉおおおお!!」」」

「凄い…。妨害用の鬼を倒しちゃった…」

「普通、鬼を避けてタッチを狙うものなのに…」


なんと、そう言う趣旨だったのか。そう言えば、如何にタッチするかに重点を置いた祭だったな。

今になって趣旨を思い出した蔵人だったが、ここまで来たら全員倒そうと気持ちを切り替える。下手に避けようとして、ベイルアウトされたら元も子もなくなるから。


そう思って黄金像に近づく蔵人達だったが、残った3人は主柱の前で悠然と構えていた。Aランクの仲間を倒されたというのに、全く動揺している素振りは無い。それはつまり、彼女達も舞那さんと同レベルの力を持っていると言う事。

3人の内2人は男性だ。黒い着物の様な民族衣装に身を包んだ50代くらいのおじさんと、水色のアロハシャツを着た20代の青年。

その2人に挟まれて立つのは、紫色と緑色のシックな民族衣装を着た30代の女性。深く鮮やかな蒼色の長髪が、彼女の異能力がアクア系の高ランカーであることを表している。

彼女を見る隊長さんの表情は、硬い。


尚瑛海(しょうえいみ)様よ。このお祭りの主催者様で、地元で一番強い人さ…」


ふむ。権力と腕力を兼ね備えた女性ということか。

蔵人は更に構えを深くする。


それを見て、尚様が動いた。

膨大な量の水を出現させ、それを上空で大きく旋回させる。まるで水龍の様に空を泳ぐそれに、観光客からも大きな歓声が上がる。


流石は主催者。ただ強いだけでなく、魅せ方まで心得ているとは。

水龍を見上げながら、感心する蔵人。

すると突然、水龍の顔がこちらを見下ろした。顎を大きく開き、そこに生える大剣の様な刃を見せつける。

そして、

一気に突っ込んで来た。


「(高音)トリオ・ランパート!」


構えたトリオランパートに、水龍の刃が突き刺さる。

押し返されそうになる盾を、別の盾で支えて耐え続ける。

そして、

耐えきった。

トリオは2枚が貫通されたが、1枚は健在であった。

威力で言えば、二条様並の攻撃力。九鬼会長程ではなかった。


「ふむ。流石は全日本の覇者。一筋縄ではいかぬか」


蔵人が尚様を値踏みしていると、彼女はこちらの正体を看破してきた。

ランパートを見て察したのか、はたまた権力者故の情報網か。


「では、これでどうかな?」


尚様がそう言った途端、彼女の魔力が膨れ上がった。先ほどよりも更に大きく、狂暴になる黒水の魔力。その出所は、彼女の傍に立つ青年から。

彼が歌い出した事で、尚様にバフが掛かっていた。


「Bランクハーモニクスの新垣さんよ。尚様の秘書をされてるさ。その隣は金城さん。Bランクバリアの看護師さんやさ」


つまり、AランクにBランクのバフが乗っていると。

その凶悪なSランクの(アギト)が、蔵人達の方を向いた。

不味い。


「(高音)若葉さん!桃花さん!」


蔵人は2人の返答も待たず、その手を取る。

だが、彼女達は直ぐに応じてくれて、2人の魔力が流れ込んで来た。


「クイン・ランパート!」


全ての魔力を賭して、目の前に五重のランパートを作り出す。周囲に風を纏い、盾の外周に金属フレームが入った超強化ランパート。

それに、膨れ上がった水龍が激突した。

途端、ズシンッと重い衝撃がこちらに伝わる。

盾を嚙み砕こうと大口を開ける水龍が、目の前で水しぶきを上げる。ガギギギッ…と嫌な悲鳴が強化ランパートから上がる。

そして、


水龍が、消えた。

超強化ランパートは、3枚を残して生還した。

そう、安心したのも束の間で、蔵人の肩がグイッと引っ張られる。

見ると、目を少し細めた鈴華がそこに居た。

…ちょっと、不機嫌か?


「ボス、次はあたしとだ」


そう言うが早いか、鈴華が蔵人の右腕に抱き着いて来る。

彼女の魔力が、流れ込んでくる。

いや、逆だ。

何時もとは逆に、魔力が持っていかれる。魔力が、鈴華に吸われていく。


「あぁっ!あたしの中に、ボスの熱いのが流れ込んで来てるぞ!」

「(高音)言い方!鈴華、言い方!」


必死な蔵人の訴えも何のそので、鈴華は腕を真っ直ぐに伸ばす。

その先には、顔を青くし肩で息をする尚様が居た。


「行くぜ。メタルストライク!」


鈴華はそう言うと、周囲に鉄盾を生成した。

なっ!そんな事も出来るのか!?

驚く蔵人を置き去りに、鈴華は鉄盾を尚様に向かって飛ばした。

だが、途中でバリアに阻まれてしまった。

尚様を守るように、おじさんが立ちはだかる。


「くそっ。バリアかよ」

「(高音)鈴華。まだよ」


伸ばした手を下ろしそうになる鈴華に、蔵人はそっと手を添える。

そして、


「(高音)アイアン・メイデン!」


弾かれて空中を漂っていた鉄盾を操作し、バリアに張り付かせて一面を覆い尽くした。

そして、そのバリアの内側に向けて、思いっきり圧力を掛ける。


「あたしもやるぜ!マグネット・フォース!」


鈴華の磁力も加わり、バリアに更なる圧力がかかる。

バリアが、ミシリミシリと悲鳴を上げ始めた。

崩壊は、時間の問題だ。


「巻ちゃん!」


そう思った蔵人の元に、鶴海さんの悲痛な叫びが降りかかる。


「魔力反応確認!正殿の方から…3、5、10、どんどん集まって来ているわ!」


なにっ!

蔵人は驚いて正殿の方を見る。すると、正殿の大扉が勢いよく開き、中から大勢の大人達が飛び出してきた。


「遅くなりました、尚様!」

「わーらも加勢すんどー!」

「若いんに負けてられんわ!」

「「おおっ!!」」


くそっ!ここに来て敵の増援。しかも、20人は下らない数だ。

どうする?今からホワイトアウトは間に合わない。一旦逃げるしかないか?

蔵人は自然と、退路を振り返っていた。

だが、その希望も、


「後方からも魔力反応!」


鶴海さんの悲鳴で、潰えた。

このイベント中、御庭から出るには正殿と後方の南殿からしかルートは無い。つまり…。

万事休す。

後方から聞こえる増援の足音と雄たけびを聞いて、蔵人はここまでなのかと手を下ろしそうになる。

だが、その時、


「「「わぁああああ!!!」」」

「カシラぁあ!援軍に来たで!」


南殿から現れたのは、大人達ではなかった。

泥だらけの民族衣装に身を包んだ高校生達と、彼女達を先導する伏見さんだった。

まさか、本当に外の敵を全員倒してしまったのか!?しかも、本隊が合流してるし!


「行くで!みんな!ウチに付いて()ぃ!」

「「「おおっ!」」」

「姉御!一生ついて行くやし!」


南殿から雪崩込んで来た伏見さん達が、正殿から湧き出る敵援軍へと襲いかかる。途端、蔵人達の周囲が、混戦状態に陥った。


「(高音)鈴華!」

「あいよ!ボス!」


蔵人の掛け声に、鈴華は直ぐに反応する。

何時襲われるか分からない状況。ならば、一刻も早くバリアを破る必要がある。

蔵人達は再び、バリアに圧をかける。

バリアの表面に、浅いヒビ割れが走った。

もう少し。


「尚様達を守れ!」

「あの銀髪の子だ!」


蔵人達の方に、2人の大人が駆け寄ってきた。

くそっ。もう少しなのに。

眉を顰め、近付く大人達の方を見る蔵人。


だが、蔵人が手を出す前に、


「私が行くよ!」

「こっちは僕達に任せて!」


若葉さんと桃花さんが、迎撃に向かった。

助かった!

蔵人達はバリアに意識を向け直す。

圧力を、更にかける。

そして、


バリアが割れた。

真ん中から崩落したバリアは、溶ける様に消えていった。バリアに圧をかけていた鉄盾は、そのまま尚様達に張り付いて、彼女達を地面になぎ倒す。

今だ。


「(高音)行け!隊長さん!」

分かったよ(わかやびたん)!」


隊長さんが、太陽(テダ)神目掛けて真っ直ぐに走る。


「渚だー!」

「止めーや!」


その彼女に、焦った様子の大人が駆け寄る。

おっと、そうはいかないぞ。


「(高音)シールド・ファランクス!」

「花道は邪魔させねぇよ!」


蔵人達のシールドが、像までの道を舗装する。

大人達は盾に邪魔され、その中に入れない。

隊長さんだけが、その花道をひた走る。

そして、


「取ったんどー!」

「「「わぁあああ!!!」」」


隊長さんが両手で像を掲げ、戦乱続く御庭に向かって声を張るあげた。

途端、大人達は戦闘を止めて拍手を送り、観光客と高校生達は歓声を上げた。


5年振りの偉業が、達成された瞬間だった。




「そんではー。私ら那覇尚高校とおーじょー連合の勝利を祝してー!」

「「「乾杯(カリー)!!!」」」


その日の夜。

蔵人達は隊長さんに誘われて、デージエイサーの打ち上げに参加していた。

場所は、ホテル近くの海辺。そこで、バーベキューパーティーを催すことになった。費用は全部イベント主催者様。きっとこれが、副賞なのだろう。

勝利の宴だから、共に戦った高校生達だけかと思いきや、対戦相手の大人達や、観光客らしき人達も合わさった大宴会となっている。

隊長さんの乾杯の挨拶が無かったら、なんの祝賀会なのか分からなくなる所だった。


でも、それだけ人が集まれば、自然と盛り上がるもの。

宴会開始から、みんなハイテンションだ。


「みんなー!テダ様も祝福してくれてるさー」

「おお!神々しいねー!」

「よーしっ!もう1回胴上げや!渚ごと胴上げすんどー!」

「「「おお!!」」」


「よっしゃ!ウチらも胴上げに加わるで。みんな、ウチに付いて来ぃ!」

「「はいっ!姉御!」」

「一生、付いて行くやし!」


伏見さんも大人気だ。宴会前から大勢の女子高生に取り囲まれて、すっかり彼女達のリーダーになっている。

そして、変化があったのは彼女だけではない。向こうの席で、祭月さんと琉成君が何かやり取りをしていた。

おっ!これは…。


「祭月さん!何を飲んでるの?」

「わ、私のは、ただのリンゴ…いや、烏龍茶だ!大人だから当然だろ?そう言う琉成君は、何を飲んでいるんだ?」

「これかい?ルートビアさ」

「なっ…!?高校生が、ビールだと…?私より、遥かに大人ではないか…」


また、祭月さんがカルチャーショックを受けている。

言っておくが、そいつにアルコールは入ってないぞ?ビールっぽいのは、名前と見た目だけだ。


若人達の甘酸っぱい青春を肴にしていると、蔵人の元にも誰かが近づいて来た。

深い蒼色の髪。

尚様一行だ。


「楽しんでいらっしゃいますか?巻島様」

「(高音)これは、尚様。態々お声掛け下さり、ありがとうございます。楽しませて頂いております」

「それは何よりです」


含み笑いを浮かべる尚様に、蔵人は笑顔の仮面を貼り付けたまま、怪しむ。

この沖縄の支配者である彼女が、一体、何をされに来たのかと。


「巻島様。何かご不便など御座いませんか?」

「(高音)不便…?いえ、とても快適に過ごさせて頂いております」

「そうですか」


訝しむ蔵人の前で、尚様はホッとした顔になる。


「もしもご不便が御座いましたら、私共にお声掛け下さい。最大級のおもてなしをする準備がございますので。では」


そう言い残し、尚様はあっけなく去って行った。

その後ろ姿を見て、鈴華が首を捻る。


「何しに来たんだ?」

「きっと、私達に良い印象を与えたかったんじゃないかしら?」


鶴海さんの言う通りだろう。

尚様は、こちらの正体に気付いている。きっと、全日本チャンプをもてなして、沖縄に良い印象を持って欲しかったのだと思う。


「そっかー。だったら、お勧めの穴場スポットでも聞いときゃ良かったなぁ」

「そしたらさー。うみそら公園がお勧めよ」


鈴華のぼやきを返したのは、頭をボサボサにされた隊長さんだった。

お祝いと称して、撫でられまくったらしい。さっきまで持ってた太陽神のレプリカも、誰かに奪われてしまったみたいだ。

分かるぞ。我々も、都大会の優勝カップを校長先生に奪われたからな。


「公園?そこに何があるんだ?」

「特に何もなんよ。海と浜と、ちょっと猫がいるだけさ。でも、不思議と力が湧いて来るんよ」

「(高音)力?」

「そうよー。元気んなるから、騙されたと思って行ってみれー。すぐそこやし」


ふむ。地元民のパワースポットだろうか。

蔵人は少し、興味が出てきた。

そんな時、


ッバァアアン!


会場上空で爆発が起こる。

何事かとそちらを見ると、


「この爆発(ばふはふ)で、大学生(らいがくへい)(らお)したんだ!凄いらろ?琉成君(りゅうへいくん)!」

「わぁああ!ルートビアで、祭月さんが酔っ払っちゃった!アルコール入ってないのに!」


酔った祭月さんが、男子高校生に絡んでいた。

全く、羽目を外し過ぎだ。

蔵人は重い腰を上げて、級友を回収しに行くのだった。

首里城攻城戦、何とか無事に終わりましたね。


「城を壊さんで良かったな」


本当ですよ。しかも、鈴華さんともシンクロ出来たみたいでした。


「あ奴の魔力を吸い取るとは、久我嬢らしい」


そう言うパターンもあるのですね。

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― 新着の感想 ―
シンクロで共有魔力総量が激増後に蔵人味の魔力を吸ったのか、蔵人君の熟練度と魔力効率を共有してるのか それとも実は痩せ我慢で、蔵人君は吸われすぎてヘロヘロ、鈴鹿さんはたっぷり吸ってツヤツヤなのかw 異…
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