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332話~俺も勝手にするから~

バレンタインデーから数日が経った日曜日。

蔵人はいつも通り早朝に起床し、鏡を見て自分の顔を確認する。

その顔は、変装が施されていない何時もの顔だ。今日は大野さんが任務で外出しており、橙子さんが変装担当となっていた。まだ変装が始まっていないと言う事は、彼女がまだ夢の中にいると言う事だろう。

どうするかと思案していると、自分の顔に見慣れない痕が残っているのが見えた。左頬に、赤くなったニキビが1つ。そいつの頭をツンツンしながら、蔵人はため息を吐く。


「(低音)う~ん…やはり、チョコを食べ過ぎましたか」


貰ったチョコは、無理して食べなくてもいいとは言われたが、親しい人達から頂いた分だけは口を付けたいと思った蔵人。

だが、そうして選んでみると、かなりの数が選出されてしまったのだ。学校で貰った物だけでなく、後から郵送で送られてきた物もかなりの数あった。


結局、蔵人が口にしたチョコは、

学校で貰った、若葉さん、桃花さん、鶴海さん。

郵送で届いた、広幡様、円さん、河崎さん、久遠さん。

巻島家まで届けに来た、櫻井先輩と海麗先輩。それに、瑞葉様と流子さん、柳さんの分まであった。


殆どの人のチョコは小粒程度だったので、直ぐに完食してしまった蔵人だったが、約一名だけ強者がいた。

円さんだ。

彼女のチョコは…なんとハート形の2段ホールケーキだった。

ウェディングケーキかと錯覚しそうになるそいつを、さてどうするべきかと悩んだ蔵人。だが、一緒に添付されていた手紙に〈初めて作ったケーキですので、見栄えも味も自信がありません。思いだけでも届けばと思い、お贈りしまいた〉なんて殊勝な事が書かれていたので、蔵人は数日かけて食べ尽くした。手紙も〈とても美味しかったです〉と返信してある。

そして…結果が、これだ。


「(低音)いえ。このような贅沢、嘆けば罰が当たります」


彼女達は俺を思って、こうして労力を惜しんで形作ってくれたのだから。

そう思った蔵人は、素顔とニキビを隠す様にマスクをして、頭にバンダナを巻いた。

今日、蔵人は1人で音切荘の家事を回さなければならない。相方の大野さんは昨晩、急な出張だと言って寮を飛び出してしまったから。

かなり焦った様子だったので、緊急発進(スクランブル)の指令があったのかもしれない。

相手は他国か、それともアグレスか。後者であれば、付いて行きたかったが…。


「(低音)さて、気持ちを切り替えて行きましょう」


自分に言い聞かせるように言葉を吐いた蔵人は、マスクの上から軽く頬を叩く。


1階に降りた蔵人は、手早く朝の準備を始める。

先ずは朝ごはんの下ごしらえを行い、続いて洗濯物を回す。それが済んだら、リビングの床掃除と机の上を掃除する。それが終わる頃には洗濯機も終わっていたので、回収する為に脱衣所へと向かった。

と、その途中の廊下で、


「あっちぃ~」


Tシャツ一枚で、首元を引っ張ってパタパタと仰ぐレオさんと鉢合わせした。

どうやら、朝練を終えてシャワーを浴びに来たようだ。


「(低音)おはようございます、レオさん」

「あぁ。洗濯か?良いぜ。先に入れよ」


レオさんが待ってくれるみたいだ。

急いでいたので有難い。

蔵人は滑るように脱衣所へと入り、洗濯機から洗濯物を引っ張り上げていく。と、何気なく取りだした洗濯物を広げてみると、それは黒いブラジャーであった。

随分とカップ数の大きなブラだ。これは、橙子さんじゃないよな。恵美さんのか?大きいとは思っていたけど、16歳でこんなに大きいのか?いや、でも海麗先輩は15歳でこのレベルだから、特区の女性は史実よりも成長段階が早いということか。ならば、異能力が人体に何らかの影響を及ぼしているのだろうか?


「なんだよ、じぃさん。女の乳に興味があるのか?」


固まっていた蔵人に、レオさんが後ろから声をかけて来た。


「(低音)ああ、これは大変な失礼を。直ぐに退きますので…」


再起動した蔵人がブラジャーをかごに入れて、レオさんに向けて謝ろうと振り返る。

と、そこには、既にTシャツを脱いだ状態のレオさんが立っていた。


「ちょっ!…(低音)ちょっと待ってください!レオさん!もう、直ぐに退きますので!」

「ぁん?別に勝手にやってろよ。俺も勝手にするから」


そう言って、ズボンまで脱いでしまったレオさん。もう、パンツ一丁である。

蔵人はレオさんに背を向けて、出来るだけ早く洗濯物をピックアップする。だが、焦れば焦るだけ手元が狂う。

くそっ!落ち着け。相手はたかが16歳の少女。怖がるな。この世界に男性側の冤罪は無い…筈だ。

昂る感情を鎮めようとする蔵人。それを面白がるように、レオさんの声が背中をくすぐって来る。


「おいおい、じぃさん。俺のこんなちっせぇ乳に、なに興奮してんだよ?」

「(低音)レオさん。大きいとか小さいとかではなくてですね。貴女はもう少し、ご自身の体を大切にするべきですよっ」

「へぇ」


少し説教臭くなってしまった蔵人の言葉に、レオさんは不機嫌になるでもなく、寧ろ何かを面白がるように声を漏らした。

次いで、

蔵人の背中に、温かくて柔らかい、何かが当たった。

いや、それが何かは明白である。レオさんの体だ。レオさんがピッタリと、くっ付いて来たのだ。


「(低音)どう、されました?レオさん」


動揺で声が高くなりそうなのを押さえる蔵人。

そんな蔵人に、レオさんは構わず体を押し付ける。


「やっぱ面白れぇな、じぃさん。女の裸見て興奮するなんてよ。普通の男なら、俺が脱ぎだした段階でベソかいて逃げ出しちまうぞ?」


ああ、そうか。それがこの世界の常識。さっきの彼女の問いは、こちらを図る為の物だったのか。

蔵人は洗濯物を引き上げていた手を引いて、コメカミを押さえる。

突然の逆セクハラに混乱していたとはいえ、深く考えず口走ってしまったのが原因だ。今更、取り返しはつかない。

さて、どうやってこの窮地を抜け出そうと、蔵人が思考を掻き巡らせていると、背中に接していた柔らかい感触が消える。

そして、


「なぁ、じぃさん。俺に付き合えよ」


有無を言わさないレオさんの指示が飛んで来た。

これは、断れないだろう。

蔵人は小さく肩を落とした。



それから、洗濯を干し終わった蔵人は、服を着替えたレオさんに中庭まで連れてこられた。


「じゃあやるぞ、じぃさん。俺の動きを、しっかりと見てろよ」


そう言うと、レオさんは何時もやっている様にシャドーを始めた。

蔵人はそれを、傍で眺めているだけである。


脱衣所でレオさんは、蔵人にも朝練に参加するようにと誘いをかけて来た。

だが、そんな物に参加してしまえば、正体がバレるのは必須。なので、蔵人は自身の設定をフル活用し、「老体なので体が動かないから、見学だけにしてくれ」と願い出た。

流石のレオさんも、それには同意せざるを得ず、代わりに「じゃあ、俺の動きを見て、じぃさんの意見をくれよ」と言って、蔵人を此処まで連行していたのだった。


女性を怖がらない男性は、それなりに強い。

そういう法則が、彼女の中にはあるらしい。それ故に、女性の裸体を直視しても、恐怖ではなく興奮が先に来た蔵人を強者だと思ったらしい。


…その理論だと、サーミン先輩や竹内君みたいな人種も含まれると思うのだが、彼女にはそれらをも嗅ぎ分ける何かがあるのだろう。

ここに住まう人達は、将来の特殊部隊員。異能力とは関係ない、何らかの特殊技能を有していても不思議ではないのだ。


そんな将来有望な兵隊であるレオさんだが、シャドーもそれなりに切れのある動きであった。

素早い動きで拳を繰り出し、最後まで伸び切った拳から鋭利な風が吹き出して、周囲の空気を切り刻んでいた。

彼女の攻撃には全て、見えない刃が付随していた。

エアロキネシス。使い方は何処か、剣聖を思わせる。


「はぁ、はぁ、はぁ、ぅん…。どうだ?じぃさん。俺の動きは」

「(低音)素晴らしいキレでした。私など、目で追うのがやっとでしたよ」


レオさんの評価を表現するために、蔵人は小さく拍手をしながらそう言った。

その途端、彼女は「あぁ?」と低い声で凄み、鋭い視線をこちらに寄越してきた。


「おべっかは要らねぇよ、じぃさん。アンタが見たまんまを言え」

「(低音)そうですか。それでは…」


レオさんの低い声に、蔵人は考え込み、先ほどの彼女の動きを思い出す。

そんな姿を見せるだけで、レオさんの目は期待の籠った光を宿す。

うん。何かい?君の凄味に屈しない俺を見て、先ほどの持論に、更に確信を持ってしまったのかな?

そんな彼女の意図に気付いた蔵人だったが、今更だ。もう遅いと諦めて、口を割る。


「(低音)素人意見で恐縮ですが、少々、体の軸がブレている様に見えました。体幹の筋肉が足りないのかと?」

「あぁ?俺の筋肉が足りねぇだと?俺はなぁ、毎日スクワットと腕立てして、ベンチプレスも上げてるんだぞ!」


一気に機嫌が悪くなるレオさん。

それに、蔵人はゆっくりと首を振って、自身のお腹辺りに手を当てる。


「(低音)私が申しているのは、腕や足の筋肉ではなく、体の内側の筋肉…インナーマッスルです」

「インナー?マッスル?なんだそれは。下着か?じぃさんは下着趣味なのか?だから恵美の…」

「(低音)断じて違う!」


ごほっ、ごほっ。

つい、取り乱してしまった。


「(低音)よろしいですかな?インナーマッスルとは、体や関節の中心にある筋肉の事です。背骨や内臓を支える筋肉と思ってもらえればよろしいかと。これらの筋肉が弱ると、人の運動能力は著しく落ち、骨すらも歪んでしまいます。逆に、鍛え上げれば強靭な体幹を得ることができ、バランス感覚が向上します。それにより、運動能力や戦闘能力が飛躍的に向上するでしょう」

「要は、腹筋ってことか?」

「(低音)腹筋もインナーマッスルの一つです。ですが、それが全てではありません。インナーマッスルとは、目には見えにくい部分にあるのです」

「じゃあ、どうやって鍛えんだよ?」


懐疑的なレオさんの目に、蔵人はエプロンを外して腕まくりを…しようと思って止めた。

まだ橙子さんが起床していないのか、老化が始まっていない。実物を見せながら説明しようと思ったけど、今それをしたら馬脚を露してしまう。

仕方なく、蔵人はそのままの格好で庭に四つん這いになり、片手と片足を地面から離した。


「(低音)この状態を暫くキープすることで、内部の筋肉が鍛えられます」

「はぁ?そんな程度の事で、筋肉が育つ訳ねぇだろ?」

「(低音)いえ、インナーマッスルは弱い筋肉である為、高負荷の筋トレは厳禁なのです。それに、これだって長時間続けると結構クルんですよ?」


蔵人は立ち上がり、膝に着いた落ち葉を払い落としながらそう言った。

そんな蔵人を、レオさんは鼻で笑って地面に屈む。


「ふんっ。この程度、俺なら何時間でも耐えられるぜ」

「(低音)ああ、ここでは汚れるので、家の中でやりましょう」


という事で、レオさんは早速、インナーマッスルの筋トレに取り掛かった。

だが、流石にそろそろ皆さん起き出す頃なので、縁側で這い蹲る彼女に幾つかアドバイスを残してその場を去る。そして、急いでキッチンに戻り、朝食の準備に取り掛かるのだった。



朝食を終えて、一通りの家事を片付けた蔵人は、近所のスーパーへ買い出しに行った。

護衛兼、変身役の橙子さんと一緒に行ったので、特に問題なく帰宅することが出来た。

だが、買ってきた食材を冷蔵庫に入れようとキッチンに向かうと、リビングで何かを探している恵美さんを見かけた。

何処か、顔色も悪い気がする。一体、何を探しているのだろうか?


「(低音)どうかされましたか?恵美さん」

「ひぃっ!あっ、なんだ。家政夫さんか…」


怯える様に飛び上がった彼女だが、こちらを認識すると同時に小さく息を吐いた。

一体、誰だと思ったのか。声質からすると、大野さんとでも誤認したのかもしれない。

彼にバレると不味い事でもしたんじゃないかな?例えば、ガラスを割ったとか。火遊びして何処か焦がしたとか。


「(低音)何かにお困り事でしたら、ご協力させて下さい。ああ、勿論。秘密は守りますよ?」


蔵人が優しい口調でそう言うと、イタズラ猫ちゃんは隠し事がバレているとでも思ったのか、顔を青くして目をキョロキョロさせた。

そして、観念した様に息を吐いた。


「実は、部屋でコーヒーを零しちゃって。カーペットが大変な事になっちゃったのよ」

「(低音)ああ、なるほど。コーヒーですか。でしたら何とか出来るかもしれません」

「ホント!?」


急に顔色が良くなった恵美さんに、蔵人は力強く頷く。


「(低音)ええ。カーペットの色は何色ですか?」

「えっと、白っぽいやつ」

「(低音)ふむ。でしたら、あれも使えますね」


蔵人はキッチンと台所から、幾つか必要な品をピックアップしてから恵美さんに連れられて、彼女の部屋へと向かう。

だが、部屋の扉前まで来て、ふっと思い出した。


「(低音)あっ、そうでした。入室規制がかかっていましたね」


絶対に部屋に入るな!というお達しを、初日に食らっていたのを思い出し、ドアノブへと伸ばしていた手を引っ込めた。

すると、


「し、仕方ないわ!背に腹はかえらないもの。大野さんにバレたら、今度こそ追い出されちゃうかもしれないし」


蔵人を通り越して、恵美さんがドアを開けた。

そして、こちらを怖い顔で振り返る。


「いいこと?私の部屋についての感想は一切求めてないから!あなたはただ、コーヒーのシミの事だけに集中して」

「(低音)心得ております」


部屋の中を見られることが、相当気に障るらしい。

蔵人が恭しく頭を下げると、恵美さんは硬い表情のまま部屋へと入り、蔵人を手招く。

そして、そんな強硬な彼女の態度は、彼女の部屋に入った途端に判明した。


蔵人の部屋よりも少し広め"だった"であろうそこは、所狭しと物が散乱していた。

脱ぎ散らかした服や雑誌、漫画等が床を彩り、壁際には幾つも上着やズボンが掛けられている。空いたスペースにはポスターが貼られており、その全ては輝くような笑顔を向けてくる少年の物であった。


「(低音)マサさんですね」

「えっ!家政夫さん、ステップ×ステップを知ってるの!?」

「(低音)ええ。一般常識程度ですが」

「そっかぁ。お爺さんにも知られているんだ。そっかぁ」


表情を崩し、嬉しそうに頷く恵美さん。

つい言葉を漏らしてしまったが、汚部屋の事でないからセーフみたい。

良かった。


安全が確保された蔵人は、早速現場へと視線を向ける。

そこでは、1つの白いコーヒーカップが倒れており、赤茶色の中身を白いカーペットへと吐き出していた。

現場がそのままと言う事は、余程慌てていた証拠だろうな。


蔵人は現場に座り込んで、先ず被害者を助け起こす。

幸い、カップの中身は殆ど飲まれていたみたいで、シミは手のひら程度しか広がっていなかった。


「ね、ねぇ。何とかなるの?」


蔵人が現場検証をしていると、心配になった恵美さんが背中越しに話しかけてきた。

蔵人は顔だけ振り向き、しっかりと頷く。


「(低音)はい。このロートルにお任せを」


蔵人は持ってきたバケツから重曹を取り出し、それをシミの上にサラサラと振りまいた。

そうして暫く放置した後、乾いたタオルで重曹を拭き取り、仕上げに掃除機を掛けた。

すると、


「うわぁ、凄い!真っ白!」


何処にシミがあったのか分からない程度には、カーペットは白さを取り戻した。それを見て、恵美さんは感嘆の声を上げる。

蔵人は立ち上がり、恵美さんに小さく頭を下げる。


「(低音)直ぐに対処したのが幸いでした。また、何かあればお声がけ下さい」

「ありがとう、黒戸さん!ホント感謝してる!」


蔵人の手を取り、小さく飛び跳ねる恵美さん。

その笑顔が見れただけで、やったかいがあったというもの。

自然と、蔵人の顔にも笑みが浮かんだ。


〈◆〉


酷い世の中だ。

そんな思いが追い付きそうになり、俺は家路を歩む足を速める。だが、どうしても暗い思いが背中にのしかかり、自然と視線が足元へと落ちていった。


今回の任務は、違法薬物を扱う組織の一斉検挙であった。

特区の外で起きていた事件とは言え、この日本で、しかも特区の直ぐ近くで行われていることに、俺は衝撃を受けた。それは、この日本の治安が悪化している様に思えたからだ。

ロシアやアメリカの様に、無法地帯が出来上がってしまったら大変だ。


日本はアグレスの侵入を許していない。それ故に、治安も他国とは比較できない程良好であった。だが、この様な事件が増えてくれば、アグレスの問題に関係なく、治安の悪化は避けられないだろう。

この根底にあるのは、男女の格差。もっと言えば、魔力量の格差が原因だ。

黒騎士が発破をかけた事で、世間は随分と前向きになっている。だが、まだまだ足りない。何せ、この事件の裏には、海外の麻薬組織が関係しているらしいから。


「ひでぇ世の中になったもんだぜ、本当によぉ」


心に溜まった鬱憤を、玄関の戸を開ける前に吐き出し切る。そして、暗かった顔に活を入れてから、玄関の扉を引いた。


「おぅ。帰ったぞー!」


って言っても、誰も迎えには来ねぇだろうがな。

そんな皮肉を思い浮かべながら、俺は泥だらけの靴を脱ごうとする。

だが、そんな俺に向かって、複数の足音が近づいて来た。


「お帰りなさい、大野さん。お疲れ様でした」


出迎えてくれたのは、爺さんだった。

ああ、そうだ。こいつが居たんだったなと、俺が少し安心すると、爺さんの背中から人影が飛び出した。


「お帰り~寮長」

「お帰りなさいませ!寮長殿!」


美来と橙子だ。橙子が出迎えてくれるのは分かるが、美来は意外だったな。爺さんに付いてきたのか。

すっかり懐いたもんだと、俺が苦笑いを浮かべていると、


「…お帰り」

「遅かったな、寮長」


恵美と玲央(レオ)まで来やがった。

なっ!こいつらが出迎え!?今まで一度もなかったじゃねぇか。爺さんか?爺さんに手篭めにされたのか?

俺が驚きで固まっていると、恵美が不機嫌そうにこっちを睨んできた。


「もうっ、何よその目!黒戸さんが言うから、出迎えてあげたのに」

「おい、寮長!早く来いよ!飯が冷めちまうだろっ」


呆然とする俺を置いて、恵美と玲央はリビングへと戻って行った。

それを、爺さんは困った顔で見送っている。


「おい、爺さん。何をやった?」


漸く動ける様になった俺は、爺さんに問いかける。

だが爺さんは、とぼけた顔で「特に、何も」なんて抜かしやがる。

嘘に決まっているだろ。恵美と玲央があんな風になるなんて、何かとんでもないハプニングが無いと説明が付かない。

例えば、そう、爺さんの正体がバレたとか。


俺は答えを求めて、橙子に目配せする。だが、橙子は静かに首を振るだけだ。

…少なくとも、爺さんの正体はバレてねぇのか。だが、だったら何があいつらの心を動かしたっていうんだ?

俺が訝しんで爺さんを見上げていると、爺さんはこちらに手を差し出して来た。


「お荷物をお預かりしますよ、大野さん。お夕飯は出来ていますし、お風呂もすぐご用意出来ます。どちらになさいますか?」

「はっ!なるほどねぇ」


それを見て、俺は納得した。


「爺さん。あんたまた、やらかしたなぁ」

「ええっ!?わ、私が、また?」


慌てる爺さんを見て、俺は首を小さく振る。

全く。この人ったらしの中学生(くそじじい)が、と。

蔵人さん、寮の皆さんとも馴染めたみたいですね。


「これを馴染んだと言って良いのかは分からんがな」


取りあえず、バレないようにだけはして欲しいですね。

あと、円さん…。


「ホワイトデーをどうするかだな」


※訂正※

インナーマッスルは、プランクなどの体幹トレーニング以外でも育つそうです。

ベンチプレスなど、高負荷なトレーニングを行っていると、自然と体幹も使う様で。


「読者からの情報提供だな」


はい。私も知りませんでしたので、大変勉強になりました。

ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
まさか河崎先輩のチョコが予選通過するとは、このリハクの目をもってしても…てな感じなんですけど、いやまあ読者視点からしても変な人では無いし、蔵人視点でも他校の頼りになる先輩って感じだから一切マイナス感情…
黒騎士のポスターが貼られてなくてよかったですねぇ
男バレリスクの危険時間が存在というのは、なんとも素敵な時限爆弾・・・ >< クアンタム家事で見えない妖精さん路線でも気付きそうな娘が居るし、巻ちゃんとして入寮してもお風呂イベント 不可避w、いっそ最…
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