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258話~昔の蔵人ちゃんに戻ったって事ね~

第1回戦に臨む蔵人達は、選手入口を通り抜け、試合会場である芝生のフィールドにたどり着く。

そこは、ファランクスなどで使ったドーム状の巨大フィールドであった。

サッカーコートよりも大きなそのフィールドだが、現在は4つに区画整備されて、それぞれの戦場で試合が繰り広げられていた。

参加者の人数が多いからね。1度に複数の試合を行っているのだ。

因みに、ここで行われるのはCランクのみであり、ABランクは別会場となる。


その為だろうか。観客はそれほど多くない気がする。

観客席の前列は殆ど埋まっているが、後列はまばらで、最後列には殆ど人が居ない。

確か、5万人近くを収容できる設備だったから、今は1万…いや、5,6千人と言った所だろうか。

現在が朝の9時と、少し早めの時間帯と言うのもあるだろうが、多くの人がAランクの会場に行っていると言うのも大きいだろう。

日本もそうだったが、やはり高ランクの方が人気があるらしい。


だが、観客が居る以上はアピールしなければ。

蔵人は、白銀鎧の背に貼り付けた大山製薬のロゴを見せつける様に、観客席に背を向ける。

そうしていると、


【出場する選手は集まって!】


審判らしき女性が、手を高々と掲げて蔵人達を招集した。

蔵人は、ベンチに残る3人に手を振ってから、蔵人と同じ白銀鎧を着こんだ慶太と共に審判の元へ。

すると、反対側から対戦相手が歩いてくるのが見えた。

1人は金髪を肩まで伸ばした白人さんで、もう1人はチョコレート色の髪をベリーショートにした白人さんだ。

両人とも軽装で、急所を黒っぽいプロテクターで覆い、背中には金色の刺繍を施されたマントを羽織っている。

何処か魔法使いっぽい出で立ちだ。

選手が集まると、審判が両チームに視線を投げる。


【では、最後にもう一度確認するわ。ルールはスタンダードなチームバトルを適用します。途中で選手の入れ替えは禁止。試合フィールドは直径20mのバリアで囲われているから外には出られないし、出たら失格よ。私の指示はしっかりと守る事。守らなければ同じく失格です。はい!じゃあ選手同士、握手して!】


審判に促され、蔵人達は互いに歩み寄る。

こうしてみると、向こうはかなり背が高い。

2人とも、自分と同じくらいの背丈だ。

金髪の子が、硬い表情で蔵人の方に手を差し出した。


【よろしく】

【よろしくお願いします】


なるべく友好的に聞こえるよう、優しい口調で返答しながら、相手の手を握る蔵人。

だが、相手は蔵人の声を聴いた途端にビクリと肩を痙攣させて、こちらを穴が開く程見詰めた。

そして、審判に向かって叫んだ。


【ちょっと!この子、男の子じゃないの!?】

【エヴァ!こっちの子もそうよ!どうなっているのよ、審判!】


2人の抗議に、しかし、審判はゆっくりと横に首を振った。


【静かに!2人は正式に選手として登録されています。登録されている以上、試合を行う事に何ら問題はありません。もしも男性との戦闘を望まないのなら、貴女達が棄権しなさい】

【なっ!】

【横暴よ!男の子になんて、勝てる筈ないわ!体に触れただけで捕まっちゃうもの】


なるほど。彼女達が憤慨しているのは、普段男性に対して厳しい制限が掛かっているからか。

だが、そんな彼女達の憂いは、


【安心しなさい。競技中であれば、男性に触れても強制わいせつ罪にはなりません】


審判がきっぱりと断る事で、拭い去られた。

これで、思う存分戦えるというもの。

そう、蔵人は思っていたが、


【ええっ!本当に!?本当に男の子に触れても、男性管理官を呼ばれないの!?】

【やった!めっちゃラッキーじゃん!】


なんだか、急にやる気を出し始めた相手選手。

目が怪しく輝き始め、舌なめずりまでしている。

うん。これは、やる気では無くて、ヤル気が出てしまったな。

それは、審判も感じた様で、目を鋭くして女子2人を咎める。


【こら!貴女達!あくまでも競技の中での話よ。故意にいかがわしい事をしたら、警告するからね!】

【ぐふふ。それでも警告だけ…】

【ツイてる。私達めっちゃツイてる。そして、この子達は付いてる】


とうとう下ネタまで言い始めたぞ、この娘達。

イギリス淑女は何処に行ったんだい?


「慶太よ、十分に気を付けてくれ。下手をすると、この人達に喰われるぞ?」

「だいじょーぶ!オイラの方が口も胃袋も大きいから、負けないよ!」


慶太が、変なところに対抗心を燃やし始めてしまった。

こいつは長引かせるとカオスになる。

早めに終わらせよう。


【互いにスタートラインに立って。そうよ、そこ。じゃあ始めるわよ!第一回戦、試合開始!】


試合が始まってすぐに、相手は2手に分かれてこちらへと突進してきた。


【ニーナは90番を!私が96番を相手するわ】

【了解!幸運を!】


折角のツーマンセルなのに、1対1に持ち込むのか。

慶太と共に各個撃破しようかとも考えたが、敢えて相手の作戦に乗ってやろうと思い直す。

蔵人は、慶太に向かうブラウンヘアの子を指さす。


「そっちの茶髪は任せていいか?」

「りょかーい!」


そう言いながら、慶太は地面に手を着き、ゴーレムを生成する。

これは、直ぐに決着が付きそうだ。

そう安心して、自分の相手へと向き直ると、エヴァさんはもうすぐそこまで来ていた。

随分と素早い。エアロかブーストかな?

相手の異能力種を考えていると、エヴァさんは両手を大きく広げて、蔵人に覆いかぶさって来た。


【捕まえた!】


嬉しそうな声を上げて、蔵人を抱きかかえるエヴァさん。

直接触れて来るところを見ると、ブーストの可能性が高い。

そう思ったが、彼女はそれ以上力を入れようとしない。

確かにしっかりとホールドしているが、これではダメージにはならないぞ?


【貴女は手加減をしていますか?僕は余裕があります】

【へぇ。君、英語が出来るんだね。じゃあ、私から逃げ出せたら、君の勝ちにしてあげるよ。代わりに、逃げ出せなかったら、この後デートしてくれない?】


交換条件か。

それでエヴァさんがやる気になるのなら、悪くは無いな。


【分かりました。僕達の力を比べましょう】


蔵人は、体を覆っていた盾をエヴァさんの腕にくっ付け、外へと移動させる。

威力は、凡そ30kg。

エヴァさんの整えられた金色の眉毛が、ピクリと動く。


【おっ、結構力強いね。いいよ。私、スポーツ系男子も結構好きなんだ】


余裕の笑みを浮かべる彼女を見て、更に力を加える。

次は、倍の60kg。

エヴァさんの笑みが強ばる。


【うっ、びっ、ビックリした。何?貴方、もしかして何かの選手なの?】


更に力を加える。

今は100kg。

エヴァさんの顔が赤くなる。


【ぐっ、うっ、嘘...もしかして、私と同じ、ブースト?】


150kg。

歯と青筋をむき出しにして、必死に耐えるエヴァさん。


【ぐぅぅううぁああああ!!】


これが限界かな?

可哀想だから、終わらせてあげよう。

300キロ...、


【だぁあっ!】


蔵人が、最大出力を出す前に、エヴァさんの拘束が解かれ、勢い余ったエヴァさんが、地面に倒れ込んだ。

大の字で仰向けになって、大きな胸部を上下に動かしている。


【はぁ、はぁ、うそ、でしょ。負けた?男の子に?力で?私が?】


空に問いかける彼女は、何とか現状を飲み込もうとして、息を必死に整えようとしていた。

そこに、審判の声が割り込んできた。


【試合終了!】


その声に振り返ると、慶太が飛び跳ねており、彼の目の前には土の彫刻が出来上がっていた。

顔だけ出したブラウンヘアのニーナさんも、エヴァさんに負けないくらいに、ポカンとした表情だった。

知らぬ間に、ゴーレム軍団の奇襲を受けた口だな、これは。


【ありがとうございました】


未だに帰って来ないエヴァさんに、蔵人は手を差し伸べながら感謝を伝える。

すると、漸く意識を現実に戻した彼女が、蔵人の手を取り立ち上がる。

だが、


【う、うん...】


エヴァさんは気の抜けた返事をして、顔を伏せてしまった。

現実を直視して、落ち込んでしまったのだろうか。

男子に負けてしまったのだから、相応の精神的ダメージを負っているのだろう。


【大丈夫ですか?僕は異能力選手で、日本でも強いです。落ち込まないでください】


蔵人は端的に、エヴァさんを励ます。

すると、漸く顔を上げてくれた。

上げた顔が真っ赤だ。

目がランランしている。

うん?


【貴方って優しいのね。イギリスの男に、そんな優しい言葉を掛けられた事なんて一度もないもの。ねぇ、やっぱり今日、デートしない?】


なに!?


【ううん。今日だけじゃなくて、一緒に暮らしましょう!日本人だったら、イギリス人と結婚してしまえば直ぐにでも英国国籍を取れるわ!そうしましょうよ!】


しまった!懐かしくも煩わしい、特区特有のパターンだこれ!


審判が止めに入るまで、蔵人は久しぶりの感覚に戦慄を覚えるのだった。



1回戦が終わってベンチに戻ると、蔵人はチームメイトから大層怒られた。

知らない女性に抱き着かれて、加えて求婚を迫られたものだから、危なっかしいと思われたらしい。

桃花さんは、必死に怖い顔を作る。


「ダメだよ!蔵人君。あんな人に抱き着かせたりなんかして、もしも…その、え、えっちなことされたら、大変だよ!?」


顔を真っ赤にして訴える彼女の破壊力は、凄まじい。

その横で、鶴海さんも目を潤ませてこちらを見ていた。


「蔵人ちゃんは女性に対して甘い所があるから、もう少し距離感を大切にするべきね。そうでないと、道行く人みんなから求婚されてしまうわ」


鶴海さんのその表情は、本当に心配してくれるのが痛い程分かる。

若葉さんは呆れたように、苦笑いを浮かべている。


「言ったはずだよ。イギリスでは男性の権利が強くて、女性は怖がっているって」


はい。聞いておりますよ。

蔵人は頷く。

それに、若葉さんは追説する。


「でもそれって、男性がその権力を振りかざすから、女性達は遠ざかっているだけなんだ。そんな所に、女性を優しく許す男性が居たらどう思う?砂糖菓子を見つけた蟻みたいに、瞬く間に群がられちゃうよ?」


なるほど。今まで散々味わってきた特区の特徴だな。

でも、最近は忘れかけていた。

桜城のみんなが節度を守ってくれていたし、何よりも黒騎士の実力が広まってきたから。

下手な事をすると、片倉さんみたいに瞬殺されるぞと、恐れてくれる様になっていた。

それが、この地では無い。


「昔の蔵人ちゃんに戻ったって事ね」


鶴海さんの言う通りだ。

まるで、桜城に入学したばかりの頃を思い出す。

そうだとすると...。


「力を示すしかないのか」


ビッグゲームの様に、強敵を倒して力を示す他ない。

Cランクのシールドでも強いと。

男でも勝てると示すのが手っ取り早い。



そう決めた蔵人だったが、2回戦は出場しなかった。

力を示すのも重要だが、仲間のチャンスを作るのも大事だ。

そう考えながら、目の前で戦う慶太と桃花さんを応援する。


「いいぞぉ、桃花さん!相手は完全にビビってる!」


桃花さんは、後方に風を放出しながら高速で走り周り、相手チームに圧をかけている。

相手選手達は、最初こそ桃花さんを狙って異能力を放出させていたが、当たらないと分かるとフィールドの中央で背中合わせになって、桃花さんから奇襲されない様にしていた。


確かに、その格好では死角がなく、攻めるのに苦労するだろう。

だがそれは、相手が1人の場合だ。


「いっけー!オイラのチビちゃんたちぃ!」


慶太の掛け声と共に、10cm程度のミニゴーレムが相手選手の足元に取り付き、瞬く間に相手の動きを封じた。

桃花さんに集中するあまり、慶太を視界から外してしまったのだ。

それは、彼が男だから油断したのもあるだろう。

それ故に、こうして簡単に拘束されてしまったのだ。


「そりゃあ!」


下半身が完全に石化した2人に、桃花は至近距離でエアロキネシスを撃ち込んだ。

攻撃が相手選手に当たる直前、2人は消えた。


【ベイルアウト!】


狩るべき相手を失った攻撃は、境界線のバリアにぶち当たり、小さなヒビを入れた。

このバリア、確かAランクと聞いている。

それに傷を負わせるとは、Bランクにも達する威力。

相手が一撃でベイルアウトする訳だ。


「やったよ!蔵人君!」


桃花さんが飛び跳ねて帰ってきて、喜びのあまり飛びついてきた。

思えば、彼女が異能力戦で勝利したのは初めてではないだろうか。

アミューズメントパークでの一件は、ノーカウントだからね。


「あっ、ご、ごめん!」


少し落ち着いたのか、桃花さんは急いで蔵人から離れた。

顔が真っ赤だ。

突然抱き着いてしまった事に、恥ずかしさが込み上げてきたのだろう。

蔵人は片手を振る。


「気にしなくていいさ。初勝利だ。感極まるのも分かる」

「とっても嬉しかったのね。普段の桃ちゃんからは考えられない大胆さだったわ」


蔵人の隣で、鶴海さんも微笑む。

すると、余計に顔を赤くして、首をすくめる桃花さん。

その彼女に、カメラを片手に近づく若葉さん。


「その大胆さが、良い絵を提供してくれたんだよ。ありがとう」

「わぁああ!若ちゃん、その写真は消して、消して!」

「やだよ~♩」


2人の仲良し鬼ごっこが始まった。

微笑ましい限りだ。

そんな2人に、蔵人は声を掛ける。


「3回戦についてだけど、桃花さんと若葉さんのペアで出て貰いたいと思っているんだが、どうだろうか?」

「私は構わないよ。後は桃ちゃん次第」


カメラを高く掲げて、桃花さんから逃げる若葉さんがこちらを向いて答える。

若葉さんに縋りついていた桃花さんは、不安げな表情でこちらを振り向いた。


「だ、大丈夫かな?今の試合も、慶太君が足止めしてくれたから簡単に勝てたけど、そうじゃなかったら勝てていたかどうか…」

「それは、大丈夫だと思うわ。さっきの相手も、次の相手もそれ程強い選手ではなさそうだから」


鶴海さん曰く、次の相手も大したことないらしい。

年齢は我々よりも1つ下の12歳ばかりのチーム。2回戦の様子では、土と氷の礫を投げ合う雪合戦方式で戦っており、随分と泥仕合であったとの事。


「少しキツイ言い方をしてしまうと、桃ちゃん1人でも十分に勝てる相手だと思うわ。貴女の速さを前にしたら、きっと、弾が当たらなくてオロオロするだけだと思う」



そう言った鶴海さんの見立ては、間違っていなかった。

3回戦。

出だしから桃花さんは高速移動でフィールドを駆けまわり、相手を攪乱している。

相手の子達は、必死になって異能力を打ち出しているが、全く当たる気配がない。


その間に、若葉さんは持ち込んだ工具を分解し、自身の装備を作る。

金属の靴を履き、素早く相手選手に接近する。

以前、関東大会のホテルで履いていた靴だ。靴底にスプリングが内蔵されており、魔力によって強化されているみたいだ。

瞬間的な彼女の速度は、桃花さんにも劣らない。

すぐさま対戦相手の懐に潜り込み、2人の間を潜り抜け、走り去ってしまった。


そして、相手は、

倒れた。


【わっ、何よこれぇ!?】

【動け、ない…!なんか、縛られてる…!?】


彼女達の胴体は、両腕ごとワイヤーのような物で縛られており、身動きが取れなくなっていた。

見ると、両足も縛られているみたいだ。それで、バランスを崩して倒れたのか。

恐らく、先ほど分解した工具にワイヤーが使われており、それを束ねて魔力で強化し、彼女達の拘束に使ったのだろう。

分解する物さえあれば、若葉さんの異能力は変幻自在の万能能力である。

まるで忍者だ。


鶴海さんの見立て通り、3回戦も秒殺で終わってしまった。

見事な勝利を納めた2人が、悠々とベンチに帰って来る。


「また勝ったよ!蔵人君!」


ニコニコ笑顔の桃花さんに、蔵人は高く手を上げてハイタッチをする。

流石に2度目は飛び込んで来ないか。


「2人とも上手い立ち回りだったね。流石は幼馴染だ」


3人は同じ小学校に通っていたらしいからね。その分、息もピッタリだ。

桃花さんは、若葉さんの方に注目がいかない様に走っていた。そのお陰で、若葉さんは相手選手の攻撃を受けずに近づくことが出来た。

若葉さんも凄いけれど、桃花さんもしっかりと考えて戦ってくれた試合だった。


「若葉さんもお疲れ。異能力の使い方が、また一段と上手くなったんじゃないかな?」

「色々と実験はしているからね」


そう言う若葉さんは、何処か不満気だ。

どうしたのだろうか?


「そりゃだって、私が試合に出ちゃったら、写真が撮れないからさぁ」


なるほど。流石はジャーナリストの卵だ。

どんな時でも、チャンスを逃したくないのだろう。

流石に、試合中は撮影の許可が下りなかったから、どうすることも出来ない。

若葉さんもそこは分かっているので、直ぐに表情を戻す。


いや、戻さずに、ちょっと小悪魔的笑顔を浮かべている。

なんだろうか?


「まぁ、そこは我慢するけどさ、我慢する分、見返りが欲しいなぁ」

「見返りかい?」


何だろう?と首を捻る蔵人に、若葉さんは両手を広げる。


「私も、蔵人君にハグして欲しいなぁって」


なんだ、そんな事か。

蔵人は頷き、彼女の背中に手を回す。

すると、彼女の驚く声が耳元で響く。


「あっ!ちが、そうじゃなくて!」

「おっと、すまん。違ったか」


謝る蔵人だったが、何が彼女の求めているハグなのか分からなかったので、取り敢えずその恰好のまま、若葉さんの頭を撫でる。

更に、若葉さんは慌てる。


「あっ、いや。そう言う意味の違うじゃなくて、私はただ、2回戦での桃ちゃんの行動を揶揄(やゆ)しただけで…」


ああ、なるほど。冗談だったのか。

つい、本気にしてしまったなぁと、蔵人は反省しながら若葉さんを解放する。

若葉さんは顔を真っ赤にしながら、ベンチに座り込んでしまった。

すまん。やり過ぎた。


「く、蔵人君。僕は、どうだったかな?上手く戦えてと思うんだけど…」


2人の姿を見ていた桃花さんが、おずおずと近づいて来て、頭を差し出してきた。

これは、撫でろという事かな?

恐る恐る彼女の髪の毛を梳く様に撫でると、桃花さんも顔を赤くしながら、顔をふやかした。

うん。これくらいは良いだろう。


「くーちゃん!オイラも!」

「お前さんもか!?」


俺は獅子舞じゃないんだぞ?

仕方ない。

蔵人は慶太の頭をポンポンする。


「明日の本戦、よろしくな、戦友」

「おおー!」


慶太の士気も上がったところで、蔵人は徐に鶴海さんを見る。

すると、彼女はビクリッと肩を震わせる。


「ちっ、違うわ、蔵人ちゃん。別に、羨ましいとかって思って見てた訳じゃないから。私は、大丈夫よ」

「ええ。鶴海さんとは、演武の予選でしましょう」

「そんな予約をされたら、余計に緊張しちゃうわ!」


そう言って焦る鶴海さん。でも、口元が少々緩んでいる気もするけど?


何はともあれ、3回戦までは勝ち進めた。

だが、これからが本番だ。

何せこの大会、各地から強者達が集まっているからだ。

鶴海さんの情報によれば、元世界ランカーや、チーム戦、ツーマンセル戦の覇者なども参戦しているらしい。

明日からの本戦では必ず、そう言うチームとも戦う事になるだろう。


冗談を飛ばして笑い合う反面、蔵人は、明日の激戦を想像して気持ちを高ぶらせるのだった。

いよいよ、コンビネーションカップの異能力戦が始まりました。

が、まだまだ序の口みたいですね。


「ユニゾンのユの字も出て来ていないからな。本番はこれからだろう」


次の4回戦では、実力者と当たるのでしょうか?

まだまだ、ツーマンセルらしさはありませんね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 相手が弱すぎる気がするけど一般的な基準からすれば異能力の規模か発射サイクルに優れる上澄みなんでしょうね、改めて蔵人達の凄さが分かりますね ただこの状況だと親友が相手選手にスコーンやらミートパ…
[良い点] この時代では淑女は死語 [気になる点] 桃花さん覚醒しちゃってますねぇ 観客席にいるであろう柳さんは活躍に喜びつつ、頭抱えてるんでしょうか [一言] 男性がハグやら頭なでる等、抑圧されてい…
[一言] 前評判をベースに、実力者をきれいに分配したんでしょうね。 弱い人が上に行かないよう、大会側が調整した。 しかし、前半戦でも味方の強みが明確になったので、後半戦が楽しみですね。 前半戦で見せ…
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