339話〜後方からも魔力反応!〜
蔵人達は首里城内部に侵入した。
もしも敵がいたらと構えたのだが、目の前には真っ赤に塗られた建物が見えるだけで、周囲に人の影はない。
流石は鶴海さんのレーダーだが、どうして敵本陣に敵がいないのだろうか?
蔵人が訝しんで周囲を見回していると、隊長さんが説明してくれた。
「ここは正規ルートとは真逆やから、警備が薄いんさ」
何でも、本来なら〈白銀門〉という所から入って、正殿を抜けるのが正規のルートらしく、ここはその裏手に位置するらしい。それ故に、警備も手薄になっているそうだ。
鶴海さんはそれも見越して、ここを掘らせたのか。
「でも、あまり余裕はないみたいよ。土壁の上からも、向こうの建物からも、強い魔力の波動を感じるわ」
鶴海さんが北西を向いて警告する。
土壁を貫いて来たから、それなりに大きな音を出してしまった。もたもたしていると、城内の警備兵が集まって来るだろう。
それに、開けた大穴の向こうでは、伏見さん達が追撃部隊を足止めしてくれている。追いつかれる前に進まなければ。
「こっちよー。テダ様は、正殿前の御庭に祀られてるさー」
その御庭に至るには、正殿を正面から突っ切るか、南殿番所を通る必要があるらしい。それ以外の門や番所は、このお祭りの間だけ閉鎖されているとか。
流石は地元民。とても詳しい。きっと、この日の為にシミュレーションしていたのだろう。
蔵人達は隊長さんの後に続き、南殿番所までの道をひた走る。
左手にある大きな門は〈奉神門〉と言うらしい。真っ赤に塗られたその表面には、強力なバリアが張られており、ちょっとやそっとの攻撃では傷つかない様になっていた。
城内でドンパチするからね。イベントで火事にでもなったら目も当てられない。
「来たわ!」
足早に南殿へと進軍していると、鶴海さんが唐突に叫ぶ。
彼女は建物の屋根を見上げ、真っすぐに指を指す。
「奉神門の上。誰か駆け寄ってくる。Bランクが1人!」
その人物の姿が見える訳ではないのに、鶴海さんの指は確実に、その相手の位置を示し続ける。
蔵人はその指に合わせて、水晶盾を上へと構えた。
すると、そこに、
ガシャン!
誰かが乗った。
見上げると、水晶盾越しに鈍色に光る刃を向けてくる、30歳くらいのお姉さんがいた。刃だけでなく、体も金属の鎧を纏っている。
彼女は水晶盾が貫けないと分かると、盾を蹴りつけて宙を舞い、地面へと着地する。
金属鎧で良く飛べるなと思ったが、どうやら異能力で出した鎧みたいだ。
ゴルドキネシスか。
綺麗な着地を見せた女性。だが、直ぐに態勢が崩れて、地面に這いつくばった。
「飛んで火に入るカモネギだぜ!」
鈴華だ。
彼女が、お姉さんのゴルドキネシスを磁化していた。
確かに、鈴華にとってゴルドキネシスは鴨だ。でも、色々とことわざが混ざっているぞ?
「また来たわ。今度は外壁から…2人!」
鶴海さんのレーダーが、再び反応する。
彼女の指先を追うと、土壁から飛び降りようとしている2人組が見えた。
「ナイスだ!翠!」
そう笑いながら、鈴華は地面に降り立った2人組に向けて構える。そして、
「マグナバレット!」
そう言って、磁化したお姉さんを襲撃者へ放つ鈴華。
勢いよく発射されたお姉さんが、立ち上がったばかりの2人組と激突した。
ほぼ不意打ちで襲われた2人は、3人仲良く伸びてしまった。
「凄いね!鈴ちゃん!」
キラキラした顔を鈴華に向ける桃花さん。それに、鈴華は片手をひらひら顔の前で振り、その手で鶴海さんの肩を掴む。
「あたしじゃねぇよ。全部、翠のお陰だ。アクアレーダーまじ最強だな!」
「凄いよ、ミドリン!まるで壁の向こうが見えてるみたい!」
桃花さんは飛び跳ねて、鶴海さんに向けて喜びを表す。
それを受けた当人は、恥ずかしそうに顔を伏せた。
「2人とも大袈裟よ。ただ相手の位置が分かるだけですもの。鈴ちゃんの方が凄いわ」
「謙遜すんなって。異能力は威力だけが大事じゃねぇんだからよ」
鈴華の言う通りだな。こうして見通しの悪い場所では、相手の位置が分かると言うのは大きなアドバンテージとなる。加えて、敵の魔力量まで分かるとなれば、不意打ちをくらう危険性がぐっと減る。
「(高音)鶴海さん、周囲に敵の反応は?」
「この門の向こう側に、強い反応が4つ。動く気配がないから、待ち構えているんだと思うわ。他の反応は…幾つかあるけど、強くはないわ」
ならば、そこが最終決戦の地なのだろう。テダ様もそこに祀られている可能性が高い。
蔵人達は隊長さんに連れられて、先を急いだ。
南殿までの道中で、何度か襲撃や待ち伏せに会う。だが、鶴海さんのレーダーによって暴かれていたそれは、簡単に蹴散らすことが出来た。
相手もBCランクばかりだったので、鈴華や桃花さんの前には為す術もなくベイルアウトしていく。
敵本陣のど真ん中なのに、随分と余裕だ。若葉さんなんて、カメラ撮影を始めてしまう程である。
だが、その余裕が続いたのは、南殿を通り抜けるまで。南殿の真っ赤な扉を開けて見えたのは、大きく開けた広場。その広場の真ん中には、こちらに構える4人の男女。民族衣装に身を包み、煌びやかな装飾品で着飾っている。そして、その彼女らの後ろには、真っ赤な主柱がそびえ立ち、その上に黄金の像が乗っている。
あの金ピカが、テダ様の像らしい。
「「「おぉお…」」」
広場の中央に視線を奪われていた蔵人達に、周囲から小さな響めきが押し寄せる。そちらを見ると、広場を囲う様に柵がされており、その柵の向こう側には、大勢の観光客がこちらに好奇の目を向けていた。
「来た!来たよとうとう、ここまで!」
「6人も生き残ってるなんて、これはもしかしたら、もしかしたらが起きるかもよ!」
「やしが、殆ど見たことない子達やさ。内地の子がや?」
「おばあ。先頭に立っとるんは、那覇尚高校の比嘉ちゃんやさ!」
観光客の中には地元の方々もいらっしゃるみたいで、隊長さんに「頑張れよー!」と声を掛ける人もいた。
歓声やカメラのフラッシュが降りしきる中、蔵人達は広場の中央へと歩みを進める。
鶴海さんのレーダーには、目の前の4人以外に敵意を向けてくる人はいないとの事。
つまり、この4人を倒せば我々の勝利だ。
だが、その4人が問題らしい。
こちらへとズンズン進んで来る若いお姉さんを見て、隊長さんの足がピタリと止まった。
「舞那姉やし。Aランクのフィジカルブーストで、5年前にタッチを成功した強者さ…」
隊長さんの解説が聞こえたのか、舞那さんは仁王立ちになって立ちはだかり、ニヤリと笑う。
「よぉ、渚。まさかCランクのおまえがここまで来るなんて思わなかったさー」
「私の力やないよー。みんながとても強かったからさー」
「内地の子達やね。中学生って聞いとるやが、ここまで来れるんやったら、本気で相手しようね!」
そう言うと、舞那さんが突っ込んで来た。たった一歩踏み込んだだけで、5m以上あったこちらとの距離を、一瞬で詰めてしまった。
目の前に迫った舞那さんが、拳を振り上げる。隊長さんを真っ直ぐに見て、ニヤリと笑った。
不味い。
そう感じ取ると同時、蔵人は隊長さんの前に滑り込み、用意していたランパートを構えた。
そのランパートに、舞那さんの拳が突き刺さる。
衝撃。
体が浮き上がりそうになり、盾の中央が大きく凹む。だが、貫通されることなく拳を押し留めた。
それを見て、舞那さんの目が大きく見開かれる。
「うぇっ!?」
驚きで動きを止める舞那さん。
そんな彼女の脇腹に、鈴華のパチンコ玉が急襲する。
その攻撃自体には全く動じなかった舞那さんだが、自身の体が急に重くなったことに、再び驚きの表情を浮かべた。
「ぐっ!な、なに?」
膝に手を着き、苦しそうに顔を上げる舞那さん。
流石はAランクのブースト。今までの相手みたいに、地面に這いつくばることは無かった。
だが、それで十分。動きを大きく制限された舞那さんに、桃花さんが走り寄る。
そして、
「えぇえいっ!」
圧縮された風の弾丸を、舞那さんに押し当てる。
舞那さんは空高く吹き飛ばされ、赤い屋根の方へと落ちて行く。その途中で、ふと消えた。
ベイルアウト。
「「「うぉおおおお!!」」」
「凄い…。妨害用の鬼を倒しちゃった…」
「普通、鬼を避けてタッチを狙うものなのに…」
なんと、そう言う趣旨だったのか。そう言えば、如何にタッチするかに重点を置いた祭だったな。
今になって趣旨を思い出した蔵人だったが、ここまで来たら全員倒そうと気持ちを切り替える。下手に避けようとして、ベイルアウトされたら元も子もなくなるから。
そう思って黄金像に近づく蔵人達だったが、残った3人は主柱の前で悠然と構えていた。Aランクの仲間を倒されたというのに、全く動揺している素振りは無い。それはつまり、彼女達も舞那さんと同レベルの力を持っていると言う事。
3人の内2人は男性だ。黒い着物の様な民族衣装に身を包んだ50代くらいのおじさんと、水色のアロハシャツを着た20代の青年。
その2人に挟まれて立つのは、紫色と緑色のシックな民族衣装を着た30代の女性。深く鮮やかな蒼色の長髪が、彼女の異能力がアクア系の高ランカーであることを表している。
彼女を見る隊長さんの表情は、硬い。
「尚瑛海様よ。このお祭りの主催者様で、地元で一番強い人さ…」
ふむ。権力と腕力を兼ね備えた女性ということか。
蔵人は更に構えを深くする。
それを見て、尚様が動いた。
膨大な量の水を出現させ、それを上空で大きく旋回させる。まるで水龍の様に空を泳ぐそれに、観光客からも大きな歓声が上がる。
流石は主催者。ただ強いだけでなく、魅せ方まで心得ているとは。
水龍を見上げながら、感心する蔵人。
すると突然、水龍の顔がこちらを見下ろした。顎を大きく開き、そこに生える大剣の様な刃を見せつける。
そして、
一気に突っ込んで来た。
「(高音)トリオ・ランパート!」
構えたトリオランパートに、水龍の刃が突き刺さる。
押し返されそうになる盾を、別の盾で支えて耐え続ける。
そして、
耐えきった。
トリオは2枚が貫通されたが、1枚は健在であった。
威力で言えば、二条様並の攻撃力。九鬼会長程ではなかった。
「ふむ。流石は全日本の覇者。一筋縄ではいかぬか」
蔵人が尚様を値踏みしていると、彼女はこちらの正体を看破してきた。
ランパートを見て察したのか、はたまた権力者故の情報網か。
「では、これでどうかな?」
尚様がそう言った途端、彼女の魔力が膨れ上がった。先ほどよりも更に大きく、狂暴になる黒水の魔力。その出所は、彼女の傍に立つ青年から。
彼が歌い出した事で、尚様にバフが掛かっていた。
「Bランクハーモニクスの新垣さんよ。尚様の秘書をされてるさ。その隣は金城さん。Bランクバリアの看護師さんやさ」
つまり、AランクにBランクのバフが乗っていると。
その凶悪なSランクの顎が、蔵人達の方を向いた。
不味い。
「(高音)若葉さん!桃花さん!」
蔵人は2人の返答も待たず、その手を取る。
だが、彼女達は直ぐに応じてくれて、2人の魔力が流れ込んで来た。
「クイン・ランパート!」
全ての魔力を賭して、目の前に五重のランパートを作り出す。周囲に風を纏い、盾の外周に金属フレームが入った超強化ランパート。
それに、膨れ上がった水龍が激突した。
途端、ズシンッと重い衝撃がこちらに伝わる。
盾を嚙み砕こうと大口を開ける水龍が、目の前で水しぶきを上げる。ガギギギッ…と嫌な悲鳴が強化ランパートから上がる。
そして、
水龍が、消えた。
超強化ランパートは、3枚を残して生還した。
そう、安心したのも束の間で、蔵人の肩がグイッと引っ張られる。
見ると、目を少し細めた鈴華がそこに居た。
…ちょっと、不機嫌か?
「ボス、次はあたしとだ」
そう言うが早いか、鈴華が蔵人の右腕に抱き着いて来る。
彼女の魔力が、流れ込んでくる。
いや、逆だ。
何時もとは逆に、魔力が持っていかれる。魔力が、鈴華に吸われていく。
「あぁっ!あたしの中に、ボスの熱いのが流れ込んで来てるぞ!」
「(高音)言い方!鈴華、言い方!」
必死な蔵人の訴えも何のそので、鈴華は腕を真っ直ぐに伸ばす。
その先には、顔を青くし肩で息をする尚様が居た。
「行くぜ。メタルストライク!」
鈴華はそう言うと、周囲に鉄盾を生成した。
なっ!そんな事も出来るのか!?
驚く蔵人を置き去りに、鈴華は鉄盾を尚様に向かって飛ばした。
だが、途中でバリアに阻まれてしまった。
尚様を守るように、おじさんが立ちはだかる。
「くそっ。バリアかよ」
「(高音)鈴華。まだよ」
伸ばした手を下ろしそうになる鈴華に、蔵人はそっと手を添える。
そして、
「(高音)アイアン・メイデン!」
弾かれて空中を漂っていた鉄盾を操作し、バリアに張り付かせて一面を覆い尽くした。
そして、そのバリアの内側に向けて、思いっきり圧力を掛ける。
「あたしもやるぜ!マグネット・フォース!」
鈴華の磁力も加わり、バリアに更なる圧力がかかる。
バリアが、ミシリミシリと悲鳴を上げ始めた。
崩壊は、時間の問題だ。
「巻ちゃん!」
そう思った蔵人の元に、鶴海さんの悲痛な叫びが降りかかる。
「魔力反応確認!正殿の方から…3、5、10、どんどん集まって来ているわ!」
なにっ!
蔵人は驚いて正殿の方を見る。すると、正殿の大扉が勢いよく開き、中から大勢の大人達が飛び出してきた。
「遅くなりました、尚様!」
「わーらも加勢すんどー!」
「若いんに負けてられんわ!」
「「おおっ!!」」
くそっ!ここに来て敵の増援。しかも、20人は下らない数だ。
どうする?今からホワイトアウトは間に合わない。一旦逃げるしかないか?
蔵人は自然と、退路を振り返っていた。
だが、その希望も、
「後方からも魔力反応!」
鶴海さんの悲鳴で、潰えた。
このイベント中、御庭から出るには正殿と後方の南殿からしかルートは無い。つまり…。
万事休す。
後方から聞こえる増援の足音と雄たけびを聞いて、蔵人はここまでなのかと手を下ろしそうになる。
だが、その時、
「「「わぁああああ!!!」」」
「カシラぁあ!援軍に来たで!」
南殿から現れたのは、大人達ではなかった。
泥だらけの民族衣装に身を包んだ高校生達と、彼女達を先導する伏見さんだった。
まさか、本当に外の敵を全員倒してしまったのか!?しかも、本隊が合流してるし!
「行くで!みんな!ウチに付いて来ぃ!」
「「「おおっ!」」」
「姉御!一生ついて行くやし!」
南殿から雪崩込んで来た伏見さん達が、正殿から湧き出る敵援軍へと襲いかかる。途端、蔵人達の周囲が、混戦状態に陥った。
「(高音)鈴華!」
「あいよ!ボス!」
蔵人の掛け声に、鈴華は直ぐに反応する。
何時襲われるか分からない状況。ならば、一刻も早くバリアを破る必要がある。
蔵人達は再び、バリアに圧をかける。
バリアの表面に、浅いヒビ割れが走った。
もう少し。
「尚様達を守れ!」
「あの銀髪の子だ!」
蔵人達の方に、2人の大人が駆け寄ってきた。
くそっ。もう少しなのに。
眉を顰め、近付く大人達の方を見る蔵人。
だが、蔵人が手を出す前に、
「私が行くよ!」
「こっちは僕達に任せて!」
若葉さんと桃花さんが、迎撃に向かった。
助かった!
蔵人達はバリアに意識を向け直す。
圧力を、更にかける。
そして、
バリアが割れた。
真ん中から崩落したバリアは、溶ける様に消えていった。バリアに圧をかけていた鉄盾は、そのまま尚様達に張り付いて、彼女達を地面になぎ倒す。
今だ。
「(高音)行け!隊長さん!」
「分かったよ!」
隊長さんが、太陽神目掛けて真っ直ぐに走る。
「渚だー!」
「止めーや!」
その彼女に、焦った様子の大人が駆け寄る。
おっと、そうはいかないぞ。
「(高音)シールド・ファランクス!」
「花道は邪魔させねぇよ!」
蔵人達のシールドが、像までの道を舗装する。
大人達は盾に邪魔され、その中に入れない。
隊長さんだけが、その花道をひた走る。
そして、
「取ったんどー!」
「「「わぁあああ!!!」」」
隊長さんが両手で像を掲げ、戦乱続く御庭に向かって声を張るあげた。
途端、大人達は戦闘を止めて拍手を送り、観光客と高校生達は歓声を上げた。
5年振りの偉業が、達成された瞬間だった。
「そんではー。私ら那覇尚高校とおーじょー連合の勝利を祝してー!」
「「「乾杯!!!」」」
その日の夜。
蔵人達は隊長さんに誘われて、デージエイサーの打ち上げに参加していた。
場所は、ホテル近くの海辺。そこで、バーベキューパーティーを催すことになった。費用は全部イベント主催者様。きっとこれが、副賞なのだろう。
勝利の宴だから、共に戦った高校生達だけかと思いきや、対戦相手の大人達や、観光客らしき人達も合わさった大宴会となっている。
隊長さんの乾杯の挨拶が無かったら、なんの祝賀会なのか分からなくなる所だった。
でも、それだけ人が集まれば、自然と盛り上がるもの。
宴会開始から、みんなハイテンションだ。
「みんなー!テダ様も祝福してくれてるさー」
「おお!神々しいねー!」
「よーしっ!もう1回胴上げや!渚ごと胴上げすんどー!」
「「「おお!!」」」
「よっしゃ!ウチらも胴上げに加わるで。みんな、ウチに付いて来ぃ!」
「「はいっ!姉御!」」
「一生、付いて行くやし!」
伏見さんも大人気だ。宴会前から大勢の女子高生に取り囲まれて、すっかり彼女達のリーダーになっている。
そして、変化があったのは彼女だけではない。向こうの席で、祭月さんと琉成君が何かやり取りをしていた。
おっ!これは…。
「祭月さん!何を飲んでるの?」
「わ、私のは、ただのリンゴ…いや、烏龍茶だ!大人だから当然だろ?そう言う琉成君は、何を飲んでいるんだ?」
「これかい?ルートビアさ」
「なっ…!?高校生が、ビールだと…?私より、遥かに大人ではないか…」
また、祭月さんがカルチャーショックを受けている。
言っておくが、そいつにアルコールは入ってないぞ?ビールっぽいのは、名前と見た目だけだ。
若人達の甘酸っぱい青春を肴にしていると、蔵人の元にも誰かが近づいて来た。
深い蒼色の髪。
尚様一行だ。
「楽しんでいらっしゃいますか?巻島様」
「(高音)これは、尚様。態々お声掛け下さり、ありがとうございます。楽しませて頂いております」
「それは何よりです」
含み笑いを浮かべる尚様に、蔵人は笑顔の仮面を貼り付けたまま、怪しむ。
この沖縄の支配者である彼女が、一体、何をされに来たのかと。
「巻島様。何かご不便など御座いませんか?」
「(高音)不便…?いえ、とても快適に過ごさせて頂いております」
「そうですか」
訝しむ蔵人の前で、尚様はホッとした顔になる。
「もしもご不便が御座いましたら、私共にお声掛け下さい。最大級のおもてなしをする準備がございますので。では」
そう言い残し、尚様はあっけなく去って行った。
その後ろ姿を見て、鈴華が首を捻る。
「何しに来たんだ?」
「きっと、私達に良い印象を与えたかったんじゃないかしら?」
鶴海さんの言う通りだろう。
尚様は、こちらの正体に気付いている。きっと、全日本チャンプをもてなして、沖縄に良い印象を持って欲しかったのだと思う。
「そっかー。だったら、お勧めの穴場スポットでも聞いときゃ良かったなぁ」
「そしたらさー。うみそら公園がお勧めよ」
鈴華のぼやきを返したのは、頭をボサボサにされた隊長さんだった。
お祝いと称して、撫でられまくったらしい。さっきまで持ってた太陽神のレプリカも、誰かに奪われてしまったみたいだ。
分かるぞ。我々も、都大会の優勝カップを校長先生に奪われたからな。
「公園?そこに何があるんだ?」
「特に何もなんよ。海と浜と、ちょっと猫がいるだけさ。でも、不思議と力が湧いて来るんよ」
「(高音)力?」
「そうよー。元気んなるから、騙されたと思って行ってみれー。すぐそこやし」
ふむ。地元民のパワースポットだろうか。
蔵人は少し、興味が出てきた。
そんな時、
ッバァアアン!
会場上空で爆発が起こる。
何事かとそちらを見ると、
「この爆発で、大学生も倒したんだ!凄いらろ?琉成君!」
「わぁああ!ルートビアで、祭月さんが酔っ払っちゃった!アルコール入ってないのに!」
酔った祭月さんが、男子高校生に絡んでいた。
全く、羽目を外し過ぎだ。
蔵人は重い腰を上げて、級友を回収しに行くのだった。
首里城攻城戦、何とか無事に終わりましたね。
「城を壊さんで良かったな」
本当ですよ。しかも、鈴華さんともシンクロ出来たみたいでした。
「あ奴の魔力を吸い取るとは、久我嬢らしい」
そう言うパターンもあるのですね。




