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268話~本当に、貴方達って常識外れね!~

いつもご覧いただき、ありがとうございます。

開幕、他者視点です。

チームBCの大ヘビが地面に潜って、少し時間が経った。

何度も潜っては飛び掛かるを繰り返していた彼らだったが、今回の潜航は少々時間が掛かっている。

何かの作戦を練っているのか、焼かれた表皮を回復しているのか。


どちらにせよ、時間は限られている。このまま地面に潜っているだけであれば、彼らの負けが確定する。

チーム、フォーロンが脱落し、クロックマジシャンがフィールドの端の方まで逃げてしまった今、気にするべきは足元の大ヘビだけ。

だから、私達はただ、ここで彼らが出てくるのを待ち伏せするだけでいいのだ。

良いのだが…。


「どうしたんだろ?蔵人君達。さっきの攻撃で、火傷でもしちゃったのかな?」


モミジが心配そうに呟く。

私もそれに、少し心を騒めかせる。

別に、心優しい彼女みたいに、彼らの安否を心配している訳じゃない。

いきなり3人でのユニゾンを成功させる彼らだから、今度も何か、とんでもない事をしてくるのではないかと。そう、心配しているだけだ。


「分からない。でも、油断はダメ。相手はあのオメンジャーズなんだから」


なので、モミジの言葉に、ちょっとキツめに返してしまった。

そんな私に、モミジは微笑みを返してくれる。


「うん。そうだね。ごめん、ソフィアちゃん」

「ううん。私こそごめん、モミジ」


私も、モミジに微笑みかける。

丁度、その時、


「「来た」」


モミジと同じタイミングで呟いた。

地面に滞留させているガスから、微細な振動が伝わって来ていた。

彼らが、ドリルで地面を掘り進めている振動。

もうすぐ、彼らが飛び出してくる兆候だ。

私達は目を瞑り、彼らの出て来るだろう方向に意識だけを集中する。


そして、

予想通りの場所から、勢いよく現れた巨大なヘビ。

そいつは地面から跳び上がり、私達に凶悪な兵器を差し向けて来た。

でも、


「コロナ・ガード!!」


直ぐにモミジの火炎が私達を取り巻き、迫ってきた巨体を押し止めてくれる。

止めて、その異変に気付く。

何となくだが、このヘビ…。


「あれ?なんかちょっと、ヘビさんが太った気がする…」


そう。

モミジの言う通り、ヘビが一回り太った気がするのだ。

きっと、鱗を厚くすることで防御力を上げて、私達の攻撃に耐えようとしているのだろう。

確かに、全身を鱗で覆う龍鱗ならば効果的だろう。

Aランクの攻撃すら、その鱗で耐えると聞いたことがあるから。

でも、


「耐えるだけじゃ、私達には勝てないわ!」


私はヘビに向かって、左手を真っ直ぐに突き出す。


「ソーラー・ストーム!」


太陽から吹き荒れる灼熱の炎で、ヘビを炙る。

だが、ヘビは壁に張り付いたまま、なかなか離れようとしない。

さっきまで、一目散に巣穴へと逃げ帰っていたのに、今度はかなり食らいついている。

これが、鱗を厚くした事による効果なの?


「モミジ!大丈夫?」

「大丈夫だよ!魔力はまだまだ余裕があるから!安心して!」


良かった。

モミジの様子から、そうそうガードが貫かれることが無いと分かる。

何時も無理する彼女だけど、この明るい笑顔であれば大丈夫だ。

大丈夫なのだが、このままの状態は不安だ。


「コメット・ショック!」


私は、ヘビに向かって高電圧の電撃攻撃を加える。

雷撃は、ヘビの表皮を黒く焦がし、ヘビは怯んで炎の壁から離れた。

そのまま、地面の中へと潜っていく。

私は、そのヘビのお尻に向けて、もう何度か雷撃攻撃を加える。

ヘビは地面深くまで逃げ帰って行った。


明らかに、彼らの作戦は失敗だ。

私達のガードが、予想以上に硬かったのだろう。

ほんの少し私達の魔力を削っただけで、ダメージは全く与えられずに終わっていた。

反対に、彼らの鱗もかなり硬く、思ったよりもダメージは与えられていないと思う。


でも、これで良い。

同程度の魔力を削られたのなら、魔力量が多いこちらが有利。

更に、毎回地面の中に隠れてしまうヘビと違い、こちらは常に上空を浮遊して、観客の目に止まっている。

異能力戦としても、演武としても、私達は圧倒的有利な立場に立てている。

そんな風に、自分の心を落ち着かせようとしていると、再び地面の振動を感じた。


「モミジ!」


私が叫ぶと同時、ヘビが地中から飛び出してきた。

早い。

早過ぎる。

潜って、まだ10秒もしていない。

先ほどは1分近く潜っていたから、余計に早く感じる。

タイミングをズラして、私達の心を揺さぶってきたんだ。

だから、さっきはワザと時間を掛けたのか。

そう、私が動揺する横で、


「コロナ・ガード!」


モミジは焦らずに、炎の壁を構築していた。

ヘビは、再びドリルを止められ、悔しそうに炎の壁に頭を打ち付ける。

彼らの奇襲に、私の心は硬くなってしまったが、モミジは柔軟に対応してくれた。

そのモミジのお陰で、私の頭も一気に冷える。


「ソーラー・ストーム!」


直ぐに気持ちを切り替え、食らい付いている蛇に向けて、高音の熱風を浴びる。

弱まっていた意識を正すために、モミジと繋ぐ手に、力を入れた。


「ごめん、モミジ。私の方が油断してた」

「大丈夫だよ。ガードは私に任せて」


モミジの優しく、そして力強い返答に、私は心が満たされていくのを感じた。

彼女と一緒に、今年も優勝したい。

その想いが、より一層強くなった。

私を取り巻く魔力が、より一層強く爆ぜる。


「モミジから離れろ!プロミネンス・テール!」


何時までも食らい付くヘビに向けて、私は少し大きめの魔力を使ってしまった。

絶対に勝ちたい。モミジの為にも、確実に勝ちたい。

そんな思いが、私の魔力を必要以上に引き出していた。

でも、それは結果的に良かったかもしれない。


獄炎の鞭で払われたヘビは、一発で地面の中へと逃げ帰ってしまったから。

その哀れな後姿は、最初に飛び掛かって来た時よりも、一回り小さくなっている気がした。

それは、私達が優位に立っているという心理がそう見せているのか、はたまた、彼らの魔力が枯渇し始めているのか。

どちらにせよ、彼らに残された時間は少ない。

競技終了まで、残り3分。

私達の残存魔力量からしたら、その10倍は活動出来るだろう。

必殺技を撃ったとしても、十分過ぎる魔力量だ。


勝てる。

そう、私の心が踊った矢先、


ググググッ…。


地面が僅かに揺れて、ヘビがこちらに向けて進んでいるのが感じ取れる。

そして、


グゥウウウイインッ


ドリルのくぐもった音が、響いて来た。

もうすぐ、来る!

私達が構えると同時、ヘビが地面から飛び出してきた。

でも、もう驚いたりはしない。

時間差攻撃も、完全に把握した。


ヘビが炎の壁に取り付いたのを見て、私はすかさず腕を上げる。

ヘビに向かって、先ほどよりも更に大きな、特大の魔力を練り出す。


もう、逃さない。

彼らのリズムは、完全に掴んだ。

彼らの手の内も、全て見通せた。

彼らに残された勝ち筋は、少しでも長く私達に食らい付いて、観客に戦っていることをアピールすること。

男子2人で組んでいるから、最後まで戦い抜けば、もしかしたら逆転の可能性もあるかも知れない。

だから、無駄だと分かっていても、こうして食らい付いて来ている。


だったら、もう、魔力のセーブは要らない。

ここで、この一撃で決めるのが最善策。


「メテオ・ブラスト!!」


太陽から、人間大の火の玉が分離し、炎の壁に食らい付くヘビへと迫る。

ヘビは、逃げない。

逃げられない。

彼らが逃げるよりも先に、赤黒く燃え盛る炎の鉄槌が、ヘビの退路を塞いだ。

そして、

着弾。


ヘビの両脇から、幾つもの獄炎弾が着弾した。

以前の大会よりも、格段に威力を上げたその攻撃は、彼らも予想外だったみたいだ。

着弾した場所から、ヘビの装甲がドロドロに溶けだしている。

そして、もう一度同じ場所に着弾した途端、


ヘビが、崩れた。

ボロボロに、鱗が取れて消えていく。

まるで、砂の城が崩れるみたいに、着弾した部分から見る見るうちに、崩れていく。

そのまま、ヘビの体が消えていく。


鱗一つ、彼らの影すら残らずに、ヘビだった物は儚く消えていった。

術者が消えた証拠だ。

私達の異能力で、彼らの牙城を崩した瞬間だった。

これが、本当の勝利。

4年前とは違う、本気で研磨された者同士の、決着。


『勝者!スターライト!!』


実況のそんな声が、聞こえる。


聞こえた、気がしたんだ。

でも、本当に聞こえたのは違う声。


「ソフィアちゃん!」


モミジの悲鳴だった。

一体、何が?

そう思って見た、私の視線の先には、


「…えっ?」


ギィィイイインッ!!


変わらず、炎の壁を穿ち続ける、ドリルがあった。

胴体が朽ちても尚、ヘビの頭の部分だけを残し、ドリルだけがこちら貫こうと食らい付いていたのだった。


な、なんで、頭だけで動いているの?

術者も消えているのに、なんで、異能力だけが残り続けているの?


ヘビの頭は、精々1mくらいの大きさしかない。

そこに、男性2人が隠れられるスペースがある筈ない。

でも、彼らの異能力は消えていなかった。

という事は、彼らは何処かに居るという事。

じゃあ一体、何処に?


私は、理解が出来ないと首を振る。

振った時に、何かを見た。

地上に落ちる、私達の影を。

その影に今、迫ってくる別の影があった。


「モミジ!上!」


私が叫ぶと同時、上空から高音の風切り音が、私の耳を(つんざ)いた。


ギュィイイイイインンッ!!


見上げると、そこにはもう1つ、巨大なドリルが急降下している所だった。

その、ドリルの付け根には…。


「なっ!」

『おおっと!これは何という事だ!チームBCが、肩車をしながら空を飛んでいるぞ!』


お面を被った男達が、青い空を飛んでいた。


『どういう事だ!?彼らはどうやって飛んでいるんだ!?』


私の疑問を、実況が代弁してくれる。

龍鱗は空を飛ぶ。

だけどそれは、盾を体中に纏っているか、乗っているから出来る事だ。

でも、今の彼らにはそんな物は見当たらない。

どんなに透明な水晶盾でも、太陽光でキラキラと輝いて見える筈。

私もそれを、実際に見ている。


それが見えないという事は、彼らは生身で飛んでいるという事。

まるで、リビテーションの様に。

でも、彼らはシールドとソイルキネシスだ。

どうやって。


いや、違う。

今、考えるべきはそこじゃない。

今、やるべきは攻撃する事だ。

非常識な彼らに、勝つために!


「ソーラー・ストーム!」


ノーガードな彼らに向けて、広範囲で高威力の攻撃を繰り出した。

生身では到底受け切れない、容赦のない攻撃を。

確実に、勝つために。


彼らに、灼熱の熱波が襲いかかる。

生身で受ければ、皮膚が一瞬で焼け爛れてしまう攻撃。そうなる前に、ベイルアウトするだろう。

そう、思ったのに。

彼らは、ベイルアウトしなかった。

涼しい顔で、私の攻撃を受けきってしまったのだった。


「なっ!」


私は、それ以上の言葉を出せなかった。

それは、彼らが業火の熱波に耐えたからじゃない。

炎が、彼らの元に到達する直前に、曲がったのが見えたからだった。

まるで、彼らが何かに守られている様に、彼らの周囲だけを迂回して、炎は過ぎ去っていった。

その彼らが守られている空間は、まるで、


「透明な、ヘビさん」


モミジの声に、私は知らず、頷いていた。

そこには、透明なヘビが存在した。

透明過ぎる盾で、ヘビを形成していた。それで空を飛んでいたから、生身で飛んでいる様に見えたんだ。

黄土色の巨大なヘビは、新たな体に作り変わっていただけだった。

じゃあ、さっき私が倒したと思ったのはもしかして、ヘビの、抜け殻?

脱皮したというの?本物の、ヘビみたいに…。


「本当に、貴方達って常識外れね!」


彼らの戦法を理解すると同時に、私はまた、極大の魔力を練り始める。

そして、一気に放つ!


「メテオ・ブラスト!!」


確かに、驚くほど透明な盾だ。

だが、それだけ。

透明と言うことは、良くてもCランク相当。

幾らソーラー・ストームを防げたとしても、このAランク上位レベルの攻撃は耐えられない。

そう思って放った攻撃は、


ヒョイっと、避けられてしまった。

透明なヘビは、まるで空を飛ぶツバメの様に、くるっと空を旋回して、上空へと逃げて行った。


こんな素早い移動、Aランクのエアロキネシスでも無理だ。

高い透明度に高い防御性能。加えて、信じられない程の運動性能。

何なんだ、これは。

そんなデタラメシールドなんて、聞いた事もない。

彼らは一体、何を作り出したの?


頭の中が疑問でいっぱいになった私を置いてけぼりに、高性能大蛇の頭に大量の魔力が集まり出す。

下から迫っていたドリルも消して、全魔力をそこにつぎ込んでいた。

2人を丸まる隠す程の、大きな白銀の盾。その先端の数㎝だけが、黒く変色していた。

あれは、Sランクの黒金剛盾。

間違いなく、彼らの必殺技だ!


「モミジ!」

「分かった!」


私の叫びに、モミジは直ぐに返してくれて、手を彼らに突き出す。

私も、その横に手を突き出し、込める。

全魔力を。

あの巨大ドリルに勝つには、もうこれしかない!


「行くよ、モミジ!」

「うん!ソフィアちゃん!」


私達の魔力が混ざり合い、膨れ上がり、そして、


「「スターライト・バーストォオオ!!!」」

「「ダウンバースト!ツバァアアン!!!」」


私達の最大最強技が、オメンジャーズの2人へと解き放たれた。

獄炎の炎と極大の雷撃が混ざり合い、強大なエネルギーの塊となった光線が、煌々と光り輝く。

その大きすぎる光は、周囲の観客は勿論、放った私達すらも飲み込んでいく。

そして、その光線が一直線に彼らへと向かい、彼らも包み込んでいった。


光線が過ぎ去った後には、澄んだ空が広がっていた。

遠くの方で泳ぐ雲の塊に、大きな穴が開いている。

私達の攻撃が、あそこまで届いたんだ。

そこまでの道に、彼らの姿はなかった。

跡形もなく、消えていた。

それなのに、


ギュィイイイイイインッ!!!


何故か、そんな音が真横から聞こえた。

その、凶悪な轟音がする方を見ると、


巨大なドリルが、凶悪な穂先をこちらに向かって飛んできている姿が見えた。


光線が、彼らを消し飛ばしたんじゃない。

光線を、彼らに避けられてしまったんだ。

全力の魔力を込めたと思った彼らのドリルだったけど、まだ胴体のヘビは消えていなかった。

彼らに、超高速の足が残っていたのだった。

それが、この角度からなら見えた。


見えた所で、もう遅いけど。

私達は静かに、目を閉じた。


〈◆〉


『チーム、フォーロンに続いて、チーム、スターライトもベイルアウトとなってしまった!そして、ここで競技終了の時間です!』

【【【うぉおおおおお!!】】】

『圧倒的な火力の前に、苦戦を強いられたチームBCでしたが、まさかまさかの大逆転にが起こりました!この奇跡に、会場は勿論、私も着いていけておりません!一体、何が起きたのでしょうか!?』


地上に降り立った蔵人達を包んだのは、驚愕と困惑を極めた会場の雰囲気だった。

それも、仕方ないだろう。

蔵人は、手元に残る奇跡の盾を触りながら、彼女らに理解を示す。


蔵人が今撫でているこの盾は、元々は膜であった物だ。

だがそれは、スターライトの火力によって焼き固められ、頑丈な盾へと作り変わっていた。

この作り方は、現実のある物資を参考にしている。


シリカエアロゲル。

液状のゲルを、極限まで乾燥させる事で出来る物質だ。

こいつの特徴は、その高い断熱性と高い透明度を持ち合わせながら、驚くほど軽量である事だ。

まるで空気を凍らせたみたいだと評されるくらいに、質量を持たない。


それ故に、蔵人達は空を高速で飛ぶ事が出来た。

鉄盾や水晶盾みたいに重くないからね。魔力を全て移動に費やすことが出来た。

更に、魔力も水晶盾並みにしか使わなかったので、シールドクラウズとの同時出しが出来た。

そのお陰で、スターライトの必殺技を回避しながらの攻撃を可能としたのだった。


だが、これは賭けだった。

もしもシリカエアロゲルが固まる程の熱量を加えて貰えなかったら、出来ない戦法であったからだ。

相手頼みで出来る奇跡の盾。

ある意味、スターライトとの共同作業であろう。


この盾に名前を付けるとしたら、空気の(エアロ)(シールド)、だろうか?


「くーちゃん!」


蔵人が奇跡の盾を愛でていると、慶太が肩を叩いた。

彼の方を向くと、嬉しそうに何処か一点を指さす。

何だろうか?

蔵人は誘われるままに、その指が示す先を見る。

と、そこにあったのは会場のスクリーン。

何時もは注目選手を映しているそれは、今は別の物を映していた。

順位表だ。


〈4位 チーム、紅龍(フォーロン)

〈3位 チーム、マジシャンズ・クロック〉

〈2位 チーム、スターライト〉

〈1位 チーム、ブロッサム(B)キャッスル(C)


そこには、既に本戦の結果が表示されていた。

早いな。もう集計が終わったのか。

1位。その結果に、

蔵人は冷静に、その結果を受け止めていた。

思っていた程、感動は無かった。

ただ、事実を受け止める。そんな感じだ。


そんな冷めた蔵人の横で、慶太は飛び跳ねそうな程に体を揺らして、蔵人の肩を再度ツンツンした。

うん。どうした?

慶太の方を向くと、彼は右手を上げて、ハイタッチの構えを取っていた。

ああ、うん。そうだな。

蔵人は彼の思いをくみ取り、その手にハイタッチを置く。

パンッと、小気味いい音が響いた。


「くーちゃん、やったね!オイラ達の勝ちだ」

「そうだね。あのスターライトに勝ったんだな」

「勝ったんだよ!オイラ達、勝ったんだ!やっと、やっと勝ったんだ!」


慶太の声には、いつもの元気が無かった。

震えるような、泣き出しそうな声になっていた。

感情が、爆発している。

苦節4年。その思いが籠った声だった。

その声を聴いた途端、冷徹だった蔵人の中にも、熱い感情が生まれた。

そうか、そうだな。4年間。4年前。あのアジ・ダハーカを貫かれた屈辱が、やっと…。


蔵人が、嘗ての苦労を噛みしめ始めた、その時、

観客席から声が、掛かった。


【チームBC!!】


見上げると、最前列で体を乗り出す、1人の少年の姿があった。

ケヴィン君だ。


【優勝だ!チームBC!優勝したんだぞ!やったな!!】


彼の熱い声が、蔵人の中に浸透していく。

そんな彼の声に釣られて、


【【【うぉおおおお!!!チームBC!!!】】】

【【【BC!BC!BC!】】】


観客席から、怒涛の声援が届いた。


『4チーム中3チームがユニゾンを繰り出すという、これまでのコンビネーションカップでも中々見たことのない異例な演武。その演武を制したのは、男子2人で出場したチームBC、チームBCが異能力戦に続いて2冠を勝ち取った!これは総合優勝も間違いないでしょう!』

【【【ブラックナイッ!ブラックナイッ!】】】

【【【クーマ!クーマ!クーマ!クーマ!】】】


四方八方からコールの嵐。

観客席の至る所で、団扇やポンポン等の応援グッズが振られ、後列ではヘビの形をしたアクアキネシスが観客席の上を泳いだ。


蔵人はその風景を見て、

目の前が、歪んだ。

あの時、見ることが出来なかった風景が、確かに今、目の前に広がっている。

もっと練習を積み重ねて、もっと互いの波長を合わせていたら、見ることも出来た風景。

それが漸く、実現したんだ。

そう思うと、心の中の熱いマグマが、目端らからツイと落ちて来て、仮面の中に落ちた。


日向さん。俺達はやったぞ。漸く。

漸く、俺達は勝ったんだ。


【【【BC!BC!BC!】】】


鳴りやまない観客席からの称賛に、蔵人はただ、只々、頭を下げて感謝するしか出来なかった。

4年前。初めてのユニゾンで挑んだ戦い。

日向さんと決別した、あの戦いから4年。

漸く、勝てましたね。


「相手の火力を当てにした作戦だったな」


膜を乾燥させて新たな盾を作り上げたのですね。

そんな事も出来るなんて、膜は大きな可能性を秘めていますね。


「基礎とはそういう物だ。しっかりと学び、応用して行けば強い武器となる」


まだまだ強く成りますよ。彼らは。


イノセスメモ:

エアロゲル…ゲル中の水分を極限まで乾燥させた物質。シリカエアロゲルは非常に高い断熱性やある程度の強度も持つが、曲げる力には非常に脆い等の性質も併せ持つ。シリカ以外にも、カーボンやアルミナなど、元となる素材によって性能は異なる。

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― 新着の感想 ―
 最終的には、相手に対しての信頼が勝利への鍵となったわけだ(笑)  向こうとしては、自分たちの技が強かったことが自分たちの敗因になったというのはなんともやり切れないですよねぇ(^^;a  まぁそれでも…
[良い点] 慶太が思っていたより悔しく思っていたのが意外でした。 割と闘争心とは無縁だと思っていたので
[一言] ネタバラシしたらめちゃくちゃ悔しがりそうやなw 二冠おめでとう!
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