261話~作戦領域に到着した!~
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開幕、他者視点です。
魔力を十分に引き出した僕は、高速で飛び回りながら声を上げる。
【エレノア!】
【分かったわ!】
僕の一言で、エレノアは直ぐに反応してくれた。
アイツらの盾を迎撃していた氷塊は、その矛先を男子2人に向けた。
その間、襲い来る盾は全て、僕の飛行テクニックで避け続ける。
大丈夫。エレノアがあいつらを倒すまでの僅かな時間だけだ。それなら、全てを避けてみせる。
僕のエアロキネシスも合わさった氷の弾丸は、威力も倍増しているんだ。
直ぐに、あいつらはハチの巣になっちゃうだろう。
そう思っていたんだけど、
【【【うぉおお!!!】】】
『凄い!エーデルワイスの攻撃を、BCは尽く防ぎきっているぞ!地面から生まれたシールドが、エレノア選手の氷塊を全て受け止めてしまった!』
何だって!?
驚いて地上に向けた僕の瞳に、男子達の様子が映る。
鋭利な氷のスピアは、風の力で高速回転しながら土のシールドに次々と突き刺さっていた。
でも、男達の前に現れた土のシールドに対して、僕達のスピアは穂先までしか通らなかった。
止められたスピアは、ひび割れて、直ぐに白い塵となって消えてしまう。
加えて、折角空けたその穴も、見る見る内に塞がってしまった。
これは、ただのソイルキネシスのシールドじゃない。
僕達の攻撃を受け止めることの出来る、柔と剛が入り混じった強靭な盾。
僕達と同じ、土とシールドが混じりあって出来た新しい異能力。
そんなの、完全なユニゾンによる、魔力の融和でしか出来ない技だ。
本当にあの男子達は、僕達と同じくらいにユニゾンを極めているって言うのか。
嘘だ。そんなの。
僕とエレノアのユニゾンが、男子なんかに負ける筈ないんだ!
【僕達の方が、強い!!】
僕は、エレノアが伸ばす腕にピッタリくっ付ける様に、手を真っ直ぐに伸ばした。
そこに、魔力を込める。
風と、氷の魔力が混じりあう。
大きな氷の塊を、風が鋭利に削っていき、白い大きなスピアを作り出す。
穂先が、人間よりも大きなスピア。
僕達のこの場所から、そのスピアの姿を見たら、僕達の国の花によく似ている様に思う。
それを、男子達に向かって放った。
【【高貴な白!!】】
巨大な氷のスピアが、風の渦に乗って男達の方へと飛んでいく。
相手から見たら、それは氷で出来た大砲の弾に見えるだろう。
その凶悪な弾丸が、今、土のシールドに突き刺さった。
真っ直ぐ、ど真ん中。
その直撃を受けて、男子達の盾は大きく歪んだ。
【砕けろぉ!】
僕が叫び声を上げると同時、ビキッという亀裂音が響いた。
深く突き刺さるスピアに、土の盾は原型を留めない程にたわんでいる。
そして、
粉々に砕け散った、氷のスピア。
…はぁ?
なんで、そっちが壊れ…。
【ベティ!】
エレノアの声で、ハッとした。
気付くと、周囲を盾で囲まれていた。
白い盾。半透明の盾。そして、土で出来た盾が無数に迫って来ている。
しまった。僕が風の力を攻撃に回したから、飛行速度が落ちてしまったんだ。
僕は歯噛みしながら、周囲を風で覆う。
そこに、エレノアの腕が伸びてきて、僕の風の中に氷の防壁を作ってくれた。
僕達が守りを固めると同時に、周囲に浮かんでいた盾が、一斉に僕らを襲って来た。
ギィィイイイン!!
ズサッ!
ズガッ!
幾つもの盾が風の防壁を突破して、エレノアの氷に次々と突き刺さる。
頑強に防いでくれる氷の壁にも、次第に小さなヒビが走り出す。
ダメだ。
とても、こんなの受け切れない。
【ベティ!】
【うん!】
エレノアに促される様に、僕は風の守りを解いて推進力に回す。
途端に、幾つもの盾が突っ込んで来るけど、エレノアが分厚い氷の壁を生成してくれて、全部受け止めてくれた。
僕はエレノアが離れないようにしっかりと抱き寄せる。そして、僕達は凶悪な盾の森を必死になって飛び続けた。
止まるな。止まったら切り刻まれる!
汗が目の中に入り、長い銀髪が視界を塞ぐ。
それを、エレノアが優しく掻き分けてくれる。
ありがとう、エレノア。僕、君さえいれば、何処までも飛んで行けるよ。
そう思っていたのに、僕の体は、徐々に重くなっていった。
魔力が、上手く練れない。ユニゾンが、途切れそうだ。
【ベティ!足がっ!】
【えっ?うわっ!?】
エレノアに言われて下を見てみると、僕の足が土まみれになっていた。
いや、僕だけじゃない、エレノアの足も、土に侵食されていた。
どうして、こんな所に土が?
【ベティ!盾の上に!】
【えっ?盾の上?】
僕が近くの盾の上を見ると、そこには何かが乗っていた。
そいつが僕の方に飛び掛かって来て、僕の足に捕まると、こちらを見る様に頭を上げた。
それは、ゴーレムだった。
手のひらサイズの小さなゴーレム。
そのミニゴーレムが、僕の太腿にペッタリとくっ付いたと思うと、そのまま土塊に変わり、僕の足を土で覆ってしまった。
そうか、こいつらが僕達を土まみれにしていたのか。
そう理解した時には、既に遅かった。
飛行する僕らの上に、大きな影が落ちる。
見上げるとそこには、人1人を隠せるくらいに大きな盾が数枚、僕達から太陽を隠すように飛んでいた。
その盾からひょっこりと、ミニゴーレム達が顔を出した。
何を…?
「作戦領域に到着した!空挺部隊、幸運を祈る!」
「アイアイサーくまー!」
地上から、男子達の声が聞こえたと思ったら、盾から顔をのぞかせていたミニゴーレム達が、盾の端に立ち、そして、
「空挺部隊、降下!」
「ごーごー!」
その盾の上から次々と、空中へと飛び降り始めた。
他の盾からも、次々と空へとダイブするミニゴーレム達。
私達の目の前が、一挙に土色に染まってしまった。
【迎撃!エレノア!迎撃だ!】
【やってるわ!でも、数が多すぎる!】
氷の弾丸が、落ちてくるミニゴーレム達を容赦なく破壊していく。
でも、相手の数が多すぎる。
盾から落ちてくるゴーレムの勢いが止まらない。
更に、
【うっ…、腕が、上がらない】
壊したミニゴーレムの土は、そのまま僕達の上に降りかかって来て、僕達の体を覆い尽くしていった。
そして、
「上陸部隊、硬化!」
「カッチカチくまー!」
降り注いだ土が一斉に、固まり出した。
そのせいで、僕の下半身が全て、固い土に覆われて、推進力が大きく落ちる。
エレノアの腕にも土が纏わりついて、氷の弾幕が止んでしまった。
エレノアの弾幕が無くなると、僕達に纏わり付くミニゴーレムの数が一気に増える。
もう既に、僕達の体の大半は土で覆われてしまった。
何だか、この土に覆われると、魔力が上手く回せなくなる。
それが、肩に、首に、とうとう顔にまで、大量の土が覆いかぶさって来た。
僕はもう、何も見えなかった。
周囲の魔力も感じない。
エレノアの存在も感じない。
ただ、浮遊感だけは感じ取っていた。
だから、僕が今、落下しているって事は分かる。
そしてすぐに、小さな衝撃を受ける。
地面にぶつかったのかな?でも、10mくらいの高さから落ちた筈なのに、そんなに痛くなかった。
そう不思議に思っていると、急に、目の前の暗闇が明けた。
そして、そこから見えたのは、
【降参してくれますか?】
傷だらけの兜を被った男と、男の後ろで、凶悪な羽音で飛び回る盾の群れだった。
〈◆〉
【完敗よ。まさか、貴方達もユニゾンが使えるなんて思わなかった。試合前に、貴方が言った通りだったわね。本当に強かったわ、貴方達】
試合が終わり、握手をする為に互いに向かい合った時、そう言って賞賛してくれたエレノアさん。
負けた後だというのに、とても大人な対応だ。
反対に、ベティさんは終始、俯いたままである。
侮っていた相手に負けたことが、相当悔しかったと見える。
余りに一方的な試合であったから、立ち直れなくなったりしないだろうか?
蔵人がベティさんを心配していると、エレノアさんは小さく首を振った。
【ベティの事は気にしないで。久しぶりに負けたから、この感情をどうするべきか分からないのよ】
【貴女達は凄く強かったです。ネガティブになる必要はありません】
そう話しかけても、ベティさんは悔しそうに喉の奥を鳴らすだけだった。
それを見て、エレノアさんは小さく笑う。
【子供っぽいでしょ?貴方達より3つも年上なのに。でも、彼女のこういう素直なところが、私を救ってくれるの】
なるほど。互いの性格が違っていると、仲良くもなれるという事か。
蔵人は隣の慶太の肩を掴んで、エレノアさんに頷く。
【我々も同じです。互いに良い所を伸ばし、悪い所を補う。我々も、貴女達も、良いチームです】
「なんか分かんないけど、元気出してね!」
蔵人の隣で、慶太が手を挙げてベティさんを励ます。
慶太は慶太で、分からないなりに空気を読んでいるようだ。
その元気な声に、ベティさんは少しだけ顔を上げた。
【…悪かった】
小さく、風に吹き飛ばされそうなくらいに弱い言葉で、ベティさんはそう呟いた。
周囲の観客が静かにしてくれているから、辛うじて聞き取れた。
試合が終わった直後は、凄い盛り上がっていたからね。握手する場面になって、選手の為に静かにしてくれているみたいだ。
やはりとても紳士的…淑女的な国だな。
だが、蔵人達が握手を終えて、審判が再び蔵人達の方に手を上げると、再び熱の入った歓声が戻って来た。
【決勝進出おめでとう!】
【男の子2人で、エーデルワイスを打ち取るなんて!】
【このまま優勝だ!チームBC!】
【エーデルワイスに勝ったんだ、絶対に優勝してくれよ!】
【【【ブラックナイッ!ブラックナイッ!ブラックナイッ!】】】
【【【クーマッ!クーマッ!クーマッ!】】】
今までで一番大きな歓声だ。パラボラ耳を閉じていても耳が痛いぞ。
蔵人は、観客席に両手を振る慶太を引っ張り、ベンチの仲間達と共に通路まで退避した。
「凄い歓声だったね」
暫く通路を歩いていると、桃花さんが選手入場口を振り返りながら呟いた。
それに、鶴海さんが頷く。
「それはそうよ。だって、前回優勝者をあっさり倒しちゃったんだから。相手サポーターの人達、ちょっと可哀想に思ってしまったわ。空を飛んでいた2人が土だるまにされた時なんて、悲鳴があっちこっちで聞こえたもの」
それは気の毒な事をした。
だが、それが勝負の世界なのだから仕方がない。手加減なんて出来ない相手だったし。
それに、試合が終わった後は、向こうのサポーターも随分と賞賛してくれていた。
社交辞令かもしれないけれど、次も絶対に勝ってくれと言ってくれたのは嬉しかった。
「その分、こっちのサポーターと実況は凄かったね。蔵人君達のこと、奇跡の2人組だって言っていたし」
その場面を思い出したのか、桃花さんが嬉しそうに声を上げる。
ああ、確かに言っていた。
蔵人は、急に頭が痛くなった気がして、コメカミに手を当てた。
力を示せたのはいいけれど、大げさになりつつあるぞ?
蔵人が肩を落とすと、元気を出せとでも言うように、若葉さんがその肩に手を乗せる。
「それも仕方ない事だよ。何せ、2試合連続でユニゾンを成功させて、しかも2回とも違う人と繋がっているからね。そりゃ奇跡って言われるよ」
なるほど。確かに、ユニゾンは特定の人としか出来ないらしいからね。それは、過大に言われるのも分かる気がする。
だが、若干言い方に悪意が混じっているように感じるのは、気のせいだろうか?
蔵人達が、首を傾げながら廊下を歩いていると、後ろから誰かが走って来る足音が聞こえた。
大会のスタッフかな?
蔵人はそう思い、道を開けながら振り向く。
すると、そこには、
【おいっ!はぁ、はぁ、チーム、BC!】
息を切らせた、ベティさんがいた。
何用だろうか?
まさか、また八百長だのなんだの言ってくる気か?
蔵人は万が一を考えて、みんなを隠す様に彼女の前に立つ。
すると、彼女は、
【僕達を倒したんだ。決勝戦でも絶対に勝って、優勝しろよ!良いか?中国の奴らなんかに、負けんなよ!】
顔を真っ赤にしながら叫んだベティさん。
肩を怒らせて、視線は若干鋭い。
けれど、怒っている訳ではないだろう。
【じゃ、じゃあな!】
彼女は短い挨拶を放つと、こちらの返答も待たずに踵を返し、来た道を走り去ってしまった。
余程、恥ずかしかったのだろう。走っている最中で、コケそうになっている。
でも、その一生懸命な姿は、彼女なりの誠意であり、試合前に言ってしまった暴言の詫びなのかもしれない。
しかし、まだもう一つの準決勝は始まってすらいないのに、ベティさんから見ても、決勝に上がってくるチームは明白らしい。
今年初出場の筈なのに、度々優勝候補として名前を挙げられるチーム。
「大丈夫?蔵人ちゃん」
いつの間にか考え込んでいた蔵人を、鶴海さんが覗き込む。
蔵人は、彼女に微笑んで、顔を上げる。
「ええ。決勝戦の相手について、少し考えてしまいました」
「劉姉妹ね?去年までは、U12の世界ランキングにも載っていた子達よね?」
「らしいですね」
蔵人は頷いて、情報源に視線を向ける。
その彼女は、小さくため息を吐いた。
「ねぇ、決勝戦、本当に私が出るの?慶太君じゃなくて?」
「ああ、そのつもりだよ。君の体調が悪くなければね」
「悪いのは体調じゃなくて勝機だよ。慶太君とのユニゾンで、確実に勝ちに行った方が良いんじゃない?」
若葉さんの提案に、蔵人はしっかりと首を振る。
「君とだから良いんだ、決勝戦はね。劉姉妹のユニゾンには、君との方が相性が良い」
蔵人はそう言いながら、若葉さんに近付く。
手を伸ばして、彼女の前に手を差し出す。
「世界の舞台で、見せつけてやろう。俺達のユニゾンを」
「分かった。やれるだけはやってみるよ。でも、”媒介”はどうするの?」
若葉さんが蔵人の手を取りながら、そんな疑問を投げてくる。
なので、蔵人は少し考えてから、力強く頷く。
「資格を持ってるあの人に、協力してもらおう」
「圧倒的ではないか。あ奴らのユニゾンは」
相性…といいますか、相手が油断してくれたのもありますね。
「だが、盾と土の相性も良かったように見えるぞ」
土はとても便利でしたね。
穴が開いても補修してくれましたし、強い衝撃にも耐える柔軟性がありました。
「ユニゾンはやはり、無限大の可能性を秘めているな」
次の投稿は、明日です。