327話~トヨコク良いじゃん!~
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開幕、他者視点となっています。
「……誰だ?」
えっと……誰でしょう?
よく晴れた土曜日。
今日僕は、お母さんとお姉ちゃんと護衛の大原さんと一緒に、神奈川特区の遊園地に行くんだ。
何時もは、近くの公園にしか行けないからつまんないけど、今日はすっごく楽しみ。
だったんだけど…。
「つまんない」
だって、さっきから車が全然進まないんだもん。
もうすぐ着くよってお母さん言ってから、もういっぱい待ったのに、全然景色が変わんない。
僕は気持ちがモヤモヤしたから、運転しているお母さんにそう言ったんだ。そしたら、僕の隣に座ってたお姉ちゃんが、慌てて僕の頭を撫でつけた。
「大丈夫だよ、カズくん。もう着くから。ねっ!お母さん」
「そうよ。渋滞も少しずつ動いてるから、もう抜けるわ。ねぇ、大原さん」
「一輝様。もう少しの辛抱ですよ」
お母さん達はそう言うけど、本当はまだ着かないんじゃない?
僕が不満と不安で顔を顰めていると、ルームミラー越しにお母さんが笑顔を向けてきた。
「ほら、カズ君。窓の外を見てごらん。おっきい飛行機が飛んでるよ」
「ホントだ!カズくん、見て見て。凄いね~」
お姉ちゃんも必死になって、窓の外を指さす。
僕も飛行機は見たい。けど、もっと見たいのは観覧車やメリーゴーランドなんだ。
僕は車の窓に張り付きながら、分かってくれないお母さん達に小さく不満を漏らす。
それで?飛行機はどこなの?
「カズくん。上だよ。あそこの雲の、端っこの所」
お姉ちゃんの指先を辿ると、大きな雲の塊があって、そこをもっと大きな飛行機が飛んでいた。
…うん?飛行機?
僕はそれを見て、おかしいなって思ったんだ。
だってそれは、翼がなかったんだもん。飛行機って、かっこいい翼が2枚あるでしょ?でもそこを飛んでる飛行機は、翼が無くて、胴体だけのヘンテコな奴なんだ。
ヘンテコな形。でも、何処かで見た事ある気がする。
あれは…確か…。
僕が思い出そうとしたら、
俺の頭の中で、何かがフラッシュバックした。
それは、まだ俺が子供だった頃に見たテレビアニメ。そこに出て来た兵器に、目の前の飛行物体はよく似ていた。
そいつは…。
「機動戦艦…」
「えっ?せんかん?」
口を滑らせた俺の言葉に、姉さんが呆けた顔を晒していた。
そんな彼女に、俺は小刻みに首を振る。
「ううん。何でもないよ」
そう言って俺は、もう一度窓の外を見る。
だがその時には既に、あの船は何処かに消えていた。
もう少しで、何かを思い出せそうだったのに。何か大切な記憶と言うか、大切な人と交わした約束があった筈なんだ。
俺はそれを思い出そうと、機動戦艦が浮いていた辺りをずっと眺めていた。
でも、幾ら目を凝らしても、二度とそいつを見ることは叶わなかった。
〈◆〉
2月に入って最初の土曜日。午前10時。
静岡県上空、高度3000m。
そこには、雲を突き抜けた大きな船が1隻、進路を西に向けて悠々と航行していた。
航空母艦、蒼龍。
蔵人達のシンクロである。
巨大シンクロの館内で、若葉さんの声が反響する。
『ねぇ、蔵人君。なんで急に、艦底にクアンタムシールドを貼ったの?』
『うん。何となくだけどさ、下から視線を感じた気がしたんだ。下手に通報とかされたら面倒だろ?』
『航行の許可は取ってるのに?考えすぎじゃない?ただでさえ、こっちには男の子が2人もいるんだよ?』
『まぁ、そうなんだけどさぁ』
男の子云々の部分は分からなかったが、航行の許可は警察から降りている。ちゃんと、許可証も携帯しているし、飛行機高度も守っている。
だから、考えすぎと言う若葉さんの意見も分かる。
だがね。下は高速が通っているから、見上げた事で事故ったりされたら堪らんのよ。
今日は桜城ファランクス部と大学生の練習試合の日だ。練習会場が相手校を指定したので、蔵人達は今、名古屋特区に向かって航行中であった。
本当なら、鈴華達と一緒に新幹線での移動をしたかったのだが、そうするとメディアに囲まれた時が厄介であった。
みんなに迷惑は掛けられないからね。
そこで蔵人は、相手校までは異能力で個別移動をする事で、メディアの意表を突くことにした。
だが、そのことをみんなに相談した際に「連れて行って欲しいな?」と若葉さんから上目遣いで誘惑されてしまった。我々は旅費が全額支給されるが、彼女の場合は自費になってしまうらしい。大きな大会とかなら新聞部からも出るのだが、練習試合は出ないそうだ。
なので、慶太や桃花さんも誘って、こうして蒼龍で移動することになったのだった。
『ところで3人とも、体調と魔力の方はどんな感じ?そろそろシンクロしてから30分が経つけど』
『私は問題ないかな。問題があるとしたら、この状態だとカメラが使えないことだね』
『オイラも!モーマンタイ!』
『ぼ…だ…いじょ…ぶ…』
3人とも、まだ行けるとの元気な返答。
ただ桃花さんだけは、まだ完全にシンクロが出来ている訳じゃないからか、声がハッキリしない。無理している可能性も考慮しないと。
蔵人は次に、搭乗員である彼女に意識を向ける。
『橙子さん。聞こえますか?体調は如何でしょう?』
「はっ!異常ありません。何時でも任務遂行可能であります」
相変わらず、ハキハキとした答えが返って来た。
今回の練習試合には、彼女にも同行してもらっていた。
大学に着いてからは勿論の事、途中で休憩する場合も変装が必要だからね。相談したら2つ返事で着いてきてくれた。
今彼女は、蒼龍の中にいる。盾と膜で簡単な椅子を作って、そこに座ってもらっている。
のだが、
うーん…。無理してないか分かり辛い。
『えっと、館内では快適にお過ごしでしょうか?』
「はっ。気温、湿度共に快適であり、振動も無いため旅客機よりも快適であります」
うん。そいつは良かった。だが、暖房とかは無いから、旅客機の方が快適だと思うんだがね?
シールドと膜で何処まで断熱が出来ているのかと、蔵人は不安になる。ここは高度3000m。何かあってからでは大惨事である。目下に大きなパーキングエリアもあるので、ここら辺で小休止としよう。
『みんな、あそこのパーキングで一旦トイレ休憩にしよう』
『『『はーい!』』』
「了解であります!」
そんな小休止も加えながらの遊覧飛行だったが、目的地には1時間程で到着した。
東京から名古屋までが300km程だから、時速300km/h以上が出ていた計算になる。1人では到底出せない速度だ。
4人でのシンクロだからか?それとも、乗り物系のシンクロだからなのか?
大学のキャンパスは、広大な敷地の左半分が校舎や実験棟となっており、右半分がグラウンドや庭園、小さな農場となっていた。
大きな大学なのは確かだ。史実の一般的な大学と比べても、敷地や建物の大きさ、デザイン等は格段に上等なもの。
だが、桜城のそれと比べてしまうと、少々見劣りする。
やはり、我らが母校は、相当な金を費やして作られている様だ。
蔵人達は上空でシンクロを解除して、大学の正門前まで盾で降り立つ。
大きな門扉は右半分が開いており、閉まっている左半分には〈関係者以外の入場お断り〉と書かれた看板が吊り下げられていた。
うん。これだけなのか?桜城では常に門は閉まっており、警備員も複数人見張っている。ここの警備員は門の前に立たないのか?
心配になりながらも、蔵人は門の横に設置された小屋…警備員の詰所で入場の手続きを行う。
既に話は通っているみたいで、蔵人達全員に首から下げるタイプの入場許可書を貰った。
これで、構内の建物も自由に見学可能となった。一部の実験棟は、教授の許可が改めて必要となるらしいが。
「ああ、でも。君達は気を付けなさいよ」
守衛のおばちゃんが、蔵人と慶太を見て不安そうな声を出す。
ここは特区だからね。男性は珍しい。
特に大学ともなると、男子の割合がかなり減るらしい。男性は高校生で家に入り、花婿修行をする子が多いから、大学まで進む人は教師や医学部に進む人が殆ど。この大学にも獣医学部があるらしいが、キャンパスは別にあるのだとか。
それ故に、構内に男子は皆無なのだとか。
なるほど。そいつはヤバい。ゾンビの巣でタップダンスを踊る様なものだ。
蔵人は後ろを振り返り、橙子さんを見上げる。
「橙子さん」
「はっ!お任せ下さい!」
何も言わない内に、橙子さんの魔力が蔵人と慶太を包む。
髪が肩まで伸び、肩やお尻が丸みを帯びて、胸が膨らむ。
橙子さんのメタモルフォーゼ。いつもよりも変化の箇所が少ないのは、2人分の変身をしているからだろうか?
「おおっ!オイラ、女の子になったぞ!」
受付の窓に反射する自分自身の姿に、慶太は興奮気味に声を上げた。
うん。慶太よ。面白がっているのは良いのだが、構内では静かにな?お前さん、声は男のままだから。
「(高音)ありがとうございます、橙子さん。では皆さん、行きましょうか」
蔵人は4人を連れて歩き出す。
蔵人を除く3人は、大学構内に入った事が無いのか、物珍しそうに周りを見回している。
「これが大学なんだね。僕初めて入ったよ。なんか、研究所とか、ゼミとかの案内札が掛かってるけど、ゼミって何だろ?あの通信教育の事?」
「西風様。ゼミとは大学で行われる、少人数グループの勉強会だったと記憶しております」
「へぇ。そうなんだ。流石は高校生ですね」
「恐縮です」
最初は高校生の橙子さんに遠慮気味だった桃花さん達だが、航行中に彼女が無害な人だと分かったのか、フランクに話しかける様になってきた。誰にでも分け隔てなく接してくれる彼女に、好感を持っている様だ。
…ちょっとクソ真面目過ぎて、年下にまで様を付けている部分は気になるが。
構内は随分と活気があった。研究者っぽい学生が白衣のまま走り去って行ったり、派手な衣装を着た集団が楽し気に闊歩していた。桜城よりは規模が小さいと思った構内も、こうしてみると桜城よりも活気にあふれている様に見える。きっと、様々な分野の娘達が集まっているから、そう見えるのだろう。
これぞ大学生だなぁと、蔵人が懐かしく思って見回していると、大きなザックを背負った2人組がこちらに近づいて来た。
「あれ~?もしかして、キャンパス見学に来た高校生?」
「おっ!未来の探検部員かな?ようこそ豊国へ!」
ふむ。どうやら我々を高校生と勘違いして、いずれ新入部員になるのではと期待させてしまった様だ。自分と橙子さんは背もあり、今は普段着だから、余計にそう見えるのだろう。
しかし、探検部?そんな部活もあるのか
「(高音)こんにちは、先輩方。我々は桜城中等部のファランクス部員です」
「ええっ!?中学生!?」
「見えな〜い。凄いしっかりしてる〜」
お姉さん達は、蔵人と橙子さんを交互に見て、驚き合っている。
「でも、ファランクス部員って事は、うちのファランクス部を見に来たってこと?」
「凄いね!まだ中学生なのに。場所分かる?私達が案内しようか?」
おお、案内してくれるのか。
蔵人がお姉さん達に分からないと答えると、2人は大きな荷物を背負いながら「こっちこっち」と案内してくれた。
第3グラウンドで行われるとしか聞いていなかったので、正直助かる。
お姉さん達のザックを追って歩いていると、道すがら2人から話しかけられた。
「みんなは何処から来たの?オウジョーって言ってたけど、大阪の方?それとも関東?」
「僕達は東京から来ました!桜坂聖城学園を略して桜城って呼んでるんだよ」
「へぇ。やっぱ東京はオシャレな名前だね。私らの学校なんて豊国だよ?」
「トヨコク良いじゃん!オイラ可愛くて好きだぞ!」
そぉおおいっ!喋るな慶太!
焦る蔵人だったが、それを見たお姉さん達は楽し気に笑った。
「あはは。可愛いか。確かにちょっと愛嬌があるよね。でも、君の声も可愛らしいね。まるで男の子みたい」
「オイラ女の子だぞ!」
「あはは。ごめんごめん。君は立派な女の子だね」
うぉおお…こええ…。このお姉さんが超天然で助かったぁ…。
蔵人は、寿命が3年縮まる思いだった。
「でも、態々東京から見に来てくれる程、ウチらの学校ってファランクス部強かったっけ?」
「どうだろう?県大会出場って旗は見かけた気がするけど」
「ウチ、ミスお嬢がいるから苦手なんだよね。ファランクス部って」
「(高音)ミスお嬢、ですか?」
蔵人が声を上げると、超天然お姉さんが振り返った。
「そうそう。ミスお嬢。去年の文化祭ミスコンで優勝して、何時も偉そうだからそう呼ばれているんだ」
「ウチらが呼んでいるだけで、別に本物のお嬢って訳じゃないよ?ただAランクで顔が良いからって、威張ってるお姉さんなのよ」
「ファランクス部の次期エースらしいからねぇ」
なるほど。Aランクで次期エース。こいつは要注意人物だ。
蔵人は心に留める。
2人の先輩達と会話していると、いつの間にか目的地に到着していた。
四方を金網のフェンスに囲まれた広大なフィールドの中で、黄色いプロテクターを着込んだ女子大生達が走り込みを行っている。その向こうでは、前衛の盾部隊らしき人達がシールドバッシュの練習に勤しんでいた。
やっている事は桜城の基礎練に似ているが、迫力が違う。やはり体が出来上がっている大学生の方が、異能力もパワフルに見える気がする。
これは、楽しくなりそうだ。
「ちょっと!部外者は近づかないでくれる?」
蔵人達がフェンスに寄りかかって練習風景を見ていると、練習していた選手の内数人が、こちらへと駆け寄って来た。
周りの人達よりも少し豪華なプロテクターを着た選手達は、蔵人達からフィールドを隠す様に、横一列で並んだ。
練習風景を見られたくないという事だろうか?ならば、フェンスではなく壁で仕切ってしまえば良いだろうに。
随分と威圧的な彼女達の態度に、探検部の先輩方が肩を怒らせる。
「部外者じゃないでしょ?同じ学校の生徒なのに」
「そうだよ。この前の大会は、私達も応援に行ってたんだよ?」
「ふんっ。弱小部活の貴女達なんか来なくても、私達の勝利は変わらなかったわ。だって、エースであるこの私が居るんだから」
集団の中央でボス面していた選手がヘルメットを取り、大きな胸に手を当ててドヤ顔でそう言った。
そうすると、長く燃える様な赤い髪が左右に流れ、太陽の光を受けてより鮮明に輝く。まるで、彼女が高ランクである事を見せつける様に、蔵人には見えた。
多分、この人がミスお嬢なのだろう。
そんなお嬢に、先輩方がグイッと前に出て、こちらを指さした。
「私達の事はどうでも良いけど、後輩の前で恥ずかしい事は言わないでくれない?」
「東京の中学生達が、態々見学に来てくれたんだよ?」
「東京?中学?貴女達、そんな嘘を真に受けたの?お笑い種ね。きっとその子達、他校のスパイよ。今日は特別な練習試合があるから、偵察に来たのよ」
ああ、そう言う考え方もあるのか。
蔵人は納得しながらも、睨み合う先輩達の間に入る。
「(高音)お話中にすみません」
「あら?何かしら?」
「(高音)私達は桜城ファランクス部です。その練習試合で対戦して貰うために来校しました。他の部員はもうすぐ到着予定です」
「ふんっ。また見え透いた嘘を。私達が中学生相手に試合を組む訳ないでしょ?」
あら?話が通ってない?
何か手違いがあったのかと、蔵人が心の内で焦っていると、お嬢はフィールドを振り返った。
「今日の練習試合の相手は特別なチームだって、コーチが言っていたもの。きっと、アメリカの選手達が来日したんだわ。来月に交流試合が開かれるから、その下見ってことでね」
ああ、なるほど。
名推理だとはしゃぐお嬢の前で、蔵人は静かに納得する。
今回の練習試合について、コーチや学校側には話が通っているが、選手達には伝えていないみたいだ。
きっとそれも、黒騎士対策の一環。
黒騎士が所属する桜城が来ると分かれば、マスコミや野次馬が押し寄せてしまう。だから、情報を漏らしやすい生徒達には秘密にして、試合をセッティングしたのだろう。
至って合理的な対応、そして…。
アメリカとの交流試合か。
蔵人は、大学の校舎を振り返る。
流石は、名前に国際が入っている大学だ。きっとアメリカだけでなく、様々な国と交流があるのだろう。
大学生との試合も楽しみだが、海外勢と試合を組んでみるのも面白そうだ。
まぁ、そんな機会があればの話だが。
蔵人はお嬢達に視線を戻す。
少しだけ、彼女達が羨ましく思った。
「あら?噂をすれば」
お嬢達が蔵人達から視線を外し、向こうの方を見て不敵に笑った。
「ほら、見てみなさい。多分あれが、本物の練習試合の相手よ」
蔵人も、それに吊られてそちらを見る。
すると、そこには、
「おーい!ボスぅう!!」
白銀鎧を着た鈴華が、手を振って歩いていた。
彼女の後ろにも、白い集団がズラリと並んでいる。
その数、ざっと50人。
出場する選手だけでなく、サポートや見学として部員全員が動員されていた。
それだけの人数が纏まって移動しているものだから、周囲からは注目の的だ。一体何処の大学だと、道の端で立つ女子大生達は目を丸くする。
そして、その先頭で手を振っている美少女を目にすると、ほぉ…と魂が抜けそうなため息を吐いた。
「ほぉ…」
探検部のお姉さんも、魂が抜けそうだ。
彼女の肩を、超天然お姉さんが揺する。
「見てよ、コムコム。あの子めっちゃ美人。ドラマの撮影とかかな?」
「う~ん…こっちに来るって事は、ファランクス部員なんじゃない?」
「えっ。じゃあ、君達のお友達?」
はいそうですと、蔵人は頷こうとした。
だがその前に、蔵人の目の前に白銀鎧が迫って来ていた。
「ボスぅうううう!!」
「(高音)うわっ!鈴華!その格好で飛び込んで来るんじゃない!突進力が上がってんだよ!」
「良いじゃんかよ。減るもんじゃないし」
「(高音)減るわ!命と精神がなっ!」
あまりに危険な鈴華の振る舞いに、蔵人はつい地で突っ込んでしまった。
そんな蔵人と鈴華の背中に、無数の視線が突き刺さる。
振り返ると、豊国ファランクス部員の皆さんが鈴華に注目していた。揺れる度に輝く鈴華の銀髪に、ほぅ…っと見蕩れていた。
「キレー」
「アメリカの選手?」
「ロシアじゃない?」
「交流試合にロシアって居たっけ?」
「何処でも良いじゃない。こんな綺麗な子、初めて見た…」
いつも以上に注目を集める鈴華。
きっと、構内に男子がいない事で、美形な鈴華は恋愛対象に見られているのだろう
何時ぞやのアミューズメントパークと同じ状況だ。
「ちょっと!何なのよあんた!」
みんなが鈴華に好意を寄せる中、1人だけ敵意を向けてくる者が居た。
お嬢である。
自分よりも美しく、そして人気者になった鈴華が許せないらしく、不機嫌さ全開で鈴華に睨みを利かせる。
そんな彼女に、鈴華は同じように不機嫌な顔を向け、蔵人の隣に立つ。
「あたしは鈴華だ。ここに居るボスの右腕だよ」
「そういう事聞いてるんじゃないわよ!あんたは何しにここに来たのかって事よ。部外者はとっととフィールドから…この学校から出て行ってちょうだい!」
「あぁ?部外者じゃねぇよ。あたしらはここのファランクス部と戦いに来たんだからな」
「…えっ?」
絶句するお嬢。それを見て、鈴華も表情を明るくする。
そして、お嬢に向かって指を突き刺した。
「あたしら桜城ファランクス部が、あんたら大学生を潰しに来たぜ!」
大学生からしたら、中学生と試合を組まれるとは思わないでしょうね。
「ただの中学生であればな」
ただの中学生ではないと、評価してくれるでしょうか?