297話~少し待つ事は出来ますか?~
午前9時51分。
上野WTC、セントラルスタジアム。
全日本Aランク戦、Aブロック3回戦。
蔵人は、広大なフィールドで軽い準備運動を行っていた。
動かすとよく分かるが、体が少し訛っているのを感じる。
仕方がない。昨日は帰るのが遅くなって、最近始めた薪割りトレーニングをこなせていないからだ。お陰で、筋肉と体力が有り余っている状態だった。
…試合前としては、こちらの方が正しい状態なのかもしれない。
だが、精神的には何時もよりも疲弊しているのは間違いない。それだけ、昨日の試合後は大変な目に会っていた。
第2回戦。前回王者、園部勇飛さんを倒した蔵人はその後、記者団に取り囲まってしまった。
観客だけでなく、マスコミ関係の皆さんはみんな、優勝候補筆頭を倒した人物を取材したくてウズウズしていたみたいだ。その人物が格下のCランクで、更に男性となれば尚のことだった。
『黒騎士選手!王者を下した心境をお聞かせ下さい!』
『黒騎士選手!皇帝のデトキネシスを止めた技、加えて最後に放った技は一体何なのでしょうか?是非、流派だけでも教えて下さい!』
『黒騎士選手!この大会の記録を見ると、貴方は男性で登録されています。これは本当の事なのでしょうか?是非、一声下さい!』
『超絶のイケメンで、多くの女子生徒を侍らしているという噂もあります。この真相についても、是非一言!』
『黒騎士選手!理想の女性像を教えて下さい!』
もう、質問が止めどなく投げつけられて、喋る暇も無いくらいに大混乱な状況であった。
どうやって切り抜けようかと視線を彷徨わせていた時、群衆の中に見知った顔を見つけたので、彼女を手前に呼んだ。
異能力雑誌〈ナンバー1〉の記者、高野さんだ。以前、ビッグゲームの特集を組む為に桜城へ取材をしに来た彼女が、今回もやって来ていた。なので、蔵人は彼女を最前列に陣取らせて、彼女の質問を中心に回答を進めていった。
『黒騎士選手。男の子でクリエイトシールドと言うハンデを背負いながらも、ビッグゲームに続いて大変な快挙を成された事、誠におめでとうございます。これだけの偉業を達成された決め手は、ズバリ何であるとお考えですか?』
『ありがとうございます、高野さん。シングル戦は、ファランクスとは異なる部分も多い反面、応用できる部分もありました。ですので、一つはビッグゲームで培った経験が生きた事も大きいと考えています。ですが、勿論それだけではありません。今回の相手、皇帝選手は強敵であり、今まで戦った方々の中でもトップレベルの実力者でした。攻防一体で使用されるデトキネシスに、洗練された直心影流の薙刀術が僕を全く寄せ付けなかった。彼女に勝つために、私はデトキネシスの弱み、精密な魔力操作を狂わせる事に勝機があると考え、魔銀の魔導性を最大限生かす方法に一縷の望みに賭けました』
『なるほど。つまり、相手の弱点を試合の中で見つけて、それを突く戦法を編み出したという事ですね?その園部選手のデトキネシスを封じ、更には彼女を直接下したあの技、ジュピターガードについてですが、あれはご自身で考えられた技なのでしょうか?』
『そうですね。あの技は以前、ファランクス部の練習中にヒントを得て、私なりに形成した物です。ですので、私が独りで開発したというよりも、ファランクス部員が気付かせてくれた技なので…』
こんな風に、蔵人と高野さんが話しているのを、周りの記者が一生懸命にメモするスタイルで乗り切った。
その後に写真撮影があり、やっと終わったと思った次の瞬間には若葉さんに捕まり、追加の記者会見を開く羽目になった。
お陰で、蔵人が宿に帰り着いたのは日も落ちかけた頃で、そんな時間では軽い筋トレくらいしか出来なかった。
だがその影響は、蔵人の体だけでなく、周囲にも及んでいた。
蔵人は暗い気持ちのままに、顔を上げる。
すると、
「「「きゃぁあああ!!」」」
「黒騎士君がこっち見たわぁ!」
「立った姿が堂々としていてカッコイイ!流石は、皇帝を倒した選手だね!」
「ダメっ!イケメン過ぎて、私、過呼吸になりそうっ!」
イケメン過ぎって、目しか出てない兜なんだが?
蔵人は、一般客達が狂喜乱舞する様子を仰ぎ見て、彼女達に分からない様に小さく息を吐いた。
これも、昨日の取材とテレビ放映による影響だ。
宿のテレビが壊れているので、さっき若葉さんに聞いた話なのだが、昨晩は各局のテレビで全日本の特集が組まれ、黒騎士と皇帝の一戦はかなりの時間を費やして紹介されたのだとか。その際に、高野さんの取材も放映されて、黒騎士が男性のCランクなのに、今や優勝レースに躍り出たと解説されたそうだ。
民放だけでなく、国営放送まで大きく取り上げたと言うのだから、頭の痛い事だ。
だが、悪い事ばかりでは無い。
放送では試合風景だけでなく、その後の勇飛さんとのやり取りも取り上げられた。魔力絶対主義を覆すCランクを見てくれというメッセージが、日本全土に放映されたのだ。
これで、少しは技巧主要論の先駆けと成れただろう。
こうなれば後は、その証明をするだけ。頂点を掴むために、邁進するだけだ。
蔵人は気持ちを切り替え、3回戦の相手が通って来るだろう入口に視線を向ける。
今、フィールドには蔵人と審判しかいない。
時刻は、9時55分。
試合開始まで5分を切った。
そろそろ来るだろう。対戦相手が。彼女が。
蔵人は心を昂らせて、頭を冷やした。
緊張が心拍数を上げて、体をアイドリングさせる。血を身体中に巡らせて、何時でも戦える様に準備が進む。
そうして準備を進めるのだが、相手はなかなか来ない。
もう、試合開始まで残り2分を切った。
流石に、ちょっと遅すぎる。
あの勇飛さんだって5分前には来ていたし、1回戦で白百合に嵌められた蔵人でも、2分前には到着していた。
このままじゃ不戦敗だぞ?
そんな蔵人の心配は、周囲にも伝播する。一般客の中でも、ザワザワと低い声で推論が交わされた。
そして、
「黒騎士選手」
審判が歩み寄ってきた。
「試合開始時刻と成りました。貴方の不戦勝です」
「そう、ですか…」
不戦勝。戦わずして勝利を頂いた。
そう聞くと、嬉しいという思いよりも、虚しさを強く覚えた。
なので、蔵人は少し考えてから、審判に向き直る。
「あの、少し待つ事は出来ますか?」
「それは…5分程度なら可能ですが…よろしいのですか?」
「私は構いません。ご無理を言って申し訳ありませんが、よろしくお願い致します」
ここで不戦勝など、折角チケットを当てた観客の皆さんが可哀想だし、何より対戦相手がいたたまれない。
彼女達の多くは3年生。これが中学生最後の、下手したら人生最後のチャンスである。それを、遅刻で逃したなど余りに気の毒。何とかしてやりたい。
蔵人が審判に無理を言うと、彼女はかなり驚きながらも手配を進めてくれた。
そして直ぐに、放送でもその事が伝えられる。
『試合開始の時刻と成りましたが、選手が揃っておりません。本来なら黒騎士選手の不戦勝となるところですが、彼のご好意により、5分間だけ開始時間を延長致します』
「「なんですって!?」」
「折角勝てるのに、延長するの?」
知らせを聞いて、観客席から信じられないと声が上がる。
遅れる選手に対しての非難…ではない。
何故か、こちらに熱い視線が集中する。
「やった!チケットが無駄にならないわ!」
「黒騎士君の戦いが見られるよ!」
「黒騎士君、なんて優しい男の子なの!」
「天使様よ!こんな優しい男の子は、天使様の生まれ変わりよ!」
「ああっ白銀の鎧が輝いて見えるわぁ」
「黒騎士様!愛してるわぁ!」
「「「くっろきし!くっろきし!」」」
うぉおお…。
女性達が、尋常じゃない程の黒騎士コールを始めてしまった。しかも、なんだよ天使って…。ちょっと待つと言っただけでこんな反応では、下手な事が出来ないぞ。
勘弁してくれよと、蔵人が肩を落としていると、向こう側のゲートで人影が揺れた。
相手選手が来た。
来たのだが…。
「「えぇえ…」」
「ちょっと、どうしたのよ?」
「大丈夫なの?彼女」
「ボロボロじゃない」
蔵人の視線の先には、痛ましい姿の少女が歩いていた。
装備は殆ど役目を果たせない位に欠けてしまい、ビキニアーマーの様に露出が激しくなっている。そして、その両手には松葉杖が握られて、それで何とか歩いている状態だ。
顔色も酷い。青を通り越して土気色だ。
こいつはもしや、魔力欠乏症。彼女の歩き方がフラフラなのは、魔力が足りていなくて頭痛がするからか。
そんな状態でも、彼女は蔵人の目の前まで来ると、無理して口角を上げた。
「悪いねぇ、遅れちまってさぁ」
「いいえ。良くぞいらして下さいました、蜂須賀さん」
蔵人の相手は、埼玉1位の蜂須賀杏樹さん。桜城文化祭で白百合の魔の手から救ってくれた恩人であった。実は、対戦相手が恩を受けた彼女だったことも、待たせて貰った理由の一つであった。
だが、それは裏目になったかも知れない。
こんなにボロボロの彼女を戦わせる事になるのなら、不戦勝となった方が良かったのかも。
だが、それももう遅い。
今目の前にいる彼女は、とても鋭い視線をこちらに投げかけていた。
体は瀕死だが、心は折れていない。
さぁ、早く始めるぞと、こちらに訴えかけて来ている。
彼女は本当に、自分と戦う事を楽しみにしてくれたのか。
ならば、受けるしかない。
「あちらが貴女の立ち位置です、蜂須賀さん。もしよろしければ、盾でお送りしますが?」
「なんだい?あたしを舐めてるのかい?こんな体でも、あんたを倒すくらい余裕だよっ!」
彼女は闘志を漲らせた瞳でこちらを睨み上げた後、自分の立ち位置まで何とか杖を進める。そして、その場に立つと、邪魔だとばかりに松葉杖を遠くへ放り投げた。途端、前のめりで倒れそうになるが、倒れる寸前で体を支える彼女。本当に限界だ。目から一瞬光が消え、気絶寸前の状態であった。
それでも、彼女はこちらを見た。その瞳には、再び闘志が燃え上がっていた。
…侮れない。彼女はまるで、手負いのオオカミだ。
審判が、蔵人達の間に入り、手を上げる。
「これより、全日本Aランク戦、第3回戦Aブロック第2試合目を始める!試合時間10分の1本勝負、シングル戦公式ルールに準じてジャッジする!双方、構えて……始め!」
ファァアアアンッ!
試合開始の合図。
それと共に、蜂須賀選手から膨大な魔力が生み出され、蔵人の元に何かが飛んできた。
蔵人は瞬時に水晶盾を構えて、その何かを迎え撃った。すると、水晶盾にその何かが巻き付いた。
よく見るとそれは、サイコキネシスの手。穂波嬢を捕まえた時と同じように、細い腕が水晶盾をグルグル巻きにしていた。
彼女の異能力の特徴は、細さと長さなのか?
「キッシィイ!」
蔵人が彼女の異能力を見極めようとしていると、その縄を手繰り寄せて、蜂須賀さんが駆け寄って来た。
先ほどまでの弱弱しい動きは鳴りを潜め、まるで飛ぶように移動する蜂須賀さん。
いや、実際地面から足が離れている。
彼女は伏見さんの様に、縄を手繰り寄せて移動出来るみたいだ。
伏見さんとは違い、腕は伸縮自在ではなく、他のサイコキネシスの腕で縄を手繰り寄せているだけみたいだが。
「ッシャァアア!」
水晶盾を飛び越えて、蜂須賀さんが蔵人に襲い掛かって来た。彼女の傍らには、太陽を乱反射させる金剛の腕が構えられている。
Aランクのサイコキネシス。それが、蔵人に向かって振り下ろされた。
だが、
『とめたぁあ!黒騎士選手、蜂須賀選手の一撃を見事に受け止めたぁ!これは、2回戦でも見せたランパートだ!園部選手のデトキネシスすら防いだスーパーシールドが、Aランクの拳を易々と受け止めたぞ!』
「「「わぁああああ!!!」」」
「見て!本物のランパートよ!」
「テレビで見た奴だぁ!」
「あれがAランクすら倒す、黒騎士様のスーパーシールドなのね!」
「すげぇえ!本当にAランクの攻撃を止めてるぞ!」
ランパートを出しただけで、空気が揺れる程の大歓声が沸き起こる。
易々と受け止めたなんて言っているが、これは予測していたから出来た事だ。
相手は魔力も残り少ない状況。であるなら、悪戯に試合を長引かせず、短期決戦を選んで来るだろう。そう予測した蔵人は、水晶盾を作ると直ぐに、その後ろにランパートの生成も始めていた。それ故に、彼女の攻撃を余裕で受け止めることが出来たのだ。
だが、受け止められる事は彼女も織り込み済みだったみたいだ。
ランパートの向こう側、そこから、数本の腕がこちらへと伸びて来る。細い半透明の腕。それが盾を乗り越えて、蔵人の胴体に巻き付いた。
「さぁて、捕まっちまったねぇ。どうするよ?黒騎士様」
蜂須賀さんの良い笑顔が、盾の上からこちらを覗き込んだ。
まるで、獲物を見つけた猫の様だ。
だが、そう簡単に捕まるかな?
「シールド・カッター!」
蔵人は、伸びている彼女の腕に向かって、高速回転の盾を当てる。すると、サイコキネシスの縄は簡単に切り落とされる。
腕に込められた魔力がCランク程度しかなかったことと、随分と伸びていた事で、強度がかなり落ちていたみたいだ。
「なんだい。つれないねぇ!」
蜂須賀さんがランパートを踏み台にして跳躍し、こちらへとダイブしてきた。
彼女の傍らには、再び金剛の腕が生えている。
「これも防げるかい?」
彼女はそう言って、本物の腕を横へと振り抜く。
すると、いつの間にかランパートを捕えていたサイコキネシスの腕が、蔵人のランパートを遠くへと放り投げてしまった。
無防備になった蔵人に、危険な色の瞳を向けてくる蜂須賀さんが、嬉々として拳を振り下ろす。
だが、
「甘い!」
蔵人は全身の龍鱗を前面に集め、簡易ランパートを瞬時に構築する。
そのランパートに、金剛の腕が突き刺さった。
「「「うわぁあああ!!!」」」
「また止めたわ!」
「これも、テレビで見た奴だぁ!」
「やっぱりあの試合は、作り物なんかじゃなかったんだ!」
「「「くっろきし!くっろきし!」」」
大歓声が、2人を横殴りに降りかかる。
それを受けて、蜂須賀さんはとても苦しそうに顔を歪ませる。
歓声に心を痛めて…と言うより、大きな音が頭に響くみたいだ。
「くっ…」
苦しそうに声を漏らす蜂須賀さん。
すると途端に、簡易ランパートを押していた力が弱まった。
見ると、金剛だった拳が、白銀へ、水晶へ、そして鉄へと変色し、最後には消えてしまった。同時に、彼女の瞳の奥で燃えていた闘志も、消え失せた。
全てが消えた彼女は、そのまま地面へと落ちる。
「くっそぉ…」
地面に這いつくばって、怨嗟の声を上げる彼女。だが、頭すら持ち上がらない。
魔力が尽きたのだ。今の彼女は、意識を保つだけで精いっぱいの様子であった。
とても、戦える状態ではなかった。
そう思ったのは蔵人だけではなかった。審判が彼女の元に駆け寄ってくると同時、手を交差して試合終了の合図を送った。
それを受けて、実況も声を高らかに会場中に響かせる。
『試合終了!僅か1分足らずの間に、勝負が決してしまった!勝ったのは黒騎士選手!またもやCランクがAランクを下した!』
「「「うぉおおおおお!!!」」」
大歓声で会場中が揺れる中、彼女の元にはテレポーターが駆け寄って来る。
だが、蜂須賀さんは、近寄って来るテレポーターに向かって、鋭い視線を投げた。
「なに、早とちりしてんだい。あたしは、まだ、ヤれるんだよ。まだ、終わって、ない…んだ…よ…」
そう、苦しそうに言葉を吐いた次の瞬間、蜂須賀さんの目から光が消えた。
完全に、意識を失ったのだ。
力なく倒れ伏す彼女を、テレポーターが移送していった。
蔵人は、彼女が去った後も、彼女が倒れていた場所を暫く見下ろしていた。
これが、全日本。
これが、Aランク戦。
連戦で戦わなければならない彼女達は、試合に勝つ事だけではなく、如何に次の試合に魔力を残すかも重要となってくる。仮にその試合に勝てたとしても、今回の蜂須賀さんの様に魔力を使い切ってしまっては、次の試合で勝率を大きく下げてしまうから。
Aランクが魔力を空から満タンまで回復するのに、平均で48時間が必要だ。蜂須賀さんは恐らく、前回の試合が遅い時間帯であり、殆どの魔力を消費してしまったのだろう。だから、今日は魔力が溜まっていない状態で挑むしかなかった。
これは、ビッグゲームでの海麗先輩も同じ状態であった。
圧倒的な力を有するAランク。だが、彼女達にもまた、考慮しなければならない大きな枷に縛られている。
難しい物だ、異能力とは。
蔵人が現実の厳しさを再認識していると、審判が近寄って来た。
うん?何でしょうか?
「お疲れ様でした、黒騎士選手。ご希望であれば、テレポーターを呼びますが?」
「いえ。怪我はしていませんので、医務室には自力で行くことにします」
「そうですか。では、その…」
モジモジする審判。
うん?何かあるのかな?
蔵人が「どうかされました?」と聞くと、少し目線を上げる審判。
「男性選手にこのような事をお願いするのは恐縮なのですが、可能でしたら、その、皆さんに一言頂けないでしょうか?試合が、思ったよりも早く終わってしまって…」
そう言って彼女が差し出してきたのは、一本のマイク。
ああ、そうか。
蔵人も彼女の視線を追って、後ろを見る。
そこには、こちらに惜しげもなく拍手と歓声を送る観客達の姿があった。キラキラした目を向けている彼女達だが、何処か寂しそうでもある。試合が直ぐに終わってしまい、残念に思っているのだろう。
「分かりました。お任せください」
蔵人がマイクを受け取ると、心底ほっとした顔になる審判。
大変だな、審判って。こんなことも配慮しないといけないなんて。
蔵人は彼女を労いながら、観客に向かって声を掛ける。
『皆さん!ご声援を頂き、ありがとうございました!』
「「「きゃぁああああ!!!」」」
「黒騎士様が声を掛けて下さったわぁあ!!」
「イケボよ!イケボ!」
「耳が妊娠するぅうう!!」
うぉおお…。
思ったよりも大反響。そして、ちょっと引いてしまう程に癖が強い。
蔵人は挫けそうになる心を奮い立たせ、背中に盾を付けて飛び上がる。
途端に、観客席からは嵐のような黄色い声が飛び交う。
うん。やはり彼女達は、異能力を見に来ているのだ。であれば、幾つか技を見せるのが良いだろう。
蔵人は周囲に盾を侍らせて、彼女達の頭上を飛び回る。
「「「わぁあああ!!!」」」
「黒騎士様が、空を飛ばれているわぁ!」
「やっぱり天使様なのよぉ!」
「黒騎士様!こっち向いてぇ!」
飛んでいると、観客席から手を振られる。
なので、蔵人も手を振り返すと、余計に興奮しだす観客達。
…大丈夫だろうな?暴動とかに発展しないで下さいね?
『皆さん!全日本はまだまだ続きます!今回の試合以外にも、見応えのある試合ばかりだと思いますので、是非最後までお楽しみください!』
「「「はぁああいっ!!」」」
「分かりましたぁ!」
「黒騎士様の勇姿、全部みまぁす!」
「黒騎士様もがんばってねぇ!」
うん。素直なお姉様方だ。
蔵人はそう思いながら、眼下でこちらに手を振る観客達に手を振り返す。
すると、いつの間にか、蔵人が近くに来ると観客が立ち上がり、去ると座ると言うウェーブが出来上がっていた。
…なんか、コンサートでも開いているみたいだ。
そう思ったのは蔵人だけではなかったみたいで、観客達から幾つも要望が飛んで来る。
「黒騎士様ぁ!歌を歌ってください!」
「ダンスを見せてぇ!」
「ステップステップとコラボしてください!」
「プレストのタク様とユニットを組まれるんでしょ?絶対見に行きます!」
「握手会も開いて下さい!」
『なんだとっ!?』
蔵人は思わず反応してしまった。
だが、そんな一言にも、観客達は大興奮だ。
そんな彼女達を見て、蔵人は空中で首を振る。
プレストの奴ら、着実に包囲網を狭めてきていないか?
え~…3回戦の様子でした、が。
「Aランクとは、強さの反面燃費の悪さもあるのだな」
特に、今回の様な連戦では、魔力消費も考えないといけないですね。
その為に、中休みや決勝戦前のお休みがあるのだと思いますが。
「そうしないと、全力を出せんのだろう。Aランクとは、高ランクの者共は不便だな」
その不便さも考慮した戦略を練らないといけないのです。
なかなか、考えられさせますね。
「あ奴は考える必要がないがな」
1時間で全回復しますからね。
イノセスメモ:
魔力回復時間
Eランク:3~30秒
Dランク:30秒~5分
Cランク:5分~50分
Bランク:50分~500分(8時間20分) 平均5時間
Aランク:8時間20分~80時間 平均48時間
Sランク:4日以上←人によっては10日以上とも言われている