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0話前編〜何度か転生していますので〜

気づいたら、何にもない真っ白な空間を漂っていた。

上も下も左も右も、前も後も全部が真っ白な空間に、何処からか光が煌々と降り注いでいて、それでも眩しくはない。なんだか不思議な空間。


そんな空間を漂っているのは、どうやら俺だけではない様だ。

周りには、何人もの人がいる。10人、20人、いや、もっとか?

くたびれたスーツを着るサラリーマンや、ちょっと化粧が濃い女子高生。おどおどと周りを見回す老人に、膝を抱えてうずくまる少年。


そんな彼ら彼女らの表情は、誰も彼もが驚いた表情をしているから、多分俺と同じような状況なのだろう。俺だって、傍から見たら同じ顔をしているはずだ。


ここは多分、あの世ってやつだろうな。

だって、今周りにいる人たちの顔は、あの瞬間、あの車両に乗っていた人たちと同じなのだから。きっと“あの”後にみんな死んでしまったのだろう。それでこの真っ白な空間、天国みたいなところに飛ばされたってところか。まさか小説みたいなことが起きるとは思わなかった。


でも、もしも小説と同じなら、きっといるはずだ。俺たちに審判を下して、新しい次の人生ってのを与えてくれる神様ってやつが。

そう思って周りを見て見ると…。


いた。


1人だけ、遠くでポツンと離れて、俺たちを監視している奴がいる。

でもそいつは、神様ってよりも死神みたいなやつだった。

黒髪で、鋭い目をしていて、こちらをジッと眺めている。

ぱっと見は、俺と一緒の平凡な男子。

でも、服装は全身真っ黒で、何か禍々しいオーラみたいのが漂っている…気がする。

兎に角、一目見てヤバそうな奴というのは、俺にも感じ取れた。


それでも、俺はそいつの所まで泳ぐように近づく。不良の近くには絶対寄らない俺も、今だけは、何故か恐怖が湧いてこない。それどころか、逆にワクワクしていた。


もしも神様なら、こう言いたい。

転生できるなら、次の世界は剣と魔法の異世界がいい。小説の中みたいに、魔物がいて、冒険者がいて、ちょっと文明が遅れていて不便だけど、現代の知識でいろいろ発明して、周りから尊敬される。そんな楽しい世界に行きたい。

何をやっても上手くいかない現実世界なんて、もうたくさんだ!


「あの!」


俺は死神に向かって空間を泳ぎ寄り、ある程度距離が縮まってから声を掛けた。はず。

声を出したと思う。でも、体の何処から声が出たか分からない不思議な感覚だった。


「あの!えっと、あなた、神様ですよね!」


近くで見ると余計に異様な奴だ。黒髪で肌の色も東洋人風なのに、瞳だけが違う色。深い青…じゃない。紫色の瞳。

やはり普通の人ではない。

俺の勘は間違っていなかった!

そう思ったのに、


「いえ、違いますよ?」


しかし、そいつはゆっくりと首を横に振って答える。


えっ?

予想外の返答に、俺は言葉を詰まらせる。

そんな俺を見てか、そいつは少し笑って頭をちょこんと下げる。


「初めまして。私は黒戸と申します。私も貴方達と同じ、転生待ちの人間です」


くろと、と名乗った青年は、さも当然というように、転生という言葉をサラリと言った。

その言葉に、俺は「やっぱり転生なんだ!」と嬉しくなるのと同時に、「なんでこいつは、これから転生されることを知っているんだ?」という疑いの心が生まれた。


その俺の頭の中を読んだかの様に、黒戸は自分を指さして説明する。


「ここが初めてではないのです、私。何度か転生していますので」


何度も転生している。

その言葉に、彼への興味よりも疑心の方が強くなる。

しかし、彼はそんなことを気にした風もなく、説明を続ける。


「ここは、俗にいう黄泉の世界と言えば、想像しやすいでしょうか?」


黒戸曰く、ここは輪廻転生を果たすため、日々多くの亡者が魂を洗われ、綺麗な新しい身体()を用意されて、様々な世界へ送り出される場所。送り出すのは天界の神様…なんて上位存在は来るはずもなく、神に役割を与えられた大天使クラスの天使達が対応するらしい。


転生は、記憶を消され、殆どの人間は赤ん坊からスタート。仏教等で説かれている話とほぼ一緒。違うのは、業があるから徳があるからといって、生まれる先に違いがある訳では無いこと。


偉いお坊さんもミジンコになるし、ニートが大国の王子に生まれ変わる事だってある。この黄泉の世界に来られる時点で、それ程差はない。

仮に大きな罪を犯して、誰かに恨まれて地獄に行っていたら、大きく変わるらしい。

そもそも、地獄から卒業しない限り、輪廻転生の輪に乗れないらしいので、比べる事も出来ないのだそうだ。


彼の話を最後まで聞いて、俺は、黒戸という人間は、もしかしたら有名な詐欺師だったのかもしれないと思った。あまりにすらすらと嘘が飛び出し、それをさも見てきたかのように宣うその姿に、俺は何ら違和感を覚えない。


もしそうなのだとすると、ここは天国などではなく、地獄なのかも。

俺が「俺も地獄行なのか!?」と心をざわつかせていると、上空から羽を生やした女性が降りてきた。

金髪碧眼の外人さんだ。羽は作り物じゃなさそうだ。とってもふわふわしている。

でも、めちゃくちゃデカい。

何がって?残念ながらそっちじゃないよ。身長だよ。

見上げる首が痛くなるくらい、デカい。


『子供たちよ。ソナタらは前世で運命を全うし、新たな世界で、新たな命を灯し、再び歩き出すのです』


その女性から、声が響く。口が動いていないのに、とてもはっきりと聞こえる声。まるで頭の中に直接響いてくるようだった。


「大天使様ですよ」


黒戸が言った。

あれが、大天使。黒戸の嘘が当たった。


そして、大天使様から少し古風で分かりにくい説明が始まり、その内容の殆どが、先ほど黒戸が嘯いた、いや、教えてくれた事そのままだった。

彼は、本当の事を言っていた。

のかもしれない。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


誰かの声が、大天使の説明を止める。

男だ。少しくたびれたスーツを着た、お腹の出たサラリーマン風の中年男性だ。


「生まれ変わる?ふざけた事言うな!俺は忙しいんだ!これから大事な社内コンペが控えている。タチの悪いイタズラに付き合っていられないんだよ!人生が、俺の人生がかかっているんだ!」


そう喚く男だったが、大天使がふっと男に笑いかけると、男はビクリと体を震わせ、その場に直立した。

何かした。あの大天使が、何か恐ろしいことをしたんだ。

俺も、その場にいた人も、直感でそれを感じた。

それを見た人達は、互いに目配せをして、同時に大天使を見上げた。


「あ、あの…」


少しして、口を開く人がいた。

先ほどの中年男性よりも、一回りくらい若い青年だ。


「そ、その、どうしても輪廻転生?しなけりゃいけないんですか?元の世界に帰してはくれないのでしょうか?わ、私には、妻と子どもが2人おりまして、私がいないとダメなんです。私で出来ることならなんでもします。お願いです!どうか、どうか妻と子供たちに会わせて下さい!」


男は両膝を突いて、土下座までし始めた。


「それは、無理でしょうね」


俺の横で、黒戸が呟く。

なんでも、ここにいるという事は、四十九日も終えているという事。仮令たとえ、記憶をそのままに魂を前世に戻したところで、身体は無く、墓の下だろうと。


黒戸が予測した通り、大天使は首を振り、男は泣き崩れた。

他の数人の男女もそれを見て、涙を浮かべて俯いた。

多分、彼と同じ心境だったのだろうな。

大天使が泣き崩れた男に声を掛ける。


『そう悲観するものでもありません。次の世界でも、素晴らしい運命が貴方を待っています。前世で成せなかった使命を、来世で果たすのです』


大天使は励ましのつもりで言ったのだろうが、それを受け取ったのは別の男だった。


「来世、そうだよ!来世だ!これって異世界転生って奴じゃん!」


俺と同じくらいの男が、嬉々として大天使の前まで駆け寄る。


「神様!あれ?天子様だっけ?まぁいいや。俺は転生するなら異世界が良い!剣と魔法の世界で、勇者になって魔王をぶっ飛ば…いや、魔王も仲間にしてハーレムだ。ハーレム王に俺はなる!」


先を越された。

俺は思った。


「お、俺も!」


俺は思わず手を上げた。先に転生した方が、何か良い物がもらえるかもと思ったからだ。

そう思って上げ始めた腕は、挙げきる前に、黒戸によって止められた。


「な、なんだよ!」


邪魔するなよ!特典が、特典が!

俺が必死の形相で黒戸を睨むと、彼の鋭すぎる瞳とかち合った。


「やめておけ」


黒戸の低い声が、俺の心臓を鷲掴みにする。

頭の中から、特典という文字が吹っ飛んだ。


「異世界転生なぞ、無暗に望むものではない」


そうして、黒戸から語られた、異世界の現実。

中世ヨーロッパという、魔の世界を。


現代日本で享受出来ていたものは、殆ど手に入らない。美味しく栄養豊富な食事、いつも明るく清潔な環境、豊富で楽しいエンタメ。その当たり前の生活が、転生先では夢物語。


衛生環境は最悪。今では簡単に治る病が死病となり、何千万人もの命を奪ったウイルスが猛威を奮っている時代。

法律も全く整備されておらず、教会の損得で起こる戦争と民衆弾圧が蔓延り、いつ命を落としても可笑しくない世界。

貴族は民衆を虫けらの様に虐げ、晒し、使い潰す。人の命と家畜の命が同じだった悪魔の時代。


「でも、それだったら、魔法で快適な生活を作り出せばいいじゃないか」


そう言った俺に、黒戸が首を振る。

魔法も脅威だと言う。強力な魔術は、裏を返せば凶悪な兵器。そんなものを、道行く人が素手でも持ち歩ける世界。

怪しい黒魔法は、姿を消せたり意識を乗っ取ることも出来る。どんなに気を付けていても、何処からか魔法を掛けられて、命を落とすことも珍しくない。


そんな世界だと、黒戸は嘆く。


「いや、でも、それは、強くなればなんとかなるんじゃ…」


自分が強くなれば、自分の身も守れる。

そう言ったら、黒戸が自分の横を指で示す。


いつの間にか。そこには穴があった。

大きな、真っ黒い穴だ。

穴の中は暗すぎて何も見えない。

さっきまでそんな穴は無かった筈だ。


「触らないで下さい。魂が吸い込まれます」


黒戸がその穴に手を突っ込んだので、もっと近くで見ようと覗き込んだら、注意されてしまった。

魂って…。


「少し驚くかもしれませんが、見ていてください」


黒戸はそう前置きし、何かを掴み出す。

その手が掴んだ先には、白い何かがあった。

(つの)だ、象牙よりも大きな角を、黒戸の手が暗闇から引っ張り出した。

いや、象牙よりも遥かに大きくて太い。なんだ?何の角だ。


徐々に露わになるその角は、俺よりも大きかった。しかも、角の付け根には何か黒い鱗のようなものが付いている。その鱗を付けた何かは、徐々に穴から出てきて、


目玉が、俺を見た。

俺よりも大きな目玉が、俺を真っすぐに見ている。

それは、あれだ。ゲームで見た、あれ。


黒い、ドラゴンだ。


目の前いっぱいに、ドラゴンの顔が出てきた。

喰われる。


「あっ、ああ!うぁあああああああ!!!」


俺は無我夢中で逃げようとするが、その場でくるくる宙返りを繰り返すだけだった。

そんな情けない姿を見せつけている内に、黒いドラゴンは黒戸によって、黒い穴の中に戻されていた。

俺が情けない宙がえりを終えると、黒戸は軽く頭を下げた。


「驚かせてしまい、申し訳ありません。ですが、ご理解いただけたと思います。魔法のある世界には、魔物もいます。今のような、人間の力ではどうすることも出来ない奴もいるのです。貴方は、今のを前にしても戦えますか?」


黒戸の問いに、俺は無意識に首を横に振っていた。

勝てる勝てないという話じゃない。

“あれ”は圧倒的な強者。

絶対的な捕食者。

今まで感じたことのない、自分が喰われる側に生まれたという、底冷えする恐怖を背筋に感じた。


向こうの方で声がしたので、そちらに視線を送る。

大天使の前で小躍りする男子が見えた。異世界に行けると言って喜ぶその男子を、さっきまでの俺はどうして羨ましがることが出来たのだろう。こんな思いをするかもしれない世界に、どうして行きたいなんて思ったのだろうか。


帰りたい。

そう思った。

詰まらないと思った平凡な日々だったが、今思えば幸せな世界だった。


両親がいて、生意気な妹がいて、友達がいて、怖い先生がいて。むかつくバイトの先輩がいて、いつも挨拶してくれる近所のお姉さんがいて。

普通な人生が、こんなにも輝いていたというのを、今分かった。死んでしまった後に分かった。


失って初めて気づいた、幸せだったという事に。


感情が溢れ、俺の頬を伝った。

その時、


『あなたも、異なる世界に覇を求めますか?その意思を、先ほど示しましたね』


声が上から聞こえた。

そこには、見上げるほど大きな女性が、2枚の大羽根を広げて俺を見下ろしていた。

近くで見ると、その威圧感に足がすくみ、冷えた視線に足が震えた。

大天使。

気づくと、俺と黒戸以外の人間は、誰もいなくなっていた。

既に、みんな転生してしまったらしい。そして、次は、俺。


心臓が、跳ねる。


これから転生すると思うと、言い知れない不安と恐怖で心臓が暴れ出した。口を開けても、声じゃなくて心臓が飛び出しそうで、上手くしゃべれない。

不味い。このままだと異世界に転生させられてしまう。

やっと気づいたのに。

折角、忠告してくれたのに。

嫌だ。嫌だ!


…俺の目の前が暗くなる。

ここでは小難しい話の要約や、ちょっとした考察などを載せていきたいと考えています。

私の個人的な意見などは…ご要りようですか?


「要らん」


りょ、了解いたしました…。

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[気になる点] 「そなた」は漢字で其方ですよ それともあえてソナタと表記しているのでしょうか。 そうでしたらすいません
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