28話~苦痛を、苦悩を、死を~
※急遽、2話連投が決定しました。
川崎フロスト大会、小学生の部、チーム戦。2回戦第3試合終了後。
第2選手控室。
参加者が殆ど敗退した為に、人口密度が著しく低下した広い部屋で、秋の木々のように赤い髪の毛がふわりと飛び跳ねる。
「次の試合、私達と同い年の子が出るみたいだね。ソフィアちゃん」
私が心を躍らせながら隣のソフィアちゃんに話しかけると、美しい金色の長髪を梳いていたソフィアちゃんも微笑んで頷いた。
「そうね。ランクはCとDの子らしいから、なるべく魔力を温存したいところね」
「うん、でも、凄く速かったよ。あの恵比寿のお面をつけた子」
私が心配そうにソフィアちゃんを見上げると、ソフィアちゃんが私の頭を撫でてくれる。
「大丈夫。スピード勝負なら負けないから。それより、あの赤い仮面の子が危険ね。相手を怪我させる事に、躊躇が無かったから」
「うん。でも、多分私の守りは崩せないと思うよ?そしたら、後はクマの男の子だね」
「ええ。彼には目立った攻撃手段は無さそうだけど、なるべく早く倒した方がいいと思う。魔力を温存する為にも」
Bランクの魔力量は膨大で、使い切ってしまったら次に魔力が回復するまでに4時間近くかかってしまう。試合の数も減ってきている今だと、試合と試合の間は1時間程度。
1試合で3割以上使ってしまうと、次の試合から魔力のやりくりが大変になってしまう。だから、なるべく早く、少ない手数で勝つことが望ましい。
ソフィアちゃんの言葉に頷いて、私は手元の対戦表に目を落とす。
「次の3回戦を勝てたら、もう準決勝なんだね」
「そうね。2回戦がBランク3人の上位種ばかりだったから、魔力が持たないと思ったけど、3回戦はCDばかりで下位能力。4回戦もBランクが一人しかいない。これなら、決勝でAランクが2人以上いなければ」
「もしかして、優勝?」
私が跳ねるように問いかけると、それを見たソフィアちゃんが大きく頷く。
「気が早いけど、見えてくるかもね」
いつも冷静なソフィアちゃんが、珍しく楽観的な未来を描く。それだけ、今回の大会は優勝の可能性が高いという事。
私は嬉しくて、彼女の手を取って飛び跳ねた。
「頑張ろうね、ソフィアちゃん!」
「そうね、もみじ。私達の力を合わせて」
ちょうどその時、控え室に私達を呼ぶアナウンスがが入る。
試合の準備が整った様だ。
私とソフィアちゃんは、仲良く手を繋いで会場へと向かった。
私達がフィールドに入ると、既に相手チームが来ていた。
クマさん、恵比寿さん、戦隊ヒーローのお面を着けた子の3人。ここ最近増えてきた組み合わせだ。
私達が住む特区では見かけた事が無いので、特区の外で流行っているファッションだと思う。特に、恵比寿の人が龍と呼ばれていて、友達にも1人、モノマネをするくらい好きな子がいる。
我は竜なり!だったかな?
「(高音)恵比寿です。お面を着けての無礼、お許しください。今日はよろしくお願いします」
私がクラスの友達の事を考えていたら、相手チームから挨拶に来てくれていた。恵比寿のお面を着けた人だ。変なお面を着けているから、変わった人かと思っていたけれど、結構まともそう。
「あっ、飛鳥井、紅葉、です」
カタコトみたいになってしまった。だって、ビックリしたんだもん。
「クマだクマ!よろクマ」
クマさんが手を上げて挨拶する。とっても可愛くて、ホッコリする。
特区の中では、男の子が試合に出る事なんてないのに、特区の外では普通なのかな?
ううん。特区の外はもっと消極的って聞いてたから、きっとこのクマさんが凄い子なんだ。気を付けよう。
「ソフィア・フォールリーフです。よろしくお願いします」
ソフィアちゃんは流石だな。しっかりと挨拶している。
私も、もう一度やり直させて貰えないかな?
そんな風にモジモジしていると、最後の1人がグイッと近づいてきた。
「レッドだ。てめぇらを血祭りに上げてやるぜ。覚悟しな」
レッドさんが威嚇してくる。どうしよう。多分女の子だと思うんだけど、私の周りにいないタイプの子だから、どうお返事して良いか分からない。
こっちからも強く言った方が良いのかな?べらぼうめ!みたいに?
私がレッドさんの対応に焦っていると、レッドさんの隣にいた恵比寿さんが、レッドさんを抑えてくれた。
「(高音)口で喧嘩してどうするの。やるなら試合で見せなさい」
そう言うと、恵比寿さんが私達に頭を下げる。
「(高音)申し訳ありません。レッドは口が悪いだけなんです。本音は、貴女達の様な凄い人と戦える事が嬉しくて仕方ないんです」
「ええ、分かりました」
恵比寿さんの謝罪を、ソフィアちゃんが受ける。
その時、待機位置に戻るアナウンスが流れる。
「ですが、試合では全力で行かせていただきます」
去り際に、ソフィアちゃんが厳しい顔でそう言った。
「(高音)ええ。是非に」
それを、今度は恵比寿さんが受け止める。
『チームオメンジャーズとチームスターライトの試合が、間もなく始まります!』
試合の実況が、始まる。
それに合わせ、会場の熱が伝わってくる。
『小学6年生の組が多く残る中、低学年の子が主体のチーム同士が戦う珍しい試合となりました!オメンジャーズはCランク2人にDランクと、決して戦力では恵まれない状況にも関わらず、次々と格上のチームを倒して来ました。まさに伝説のジャイアントキリング、オメンジャーズの名に相応しい活躍です。対するチーム、スターライトは、もはや特区で知らない人はいないでしょうこの2人。個人戦でもBランク県大会優勝レベル、チーム戦なら全国大会でもトップクラス、天才少女、もみじ&ソフィア!』
「「「うわぁあああ!!」」」
実況が話している最中なのに、盛り上がる会場。特区の外なのに、皆に自分達が知られていることに、私は驚きと喜びを隠せないでいた。
『ユニゾンを使われたら先ず勝てない状況で、オメンジャーズがどう出るかが肝となる1戦です。果たして、オメンジャーズはあのオメンジャーズの様に強者を穿つことが出来るのか?スターライトの華麗な一撃が決まるか、注目の1戦が、今…』
そこで、少し静かになる会場。
主審が手を、下ろした!
『始まりました!!』
開始早々、私は炎の幕を周りに展開する。
これが、私の鉄壁防御。逆巻く業火が私以外を悉く焼き尽くし、近づけさせない。
その炎に、三本の爪が突き刺さった。
「くはは!読んでやがったか」
レッドさんが、私までの距離を一気に詰めて、一撃を入れて来ていた。
炎のベールをこじ開けようと、爪をグリグリ突き刺そうとするレッドさん。
でも、炎の壁は厚く、防御はまだまだ大丈夫そうだ。
そう思った矢先、今度は横の防御が揺らいだ。
見ると、移動したレッドさんの爪が、側面の壁を切り裂こうとしていた。
速い。
正面から一瞬で側面に回りこみ、鋭い一撃を放つ。
下手に気を抜くと、薄くなった炎の壁から切り抜かれてしまう。
そう思っていると、また正面からの衝撃。レッドさんの爪が、幕を破って私に迫っていた。
不味い。もう破られた。
私が補修をしようと手を上げる。
「あ、れ?」
だが、上がらない。
見ると、手には大量の土がくっ付いており、カチカチに固められていた。
不味い、クマさんだ。
「バースト!」
私は、破られた方向に炎を一気に噴射する。
その炎は、易々とレッドさんに避けられてしまう。
でも、それで良い。
その炎は推進力。その場を離れる為のアフターバーナーだ。
私はその推進力で一気に場を離れ、フィールド中央の宙に飛び出る。そこで、足と腕から炎を噴射して、上空3m程をホバリングする。
私達の読みでは、防御力がある私よりもスピード重視のソフィアちゃんが先に狙われると思っていた。
2対1、もしくは3対1で来ると。そうなったら、狙いが薄くなった方が先にクマさんを倒す。そういう作戦になっている。
私の方に2人来たから、ソフィアちゃんは殆どフリーのはず。なのに、クマさんを狙いに来ない。
ソフィアちゃんに何かあったのだろうか?
ソフィアちゃんは、今どこだろう?
そう思って、レッドさん達に炎の弾幕を撃ちながら周囲を探すと…。
いた。
ソフィアちゃんは、全身がキラキラした人と戦っていた。
高速で繰り出されるソフィアちゃんの斬撃、雷撃。同じBランクでもその攻撃をまともに受ける事すら難しく、自分が攻撃された事も分からないで倒れた人はいっぱいいる。
そんな彼女の攻撃を、そのキラキラした人は次々に腕で受けて、何かで撃ち落としている。
そんな、あり得ない!
私がそんな声を上げそうになった瞬間、ソフィアちゃんの体が、キラキラする人の蹴りでくの字に折れ曲がる。
私は目を見開いた。
「っ!ソフィアちゃ」
『りゅ、りゅうりんだぁああ!!』
「「「うぉおおおお!!!」」」
私の叫びは、爆発したかと思えるほどの大歓声に呑み込まれた。
『龍鱗が、本物の龍鱗だぁ!これは、本物のオメンジャーズだァあ!!』
「りゅうりぃぃん!待ってたぞぉ!」
「3年だぁ!お前が来るの、3年待ったぞぉお!」
「恵比寿さまぁあ!!」
その歓声に背を押されるように、キラキラの恵比寿さんがソフィアちゃんに迫る。
このままじゃソフィアちゃんが危ない。
そう直感で感じた私は、再度爆炎を巻き起こして、レッドさん達の追従を阻止した後、両手両足背中からジェットを噴射させて、猛スピードでソフィアちゃんの元へ。
「ソフィアちゃん!」
私の手が、苦しそうな彼女へと伸びた。
〈◆〉
確かに速いと、ソフィアは思った。だが、それはフィジカルブーストの同学年としては、だ。自分が得意とする、電光石火の一撃には遠く及ばないと。
ソフィアが思う通り、彼女の攻撃は恵比寿の攻撃より数段速かった。
恵比寿の攻撃が自分に当たる前に、相手の体に攻撃を当て、更に足を払って体勢を崩させる。その隙に、もみじを狙うクマに向かった。
向かった、はずだったのに、
気付けば何者かに回り込まれてしまい、側面から攻撃を受けてしまった。
相手は速かったが、何とか雷剣でそれを受け止める。
生身の攻撃であれば、剣に触れてしまえば感電して気絶する。
筈だった。
でも、目の前の相手はそうならなかった。
攻撃してきた腕は、小さな板の様な物で埋め尽くされていた。腕だけじゃない。足も、体も、顔も、全身が半透明の板で覆われている。太陽で照り返すそれは、キラキラと輝いて見えた。
「…鱗?」
まるで蛇の鱗の様に、生々しい異能力。
ソフィアの言葉に、相手が頷く。
「(高音)然り。そは龍鱗。この身は龍よ」
そう言いながら放たれる一撃は、速い。
格段に。
先ほどよりも!
「くっ!」
剣で受けるも、弾き飛ばされそうになる。
これが龍鱗。もみじが言っていた、噂の超人。
ダメだ。私は防御力が無い。受けてはダメだ。スピードで勝たないと!
「この程度!」
ソフィアは電気を身にまとい、今までより数段速く動く。
斬撃、打撃を、相手の死角から放つ。
だが、相手はソフィアの攻撃を全て弾き飛ばす。ソフィアのスピードに、追いついて来る。
「まだまだぁ!」
魔力を更に込めて、スピードを数段上げる。
頭が沸騰するように熱く、体は千切れそうになる。
でも、止めない。
もはやソフィアの姿は、傍からは光の線の様に見えていた。ソフィアの体から放電する光だけが、光の線として認識される程のスピード。
そんなソフィアの横に、
「なっ!」
並走する、龍鱗。
ソフィアは一瞬、思考が止まった。
もみじ以外の同年代が、この世界に踏み入った事は、未だかつて無かったから。
ありえない。
「はぁああああ!!」
ありえない、ありえない、ありえない!
ソフィアは、まるで拒絶するかのように、雷撃、斬撃、打撃を撃ちまくった。
次の試合とか、魔力の温存とか、そんな考えはすっ飛んでしまった。
ただ、この世界から出て行って欲しい。その思いだけが、胸の中を支配していた。
それでも、
「(高音)うらぁあああ!!」
全ての攻撃を、龍鱗は尽く粉砕する。雷撃を拳で打ち砕く、異常な光景。
なんて、速さ。そして威力。
冷静さを欠いたソフィアの乱打は、打ち終わった後に少しの隙を生む。
その隙に、龍鱗の蹴りが入り込んだ。
真っすぐに伸びた足が、ソフィアの腹に食い込み、体を宙へと放る。
体重の軽いソフィアは、地面を何転か転がり、止まる。
辛うじて蹴りは剣で受けたが、衝撃がまだ、お腹に残っていた。
どうする。どうしたら、この人に勝てるの…?
ソフィアは必死に考えながらも、何とか立ち上がる。立ち上がったが、どうするべきかは分からない。
私はどうしたら…。
そう、ソフィアが歯を食いしばった、その時、
「ソフィアちゃん!」
声が聞こえた。
心に響く、暖かい声。
「もみじ!」
声の方を向くと、既にもみじが目の前まで飛んできていた。
ソフィアはいっぱいに手を伸ばす。もみじが心配そうな顔をして伸ばす、その手に向けて。
もみじがソフィアの手をしっかりと握りしめ、そのまま飛びながらソフィアをかっさらっていった。
うっぐ。
肩が外れそう。でも、大丈夫。これくらい平気。
「ソフィアちゃん!大丈夫!?」
泣きそうな、もみじの声。
ソフィアは、もみじの暖かい腕に抱かれて、少しずつ冷静さを取り戻して行く。頭が冷えると、体の節々が痛い事を思い出す。
少し、無茶をしてしまった。お腹の痛みは大丈夫。動けない程の怪我はしていない。
「ごめん、もみじ。折角忠告してくれたのに、私、焦っちゃって」
「大丈夫だよ。ここから、やり直そう」
宙をホバリングするもみじと、それにお姫様抱っこされるソフィアの2人は、下で構える3人を見下ろす。
「あの人達は強い。Cとか、Dとか関係なく」
「そうだね、ソフィアちゃん。あの人達に勝つには、これしかないよ」
「うん。もみじ」
ソフィアは、もみじの片手を両手で包む。目を閉じて、感覚を鋭く、意識を集中させる。
暖かいもみじの手から、暖かく、優しい波が流れ込んでくる。
それは、自分の中の波と合わさり、大きな渦なっていく。
「「おおおお!」」
「出た!ユニゾンだぁ!!」
歓声が、周囲から沸き起こる。
いつものように、私達を祝福するかのような。
「凄い!何なんだ、ありゃ!」
「こんな事、出来るもんなのか!?」
今までの試合よりも、遥かに大きくざわめき出す観客。
空を飛びながらユニゾンだからだろうか。驚きが大きい。
「私、初めて見た!」
「おいおい嘘だろ!前代未聞だぞ、こりゃ」
うん?初めて?前代未聞?
ソフィアはここで初めて、違和感を覚える。
ユニゾンは初戦でも使った。なのに、大袈裟過ぎる。
一体、みんなは何に驚いて…
「ユニゾン同士の対決だ!」
ユニゾン、どうし...!?
ソフィアは、目を開ける。
目を、見張る。
そこには、手を繋ぎ、目を閉じる3人の姿が映った。
『オメンジャーズもユニゾンを始めたぁ!!』
実況のうるさい声が、嫌でも現実を耳の中にねじ込む。
ただのハッタリじゃない。3人の魔力が、徐々に合わさって行くのが分かる。
もみじとのユニゾンで、感覚が鋭くなっている。それだから、余計に分かる。
彼女達は3人で、バラバラの魔力の波で、それでもユニゾンを整え始めている。
「そんな、ありえない!」
3人でのユニゾンなんて、聞いた事がない。
同じ波長の人を探す事だって、偶然に偶然が重なる程の奇跡だ。それが3人。
そんな事…。
「ソフィアちゃん。あの子達の事より、今は私達だよ」
もみじの声で、ソフィアは我に返る。
「ごめん」
ソフィアは再び目を閉じ、波長を合わせ、交じり合わせて、ユニゾンを完成させる。
それとほぼ同時。
『ゥグァアアアアアアア!!』
お腹まで響く、荒く太い咆哮。
まるで獣の咆哮のようなそれに、ソフィアは伏せていた顔を勢いよく上げる。
そこにいたのは、黒い大きな何かだった。
3人がいた場所に、今は大きな怪物が鎮座していた。
黒い鱗が集い連なり、爬虫類の腹を彷彿とさせる巨大な体が地面を押し固め、太く長い大樹のような首が宙を泳ぐ。
首の先端、頭部の辺りに小さく空いた穴からは、真っ赤な目らしきものが宙を見つめ、そして、次の瞬間にこちらを向く。
6つの瞳が、ソフィア達を見つけて、一斉に向く。
『なんてことだ!3人でのユニゾンを成功させただけでなく、これほどの巨大なユニゾン魔法を構築しただとぉ!この漆黒の黒は、Sランク並みの異能力かぁ!?』
「「「うぉおおお!!」」
どよめく会場の中で、黒の巨体が揺れる。
三つ首の、龍。
自分達以外のユニゾンは、見たことが無かった。
そして、自分達のユニゾンでも、これほどまでの大きなユニゾン魔法は出来ない。魔力が足りない。
それを、Cランク以下がやってのけた。3人でのユニゾンという、荒業の果てに。
「なに、あれ」
もみじが、かすれた声で聴いてくるが、ソフィアは答えられず、ただ首を振る。
「分からない。でも、動きが遅い。今がチャンスよ!」
「う、うん」
もみじは少し躊躇っていたが、すぐに切り替えて、片手を前に。ソフィアも、その手に自分の手を重ねる。
重なり合わさり交わった膨大な魔力を、重ねた手に集中する。そして、
一気に、放つ!
「「メテオ・ブラスト!」」
雷撃と豪炎が入り交じった光球が3つ、巨龍の元に飛び、そして、着弾。
爆音が、爆煙が、辺りを呑み込み、吹き荒れる。
『決まった!スターライトのユニゾン魔法!高速で打ち出されたこの攻撃は、とても躱す事など出来はしない!』
もうもうと立ち込める土煙が、威力を物語る。
1発だけでも、Aランクのバリアを易々と焼き切る自慢の攻撃。それを3発も食らったのだ。無傷な筈はない。
そう思ったソフィアだったが、土煙が収まり出すと、見えてきたのは6つの光。
目だ。
龍の目が、こちらを向く。
煙の中から現れた5m近くある巨体は、ほぼ無傷であった。6つの目があるはずの場所には、赤く輝く何か。その巨体が近くまで来て漸く、それらが小さな盾であることが見えた。
『な、なんと、あの攻撃を喰らっても、尚もユニゾンを保っているぞ!何という防御力!その漆黒の体は、やはりSランク級の防御力があるのかぁ!?』
実況の声に、しかし、観客は答えない。
試合の流れに圧倒的されて、魅入ってしまっていた。
と、その時。
開いていた3つの口から、異口同音の声が響く。
『与えよう』『与えよう』『与えよう』
龍の暗く深い口の中から、低い声が空気を震わす。
地獄の底から響き渡るかのような、悪を煮詰めた怨嗟の声。
『苦痛を』『苦悩を』『死を』
その、地獄の釜のような黒い龍の口から、白い鋭利な牙が覗く。
『『『剛牙龍、アジ・ダハーカ!』』』
圧倒的な暴力が、空気を震わせた。
主人公たち、凄いのを召喚しましたね…。
はい。以上で今年の更新は終了となります。
皆さま、また来年もよろしくおね…
「おい」
えっ?
「え、ではない。こんな中途半端なところで終わらせる気か?こんなので年が越せると思っているのか?」
ええっと、つまり…。
「連投だ。次話も今年中に投げるのだ!」
ええっ!?