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338話~ちむちむどんどんさせるさー!~

「みんな!頑張って(ちばって)行こう!」

「「「おー!!」」」


首里攻城戦…もとい、デージエイサーに参加した蔵人達は、地元の中高生と共に、決起会に参加していた。

決起会と言っても、受付の横にあるスタートライン付近で集まり、今回の参加者で「頑張ろう!」と声を合わせるだけである。


集まったのは60名近くの中高生。その内、蔵人達と同じ観光客は他に2組だけ。後は全て地元の子だ。

何故、地元民か分かるのか。それは、彼女達が色鮮やかな法被を着ているからだ。

琉球衣装という着物だとは思うのだが、赤や黄色に彩られていただろうそれらは、今は泥だらけで判別が難しい。それと同じくらい、彼女達の顔色も疲労が色濃く表れていた。


「次で勝ちたいやさ」

「体力も限界やもんね」


試合前からヘロヘロの彼女達だが、それも仕方が無い。聞いた話、彼女達は何度も城へ攻め入っては、返り討ちにあっているそうだ。

このデージエイサーだが、鶴海さんに教えて貰った以外にも、ローカルルールがあった。

大体、こんな感じだ。


・制限時間は30分。この間に攻めきれなければ、何処まで攻め入っていてもスタートラインに戻らなければならない。

・その後、1時間後に競技がスタートする。

・参加者は、どのタイミングでも参加可能だし、ベイルアウトしても、次の試合に出ることが可能。


つまり、1日に何度も挑戦する事が出来るので、彼女達の服は泥だらけなのだ。今日は午前中に1回、午後に1回が開催されていて、あと15分後には本日の3回戦が始まる。

若い彼女達でも、流石に疲れが見え始めていた。


「みんな、ちばってこう!今回は助っ人も来てくれとるんやからね」


疲れた彼女達を鼓舞する様に声を張り上げて手を叩くのは、なんと男子高校生。

そう、このデージエイサーの参加者には、男子生徒の姿もあった。その数は、見える範囲でも5人。なかなかの参加率だ。

東京特区であれば、女子に囲まれた男子は小さくなる人ばかりだが、ここにいる男子達は女子にも負けず、声を張り上げ手を叩き、このデージエイサーを盛り上げている。

これが、沖縄の男性なのだろう。おおらかで明るい性格の沖縄県民だから、男女の壁も薄いみたいだ。


「ハイサイ!助っ人のみんな。今日は参加してくれてありがとう!」


蔵人が男子達に視線を送っていると、その内の1人が近づいて来て、蔵人達に笑顔を振りまいた。日に焼けた、とても爽やかな笑顔だ。

蔵人の隣で、祭月さんが「ほけー」って顔をしている。食い気しかない彼女を魅了するとは、なかなかやりおる。


「(高音)こちらこそ、快くお祭りに参加させて頂き感謝します」

「お祭りなんやから、当たり前さー。みんなは内地(沖縄の外)から来たんがや?」

「そうだよ!僕達は東京特区の桜城生なんだ!」


桃花さんが得意げに言うと、男の子だけでなく、男の子の向こう側にいた女子高生達も目を大きく開いた。


「うわぁ〜。東京の人が加勢してくれるんだ。めっちゃ嬉しいさー」

「これ、今回は勝てるかもしれんよ?」

「どうする?正面の本隊に入ってもらう?」

「いやいや。中学生言うとるが。琉成(りゅうせい)君達と同じ、側面隊やら」


どうやら、入る組によって難易度が変わるらしい。正面から切り込む本隊は特に、攻撃が集中し易い。

蔵人達は中学生ということで、比較的安全な側面隊に回して貰える事になった。

その隊は、蔵人達7人の他に6人の地元高校生が組み込まれた。琉成君の他に、もう1人男子が居る。


「みんな、頑張ろうね(ちばりよー)!」


この隊の隊長である女子高生が、元気な声で隊員を鼓舞する。


「あや。とても(しに)可愛い子がいっぱいやね。みんな、無理せんでねー」


隊長さんが蔵人達の前に来て、桃花さんの頭を撫でる。

可愛いと言っているが、隊長さんも桃花さんと同じくらいの背丈だから、同じ可愛い部類の人だ。

そんな小さな隊長さんに、鈴華がずいっと進み出る。


「おいおい、隊長さん。あたしらを舐めて貰っちゃ困るぜ」

「ウチらは桜城ファランクス部。ビッグゲーム3位の学校やで」


伏見さんも便乗して、ドヤ顔で仁王立ちになる。

そんな2人にも、隊長さんは「うんうん」と微笑み掛ける。


「頼もしいさー。(わん)もファランクスやったことあるから、ちばろうねー」


のんびりした口調で、不思議と癒される。

沖縄特有の方言と言うのもあるが、隊長さんの優しい人柄が滲み出していた。


だが、そんな和やかな雰囲気は、試合が始まるまでだった。


「「「うぉおお!!」」」

「行くどー!今度こそ!」

「テダ様の太陽は、うちらが救うかんね!」


試合開始の合図と共に、4つに別れた軍団から幾つもの雄叫びが響く。


挿絵(By みてみん)


蔵人達が所属する第4軍からも、隊長さん達の声が響く。


「行くよー!みんな!心をワクワク(ちむちむどんどん)させるさー!」

「「おおっ!」」

「おおっ!」


地元高校生に混じって、祭月さんも拳を上げる。

元気なのは良いけどね、祭月さん。隊長さんの方言分かってる?


第4軍団は他の軍団と足並みを揃え、首里城へ向けて丘を登っていく。

蔵人達が登る方面の丘は傾斜が急で、木や朽ちた外壁等の障害物が散乱していた。それ故に、中央よりも登りにくく、相手からも狙われにくかった。


ズドーンッ!

ドガーンッ!


その中央では、早くも戦端が開かれていた。

丘を登って来た本隊に対し、首里城を囲う土壁の上から、大人組が異能力の砲撃を容赦なく放つ。それを、本隊の高校生達はシールドや障害物でガードしていた。

ガードしながらもジワジワと前へ進み、隙を見ては反撃を試みている。


「止まれし!前に出過ぎやど!」

「金城のおじぃが頭出しとるよ!今撃たんと!」

「あれは誘いやさ!近くに島袋のおばあが隠れとるよ!」


まるで、本物の合戦みたいだ。

彼女達は必死に攻撃を繰り出し、少しでも前に進もうとしている。

これだけ本気なのは、この戦いが多くの人に見られているから。観光客もそうだが、攻撃している大人達の中には、それなりの地位を持つ方々もいる。彼ら彼女らに力を示して、進学や就職を有利にしようとしているのだ。

特に、首里城本殿で守られている像、テダ様の銅像にタッチ出来れば、大変な名誉と副賞が貰えると噂されている。情報が不確定なのは、タッチの成功率が低いからだ。聞いた話、この5年はタッチどころか城内への侵入も叶っていないそうだ。


「そやからさー。今年こそは、私達(わんら)がタッチしよねー」


蔵人達が遮蔽物に隠れて大人組の攻撃をやり過ごしていると、隊長さんがのんびりした言葉で、でも目を輝かせて教えてくれた。

それに、鈴華も便乗する。


「面白そうじゃん。5年も出来なかった事を、あたしらがやってのける。それでこそ桜城ファランクス部よ」

「大学生にも余裕で勝ったウチらや。ケチ臭いこと言わんで、10回くらいタッチしたるわ!」


伏見さんもやる気になっている。

良いねぇ。やるからには本気じゃないと。仮令、我々に恩恵が薄くとも、全力で楽しむ事こそがお祭りの醍醐味だ。


蔵人達は更に気合いを入れて、丘を登っていく。

だが、首里城が近付くにつれて、大人組からの攻撃が激しくなってきた。威力も弾数も増えて、遮蔽物の影から動けなくなりつつあった。


遮蔽物が豊富にあるサイドはまだマシだ。中央から攻めている本隊は、かなり悲惨な事になっていた。


「ダメだー!これ以上は進めんよー」

玉城(たまき)がやれらたさ。夏子も海美(うみ)も限界やら!」

「あいさー!一旦退却するやし!」


盾役がやられ、遠距離役にもベイルアウト者が続出している本隊は、少し下がって体勢を整えるらしい。

それもそうだろう。彼女達の足は、中盤から全く動いていなかった。彼女達は本日3度目の挑戦。体力と魔力もそうだが、精神的にも苦しい状態にある。スタート時にはやる気で誤魔化していたが、仲間がやられて一気に疲れが出たみたいだ。


そうして中央の本隊が引いてしまうと、次に攻撃されるのは突出した両サイドの3番隊と4番隊。

蔵人達の方に放たれる弾幕の濃度が、また一段濃くなった。


「これは厳しいさー。みんな、当たらんように気を付けようね」


隊長さんが、困った様な笑みを向けてくる。

これは、諦めようとしているのかな?本隊が引いてしまい、少し弱気になっているみたいだ。

ふむ。ではそろそろ、我々が前に出るか。


「(高音)隊長さん。私が前に出ます。援護をお任せしてもいいです?」

「あらー?まだ頑張ると?あんま無理せんで、ベイルアウトせんように気を付けてね?」

「(高音)はい。気を付けます」


蔵人は頷き、大人組の攻撃が止んだ隙に遮蔽物から飛び出た。そして、瞬時に水晶盾を生成する。


「(高音)シールド・ファランクス」


5枚の水晶盾を前面に並べる。そうすると、蔵人達の部隊は完全に盾で隠れた。


「(高音)さあ、皆さん。この盾に隠れながら前進しましょう」


蔵人は数歩前に出てから、みんなを振り返って手招きする。

だが、来たのは何時ものメンバーだけ。地元高校生達は、目を見開いて盾の防御陣を見詰めるだけだった。


驚いた(あぎじゃびよい)!。シールドがいっぱい(でーじ)出てきたよ。もしかして君、Aランクがや?」

「(高音)いいえ。私はCランクよ。それより、早く行きましょう」


立ち止まっていては良い的だ。今でも、盾を脅威と思った大人達がバシバシ攻撃してきていて、水晶盾の表面を削っている。

このままでは持たないので、出した水晶盾の裏に膜ともう一枚の水晶盾を重ねて、ランパートに仕立てる。そうしても、高ランクを揃える大人達に対しては、何時まで持つか分からない。

蔵人は高校生を急かして、斜面を突き進んでいく。


城壁に近づくにつれて、大人組からの攻撃が増す。距離が近くなる分、弾丸の威力が減退せずに着弾しているのだ。


だが、それはこちらも同じ事。

蔵人は後ろを振り返り、祭月さんに視線を送る。


「(高音)盾に火薬を積んで貰える?」

「私の出番ってことだな?まっかせろ!」


何時も以上にハイテンションな祭月さん。腕を前に出し、蔵人が浮かせる小さな鉄盾のホーネットに魔力を込める。

それを、蔵人はシールドファランクスの隙間から、土壁上辺で弾幕を張っている大人達へと飛ばす。

最初は迎撃しようとしていた大人達だが、それが自分達よりも遥か上を通り過ぎようとしているのを見て、放置した。

狙いが反れたとでも思っているのかな?良い勘違いだ。

蔵人は笑みを浮かべ、


「(高音)起爆!」

「ホイ来たっ!」


ッバァアアンッ!!


ホーネットを爆散させた。

吹き飛ばされたホーネットの鉄片が、大人達の頭上で雨あられと降り注ぐ。途端に、爆発音に負けないくらいの悲鳴や怒号が、土壁上辺で飛び交った。

その反対に、スコールの様に撃ち込まれていた大人達の弾幕が消えた。


「何人かベイルアウトしたみたいね」


鶴海さんが、アクアキネシスのレーダーで調べてくれた。今回の攻撃で、2人がベイルアウトしたそうだ。

予想よりもかなり少ない戦果ではあったが、予想通りに迎撃は弱まってくれた。


「あきさー。凄い攻撃やったんやー」


隊長さんがお目目を丸くして、小さく手を叩いている。他の高校生も、すげぇ~っと目を丸くするばかりだ。

賞賛は嬉しいですが、今がチャンスですよ?


「(高音)隊長さん、今の内よ!」

「はいよー。みんな、土壁までダッシュするさー!」

「「おお!」」


蔵人達は、一気に首里城に向けて距離を縮めていく。

それを見た大人達が、急いで弾幕を復活させる。

だがその度に、蔵人と祭月さんの盾爆弾が空を飛び、相手陣地に鉄の雨を降らせる。高校生達も、それに倣って異能力弾を放った。


「これは行けるさ!今日イチで近づけてるね!」

「よっしゃ!一気に攻め込むんやさ!」


隊長さんの調子も戻ってきた。鈴華達も肩を回し始める。

そろそろ、彼女達の射程範囲に入るからだ。


「進め!4軍に続け!」

「このビッグウェーブを逃したら、海人(うみんちゅ)の名が泣くど!」


本隊の方面からも、威勢のいい声が幾つも上がる。ここからだと見えないが、大人組の意識がこちらに集中している今、隙を突いて登ってきているみたいだ。

その証拠に、観光客が登っている通路の方から、大きな歓声が上がる。


「頑張れ、みんな!もうちょっとで頂上だよ!」

「凄い凄い!男の子もこんなに頑張って、お姉さん泣きそうよ!」

【良いねぇ!日本の学生達。見てるこっちまで楽しくなってきた!よーしっ。今からでも参戦して、城壁に大穴開けてあげるよ!】

【止めるんだ、エメリー。キャッスルは乱入禁止だ】

【えーっ、折角のお祭りなんだよ?全く、マーゴットも日本人も、お堅いなぁ】


興奮した海外の学生さんが、乱入しようとしている。

それ自体は困ったことだが、みんなの心を動かしている証拠だろう。


首里城を囲む土壁が、目前まで迫って来た。

ここまで来ると、大人達の遠距離攻撃は鳴りを潜め、土壁の前で待ち構える大人達の姿がはっきりと見える。

その数、ざっと20人程。

その内の6人がこちらへと駆け寄って来て、残りは壁の警備に専念する様だった。


一気に襲って来なくて助かる。同数でぶつかり合えば、年齢でも連携でも不利なのはこちらだから。少人数で出てくるなら、囲みこんで撃破することも可能だ。


そう思って前に出る蔵人達を、隊長さんの硬い声が止める。


「あや〜。島袋おばあが出て来たんさ」

「(高音)島袋おばあ?」

だからよ(そうだよ)。Aランクのアクアキネシスさ。大嵐でも海へ出る、無敵のうみんちゅやさ」


なるほど。Aランクがいるから尻込みしているのか。

ならば、我々が対応するか。


蔵人は隊長さんの制止を振り切り、こちらに迫る大人達に対して前に出た。


〈◆〉


島袋おばあが出てきてしまっては、どうしようもない。一旦引き返して、別の方面から攻めよう。

そう思って、私が指示を出そうとしたら、内地の子が前に飛び出してしまった。

中学生のリーダーで、巻ちゃんって呼ばれてる子だ。

彼女の後ろを、金髪の子と銀髪の子も追う。

不味い。

彼女達を追って、私の足も動いていた。

だって、幾ら凄いシールドが出せる彼女でも、島袋おばあの相手は流石に無理だ。

焦る私。でも、おばあ達は容赦がない。巻ちゃん達目掛けて、極太の鉄砲水を放った。

そして、


「あり?!」


その水柱は、巻ちゃんの出す不透明なシールドによって、見事に防がれた。

島袋おばあの攻撃を防ぐなんて、やっぱこの子はAランクなんじゃ?


私が驚きで目を瞬かせていると、巻ちゃんの両側から、金髪と銀髪の子が飛び出した。


「喰らいなっ!マグナバレット!」


銀髪の子は、威勢よく何かを投げつけた。

パチンコくらいの鈍色の玉。まるで弾丸の様に空中を飛んで行った攻撃だが、大人達が出した土の壁によって防がれてしまった。

知念(ちねん)おじーだ。Cランクのソイルキネシスで農業している元気なお爺ちゃん。守りに入られたら厄介なんだよね。どうしよう。

そんな風に思っていたら、おじーの出した土の壁が動き出した。そこだけ地震でも起きてるのかと思うぐらいにグラグラ揺れて、そのままおじー達に向かって倒れ込んだ。

おじー達は土に挟まれてしまい、土壁と一緒にベイルアウトしてしまった。


何が起きたの?!


驚く私を飛び越えて、今度は金髪の子が躍り出た。私を飛び越えた勢いそのままに空高く舞い上がり、上空から大人達を見下ろす。

彼女の背中から、薄らとサイコキネシスの腕が見える。


「ほな、次はウチの番や!」


そう言って笑ったかと思うと、サイコキネシスの腕が残った大人達に伸びて、グルグル巻にしてしまう。そして、動けなくなった所に飛び込んで、殴り飛ばしてしまった。


瞬く間に、島袋おばあの周りにいた大人達が、次々とベイルアウトしていく。その様子に、私も、琉成達も驚くばかりだった。

あやや。本当に凄い子達だ。スタート前にビッグゲームがどうのと言っていたのは、本当だったんだ。

そう驚いたのは、おばあも一緒だった。


「てーした中学生だや。やしが、まだまだわーらは負きてねーんさ!」


おばあが特大の水球を作り、それを私達の方へと放った。おばあのその手から離れた途端、巨大な水球が細かく割れて、無数の弾丸となってこちらへと迫って来た。

物凄く濃い水の弾幕。当たれば、押しつぶされそうな程の物量。

だけど、こちらに着弾する前に、


「アイアン・ドーム!」


巻ちゃんが放った盾が、全て受け止めてしまった。

私もおばあも、お口をあんぐりと開けるしか出来なかった。

驚きに体を硬直させたおばあ。その体に、何か黒っぽい縄の様な物がぐるりと巻き付く。次いで、おばあに向かって強烈な光が放たれた。


「うっ!」


いつも毅然としているおばあも、それには大きく目を逸らした。

その光の元に視線を向けると、カメラを構えたポニテの女の子が居た。


「今だよ!桃ちゃん!」

「おっけー!」


目をくらませたおばあに、桃ちゃんの小さな体が迫る。風を噴出する両手を後ろに回し、おばあとの距離を一気に縮める。そして、おばあの懐に入ると、その両腕をおばあのお腹に向けて、勢い良く風を吹き出した。


「ぐっ…う…」


風の直撃を受けたお婆が、苦しそうな声を吐きながら後ろに吹っ飛ばされた。そして、直ぐに消えてしまった。

ベイルアウト。

信じられない。あのおばあが…。


おばあの姿が消えると、その向こう側の大人達の様子が見えた。

みんなAランクが倒された事で、私達を警戒している。でも、ジワリジワリとこちらに近付いている。向こうの壁からも援軍を呼んでいるみたいで、どんどん数が増えている。

どうしよう。この人数を相手に、正面から突撃するのは無理だ。巻ちゃん達もきっと、魔力が少なくなっているだろうし。


一旦、本隊が来るまで引こう。

そう提案しようと巻ちゃんを振り返ると、彼女は土壁に体を向けて、深く構えていた。

彼女の隣には、今まで静かだった紺色の髪の子が寄り添っている。


「ここよ、巻ちゃん。この向こうなら誰も居ないわ」

「ありがとう、鶴海さん」


巻ちゃんはそう言って、


「シールド・クラウズ」


大きな輝く盾を出して、それを高速回転させ始めた。

まるで1本の槍の様に見えるそれを土壁に押し当てる、すると、硬く分厚かった壁が見る見るうちに削れて言った。

私達の攻撃ではビクともしなかった土壁に、大穴が空くほどの威力。


「巻ちゃんはSランクやったど?」

「いいえ。でも、一点に集中すれば、CランクでもSランク並の威力が出せるんですよ」


よく分からなかったけど、巻ちゃん達が凄いのは十分に分かった。


人1人が余裕で通過できる大穴に、私達は次々と入っていく。すると、ジワリジワリと近づいていた大人達が、これは不味いと追撃の足を速めた。

このままだと挟み撃ちになってしまう。誰かが、外の大人達を相手にしないと。

私がその相手になろうと立ち止まると、誰かが目の前に立ち塞がった。

琉成君達だ。


「ここは俺達に任せて、比嘉(ひが)さんは先に行ってくれ」

「私達の分まで頼んだよー、(なぎさ)

「首里城内部はあんたが1番詳しいから、巻さん達を案内してあげて」


高校の仲間達はみんな、穴の外側へと戻っていく。私達が攻略する時間を稼いでくれる為に。でも、彼らだけでは太刀打ち出来ない。相手は大人で、琉成君達より人数が多い。多分一瞬で蹴散らされてしまう。

そう思ったのは私だけではなかったみたいで、巻ちゃん達の仲間からも、殿(しんがり)に進み出てくれた。


「ふっふっふ。ここは私に任せて先に行け!…くぅ~っ!一度は言いたいセリフを言えたぞ!」

「アホ言うとらんで、さっさと地雷仕込むんや!」


爆発の子と、金髪の子だ。

彼女達が残ってくれるなら、大人達も直ぐには追って来られないだろう。巻ちゃん達の主力をここで割くのは痛いけど、仕方が無い。


「おい、早紀。しっかりと足止めしとけよ」

「抜かせ。足止めだけやのうて、全員しばき倒したるわ!」


…金髪の子が、フラグっぽいのを建ててる気もするけど…大丈夫だよね?


「みんな、ありがとー。無理せんとーや?」


若干の不安も感じるけど、彼女達の熱い思いはとても有り難い。私達も、それに答えないと。

私が振り返ると、巻ちゃん達が待っていた。彼女達の後ろには、真っ赤に聳える首里城の姿がある。


「さぁ、みんな。テダ様まではあとちょっとやからさ。私に着いてきやー!」

「「はいっ!」」


私は巻ちゃん達を連れて、首里城内部へと突撃した。

Aランク、Bランクの大人達が大勢待ち構える中、中高生がそれに挑む…。

成功率は、かなり低そうですね。


「それ故に、5年間誰も辿り着けんのだ」


…防御人員を緩和しては?


「攻略させることがメインではないのだろう」

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― 新着の感想 ―
逆に何をどうしたら突破出来るのですかねぇ…覚醒者複数人で突破出来るものを一人じゃ出来そうにありませんし…偶々Aランクが複数人いたのですかねぇ…
のどかな風雲!首里城イベント?に、この世界が免れたはずの悲劇・鉄の暴風を再現する異能力侵略者が!(違 巻島家としては是非とも伝手が欲しい?練達のうみんちゅ婆様だったけど、お忍び参戦だしねぇ 桃花さ…
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