275話〜今日は無礼講だ〜
【それではもう一度、コンビネーションカップのハイライトを見ていきましょう。先ずは名場面、演武の本戦の様子です!】
コンビネーションカップの翌日。
蔵人は大人しく、ホテルの中で過ごしていた。
過ごすしか無かった、と言った方が良いだろう。
と言うのも、今目の前で繰り広げられている報道が原因だ。
【素晴らしいユニゾンですね。チームBCのバジリスクは。前回大会の覇者、チーム、スターライトの攻撃を受けても、ビクともしません。これを、13歳の男の子ペアがやっていると言うのですから、驚くしかありませんね。異能力戦評論家のテイラーさん】
【驚きの一言じゃ済まないわよ!このユニゾン、ただ動き回るだけじゃなくて、ちゃんと戦えているでしょ?普通ね、男性が出来るユニゾンって戦闘には向かないの。他の異能力戦でもそうでしょ?でもこの子達は戦っていて、しかもフォーロンにもスターライトにも勝っているの。天才、大天才よぉ!】
コメンテーターがべた褒めするので、画面前の蔵人は顔を伏せ、隣の慶太は小躍りしている。
翻訳している若葉さんもニヤニヤ顔だ。
【それだけじゃないのよぉ。第1予選を見ましたぁ?ああ、今ハイライトで出ているここよぉ。ブラック君はなんと、女の子とも出場しているの。凄いわよねぇ。こんな風に、女の子と踊ってくれる男性なんてイギリスには居ないわ。少なくとも、私の周りにはねぇ…】
【私の周りにもですね。ブラックナイト君はとても希少な男の子と言う事ですね。是非とも、このままイギリスに滞在して欲しいものです】
ハイライトで出てきた第1予選の様子に、今度は鶴海さんまで顔を真っ赤にして、伏せてしまった。
こんな放送が、昨晩からひっきりなしに放映されているのだ。
お陰で、ホテルを出た瞬間にフラッシュの嵐であった。
パパラッチだ。
何処かの新聞記者や野次馬共が、ホテルの周りを囲んでしまっている。
それ故に、蔵人達はホテル待機を余儀なくされてしまっていた。
幸い、テレビで放映されているのは、演武だけであったので、そこまで大事にはなっていない。
もしも特別試合まで地上波に載っていたらと思うと、恐ろしい限りだ。
きっと、今下に集まっているのが、パパラッチでは無く欧州の貴族や権力者になっていただろう。
だが同時に、ギデオン議員の事も報道されていなかった。
彼が連行された事は勿論、試合で叫んでいた数々の思想についても、一切話題に上がっていない。
まだ取り調べ中と言う可能性もあるが、恐らく…。
「無かった事にされるかもね」
若葉さんが、呆れた様にそう言った。
まぁ、そうだろうな。
蔵人は頷き、彼女の意見に同意する。
議員は政界でもかなりの力を持っており、加えて、コッククロフト家は莫大な資産を持つ上級貴族との事。
それだけの力がある上級国民であれば、逮捕とまではならないだろう。
蔵人がそう言うと、
「うぇええ!?そんなのって、ズルじゃん!」
桃花さんが驚き、口を尖らせる。
彼女の反応は最もだ。恐らく、これを聞いた大半の常識人なら同じ反応をするだろう。
だが、それが上級国民なのだ。
彼らと我々では、生きている世界が違う。
そんな風に、ホテルで過ごしていると、すぐにディさんとの約束の時間になる。
蔵人達は、レンタルした正装に袖を通し、ホテルの受付付近で待機していた。
すると突然、
「やぁ、待たせたかな?」
ディさんが、目の前に現れた。
突然の事で、桃花さん達が飛び上がった。
慣れていないと、そうなるわな。
だが、許してあげて欲しい。ディさんも、パパラッチに撮られては不味い存在だから。
「とんでもない。態々のお出迎え、恐縮です」
内心で彼に同情を向けながら、蔵人は笑顔で受け答える。
彼からしたら、これが日常茶飯事だろうから。
「済まないが、全員を招待する訳にはいかない。従者の方はご遠慮願えるかな?」
ディさんは、蔵人達の後ろに控える護衛に向かってそう言った。
そこは、事前に聞いていた事だから仕方がない。
呼ばれたのは、我々5人だけだ。
「すみません、柳さん。行ってきます」
「蔵人様。くれぐれも、やらかさないで下さいね」
「大丈夫ですよ」
笑って答える蔵人に、柳さんの表情は晴れない。
ガチで心配しているじゃないですか。解せぬ。
蔵人が柳さんと百面相していると、
「貴女が柳綾子さんですか。お会い出来て光栄だ」
ディさんがスイスイと柳さんに近寄り、彼女の手を取って握手をした。
柳さんの顔が、みるみる赤くなる。
「ふぁっ!ふぁい…」
「貴女も是非、この会にご招待したい。よろしいかな?」
「ふぇ?は、はぁ…」
なんと、柳さんまで誘うのか?
ディさんと会うからと、柳さんも正装していたけど、まさか…。
蔵人が驚いている内に、ディさんはテレポートを使い、蔵人達を移動させた。
途端、目の前には白と赤の世界が広がる。
天井や壁で淡く光を放つ照明が、クリーム色の壁を照らし出し、そこに掛かる大きな絵画を生えさせる。
床に敷き詰められた赤い絨毯は、踏む度にふわりと優しく足裏を支えてくれる。
部屋の大きさは、桜城の教室くらいか。
その半分程は、部屋の中央に置かれた長机に占領されており、机の上には、ナプキンや空いたグラス等が並べられていた。
ここが、会食の会場で間違いないようだ。
ないのだが…。
「なんかいっぱい、偉そうな人が描かれてるね」
蔵人が壁の絵画を見ていると、慶太が率直な感想を飛ばす。
彼の言う通り、金色の額縁に入った絵画には、それぞれに1人の肖像画が描かれていた。
絵柄的に、中世ヨーロッパ時代の物か?
何だか、既視感がある。
ここって…。
「ディ様。まさかと思いますが、ここは…」
「ああ、バッキンガム宮殿の一室だ」
ですよねぇ!
蔵人は白目を剥いた。
まさか、イギリス王族の居城に通されるとは…。
蔵人の袖や背中を掴んでいた若葉さん達も、小さな悲鳴を上げて、蔵人にヒシっと引っ付く。
慶太だけは、絵に近づいてツンツンし始めた。
止めて、慶太。弁償なんて出来ないから…。
「さぁ、好きな席に座ってくれ」
ディさんは慶太の奇行に目もくれず、そそくさと中央の席に座ってしまった。
なので、蔵人はディさんの隣に座る。
反対側は慶太に座ってもらう。女性陣には、荷が重い席だからね。
「では、堅苦しい挨拶は抜きにして、早速食事にしよう」
そう言うと、ディさんは小さく指を鳴らす。
途端に、目の前に前菜が並んだ。
「うわぁ!テレポートって、凄い便利!」
堪らず、桃花さんが声を上げ、しまったと小さくなった。
そんな彼女に、ディさんは微笑み掛ける。
「そう言って貰えて嬉しい限りだ。西風桃花君」
「ひぇ、僕の名前…」
「ああ。君達の事は、少々調べさせて貰った」
それはそうだろう。
覚醒もしていて、4人でのシンクロも成功させている彼女達を、ディさんが放置する筈がない。
だが、
「ディ様。執拗いとは思いますが、彼女達は一般の中学生ですので」
「ああ、理解している。ややこしい話に巻き込むつもりは無い。現に、特別試合については、情報統制を敷いている」
そうか。それで報道されないのか。
蔵人が安堵していると、ディさんの目の前に座った若葉さんが、目を輝かせる。
「という事は、ギデオン議員についても、こっそり処分しているんですか?」
「いや。奴は処分出来ん」
ディさんの返答に、蔵人達は肩を落とした。
やはり、上級国民は強いみたいだ。
そんな蔵人達を見て、ディさんは少し明るい声を出す。
「とは言っても、全くお咎めなしにはならん」
なんでも、彼は平等党から除名され、無所属の議員となったらしい。
更に、彼が進めていた男性優遇策は見直しとなり、殆どが白紙になる予定なのだとか。
その中には、あのグレイト・エボルヴの開発も含まれているし、男性特区の拡張なんて話もあったそうだ。
拡張先は、イギリス第三の都市、グラスゴー。ここ一帯を男性特区にするつもりだったみたいで、ゲームでのイギリス名がグラスレイだったのも、その為かも。
そう考えると、ゲーム世界よりも随分とストーリーを遅らせる事が出来たと思う。
アグリアの本拠地を潰せただけでなく、彼らの決戦兵器も取り上げる事が出来た。
きっと、このまま議員を放置していれば、エボルヴが完成する5年後には、本格的に動き出していたかも知れないから。
「えー。それだけぇ…」
満足する蔵人の向かい側で、桃花さんが項垂れる。
確かに、彼女がそう言いたくなるのも分かる。
彼が議員であり続けるのは変わらず、男性特区も優遇策も健在だ。
あれだけの騒ぎを起こしたのに、その張本人はぬくぬくと議員生活を続けられるのに、納得出来ないのだろう。
「済まない。我々の力不足だ」
「あっ、いやっ、えっと…ごめんなさい」
ディさんが謝ると、桃花さんも慌てて謝り返した。
彼女も、ディさんを責めたい訳じゃない。ただ、大変な思いをしたから、ちゃんとした刑事罰を望んだだけだろう。
でも、
「だが、安心して欲しい。彼には監視の目が付くようになり、自由は大幅に減る。加えて、今のイギリス世論は彼を遠巻きにしている。君達の影響でな」
男女で手を取り合おう。
蔵人が呼びかけたその言葉が、大会を見た人達の間で少しずつ広まっているらしい。
殆どは女性だが、中には男性にも気持ちを動かされた人達が現れて、変わるべきだと動き出しているのだとか。
「男性特区の中に留まる者達の間でも、女性との付き合い方を考え直す者達が出てきているからな。ギデオンが今、何かしたとしても、再び世論を味方に付けるには大きな労力が必要となるだろう」
それは、大会での議員の行動も影響していると思う。
報道されなかったとは言え、会場には多くの観客が居たからね。彼の蛮行も噂にはなっているだろうから。
これで、彼の理想郷は十数年は遠のいた。
良かった、良かった。
蔵人達は安心して、前菜のサラダやスープに口を付ける。
すると、その前で若葉さんも頷く。
「世論は一度動いたら、なかなか方向転換してくれないからね」
「そうだね。炎上事件の時に思い知らされたよ」
蔵人が頷くと、隣のディさんがフォークを置く。
「ふむ。そうか。あの時、蔵人君にアドバイスをしていたのは君だった訳だな」
アドバイスとは、炎上事件の時に、若葉さんから週間文化の動きを聞いていた事を言っているのだろう。
確かにあの時も、ディさんは若葉さんの事を面白いと評価していた。
そして、
「君の情報収集能力が非常に高いと聞いていたが、望月家の、それも覚代さんのお孫さんだったからか」
覚代さん?
若葉さんのお祖母様の事かな?
蔵人が当たりを付けていると、向こう側で若葉さんが腰を浮かせた。
「おばあちゃんは、何処にいるの!?」
「若葉さんっ」
蔵人は反射的に、ディさんと若葉の前に手を割り込ませ、彼女を止めようとした。
気持ちは分かるが、相手を考えてくれ。
そんな蔵人の手を、ディさんは静かに掴んだ。
「構わない、蔵人君。今日は無礼講だ」
ディさんはそう言うと、サングラス越しに若葉さんを真っ直ぐに見る。
「覚代さんはお元気だ。詳しくは言えないが、今は我々の協力者として、軍の任務に着いてもらっている状況だ」
「軍の任務?おばあちゃんは一般人だよ?なんで、軍隊なんかのお仕事をしているの!?」
いかんな。何時もの若葉さんじゃない。
「若葉さん。君も分かっていると思うが、軍が関わる様な特殊な状況を、我々が細部まで知ることは出来ない。お祖母様がご無事であると言う事で、ここは一旦納得して貰えないだろうか?」
「でもっ、お母さん達もずっと探してて、やっと会えるかも知れないのに…」
若葉さんが泣きそうな顔で訴えてくる。
それに、ディさんは肩を落として小さく首を振る。
「済まないが、今、彼女との面会は許可出来ない」
「なんで!私は家族だよ!?」
「「君の意見はもっともだ」」
おっと。ディさんとセリフが被ってしまった。
蔵人が頭を下げると、ディさんがどうぞと手を前に出した。
まぁ、ここは俺が言った方が角が立つまい。
蔵人は若葉さんの目を真っ直ぐに見る。
「若葉さん。済まないが、少し待って欲しい。今の俺では、軍の上層部に対して信用が足りないんだ。全日本で優勝して、ディ様の考えが広まればきっと、君とお祖母様を会わせてあげられると思う。如何でしょうか?」
蔵人は言いながら、ディさんを見る。
彼は、やれやれ困ったものだ、とでも言うように、肩をすくめて苦笑いをする。
でも、否定はしない。
これくらいが妥協点だと、彼も考えているのだろう。
「蔵人君。残念ながらそれは、今すぐに確約出来る事柄では無い。だが、私も全力で上に掛け合い、君達の希望に沿う結果を出すことを、ここに約束しよう」
「ありがとうございます!」
若葉さんは嬉しそうに頷いて、着席した。
それに、ディさんは「そうだな」と呟いて、何かを考えながら言葉を繋げた。
「直接の接触は難しいが、文面でのやり取りであれば、すぐにも手配出来るだろう」
「ホントに!?」
再び前のめりになる若葉さんに、ディさんはしっかりと頷いた。
「ああ。私を介せば可能だ。勿論、内容は一度検閲させて貰うが、一般的な情報のやり取りであれば直接届けてあげよう」
「待って下さい!今、書きますから!」
若葉さんがバッグからメモ用紙を取り出して、急いで手紙をしたため始めた。
「慌てる必要はない。今でなくとも、蔵人君に渡せば、届くように手配しよう」
それって、頻繁に俺を呼び出すって事ですよね?
蔵人がディさんに顔を向けると、彼の良い笑顔が迎えてくれた。
さっきの仕返しか?良い性格してますね。
「あの、私からも1つお聞きしたいのですが…」
おずおずと、鶴海さんが手を上げる。
若葉さんとのやり取りを見て、ディさんなら融通を効かせてくれると思ったのだろう。
ディさんが快く受けると、鶴海さんが質問を投げかける。
「ギデオン議員が開戦時に言ったんです。彼の名前が、ギデオン・久我だと。彼は久我家と、鈴華ちゃんと何か関係があるのでしょうか?」
うん。確かに気になっていた事だ。
序盤で戦ったグレイト・エボルヴ。あれは明らかに、グレイト・10をベースにした機体だった。
ワンオーは、つくば中が作り出したパワードスーツ。だが、そのつくば中を支援しているのは久我家だ。
議員と久我家に関係があるのなら、ワンオーの内部構造を知っているのにも頷ける。
「その事については、彼の事だけでなく、私の過去についても語る必要がある」
「ああ、それじゃ難しいですね」
ディさんの個人情報は、トップシークレットだ。
蔵人が苦笑いを浮かべると、ディさんは首を振った。
「いや、話す事は問題ない」
無いんかい!
蔵人が驚くと、彼は少し笑を深くする。
「私の力についてでなければ、少々語ることは出来る。ただ、他人の昔語りとなるから、少々退屈かもしれんぞ」
「大丈夫です。興味ありますので」
鶴海さんの目が、キラリと光る。
おや?そう言うの好きなんです?
「分かった。では、少々お付き合い願おうか」
ディさんはワインを一口飲むと、徐に語り出す。
「時は1921年にまで遡る。この年、イギリスのロンドンで日本との会議がとりおこなわれた。両国共同の異能力発電事業の発足についてだ」
ロンドン会議と呼ばれるこの会議で、日本は名実共にイギリスと運命共同体となり、経済復興を共に目指す事となった。
「その際に、血の盟約が行われたのだ」
両国から1人、有力な異能力者を交換したのだ。
イギリスからは、王族でありディさんのお爺様に当たるデズモンドさんが選ばれた。
そして日本からは、鈴華の曾お祖父さんに当たる、久我正一さんが選ばれた。
「両者とも良家の出身で、Sランクであった。それ故に、この同盟はそれまで以上に強固な物となり、日本とイギリスはより親密になったのだ」
そして、正一さんが嫁いだ先が、当時最も勢いのあった貴族のコッククロフト家であった。
「話の途中で済みません、ディ様」
「構わんぞ、蔵人」
「ありがとうございます。コッククロフト家とは、それ程大きな家だったのでしょうか?」
少なくとも、蔵人が知っている歴史では、一般の出だった筈だ。
蔵人の質問に、ディさんは若干眉を寄せた。
「いや。当時は新興財閥だ。巻島と同じでな」
「新興財閥に久我家のSランクを?ディ様は…」
ディさんは一条家なのにと言いそうになって、蔵人は言葉を呑み込む。
危なかった。
ディさんが一条家であることは、林さんのゲーム知識で知った情報だ。それをここで言えば、今度は林さんが疑われてしまう。
だが、ディさんは気にした素振りもなく、話を続けてくれた。
「確かに、Sランクを新興財閥に入れるのは反対意見もあった。だが、当時からコッククロフト家は莫大な資産もあり、権力も有していた。大きな問題にもならず、すんなり決まったと聞いている」
本当にそうだろうか?
イギリスの貴族社会は血を重んじる。それこそ、嘗ての日本貴族のように。
幾ら権力と財を築こうと、他貴族が黙っているとは思えない。
それらを全て覆す様な、大きな功績がない限り。
蔵人が考え込む前で、鶴海さんが話を続ける。
「では、ギデオン議員はお爺様の姓を名乗っていたと言う事ですね。日本が好きだった…風には見えませんでしたから、お母様と何かあったのかしら?」
「コッククロフト家は研究者の一族だからな。ギデオンの祖母も、母親も研究者としては一流であった。だがその分、家には殆ど帰らなかったとも聞く。それが、幼い子供にとっては大きな影響を与えたのだろう」
「それは…」
鶴海さんは言葉に詰まり、こちらを見て来た。
うん。確かに、その状況は自分の状況に似ている面がある。
母親の愛情を受けず育った自分と…ゲームの蔵人君と同じだ。
そう考えると、議員の胸の内も少しは理解出来る。
母親に大事にされなかったから、その腹いせで女性に辛く当たっていたのだろう。
勿論、それは一因でしかないのだろうが。
蔵人は、彼が最後に放った言葉を思い返しながら、ディさんに聞きたい衝動を何とか抑えた。
この場で聞いて、ディさんが答えてくれる保障はない。
いや、寧ろ答えられた方が不味い事になる。
きっとそれは、重要機密事項に触れる事であり、若葉さん達にまで重荷を背負わせる事になってしまう。
なので、蔵人は、
「おいおい。木っ端貴族の巻島と、コッククロフト家を比べないでくれよ?」
戯けた口調で話をぼかす。
それを見て、みんなの顔も幾分か明るくなる。
若葉さんが頷く。
「それに、蔵人君は女嫌いの議員とは全然違うからね」
「おーい。それはどういう意味だ?」
蔵人が突っ込むと、4人はケラケラ笑った。
そこに、ディさんが微笑みながら手を上げる。
「さて、そろそろメインディッシュといこうか」
「やったー!メイン!」
慶太が諸手を挙げて喜ぶ。
前菜だけだったからね。彼には物足りなかったのだろう。
無邪気な彼の様子に、慰労会の会場は明るくなった。
ギデオン議員にも、色々あったのですね。
「ただのボンボンと言う訳でもないのだろう」
ディさんの素性も、何となく分かりました。
「日本軍大佐でありながら、イギリス王室とも繋がりがあるのは、過去の人質交換があったからなのだな」
人質って…。