315~まさか、俺…死んだ?~
普段は、荘厳な雰囲気を纏っているであろう立派な神社。だが今は、何処か浮足立っている様に感じる。
それは、行きかう人々の心の中が、新年を迎えた喜びで浮かれているからでもある。だが、1番雰囲気を明るくしているのは、神社の至る所に構えられた屋台の灯りによるものだ。
まるで祭りの様な出店達が、まだ日も登りきらない中で周囲を明るく照らし、参拝に来た人達を引き付けていた。
我々の中からも、その灯りに引き付けられる影が1つ、明かりに向かって飛び出る。
「おばちゃん!たこ焼きをくれ!マヨネーズはたっぷりにしてくれよ」
祭月さんが、屋台に噛り付くなり注文を始める。
とても勢いが良い。きっと、朝食も抜いてここまで来たのだろう。それ自体は微笑ましい事なのだが、この娘、またやっているよ。
蔵人は、明らかに20代中盤であろう店主の表情が厳しくなったのを見て、ため息を吐く。
案の定、祭月さんに手渡されたホカホカのたこ焼きには、マヨネーズの白い線が細々と1本だけしか引かれていなかった。
「何故だ!?」
憤慨する祭月さん。
肩を落とす周囲の面々。
学習してくれよ。
手元のたこ焼きにメンチを切る祭月さんに、蔵人は心の中で懇願する。そして、彼女の横をすり抜け、見せつける様に同じ屋台の前に立つ。
「(高音)お姉さん、お1つ頂けますか?マヨネーズが多めだと助かります」
申し訳なさそうに、少し微笑みも含めて店主を見上げる蔵人。すると店主の顔は少し和らぎ、3本線のマヨネーズを二重にして渡してくれた。
「(高音)祭月さん。貴女はもう少し、他人を思いやる事を覚えた方が良いわよ?」
屋台から離れた所で、蔵人は祭月さんに忠告する。
理解出来たのかは分からないが、祭月さんが渋々と頷いてくれた。
次回に期待だな。
蔵人は、彼女の手に乗っていたパックと自分のパックを交換してあげる。
途端に、萎れていた祭月さんの表情に花が咲いた。
分かりやすい娘だ。
「うんまぁ!マヨネーズうんまぁ!」
「タコの感想やないんかい!」
流石は伏見さん。ツッコミにキレがある。
2人の漫才に満足していると、鶴海さんが蔵人の横に並んだ。
「巻ちゃんは良かったの?たこ焼き」
「(高音)ええ。マヨネーズは脂肪の塊ですからね。これくらいが丁度良いんですよ」
「ふふっ。巻ちゃんらしいわね」
俺らしい?鶴海さんの中で、俺のキャラクター像ってどうなっているんだ?
「おーい。みんな、こっち来いよ!」
屋台の前で話し込んでいたら、鈴華が少し先に立って手招きをしている。
ピーク時程では無いとはいえ、人通りはそれなりにある。あまりゆっくりしていると、人が増えて参拝まで時間が掛かってしまうかもしれない。
鈴華はそこも配慮して、我々のペースを管理してくれたみたいだ。
凄いな、鈴華。出会った当初は、部長の命令も聞かない自由人だったのに、たった数ヶ月で引率の先生までやってのけるようになったか。
蔵人は鈴華の成長を目にして、熱いものを感じながら彼女の招きに応じる。
するとそこには、白い垂れ幕が掛かった屋台があり、中では大きな鍋を掻き回す小さなお婆さんがいらっしゃった。その姿はまるで、熟練の魔女だ。
ねるねるねるね。何を掻き回しているんです?
蔵人が覗き込もうとすると、その前に鈴華が何かを突き出してきた。
小さな紙コップ。その中には、白濁した液体が入っている。
こいつは…。
「甘酒だぞ。みんなも飲むだろ?」
うん。何時もの鈴華だった。
蔵人は肩透かしを喰らうも、これはこれで嬉しい事だと気持ちを切り替える。
他人を思える様になっただけでも、十二分に成長だ。きっと出会ったばかりの彼女だったら、今両手に持つコップは全て自分の物であった筈だ。
「うわぁ。甘くて暖かくて、なんだか体がポカポカするね」
桃花さんが可愛らしい感想を述べる。
それに、若葉さんが同調する。
「これは酒粕から作られているみたいだね。その場合、甘酒とは言え少量のアルコールが入っているから、その影響もあるかもしれないよ」
「ええっ!?アルコール!?それ、飲んじゃ不味いんじゃないの?」
「大丈夫や。甘酒のアルコールは1%未満やから、そうそう酔わんで。運転も出来るって、お母ちゃん言うとったわ」
伏見さんが豪快にコップを煽り、口を拭きながらそう答える。
なんか、大阪の新世界で立ち飲みするおっさんみたいな飲み方だな。それ、ホンマに甘酒?日本酒ちゃうやろな?
蔵人がマジマジと伏見さんのコップを凝視していると、その隣で鈴華の不満そうな声が聞こえた。
「なんだよ。翠は飲まねえのか?」
「ええ、ごめんなさい。私、下戸なの」
鶴海さんが申し訳なさそうに、鈴華から突き出されるコップを両手でガードしている。
なんと。そうだったのか。
蔵人は、鶴海さんの意外な一面を垣間見て、目を瞬かせた。
思えば、ビッグゲームへ赴く新幹線の中で、鶴海さんは全くこちらに近付こうとしなかった。あの時は、周りがカオス過ぎて近寄りたくないのかと思ったけど、もしかして桃花さんが酔っていたからかもしれない。
甘酒でもダメな人は、酔った人の吐く息でも酔うことがある。
難儀な体質だ。
「(高音)鶴海さん、大丈夫?ここは直ぐに離れた方が良いんじゃないかしら?」
「ありがとう、巻ちゃん。でも大丈夫よ。ちゃんと鍋から風上の位置に立っているから」
おお。そんなところまで計算して立ち回っていたのか。流石は鶴海さん。
蔵人が感心していると、鈴華のジト目がこちらに向く。
「んで?ボスも飲めねぇのか?あたしの甘酒が」
「(高音)…何処の面倒な上司よ。大丈夫。私はアルコール弱くないから」
そう言って、蔵人は小さなコップを1口で飲み干した。
本当に弱いアルコール。薄くて甘い濁酒みたいだ。
蔵人が苦い顔をしていると、今度は心配そうな顔で覗き込んで来る鈴華。
「なぁ、やっぱり無理してないか?苦手なら、無理して付き合わなくて良いんだぞ?ボス」
まるでお母さんみたいな口調になる鈴華。
不安にさせてしまったか。
蔵人は少し強めに首を振って、そうでは無いとアピールする。
「(高音)本当に大丈夫よ、鈴華。ただ、ね」
「ただ、なんだよ?」
「(高音)どうも中途半端でね…もっと強いお酒が欲しくなっちゃうわ」
「ダメに決まってんだろ!」「アカンですって!」「それは不味いよ!巻ちゃん」
みんなから総ツッコミされてしまった。
…当たり前か。
「やっぱり、境内前になると凄い混んでいるねぇ」
桃花さんが、疲れたような声を上げる。
蔵人達の遥か前方には、紫色の神前幕(境内の中と外を分かつ垂れ幕みたいな物)が広がっており、その下には色とりどりの頭が静かに並んでいた。
屋台の前では比較的空いていた街道も、ここに来るとみっちりと詰まっていて、人混みで地面が見えない程だった。
とは言え、これだけの大きな神社で、元旦の日にこの程度の人混みであればかなり少ない方だ。時間帯が少しでもズレていたら、きっと縁日の街道すら埋まっていただろうから。
みんなの腰が引けている中、鈴華が一歩前に出る。
「まぁ、見た目ほど時間掛かんないと思うぞ。神様に賽銭投げ入れて、お祈りするだけだからな」
「…なんや、神さんの罰が当たりそうな言い方やな」
まぁまぁ、伏見さん。そういう所も、鈴華の良い所だよ。
という事で、蔵人達も大人しく女性達の中に並ぶことに。
人混みは息苦しいが、彼女達がみっちり詰まってくれているお陰で、思ったよりも寒くない。外側の人達が風を遮断してくれているのと、彼女達が何かに興奮しているからだ。お友達同士で、随分と白熱した井戸端会議を開いている。
何の話をしているのだろうか?
「…そしたら一昨日、店を出る時に彼と目が合ったのよ!しかも、私に向かって頭を下げてくれたようにも見えたの。凄くない?今年こそは、あのお客さんの名前を聞いて、会話を交わす仲になりたいわ~」
「ええっ!いいなぁ。もしもその人と付き合えたらさ、私も紹介してよ」
「う~ん。どうだろう。彼って3人は彼女が居るみたいだから、もう手一杯だって言われるかもよ?」
「ダメもとでもいいからさ」
「う~ん。あんまり期待しないでよ?」
…こんな会話が、至る所で漏れ聞こえる。
女性が好きそうな話題であり、そんなに珍しい事では無い。だが、これだけ多くの女性達が集まっているなかで、その殆どの人が恋愛話をしているのだ。
何か、嫌な感じがするぞ?
蔵人が首を傾げていると、隣の娘が袖をツンツン引っ張った。
鶴海さんだ。若干、顔が赤い。
「巻ちゃん。ここって確か、その、縁結びで有名な神社だと思うわ。だから…」
…ああ、なるほど。
蔵人は納得する。
道理で、思ったよりも列が進まない訳だ。
蔵人は、列の先頭に目を向ける。
そこでは、お賽銭を投げ入れた女性達が目を固く閉じ、神様に向かって必死に何かを唱えている様子があった。
随分と切羽詰まった様子の彼女達だが、きっと、特区の男性と結ばれる事を夢見て、神様へのお祈りと寄付を念入りにしているのだろう。
蔵人がチラリと鈴華を見ると、彼女はしてやったりと言う顔を返してきた。
「勿論、あたしはボスとの縁をお祈りするぜ」
「(高音)…それを本人に言えるなら、神様に祈る必要はあるのかしら?」
「良いんだよ。これはあたしの、決意みたいなもんだからさ」
つまり、神様に予告ホームランをするという事か。
男前と言うか、鈴華らしいと言うか。
蔵人が苦笑いを浮かべていると、鈴華の周囲からもみんなの声が上がる。
「ぼ、僕も!巻ちゃんともっと仲良くなれるように、お祈りするよ!」
「…まぁ、私も、そうしようかな。君と一緒だと、とくダネには困らないし」
「ふふふ。私も、みんなとのより深い縁をお願いするわ」
「ウチはやっぱり、家族との縁と健康やな。恋愛の神さんには失礼やと思うけど」
「ああっ!さっきのたこ焼きで、ジャリ銭を全部使ってしまった!誰か両替してくれ!」
みんなそれぞれで、神様にお願いしたいことがあるみたいだ。
…約1名、残念なことになっているが。
そんなこんなで、待つ事十数分。
漸く蔵人達の番となった。
みんなはそれぞれ、財布の中からお金を投入する。
5円と15円が多いな。祭月さんは渋々500円を投入しようとして、鶴海さんに止められていた。何でも、これ以上の効果が無いという事で、縁起が悪いのだとか。
知らなかった。
博識な鶴海さんに感心していると、隣で驚きの声が上がる。
「なんや自分、そんなに入れるんか!」
「言っただろ?覚悟だ」
そう言う鈴華の指の間には、1万円札が数枚ヒラヒラ躍っていた。
…これは覚悟なのか、経済格差なのか。
だが、そうだな。
蔵人は手にしていた5円玉を財布に戻し、代わりに1万円札を1枚取り出して、それを賽銭箱に投入する。
神様。大天使様。最初は色々と文句も言いましたが、皆さまが紡いでくださったご縁により、今はこうして万事円満に事が進んでおります。ありがとうございます。
そう心の中で感謝を述べながら、境内に向けて頭を下げ、目を瞑った。
途端、
周囲が静かになった。
いや違う。音その物が無くなったのだ。
蔵人は頭を上げる。
すると、そこには神社は無く、周囲に仲間の姿も無かった。
誰も居ない、何もない真っ白な空間が、目の前に広がっていた。
突然の事に、蔵人は、
「ここは…天界か。まさか、俺…死んだ?」
頭を掻き、そんな訳ないかと、周囲を見回わした。
前触れもなく天界に飛ばされたが、驚いたりはしなかった。
転生には慣れているからね。
加えて、これは天界からの呼び出しか何かだろうと、頭の中では凡その検討が付いていた。呼び出しの内容が、お褒めの言葉なのか、進捗が遅い事への叱咤なのかは分からないが。
さて、呼び出した相手は何処に?
蔵人が腕を組んで待っていると、頭上からバッサバッサと羽音が聞こえてきた。
見上げると、翼を生やした小さな少女がこちらへと降りてくるところだった。
『ようこそ、闇の眷属様。お待ち申し上げておりました』
13年ぶりの大天使様が、お変わりない姿で舞い降り、蔵人の方へ小走りに駆け寄って来た。
彼女のその様子から、叱責は無さそうだ。
蔵人が胸を撫で下ろしていると、目の前で止まった大天使様が、胸の前で両手を組んだ。
『ご活躍は、天使達から聞き及んでおります。良くぞそのような脆弱な体で、ここまでの偉業を成されました。流石は、あの方の右腕です』
脆弱な体、ねぇ。
蔵人は笑いそうになる顔を隠すために、頭を深く下げる。
「ご無沙汰しております、大天使様。困難な道だからこそ得られる物もございました。ただ、創生転生でないのでしたら、その旨を一言頂きたかったのが本音です」
お陰様で、心労が溜まりましたよ。
そんな思いをいっぱいに込めて言葉を放つ。だが、蔵人の頭上からは『眷属様なら乗り越えられると信じていましたよ』と、上手い事躱されてしまった。
まぁ謝罪などは、端から期待していないけどね。
蔵人が顔を上げると、嬉しそうな大天使様のお顔が目の前にあった。
『本当に、眷属様の手腕は素晴らしいです。弱きが強きを砕き、その姿で子供達の心を集める。貴方様のご活躍には、我々天界の者達も注目しております。いえ、天界だけではございませんね。眷属様のご同輩と、その者が綴る物語の読者達も、貴方の活躍を見守っております』
ほぉ。天界の天使様達も観戦なさっていたのか。
蔵人は、てっきり放置されているのかと思っていただけに、少し気恥しく思った。
それと同時に、同輩と読者という2つのフレーズに引っかかりを覚える。
同輩と言われると、真っ先にイノセスの事が思い浮かぶのだが、読者となると違う気がする。きっと、同輩とは若葉さんの事で、彼女の発行した校内新聞を読んだ人達の事を言っているのだろう。まさかイノセスの奴が、俺のレポートを別の人達に見せるなんてことはないだろうし。
そう思う蔵人だが、何か引っかかりを覚える。
何だろう?
そんな蔵人を前に、大天使様の賛辞は続く。
『子供達の目を正しき方向へ向けた事で、この国の歪みも少しずつ正されて始めています。貴方様が頑張った故ですね』
「それは…本当ですか?」
慎重に聞く蔵人に、大天使様はしっかりと頷かれた。
つまり、社交辞令でも何でもなく、自分が行ってきたことがバグの修正に役立っているという事。ディさんの口車に乗ってみたが、どうやら正しい方向に向かっているみたいだ。
良かった。これで心置きなく、今向いている方向にドリルを進める事が出来る。
そう、安心しかけたが、
『ですが、世界の歪みは未だに存在し、少しずつ大きくなっています』
まぁ、そうだろうな。
蔵人は頷く。
ディさんが言うように、魔力絶対主義の思想が侵略者を呼び寄せているのなら、世界はまだまだ破滅に向けて舵を切っている。そうなると、国内だけでなく世界に向けても、技巧主要論の考え方を広めねばならない。
何れは、世界進出も考えねばならんのか…。
いや、そもそも、
「大天使様。この世界のバグであるアグレス。こいつらの正体を教えて頂けませんか?」
敵の正体が分かれば、対処もしやすくなるだろう。もっと言えば、そいつらを生み出している原因が分かれば、それを排除できるかもしれない。そうなれば、ランク主義だろうが何だろうが、好きな思想を好きなだけ謳歌してもらっていい。
そう考えた蔵人だったが、どうも、そんな簡単にはいかないみたいだ。
蔵人が質問した途端、大天使様は顔に影を落とし、小さく首を横に振った。
『影なる存在。子供達とは相反する存在。ここから見える異形の者達については、そのような不確定な事しか分かりません』
「影…そうですか」
きっと、未来予知異能力者の人達と同じで、アグレスは天界からも見えにくい存在なのだろう。
残念そうにする大天使様だが、全く情報を得られなかった訳ではない。少なくとも、人間ではないことは分かったから。
悪魔か、オークやエルフなどの亜人種という可能性もある。未来から侵略に来たロボット…であれば、人間が作った物だから、天界からでも見えるか。
蔵人が考え込んでいると、上空で複数の羽ばたき音が聞こえた。見上げると、かなり上空の方で何かが飛び交っているのが見える。
『今日は天使達も忙しいのです』
蔵人が見上げていると、大天使様が教えてくれた。
新年だからね。天界も忙しいと。
『ですが、皆が忙しくしているお陰で、私は貴方様とお会いする時間が作れました』
つまり、そうそう下界の人間と接触を持ってはいけないという事ね。今日は上位天使様達の目が行き届かないから、狙い目だったのだろう。
また困ったらここで相談しようかと目論んでいた蔵人は、少なくとも1年後までは無理だと分かり、肩を落とした。
『眷属様。私もそろそろ戻らねばなりません』
「そうですか。お忙しい中でご対応いただき、誠にありがとうございます」
それなりに有力な情報を得られた蔵人は、深々と頭を下げて感謝の意を伝える。
すると、大天使様は蔵人のすぐ近くまでお顔を近づけて、耳元で囁かれた。
『天の意思をくみ取る大天使が、貴方様の選び取るべき未来を見通しました。夢を見られよと。親しき者、小さき友と共に』
「夢、ですか…大天使様、それはどういった意味で?」
こいつは、大きなヒントではないか?
そう思った蔵人は、少し大きな声を出してしまった。
だが、大天使様からの返答は無かった。
その代わりに、右隣りから声が上がった。
「大天使?何言ってんだ?ボス」
呆れたような声に、蔵人は顔を上げた。
そこには、キレイな銀髪を耳に掛けた鈴華が、目を丸くして蔵人を見下ろしていた。
いつの間にか、鈴華達がそこに居た。
いや、正しくは、蔵人が元の世界に帰ってきていた。
まるで何事も無かったかのように、同じ場所で、時間経過もなく帰って来ていた。
恐らく、魂だけを行き来させたのだろうが、行きも帰りも唐突である。
蔵人が、天界の荒い送り迎えに呆れていると、それよりも呆れ顔の鈴華が目端に入った。
おっと、言い訳しないと。
「(高音)神聖な神社だから、神様だけでなく天使様もいると思っただけよ。それより、みんなのお参りは終わったの?」
「うん!僕達全員終わってるよ。巻ちゃんがなかなか目を開けないから、心配してたんだ」
「寝てるのかと思って、顔に落書きしてやろうと思ってたとこだぞ」
「自分や無いんやから、そないな事ありえるかい」
「なんだとっ!」
伏見さんの突っ込みに、憤る祭月さん。
そんな賑やかな仲間達を連れて、蔵人は境内を後にする。
「なぁ、ボス。随分と真剣に祈ってたけど、何をお願いしてたんだ?」
「(高音)うん?そうねぇ…」
蔵人はもう一度境内を振り返って、大天使様とのやり取りを思い出す。
そして、
「(高音)世界平和について、かしらね」
「なんだそりゃ?真面目に答えてくれよ」
「(高音)失礼ね。本当の事よ?」
「カシラ。1万も出しといて、それはちょっと通らんですわ」
本当の事なんだがなぁ。
蔵人は、未だにこちらに疑いの目を向ける面々を見て、大きくため息を吐いた。
まさか…初詣から天界に繋がるとは…。
どうしましょう…蔵人さんに、投稿していることがバレそうです…。
「大丈夫だ。あ奴がこちらに戻ってくるまではな」
…戻ってきたら?