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29話~ヨーソロークマ!~

ま、間に合いました。

充電が、切れる…。

剛牙龍(ぼうりょくりゅう)、アジ・ダハーカ!』


轟音と共に、真ん中の龍が大口を開ける。

すると、真っ黒な龍鱗が一部剥がれ落ち、地面に落ちる前に空中で浮遊する。そして、それが私達に向かって飛んで来た。

1枚1枚は大したことが無い。私のガードの前に小さな音を上げて燃え尽きてしまう。でも、龍から生れ落ちる鱗は見る見るうちに増えている。このまま増え続け、前面を埋め尽くす程の鱗が襲ってきたら、私のガードで防ぎきれるかは自信が持てない。

なので、私は、


「プロミネンス!」


広範囲の火炎攻撃で、襲ってくる前に鱗を焼き尽くそうとした。

でも、集まった鱗達は、まるで魚群の様に方向転換してしまい、私の攻撃は簡単に躱されてしまった。

そして、攻撃を避けきった鱗達は、私達目掛けて殺到してきた。


「サターン・ガード!」


鱗がたどり着く直前、私達の体の周りを眩い炎が覆い尽くす。

私が出した、分厚い炎の壁だ。それがタイミングよく発動し、鱗の突撃を阻止した。

でも、焼けたのは本当に一部分だけだったみたいで、残りは炎の壁に突っ込む前に方向転換し、龍の元へと戻っていった。


何とか防ぎきることは出来た。でも、何時までもこのままじゃいられない。私達の魔力も無限じゃないから。それに、飛んだままでは十分な威力も出せない。

そう思ったのは、私だけじゃなかったみたい。


「もみじ。1度地上に降りて戦おう」


ソフィアちゃんが提案してくれた。

地に足つけて最大火力で戦う。それが、勝てる唯一の道だと彼女も考えていたみたい。


「分かった」


私も、力強く頷く。

かなり危険かも知れないけど、逃げてばかりでは彼女達に勝てない。

私は意を決して、噴き出していた炎を弱めて高度を下げていく。


「シューティング・レイ!スパークシャワー!」


ソフィアちゃんは私が無事に着地出来る様に、龍に向かって無数の雷撃を放った。ダメージが通らなくても良い。足止めと煙幕の意味で撃っているから。

ソフィアちゃんの援護のお陰で、私達は鱗の攻撃を受けることなく、無事に降り立つことが出来た。

地面にしっかりと足を着けて、手を前に突き出して構え、集中する。

手の先に2人の魔力を集中させる。


『グガァアアアア!!』


遥か向こうには、大口を3つも開けた化け物が、その巨体を揺らしながらこちらへと突っ込んで来ている。

でも、焦ったらダメだ。

確実に、今、私達が出せる全力を出し尽くすんだ。


魔力が廻る。

魔力が満る。

最大火力で、行ける!


「行くよ、ソフィアちゃん!」

「うん。行こう、もみじ!」


2人の繋いだ左手と右手が、龍に向けられる。

龍との距離は、もう10mもない。

これを外せば、終わる。

最初で最後の、ビッグチャンス。

そして、


「「スターライト・バァアストォォー!!」」


目が眩む程の閃光が、会場を飲み込んだ。


〈◆〉


本番の真っ只中、何とか3人の魔力波長をチューニングさせる事に成功し、大怪獣アジダハーカを生成した蔵人は、しかし、意識を保つので精一杯の状態であった。

何せ、片方は腕を巻き込まんとする荒波。片や、まるでゼリーの様な粘度の高いドロドロの流体。これを均等に混ぜ合わせ、抑えるのは物凄い集中力を必要とした。

こんなことでは、長くは続かないだろう。


「ぐがぁああああ!」


足ひとつ動かすのですら、気合いが必要だ。

登場シーンの決め台詞と盾での攻撃は何とか出来たが、それ以降は無理だ。この巨体の構築と移動に集中せざるを得ない。


蔵人は目の前で必死に戦う2人を見る。

あの2人は凄いな。ユニゾンしながら飛んだり、攻撃したり、互いに意思疎通が出来ている。自分達とは大違いだ。日向さんや慶太も近くにいるのは分かるのだが、そちらに意識を向けることすら出来ない自分がいる。

帰ったら、この新技術も訓練に組み込まないと。

蔵人は、そんな事を考えながら巨体を操り、2人に向かって突進を試みる。すると、前から眩い光が迫って来た。


恐ろしく濃度な魔力の波動。極太なレーザーを、この巨体で避ける事は難しい。受けるしかない。

蔵人は前方に盾を集める。龍を構成している過半数の盾を動員したつもりだったが、その10分の1程度しか操れない。

魔力の波長が乱れ始めていて、盾の操作がままならなくなってきた。


アジダハーカの体が光に包まれる。体が痺れる感覚と、肌が焼ける感覚が脳に伝わる。彼女達の異能力を、これでもかと詰め込んだ攻撃である事が、ヒシヒシと伝わって来る。

橋げたの様な太い足を地面に突き刺して、その砲撃に耐える。盾で受け止める事と、2人の手を繋ぎとめる事で精一杯だった。


やがて、降り注ぐ光が薄くなっていき、消えた。

何とか受けきった。

蔵人は、凌いだことに一瞬気を緩めるも、眼下に広がる惨状に吐き出そうとした息を止める。

前面で防いだ鱗は全て蒸発し、光線はそのまま胴体のど真ん中を貫通していた。

大穴が空いたその向こう側には、蒼い空が見えるだろう。

間違いなく、ダメージは甚大である。そして、


左手が、離れる感覚。

同時に、左の龍の首が落ちる。

膨大な量の魔力が、ごっそりと抜け落ちる感覚と共に、蔵人の目線が低くなっていく。

龍の体が、みるみる萎んでいく。


「くーちゃん!かるちゃんが!」


慶太の声が、体の中で響く。

そうか、落ちたのは日向さんか。


見ると、龍の足元に倒れ伏す日向さんの姿が。

気を失っている様だが、呼吸はしている。

蔵人が見ている前でテレポーターが現れ、日向さんは連れていかれた。

さて、


「クマ。俺達だけでもやるぞ」


蔵人達の視線の先には、2人寄り添う少女達の姿が。

青い顔に汗が滴り落ち、肩で息をしている2人だったが、両方とも片手をこちらに向けて、今にも異能力を発動させんとしている。

まだまだやる気だ。


「うん!オイラも頑張る!」


元気な慶太の声。不利な状況でも気落ちしない、強い心。

蔵人も強く頷き、前へ出る。


今の蔵人達は、龍というよりも大きな蛇の様な姿だ。土気色の大蛇。鎌首を上げれば、まだ3m近くある。

魔力が大幅に減って、大幅に防御力は落ちただろうが、体のコントロールはし易すくなった。


だが、やはり厳しい。もう彼女達の攻撃を受け止めるだけの余裕が無い。

彼女達は今にも、異能力を発動させようと蔵人達に厳しい視線を送っていた。

今、あの攻撃力を喰らったら、一溜りもない。


「クマ!龍の頭に魔力を!」

「おっけー!」


慶太の魔力が回ってくると、蔵人はエッジの鋭い盾を数枚作り出す。ソイルキネシスが加わった盾は、普段よりも強固に、鋭くなる。それを傘の様に合わせて、高速で回転させる。


キィィイイイイイインッ!!


高速回転する盾のドリル。

それを、地面に思いっきり突き立てる。

地面を穿つ!

3mの大蛇は、見る見るうちに地面に大穴を掘り、その中に体を潜らせていった。


『な、なんと!蛇が穴を掘って、地面の中に入ってしまったぞ!これはすご…ぃ…』


実況の声を背に、蔵人達は地面を掘り進む。


「慶太、地上の状況は分かるか?2人の位置は?」

「うん!何処にいるか、バッチリ分かるよ!」


慶太は先ほどの接近戦で、紅葉さんに土を付けていた。今の彼なら、その土がどこにあるのかを400m離れた位置からでも感知できる。

20mほどの距離しか離れていないここからならば、土の中でも鮮明に分かるのだ。


「よーし。敵の位置まで誘導を頼む」

「あいあいさー!こっちの方向へ一直線だクマ!」


慶太の声で、地面を掘り進める蔵人。


「くーちゃん!ここ!この上!」


すぐに響く、慶太の合図。

蔵人は上を睨む。


「よし、一気に浮上するぞ!」

「了解!全速前進!ヨーソロークマ!」


地面を真っ直ぐ掘り進め、体を急速浮上させていき、そして、一気に地上へと飛び出す蔵人達。

真っ暗だった視界が、一瞬で光に満ちる。

目がくらみ、前が見えない。だが、慶太が導いてくれるので、何ら問題ない。


やがて、蛇の鼻先に何か硬いものが当たった。

硬いのに、穿つ音がしない。

これは、あれか。炎の防護壁。

彼女達のバリアだ。

こちらが突進するのを見越して、構えていたか。


「うっ...」

「もみじ!」


次第に目が慣れて、見えてきたのは苦悶の表情を浮かべる少女達の姿。

バリアの質は、アジダハーカの黒金剛盾ブラックダイヤシールド群を受けた時よりも、明らかに薄く劣っている。

魔力が枯渇しかけているのだ。


もう少し。

もう少しだ!


「穿てぇええ!!」

「クマぁああ!!」


高速で回転するドリルが、バリアをどんどん削る。

もう一息。

もう一息で、彼女達に勝て、


「もみじから、離れろ!」


だが、高電圧の雷撃が、蔵人達を強襲する。

まだ、そんな力を残していたのか!?


やがて、右手から離れる、友の手。


「クマ!」


蔵人の叫びに、小さな体が零れ落ちていく。

慶太が、地面に倒れた。

大蛇の体がみるみる内に小さくなり、その場に残ったのは、蔵人ただ1人。


だが、蔵人の腕には、まだ巨大な螺旋盾(ドリルシールド)が尚も高速で回転し、相手を貫かんとしている。

たった1人になったCランク。対するはBランク2人の完全ユニゾン。勝負は見えている。


それでも、見えていたとしても!


「まだまだ行くぞ!」


友が作った隙。一部の望みを目指し、蔵人の拳は穿ち続ける。

薄く壊れそうな炎の壁を、今、貫き、


「「ネヴィラ・フラッシュ!」」


しかし、蔵人の体に無数の爆撃が刺さる。

視界が反転、正転、また反転して、もんどり返って地面を転がる。


『勝負あったか!?』

「「「うぉおおおお!!!」」」


実況の声が響き、その後を歓声が追いかける。

その歓声が、地面に倒れ伏した蔵人の耳の中でガンガン鳴り響き、脳みそを揺らす。

平衡感覚がおかしい。どちらが上か下か、それすらあいまいだ。

このまま意識を手放し、楽になりたい。


そう思う本心を押し殺して、蔵人は地面に手を押し付け、体を起こす。

まだ、やることがあるだろう。

そう、自分に活を入れて、力を振り絞り、立ち上がろうとした。でも、足に上手く力が入らないので、盾を出そうとしたが、数枚しか出てこない。


そうか、俺も、店じまいか。

蔵人は笑う。心から満足して笑う。

そして、少ない盾を頼りにふらりと立ち上がり、前を向く。


目の前には、強敵だった2人がいた。既に構えを解いている。蔵人は、お面の下で笑った。

1歩、1歩。彼女達に近づく。

足を出すたびに体中から悲鳴が伝わって来て、気を緩めれば意識が途切れそうだ。

それでも、歩みは止めない。

最後のケジメを着けよう。

彼女達まであと数歩の所で、蔵人は止まる。


「あ、あの、大丈夫?」


飛鳥井さんが、心配そうに眉を下げる。

蔵人は、小さく頷く。


「(高音)…ええ。見事な戦い、でした。完敗です」

「貴女達も凄かった。3人のユニゾンなんて」


ソフィアさんの言葉に、蔵人は首を振った。


「私のはユニゾン、なんかじゃない。貴女達の猿真似…です」


蔵人の言葉に、目の前の2人が目を見開く。

何でだ?

ああ。俺、相当酷い顔をしているんだろうな。


「貴女達のお陰で、1歩、前に進めた。ありが...」


ありがとう。次はもっと技を磨いて、君達に挑む。

そう言って、握手しようとしたが、どうもピントが定まらず、徐々に暗くなっていく。

ああ、そうか。体も限界か。

蔵人の思考は、蔵人の体と共に、そこで沈んだ。


〈◆〉


恵比寿さんがテレポーターに運ばれるのを見た後で、私は漸く口を開くことが出来た。


「びっくりした。恵比寿さんの声、急に変わるんだもん」


高かった声が、少し低くなったからビックリしてしまった。

ソフィアちゃんもうんうんと頷いている。そりゃ、驚くよね?


「そうね。多分、それも異能力なんだと思う。彼女…彼かしら?龍鱗の技術力は、本当に凄い。ユニゾンだって、さっき初めて使ったんだろうし」

「ええっ!そうなの!?」


ソフィアちゃんの言葉で、より一層驚きが増した私。

そもそも、魔力の質が全然違う人同士を繋げていた、恵比寿さんの技量が凄まじい。あんな事、どうやったら出来るんだろう?


ボロボロになりながらも握手を求めてきた彼の姿が、まだ目の前にある気がして、私は目を閉じる。


「あの人、最後にお礼を言っていたけど、お礼を言わなくちゃいけないのは、私達の方だと思うよ」


私の言葉に、ソフィアちゃんも頷く。


「そうね。また会った時に言いましょう」

「また?」


私がソフィアちゃんに向いて、疑問を投げかけると、ソフィアちゃんは笑った。


「多分、また会うでしょう。彼に、彼らには」


ソフィアちゃんの真っ直ぐな瞳を受けて、私も1つ、頷いた。


〈◆〉


こうして、蔵人達の夏は終わった。

蔵人達の試合結果は3回戦敗退だったが、強敵との試合で得たものは大きく、特にユニゾンは今後の戦術を広げる大きな武器となるだろう。


慶太もそれは何となく分かっているみたいで、蔵人が今後の練習で、ユニゾンも取り入れようと提案すると、すごく嬉しそうであった。


「あのヘビさん可愛かったもんね!もっと上手に操れるように、オイラ頑張るよ!」


分かって…いや、やる気があるだけで充分なんだ。


日向さんも誘ったのだが、彼女には断られてしまった。

彼女はユニゾンを終えてから、終始うつむき気味で元気がなかった。負けて悔しかったというのもあるのだろうが、どうも違うような気もする。

気になった蔵人が声をかけると、彼女は珍しくシオらしい態度で謝った。


「済まねぇ。俺がもっと上手くできてりゃ、あの怪物で勝てたんだ。俺が、弱かった…」

「いいや、ぶっつけ本番であそこまで出来たんだ。じょうでき…」

「うるせぇ!」


蔵人の慰めの言葉を、彼女は何かを振り払うかのように叫び、蔵人を睨みつけた。


「俺は強くなる。今度こそ、今度こそだ…」


それが、あの時彼女と交わした最後の言葉だった。

少し剣呑な雰囲気だったが、彼女はこの方が強くなるのかもしれない。

そう思った蔵人は、何かを抱えた彼女を、そのまま見送った。


そんなこんながあったからか、蔵人は周囲の様子に気を配る余裕がなく、知り得なかった。

観客達がこぞって、蔵人達の素性を聞き出そうと大会運営と壮絶なバトルを展開していたことを。


そして、蔵人達の様子を、正式な許可を取って撮影していた一団のことを。


〈◆〉


某所、ロッカールーム。


「なんだ?この前の外での試合の録画か?そんなもの見てたら、教官にどやされるぞ?」


女性達がベンチに固まって座っているのを、後ろから覗き込んだ女性が注意した。

今、彼女達が集まって見ているのは、先日の試合映像。

そこには、今やプロチーム間でも話題に上がる程の逸材、もみじ&ソフィアの試合を観ようと、休憩時間に集まった戦士達が額を寄せ合い、大きくないPCの画面に見入っていた。

そこに、何も知らない戦士が1人、部屋に入るや否や冷やかすように口を開いたのだった。

PCを操作していた選手が振り返り、その選手を近くに招きながら画面を指さす。


「大丈夫よ。教官からも許可をもらってるから。それより観てよ」

「ああ?お前が目にかけてる、小学生チームだっけか?ユニゾンなんて限定的な能力、あたしらにはそんなに珍しくもないだろ?」

「違うよ。観て欲しいのはこっち」


操作者がPCの画面を指さすと、戦士が眉を寄せる。そして、直ぐに目を見開く。


「なんだこいつら?仮面なんか被って…って、おい。おいおいおい!こいつら3人で!」

「ふっふっふ。凄いの撮れたでしょ」

「凄いかどうかの話じゃねぇ!これ、シンクロじゃねえか!こんなんお前、軍事機密だぞ!中国のスパイか?それとも、あたしらの中で漏らした奴がいるのか!?」

「落ち着いて。彼女達は間違いなく日本人よ。この試合は外国人が出場出来ないもの。それに、私達の知っているシンクロ魔法とは少し違う。上層部も同じ意見よ」

「だったとしても、これは流石に…」

「それに、まだまだ未熟で使い物にもならないわ。まぁ、この歳でっていうのが恐ろしいんだけどね」


戦士は変わらず厳しい視線をPCに落としながら、首にかけたタオルで手を拭き、PCの画面をコンコンと突いた。


「こいつら、いや、このおっさんの仮面被っている子供は何者なんだ?こいつがシンクロ使ってんだろ?」

「おっさんじゃないよ。これは恵比寿。日本の神様のお面だよ」

「おっさんでも海老でも、どっちでも良いんだよ。あたしが言っているのは、なんでこいつがシンクロを使えるかって事だよ。ユニゾンなら一般的に知られているけどよ。シンクロは軍事機密だぞ?仮にあたしらプロが教えたんだとしたら、これもんだろうが」


これっと言って、女性は首を切る動作をする。

物騒な動作を見ても、PC前の女性は軽く肩を上げるだけだ。


「さぁね。財閥の中には、一部機密情報を知っていて、それを秘伝にしている家もあるし、この子もその1人でしょう」

「だが、仮令教わったとしても、余程の才能がないと出来ないだろう。こいつの素性割れてるのか?」

「恐らくだけど、この子の近くにいたメイドは、とある財閥の使用人だったわ。そこには1人、麒麟児がいるのよ」

「へぇー。誰だよ」

「巻島頼人。Aランクの、男の子よ」


興味津々だった女性は、答えを聞いて眉を顰める。


「まきしま?あの船で小金を稼いだ成金財閥か?そんな弱小貴族が何故、軍事機密を知っている?一条家や近衛家なら、まだ分かるが…」

「さぁね?その麒麟児がAランクの最上位種らしいから、五摂家との繋がりでも出来たんじゃない?婚約して教えてもらったとか、婚約の条件だったとか」

「どうだかな。天下の五摂家でも、娘婿に軍事機密を教えるかよ?仮に教えたとしても、たかが10歳程度のガキが扱える技とは到底思えんしな」

「私だってそこまでは分からないわよ。推測に推測を重ねたって、無意味でしょ?」

「…それもそうか。まぁ、でも男ならシンクロ出来る可能性が、少しはあるか。魔力の扱いは女よりほんの少し得意だから、可能性が0%から1%になるくらい上がるかもな。だが、男でAランクって言うと...」

「ええ。ガードがとても硬いわ。戦後からの新参者とは言え、巻島家は財閥だからね。護衛も自前で持ってて、潜入も難しい。残念だけど、今は彼に近付くことすら出来ないわ」

「今は…ね。よし、じゃあそいつが入隊出来る歳になったら、真っ先に声を掛けよう」

「そうね。シンクロ出来る人間がいれば、戦場が一気に有利になるわ」

「そうだな。そうなりゃ、また少し近づくぜ。日本から侵略者(アグレス)を殲滅する、その日がな」


あらぬ所で、頼人に迷惑がかかった事を、蔵人はまだ知らない。

そして、アグレスという謎の存在についても、まだ。

今度こそ…。

皆さま、良いお年を…。


「おい」


な、なんでしょう…。


「結局負けているではないか!悪の根源まで出しておいて、何故負けるのだ!?」


勘弁してくださいよ…。

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