321話~巻島の本家じゃ、ダメなんでしょうか?~
表彰式が終わり、蔵人達は教室に戻ってきた。
蔵人は席に着きながら、己の首に巻かれた布を触る。黒地に金のストライプが入ったネクタイだ。
手触りの良い高級な感触が伝わって来て、それだけで喜びが湧き上がってくる。
蔵人は堪らず、表情を崩してしまう。
「またやってるよ」
蔵人の隣に座った若葉さんが、同じようにニヤニヤ笑いかけてきながらそう言った。
蔵人もニヤけたまま、彼女に顔を向ける。
「最高の色だとは思わんかね?」
「天空城をお探しの大佐かな?」
若葉さんは呆れながら、首を振る。
「あんまり喜び過ぎると、さっきみたいに絡まれるよ?」
若葉さんが言っているのは、始業式が終わった直後の事だろう。
蔵人達が講堂から教室に帰ろうとすると、足元で緑色の髪の毛が飛び跳ねていた。
風早先輩だ。
「サーと勝負しろ!」
彼女は飛び跳ねながら、そんな事を喚いていた。
桜城のゴールドナイトとして頂点に君臨していた彼女だが、突然それを追いこされた。それが許せないらしい。
なので、彼女から桜城ランキング戦を挑まれてしまった。負けた所で、殿堂入りしている蔵人は順位が変わらないのに。
蔵人はその時の事を思い出し、肩をすぼめる。
「彼女とはいずれ、戦わないといけなかったよ。きっと殿堂入りしなくてもね」
「でも、ランキング1位より0位の方が上だから、勝負を挑まれたら受けないといけないよ?」
「確かに。でもまぁ、まだ先の事さ」
挑んできた風早先輩だが、直ぐに朽木先生に捕まって連れ戻された。その時に、ランキング戦は受験が終わってからだと言い含められていた。
なんでも、彼女は相当勉強が残念らしく、桜城高等部に行くにはみっちり勉強しないといけないのだそうだ。
桜城ランキング1位で、全日本4位だから推薦で行けるのかと思ったけど、それを加味しても学力が足を引っ張っているとか。
どれだけ成績が悪いのか。
きっと祭月さん並何だろうなと、彼女のクラスに目を向けると、その騒動を見ていた祭月さんが青い顔をしているのが見えた。
…危機感を持ってくれるのは嬉しい。
蔵人はあの時の事を思い出して、苦い顔をする。
そんな時、後ろから桃花さんの心配そうな声がした。
「でも、若ちゃんの言う通りかもしれないよ?」
蔵人が振り返ると、彼女はネクタイに視線を落とす。
「桜城ランキングでも殿堂入りして、蔵人君はより有名人になっちゃうよ。そしたら、今朝みたいに大変な事がもっと酷くなるかも」
「ああ。あの報道陣の事か」
今朝の事を思い出すと、心が重くなる。
だが、考えねばならない。これから先もあのように集られてしまては、みんなにも迷惑が掛かるから。
そう思ったが、
「そこは、学校側も対策を打つみたいだよ」
若葉さんが、心強い事を言ってくれる。
なんでも、学校側から取材陣に対してクレームを入れたそうだ。
あのように学校前で立ち往生されると生徒達に悪影響だと、それぞれの会社に抗議の電話入れて、警察にも被害届けを出したそうだ。
「それに、各メディアには今後、学校側に許可なく取材に来たら、二度と取材の許可は出しませんって御触れを出したみたい」
「そうか。それは安心…いや待てよ…」
許可なくって、許可を取れば良いって事か?
蔵人が背筋に寒気を感じていると、若葉さんは力強く頷いた。
「そう。だから、黒騎士に対する取材申し込みは、今後も増えると思うよ」
やっぱりか!
蔵人は頭を抱える。
そこに、若葉さんは追い討ちをかける。
「それに、気を付けないといけないのは企業だけじゃない。個人でも蔵人君を求める人は激増してる。現に今年は、桜城の入学志願者が過去最高を更新したみたい。冬休みの校長室から、入試会場もスタッフも間に合わない!!って、嬉しいんだか苦しいんだか分からない悲鳴がしょっちゅう上がっていたから」
だから、校長先生はあんな顔だったのか!
蔵人は、先生の怨めしい視線の意味が分かり、申し訳なく思った。
「まぁ、そうだよな。これだけ名が広まったら、身の振り方を考えないといけないよなぁ」
「そうだね。今までみたいに、特区の外から飛んで来るってのはリスクが高すぎるよ。蔵人君自身にも、同居人の柳さんにも」
そうだ。もう、あの家で暮らすのは難しい。
ディさんも言っていた事だが、こうも早く大きな反響が出るとは思っていなかったので、準備が出来ていなかった。
ディさんとも、あれ以来連絡が取れていない。彼の事だから、謹慎していてもいずれ何らかのアプローチをしてくれるとは思う。だがそれまでの間は、何処か安全な場所で潜伏する必要がある。
自分は勿論、柳さんも。
そう思った蔵人が携帯を取り出すと、若葉さんがそれをやんわりと止める。
おや?何かあるんかい?
「柳さんに掛けようとしてるでしょ?大丈夫だよ。彼女は今朝早く、巻島家のお迎えで特区に避難しているから。巻島…流子さんだっけ?その人の別荘に行ったみたい」
おお。流子さんが既に動いてくれたか。
ならば余計に、自身の身の振り方を考えねば。
柳さんの後を追えば、そこが戦場となってしまう。セキュリティのしっかりした所に行かないと。
「さて、何処に行くべきかねぇ」
「えっと、巻島の本家じゃ、ダメなんでしょうか?」
林さんが、おずおずと聞いてくる。
それに、蔵人は苦い顔をする。
巻島本家は今、かなり忙しいから。
火蘭さんが護送されたあの後、氷雨様は泣き崩れて、そのまま病院へ搬送された。
1番濃い毒を喰らい、異能力戦まで行った彼女の体は相当参っていたみたいで、数日入院する事になってしまった。
他の人達も、重傷者は病院に搬送されて、残された人達も後始末でてんてこ舞いだ。
だが、だからこそ行くべきなのかもしれない。
巻島本家なら、守りも磐石だ。
内部から反乱さえ起こらなければ、だが。
「そうだな。やはり本家が1番か。よしっ!昼休みに、頼人に相談してみるよ。みんな、相談に乗ってくれてありがとう」
みんなに話す事で、悩んでいた方向性を決める事が出来た。
良い友達を持った物だ。
蔵人がみんなに感謝していると、何故か顔を逸らされてしまう。
うん。良くは分からんが、林さん。君にはまだ、聞きたい事があるからね?
そうして、放課後。
蔵人は頼人と一緒に下校する。その周りには、気合いの入った水無瀬さん達が周囲を固めていた。
「お任せ下さい!蔵人様。我々が命に替えても、不埒な輩からお2人をお守りします!」
教室で合流した時に言われたセリフだが、その熱が今も続いている。
きっと、先日の事件を受けて、敵が何処から来るか分からないと悟ったのだろう。
素晴らしい心掛けだ。
そう思ったら、頼人がクスリっと笑った。
「それもあるけどさ。きっと水無瀬さん達は、兄さんを守れる事が嬉しいんだと思うよ」
「うん?どゆこと?」
頼人曰く、今までは蔵人の実力があり過ぎて、とてもお守りしますなんて言えなかったそうだ。Aランク女子すら倒してしまうから、護衛するなんて烏滸がましいと思っていた。
だが、先日の事件や今朝の様子から、全日本チャンピオンだからこそ護衛が必要だと思ったらしい。
今まで仕事が出来なかった分、やってやろうと気合いが入っているんじゃないかと、頼人は彼女達の内心を推し量っていた。
なるほどな。
蔵人は、周囲に鋭い視線を飛ばす4人を見て、納得した。
「皆さん、よろしくお願いします」
「「「はいっ!」」」
「お任せを!!」
蔵人がちょっと挨拶するだけで、4人はハキハキと返答する。
居酒屋店員もびっくりの気合いだ。
そんな4人と頼人と共に、巻島家へと移動する。
そう言えば、4人は事件に巻き込まれなかったのだろうか?
気になった蔵人は、車の中で4人に聞いてみた。すると、4人はその日、敷地外の警備だったので、毒を喰らわずに済んだらしい。
ただ、水無瀬さんのお母さんは、内勤だったので被害にあってしまったそうだ。
それでも、
「母は軽症でしたので、ヒール1回で復帰しました。警備中はあまりトイレも行けないので、水分を殆ど取らなかったのが良かったんだと」
それは不幸中の幸いだ。
そう言ったら、軽症だったから逆に、今頃は重症だった人達の分も働いて大変そうだと言っていた。
うん。やはり、何か手伝った方が良さそうだ。
巻島家に着くと、来客用の駐車場がほぼ満車状態だった。高級車も何台か停まっているが、殆どは普通車である。普段は外回りをしている使用人や、流子さんなどの親族の使用人が救援に来ているのだとか。
蔵人達が本家の玄関を潜ると、そこには忙しなく廊下を行き交う人達の姿があった。
その内の1人が蔵人に気付き、こちらへ小走りで近付いて来た。
「黒騎士選手!ようこそお越しくださいました!」
ああ、新年会で会場まで案内してくれた青年だ。
相変わらず犬の様にキラキラした瞳を向けるその様子から、彼も軽症だったことが伺える。
「こんにちは。皆さんお忙しそうな所にお邪魔してしまい、すみません。何か私にも手伝える事はありませんか?」
「とんでもない!来ていただいて嬉しいです!みんなあの後から、不安そうにしていたので。黒騎士選手が居てくれると心強いです」
男性は力こぶを作って、アピールする。
そして「若から、黒騎士様が来たら通す様に言われています」と言って、蔵人を案内する。
若とは、次期当主の瑞葉様の事だろう。
蔵人は頼人達と別れて、青年の背に着いていく。
「ここが若のお部屋です」
青年に通されたのは、日当たりの良い書斎だった。本棚や絵画が壁に飾られている奥で、立派な机が置いてあり、その机の上に建てられた書類のタワーの間から、忙しなくペンを動かす瑞葉様のお姿が見えた。
「若!蔵人様がいらっしゃいました」
「はいっ」
青年が声を掛けると、瑞葉様は勢い良く顔を上げて、蔵人を見ると慌てて立ち上がる。
青年が退出し、瑞葉様はパタパタと小走りで近付いて来た。
「ああ、蔵人君。この前は本当にごめんなさい。姉が大変な事をしでかしてしまって。蔵人君達は殆ど症状が出なかったって聞いたけれど、本当に大丈夫?」
「ええ。ワガママな舌のお陰で助かりました。瑞葉様こそ、お加減はいかがですか?軽症だったとは聞きましたが、そんなに働いて大丈夫なのでしょうか?」
「ええ。正直キツいけど、私が頑張らないとだから。母もまだ入院しているし」
氷雨様の業務がそのまま、彼女に降りかかっているのか。
蔵人は瑞葉様に勧められて、ソファーに座る。瑞葉様も対面に座ると、執事の女性が蔵人達の前に紅茶を持ってきてくれた。
カップを取ろうとしたら、その前に瑞葉様が「聞きたい事があって」とこちらを懇願する様に上目遣いで見てきた。
破壊力が凄い。
「何でしょうか?僕で答えられるなら」
「ええ。聞きたいのは、あの日の事で。私が倒れている時に、姉と母の間にどんなやり取りがあったか教えて欲しいの。警察に言わなくちゃいけなくて」
ああ、警察から事件の調書を取られているんだな。だけど、瑞葉様は宴会場までしか知らないから、困っていると。
蔵人は、あの日の経緯を簡単に話す。ただ、頼人とのユニゾンは完全に伏せた。兄弟で力を合わせ、なんとか撃退したと曖昧に報告しておく。
それでも、全日本チャンピオンという肩書きのお陰か、すんなりと信じて貰えた。この称号はなかなかに便利だ。
蔵人が話し終えると、瑞葉様は「これで警察の方は何とかなりそう」と微笑まれた。ずっと表情が硬かったから、相当厄介な案件だったのだろう。
良かった。彼女の心労少しでも和らげる事が出来て。
蔵人は漸く、紅茶に手を付ける。ついつい毒を疑ってしまうが、薬臭くも無ければ、舌も痺れない。よしっ!
蔵人はカップを置くと、今度はこちらから瑞葉様に質問をする。
「それで、氷雨様のご容態は如何なのでしょう?」
「母?うん。今は落ち着いているって聞いてるわ。病院に搬送された時は、衰弱が酷かったみたいだけど」
瑞葉様が警察から聞いた所によると、氷に入れられていたのは医療用医薬品の一種で、病院でしか扱えない薬だとか。用法用量を守れば薬となるそれも、多量に接種することで発汗や興奮、嘔吐や記憶障害なども起こす危険なものとなった。
火蘭さんはこれらを使い、氷雨様を暴走させて勝負に持ち込み、家督を奪うつもりだったのではと推測されている。
何とも短絡的な作戦だ。記憶障害が起きるなら、それだけでも言質を取れそうなものだが。
何処か、焦っている様にも感じる。
「その火蘭さんは、どうなりそうなんですか?」
「…姉は、まだ取り調べ中なんだけど、その薬はバイヤーから貰った物みたいなの。でも、そのバイヤーがアグリアと関係しているかは分からないみたいで…」
警察の異能力を駆使しても、アグリアの尻尾は掴めなかったみたいだ。
火蘭さんは取り調べにも協力的で、相模原フェスの襲撃についても関与を認めたし、自身がアグリアに所属していると証言している。
だが、警察は高ランクのサイコメトラーでも証拠が出なかったことで、彼女が本当にアグリアに所属していたとは断定しなかったらしい。
操られて、記憶をいじられている可能性もあるからだ。
この異能力世界では、本人の証言よりも異能力で得た情報を重視する。それ故に、火蘭さんの罪状は薬品の違法使用となるそうだ。
それだけアグリアが狡猾なのか、本当に火蘭さんが騙されていただけなのか。真相は分からない。
「今回の件は、表向きは集団食中毒ってことで処理されるみたい。姉も反省していて、被害者達も母も、寛大な処置を懇願しているから、大きな罪には問われないだろうって」
「それは良かった」
確かに、アグリアや薬に頼ったやり方は頂けない。だが、彼女の境遇を考えると、情状酌量の余地ありである。
彼女は生まれてからずっと虐げられてきた。パイロキネシスと言うだけで、跡取りレースからは除けられて、その魔力ランクだけを利用されて、使用人の道を強要された。
巻島家という圧力によって、彼女の性格も人生も歪んでしまったのだ。ゲームの中の、蔵人君の様に。
蔵人は今日、林さんからゲームの火蘭について聞いた。それによると、火蘭さんが蔵人君を唆した可能性は高いという。
ディザスターには参謀のカラミティというキャラクターがいつも傍にいて、ディザスターに度々助言を行っていた。そのキャラクターの容姿は、ワインレッドの髪を短髪に刈り込んだ男装をしていた。何時も仮面を着けていたので素顔は分からないが、ディザスターが蔵人達の母親を殺す際にも、母親を連れ出したのがそのカラミティなのだとか。
つまり、カラミティと母親に面識があった可能性が高い。
それを聞いて、蔵人は納得した。
元母親と再会したあの日、あのイベントは偶然ではなく、火蘭さん達が仕組んだ事なのだろう。元母親と再会させることで俺の復讐心を呼び起こし、アグリアに引き込もうとした。だが作戦は失敗し、尻尾を巻いて逃げ帰った。
巻島の精鋭達がひしめく本家から、何故あいつ程度の異能力者が抜け出せたのか不思議だったが、そういうカラクリだったのか。
蔵人が思い返していると、瑞葉様が顔を覗き込んで来た。
「本当にそう思ってるの?蔵人君。君は私達と違って、姉に何も悪い事をしていないのに襲われたんだよ?君が被害を申し出れば、姉の処分を重くする事が出来る。それは、当然の権利だよ?」
「お気遣いありがとうございます、瑞葉様。でも、私は彼女を恨んでいません。あの人の心情は理解できますので」
それにと、蔵人は付け加える。
「彼女達のお陰で、頼人との絆を再確認できました。昔、彼と戦った時の事を思い出せたのです」
これは本心だ。あのような状況でなければ、きっと頼人とユニゾンをする場面なんて二度となかっただろう。頼人とのユニゾンが強力な物だと分かったので、いざという時の切り札にもなる。それが分かったことは大きい。
「蔵人君…ありがとう…」
突然、瑞葉様が泣き出してしまった。
姉の罪を追求させるようなことを言った彼女だが、本当はそんな事を言いたくなかったのだろう。少しでも姉の罪を軽くしたいと思う傍ら、被害者に寄り添おうとするその姿勢は立派なものだ。
蔵人は、泣き出してしまった瑞葉様に、つい手を差し伸べたい衝動に駆られたが、何とか抑える。
彼女は次期当主なのだ。か弱い女の子ではない。頭を撫でて優しい言葉を掛けるのは違う。
そう蔵人が思った通り、瑞葉様は直ぐにグイッと涙を拭いて、しっかりとした瞳をこちらに向けて来た。
「ごめんなさい…取り乱しちゃって。母も引退するって言っているのに、これじゃだめよね」
「氷雨様が、そんな事を?」
「ええ。姉を追い詰めたのは自分だから、当主の資格はないって。そんなの、私も一緒なのに」
瑞葉様はそう言うと、少しの間目を伏せた。
そして視線を上げると、こちらに小さく頭を下げた。
「蔵人君。新年会の時にお願いしていた、訓練についてなんだけど。私は辞退します」
「それは…お忙しいからとかではないのですね?」
「ええ、それもあるけど。でもやっぱり、姉を追い込んでしまったのは私だから。姉が苦しんでいるのを知っていたのに、私は手を差し伸べることが出来なかった。拒絶されるのが怖くて、声を掛けることも出来なくなってた。私がもっと頑張ってたら、きっとこんな結末にはならなかった。だから、私だけ美味しい思いはしたくないって、そう思って…」
再び、涙を零しながら言葉を吐き出す瑞葉様。
きっと、新年会の後から思っていた事なのだろう。
いや、もっと前からかもしれない。
姉妹の仲に、隔たりが出来た時から悩んでいたことなのかも。
優しい人だ。
優し過ぎる程に。
「瑞葉様」
蔵人は、そんな彼女に声を上げる。
「この件は、貴女だけの責任ではありません。貴女と氷雨様だけが悪い訳ではありません。火蘭さんの境遇は、我々巻島の者であれば全員が知っていた。巻島の家訓だか何だかを作ったのはもっと前の人達だ。この件の責任は、巻島家全ての人間の責任です」
「でも、蔵人君。元をたどれば私達がいけないの…」
罪を感じ、目を伏せる瑞葉様。
そんな彼女に、蔵人は優しく語りかける。
「瑞葉様。貴女は優しい。他人に優し過ぎる。そして、自分に厳し過ぎです。そこまで自分を追い込まないで下さい。貴女を罰したいなんて、誰も思っていません。貴女を助けたいと思う者ばかりです。貴女の周りには、貴女を慕い、支えたいと思う者で溢れています。だから、今も多くの者がこの巻島家に訪れています。勿論、私もその内の1人です」
「蔵人君…」
瑞葉様は、涙を一杯浮かべた目を上げて、こちらを見る。
その涙を袖で拭い、真っ赤になった目で小さく微笑んだ。
「もうっ、貴方って本当に、女の敵なのね」
「えっ!?」
どういう事?
蔵人は固まる。
それを見て、瑞葉様はクスクスと笑う。
「流子叔母様が言われていたわ。自分の為に、あんなに必死になって怒ってくれる男性を見たら、どんな女だってイチコロだって。お見合い写真の洪水は、貴方の自業自得だって」
それってもしかして、中庭での戦いの事を言っているのかな?気絶されているのかと思っていたけど、聞こえていたのか。
蔵人が苦い顔をしていると、瑞葉様は少し頬を赤らめて、蔵人を見る。
「私も、叔母さまと同じ意見よ。もしも私に婚約者がいなかったら、本気になっちゃってたと思うもの」
そう言いながら、恥ずかしそうに笑う瑞葉様を見て、蔵人は乾いた笑みを浮かべる。
全く、やりにくい世界だと。
火蘭さんは、アグリアと接触があったのでしょうか?
「相当間接的だったのかもしれんな。もしくは、本当に操られていた可能性も捨てきれん」
軽い洗脳くらいだったら、可能性はありますね。ある意味、ゲームの中の蔵人君も洗脳に近い事をされていたのかも。




