断片~それが問題なんじゃ…~
他者視点2つです。
「いつもの人間達ではないな」
はい。
久々の方々と、初登場の方ばかりです。
「「「わぁあああ!!!」」」
無機質で、冷たい印象を受ける職員専用通路を進んでいると、外から会場内の歓声が聞こえてきた。
ここは、WTCのスタジアムの中でも、かなり奥まった所にある通路である。
それなのに、これ程の大きさで聞こえてくるとは。
きっと、それだけ凄い試合が展開されているのか、今戦っている子が有名な選手なのだろう。
どちらにせよ、異能力大会が盛り上がる事はいい事だ。
特に、今は中高生のシングル戦大会が開かれている。
中学生は県大会も大詰め。高校生も、地区大会が終わって県大会が各地で始まるところだ。
子供達が切磋琢磨して栄光を掴もうとする姿は、何物にも代えがたい。
若い力が、未来を作る活力となり、この日本を支える原動力となるのだから。
だというのに、この内容は何なのだ。
ワシは、先ほど受け取った手紙を見下ろして、深いため息を吐いた。
手紙を握りしめる手が震えっぱなしなのは、力加減を間違えているからだけではない。
怒っているんだ、ワシは。
早く、この手紙の送り主と話をしなければ、怒りで仕事も手に着かなかった。
だから、アンリミテッド大会の準備はスタッフに丸投げして、こうして特区まで来てしまった。
久々の特区は、やはり落ち着かない。
「あっ、川村副会長。お疲れ様で…ど、どうしたんですか?顔が真っ赤ですよ」
通路を歩いていると、すれ違った女性スタッフが、ワシを心配して声を掛けてくれた。
それに、ワシはなんと言っていいのか分からず、端的に言葉を発した。
「理事長に会いに行くところだ。言わんとイカン事があってな」
「あら?理事長でしたら、この時間はVIP席で、来賓の方々と県大会を観戦されていると思いますよ?」
「ああ…そうだったか。分かった。ありがとう」
挨拶もそれなりに、ワシは踵を返して元来た道を戻る。
良く考えれば、アイツは大会運営のトップなのだから、大会最終日のこの時間はVIP席に居るのは当たり前だった。
頭に血が上ってしまって、考えが纏まらんかった。
イカンな。
ワシは歩きながら、冷静になるように自分に言い聞かせ、頬を軽く叩く。
叩いて、髭の剃り残しに気付いたが、まぁいいだろう。
ワシはそのまま、VIP席入口まで来た。
扉の前に立つ警備員が、こちらを見て驚いたような表情を浮かべる。
ああ、しまった。そう言えば、受付をしたままの姿で来てしまった。
ワシは、自分の姿を見下ろして、今更後悔した。
VIP席に、ジャージ姿にサンダルはイカンよな。
いや、もう遅い。押し通すぞ。
「ワシは大会運営委員会の副会長、川村聡だ。悪いが通してもらうぞ」
「失礼ですが、招待状はお持ちですか?」
「無いが、理事長に会いたい。ワシはアイツの旦那だぞ?」
「旦那様…ですか…」
警備員が余計に目を鋭くさせて、ワシの姿を上から下までをねめつける。
その恰好で理事長の旦那な訳が無いって言いたいんだろ?分かっている。
だが、仕方ないだろ。なにせ、こっちは急いで軽トラ飛ばして来たんだから。着替える余裕なんて、全くなかった。
ワシが免許証でも見せてやろうかとポケットの中をひっくり返していると、VIP席の厚い扉が少しだけ開いて、会いたかったアイツの顔がひょっこりと覗いた。
そして、ワシの格好を見た途端、そいつは目を丸くした。
「ちょっと、アンタ。なんて格好で来ているのよ」
「仕方ないだろ。千葉からすっ飛ばして来たんだからよ。それよりも、これだこれ!なんなんだこの手紙は!こんなもんを黒騎士君に渡す気か!」
ワシがそう言うと、妻は苦い顔をした。
この顔は、やっぱり来たかというあきらめの表情。
ワシが怒る事は想定していたみたいだ。
それはそうだろ。こんな突拍子もない手紙を送り付けたら、どんな人間も仰天する。
そんなのを、ただ送り付けて終わらせようとする運営の姿勢にも腹が立つ。
ワシは再び震え出した手を抑えて、鼻息を荒くした。
「なんでこんな事になったんだ!ワシはそう言うつもりで…」
「ちょっと、ここでそんな話題を出さないで頂戴よ!話は別の場所で聞くから、ほら、ちょっとこっち来て」
そう言われて、妻に連れて行かれたのは、小さな会議室。
そこに並べられた椅子の1つに妻が座り、その前の席にワシを座らせようとした。
だが、ワシは座らない。
妻の前に立ち、机の上に件の手紙を広げて見せた。
妻はそれを見ようともせず、少し疲れた目でワシを見上げた。
「それで、アンタが聞きたい事って言うのは、この黒騎士選手が何故、全日本”Aランク”の推薦枠にエントリーされたかって事よね?」
そう。ワシが腹を立てている事は、まさにそのことだ。
Cランクの男子を、Aランクの全国大会に出場させようとしている。その事について問いただすために、ワシは来た。
妻の言葉に、ワシは無言で頷く。
それを受けて、妻は小さくため息を吐く。
「仕方がなかったのよ。時期が悪かったわ。週刊文化が出した記事のせいで、黒騎士君のCランク推薦の話は延期になってしまった。それが、今になって解除されたわ。だけど、もう遅いの。Cランクの推薦は別の子に決まっているから、今更変更なんて出来ない。Bランクも同じ。今、彼に推薦を渡してあげるとしたら、今年のAランク推薦枠しかなかったの」
「なんだそれは!そんな、そんなふざけた理由、聞いたこともないぞ!」
ワシが机を叩くと、妻は暫くワシを見上げながら、どう言うべきか考えている様だった。
そして、徐に口を開く。
「あのね、アンタも言っていたでしょ?黒騎士君が推薦を取り消されるのはおかしいって。あの記事は、黒騎士君が悪いんじゃないのにって。その思いが通じたから、こうして彼の推薦枠は復活して、彼は全日本の舞台に立てるようになったんじゃない」
「思いが通じた?こんな事、ワシは一言も言っとらんぞ!Cランクの男の子を、異能力界最高レベルのAランク全日本に出すなんて…こんなのは救済措置でも何でもない。ただ、あの子を潰しにかかっているだけだ!」
ワシはあまりの事に、妻を相手に詰め寄ってしまった。
それでも、気持ちは収まらない。
確かに妻が言うように、ワシは黒騎士君の全日本出場を望んだ。
彼には一度、こちらの都合で推薦を取り消してしまったから、再び推薦枠を与えるかもと言う話が出た時は喜んだものだった。
だが、この手紙を読み、再び推薦されたのがAランクだと分かってからは、高揚した気持ちが地の底まで叩き落とされた。
そんなワシに、妻は変わらず疲れた顔を向けている。
その顔を見ていると、ワシの方も怒気が削がれていく。
「…何がどうなったら、こんな間違いが起きるって言うんだ?黒騎士君はCランクだぞ?80年以上続いてきた異能力大会で、Aランクの全日本に低ランク選手を招いた事なんて、1度もないだろう…」
「でもねぇ、アンタ。黒騎士選手は普通のCランクとは違うのよ?今年のビッグゲームを見たでしょ?岩戸の藤浪選手や、彩雲の島津姉妹を倒し、あの久遠選手まで追い詰めたのよ?もう実質、Aランクみたいなものじゃない。きっと大丈夫よ」
妻はそう言って、顔の皺をより深くして無理に笑う。
それを見て、ワシは目を細める。
妻の言い分が信じられず、言葉が詰まった。
いつもの彼女なら、こんな事は絶対に言わないから。
ランクの壁は絶対だ。アンリミテッドなんて危険な大会は、今すぐにやめるべきだといつも言っている彼女の発言とは、とても思えない。
何がどうしたんだと、ワシは妻に目線で訴えかけた。
だが妻は、肩を小さくすくめるだけだった。
ワシは更に、目を細める。
「大丈夫?何を言っとるんだお前。何時もみたいに、野蛮な行為だと何故言わない?黒騎士君はCランクで、しかも男の子なんだぞ?」
「それが問題なんじゃ…あっと、いえ。今のは違うわ」
慌てて取り繕う妻の姿を見て、ワシは目を開く。
漸く、ワシの頭の中で、彼女が隠す心の内が見えた気がした。
男の子だから問題だと?それって…。
「そうか。白百合会か。アイツらがまた、裏で動いとるんだろ?なぁ、どうなんだ!」
元はと言えば、全日本Cランクに黒騎士君が出られなくなったのも白百合会の仕業だ。
アイツらが雑誌編集社と手を組んで、黒騎士君を炎上させた。
その炎上騒ぎを口実に、推薦状を無効にする様にと迫って来たのが、彼女達の息が掛かった者達だった。
そして、今回はAランク戦に黒騎士君を出場させようとしている。
本来なら、Cランクの推薦枠を増やすとか、もっと合理的な手法があるだろうに、前代未聞の2ランク飛び越え推薦と言う暴挙に出ている。
それは、彼を潰したいからだ。
女性中心の社会を守る為に、少しでも頭角を現す男性を許さない、彼女達の常套手段だ。
再び憤りを感じたワシに対して、妻は頑なに首を横に振る。
「あのね。全日本の推薦枠は、多くの人間が精査することによって決められる物なの。だから、スポンサーとして力を持っている人間の意思が介入する事も、珍しいことじゃないわ。それが推薦枠ってものでしょ?」
「じゃあ何か?スポンサー全員が黒騎士君を選んだって事か?去年優勝者の皇帝や、アメリカで活躍している白雪選手とかを差し置いて」
ワシが鋭く返すと、妻は押し黙った。
思った通り、彼女の詭弁だったみたいだ。
今回のこの推薦は、白百合会の意思のみで断行したんだろう。もしくは、他のスポンサー達と裏で取引したのか。
どちらにしても、
「汚いやり方だ。全日本への出場は、中高生にとって大きな夢だ。あの大会の地に立ち、スポットライトを浴びて歓声を一身に受けることを夢見て、多くの子供達が必死になって競い合っている。それを、大人の汚い利権争いで潰すなんて…許せん。ワシは断固として許せんぞ!」
「ちょっと、アンタ!何処に行くの!」
「その白百合共に文句を言ってやる!」
妻の問いかけに対して、吐き捨てる様に答えながら、ワシは部屋を飛び出す。
目指すは、先ほど妻が出て来たVIPルーム。
恐らくそこには、白百合の息が掛かったメンバーがいるだろう。
直接、今回の人事に関わった奴らかは分からないが、一言言わないと気が収まらん。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
ワシが足音荒く渡り廊下を歩いていると、妻が追い付き、後ろからワシの腕を掴んだ。
そのままワシの前まで回り込んで、必死な形相でワシを見上げる。
「冷静になりなさい。アンタが何か言って、変わる訳ないでしょ」
「分かっとる!だが、こんな事は許しておけん。声を上げて、少しでも白百合会のねじ曲がった根性を正さんとならん!」
「そんな義理、アンタにはないでしょ!」
妻の目が吊り上がる。
「いいかい?アンタは囚われすぎなんだよ。そりゃ、アンタの気持ちも分かるよ。アンタはオメンジャーズの誕生に立ち会ったからね。あの柏レアル大会で、Dランクでも必死に戦っていたあの子達の姿に感化されたのは、アンタだけじゃない。アンタがあの子を守りたいって気持ちは、痛い程分かる」
「だったら!」
「でもね!だからってアンタがVIPルームに突っ込んで行ったら、ただじゃ済まないのも分かるわ。アンタがあの子を守りたいと思うのと同じように、私もアンタを守りたいの。アンタと、私達の子供を守りたいのよ。だから、白百合会の言う事も聞かないといけないの」
妻は手の力を抜き、掴んでいたワシの腕を解放する。
ふぅと、ため息と一緒に気力も抜けた妻の顔は、随分と老け込んだように見えた。
若い頃に、各地の大会で表彰台に登っていた面影は、見る影もない。
あの頃の力は、もう無い。
きっとそれは、ワシも同じ。
それが分かると、高まっていた気持ちが一気に落ち込んだ。
「…そんな事を言われたら、ワシも、なんも言えんくなるだろうが…」
ワシは、現実から目を背ける様に、地面に視線を落とした。
妻の思いも、痛い程分かった。
「汚いもんだな。白百合も、それに従うしかないワシらも」
「それが大人よ。守るべきものが多すぎて、自由には動けないのが私達」
「大人か…」
ワシは、自分の手を見る。
骨ばって、若い頃のハリが無くなった手のひらは、薄汚れて見えた。
「済まない、蔵人君…」
汚いワシらの事情に巻き込んでしまって。
妻に肩を抱かれながら、ワシは渡り廊下の窓から外を見る。
そこでは、県大会を優勝した紫黒の選手が、誇らしそうに片手を上げて、観衆を沸かせていた。
その子の姿が、あの日見た子供達の姿と重なって、ワシは余計に心が苦しくなった。
〈◆〉
紅葉が深まる日本庭園を横目に、私は母屋の廊下をすり足で進む。
目的の部屋に近づくにつれて、緊張と不安で心臓が痛くなってくる。
大丈夫。ただ報告するだけなんだから。
心は空っぽに。何も期待するな。
私は自分に言い聞かせながら、歩みを進める。
すると、直ぐに目的地まで辿り着いた。
落ち着いた色の襖の前まで来ると、私はゆっくりと廊下に正座して、その襖の向こうにいる人物に向かって、声を掛ける。
「ご当主様。葉子でございます。ご報告させて頂きたい旨があり、参りました」
「入りなさい」
静かな返答があり、私は襖を開ける。
途端に、い草の香りが広がり、目の前には畳の部屋が広がっていた。その奥で、着物を着た女性が机の上で書き物をしている。
私は、部屋に入ると襖を閉めて、畳の上に座ってその女性へ向かって頭を深く下げ、額を畳に擦りつけた。
「ご当主様。先日、シングル戦京都府大会に参加しました。結果は、準優勝、でございました」
準優勝と報告した時、私は心を硬くした。
優勝するのが当然と言われていた中でのこの結果に、どんな冷たい言葉を浴びせられるかを考えて、小さく構えていた。
だが、
「そうですか」
女性は静かにそう呟くだけで、顔すらこちらに向けることなく、ただ書き物を続けていた。
その様子は、気分を害された様には見えなかった。
いつもなら「それで?よく、私の前に出てこられましたね」と嫌味を言われる筈なのに。
私が不思議そうに顔を上げていると、女性は漸く手を止めて、私を真っ直ぐに見つめた。
「準優勝でも、全日本には出場できましたね?」
「あっ、はい」
「ならば問題ありません。全日本で、優勝を目指しなさい」
「はい。必ず」
私は反射的に答えてしまった。
答えて、しまったと臍を嚙んだ。
今の私に、優勝なんて出来る筈ないと分かっているから。
自分の事は、自分が一番分かっている。今年のコンディションは最悪だ。
幻獣を生成するスピードは遅く、動きは明らかに精彩を欠いていた。
それでも、この数か月で随分とマシになったレベル。
ビッグゲーム。夏のファランクスが終わったばかりの時は、異能力を形作る事すら難しかったのだから。
桜坂との準決勝。あそこで黒騎士を相手にしてから、私は大きなスランプに陥ってしまった。フィールドに出ると、どうしてもあの時の光景が思い出されてしまい、動けなくなってしまう。
今でこそ、何とか戦えるくらいにまで回復してきたが、黒騎士と戦う前の自分とは雲泥の差だ。
こんな状態で、全日本での優勝なんて夢のまた夢。
全日本はただでさえ、東日本が強い傾向にある大会。毎年、西日本でベスト8位に残れるのは、大阪か九州勢くらいなものだ。
このままの状態で挑んだりしたら、下手をすると1回戦で負けてしまうかもしれない。
そんな事になれば、私の立場は危うくなる。
次期当主として、全日本での成績は大きく関わってくるから。
もしかしたら、妹達の中から、次期当主を選び直すなんてことになってしまうかもしれない。
「葉子」
私が顔を青くして考え込んでいると、ご当主様が声を掛けて来た。
いつの間にか落ちていた視線を上げて、ご当主様に向き直る。すると、彼女の眼には少しだけ、温かい光が宿っていた。
「何も心配する必要はありません。貴女はただ、全力で挑むだけで良いのです」
「お母様…」
久しぶりに聞いた、母の温かい言葉に、私はつい涙腺が緩くなってしまった。
急いで顔を下げ、母に弱い所を見せまいとする。
そんな私に、母は続けた。
「準備は万全です。全日本を戦う中で、貴女のその蟠りは全て消え去り、本来の力を取り戻すでしょう」
「蟠り?お母様、それは…どういう意味ですか?」
私の問いに、お母様は薄っすらと笑った。
傍から見たら、妖艶で、魅力的な女性の笑みに見えるだろう。
だけど、その黒い瞳の奥で爆ぜる炎のせいで、私はとても怖く感じた。
私が視線を反らす先で、お母様は答えた。
「貴女の力を奪った黒騎士とかいう男を、全日本Aランク戦に招きました」
「えっ…」
驚く私に、母は笑みを更に深くして、ゆっくりと頭を振った。
「大丈夫ですよ、葉子。貴女は何も心配する必要はありません。黒騎士は全日本会場の真ん中で、無様に這いつくばって負けるのです」
それはつまり、お母様が手を回して、黒騎士に推薦枠を与えたという事だ。
そんな事、久遠家の力だけじゃ到底出来ない。
きっと、白百合会に多額の献金をしたのだと思う。
普段から、白百合会の活動を熱心に支援されているお母様なら、幹部の方々からも覚えは良いはず。その人達に働きかけて、黒騎士をAランクの世界に引っ張り込んだのだ。
そんな事まで出来るなんて、流石は白百合会。
でも、
「お母様。黒騎士はただのCランクやないです。仮令全日本のAランク選手やったとしても、確実に勝てるか問われたら、うちは肯定出来ません」
ビッグゲーム準決勝。
確かに、私達は桜坂を舐めていた。関東の無名校だと、男を入れた軟弱なチームだと舐めていた。
でも、手を抜いた訳ではなかった。
一刻も早く、フィールドから男という異物を排除するため、私達は全力で黒騎士に当たった。
そして、蹴散らされた。
僅か十数秒で、晴明の選手は大半がベイルアウトし、私の幻獣達も一挙に消し飛ばされてしまった。
そして、私の妖狐と競り合った黒騎士。
あの時の光景を思い出すと、今でも震えが止まらなくなる。
あれほどの恐怖を感じたのは、獅子王の北小路選手と対峙した時と、去年の全日本1回戦で当たってしまった、皇帝を前にした時くらい。
黒騎士は、そのレベルの選手だと、私は痛感した。だから、全日本に黒騎士が出場したとしたら、きっとその猛者達と同じように活躍するだろう。
「出る杭は打たれる。そういう物よ、葉子」
しかし、私の意見を聞いても、お母様の微笑みは咲いたままだった。
いえ、違う。
お母様の瞳の炎がより深く、どす黒く渦巻いている。
私は、その瞳を見て、何となく理解した。
お母様は、きっと何か策を用意しているんだ。
お母様がこうなっている時は、男の事を考えている時だから。
男に、どうやって復讐してやろうかと思考を巡らせている時の目。
お母様を捨てたあの男と、黒騎士を重ねているんだ。
「全日本。本当に楽しみね」
お母様からの言葉に、私は彼女の目を見るのも怖くなり、ただ小さくなって頭を下げる事しか出来なかった。
最初に出て来た人は、柏レアルで受付をしてくれたおじさんですかね?
もしかして、推薦を取り消された時に電話してきたのって…。
「ふむ。あの者がいたから、あ奴らはオメンジャーズとして大会に出られたのだったな」
まさか、大会運営の副会長さんだったとは。
だから、特別許可も直ぐに取れたのですね。
そして、ビッグゲームで戦った晴明の妖狐選手が、何かしようとしていますね。
「正しくは母親だな」
何をする気なのでしょうか?
気になりますね…。