310話〜それは、まさか、あの時の…〜
『私は全力で、貴方に挑む』
そう言って浮かべた海麗先輩の笑顔は、今でも蔵人の目の前にあった。
12月28日。
東京特区、台東区。
上野WTC、セントラルスタジアム。
シングル戦、全日本大会Aランク戦、決勝戦。
その地に、彼女は立っていた。
夢でも幻でもない。彼女は確かにここまで勝ち進んで来て、今や中学生の頂点に手を伸ばしていた。
それを証明する様に、観客席からは海麗先輩に対しての応援と拍手が幾つも上がり、放送では2人の紹介をしていた。
『さぁ!始まろうとしています、全日本Aランク戦、その決勝戦が!今回は波乱も波乱!試合前に予想されたランカーは尽く散っていき、それを散らしたツインハリケーンが今、我々の目の前で相対しております!』
「「「わぁああああ!!!」」」
『先ずはこの人!Cランクのクリエイトシールド、そして男性と言う身の上でありながら、このAランク戦に出場した異端の選手。しかし彼の実力は確かなもの。優勝候補筆頭の園部選手を打ち倒し、予想順位2位の安綱選手までもを下してしまった!一体誰がこんな事を予測出来たか!いいや、出来る筈がない!この様な偉業、神ですら知らなかった奇跡だ!そんな奇跡の男の子が、今、前代未聞の快挙を達成せんとこの試合に臨む!今大会屈指のダークホース!桜坂聖城学園1年、黒騎士選手!!』
「「「うぉおおおおおおおお!!!」」」
「「「くっろきし!くっろきし!」」」
蔵人が手を上げると、会場中から歓声と拍手が横殴りに吹き付ける。更に、1階席からは無数のフラッシュが瞬き、迫撃砲の様なテレビカメラが蔵人を狙い撃つ。
だが、全てが蔵人に向いている訳ではない。
蔵人の対戦者、海麗先輩に対しても、多くのカメラと関心が向いていた。
放送席からの熱い紹介も、彼女に向く。
『そのダークホースに対抗するのは、これまた強烈なダークホース。2回戦3回戦と、相手をほぼワンパンで病院送りにし、続く準々決勝でも、優勝候補上位であった延沢選手を秒殺してしまう脅威の戦闘力を見せた!彼女の振るう剛拳は大地を砕き、強靭な剛脚は一太刀で大空を切り裂いた!その姿はまさに、破壊神シヴァ!中学空手界を制した彼女が、異能力界までその手中に収めるのか!?桜坂聖城学園3年、美原海麗選手!!』
「「「わぁああああ!!」」」
「「海麗せんぱぁああいっ!!」」
黄色い声があちらこちらから飛び交い、割れんばかりの拍手がそれを追う。
その応援は、黒騎士への熱量に負けないくらいに強烈なもの。
それが、彼女がこの大会で魅せてきた結果。
黒騎士に負けないくらい、彼女も劇的な試合を勝ち残ってきたのだろう。
それは、目の前の海麗先輩を見たら分かる。
これだけの声援を背中に受けても、彼女の瞳は全くブレない。
同じ様に、彼女を覆う魔力も動揺しない。ただ、ゆっくりと揺蕩うだけ。大海原を思わせる魔力が、美原海麗と言う戦士の大きさを見せつけていた。
今までの彼女とは、明らかに違う。
蔵人は、審判の合図もないのに右足を半歩引いて構えてしまった。
海麗先輩は腕組みをしたまま微動だにしていないのに、彼女の魔力と真っ直ぐな瞳が、蔵人の戦意を掻き立てていた。
自然と、蔵人の瞳も輝き出す。
黒色が、薄らと紫色に染色されていった。
「両者、握手!」
審判が高らかに声を上げると、海麗選手は組んでいた腕を解き、蔵人の前に手を差し出した。
ただ真っ直ぐに。手と視線をこちらに向ける。
いつもなら、「よろしくね!」と太陽のような笑みを向けてくるだろう彼女。だが今は、ただ薄らと笑みを浮かべるだけだ。
それでも、彼女の瞳は蔵人に語りかけていた。
「拳で語り合おう」と。
蔵人は手甲を外し、海麗選手と握手する。
暖かい彼女の体温と、汗で少ししっとりした感覚が伝わって来る。
やはり緊張はしているのか。
蔵人は少しだけ安心した。彼女が全くの別人になってしまったのではと、心の何処かで心配していたみたいだ。
「両者離れて、所定の位置へ」
何時までも手を離さない蔵人達を見て、審判が静かに先を促した。
しまった。彼女の様子を注視するあまり、試合の流れを忘れていた。
蔵人が苦笑いを浮かべると、海麗選手も少しだけ表情を崩した。
『随分と長い握手でした。互いの闘志がぶつかり合い、ファンファーレが鳴っていないにも関わらず、熱い展開となってまいりました』
放送席からそんな実況を入れられると、周囲から拍手の他に黄色い声も聞こえる。
少しだけ明るくなる会場。だが、蔵人達が所定の位置に着くと急に歓声が止んで、熱い視線だけが降り注いだ。
5m先の海麗選手と目が合い、その手前に割って入ってきた審判の手が、結んでいた2人の視線を断ち切る。
「これより!全日本選手権異能力大会、シングル戦Aランクの決勝戦を執り行います!ルールは世界異能力競技委員会公認の、シングル戦競技規程に則ります!試合時間は10分!これを超えた場合は審判員による判定とする!両者、準備は良いか?」
「「はいっ!」」
2人の声が重なり、シンッと静まり返る会場の中を木霊した。
それに、審判は仰々しく頷き、手を高々と空に掲げる。
そして、
「試合、開始!!」
ファァアアアアアンッ
「「「「わぁああああああああ!!!!!」」」」
審判が手を振り下ろすと同時、会場のファンファーレが響き渡り、爆発したかと思う程の歓声が戻って来た。
それと同時、目の前に海麗選手が現れた。
速い!
5mの距離を、たった1歩で踏み越えてしまった。
蔵人がそれを理解する間にも、彼女は右拳を大きく引き、こちらへその大砲を放つ構えを見せていた。
これが、海麗選手の速攻。
きっと今までの相手達も、この速攻で何も出来ずに終わってしまったのだ。
そこに今、蔵人も加わる。
ッパァアアンッ!
秒殺。
いや、瞬殺だった。
『決まったぁああ!美原選手の速攻!黒騎士選手が、ボロ雑巾のように吹き飛ばされてしまったぞ!2回戦の直江選手と全く同じパターンだ!美原選手が振り抜いた拳から生まれた衝撃派で、会場の空気が震えている!』
「「わぁああああ!!!」」
「「うぁああ!黒騎士ぃい!!」」
歓声と悲鳴が入り交じる中、蔵人は芝生の上を転がる。それを見て、余計に黒騎士に向けた悲鳴が色濃くなる。
だが、
『Aランクフィジカルブーストの鉄拳を、生身で受けてしまった黒騎士選手。テレポーターこそ現れていないが、これはもう無理…うわっ!立ち上がった!』
実況が驚く程、蔵人は勢い良く立ち上がった。
立ち上がって、殴られた箇所を確認する。
かなり派手に吹き飛んでしまったが、怪我などはしていない。そもそも、彼女の拳は当たっていなかった。
蔵人は、海麗選手が速攻を仕掛けてくると予測していた。その対策として、アクリル板を使用した。
海麗選手はブーストだ。だから、十中八九接近戦を仕掛けてくる。そう予測した蔵人は、彼女の間合いに少し厚いアクリル板を敷いて、彼女が踏み込んで来た際に一気に引抜いた。
拳を打ち出そうとしていた海麗選手は、踏み込んだ足を見事に取られてしまい、体幹がブレた。それによって、蔵人に狙いを付けていたはずの拳が、捉えきれずに空振りを起こした。
それでも、拳から派生した衝撃波で吹っ飛ばされてしまった蔵人。改めて、彼女の恐ろしさを痛感したのだった。
「やるね、黒騎士君。でも、次は引っかからないよ!」
再度、海麗選手が突っ込んでくる。
速い。やはりブーストは脅威だ。
だが、吹っ飛ばされた事で距離が空き、時間的余裕が生まれていた。彼女が来るその僅かな時間で、蔵人は1枚のランパートを作り出す事に成功した。
それを、突っ込んで来た海麗選手の目の前に移動させる。
更に、彼女がランパートを回避した場合にも対応できるよう、龍鱗とホーネットの作成を進めた。
その矢先、
「せりゃぁあっ!」
海麗選手の掛け声の後、ランパートが真ん中から爆散した。
な、なんだとっ!?
蔵人は、驚きで動きを止めた。
どうして、ランパートが破壊されたのかが分からなかった。ランパートの向こう側で何が起きたのか。
何かの新技か?
そんな考えが浮かんだ時、実況の声が聞こえた。
『一撃ぃい!たった一発の正拳突きで、黒騎士のランパートを破壊したぁあ!あの皇帝選手ですら突破出来なかった防壁を、こうも易々と攻略するのか、美原海麗!』
なんと、ただの正拳突きで攻略したのか。
4ヶ月前の彼女であれば、ランパートを破壊するのに10秒以上掛かっていた。それだけの時間と、相当量の魔力を注ぎ込んで漸く突破していた。だが、今蔵人の目の前で構え直した彼女の拳には、キラキラと太陽光を乱反射する薄い膜しか見えない。
Aランクの拳。それで、ランパートを貫いた。
蔵人が驚愕している間にも、海麗選手は態勢を整え、再び地面を蹴り出した。
途端に、彼女の体が弾丸の様に跳弾し、蔵人へと迫る。
だが今度は、蔵人も準備が出来ていた。
彼女がランパートを破壊している僅かな隙に、全身に龍鱗を纏っていた。
それを、めいいっぱい動かして、迫り来る彼女から離れる様に逃げる。
『美原選手の猛追!黒騎士選手に襲いかかった!だが、黒騎士選手は避ける、避ける!美原選手の剛腕を、紙一重で避け続けている!なんと俊敏な動きだ!Aランクブーストの速度に、クリエイトシールドが追いついているぞ!』
「「「黒騎士さまー!!」」」
「良いぞボス!避けまくれ!」
「美原先輩のガス欠を狙うんや、カシラ!」
観衆の声が耳に入った直後、その声は恐ろしい風切り音によって掻き消された。
ビュンッ!ッパァン!
海麗選手の繰り出す拳が生み出す、風の悲鳴である。
周囲からは紙一重で避けている様に見えるらしいが、実際には多大なダメージを負っていた。
彼女が生み出す衝撃波は、蔵人の体に貼った龍鱗を破壊し、一瞬の判断ミスがひき肉にされる恐怖が心身をすり減らす。
鉄拳と豪脚が吹き荒れる危険地帯。ここから早く逃げ出さなければ、いつか巻き込まれて全てが終わる。
「タイプ・Ⅱ!」
蔵人は、海麗選手の前蹴りを後方へと大きく回避しながら、背中に盾の羽を作り出す。そして、その羽で一気に飛翔し、
「チェストォオ!!」
危険地帯から脱したと思った瞬間、海麗選手の掛け声が背後に迫った。慌てて振り返ると、飛び上がって蔵人に回し蹴りを繰り出そうとしている彼女の姿が見えた。
地面から5mは離れているんだぞ?なんて脚力だ!
迫り来る海麗選手の剛脚に、蔵人は叫びたい衝動を抑え、必死に体を捻る。すると、豪脚は蔵人の体の直ぐ横を通り過ぎ、そのまま左翼を粉砕した。
「くっそ!」
右翼だけとなった蔵人は、バランスを失って地面へと落ちていく。だが、すぐに右翼を取り外して足元へと移動させる。スケボースタイルにシフトチェンジすることで墜落を阻止し、加えて海麗選手からの逃亡に成功した。
我ながら上出来の対応。だが、油断は出来ない。海麗選手は尚も、こちらに体を向けて構えている。彼女の脚力なら、このスケボースタイルでも追いつかれるだろう。
ならば、先手必勝!
「シールド・カッター!ホーネット!」
蔵人は幾枚もの水晶盾を作り出し、その半分を高速回転刃に、半分を女王蜂に組み替えた。
海麗選手との近接格闘は死に直結する。だから、こうして遠距離からチマチマ削って隙を作る。それが最善手であろう。
「行け!我が英士達よ!」
蔵人は上空にシールド・カッターを解き放ち、ホーネットを地面に潜らせた。
いくら超攻撃力を誇る海麗選手とて、陸空からの同時攻撃を受ければ大きな隙を生むはず。彼女が一瞬でもこちらから意識を反らしたそこが好機!
蔵人は、海麗選手の動向に目を光らせ、何時でも攻められる様にスケボーの方向を彼女に向ける。
その時、
海麗選手が立っていた地面が、爆発した。
「はぁああ!」
違う。彼女が踏み出したのだ。。
地面を勢い良く蹴り出した海麗選手は、一瞬で上空へと到達する。彼女を切り刻もうとしていた、高速回転刃と同じ高度まで飛び上がった。
そこで、
「せいやぁあっ!」
グルンと体を回転させて、薙ぎ払う様な中段回し蹴りを放った。
その一撃で、彼女を中心とした衝撃波が波状に広がり、それを真横から食らったカッター達は粉砕されたり、コントロールを失って墜落してしまった。
なんてデタラメな脚力だ!
そう、喉まで出かかった蔵人の言葉は、海麗選手が取った次の行動で喉奥まで引っ込んだ。
カッターを殲滅した海麗選手は、自由落下で地面へと戻っていく。
かと思えば、空中で態勢を大きく替え、足を上空に、顔を地面に向けて落下した。そして、地面に墜落する前に右拳を引いて、地面に着く直前に拳を発射した。
「チェストォオっ!」
海麗選手の掛け声と共に、彼女の拳が地面を殴る。
すると、地面が大爆発を起こした。
ズゴォオ…という地響きと共に、芝生入りの土が四方八方に飛び散る。
そして、
『な、なんと言うことでしょう!美原選手が殴った地面が、大きく陥没している!』
彼女の拳が、大穴を作り出した。
3mはある大穴だ。
空いた穴の中には、半透明な女王蜂達の残骸が埋め込まれていた。地面に潜っていた彼女達は、海麗選手の一撃で地面ごと潰されてしまったみたいだ。
海麗選手はたった1回跳躍しただけで、陸空からの挟撃を跳ね除けてしまったのだった。
なんて規格外のパワーだ。これでは遠距離攻撃なんて、彼女からしたら紙飛行機みたいな物だ。どれだけ繰り出そうと、イタズラに魔力を消費するだけだ。
遠距離攻撃では勝てない。危険だが、接近戦で勝負を決めるしかない。
覚悟を決めろ!
蔵人はスケボーの方向は変えず、そのまま海麗選手へと針路を取る。
周囲の観客や実況が「無茶だ!」「無謀だ!」と叫ぶが、気にしている場合ではない。
蔵人は真っ直ぐに、海麗選手へと突撃する。
「はぁああああ!」
蔵人の覚悟に、海麗選手も大きく腰を落として待ち構える。
さあ、何時でも来いと言うように、どっしりと構える。
そこに、蔵人は、
彼女へ突っ込む直前に、方向を180°変えて、逃げ去った。
『おっとぉ?激突するかと思った矢先、フェイントをかましたぞ!』
肩透かしを食らった観客席から、安堵の吐息や軽口が飛び交う。
だが、海麗選手は違った。
待ち構えていた時よりも笑みを深め、前傾姿勢となる。
そして、
「逃がさないよ!」
走り出す。
狙いは、逃げる蔵人の背中。
蔵人は、余りにも接近し過ぎていたのだ。海麗選手からしたら、あと1歩踏み込めば届く距離に蔵人の背中があった。
彼女は一瞬止まって、足に力を入れる。そのまま一気に跳躍して、蔵人にトドメを刺す為に。
今にも発射されようとしている海麗選手。そんな彼女を、蔵人は立ち止まって振り返った。そして、彼女に向かって両手を突き出す。
声を、発する。
「盾の伏兵!!」
蔵人の掛け声と同時に、海麗選手の足元から無数のアクリル板が舞い上がり、彼女に向かって襲来した。
1枚1枚は、かすり傷も付かない最弱の異能力。だが、こうも大量に、そしていきなり死角から襲われれば、どんなに強者であろうとも気を取られる。
それがほんの一瞬、僅かな時間であったとしても、
蔵人にとっては、十分な時間であった。
蔵人は波打つアクリル板を作り出し、
「クアンタム・シールド…」
姿を消した。
『うぉお!出た!黒騎士選手の新技!不思議な技術で姿を消すことが出来る、最弱にして最強の盾!黒騎士選手の姿が、全く見えません!このまま雲隠れして時間を稼ぐのか?』
「良いぞ、黒騎士!俺たち透明人間の強さ、お姉様達に見せてやれ!」
サーミン先輩らしき人の声援を背に受けながら、蔵人は準備を進める。
この試合を終わらせる為の、最後の準備だ。
四方を光学迷彩盾に覆われた空間で、蔵人は盾を集める。
1箇所に集めた盾を、凝縮し、対巨星用の盾を作り出す。
それを静かに持ち上げ、海麗選手に向ける。こちらに背を見せる彼女に向けて、ゆっくりと回転を始める。
そして、
盾が高速回転を始めると同時、蔵人は飛び出した。
クアンタムシールドを貫いて、一気に海麗選手へ襲いかかる。
そこで、初めて海麗選手が動いた。
風を切る音を聞きつけたみたいで、顔が横を向き、体もこちらへと振り向きつつある。
だが、遅い!
「ミラァ・ブレイクゥウ!!」
彼女が防御するよりも先に、蔵人のドリルが彼女の背中に到達した。
『決まったぁあ!黒騎士選手の必殺技!超巨大ドリルが、炸裂ぅうう!』
「「「うぉおおおお!!」」」
「ボスぅう!」
「カシラぁあ!」
みんなの声が、蔵人の背中を押した。
手には何かを破壊した感触が伝わり、次いで白い破片が弾け飛んだ。
海麗選手の、白銀鎧だ。
蔵人のドリルは、彼女の鎧を貫通した。
そして、
ガガガギィイイイイイインッ!!
甲高い音が鳴ると同時に、ドリルが止まった。
うん?止まる?
蔵人は不思議に思い、ドリルの回転を止めて穂先を見た。
すると、
「なっ!?」
蔵人は目を疑った。
そこには、ドリルに穿たれてもなお倒れない、海麗選手の背中があった。
白銀の鎧が砕け、小麦色の健康的な肌が露出している彼女の背中は、しかし、ドリルが穿たんと牙を剥いたそこだけが、真っ黒に変色していた。
ドリルを下ろし、彼女の背中を見詰めながら蔵人は声を漏らす。
「それは、まさか、あの時の…」
蔵人の脳裏に、真夏の夜のひと時が思い浮かんだ。
海麗先輩を鼓舞したあの日。蔵人のミラブレイクを返り討ちにした黒い拳。それと同種の物が、彼女の背中に浮かんでいた。
「そうだよ。黒騎士君」
唖然とする蔵人を、海麗選手が振り返る。
彼女は右腕を高く掲げて、蔵人を見た。
「言ったでしょ?これが、君が引き上げてくれた力だよ」
そう言って見せつける彼女の日焼けした腕は、見る見る内に真っ黒に変色していった。
何と言うパワー。そして、蔵人さんの必殺技までもを防ぐ皮膚…。
これが、Aランクの覚醒者…。




